【あの人の贈りかた】自分の想いを重ねた、相手に嬉しいもの(スタッフ大久保)

贈りもの。どんな風に、何を選んでいますか?

誕生日や何かの記念に、またふとした時に気持ちを込めて。何かを贈りたいけれど、どんな視点で何を選ぶかは意外と迷うものです。

そんな悩みの助けになればと、中川政七商店ではたらくスタッフたちに、おすすめの贈りものを聞いてみました。

今回は商品企画・デザイナーの大久保がお届けします。

暮らしに佇まいよく馴染む「ソフトパックティッシュのカバー」

奈良に引っ越してきて5年目。もともと人付き合いは多い方ではないですが、家族や友人と距離が離れて会う機会が少なくなりました。
なかなか話す時間はないけれど、だからこそ、贈りものには想いを込めたい。最近はそんな風に考えています。

贈りものをするときに心がけているのは、「自分のほしい」と「相手の嬉しい」が重なっていること。
「自分のほしい」だけでは押しつけがましく、「相手の嬉しい」だけでは何かもの足りない。
大切な誰かを想う贈りものは、押しつけがましくないけれど自分の想いが乗ったものにしたいと思ってます。

中川政七商店に入社して一年ほど経った頃、東京に住む友人の誕生日に贈ったのが「ソフトパックティッシュのカバー」です。

まずおすすめしたいのは、綿と麻でできたタイプライター生地。シワ感のあるサラッとした生地と、ティッシュカバーにした時の柔らかな形が自分の好みど真ん中で、開発当時から発売したら絶対買いたい!と思っていました。

生活感が出やすくインテリアを損ないがちなティッシュを、空間に馴染ませてくれる穏やかな色味も特徴です。

以前から当社のことを知り、商品を使ってくれていた友人。ティッシュカバーがなくても困ることはないかと思いますが、もらったら喜んで使ってくれるかもと、自分の想いを込めて贈りました。

<贈りもの>
・中川政七商店「ソフトパックティッシュのカバー」

経年変化が楽しめて、心地よい音色「小田原鋳物のお守り鈴」

毎年、年末には茨城の実家に帰ります。私の帰りをいつも楽しみに待ってくれている祖母。
今はこんな仕事をしているよと伝えたく、自分のデザインした商品のなかから、直近で発売されたものを贈っています。

この前の年末に贈ったのは、「小田原鋳物のお守り鈴 トトロ真鍮」。

トトロの愛らしい見た目が目を引きますが、余韻のある凛とした音色も心地よい。
室町時代から続く小田原鋳物の伝統を受け継ぎ、風鈴やおりんなどの鳴物を作ってきた工房では、余韻のある凛とした音色にこだわり工房独自の配合で鳴物を作っています。

作り手さんいわく、少しの形の違いや溝の入れ方で鳴り方が全く違うのだとか。トトロのこの鈴も音色にこだわり、丸みのある形と溝の入れ方を試行錯誤しました。
歩きながら凛とした音色に耳を傾けると、気持ちがすっきりするのです。

歩くのが好きで毎朝近所を散歩していた祖母。長く元気に歩いてほしいと願いを込めて、経年変化がより楽しめる真鍮の鈴を贈りました。

<贈りもの>
・中川政七商店「小田原鋳物のお守り鈴 トトロ真鍮」

細やかな気配りで、普段づかいもしやすい「Snow Peak チタンシェラカップ」

「今度一緒に〇〇しませんか?」と、お誘いの意味も込めながら贈りものをすることも。

山登りに興味がある友人に贈ったのが、「スノーピーク チタンシェラカップ」です。

山登りに関係する何かを贈りたいけれど、山登りでしか使わないようなものだと少し扱いに困るかなと思い、普段使いもしやすいものを選びました。

シェラカップとは、山登りやアウトドアの場で使われる金属製のカップのこと。
スノーピークのシェラカップは目盛りが付いていたり、ハンドルが付いていたりと、シンプルなカップながら魅力がたくさんあります。

私も同じものを持っていて、普段は料理の計量カップとして使っています。特別な時にしか使わないものではなく、普段でもしっかり役割があるので常に近くに置けるお気に入りの品。

いつかシェラカップを持って山登りに行きましょうと、自分も楽しみな気持ちを込めて贈りました。

<贈りもの>
・Snow Peak「チタンシェラカップ」

贈りかたを紹介した人:

中川政七商店 商品企画・デザイナー 大久保優希

【わたしの好きなもの】コンパクトな生活サイズにもぴったりの小回りが利く棕櫚箒「Broom Craft 4玉ミドル」

我が家の高校生になる息子には、ハウスダストのアレルギーがあります。

こまめに掃除をするために、スティック型でパワーの強い掃除機を使っていますが、吸引力が強いと排気もそれなりに強い‥‥。掃除機で埃を吸い取ると排気側で埃が舞うのか、掃除をすると咳をします。そして、飛ばされた埃は、隅へ隅へ、逃げるように溜まっていく気が。特に回り階段は、掃除機をかけても埃が取り切れない気がして、本当は箒がいいんだろうな‥‥と、昔から頭にはありました。

室内で使うなら、あこがれの棕櫚(シュロ)の箒がいいな、という気持ちはあったものの、なかなか購入に至らなかったのは、そのサイズ。小柄なわたしには、おしなべて、どれも長いのです。

長柄の箒は幅もあるので、コンパクトな我が家にはオーバースペック。片手用の短いものもありますが、部屋中を掃くなら、やっぱり立ったまま胸元で取り回ししたい。そんな風に、何度か猛烈に欲しいと思う時期がありつつ、その都度見送ってきました。

なので、こちらの4玉ミドルを見たときに思ったのは、「これなら」。
柄が短めで、幅も4玉。よく見る7玉や9玉の箒の約半分です。

からだの小さいわたしにも、これなら。
そんなに広くない我が家でも、これなら。
階段の隅っこも、これなら!

実際使ってみると、予想以上に便利でした。

しっかりとしたコシはありますが、反発はあまりないので、箒を止めたところに埃がぴたっと集まって散らからない。箒って反発力を使うものではないんだな、寄せていくものなんだな、と認識が新たになりました。

階段も、隅っこをサーッと滑らせて、下の段に落としていくだけ。埃がまとまって舞い上がらず、きれいに集まります。柄が短いので階段を下りながらでも掃きやすく、踏板のすべり止めに溜まりがちな埃までスーッと取れました。

居間の掃除をするときも、掃除機をかける前に、椅子の足回りや家具の接地面を滑らせて、時間があれば板目にそって埃をかき出しておくと、すごくすっきりします。

もう一箇所、箒が便利だなーと思ったのが、お手洗いや洗面所。

トイレのかげや、洗面所と洗濯パンの間って、スティック型の掃除機だと、先端を外しても本体が入らないことが多いですが、箒であればそのまま差し込むだけで、埃を絡めとりながら寄せてきてくれます。

さて、掃き寄せた埃やゴミをどうするか。埃をなるべく室内に残したくないので、わたしはちりとりは使わず、掃きよせた埃は掃除機で吸いとって、箒の先も掃除機をかけてしまいます!

表と裏に掃除機をかけたら、あらかたきれいになるようです。

そして箒の収納場所。

毛先が傷まないように、箒はできれば浮かせて置いておきたい。天然素材なので押し入れや納戸ではなく、風通しのよい場所のほうがよさそう。どこがいいかなーと考えた結果、我が家の箒の定位置はキッチンになりました。

冷蔵庫の側面にマグネットフックをつけて、ほんの少しだけ床から浮かせてかけています。

ここでも、4玉ミドルのサイズ感が威力を発揮して、短い分圧迫感もなく、幅も冷蔵庫の飛び出た部分にシンデレラフィット。

小回りがきく、使い勝手のよい箒。

子どもの頃に出会っていたら、もうすこし掃除が上手な大人になっていたような気がします。

アレルギーは一生のおつきあい。コントロールには掃除の上手さ、マメさも必要です。というわけで、我が家の高校生にも使ってもらって、掃除上手な大人になれるよう、追加教育中です。

小柄なわたしは柄の真ん中当たりを持って掃き、高校生男子は柄の上の方を持って、問題なく使っています。小さめで軽いので、もっと小さいお子さんでも上手に使ってもらえると思います。

現代のコンパクトな生活サイズにぴったりの、コンパクトな棕櫚箒。
音も出ないので、マンションにお住まいの方にもおすすめです。

<掲載商品>
Broom Craft 4玉ミドル

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編集担当:内山

【わたしの好きなもの】理想のエプロンで家事スイッチを入れる「kitten.kyotoのMAKU」

新しいエプロンが欲しくなり、事あるごとに探してはいましたがなかなか決まらず、はや2~3年。お店でいくつも手に取るうちに、「どんなものが欲しいのか具体的に考えず、やみくもに探してるから見つからないのかも」と気がついて、理想のエプロンの条件を改めて挙げてみることにしました。

まず年々重要に感じているのは、肩がこらないくらいの適度な軽さと、動きやすい柔らかさ。
そして床やお風呂掃除の時に屈んだとき、前に垂れて汚れたりしないこと。
さらに、洗いやすいタフな生地で、少しのシミやキズがあっても味わいにしてくれるような懐の深さです。
そして一番大切なのは、着けた時にテンションが上がるデザインであること。

家事道具すべてに欲しい条件かもしれませんが、なかでも特に、私にとってエプロンは、制服のようにわかりやすい”心の家事スイッチ”なのです。

お気に入りの靴を履くと背筋がシュッと伸びるように、少し面倒なこともササッとこなせるパワーがもらえるとベストだなと思います。

はたして理想のエプロンに出会えるのか‥‥と不安に思いきや、ひょんなことからすぐ見つかりました。一目見て、なんて素敵な色!と嬉しくなり、実際に手に取り着用すると、スッキリしたシルエットに満足。しかもディティールにもこだわりがあり、使い勝手も良いのです。

その理想のエプロンがkitten.kyotoのエプロン「MAKU」。

“MAKU”とは“巻く”ではなく、“幕”のこと。なぜ幕かというと、エプロンの足元に幕や暖簾のような中央スリットが入っていることと、さらに両端の紐を引くと寺院にある開いた幕の形になるからだそう。

スリットがあることで、長めのエプロンでも足さばきが良く動きやすいですし、幕を開ければ短くてかわいい形になり、屈み仕事もできちゃいます。

kitten.kyotoは、京都で暖簾や幕などを製造している加藤健旗店さんが、その技術を活かして新たに作ったワークウエアブランド。刷毛で一枚ずつ丁寧に染められた布が美しく、裏側にはわざと刷毛あとを残した耳を使ってあったりと、手しごと好きの私は思わずニヤリとしてしまいます。

普段から店舗の暖簾や祭りの法被などオーダーメイドで受けているからか、「その人らしさ」「お店の顔」を作る視点ならではのオリジナリティがあり、さらには作り手として作業するための使い勝手も工夫するといった視点が、このエプロンを生み出したんだなと感じます。

求めていた以上のエプロンが相棒になってくれて嬉しいのはもちろんですが、末永くお付き合いしたらカッコいい経年変化をしてくれそうで、それも密かな楽しみです。

私と同じくエプロンお探しの皆様。
もしかして、これかもしれませんよ!

<掲載商品>
【WEB限定】kiten.kyoto MAKU.

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編集担当:江藤

【わたしの好きなもの】フローリングのお家にこそ!Broom Craftの「国産棕櫚箒 7玉」

裸足で歩くと、なんとなく足裏に埃の気配がする。
ふりかえると、小さい埃がなぜかいる。
なぜ。あれだけ掃除したはずなのになぜ。
汗でびしゃびしゃになりながら掃除したのに。

今年の春、マンションから一軒家に引っ越しました。

大好きな我が家だけれど、ずっと小さなストレスだったのは掃除の問題。家の形状が変わったからか、今までのお掃除道具を使ってもどうもきれいになりきらないことにストレスを抱えていました。

コードレス掃除機、吸着剤付き化繊モップ、使い捨てフロアモップ、高性能お掃除ロボット。
今までありとあらゆるお掃除道具を使ってみたけれど、どれを使っても“すっきりきれいに”とはならない。痒い所に手が届かないのです。

ちなみに、マンションではコードレス掃除機を使っていたのですが、引っ越して一部屋の面積が増えた途端、掃除機のヘッドが小さいため一気にきれいにならず、疲れて非効率だと感じるように。前は小回りが利いて便利だな~と思っていたのですが‥‥。

おまけに今の家はフローリングの色が深くて、どこを掃除したのか目視では分からない。
きれいに掃除できた!と思い裸足で歩いたら、足裏に感じる吸い残し。
ちょっとした絶望です。費やしたお掃除時間が報われない感じ。

単に私の掃除の仕方がへたな気もしますが、掃除の道具選びに迷走を重ねていました。

そんなときに出会ったのが、Broom Craftさんの「国産棕櫚箒(しゅろほうき)」です。
こちらは棕櫚の木の繊維を使った天然素材の箒で、和歌山県の工房で作られているそう。

箒と聞いて、畳の部屋が一つもない我が家には無縁だな、と思っていたのですが、商品紹介文に「畳にもフローリングにも使えます」の文字が!

さらには「ハリ・コシのある厳選した棕櫚は程よくしなやかでそれ自体に油分を含み、埃を舞い上げることなく集めることができます」とのこと。

これがほんとならすごくいいな!いや、ほんとに??と思いつつ、早速使ってみました。
箒を手にするのは久しぶりで、過去に使ったのは祖母の家に行った時か、学校の清掃の時くらい。ちょっと新鮮です。

色も質感もかわいくて、そのまま出していても様になります。

かっこいい!色がいい!素敵!テンションが上がります

手に取ると、すこし重みがあります。
メーカーさんの説明文には、「7玉タイプはやや重く感じることもありますが、その重みで自然にしなることを利用してスムーズに動かせます」とありました。

斜めに傾けて床においてみるとこんな感じ

動かしてみると、そのまますっとすべって、しなりの反動で少しもちあがるので、最初に感じた重みはあまり気になりませんでした。
掃くたびにシャッと、いい音で、うちにある掃除機よりも幅が広いので、効率よく掃除できます。

フローリングの凸凹に棕櫚がフィットしていて細かいところまではける

また、巾木(はばき)をそのまま箒ではけるのが、思った以上に便利!

今まで巾木掃除はハンディモップを使って腰をかがめていましたが、これなら床掃除のついでにそのままの姿勢でできる!これが私には革命的でした。

巾木を掃除しているところ。このほか、幅のある机の脚や、ベンチの脚も掃けました

我が家には3歳の暴れん坊息子がいて、彼が眠っている間(彼が散らかさないうち)に掃除をしたいな~と思っても、埃が舞い上がるからできなかったのですが、箒なら埃が舞い上がる心配もなく、気になったところの掃除が可能。これも、嬉しいポイントでした。

擦るようにゆっくりごみを集めれば、大きな音もならず、埃も舞い上がらず、彼も起きずで最高です。

掃ききった床を裸足であるいてみましたが、以前感じた足裏の違和感はなく、埃がなくなったのを感じました。
残ったゴミも見当たらず、すっきり。

また箒掃除は静電気が起こりにくいため、埃が舞い上がりにくいそうで、鼻がムズムズせずNOくしゃみなのも快適でした。

メンテナンスもお水で洗えて簡単とのことなので、これから末永く愛用していきたいと思います。
フローリングだから箒は関係ないよな~と思っている方にこそ、おすすめしたいです!

棕櫚の良さに目覚めたので、次は手帚が気になっています。これもすごく便利そう。
これを機に、お気に入りのお掃除道具が増えそうです。

<掲載商品>
【WEB限定】Broom Craft「国産棕櫚箒 7玉」

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編集担当:木村

【イベントレポート】和歌山の箒職人「Broom Craft」のさんち語り&手箒づくりワークショップ開催 in「ものづくりから覗き見るディープな世界展」

先日、「さんち商店街」初のポップアップイベント「ものづくりから覗き見るディープな世界展」が開催されました。この企画は日本各地のものづくりや職人の技、ものづくりから見える各地の歴史や風土、文化に魅せられた学生たちが経営するセレクトショップ「アナザー・ジャパン」とのコラボレーションによって実現したものです。

会期中は、さんち商店街が取り扱う商品のなかから、学生セトラー(※)がセレクトした商品の販売をはじめ、つくり手を招いたワークショップや、特別ゲストとの「異業種コラボな夜咄会」と題したお茶会など、さまざまなイベントが行われました。

※店舗を経営する学生たちのこと

職人の奥深き世界に触れる

プレオープニングイベントとして開催されたのは「和歌山の箒職人『Broom Craft』のさんち語り&手箒づくりワークショップ」です。「Broom Craft」は、棕櫚(しゅろ)製品の一大生産地である和歌山県海南市において約70年の歴史をもつ深海産業が立ち上げた新ブランド。産地ならではの伝統を受け継ぎつつ、掃きやすさを追求した棕櫚箒やキッチンブラシなど、現代に寄り添う製品を数多く手がけています。

3人の息の合った掛け合いで笑い溢れるトークショーに

前半は、産地である和歌山県海南市の個性や魅力、産業の成り立ち、そして原材料である棕櫚についてなど、スライドを使った〝さんち語り〟からスタート。話し手は「Broom Craft」の専務取締役であり〝ほうき〟プロデューサーの深海耕司さんと職人の津村昂さん、同じく職人の深海由衣さん。3人による楽しいトークショーが繰り広げられました。

「みなさんは棕櫚ってどんな素材か、知っていますか?」と深海耕司さん。

すでに箒やブラシになった状態は知っているものの、その原材料の棕櫚となると……参加者の頭にはパッと思い浮かばない様子です。

「棕櫚とはヤシ科の植物。その昔、和歌山県には山間部一帯に棕櫚が自生する〝棕櫚山〟があって、その収穫を生業とする山師は、当時の公務員の月給がたった1日で稼げるほどだったといわれています」

和歌山には、今でも棕櫚が多く自生する山がある(写真:阿部高之)

「実際、箒やブラシなどに使用するのは棕櫚の皮の部分。木の幹を守るように巻き付いている皮を1枚1枚丁寧にはいで使うんです」と話す深海さんの言葉に、「皮をはぐ様子は筍の皮に似ていますよね」と津村さんは加えます。

「Broom Craft」専務取締役の深海耕司さん(右)と、棕櫚を手にもつ職人の津村昂さん

ちなみに「Broom Craft」の母体である深海産業は、全国各地で使用される緑化資材(街路樹などの植栽の幹に巻きつける棕櫚テープや、植物の成長を支える棕櫚縄など)の90%以上のシェアを誇っているとか。まさに棕櫚のスペシャリストです。

これが棕櫚。皮を輪転機にかけて繊維状にしていくとか

「ひとくちに棕櫚といっても品質はさまざまですが、良質な棕櫚はハリとコシがあって、かつ、しなやか。水に強く、汚れたら洗って使えるのも特徴です。だからこそ箒やたわし、ブラシなどに向いているんです」(津村さん)

自分だけのオリジナル手箒をつくる

さて、トークショーの後はワークショップに突入。今回は卓上用箒として開発された手箒の仕上げ作業を体験していただくことに。テーブルや棚、窓のサッシなどに溜まったゴミや埃をサッと掃き出してくれるコンパクトな手箒です。

「Broom Craft」の手箒は埃を舞い上げることなくサッと掃き出せるのが魅力

赤やピンク、オレンジ、紺、茶色など、色や質感の違う15種ほどのレザーのなかから、自分の好きなものを選び、「Broom Craft」さんが用意してくれた手箒本体の持ち手に巻いて、銅線で留める作業を行いました。

「えー、たくさんあって迷う……どのレザーにしようかな」
「きれいに巻きつけられるかしら」
「銅線で巻きつけるってどうやるの?」

そんな声が挙がりながらも、作業開始です。

1人1人丁寧に指導する深海さん。笑いも絶えません
縁の下の力持ち!優しく教えてくれた深海由衣さん

ただ巻きつけるだけなのに、これがなかなか難しい。銅線をきつく巻きつけなければレザーが浮いてしまい、かといって力を入れすぎればレザーがよれたり、導線が切れてしまったり……。自分で実際に手を動かしてみると、こうした作業の一つ一つに職人の知恵や技が詰まっているのだと、改めて実感します。

少し戸惑い気味で始まったワークショップですが、作業を進める間にみなさん、なんだか楽しそうな雰囲気に……。

「これはなんだろう……?」「どうやって使うの?」との声が

作業に使う工具にも興味津々の様子です。たとえば上記写真の参加者が手にしているのは、簡単にいえば、巻きつけた銅線をねじり上げてきれいに締めるための道具ですが、「これは棕櫚箒用の道具なんですか?」との質問に、深海さんから出たのは意外な回答でした。「いいえ、元々は電気工事用の工具なんです。いろいろ試してみたところ、これがもっとも銅線を巻くのに適していたので採用することに。職人それぞれが、自分の扱いやすいように改良しながら使っています」。

掃き心地の良さにびっくり!

参加者がつくった手箒。素敵な仕上がりに!

普段、聞くことのできないさまざまな話をうかがいながら、作業は着々と進み……遂に完成!参加者それぞれに個性の違う、世界に一つだけの手箒が完成しました。

自分でつくった手箒でなんとなく机の上を掃いてみると……正直、驚きました。というのも、棕櫚の繊維そのものは意外としっかりとして硬めなのに、ササッと掃いてみると柔らかくしなり、びっくりするほど掃き心地が良かったのです。テーブルの溝に入り込んだゴミまでしっかりと掃き出してくれました。ほかの参加者からも、

「棕櫚って意外と軽いんですね」
「家で使うのが楽しみです!」
「手箒のとんがった形状が、細かな場所にもフィットして使いやすそう」

さんち商店街 × アナザー・ジャパンコラボ展「ものづくりから覗き見るディープな世界」の楽しいプレオープニングイベントは、こうして無事にお開きとなりました。

・「Broom Craft」のページはこちら:https://www.nakagawa-masashichi.jp/shop/r/rbrand05/

文:葛山あかね

【四季折々の麻】10月:ふっくらとあたたかく、上品な艶感「綿麻のコール天」

「四季折々の麻」をコンセプトに、暮らしに寄り添う麻の衣を毎月展開している中川政七商店。

麻といえば、夏のイメージ?いえいえ、実は冬のコートに春のワンピースにと、通年楽しめる素材なんです。

麻好きの人にもビギナーの人にもおすすめしたい、進化を遂げる麻の魅力とは。毎月、四季折々のアイテムとともにご紹介します。

ふっくらとあたたかく、上品な艶感「綿麻のコール天」

10月は「清秋」。残暑もようやく終わり、清く澄みわたる空に爽やかな秋を感じる月となりました。木々が色を染める景色や、遠くから聞こえる虫の声。そんな時期に着ていただけたらと、豊かな空気を吸い込んで出かけたくなるような服を、綿麻のコール天で作りました。

素材に採用したのは、綿麻の糸を使って織ったコール天生地。コール天とはいわゆるコーデュロイのことで、日本の遠州地方で作られるコーデュロイを昔からこう呼びます。手間ひまをかけて職人が手がけた、畝(うね)のふっくらとした丸みと艶が特徴です。

毎年人気で、中川政七商店でも秋の定番となっているこの生地を用いて、今シーズンは「ベスト」と「ジャケット」、「イージーパンツ」「フレアスカート」をラインアップ。いずれも着まわしやすく、寒い季節まで長く着られるアイテムを揃えました。

【10月】麻の高密度織シリーズ:

綿麻のコール天 ベスト
綿麻のコール天 ジャケット
麻の高密度織 イージーパンツ
麻の高密度織 フレアスカート

今月の「麻」生地

秋から冬まで長い時期で着られる、綿麻素材の肉厚なコール天生地。

夏のイメージが強い麻ですが、実は秋冬にもたくさん着たいおすすめの素材です。吸湿発散性があるので重ね着する場合もムレにくく、何より上品な艶感で秋冬らしい落ち着きを纏っていただけます。今回は綿が主流のコール天生地に麻を取り合わせることで、綿の肌あたりの良さと、麻ならではの軽やかで上質な質感をそなえた生地に仕上げました。

国産コーデュロイ、特に遠州のコール天は、一つひとつの工程が丁寧で手が込んでいるのが特徴です。ベースとなるのは、タオルのように糸をループ状にして織り上げたパイル織生地。そこから糸をカッティングして凸凹した畝を作り、全体の糊を洗い落とす「糊抜き」後に、「毛焼き」の作業を施していらない毛羽を落とします。こうすることで、ふっくらとやわらかで、なめらかな生地に仕上がるのです。

完成した生地は艶があるためカジュアルすぎず、上品な“大人のコール天”といった印象に。

現場では腕の良い職人さんの高齢化も進んでいて、「あと何年できるか」という話もよく出ます。ですが一方で、国産のコール天に魅力を感じた若い職人さんが後を担おうとする動きも出てきているそう。いずれにせよ、貴重な生地であることに変わりはありません。

お手入れのポイント

お洗濯はできるだけ手洗いで。脱水で洗濯機を使う際や、洗濯機の手洗いモードを使って洗濯する際は、お洋服を裏返してネットに入れてください。

また着用時や着用後に洋服ブラシを軽くかけてもらうと、毛並みが整い艶も美しくなり長持ちします。毛並みは下から上の流れになっているので、ブラシも下から上にかけてくださいね。

ひと手間かかってはしまいますが、手間をかけることで良い状態で長く着られるはず。お洋服を手入れする時間も楽しんでいただければ嬉しく思います。

きちんと感もカジュアル感も出せる、上下でバランスのとれた4アイテム

セットアップにブーツや革靴を合わせてきちんと着たり、単品アイテムにスニーカー合わせでカジュアルに着たりと、いろいろな雰囲気を作れる4アイテムをラインアップ。

色展開は、生成・カーキ・墨紺の3色で、長く着たい定番の色合いを選びました。特に生成は素材そのものの色合いのため、麻の繊維も混じり杢(もく)感があり、奥行きのある雰囲気でおすすめです。

フィット感のあるベストは、きちんとした雰囲気が出せるアイテム。ずらりと並ぶボタンも端正で、やさしくもきりりとした印象をつくる一着です。

まだコートを着るまでもない秋の日に軽く羽織りたい、ノーカラーのジャケットは、カットソーやタートルネックとも相性の良いVネックラインに仕立てました。すっきりと大人っぽくも着られますし、パーカーを中に着ればカジュアルにも。シリーズのベストと合わせて、ジャケットからチラッと見せるコーディネートも魅力的です。

イージーパンツはとにかく暖かく、秋冬にたくさん履きたい楽ちんシルエットに。シンプルなトップスと合わせてパンツの存在感を引き立てたり、ざっくりしたニットに合わせてほっこりしたコーディネートにしたりと、合わせるアイテムで印象ががらりと変わります。おしりのポケットの毛並みを横に配しているのがポイントです。

後ろの裾を少し長くとったフレアスカートは、ぐるりとどこから見てもフレアの立体感がきれいになるよう調整しました。シリーズのベストとセットアップで着ると、上下でバランスのとれたコーディネートが楽しめます。タイツやブーツを合わせ、秋冬のお出かけ服としていろんな場所へ出かけていただけたらと思います。

素材自体が呼吸をしているような、気持ちの良さがある麻のお洋服。たくさん着ると風合いが育っていくので、ぜひ着まわしながら愛用いただけると嬉しいです。

「中川政七商店の麻」シリーズ:

江戸時代に麻の商いからはじまり、300余年、麻とともに歩んできた中川政七商店。私たちだからこそ伝えられる麻の魅力を届けたいと、麻の魅力を活かして作るアパレルシリーズ「中川政七商店の麻」を展開しています。本記事ではその中でも、「四季折々の麻」をコンセプトに、毎月、その時季にぴったりな素材を選んで展開している洋服をご紹介します。

ご紹介した人:

中川政七商店 デザイナー 杉浦葉子

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