【四季折々の麻】8月:風が通り抜けて涼しく着られる「麻のかや織」

「四季折々の麻」をコンセプトに、暮らしに寄り添う麻の衣を毎月展開している中川政七商店。

麻といえば、夏のイメージ?いえいえ、実は冬のコートに春のワンピースにと、通年楽しめる素材なんです。

麻好きの人にもビギナーの人にもおすすめしたい、進化を遂げる麻の魅力とは。毎月、四季折々のアイテムとともにご紹介します。

風が通り抜けて涼しく着られる「麻のかや織」

8月は「立秋」。暦の上では夏の暑さがピークを迎え、秋へ向かっていく季節です。とはいえ年々暑さが増し、今年は立秋を過ぎても気温の高い日が続きそう。そんな残暑も心地好く過ごせるようにと、今月はかや織で麻の服を作りました。

ラインアップは、7月から展開している「モックネックブラウス」「羽織ワンピース」「キュロット」と、8月から加わる「ローブ」を合わせた4アイテム。目の粗いかや織を採用することで、風が通り抜けて涼しく着られるように仕上げています。

また、縫製後に洗い加工をかけることでふんわりとした風合いに。かや織の透け感、風に揺れる様子を涼しげに愉しんでいただけるシリーズです。

【8月】麻のかや織シリーズ

麻のかや織 モックネックブラウス
麻のかや織 羽織ワンピース
麻のかや織 キュロット
麻のかや織 ローブ

今月の「麻」生地

かや織は、「風は通すが蚊は通さない」と重宝されてきた蚊帳(かや)に使われる、目の粗い薄織物。中川政七商店の代名詞といえる「ふきん」にも使っている布地です。

今月の麻生地ではその通気性のよさを活かしつつ、強度・透け感など洋服に適した密度になるよう織り上げました。

使用した麻はリネン。ラミーやヘンプなど麻にも様々な種類とそれに応じた特徴があるなかで、リネンは洋服によく使われる、さらりとした風合いのよい生地で、なじみのある方も多いと思います。

そのリネンの繊維を綿(ワタ)の状態で染めたトップ糸を使い、メランジ感(ムラ感)と奥行きのある風合いを表現しました。綿の段階で染めることで、生地にしてから染めたものに比べて色落ちしにくくなるため、汗をよくかき、お洗濯が多い夏の衣類にぴったりです。

さらには薄地で織り目の粗い生地のため、洗濯後の乾きが早い点も魅力の一つ。今回は麻素材を使うことでさらに乾きが早く、洗うほどに生地がやわらかくなるよう仕上げました。

お手入れのポイント

お洋服を長く楽しんでいただくために、基本的には手洗いをおすすめしています。目の粗い生地のため、ひっかけには要注意。脱水時はネットに入れるようお願いします。

干し方はお好みで。形を整えて乾かせば自然なシワ感に、さらにシワ感を楽しみたい方は、手で絞ってシワをつけて干してみてもよいでしょう。シワ感がお好みでない方は、乾いてからアイロンをかければ上品でふんわりした印象となります。

ゆったりしたシルエットで、気温の変化にも合わせやすい

ゆったりとしたシルエットにデザインしているため、肌離れがよく、とにかく涼しい、今月の麻の洋服。

羽織ワンピースは前を開けても閉じても着られます。ボタンを開けて着れば、ロングカーディガンのような装いに。タンクトップとパンツ、といったラフな格好にも羽織るだけで、よそ行き感が増しますよ。

モックネックブラウスとキュロットは単品で着用いただくのはもちろん、上下でセットアップにしても。キュロットには裏地付きで、インナーが透ける心配もありません。ウエストはゴム仕様のため楽な履き心地で、体型を選ばずきれいに履いていただけます。

ローブは長袖ですがゆったりしていて風通し抜群のため、暑い時期は日よけやクーラーよけとして羽織ったり、朝晩と日中で気温差のある日は袖を延ばしたりロールアップしたりと、環境に合わせて調整できるのが便利なところです。秋には長袖カットソーの上にも着ぶくれせず着用いただけて、長く寄り添う一枚としてご愛用いただけます。

ふんわりしていてシワ感も気になりにくいため、クシュっとまとめてカバンにポンと入れ、ぜひ旅行にもお持ちください。

※掲載写真には一部、オンラインショップ限定カラー品もございます
※時期により在庫のない場合もございます。何卒ご了承ください

「中川政七商店の麻」シリーズ:

江戸時代に麻の商いからはじまり、300余年、麻とともに歩んできた中川政七商店。私たちだからこそ伝えられる麻の魅力を届けたいと、麻の魅力を活かして作るアパレルシリーズ「中川政七商店の麻」を展開しています。本記事ではその中でも、「四季折々の麻」をコンセプトに、毎月、その時季にぴったりな素材を選んで展開している洋服をご紹介します。

ご紹介した人:

中川政七商店 デザイナー 杉浦葉子

ゼリーや琥珀糖にも。「奈良の森のシロップ」使い方レシピ【奈良の草木研究】

工芸は風土と人が作るもの。中川政七商店では工芸を、そう定義しています。

風土とはつまり、産地の豊かな自然そのもの。例えば土や木、水、空気。工芸はその土地の風土を生かしてうまれてきました。

手仕事の技と豊かな資源を守ることが、工芸を未来に残し伝えることに繋がる。やわらかな質感や産地の景色を思わせる佇まい、心が旅するようなその土地ならではの色や香りが、100年先にもありますように。そんな願いを持って、私たちは日々、日本各地の作り手さんとものを作り、届けています。

このたび中川政七商店では新たなパートナーとして、全国の里山に眠る多様な可食植物を蒐集し、「食」を手がかりに日本の森や林業に新たな価値を創出する、日本草木研究所さんと商品作りをご一緒することになりました。

日本の森にまなざしを向ける日本草木研究所と、工芸にまなざしを向ける中川政七商店。日本草木研究所さんの取り組みは、工芸を未来へ繋ぐことでもあります。

両者が新商品の素材として注目したのは、中川政七商店創業の地である奈良の草木。この「奈良の草木研究」連載では、日本草木研究所さんと奈良の草木を探究し、商品開発を進める様子を、発売まで月に1回程度ご紹介してきました。

いよいよ最終回となる6回目の今回は、新商品「奈良の森のシロップ」の楽しみかたを紹介します。ミネラルウォーターや炭酸水で割って飲んでいただくほか、さまざまな使いかたができる今回のシロップ。中川政七商店おすすめのレシピで、ぜひ森の香りをご堪能ください。

日本草木研究所コラボ シロップ 奈良の森
日本草木研究所コラボ サイダー 奈良の森 200ml ※そのまま飲めるサイダーもございます

【基本の飲みかた】森のシロップのソーダ

シロップを炭酸水で割れば、夏にぴったりの爽やかなソーダドリンクに。草木がふわりと香り、大和橘のほんのりとした酸味と苦みで後味はさっぱりとお飲みいただけます。

材料(1杯分)

・奈良の森のシロップ‥適量
・炭酸水‥シロップの4倍の量

作りかた

1. グラスにシロップを注ぐ
2. 炭酸水を入れ、マドラーで混ぜて完成

森のシロップの番茶割り

番茶に少し加えると、レモンティーのような飲み口に。甘いおやつとの相性もバツグンです。

材料(1杯分)

・奈良の森のシロップ‥小さじ1~2
・番茶‥200ml

作りかた

1. 好みの濃さで番茶を作る
2. 湯飲みやマグカップに注ぎ、シロップをたらしてひとまぜしたら完成

森と柑橘の寒天ゼリー

奈良の森のシロップがあれば簡単にゼリーも完成。柑橘のほのかな酸味とやさしい甘みで、暑い夏のおやつにもおすすめです。粉寒天の量は、固さの好みに合わせて調整ください。

材料(2人分)

・奈良の森のシロップ‥75ml
・柑橘(お好みのもの)‥適量
・ミントの葉‥適宜
・粉寒天‥1~2g ※固めがお好きな場合は2g
・水‥160ml

作りかた

1. 鍋に水と粉寒天を入れ、沸騰したら弱火で1分ほどかき混ぜる
2. 火を止めてシロップを加える
3. 粗熱が取れたら型に注ぎ、冷蔵庫で1~2時間冷やし固める
4. 食べやすく切った柑橘と、好みでミントをのせたら完成

森のシロップのかき氷

少し贅沢にシロップを使った、お茶碗サイズのかき氷はいかがでしょうか。ひとさじ運べば口いっぱいに清涼感が広がります。

材料(1人分)

・奈良の森のシロップ‥適量
・氷‥適量

作りかた

1. かき氷機に氷をセットして、うつわに削り出す
2. シロップをかけて完成

森の琥珀糖

三時のおやつや、夜のお茶時間のお供としておすすめしたいのが琥珀糖。しっかりと乾燥させ、外はかりっと、中はぷるんと仕上げてお召し上がりください。

材料(縦21×横12×高さ2cmのバット1台分)

・奈良の森のシロップ‥小さじ1
・上白糖‥200g
・粉末寒天‥4g
・水‥200ml

作りかた

1. 鍋に粉寒天、砂糖、水を入れて煮詰める
2. 1をバットに流し入れ、シロップを加える
3. ゴムベラで全体を混ぜ、粗熱がとれたら冷蔵庫で1時間固める
4. 包丁で食べやすい大きさに切り分ける
5. クッキングシートにのせ、風通しの良い場所で1週間ほど乾燥させる
6. 表面が固くなり、全体が白っぽくなれば完成


文:谷尻純子
写真:奥山晴日

【暮らすように、本を読む】#13「おいしいおしゃべり」

自分を前に進めたいとき。ちょっと一息つきたいとき。冒険の世界へ出たいとき。新しいアイデアを閃きたいとき。暮らしのなかで出会うさまざまな気持ちを助ける存在として、本があります。

ふと手にした本が、自分の大きなきっかけになることもあれば、毎日のお守りになることもある。

長野県上田市に拠点を置き、オンラインでの本の買い取り・販売を中心に事業を展開する、「VALUE BOOKS(バリューブックス)」の北村有沙さんに、心地好い暮らしのお供になるような、本との出会いをお届けしてもらいます。

<お知らせ: 「本だった栞」をプレゼント>

ご紹介した書籍をVALUE BOOKSさんでご購入いただくと、同社がつくる「本だった栞」が同封されます。買い取れず、古紙になるはずだった本を再生してつくられた栞を、本と一緒にお楽しみください。詳細は、VALUE BOOKSさんのサイトをご覧ください。



思い出の真ん中に、とっておきの味

作家の阿川佐和子さんによる『おいしいおしゃべり』は、1990年代に連載していたエッセイをまとめたもの。和田誠さんのかわいいイラストが表紙の本書は、2000年に幻冬社から出版された文庫版です。家族と過ごした子ども時代の思い出から、アメリカでの滞在記まで、ふっと笑えるユーモアと共に語られます。阿川さんが40歳くらいの頃に書かれたであろう、60を超えるエピソードは、「そういえば思い出したんだけど」とでも言うように、軽やかにはじまります。

冒頭のエピソード「酒と反省の日々」では、「おいしい食べ物と親しい友とゆったりした時間」が揃って初めてお酒は魅力的になる、と語ります。お酒だけでなく、家族の食卓に並んだ「ニラブタ」や、旅先で出会った「小籠包」、夏休みの思い出「キュウリ胡椒」など、登場するごちそうはどれも、身近な人との何気ないやりとりと共に描かれます。軽快な語り口は、気の置けない女友達のおしゃべりを聞いているようで、時々、自分のおいしい記憶ともつながり、どこか懐かしい気分になるのです。

「『飛ぶ教室』と私」の中では、小学校の図書館でアルバイトをしていた時のエピソードが語られています。生徒からおすすめの本を聞かれるたび、答えていたのがケストナーの『飛ぶ教室』。男の子に交じって遊び、本もほとんど読まなかった子ども時代に偶然手に取り、ユーモアとその背後にあるあたたかさに魅了されたそう。「皆さんの子どもの頃を決して忘れないで」というケストナーからの言葉を、大人になっても大切にしている阿川さん。エッセイの中で描かれる家族との笑える思い出や、おいしいものと出会った時の素直な喜びは、子ども心を忘れない彼女の誓いの先にあるような気がします。

読者を楽しませたいというサービス精神は「あとがき」にも。「とにかく最後まで召し上がっていただいた皆様への感謝の念を込め、食後のデザートはいかがでしょう」と、唐突にはじまる白玉団子のレシピを紹介。心地よい文章で満たされた心は、ほんわかとした甘さの余韻に浸ることでしょう。

ご紹介した本

阿川 佐和子『おいしいおしゃべり』

本が気になった方は、ぜひこちらで:
VALUE BOOKSサイト『おいしいおしゃべり』

ご紹介した書籍をVALUE BOOKSさんでご購入いただくと、同社がつくる「本だった栞」が同封されます。買い取れず、古紙になるはずだった本を再生してつくられた栞を、本と一緒にお楽しみください。詳細は、VALUE BOOKSさんのサイトをご覧ください。

VALUE BOOKS

長野県上田市に拠点を構え、本の買取・販売を手がける書店。古紙になるはずだった本を活かした「本だったノート」の制作や、本の買取を通じて寄付を行える「チャリボン」など、本屋を軸としながらさまざまな活動を行っている。
https://www.valuebooks.jp

文:北村有沙

1992年、石川県生まれ。
ライフスタイル誌『nice things.』の編集者を経て、長野県上田市の本屋バリューブックスで働きながらライターとしても活動する。
暮らしや食、本に関する記事を執筆。趣味はお酒とラジオ。保護猫2匹と暮らしている。

【あの人の贈りかた】今暮らす場所や、ふるさと。その地の想い出を込めて(スタッフ安田)

贈りもの。どんな風に、何を選んでいますか?

誕生日や何かの記念に、またふとした時に気持ちを込めて。何かを贈りたいけれど、どんな視点で何を選ぶかは意外と迷うものです。

そんな悩みの助けになればと、中川政七商店ではたらくスタッフたちに、おすすめの贈りものを聞いてみました。

今回は販促企画ディレクターの安田がお届けします。

“好き”で使い続ける麻のハンカチに、奈良の想い出を刺繍「motta」

実は、ちょっとした贈りもの、というのが苦手でした。たまに会えた友人に「久しぶり!」の嬉しい気持ちを表したい。でも贈る相手の好みを考えていると自信がなくなり、これ!というものを選べなかったのです。

贈りもの選びのヒントをもらったのは、退職祝いに中川政七商店のハンカチ「motta」をいただいた時のこと。ありそうでない、珍しい麻のハンカチです。

生地の風合いや柄がかわいらしく、麻なのにしわになりにくいから洗いざらしですぐ持っていける。たくさん持っているハンカチの中でいつの間にか出番が多くなりました。そうか!自分が使って「すき!」と思ったものを贈ってもいいんだ、と気づきました。

奈良に本社のある中川政七商店で働き始めてからというもの、友人がよく来寧してくれます。結構な確率で私が贈るのは、奈良本店限定の鹿刺繍入りのmotta。鹿の思い出と一緒に使ってね、また来てね!という想いを込めて贈ります。

<贈りもの>
motta

スリッパ迷子の母に贈った「夏の麻スリッパ」

「スリッパって、どうしたってヘタってしまうのよね」。母との会話で、スリッパの話題がよく上がります。

私の場合は、履き続けている甲の部分がどんどんブカブカになって、かかと部分の生地が擦り切れ、中の綿が出てきてしまいます。もったいなくて履き続けるのですが、恥ずかしいので来客がある時に急いで買い替える。何とかならないものか‥‥と思っていました。

そんな時に手に入れたのが、中川政七商店の「夏の麻スリッパ」。

中敷きがジュート麻になっているので、素足で履くとざらざらした感触がとても気持ちいいのです。また、夏の蒸れやすい時期に湿気がこもらないのも、おすすめしたいポイント。早速、同じくスリッパ迷子の母にプレゼントしました。暑がりの母はとても気に入ったようです。

そして今のところ、ヘタり具合も気にならない。毎日の家事の相棒だから、この調子で丈夫に長持ちしてほしい!と思っています。

<贈りもの>

夏の麻スリッパ

ふるさとの話に花が咲く「大丸屋製菓 栗最中」

中川政七商店で働く同僚は、奈良県以外の出身者も多く、故郷の話でよく盛り上がります。お土産で地元の珍しいお菓子をいただくこともしばしば。群馬県出身の私としては、地元の美味しいものを皆さんに知ってほしいと、帰省するたびにいろいろ探しています。

いつもお土産リストに入っているのは、大丸屋製菓さんの「栗最中」。群馬県沼田市に本店を構え、創業130年を超える老舗の和菓子屋さんです。栗最中は小倉餡と白餡の2種があるのですが、私は白餡派。優しい甘さの白餡に大きな栗が丸ごと入っていて、1つで大満足のお菓子です。

故郷のお菓子を誰かに贈るとき、古い友人を紹介するようでなんとなく照れくさく感じてしまうのは私だけでしょうか‥‥?もしかすると、ふるさとへの想いがお菓子を通して伝わってしまう気がするからかもしれません。

<贈りもの>
・大丸屋製菓「栗最中」
 ホームページ:https://www.daimaruya.jp/
 Instagram:https://www.instagram.com/daimaruya_wagashi/

贈りかたを紹介した人:

中川政七商店 販促企画ディレクター 安田裕子

森を身近に。「奈良の森のシロップ」商品開発の道のり【奈良の草木研究】

工芸は風土と人が作るもの。中川政七商店では工芸を、そう定義しています。

風土とはつまり、産地の豊かな自然そのもの。例えば土や木、水、空気。工芸はその土地の風土を生かしてうまれてきました。

手仕事の技と豊かな資源を守ることが、工芸を未来に残し伝えることに繋がる。やわらかな質感や産地の景色を思わせる佇まい、心が旅するようなその土地ならではの色や香りが、100年先にもありますように。そんな願いを持って、私たちは日々、日本各地の作り手さんとものを作り、届けています。

このたび中川政七商店では新たなパートナーとして、全国の里山に眠る多様な可食植物を蒐集し、「食」を手がかりに日本の森や林業に新たな価値を創出する、日本草木研究所さんと商品作りをご一緒することになりました。

日本の森にまなざしを向ける日本草木研究所と、工芸にまなざしを向ける中川政七商店。日本草木研究所さんの取り組みは、工芸を未来へ繋ぐことでもあります。

両者が新商品の素材として注目したのは、中川政七商店創業の地である奈良の草木。この「奈良の草木研究」連載では、日本草木研究所さんと奈良の草木を探究し、商品開発を進める様子を、発売まで月に1回程度ご紹介できればと思います。

5本目となる今回のテーマは「開発者対談」。日本草木研究所と中川政七商店が新しく開発した商品について、ついにご紹介する記事がやってきました。

「奈良の森のシロップ」「奈良の森のサイダー」と名付け、吉野杉や吉野桧、大和橘、モミ、クロモジ、アカマツを素材に、清涼感ある飲料に仕上げた今回の商品。いよいよ7月末に発売が迫る初夏のとある日、ともに商品開発に取り組んだ日本草木研究所の古谷知華さん、中川政七商店の内山恭子に、インタビューを実施しました。



奈良の森の可能性を届けたい

ーーまずはじめに、古谷さんにご質問です。日本草木研究所さんとして、他社と大きくコラボレーションするのは今回が初めてだと伺いました。世の中にたくさん企業があるなかで、中川政七商店とのコラボレーションを検討くださったのは、どうしてだったのでしょうか?

日本草木研究所・古谷さん(以下、古谷):

中川政七商店さんが日本のプロダクトや文化を大事にしながら商品を作っていらっしゃることは、ずっと以前から拝見していました。その姿勢をとても尊敬していて、日本草木研究所(以下、草木研)の活動についても、きっと共感してくださるところがあるのではないかと思ったことが一つです。

あとは、私自身が奈良の自然にすごく興味を持っていたことも理由ですね。奈良は林業がはじまった場所ですが、今は他の地域と同じく衰退してきています。また奈良は日本のなかでも早い時期に、漢方を作るなど植物をシステマチックに使っていたり、歴史として残していたりする土地です。森のルーツや植物の文化がすごくある場所だなと思っていたので、ここで何かを試みることに草木研としての意義も感じていました。

その他にも、今回素材に使用した果実の大和橘は別ブランドで手掛けているクラフトコーラの活動でずっと使っていて、奈良の方とやり取りもしていたので、そういったご縁を感じるところもあって。

大和橘ってもともとは森に自生していた植物なんですけど、今は活動団体さんなどの手で農業として育てられています。そこで育てられた果実や葉を使ったジンが登場するなど、「奈良といえば大和橘」といったイメージも徐々についてきて、森にある植物のなかでも産業化が成功しつつある草木だなと。

そんな風に、吉野杉や吉野桧、大和橘など、森に育つ植物を商品化して森の活用をしてきた実績が奈良にはあったので、そこに可能性を感じて商品に使ってみたいという興味があったんです。

日本草木研究所・古谷知華さん

ーー続いて、内山さんに質問です。草木を使った食品企画に取り組むと決まった際、どんな風に感じられましたか?

中川政七商店・内山(以下、内山):

最初は「どうやってやるんだろう」と思って。どんなものなら食べ物に使えるんだろうと考えていくと、自分は意外と森のことを知らないなと気付きました。

古谷さんとお会いして最初にお話を聞いた際、「日本の林業にはきこり業ときのこ栽培しかない。本当はその間にもっと可能性があるのに」っておっしゃっていて、それがすごく印象に残ったんですね。それで、その“可能性”の部分にかけてみたいなという想いがありました。

中川政七商店・内山恭子

こだわったのは森のストイックさと、飲みやすさのバランス

ーー奈良の森を素材として使用することが決まり、いろいろ検討したうえで最終的にはシロップとサイダーの開発に至りました。どんな考えからこの商品に着地したのでしょう?

内山:

最初はいろいろな可能性をお伺いしながら、草木研さんのオリジナル商品の試飲や試食などもさせていただいたんです。それで、そのなかでも一番「あ、森だ!」とストレートな驚きがあったのがシロップだったんですよ。

あとは炭酸水で割ってもいいし、煮詰めてソースに使ったり、かき氷のシロップにしたりといろいろなアレンジもできるので、中川政七商店のお客様にも楽しんでいただきやすいかなと。

古谷:

私としては、中川政七商店さんのお客様が手に取りやすいものであれば特にジャンルにこだわりはなくて、作るものも奈良の森を訪れてから考えたいなと思っていました。なので、最初から具体的に何を作るか決めていたわけではなかったんです。

とはいえ“奈良といえば”の吉野杉や吉野桧は使いたいと思っていたので、それなら食品よりも飲料の方が相性がいいなとは、過去の経験から考えていました。

内山:

そうですね、私も奈良の特産である吉野杉や吉野桧は使いたいと思っていて。だったら‥‥と、先ほどお話いただいた古谷さんからのアドバイスも踏まえて、オリジナルのシロップを開発することになりました。

それで、せっかくメインの素材を奈良で打ち出すなら、いっそ全部の香木素材を奈良のものにできないかなと。ただ中川政七商店のお客様は、草木だけで構成すると少し手に取りづらいかもしれないとも思い、もうちょっとやわらかな感じを出せるように、奈良で大切に育てられている大和橘を使用したいと考えました。

あと、奈良には吉野などの山のイメージもありますが、明日香村や奈良公園のようなちょっと下った裾野の方の、里のイメージもあると思うんです。それで里の香りがする大和橘が入った方が、奈良の植生感と奥行きが出るかなと考えて。

奈良の森のシロップ(左)とサイダー(右)。サイダーはシロップを炭酸水で割ったもの

ーーシロップの味や香りを決める際、こだわった点についても教えてください。

内山:

先ほどもお話しした通り、「森を飲む」というコンセプトとはいえ、ストイックになりすぎるとお客様が手に取りにくいかもしれないので、飲みやすく仕上げたいと思いました。

その理由から、ヒノキや杉で森のイメージは出しつつ、クセのある草木の分量は減らしていただいたのがポイントです。あとは大和橘で柑橘の香りや味を加えることで、なじみのあるものと感じていただければなと。

ただ、そんな当社の方針を踏まえて草木研さんが提案くださった1度目の試作品は、甘みがあって飲みやすかったんですけど、実は、採用を見送って。そこから「もう少し森っぽさを加えてほしい」とリクエストしたんです。

そのきっかけは、1度目と2度目の試作の間に、奈良の山へ一緒に入ったこと。雨が降るなか山守さんに森を案内いただいたのですが、そこでピリッとした山の空気や、山を守ってきた方々の崇高なプライドを感じたので、甘すぎるのは違うなという気がしました。だから「ストイックさをもう少し前に出して、バランスを出したいんです」って、2度目の試作のリクエストをして。

あまりにも飲みやすくしちゃうと草木研さんや山守さんの想いが薄まってしまい、「美味しいシロップ」で終わっちゃうなと思ったんです。

古谷:

山歩きが商品開発に繋がって私も嬉しいです。実際に山に入ることで、対象に対しての解像度が高くなって、商品のイメージが固まることってありますよね。

日本草木研究所と中川政七商店のメンバーで、初春の吉野山へ

ーー改めて、今回使用した素材について、それぞれの草木が持つ味や香りの特徴を教えていただけますか?

古谷:

はい、もちろん。
まず杉は青りんごみたいな甘みがあって、青いけどやさしい味と香りがするのが特徴です。最も顕著に香りが出るのは新芽なんですけど、葉っぱでも十分その特徴は感じていただけます。幹の方になるともう少し強い木の香りになるので、今回は枝葉のやわらかい香りの部分を使ってます。

ヒノキは皆さん、暮らしのなかで使用されるシーンが多いので、恐らく香りのイメージが一番わきやすいと思います。ヒノキの香りがすることで森らしい印象には繋がりやすいのですが、強すぎると「人が飲めるもの」と感じにくいので、クロモジや大和橘のような比較的なじみのある草木を入れることで、飲みやすく思えるように全体の印象を調整しました。

クロモジが持つニナロールという成分は、レモンや生姜にも含まれている香り。“やさしいジンジャー”のようなイメージで、草木から食品を作る時にすごく重要な役割を果たしてくれる植物です。昔からお茶などの食品に使用されてきましたが、味や香りはお花っぽいというか、あまり「木を食べている」感じはしないかもしれません。華やかで上品な味わいにしてくれる、キーボタニカルの一つです。

こちらはアカマツ。今回はチップの部分を香りづけで使用しました。削りたてのアカマツのチップって、オレンジのような香りがするんですよ。ただマツヤニの香りも少しあるので、わりと短所と長所がはっきりしている植物ですね。入れすぎるとクセが強くなって飲みづらくなるのですが、多少入れる分には独特のいい風味を出してくれます。

うちがオリジナルで作っているシロップはアカマツが多めなのですが、中川政七商店さんとの商品ではクセを出しすぎないように、ほんの少しだけ使っています。

次にモミ。モミは折るとグレープフルーツみたいな香りがして、時間が経つとベリーの香りに変わっていく不思議な特徴を持っています。シロップにはフレッシュな香りを蒸留して使うので、最初の爽やかな華やかさを演出してくれます。

内山:

大和橘は日本書紀や古事記にも出てくる、日本の柑橘のなかで一番古いといわれる果実です。500円玉の裏に描かれていたり、桃の節句では雛人形とともに「右近の橘、左近の桜」として飾られていたりと、日本人にとって実はなじみが深い柑橘なんですけど、準絶滅危惧種になっていることもあり、実際はほとんどの方は食べたことがないと思います。

ちょっと酸味や苦みがあるのでそのまま食べるのには向かないんですけど、シロップに使うと飲みやすくなるし、アクセントも出るのでちょうどよくて。大和橘の復活に取り組まれている生産者さんから分けていただいたものを使用しました。

古谷:

今回は蒸留の工程で大和橘の葉っぱを多く使うことで香りを出して、実の部分は芳香蒸留水をシロップにするときに足していています。それぞれ加工の方法が違うんです。

内山:

そうですね。結構たくさんの葉が必要だったんですけど、「シロップの製造時期にその量をカットすると木が弱るかも」と生産者さんがおっしゃったので、製造期より少し早い剪定の時期に「葉っぱを拾いに行かせてください」とお願いして、私の上司と2人で葉っぱを拾いに行きました(笑)。

古谷:

そのお話、初めて聞きました!ご自身で拾いに行ってらっしゃったんですね、すごい。

内山:

そうなんです。乾燥する前に摘んで冷凍しなくてはいけないので、生産者さんの倉庫にこもって、運び込まれた枝からせっせと摘みました(笑)。

心をやすめて、森を身近に感じる機会に

ーーシロップが完成してついに7月末に発売となります。お客様へのメッセージをそれぞれいただけますか?

内山:

夏の時期の発売となるので、涼やかな気持ちになれる味わいに仕上げました。ソーダで割ったり、お酒に一滴たらしたりしながら、忙しくされていて気持ちに一区切りつけたい時や、ゆっくりできる夜などに、時間をかけて楽しんでもらいたいなと思います。

美味しく飲んでいただきながら「アカマツとかクロモジってどんな葉っぱなんだろう」って、それまで気に留めなかった草木について調べたり、その背景である森にも想いを馳せたりする時間になれば嬉しいです。

古谷:

当社オリジナルのシロップを飲んでいただいたお客様から、「森を感じました」とか「森林浴をしている気分になりました」といった感想を頂くことが多いんです。普通に街で暮らしていると森って身近にないじゃないですか。そんな風にいまの日本の暮らしって、自然との距離が遠くなりつつあると思うんです。

シロップ一つでいきなり森と近づくのは難しいかもしれないんですけど、でも、蓋を開けたときの森の香りや、「奈良の森ってなんだ?」なんて違和感から、少しでも森や自然を想う時間が暮らしのなかに生まれるといいなと思います。


<次回記事のお知らせ>

中川政七商店と日本草木研究所のコラボレーション商品は、2024年の7月末に発売予定。「奈良の草木研究」連載では、発売までの様子をお届けします。
最終回となる次回のテーマは「奈良の森のシロップの楽しみかた」。そのまま飲むだけじゃない、いろいろな活用方法をご案内します。

<短期連載「奈良の草木研究」>

文:谷尻純子
写真:奥山晴日

【はたらくをはなそう】デジタル推進課 小林亮介

小林亮介
デジタル推進課

新卒で大手SIerに入社し、金融機関向けのシステム開発に従事した後、ベンチャー企業に転職して小売業向けのシステム開発を担当。その後小売企業に転職し、内製によるシステム開発に従事し、2017年11月に中川政七商店に入社。
内製化による社内システムの刷新やECサイト・ホームページのリニューアル、店舗レジの入れ替え、会員ポイント制度の導入、SaaS導入によるバックオフィス業務の改善、茶論やアナザー・ジャパンなどの新規事業のシステム支援などを行なっている。



システムエンジニアという、一見すると中川政七商店とは関係なさそうな仕事をしています。

一般的に事業会社のシステムは、SIer(エスアイヤー)と呼ばれる、システム開発を請け負う企業に依頼することが多いのですが、近年では事業会社がエンジニアを採用し、内製によるシステム開発を行うことが増えてきました。中川政七商店も内製によるシステム開発を行なっており、私が所属するデジタル推進課が担当しています。

新卒から約15年間システム開発を経験し、「企業の業務改善に貢献できるようになったな」と実感を持てるようになっていました。今後のキャリアを考えた際、エンジニアなら「技術を極めたい!」とか「大規模なシステムを開発したい!」と考えるのが一般的だと思いますが、私は「何か社会のために意味のあることをしたいな」と考えるように。

そんなタイミングで縁があって中川政七商店を知り、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンに共感を持ったのです。

中小工芸メーカーからすると、会社のシステム開発やIT化は、「難しいし、コストも高そうだな」といった印象なのだと思います。ですが、実際は技術の進化によりコスト的にも技術的にもハードルは下がっており、また世の中に便利なサービスも増えており、中小企業こそ導入するメリットがあります。そういった側面から、エンジニアの立場でも日本の工芸に貢献できると考え、入社したいと思いました。

とは言え、入社当時は中川政七商店自身がシステムに課題を抱えており、まずは中川政七商店のシステムをレベルアップさせる必要がありました。そのため入社以来、既存のシステムの課題やシステム化できずに苦労している点を、各部署と検討してシステム開発する仕事を続けています。

各部署の方と話すときは、

・システムやIT関係の専門用語は使わない
・各部署の業務視点から考える

といったことを意識しています。

知らない分野の専門用語が出てくると相手は身構えてしまうもの。だからこそ、身近なものに置き換えながら話すことを心がけています。

また、「システムの機能はこうだから、業務はこうしましょう」のようにシステム視点から考えてしまうと、各部署が本当に困っていること、やりたいことに辿り着かなくなってしまいます。

そのため何かを検討する時は、まずはシステムのことに触れず業務のあるべき姿を一緒に考え、そのうえでシステムとして手助けできる部分を検討するようにしています。システムはあくまで手段なので、目的(業務のあるべき姿)が達成できれば、必ずしも最新技術であったり高機能であったりする必要はないのです。

そうして取り組んでいくうちに、「私の仕事はシステムを開発することではなく、そのシステムを使ってしっかり業務が成り立つようにすることだな」という意識になりました。

先日も店舗で棚卸(期末に店舗の商品の数を全て数える業務)をするシステムを開発したのですが、仕様通りにシステムが動いたことではなく、無事に全店舗の棚卸が完了できたことに喜びを感じました。

エンジニアという立場ではありますが、各部署の課題解決に当事者意識を持って臨んでいくことができ、会社の業務が良くなっていくことを実感できるところに、仕事の楽しさがあります。


<愛用している商品>

かや織バスマット Mサイズ
サイズもちょうど良く、吸水性、速乾性が良いバスマットを探していたので重宝しています

HASAMI ブロックマグビッグ
質感がいいのもあるのですが、重厚感もあり所有欲を満たしてくれます

かや織ケット 鹿
小さい赤ちゃんがいるので、柔らかい肌触りで気に入っています



中川政七商店では、一緒に働く仲間を募集しています。
詳しくは、採用サイトをご覧ください。