【わたしの好きなもの】和洋問わず盛り付けやすい「明山窯 古信楽プレート」

ごはんができた。さぁ盛り付けよう。
さてこのとき、みなさんはどのようにお皿を選んでいますか?

「その料理を一番引き立てるお皿を」
「とにかく洗いものが少なくなるように」

人それぞれ、答えがあると思います。忙しい日とそうでない日で、答えは変わってくるかもしれません。

しかしいかがでしょう。
そんななかにも、「このお皿、よく選ぶかも?」というものが、きっとひとつは思い出されるのではないでしょうか。

どんなときでも、なぜか手に取ってしまうお皿。私にとって、そんな不思議な魅力をもつお皿のひとつが明山窯さんの「古信楽プレート 角」です。

なぜ手に取ってしまうのか。
今回、この記事を書くにあたって改めて考えてみたところ、その理由は「形」と「色」にあると気づきました。

まずは「形」。お皿としては珍しいシンプルな平たい形状ですが、とにかく幅広く使えるんです。メインディッシュとして炒めものを盛り付けたり、ワンプレートとしてパンとサラダを盛り付けたり。

食後のスイーツも、古信楽プレートに置いてみると、ぴったりと落ち着きます。

こんなふうに「ごはんでもスイーツでも、いかなるものでも受け止める度量の深さ」が、私の心を無意識のうちに射止めているのだと思います。

そしてもうひとつの理由である「色」。こちらの品は、表面に白い釉薬をかけた「白釉」と、素地に緑の釉薬がまだらに入った「緑釉」の2色がラインアップされています。

「白釉」はシンプルな色合いで、食卓のほかのうつわともなじみます。と言ってもツルツルの白色ではなく、よく見ると“石ハゼ(※)”がところどころに。やきものの豊かな表情を楽しめるのも、このお皿の愛すべきところです。

※石ハゼ・・・土の中に含まれる長石が焼成時に爆(は)ぜることによって、表面に露出した状態のこと。(明山窯「古信楽プレートの品質について」より)

一方「緑釉」は、素地と釉薬のコントラストが目を惹きます。一見、少し派手で和食には合わないかも‥‥?と思ってしまいますが、色味の落ち着きがちな和食でこそ、このお皿は特別に輝きます。

形は同じでも、まったく景色が違う「白釉」と「緑釉」。

「これを盛り付けたらどうなるだろう?」とイメージしながら、お気に入りの色を選ぶのが毎回楽しみになります。普段の何気ない食事に、少しだけワクワクをプラスしてくれるのも、古信楽プレートを選びたくなる理由のひとつです。

「なにを食べるかではない。“どこで”食べるかだ。」

これは、私の大好きな三谷幸喜さん脚本のドラマ、『王様のレストラン』に登場するセリフです。古信楽プレートに盛り付けてごはんを食べるとき、私はこのセリフを思い出しながら、次のように言い換えてみるのです。

「なにを食べるかではない。“なにで”食べるかだ。」

みなさんも「なぜか手に取ってしまう使い勝手のよいお皿」のコレクションに、古信楽プレートを加えてみませんか?

<掲載商品>
【WEB限定】明山窯 古信楽プレート 角 L
【WEB限定】明山窯 古信楽プレート 角 M

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編集担当・稲田

【旬のひと皿】椎茸と鶏肉の照り焼き

みずみずしい旬を、食卓へ。

この連載「旬のひと皿」では、奈良で創作料理と玄挽きの蕎麦の店「だんだん」を営む店主の新田奈々さんに、季節を味わうエッセイとひと皿をお届けしてもらいます。



専門学校の2年生だった10代最後の年は、学校の制度を利用して海外へ留学していました。貴重な経験をさせてもらっていたのだから、もっと貪欲に、がむしゃらに頑張れればよかったなと今は思うのですが、当時は自分の知らない世界が広がりすぎていて、日常を送ることすらあやふやで。

まず言葉がわからない、そして伝えられない。もどかしい日々でした。

短い期間だったけど、とても長く感じられたあの時間。「良い時間だったな」と思えるようになったのは、ずいぶん時間が経ってからです。

留学直後のしばらくは、私とは別の料理学校の研修制度を利用して来られた、アメリカ人で元ダンサーのお姉さんと一緒に暮らしていました。とびきり明るい性格で、母国にいらっしゃるボーイフレンドとの電話を部屋で聞いた時には、映画の中かと思いました。

全力で感情を伝えている姿に「アイラブユーは日常だったんだと!」と、当時の私はとてつもない衝撃を受けたものです。

2人とも予定のないお休みの日には、近くにあるピッツェリアに行き、家族の話、日本ではどうなの?アメリカではどうなの?と、お互いの日常を聞き合って。貴重な同居生活でした。

しばらくして、彼女が研修期間の終わりを迎え帰国してしまうことに。急に静かになった部屋で生活することになりました。

そこからは寂しさとともに、全然成長のできていない自分に悔しさもつのり、辛い期間が続きました。まだしばらくは、どれだけ帰りたくても帰れない状況で、20歳の誕生日がきて。

そんなときに、スーパーでお醤油を見つけた時の喜びったら!日本を感じられる貴重なお醤油。高価だなと思いましたが、醤油味がどうしても恋しかったので一番小さなボトルを買い、親子丼風の料理を作って一人で誕生日のお祝いをしました。

「これから頑張っていこう」という前向きな気持ちと、目の前の生活に負けそうな気持ちが入り混じり、嬉しいだけではない誕生日の思い出です。

それから帰国し色々な経験を経て、今は奈良で楽しく暮らしています。ずいぶんと時間が経ちましたが、未だに誕生日が近くなると、「あの時、一人で作って食べたなぁ」と思い出しては懐かしい気持ちにかられます。

秋を迎えた今回のレシピ。何にしようかなと考えているときに、ご近所の美味しいすき焼き屋の女将さんが、東京へ異動されるとご挨拶に来てくださいました。

異動される前にと先日お店へ伺ったところ、お店の皆さんのおもてなしに感激。目の前でお話ししながら焼いてくださるすき焼きは、きっとここでしか体験できない素晴らしい時間だなぁと、嬉しく、美味しくいただきました。

近くにいる人がずっと近くにいるわけではない。日々に追われつつも、ちゃんと今を「楽しむ」ことを目標にしたいなと改めて感じた時間でした。

そんな、懐かしの「親子丼」と、女将さんに焼いていただいた「すき焼き」の美味しさを思い出しながら考えたレシピ。秋の食材・きのこに、すき焼き風の甘じょっぱいタレと親子丼に欠かせない卵を合わせたひと皿をご紹介します。

<椎茸と鶏肉の照り焼き>

材料(2人分)

・鶏もも肉…1枚
・卵…2個
・椎茸…4枚
・玉ねぎ…1/2個
・青ねぎ…適量
・天津甘栗(あれば)…適量
・蜂蜜…小さじ1
・万能醤油(作りかたは以下を参照)…大さじ2

◆万能醤油

醤油、酒、みりんを同量ずつ鍋に入れ、軽く煮立たせたら完成。今回は量を使わないので大さじ2と表記していますが、私は各100mlずつを合わせて火にかけ、冷ましたものを冷蔵庫で保管しています。多めに作って保存しておくといろいろな料理に使えるのでおすすめです。このたれに生姜を加えれば、生姜焼きのたれとしても。

作りかた

まずは鶏肉から。余分な脂や骨を取り除いてそうじしたら、肉の1%弱を目安にした重さの塩(分量外)をして、しばらくおく(ここまでを前日にしておくと味が染み込んで美味しい)。

調理の直前に、鶏肉を半分に切る。

続いて、ゆで玉子を作る(お好みの固さでOK)。今回は水から茹で始め、7~8分ほどで鍋からあげたものを使いました。

椎茸は軸をとる。玉ねぎは繊維に対して直角になるよう、大きめの輪切りにする。青ねぎをざっくりとななめ切りにする。

華やかになるよう、椎茸は飾り切りしても

フライパンを熱して鶏肉を皮面から焼き始める。余分な脂が出てくるので、キッチンペーパーに吸わせながらじっくり焼いていく(皮を下にしたまま)。

きれいなキツネ色に皮面の焼き色がついてきたら、野菜を入れて一緒に焼く。野菜に塩(分量外)をして、途中、鶏肉を野菜の上にのせて休ませながら焼いていく。

「全部に火が通ってきたな」というタイミングでフライパンの端を空け、蜂蜜を入れてブクブク沸くまで焦がす。甘さを加えるというより香ばしさをつけたい。

はちみつに泡が出てきたら、大さじ1〜2ぐらいの水を入れて、万能醤油を全体に回しかけ、味を見る。足りなければ足す。鶏肉や野菜には下味をつけているので、かけすぎに注意。

ねぎも入れて全体を軽く炒める。

火を止め、鶏肉を食べやすい大きさに切って野菜と共に盛り付ける。ゆで玉子も半分に割り、一緒に添える。甘栗もお好みで。

フライパンに余ったたれを全体に回しかけ、茶色い秋のお皿が完成!

うつわ紹介

美濃焼の平皿 土灰


写真:奥山晴日

料理・執筆

だんだん店主・新田奈々

島根県生まれ。 調理師学校卒業後都内のレストランで働く。 両親が母の故郷である奈良へ移住することを決め、3人で出雲そばの店を開業する。  
野に咲く花を生けられるようになりたいと大和未生流のお稽古に通い、師範のお免状を頂く。 父の他界後、季節の花や食材を楽しみながら母と二人三脚でお店を守っている。
https://dandannara.com/

【つながる、お茶の時間】「お茶、淹れよっか」が、家族団らんの時間を過ごすきっかけに(中川政七商店 渡瀬聡志さん、諭美さん夫妻)

「お茶にしましょう」。私たちがそうかける声は、何を意味するのでしょうか。

喉を潤すだけでなく、誰かと時間を共にしたり、自分自身の素直な声に耳を傾けたり。せわしない日々に一区切りつけて言葉を交わし合う、つながる時間がそこにあります。

皆さんがどんなお茶の時間を過ごされているのか。3組の方々の、それぞれのお茶の時間を覗いてきました。

この記事では、中川政七商店のプロダクトデザイナー・渡瀬聡志さんと、妻・諭美さんのお茶の時間を紹介します。

プロフィール:

渡瀬聡志・諭美
夫は中川政七商店のプロダクトデザイナー、妻は元中川政七商店で店長や茶道ブランドの企画運営などを担当。夫婦で奈良に暮らしながら、産地やギャラリーをまわって暮らしの道具を迎えたり、旬の食材を使った料理をしたりと、自分たちにとっての心地好い暮らしを愉しんでいる。



聡志さん:

普段は主に、プロダクトの企画、デザインを担当しています。転職前は文具のデザイナーでしたが、シンプルで生活とともにある、暮らしの道具の仕事がしたくて中川政七商店に入ったんです。

工芸の良さは、ものの根っこがある信頼感や面白さ。古い物を見ると「昔はどんな人が使っていたんだろう」とロマンを感じるし、紐解いていくと昔と今の違いに気付けたり、日本人が昔から大切にしてきた美意識や価値観が垣間見えたりするのも魅力ですね。

商品開発をするときは、そうやって人が過去から繋いできたものへのリスペクトを持ちながら、自分が使いたいと思えることも大切に、企画・デザインしています。

もともと家の設えや暮らしの道具が好きで、家具やうつわをよく集めていましたが、入社してからは拍車がかかって。特に、がちがちに決めてデザインされたものよりも、理屈がないものに惹かれることが多いですね。旅先で産地やものづくりの現場を見たり、作り手さんと話したりすると、ついつい買ってしまいます。

とはいえ、デザイン性のあるプロダクトも好きです。普段は手工芸のものを扱っているので、何となく自分の気持ちにバランスをとっているところがあるのかもしれません。

今はもう暮らしに必要なものは揃っているから、必要に駆られて買うことはほぼなくて。それよりも用途や機能に縛られず、迎えること・使うことによって新しい暮らしのイメージが開けるものに挑戦したくなるんです。

諭美さん:

私も、もともとは中川政七商店で働いていて、今は和菓子屋さんに勤務しています。

茶器やうつわでよく手にとるのは、やさしい印象で長く持てるもの。パッと見たときに心が穏やかになり、20年、30年と飽きがこず大事にしてあげたいと思えるものを選んでいます。ものに背景のある、作家ものや古物も好きですね。

父が美術工芸好きで、家族旅行では窯元見学をするような家で育ちました。幼いころから日常に手仕事のものが当たり前にあって、その影響なのか、特別に意識して工芸品を迎えているわけではありませんが、一つずつ表情が違う、人の手が入ったものの魅力に無意識に惹かれているのかもしれません。

茶器の蒐集は主に諭美さん。磁器・陶器・ガラスなどさまざまな素材のものが並ぶ

聡志さん:

お茶を飲むのは、食後やおやつの時間。夫婦で一緒に飲むことが多いですね。僕が静岡出身なので親が送ってくれた新茶を飲んだり、いい和菓子が手に入ったときは、せっかくだからと、妻が抹茶を点ててくれたりすることもあります。

茶道ブランドで働いていた経験を持つ諭美さん。気分をしゃんとしたいときには、抹茶を点てて飲むことも

諭美さん:

特におやつの時間が好きで。美味しいお菓子を手に入れては、何を合わせて飲もうか考えるのが楽しいんです(笑)。

抹茶や中国茶、日本茶など、その日のお茶選びはお菓子や料理に合わせて。夏はすっきり飲める水出し番茶、冬はほっこり飲めるほうじ茶など、季節でもよく登場するお茶は違いますね。

夫婦それぞれが本を読んだり洗濯物を畳んだりしていても、「お茶、淹れよっか」の言葉で一つの場所に集まって家族の時間が過ごせる。お茶の時間には、家族団らんに繋がる良さがあるように思います。


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【つながる、お茶の時間】一緒に時間を過ごす。お茶の時間が持つその営みに意味がある(つちや織物所 土屋美恵子さん)

「お茶にしましょう」。私たちがそうかける声は、何を意味するのでしょうか。

喉を潤すだけでなく、誰かと時間を共にしたり、自分自身の素直な声に耳を傾けたり。せわしない日々に一区切りつけて言葉を交わし合う、つながる時間がそこにあります。

皆さんがどんなお茶の時間を過ごされているのか。3組の方々の、それぞれのお茶の時間を覗いてきました。

この記事では、木綿を主な素材として手紡ぎ手織りの布づくりを行う「つちや織物所」代表、土屋美恵子さんのお茶の時間を紹介します。

プロフィール:

つちや織物所 土屋美恵子
奈良市内の平城宮跡近くに工房を構え、緑豊かな場所で手紡ぎ手織りの布づくりを行う。主宰する「木綿手紡ぎの会」では、工房近くの畑で綿花栽培から取り組み、糸を紡ぎ布を織る過程を参加者と共有する。
http://www.tsuchiya-orimono.com/



土屋さん:

母がいつも着物を着ていたので、呉服屋さんについて行くなど、幼いころから布が身近にありました。そのうちにいつの間にか布が好きになっていて、20代になり自分の生きかたを考えたとき、布を題材にものづくりがしたいと今の道に進んだのがはじまりです。

最初は絹を中心に、糸を購入して自分で染め、他の天然素材と合わせてストールなどを織っていました。ただ時代の変化で、心を惹かれる糸を作る方が少なくなってきて。自分が作るものには糸が一番大切なのに、その糸を外に頼っていてはいけないと思ったんです。自分で紡いだ糸で布を作るようになったきっかけですね。

その後、奈良に移り住んだことを機に、この地で昔から多く栽培されてきた木綿を素材の中心におきました。

それともう一つ、当時から社会への違和感を覚えていたんですよ。世の中は豊かになっていくけれど、大切なものが失われている気がして。何でも古いものがいいというわけではないですが、昔の日本人の美しい暮らしかたから、どんどん離れていくようで残念でした。 でも不満を言っても仕方がないので自分で手を動かしてものを作る人を増やしたり、そこに共鳴していただいたりすることが、世の中に向けて私ができることかなって。

昔ながらのものづくりである手紡ぎの糸は、大量生産・大量販売はできません。経済的に考えると遠ざかるのはわかるのですが、でも、なくなっていくのは残念。自分の身近な、限られた材料でものを作るからこそ出る力や魅力もあるし、シンプルにとても気持ちのいい作業だから、きっとやりたい人がいるだろうとも思いました。

そんな背景から、つちや織物所として手紡ぎ手織りの布で暮らしの道具を作るとともに、12年ほど前からは「木綿手紡ぎの会」も主宰しています。そして、私自身が織物の歴史や社会的な背景、奈良における木綿の歩みなどをもっと学んで、皆さんにお伝えしようと努めています。

手紡ぎの糸を作るのに欠かせない、奈良の職人による糸車
つちや織物所が手がける暮らしの道具

「木綿手紡ぎの会」は糸紡ぎを学ぶ人、織りを学ぶ人、合わせて30人ほどの方に参加いただいていて、皆さんには綿花の栽培から経験いただくんですよ。工房から徒歩7分ほどの場所に畑を持っており、そこで種を蒔いて草を刈り、自然農法で綿花を育てています。

自分の手で紡いだ糸で布を織ることに大きな喜びを感じる方もいらっしゃり、その様子にふれることで私自身がはっとさせられることもあります。

時間をかけてしか作れない手紡ぎ手織りの布は、現代では値段がつきにくいものかもしれないけれど、私は、いのちが感じられる布を自分で作って使って、また納得したものを作っていきたい。商品としては難しくても、だったら自分で作ってみませんか?って。そうやって届けることも織物の仕事の一つで、そんな風に布を作って人とつながっていけたらと思うんですよね。

綿花畑の草刈りも自分たちで
畑仕事の合間に皆さんとお茶。心がほどける時間

紡ぎの会の休憩時間には、皆さんとお話ししながらお茶を飲みます。お茶は淹れる行為自体も楽しかったりリラックスできたりするでしょう。だから淹れることからお任せしています。

休憩時間の話題はさまざまで、私は耳を傾けていることが多いですね。お茶って、飲むことそのものが目的になるばかりではなくて、誰かと時間を過ごすときの仲立ちとしての役割というか。

工房のスタッフと時々、仕事終わりにお茶するときもそう。少しリラックスした気持ちで、自分が思案していることをそれとなく問いかけてみたり、何でもない会話からお互いの気持ちの共有につながることもあります。特別なテーマがなくても、一緒に時間を過ごせることそのものが、お茶の時間の意味だと思うんです。


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文:谷尻純子
写真:奥山晴日

【暮らすように、本を読む】#15「本が語ること、語らせること」

自分を前に進めたいとき。ちょっと一息つきたいとき。冒険の世界へ出たいとき。新しいアイデアを閃きたいとき。暮らしのなかで出会うさまざまな気持ちを助ける存在として、本があります。

ふと手にした本が、自分の大きなきっかけになることもあれば、毎日のお守りになることもある。

長野県上田市に拠点を置き、オンラインでの本の買い取り・販売を中心に事業を展開する、「VALUE BOOKS(バリューブックス)」の北村有沙さんに、心地好い暮らしのお供になるような、本との出会いをお届けしてもらいます。

<お知らせ: 「本だった栞」をプレゼント>

ご紹介した書籍をVALUE BOOKSさんでご購入いただくと、同社がつくる「本だった栞」が同封されます。買い取れず、古紙になるはずだった本を再生してつくられた栞を、本と一緒にお楽しみください。詳細は、VALUE BOOKSさんのサイトをご覧ください。



閉じた世界に窓を開く、悩みに寄り添う「3冊の本」

奈良市内から車で約1時間半。奈良県東吉野村の森のなかに、「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」はあります。著者で司書の青木海青子さんと夫の真兵さんは、築70年の平家に暮らしながら、「図書館」として自宅を開放しています。

この本は、夫婦で営む図書館の6年間の記録をつづった「エッセイ」と、身近な人からのお悩み相談に3冊の本で答える「司書席での対話」の2つからなります。

相談内容は、コロナ禍における仕事のあり方から、働かない夫への愚痴、SNSとの付き合い方など、どこかで耳にしたことのあるようなものばかり。しかし、悩みに対する返事としてふたりが差し出すのは、ちょっと意外な本でした。

社会や政治に対して自分の考えを持ちたい、という相談に対しては「ミステリー小説」を、新天地で婚活で悩む女性に対しては「仏教学者による学術書」を紹介していきます。悩みに対して、直球の回答を投げかけるのではなく、新たな世界へ連れ出してくれるようなページを開くことで、相談者の悩みに優しく寄り添っているのです。

小説から哲学書、絵本、漫画まで幅広いジャンルで登場する本は、相談者ではない読者にとっても、思わず手に取ってみたくなる魅力があります。うれしかったのは、本の書影を引用した画像ではなく、一冊一冊撮影したものを掲載していること。時には付箋がぎっしり貼られ、読み込んだ跡がわかるその写真からも、本への信頼と愛情を感じます。

子どもの頃、人と接するのが苦手で、安心できる心地のよい居場所がなかった著者にとって、本を読むことは「窓を持つ」ことだったと話します。窓の外から吹いてくる風、差し込んでくる光や音を感じながら、何度も心に明かりを灯してきました。そしていま図書館を開くことで、自分自身のためだけでなく、みんなで外を眺められるような広くて大きな窓をつくろうとしています。

図書館に訪れることができなくても、この本を通して、私たちはきっと同じ窓を持つことができるはず。心が疲れたとき、閉塞感を感じるとき、窓を開ければ心地よい風が吹くことでしょう。

ご紹介した本

青木海青子『本が語ること、語らせること』

本が気になった方は、ぜひこちらで:
VALUE BOOKSサイト『本が語ること、語らせること』

ご紹介した書籍をVALUE BOOKSさんでご購入いただくと、同社がつくる「本だった栞」が同封されます。買い取れず、古紙になるはずだった本を再生してつくられた栞を、本と一緒にお楽しみください。詳細は、VALUE BOOKSさんのサイトをご覧ください。

VALUE BOOKS

長野県上田市に拠点を構え、本の買取・販売を手がける書店。古紙になるはずだった本を活かした「本だったノート」の制作や、本の買取を通じて寄付を行える「チャリボン」など、本屋を軸としながらさまざまな活動を行っている。
https://www.valuebooks.jp

文:北村有沙

1992年、石川県生まれ。
ライフスタイル誌『nice things.』の編集者を経て、長野県上田市の本屋バリューブックスで働きながらライターとしても活動する。
暮らしや食、本に関する記事を執筆。趣味はお酒とラジオ。保護猫2匹と暮らしている。

【あの人の贈りかた】いつもより少し特別な気持ちに、おまけを添えるつもりで(スタッフ奈部)

贈りもの。どんな風に、何を選んでいますか?

誕生日や何かの記念に、またふとした時に気持ちを込めて。何かを贈りたいけれど、どんな視点で何を選ぶかは意外と迷うものです。

そんな悩みの助けになればと、中川政七商店ではたらくスタッフたちに、おすすめの贈りものを聞いてみました。

今回は商品企画・デザイナーの奈部がお届けします。

気軽に贈れる、くつろぐ時間のお供「番茶 小袋」

久しぶりに友達と会えるとき、「ありがとう」や「お疲れさま」を伝えたいとき、いつもよりちょっとだけ特別な気持ちに、おまけを添えるつもりで渡したくなるのが小さな贈りもの。

ポケットからポケットへ、ちょっと取り出して渡せるような、贈る側にとっても、受け取る側にとっても気軽なものを選びたいと思っています。

そんなとき大活躍するのが、「番茶 小袋」。本当によく利用しているので、もしもこの記事を読んでくれたなら、「ああ、確かに私も貰ったことがあるな!」と思い返してくれる友人が何人もいるはずです。

カフェインが入っていないうえに、ティーバッグになっているので飲みやすく、「番茶」という日常の風景をイメージする、気を使わせない存在がちょうど良いのです。

茶畑の景色や素材のイラストが描かれた薄くて軽い紙のパッケージは、まるで手紙のようにそのまま手渡せて、受け取ったらポシェットに入るぐらいのサイズなので荷物になりません。手紙に添えて郵送しやすいところも花丸です。

贈る際は、奈良本社の皆で茶畑に行き、茶摘みから番茶づくりまでを体験したときの話をしながら渡すことも。その日の思い出や、残したい風景を思う気持ちのお裾分けでもあり、「お茶を囲んで、安心してくつろぐ時間を過ごしてもらえたらいいなあ」と思いながら贈っています。

<贈りもの>
・中川政七商店「番茶 小袋」

ふかふかの気持ちよさと、愉快な気分がお気に入り「お顔の蒸しタオル」

初めてこの蒸しタオルを使ったとき、ふかふか気持ちいいタオルに包まれて、全身が緩む感覚になりました。

温かいタオルが気持ちいいのは知っていたけれど、期待以上の使い心地だったのです。

この中川政七商店の「お顔の蒸しタオル」はフェイスマスク専用で、息がしやすいように切れ込みが入っています。お多福のお面のような形になっているところも、なんだか愉快な気分になれるのでお気に入り。これはぜひ、みんなに味わってもらいたい!そう思って、すぐに家族へ贈りました。

タオルは贈りものの定番ですが、たくさん持っていることも多いため、普段はあまり選びません。けれど形や素材が変わるだけで、こんなにもいい気持ちになれるのならば贈りたい!と思わせられる、改めてデザインのちからを感じるアイテムとの出会いでした。価格も、一般的なタオルを一枚贈る程度でちょうどいいです。

一日の終わりにホッと一息、緩める時間。今度は、誰に贈ろうかな?

<贈りもの>
中川政七商店「お顔の蒸しタオル」

しみじみ旨味を噛みしめながら、ゆっくりおしゃべり「ほたるいか素干し(醤油漬け)」

ふるさと・富山のお土産として帰省のたびに買っているのが、「ほたるいか素干し(醤油漬け)」。海のまちである富山県氷見市で、江戸時代から150年以上商いを営んできた釣屋魚問屋さんが作る保存食です。身が大きくて味もしっかり食べ応えがあるので、個人的ほたるいか素干しランキングでは1位に光ります。

アウトドアで過ごす日や、持ち寄りごはん会の手土産にもピッタリで、お酒の好きな人にはもちろん、飲まない人にも好評です。少しだけ火に炙ると香ばしく、中がジュワァっとなってなおおいしい!そんな裏技もおすすめです。

贈りものらしい華やかさはないけれど、誰かと一緒にほたるいかをひとつずつ摘まみ、しみじみと旨味を噛みしめながら、ゆっくりおしゃべりして過ごす。そんな幸せな時間のお供になる一品です。

<贈りもの>
・つりや「ほたるいか素干し(醤油漬け)」
・公式サイト:https://tsuriya-iwase.com/

贈りかたを紹介した人:

中川政七商店 商品企画・デザイナー 奈部遥佳