たった3枚の布からできた「たっつけパンツ」、普段着にちょうどいい理由

ちょっとした家仕事に動きやすく、
ちょっとそこまで、にもきれいなシルエット。

普段着にちょうどいいかたちを目指して、あたらしい定番パンツが中川政七商店に加わりました。「たっつけパンツ」というちょっと変わった名前は、日本の労働着がルーツになっています。

「たっつけって、元々は武士が狩りに行くときに履いていた立付(たちつけ/たっつけ)という履き物で、だんだん畑仕事をする人たちの間に広まっていったようです」

デザイナーの河田めぐみさんは、今の暮らしにあう新たなパンツづくりのヒントを、日本の労働着の歴史の中に探って行きました。

「中川政七商店には『もんぺパンツ』という日本の労働着をベースにしたパンツがあって、発売以来ずっと人気のロングセラーです」

中川政七商店のもんぺパンツ

「もともと労働着は家仕事や畑仕事での動きを考えて作られているので、足捌きがよかったり、とても機能的なんですね。その使い勝手の良さが支持されているのだと思います。

今回も、単に着心地のいいパンツをつくるだけなら簡単ですが、中川政七商店として手掛けるなら、そういう日本の生活の歴史とつながるようなアイテムにしたいと思っていました」

日本の労働着は大きく4つに分類でき、ひとつが「もんぺ」型、そしてもう一つに今回モチーフにした「たっつけ」型があるそうです。

ロングセラーのもんぺパンツは裾がすぼまってふっくらとしたシルエットですが、たっつけパンツは足先が細くすっきり。

自転車に乗る時などにも動きやすいデザインには、元々の「たっつけ」の歴史が詰まっています。

足捌きがよいので、自転車に乗るときにも動きやすい

「たっつけは元々山に狩りに行く時に履かれていたものなので、腰周りはゆったり、足先はすっきりとしたかたちです。これは少しデザインを整えれば、今の暮らしの中でも快適なパンツになるだろうと考えました」

「服のパーツをとる時のパターンもよく出来ていて、一枚の布をできるだけ使い切って無駄にしないよう、直線をうまく生かしながら型がつくられているんです。

昔の型紙を見ると、すごく考えられたかたちだなと感じます。こうした資源を無駄にしない考え方も受け継ぎたいと思いました」

たっつけパンツはたった3枚のパーツから作られています。元々のたっつけの直線的ならしさを受け継ぐだけでなく、その資源を大事にする考え方も生かした仕様です。

シルエットは、機能性だけでなく「ちょっとそこまで」履いていける見た目のきれいさも意識。素材には一年を通して履きやすい綿麻の生地を採用して、日本の労働着のエッセンスを今の暮らしのなかに生かした「たっつけパンツ」が完成しました。

「今も植木職人、大工さんと職業によって違う履き物のかたちがあるように、歴史の中には日本の風習や文化から生まれた形や素材がたくさん埋もれています。

このたっつけパンツも、そうした暮らしの知恵につながりながら、今の暮らしのなかで心地よく活躍する『定番着』になれたら嬉しいです」


<掲載商品>

たっつけパンツ

奈良に新しい集いの場を。鹿猿狐ビルヂングの楽しみ方

猿沢の池越しに興福寺の五重塔を望み、少し坂を登れば春日大社。そのほど近く、細い路地が入り組んだ迷路のようなならまち元林院町に、そのお店はあります。

「鹿猿狐 (しかさるきつね) ビルヂング」。

中川政七商店が300余年商いを続けてきた創業の地に、2021年4月にオープンさせる新しい「集いの地」です。

なぜ、鹿猿狐?

それは集うお店にヒントがあります。

3階建ての建物の1、2階には、創業の地に満を持して構える「中川政七商店」の旗艦店。隣接する1階部分には「たった一杯で、幸せになるコーヒー」を掲げるスペシャリティ珈琲専門店「猿田彦珈琲」、東京・代々木上原のミシュラン一つ星掲載店「sio」によるすき焼き店「㐂つね」が軒を連ねます。

つまり、集うのは中川政七商店の「鹿」、猿田彦珈琲の「猿」、㐂(き)つねの「狐」の3匹。だから鹿猿狐ビルヂング。

新しい集いの場への迷い込み方は二通りです。今日は、創業当時の面影を感じさせるこの入口から、鹿猿狐ビルヂングの世界をご案内します。

ならまちをそぞろ歩いて、はじまりの地へ

近鉄奈良駅から南に伸びるもちいどのセンター街の路地を東へ折れると、昔使われていた鹿避けの柵ごしに、ちらちらと覗くディスプレイ。入口の焼板の壁に真鍮であつらえられた看板には、二匹の向かい合う鹿。

ここはおよそ35年前、中川政七商店が初めて直営店をオープンさせた場所です。

もとは創業家である中川家の住まいだった築100余年の建物の中には、季節ごとの洋服やバッグが並び、奥には御座敷で抹茶やお茶菓子が楽しめる、「茶論 (さろん)」の喫茶スペースが設けられています。

二十四節季に合わせてしつらえが変わる盆栽。手掛けるのは奈良の塩津植物研究所

「茶論」茶道体験をテイクアウト

ならまち歩きを楽しむ人たちの喉を潤すのは、中川政七商店から茶道の新しい楽しみ方・学び方を提案する「茶論」のオリジナルメニュー。

テイクアウト用のカウンターでは、目の前でお茶を立ててくれます。

ここから一歩踏み込んで、さらに建物の奥へ進みましょう。小道を抜けると、そのまま鹿猿狐ビルヂングへつながっています。

小さな階段を降りてゆくと右手にはすきやき店「㐂つね」。正面に真っ直ぐ進めば、猿田彦珈琲と中川政七商店 奈良本店が見えてきます。

鹿猿狐ビルヂング まずはこの3匹にご挨拶

遊 中川本店側からビルヂングに渡ってまず目に飛び込んでくるのが、この大きなディスプレイ。

鹿の背中に猿が乗り、2匹を見上げる様に狐がそばにたたずんでいます。「鹿猿狐ビルヂング」を象徴する3匹の動物たちがお出迎えです。

1階で奈良初出店の猿田彦珈琲と奈良の工芸に出会う

愛らしい3匹の表情を眺めていると、右手から珈琲のいい香りが。鹿猿狐ビルヂングの1階には猿田彦珈琲が奈良初出店。その周りを囲む様に、奈良土産と奈良の作家ものがずらりと並びます。

中川政七商店 奈良本店が大切にしているコンセプトのひとつが、創業の地「奈良」を感じてもらうこと。1階にはこの地を訪れた記念となるようなアイテムを展開しています。

こちらが鹿猿狐ビルヂングの正面入り口。道を一本向こうに越えれば、猿沢池が目の前です。


続いて階段を登って2階へ上がってみると‥

2階 3000点のアイテムが並ぶ、中川政七商店 奈良本店の真髄

ずらりと並ぶ暮らしの道具。

その数3000点ほど全てが、中川政七商店オリジナルのアイテムです。

こちらは、中川政七商店を象徴する文様として新たに考案された「政七紋」のシリーズ

鹿猿狐ビルヂング限定アイテムや、大充実の品揃えの「ふきんコーナー」も見逃せません。

中央の企画展ブースでは、オープンに合わせて「奈良であること」を体感してもらうインスタレーションを展示しています。

土・水・火・風の4つをテーマに、ディスプレイするものは社員総出で集めました。

もうひとつの見どころが窓辺のライブラリーコーナー。

「中川政七商店の100」と題して、ブックディレクターの幅允孝さんが選書した奈良や工芸にまつわる100冊が並んでいます。

下段の電光掲示板には、本の一節が時折流れます。どの本のことばか、ゆっくり探してみるのも楽しい時間です。

ライブラリーコーナーのある窓辺は、手績 (う) み手織りの麻生地が光をやわらげます。

(手織り麻ずらり)四季に合わせて色が変わります。春は桃花と紫香
(軒下)窓辺から見える軒下部分。吉野檜でつくられています

この手績み手織りの麻こそ、中川政七商店の商いの原点。お買い物を楽しんだら、この織物に触れ、体感できる「布蔵 (ぬのぐら)」へ行ってみましょう。

来た道を戻って、遊 中川 本店からの小道を左へ折れると‥

布蔵で中川政七商店のルーツ「手績み手織りの麻」のものづくりを体験

江戸時代、武士の裃に重用され江戸幕府の御用達品にも指定された手績 (う) み手織りの高級麻織物「奈良晒」。中川政七商店は1716年、その商いで創業し、以来300余年にわたり、この「手績み手織り麻」のものづくりを守り続けてきました。

布蔵は、本社機能がここにあった頃に、実際に麻生地を保管するために使われてきた蔵です。入口には従業員が出入りするための下足箱が今も残されています。

そんな中川政七商店の「麻」を守ってきた蔵が、鹿猿狐ビルヂングのオープンに伴い、麻のものづくりを体感できる工房にリニューアル。

事前に予約しておけば、麻に関する道具や布、機織り機が展示される蔵の中で、手績み手織り麻の織物がどの様に糸になり、布として織られていくかを学ぶことができます。実際の織り手さんからレクチャーを受けて、織りの体験を行うこともできます。

1疋(約24m)の生地を織るには熟練の織り子さんで10日かかります

体験をされた方には手績み手織り麻のポーチをプレゼント。体験をする前と後では、生地の見え方がガラリと変わっているはずです。

時蔵 これまでの300年とこれからの100年を見据えて

鹿猿狐ビルヂングにはもうひとつの蔵が併設されています。それが時蔵 (ときぐら)。

ここには、中川政七商店の300年分の歴史がアーカイブされています。一見がらんとした蔵の中にどうアーカイブされているかというと、壁一面が創業の1716年から始まる年号別の桐箱になっているのです。

普段は閉ざされている桐箱。中に各年に関わる資料などが大切に保管されている

年号は、創業の1716年から、未来の2137年まで。未来の分も含め400年分以上の桐箱が用意されています。

300年の歴史はどのように繋がり、現在に至ったのか。桐箱の手前では中川政七商店の物語を展示で紐解きながら紹介。

2階に上がると、そこは工芸の未来への展望を感じるような展示スペースに。300周年の際に製作した、新旧の技術を対比させた「二体の鹿」オブジェや、過去から未来へ工芸の変遷を描いたクロニクル屏風が並びます。

創業の地 奈良で工芸を未来へつなぐ。

鹿猿狐ビルヂングの3階には、奈良に魅力的なスモールビジネスを生み出すN.PARK PROJECTの拠点として誕生した、コワーキングスペース「JIRIN」があります。

古きを学び進化し続けてきたこの街で、今の奈良に出会い、今の工芸に触れてもらう。これからの未来を創る。新しい集いの場から、100年先の日本に工芸があることを願って、鹿猿狐ビルヂングも進化を続けていきます。

<店舗情報>
鹿猿狐ビルヂング
奈良県奈良市元林院町22番(近鉄奈良駅より徒歩7分)

手を洗う時間に、佇まいのよい道具を。「美濃焼の詰め替えボトル」

2020年、出かける回数と真逆に圧倒的に増えたのが手洗いの回数でした。ポンプ式のハンドソープやアルコール消毒を使う人も多いかと思います。

「でも市販のボトルはメーカーごとにデザインもまちまちで、洗面台においた時にそこだけ浮いてしまうのが気になっていました」

そう語るのは、今年新たに登場する「美濃焼の詰め替えボトル」を手掛けたデザイナーの岩井美奈さん。

アイテム名の通り、ボトル本体はポンプをハメるくぼみ部分も含めて、全て焼きものでできています。大切にしたのは「佇まいのよさ」だったそうです。

「毎日頻度高く使うものだから、少しでも心穏やかに過ごせるよう、インテリアとしても楽しめるものをつくりたいと思いました」

今日はそんな思いを形にした「美濃焼の詰め替えボトル」のものづくりを探訪します。

うつわのように表情を楽しめるボトルに

岩井さんが「佇まいのよい詰め替えボトル」をつくるにあたって世の中のアイテムを調べてみると、その多くはプラスチック製で、容量もさまざま。デザインも情報を伝えることが優先のものが多く、インテリアとして置きやすいものは少ないことがわかりました。

「私自身、洗剤やハンドソープは詰め替え用を買うことが多いです。ただ見た目や質感まで気に入る容器にはなかなか出会えませんでした。

そこで思いついたのが、焼きもののボトルです」

「これまで私は食器などの企画を手掛けてきて、産地ごとに異なる焼きものの魅力にたくさん出会ってきました。うつわが食卓を引き立てるように、こういう容器もシンプルでいてちょっと揺らぎのある、うつわのような表情のボトルにできないかなと思ったんです。

また、焼きものは重さがある分、中身が減っても安定して使いやすい利点もあります」

こちらはアルコール消毒液・次亜塩素酸水等を入れて使える「美濃焼の詰め替えボトル シャワー用」

焼きもので詰め替えボトルを作る。

言葉にすれば簡単ですが、試作するほど、「世の中にあまりない」理由がわかってきたそうです。

機能と質感の両立を目指して

焼きものは通常、釉薬をかけて焼くことで水分が素地に染み込むのを防ぎ、汁物などを内側に溜めることができます。

その色合いはもちろん、質感もマットなもの、さらり、ツルリ、様々。つくり手はイメージするうつわの機能や表情を目指して、数種類を配合して焼き上げます。

今回岩井さんが選んだのは、均一なきれいさよりも、焼いた表面にわずかな揺らぎを感じさせる釉薬。

「洗面台のように真っ白でツルリと冷たい印象のものよりは、少しアイボリーに近い、温かみや表情のある質感にしたいなと思いました。手を洗う間に、少しでもホッとしてもらえたらいいなと。ただ、そういう釉薬は粘り気があって、溜まるんですよね」

溜まる、とは?

「かけた釉薬が均一に流れずに、例えばポンプをハメる部分の凹凸に溜まってしまうんです。そうすると焼いた後に、ポンプと噛み合わなくなってしまいます」

右側は釉薬が溜まってしまい、ポンプと噛み合わなくなってしまったもの

目指すのは、インテリアとして置きたくなる、佇まいのよいボトル。機能を果たしながら、質感も大切にしたい。

岩井さんが、この難しいチャレンジを共にするパートナーに選んだのが、美濃焼の産地でした。生産量日本一を誇るどんぶりやモザイクタイルをはじめ、多種多様な製品を手掛ける、日本有数の焼きもの産地です。

日本有数の焼きもの産地・美濃焼でつくったうつわ「産地のうつわ きほんの一式」シリーズ

「一番の難関はやはりポンプとのかみ合わせの部分。ここは高度な技術がないとつくれません。幅広いうつわづくりの実績を持つ美濃焼のメーカーさんなら、きっと実現できるんじゃないかと思いました」

美濃焼は、他の多くの焼きもの産地と同じく分業制のものづくりが浸透しています。うつわの型を作る型屋さん、釉薬を配合するメーカーさん、実際に焼き上げる窯元さん、それぞれと共同で試行錯誤が繰り返されました。

「釉薬でいい質感が出ても、ポンプが噛み合わなければ型を微修正。今度はうまくいった、と思っても、ちょっとした釉薬の調合や窯の中での焼き加減で仕上がりにムラが出てしまったり。新しいチャレンジなので、そんな簡単にうまくいくわけもないんですよね」

一進一退の開発の先にようやく、世の中にありそうでなかった焼きものの詰め替えボトルが完成を迎えました。

左から、手洗い石鹼を入れて使える「液体用」「ポンプ用」、アルコール消毒液を入れて使える「シャワー用」。色は「白」「グレー」の2色

ここを褒めて欲しい、というポイントはありますか?と岩井さんに尋ねると、「私はいいです、つくり手のみなさんの技を褒めて欲しい!」と即答。

「今回はコロナの影響で、ほぼ電話だけのやりとりでものづくりをせざるを得ませんでした。それでも、思わしくない焼き上がりになるたび、『もう一回チャレンジしていいですか?』って電話をかけてきてくれるんです」

いつもと勝手の違うものづくりを強いられながら、繰り返し繰り返し、微調整をしてたどりついた「佇まいのよい」詰め替えボトル。

見た目に楽しめるだけでなく、そこには「手を洗う時間が、少しでも心穏やかなものになるように」との願いがたっぷり詰まっています。

<掲載商品>
美濃焼の詰め替えボトル 液体用
美濃焼の詰め替えボトル 泡用
美濃焼の詰め替えボトル シャワー用

文:尾島加奈子

麹に魅せられて。創業120年の老舗蔵「丸秀醤油」の多彩な味噌造りと醤油造り

彼は笑っていた。大きなタンクが並んでいる醤油蔵の中で、嬉しそうに、誇らしそうに。そして愛しそうに。「麹たちが頑張ってくれていると思うと、自然と笑みがこぼれてしまうんです‥‥(笑)」

日本各地を見わたすと、天然醸造を守り続ける味噌蔵や醤油蔵はあるけれど、これほど〝麹〟を育てる技術やノウハウを多彩に保持している蔵はそう、ないだろうと思う。稗(ひえ)や粟(あわ)といった日本の穀物をはじめ、海外からやってきたキヌアまでも麹にして、醤油や味噌を造ってしまうのだから。

麹が違えば、味も、香りも違う

訪れたのは佐賀県佐賀市にある「丸秀醤油」。1901(明治34)年の創業以来、昔ながらの天然醸造を守りつづける老舗蔵だ。丸大豆と小麦を原料に麹を造り、2年間の長きにわたり発酵・熟成させた「自然一醤油」は同店の不動の看板商品だ。

2年熟成の「自然一醤油」には天然醸造ならではの旨味とコク、香りがある

そんな同蔵を2017年に継いで六代目となった秀島健介さん(先ほどタンクの前で満足そうに微笑んでいた方)は、いろんな穀物を麹にしてしまうスペシャリストでもある。麹の可能性を探る「麹ユニバース」という新たな取り組みもスタートさせた。

麹ユニバースとはあらゆる食材を麹化し、素材に新たな価値を見出そうとする取り組みだ。今回紹介する商品もその一貫。ほかにも海苔の麹化に着手し、世界で初めて海藻を原料にした醤油づくりにも成功している。

東京の大学で醸造技術を学び、「丸秀醤油」に入社。実は、入社して麹を育てるまでは「これほど麹に魅せられるとは思っていなかった」という

「そうですね‥‥どんな穀物も麹にできるんじゃないか、とは思います」

麹とは、米や麦、大豆などの穀物を蒸して、麹菌という菌を繁殖させたもの。米に麹菌を繁殖させれば米麹、麦に繁殖させれば麦麹といい、米麹を使った味噌は米味噌、豆麹を使えば豆味噌と称される。

秀島さんが造るものの中には米味噌や麦味噌といったおなじみの味噌がある一方で、キヌア麹味噌や八穀麹味噌といった珍しいものもお目見えする。

中川政七商店のコンサルティングを受けて登場した、ブランドのイメージを反映させたパッケージ

「もちろん味も香りも、麹それぞれ。まったく違いますよ」と秀島さんは嬉しそうにポツリ。嗚呼、いったいどんな味なのか。気になるところだが、その前に。

歴史の荒波が、多彩な麹づくりの原点に

そもそも同蔵が多様な穀物を用いて麹を造るようになったのには理由があった。一見、目新しいことに挑戦していると思われがちかもしれないが、そうではない。着手したのは75年以上も前のことであり、ある意味、自然の成り行きだった。

「はじまりは戦時中のこと。食糧不足だし、配給制だったこともあり、味噌や醤油の原料となる米や大豆がろくに手に入らなかったそうです。そのときに、僕の曾おばあちゃんが手元にあった稗や粟を代替物として麹を造り、それを元に味噌や醤油を造ったのが最初だとされています」

曾祖父は出兵し、一人残された曾祖母は蔵を何とか守ろうと雑穀を利用した。いわば苦肉の策である。そこから多様な穀物を麹にする技術が培われ、同蔵の一つの個性として、脈々と受け継がれることになったのだ。

人間の都合ではなく、麹菌ファースト

もちろん、麹造りは容易なことではない。

たとえば醤油をつくるとき、丸秀醤油では麹に丸大豆と小麦を使用する。蒸した大豆に炒った小麦をまとわせて、麹菌をふりかけたら、3日間かけて麹菌を育てていく。このとき大豆の蒸し方一つ、麹を育てるときの温度や湿度、風量を一つでも間違えれば、元気な麹には決してならないという。

「自然一醤油」のための麹。2日目。触れると生暖かい

大事なのは「麹菌を穀物の芯にまでしっかりと破精込ませることです」。

破精込む=はぜこむとは、麹菌の菌糸が穀物の内部に食い込んだ状態のこと。麹菌が大豆の内側にきちんと伸びてはびこっている状態が良い麹であり、良い麹であればこそ、その後2年間という長きにわたる発酵・熟成を乗りきることができる。いわばおいしい醤油になるための重要なエネルギー源というわけだ。

「同じ大豆であっても収穫時期や水分量、麹をつくるときの気温や湿度などによって、大豆の浸水時間や蒸すときの蒸気圧、蒸し時間を秒単位で微調整する必要がありますし、ほかの穀物を使うのならなおさら。稗なら稗の、粟なら粟の、それぞれに合わせた麹づくりをしなければなりません」

同蔵で麹にしている穀物たち。サイズや粒感、外皮の硬さなどもまったく違う

緻密で繊細。神経をすり減らす作業であるが、秀島さんはそれを「楽しい」と言った。

「目には見えませんが、五感を研ぎ澄ますと、麹菌がどうしてほしいのかが分かるんです。麹の息づかいを感じるというか。喜んでいる声が聞こえるというか(笑)。
たとえば温度を上げたり、湿度を下げたり、そのときその瞬間に麹菌が最も過ごしやすい環境を整えてあげると、麹菌はそれに応えるように成長してくれるんです。

それに麹菌は敏感です。人間の都合で手入れすると、やっぱりどこか違和感のある麹になる。それでも80点くらいの麹はできるけど、僕が目指すのは100点の麹ですから、あくまでも麹の状態に合わせて、僕のスケジュールを組むようにしています」

麹のことを話す秀島さんはこの笑顔

「麹菌がうまく成長したときは匂いからして違うんですよ。ほくほくとして独特の甘い香りがするというか、どこか綿菓子みたいなおいしそうな匂いがするんです」

八穀麹味噌からキヌア麹醤油の味わいたるや

さて、大事に育てられた麹で仕込まれた味噌や醤油の味わいはいかなるものか。

たとえば「八穀麹味噌」。使用しているのは大麦・白米・黒米・赤米・緑米・粟・はと麦・稗の8種類。通常、雑穀味噌というと、ベースの味噌をつくって熟成時に雑穀を混ぜることが一般的だが、もちろん丸秀醤油ではそれぞれの穀物に麹菌を破精込み済みだ。

その味わいたるや「とても複雑(笑)。穀物それぞれの味わいを感じることができますが、8つの旨味や香りが渾然一体となって、非常に深みのある味わいになります」

珍しいのは「キヌア麹味噌」と「キヌア麹醤油」。キヌアといえば栄養豊富なスーパーフードとして今でこそ人気があるが、同社で扱い始めたのは2001年のことだとか。

「キヌアは厳密には穀類ではなく、ほうれん草の仲間です。どこか葉物野菜のような青っぽい香りの持ち主ですから、和風の味噌というよりは洋風の発酵ペーストといったイメージに近いかもしれません。醤油に関しても大豆や小麦を使っていませんからすっきりとして、さらりとした味わいに」。いずれもアレルギー対応の商品としても人気が高い。

さらに八穀麹を応用した「煮物の素」「炒め物の素」は手軽な万能調味料である。

たとえば肉じゃがをつくるとき。「煮物の素」があればほかの調味料は一切不要。それだけで深みのあるまろやかな味わいに。炊き込みご飯や野菜の煮物をつくるときにも活躍するし、冷や奴にそのままのせても、納豆に混ぜてもいい。

また野菜炒めをつくるときには「炒め物の素」を使うだけで味が決まる。ほかにもナムルや卵焼きの調味料に。鶏肉や魚を漬け込んでソテーすれば麹の力で柔らかジューシーな仕上がりになるという。

そして今。

秀島さんがチャレンジしているのはピスタチオやピーナッツ、くるみなどのナッツ類を麹化すること。

「これがなかなか難しくて‥‥」と秀島さんは嬉しそうに笑う。新しい味噌や醤油が生まれるのも、そう遠い日ではないかもしれない。

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<取材協力>
丸秀醤油株式会社

佐賀市高木瀬西6-11-9 ※蔵元直売所「麹庵」併設
0952-30-1141

文:葛山あかね
写真:藤本幸一郎


<掲載商品>

丸秀醤油 八穀麹 炒め物の素

丸秀醤油 八穀麹 煮物の素

今日も、10年後も、好きと思えるもの。「政七紋」が目指す工芸の姿

はじめて手にとった日も、10年後も、変わらず好きと思えるものってなんだろう。

身に付けると少しワクワクして、つい手が伸びるもの。

シンプルでいて、飽きのこないデザイン。

時を重ねても、古びないもの。

そんな、暮らしにそっと馴染んで、ずっと色あせないものを目指して、この春に「政七紋(まさしちもん)」シリーズがデビューします。

一見シンプルな格子柄のようですが、よく見ると角がゆるやかにカーブして、「七」の字が連なっていることがわかります。また、つないで見れば工芸の「工」の字も浮かび上がってきます。

これを、和紙で表現したらどうなるだろう。
注染で麻に染めれないか?
洋服やバッグに取り入れたら、どんなデザインになるだろうか。

多岐にわたるアイテムは、ひとつの文様とさまざまな技術を交差させて「今の暮らしに生きる工芸とは?」を考えた、盛大な実験の成果でもあります。

全国の職人たちと膝を突き合わせて生み出した、政七紋シリーズのアイテムいくつかをご紹介します。

【浮き紙】手漉き浮き紙缶

「政七紋は昔から人々に愛されてきた格子柄を基調にしています。そこに最新の技法を掛け合わせることで、今の工芸を体現するような、シンボリックな柄にしたいと思いました」

政七紋を生み出したデザイナーの榎本さんは、この文様を通して、今だからこそできる、新しい技法や表現のチャレンジをしたいと考えていました。

そこでまず注目したのが和紙。

白羽の矢を当てたのは、越前和紙メーカー山次(やまつぎ)製紙所の「浮き紙」という技術です。

表面にはっきりとした凹凸がつき、柄が浮かんで見えることからその名のついた「浮き紙」は、山次さんが独自に開発した和紙の加工法。

「格子柄は、染めものなど平面的に表現されることの多かった文様です。これを立体的に表現できるのは面白いですし、和紙そのものの魅力も伝えられると考えました。

山次さんは和紙を今の時代にどう活かそうかといろいろな挑戦を続けてこられたつくり手さんなので、ぜひお声がけしたいと思ったんです」

こうして「七」「工」の連続が浮かび上がる手漉き和紙缶が誕生しました。

【注染】手織り麻の注染のれん

「ぜったい無理」

政七紋を染め抜いた手織り麻の注染のれんは、職人さんのそんな一言からものづくりが始まったそうです。

「注染の染めって、従来は木綿の生地にするのが当たり前だったんです。木綿は素直で染まりやすいから。でも、会社名を冠した政七紋を染めるなら、やはり手織り麻の生地がいいと思いました」

なぜこれまで麻生地で染めた手ぬぐいがなかったのか。それは麻生地に顔を近づけてみるとよくわかります。

「麻生地って目が粗いんです。繊維自体に節や凹凸があるので、均一に強い力をかけて高密度に織るのが難しい。その分、ざっくりとした風合いや独特のシャリ感があります」

麻の商いで創業した中川政七商店。政七紋と名乗るなら、やはり麻生地を染めたい。一方、手ぬぐいの代表的な技法である「注染(ちゅうせん)」は、生地を重ねて糊で色を差し分け、裏表を一気に染めあげます。

生地に張りがあって染まりにくく、目の粗い麻生地は全くの不向きと思われました。

「そこをなんとか頼み込んで、引き受けてもらいました(笑)。うまく行けば、他にない風合いの注染が生み出せる。小松さんなら、面白がってなんとかしてくれるんじゃないかなと思ったんです」

この難題を引き受けることになったのが、注染の一大産地、大阪・堺にある協和染晒工場の小松さん。

長年中川政七商店の手ぬぐいを手掛ける腕利きの職人さんは、「ぜったい無理」と断った数ヶ月後、確かに榎本さんの信じた通り、「できたで」ときれいに染め上がった麻生地を送ってきてくれました。

【オパール加工 】プルオーバー

こちらも、一緒に難題を引き受けてくれる職人さんがいてこそ実現したアイテムです。

「一見真っ直ぐな線なんだけど、微妙に揺らぎがある。このやわらかさをどうやって伝えようか」

榎本さんが生み出した政七紋を見て、ファッションアイテムを担当するデザイナーの河田さんはそう思案しました。

「シンプルな分、伝え方を一歩間違えれば普通のデザインになってしまう。何か引っ掛かりを作らなければ」

思い当たったのが、「オパール加工」の採用でした。繊維を部分的に溶かして生地に透かし模様をつける加工方法です。

「透かしのない生地と重ねれば、服に立体的に模様が浮かび上がります。切り替えシャツでは生地を二枚合わせにして、文字の部分にオパール加工を施し、政七紋が浮かび上がるようにしました」

「単純な柄ほど表現が難しいなと思います。どこに、どれくらいの面積で政七紋を入れるか。中川政七商店を象徴する柄になって欲しいので、控えめすぎてもいけないし、あまり目立ちすぎてもうるさくなってしまう」

完成するまでに試作した回数は10回を超えたそう。

「そういう根気のいるやりとりに付き合ってくれる職人さんがいてこそ、アイデアがかたちになります。簡単につくれるものなんてひとつもないですね。つくり手である染コモリさんとの関係性があって、ものづくりが成立しているなと改めて感じたアイテムでした」

【型押し】 ミニポーチ、ミニポシェット

バッグを任された野本さんは、河田さんの手掛けた政七紋の服を見て「それならバッグはこれでいこう」とものづくりのアイデアを固めていきました。

「オパール加工を施した服は、格子柄という伝統的な文様を生かしながら、他にない新しさがあります。合わせるバッグもクラシックに寄るのでなく、新しいデザインにも寄り添えるものにしたいと思いました」

選んだのは型押しという技法。最新の技術であるオパール加工とは対照的に、昔からある革の加工方法です。
一緒に取り組んでいただいたのは神戸ヤマヨシさん。

「厚紙の型を押して文字の周りを凹ませて、格子模様を浮かび上がらせます。技法自体は古典的なものですが、服や他の政七紋アイテムとも共通する少し揺らぎのある感じを出すには、この方法が一番いいだろうと考えました。

画一的でない工芸らしさを感じてもらうために、型も部署のメンバーでひとつひとつ手作業で抜いているんですよ」

時代を超えて愛されるもの

新しい挑戦のあるもの。

どこか手触りを感じるもの。

揺らぎややわらかさ。

各アイテムから見出された「今の暮らしに生きる工芸」のあり方は多様ですが、その振れ幅や余白こそ、あらゆる素材、技術を取り入れながら人の手で受け継がれてきた工芸らしさなのかもしれません。

政七紋シリーズはこれからも「今の暮らしに生きる工芸とは?」を問い続け、その答えも更新しながら、ものづくりを続けていきます。

<掲載商品>
政七紋

実は通年楽しめる。進化する「麻」の魅力12ヶ月

中川政七商店の歩みは江戸時代、「麻」の商いからはじまりました。

麻といえば、夏のイメージ?

いえいえ、実は冬のコートに、肌に心地よいインナーにと、通年楽しめる素材なんです。

300年、麻とともに歩んできた私たちだからこそ、伝えられる楽しみ方があるはず。そんな思いから、毎月違う麻の服を提案する「中川政七商店の麻」シリーズが誕生しました。

麻好きの人にもビギナーの人にもおすすめしたい、進化を遂げる麻の魅力とは。

四季折々のアイテムとともにご紹介します。

12ヶ月、毎月違う「麻」を提案する理由

「普段私たちが着ている服の多くが綿です。確かに使いやすくて、一年中活躍する素材です。

逆に言えば、いつも綿に慣れている分、麻って新鮮な着心地なんですね。世の中に流通している服も綿に比べれば圧倒的に少ない。

麻で創業した中川政七商店から麻の魅力をもっとお届けできれば、お客さんにとっても新しい体験になるのではないかと考えました」

中川政七商店の麻シリーズを立ち上げた商品課の中野さんは、企画のきっかけをそう振り返ります。

では、1年を通してどう魅力を伝えていくのか?麻には世の中に知って欲しい、4つの姿がある、と考えたそうです。

一、麻は通年楽しめる。四季折々の表情
二、進化する技術から生まれた、希少な生地
三、異素材との組合せで、新たな質感に
四、300年中川政七商店が守ってきた「手績み手織り麻」の魅力

この4つの提案を中野さんと共に練り上げ、一緒にシリーズを構想したのがデザイナーの河田さん。中川政七商店の麻シリーズのアイテムを手がけています。

「ただ毎月デザインの違う麻の服を提案するのではなく、異なる切り口の提案を季節ごとに掛け合わせて、12ヶ月を展開しようと考えました。

そうすれば麻好きの人は毎月いろいろなバリエーションを楽しめますし、麻のビギナーの人も様々な麻の表情を知って、手に取りやすくなるのではないかと。広く深く麻の魅力を伝えられるように組み立てていきました」

河田さんがまず取り組んだのが、四季それぞれの麻の魅力を伝えるアイテムの開発です。

一、麻は通年楽しめる。四季折々の表情を夏のワンピースで、冬のコートで。

  • 真夏にぴったりの「かや織でつくった服」

奈良の特産であるかや織 。目の粗さを生かして、風通し良くふんわりとした着心地を楽しめるように仕立てたのが「かや織でつくった服」シリーズです。

「かや織は真夏にぴったりの素材です。目がざっくりしているので洗濯してもあっという間に乾きます。手で絞って乾かすとシワ感が出ますし、アイロンをかければきちっとふんわり。二通りの楽しみ方ができるのも魅力です」

「一方で、目の粗い生地は縫っているときに歪みやすく、かや織は縫製に高い技術を要する素材でもあります。

中川政七商店の代名詞とも言える『花ふきん』もかや織ですが、ふきんの素材より密度をつめることで、縫製の問題も解決しながら、服として心地よく着られるように工夫しました」

  • 冬に麻の風合いを楽しむ「麻ウールのあったか綿入れコート」

夏には夏らしい麻の提案をする一方で、「麻といえば夏」のイメージを覆したのが、この「麻ウールのあったか」シリーズ。

しっかりと防寒しながら、カジュアルすぎない麻のアウターをつくりたいという想いから生まれました。

ロングコートとジャケットがあり、どちらも麻の自然な風合いとウールのあたたかみを兼ね備えた、他にない表情が魅力です。

「冬に着る麻の風合いに触れて欲しいという気持ちでつくりました。

染めから乾燥まで、ゆっくり時間をかけて仕上げているので麻ならではのシワ感が独特な表情です」

「機能面では、麻だからできる心地よい暖かさを追究しました。

寒い冬でも、人間の体は常に汗をかきます。麻は吸放湿性に優れている素材なので、着込んだときにも余分な熱がこもらない状態を保ってくれるんです。その特性を生かしたいと、麻を75%とたっぷり混紡したウール麻の生地でつくりました。

生地に圧力をかけない仕上げで、ふっくらした暖かさとボリューム感を出しています。それでいて、麻独特の表面の細かなタテ皺が全体をスッキリ見せてくれます。

着膨れ感なく、軽やかに暖かく着られるのは麻ならではですね」

二、進化する技術から生まれた、希少な麻100%インナー

凹凸のある麻の繊維は、もともと加工が難しい素材です。しかし時代を追うごとにその技術も進化を続け、この時期だけ織れる、この企業なら加工できる、など希少で優れた麻生地も開発されてきました。

そんな最新の技術を生かして誕生したのが、中川政七商店発のインナーブランド「更麻 (さらさ)」。

上質な麻糸の繊維に特殊加工を施すことで、麻本来のさらりとした質感と、従来にないやわらかさを兼ね備えた、麻100%のインナーが実現しました。

決まった気候条件でしか編めない繊細な麻生地が、1年を通して「気持ちいい肌」を保ちます。

「麻ってハリのあるイメージがありますが、この麻生地は繊維に特殊な加工をすることで、やわらかな肌触りを実現することができました。

麻本来の優れた吸放湿性を発揮して、夏はさらっと、冬は必要な温度を逃さず、一年を通して呼吸するように『ちょうどいい肌』を保ってくれます」

また、アトピーに悩むお子さんのために更麻を買われた方から、チクチクせず着心地が良かったとのお声もいただき、嬉しい驚きでした。 化繊が肌に合わないという方にも、ぜひ試していただきたいですね」

シリーズはキャミソール、ショーツ、半袖、長袖、レース仕様のものとバリエーションが増加中。今年の秋には、今まで技術的に実現が難しかった黒色が改良を重ねて登場します。

「麻ならではの質感や着心地を実感してもらえたら嬉しいです」

三、異素材との組合せで、新たな質感に。梅雨も楽しむ「麻の紙布」

素材の力や表情は、組み合わせることでさらに広がります。

この6月に登場するのが、麻と和紙の組合せにチャレンジした「麻の紙布」シリーズです。

6月に発売予定の「麻の紙布 かさねブラウス 白」。色は白の他、薄墨、墨の3色。
こちらは「麻の紙布 かさねスカート 墨」。

「ジメジメ、ベタベタと『憂鬱』のイメージがつきまとう梅雨を、麻を使ってちょっとでも楽しみに変えられないか?という発想から、和紙と麻の組合せでできることを考えました。

和紙も麻と同じく調湿機能に優れていて、とても軽い素材。日本人は古くからその機能を生かして、細く裂いた和紙繊維に撚りをかけて糸状にし、「紙布」を織ってきました。

この紙布にヒントを得て、たて糸に麻糸、よこ糸に和紙糸を使って織り上げたのが麻の紙布です」

「形も遊びのあるものにしたいと思って、和紙の紙っぽい直線的なイメージを生かし、薄い生地を何枚も重ねたパターンをつくりました」

「無地ですが、生地の重なった部分に陰影が生まれて、ちょっと面白い表情になるんです。左右非対称のデザインなので服に動きが出て、着心地も見た目も軽やかです」

四、300年中川政七商店が守ってきた「手績み手織り麻」の魅力

麻を楽しむ4つの提案、最後のひとつは、中川政七商店が創業以来守ってきた「手績 (う) み手織り麻」の魅力を生かしたアイテム。

1疋(約24m)の生地を織るのに熟練の織り子さんで10日かかる手績み手織り麻は、西洋で主流のやわらかいリネンに対して、硬くて張りがあり、独特の光沢感が特徴です。

中川政七商店は江戸中期の1716年、幕府御用達にもなった上質な手績み手織り麻「奈良晒」の商いで創業します。

僧侶の法衣や武士の裃、茶事の茶巾としても愛用されていた織物は、時代が変わり武士という最大の需要を失うと衰退の危機に。しかし中川政七商店では、新商品開発や工場新設などで難局を乗り切り、その技術を絶やさず守り続けてきました。

300年守ってきたものづくりを生かし、「中川政七商店の麻」を象徴するアイテムとして誕生したのが、「手織り麻を使ったフリルシャツ」です。

「これまではのれんなど和のものに用いられることの多かった手績み手織り麻ですが、服として生かす時に、今の暮らしの中にどう馴染んで存在させるかを考えました。

一番の魅力は、人の手で織られていればこその温かみや存在感です。

これをシンプルなシャツにあしらえば、きっと『あれ、この生地なんだろう』という引っ掛かりが生まれるはず。

単に生地として使うのではなく象徴的な使い方をしたいと思い、フリルやタックとして服に生かしてみました」

もともと硬い生地を洋服用に柔らかく加工するなど、技術的にも新しいチャレンジをしたフリルシャツ。

今の暮らしの中に手績み手織り麻を生かす、新たな一歩となりました。

「麻には麻の良さ」を暮らしの中へ

4つの切り口を生かしながら、中川政七商店の麻シリーズは毎月アイテムを増やし続けています。

「普段着だけでなく、セミフォーマルに使える洋服もつくっています。オンにもオフにも、日々の様々なシーンで他の素材とはまた違う、麻ならではの良さを楽しんでもらえたら嬉しいです」

300年の歴史の上に立ちながら今の技術を生かし、麻を、明日着ていきたくなる服に仕立てる。

麻とともに歩んできた私たちの使命として、これからも進化する麻の魅力を発信します。


<掲載商品>

かや織の羽織り
麻の紙布 かさねブラウス
更麻 キャミソール レース
麻の紙布 かさねスカート
手織り麻を使ったフリルシャツ