夏の盛りにそなえて。日本の夏を楽しむ暮らしの道具たち

今年も、夏至がやってきました。
例年通り梅雨の最中ではありますが、今日はこれから来たる夏の盛りを予感させるような晴れ間が広がっています。

夏の暑さを思うと少し気が滅入ってしまいますが、同時に夏の風物詩を思うと心が弾みます。風に鳴る風鈴の涼やかな音色や、夕涼みに浮かぶ線香花火のささやかな灯火。

今日は、日本の夏を楽しむ暮らしの道具たちを紹介します。

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この夏は、涼しげな信楽焼の「線香鉢」を窓際に

夏と言えば、暑さと並んで油断ならないのが、蚊との攻防。
様々な虫除けが開発されていますが、煙をくゆらせる夏の景色を見たくて、我が家ではなんだかんだ蚊取り線香を好んで使っています。

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夏には夏の香りでリフレッシュしてみませんか

好きな香りは心地よく、気持ちをやわらげてくれます。
季節によって食べたいものが変わるように、香りも季節によって変えたいものです。
線香づくり日本一の淡路島の職人がつくる、夏にふさわしい線香でリフレッシュしてみませんか。

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自分好みの音色がわかる、中川政七商店の「風鈴」音くらべ

夏の季語でもある風鈴。
窓を開け、さぁっと入ってくる風に鳴る音が、一時の安らぎをくれます。風鈴は形や材質によって、奏でる音がまちまち。
部屋をお気に入りの音楽で満たすように、風鈴も自分好みの音色を選んでみると、ちいさな安らぎを楽しめる瞬間がふえるかもしれません。

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伝統的な製法でつくられる、日本の手花火で夏を満喫する

日本には、伝統的な夏の行事や風物詩がたくさんありますが、その中でも夏を感じるイベントと言えば、花火ではないでしょうか。
この夏は、伝統的な製法を守る花火職人がつくる「日本の手花火」で夏を満喫してみませんか。

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夏の夜をゆったり楽しむ、和ろうそく

夏至と言えば、短夜。国や地域を超えて、キャンドルナイトが開催される時期ですね。
短いからこそ大切の過ごしたい夏の夜。明かりを灯してゆったりと過ごしてみませんか。

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夏のお出かけの必需品、ミントスプレー

清涼感を与えてくれるミントスプレーは、夏のお出かけの必需品。
腕の内側にかければ、真夏の汗ばむ日中も爽やかな気分に変えてくれます。

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四季のある日本の繊細なうつろいを教えてくれる二十四節気。
自然のリズムを取り入れることで、暮らしに新たなたのしみを発見できるかもしれません。

それでは、次回もお楽しみに。

隈研吾と中川政七商店が考える、建築と工芸の新しい関係

毎日の暮らしは様々なものでできています。

衣服や、ありとあらゆる日用品、食事、そして住まい。

「どうしたら人は心地よく暮らせるか?」を建築の視点から問い続けてきたひとりの建築家と、工芸の視点から向き合ってきたメーカーが出会い、建築と工芸がひとつになるものづくりを、はじめます。

その名も「Kuma to Shika」プロジェクト。

「Kuma」は、その土地の環境や文化に溶けこみ、素材を大切にする、建築家・隈研吾。
「Shika」は、日本各地の素材・技術・風習を活かしたものづくりをする、中川政七商店。

両者が同じ志のもと、建築の発想や素材から生まれる「今の工芸」を提案します。

プロジェクトが進む中で、隈さんはこんなメッセージを発信しました。

「建築デザインというのは建物のデザインのことではないと最近考える様になった。
建築デザインとは生活のデザインでなければならない。
今の建築をめぐる状況は、高度成長下の建築をつくればよい、
大きく高くつくればよいという状況とは全く対照的である。
作ることが目標ではなく、そこでいかに暮らすかを考えることが建築家の目標となったのである。

工芸は暮らしに最も近い。
工芸を変えることで僕は暮らしてについて考え提案したい。
今の工芸を追求する中川政七商店とそんなことを一緒に考えたい。」

建築家の仕事の定義そのものを大きく変えてしまうようなプロジェクトのきっかけは、2011年の東日本大震災に遡ります。

はじまりは東北から

「私たちは、建物をつくる現場や地域に何度も通います。そこで触れた土地のらしさを建築に取り入れたり、設計を進める中で地域の人たちと広く関わっていくことをよしとしている設計事務所ですね」

Kuma to Shikaプロジェクト担当のひとり、隈研吾建築都市設計事務所(以下、隈建築事務所)の宮澤一彦さんは、土地との関わりを誰より楽しみにしている隈さんその人を「好奇心の人だし、ここは好奇心の事務所」と語ります。

それだけ地域とのつながりを大切に設計を続けてきたからこそ、2011年の東日本大震災は、隈さんや宮澤さんら事務所メンバーにとってショックの大きいものでした。

「付き合いのある東北の職人さんたちが被災されて、何かできることがないかと考えました。

そこで立ち上げたのが、東北のものづくりを応援する『East Japan Project(EJP)』です」

East Japan Projectで生み出されたプロダクトのひとつ「NARUCO Kokeshi Bottle Cap」

知り合いのデザイナー数人に声をかけ、地元の職人たちと共にオリジナルアイテムを開発し、特設サイトで販売。しかし、課題も見えてきました。

「私たちには小売業の知識がありません。例えば原価計算をどうやってするか、数をいくつつくるかなど未知なことだらけでした。きちんと利益を出してつくり手に循環していくようなサイクルをどうやったら生み出せるか、手探りが続きました」

模索しながら、プロジェクトは9年間継続。その間に、希望を感じる出来事がありました。

建築事務所が「もの」づくりに携わる意義

「他の案件で手掛けた福祉施設で、地域ゆかりのメーカーさんと施設利用者の方が協業して、オリジナルのプロダクトをつくって販売しようという話が持ち上がったんです。

私たちは設計のプロセスで土地の特徴的な素材や技術にたくさん出会い、建築にも取り入れますが、一度建物が竣工すると、その先に活かす方法を持っていません。

結局そのプロダクトは販売にこぎつけることができなかったのですが、こうした『もの』があれば、竣工した後も建築と地域との関係性は続いていくのだと改めて気づきました」

土地土地の素材や人、技術の素晴らしさは誰よりも知っている。あとは、それを「もの」に変換してきちんと流通させることができればーー。

「建築とものづくりで、東北に限らずお世話になってきた全国各地を元気にすることができるかもしれない」

改めて建築事務所が「もの」づくりに携わる意義を見出したところで、隈建築事務所と中川政七商店は出会いました。

隈建築事務所からは、建築の発想や土地土地の素材を。

中川政七商店からは、素材やアイデアを暮らしの道具に変換するノウハウと流通の仕組みを。

お互いの得意を持ち寄り、ものづくりの対象を東北から全国に拡げ、建築の発想や素材から生まれる「暮らしの道具」が少しずつかたちになっていきました。

デビューするのは6種のアイテム

「素材集めは事務所内のデザイナーを集めて、3つのチームに分かれて行いました。子育て中のお母さんチーム、デジタルに強いチーム、素材の専門家チームです。

建築の現場には本当に様々な素材が転がっているので、できるだけ多様な視点で『こんなの使えそうかな?』を探していきました」

ものづくりのプロセスを明かすのはkuma to shika もうひとりのプロジェクト担当、堀木俊さんです。

今回デビューした6種のアイテムには、建築ならではの素材やアイデアが詰まっています。

丈夫さと透け感を活かした「飛散防止シートのバッグ・ポーチ」

ひとつめは、建築現場で建物の養生に使われる飛散防止用のメッシュシートを使用した、大きな折り目が印象的なトートバッグ。

建築現場で使用されている様子

「お母さんデザイナーチームにファブリックといえばこの人、という布の専門家がいて、彼女から上がってきたのが飛散防止シートです。建築現場では本当によく使われる素材で、その丈夫さや透明感がバッグやポーチに向いているのでは、とアイデアが生まれました」

耐荷重はバッグ中が15kg、大が45kgと業務用素材ならではの丈夫さですが、折りたためばコンパクトに持ち運びでき、広げればたっぷりと荷物が入ります。

ファブリックのプロとして、お母さんとして、両方の視点が生かされています。

同じシリーズのフラットポーチは、飛散防止用のメッシュシートと、奈良の特産品である蚊帳(かや)に使われる目の粗い薄織物「かや織」をビニールコーティングした生地が使われています。メッシュシートの透明感が生かされ、中のものが一目でわかる仕様です。

建築現場らしい草木を活用。「植物で染めた花ふきん・ハンカチ」

「ボタニカル・ダイ」という、植物を使った特殊な染色技法によって染めたふきんとかや織ガーゼハンカチ。染料には草木染めでは珍しい、クマザサとスギが用いられています。

「スギは全国どこでも使われている、とてもメジャーな建材ですし、クマザサも建物の周りに植えたり、私たちには身近な素材です。使い込んでいく中での色合いの変化も楽しんでもらえそう、という生活視点から素材候補に挙がりました」

家が<クマナイズ>される「組み木の飾り棚」

建築の「構造」を生かしたのがこのオブジェのような飾り棚。3D設計を行うデジタルチームからのアイデアだったそうです。

木材を組み上げる組子の手法のひとつ、地獄組。サニーヒルズジャパンの建物全体が地獄組で覆われている。

「日本の木造建築は組木の技法を構造部分はもちろん、建具など装飾部分へも使用することで木という自然素材を面の空間づくりへと昇華させてきました。

その組木の技法を幾何学的なデザインに生かした飾り棚です。ネジを使わず、単純な台形のパーツを組み合わせるだけでだけで面白い表情の棚が立ち現れます。付属のフックで壁にかけて浮かせたり複数の棚を連続させることで複雑な表面起伏を持った壁面を作ることができます。

2個3個と並べて使うと連続性が出て美しさが増します。隈建築事務所の設計の目線が生かされているので、飾ると家がクマナイズされるんじゃないでしょうか(笑)」

複数連続させることで意外な表面起伏の棚が立ち現れる。

まさに建築工芸品。「タイルのマグネット」

建物の外壁や内壁で使用される美濃焼タイルを採用したマグネット。

「建築のパーツを、買って帰れるというこのプロジェクトの醍醐味が詰まったアイテムだなと感じます。タイルはまさに建築工芸品ですね」

表面の荒さも設計された「和紙の折りタペストリー」

手漉きで和紙の中に木チップを漉き込んだタペストリー。部屋の和洋問わずオブジェのように飾れます。紙にランダムに配置された荒々しい木チップは、まるで紙が原料の木に戻ったかのような印象です。

「木チップは吉野ひのきです。私たちは内装材を検討するときに、表面をどれくらいの粗さにするかに気を配ります。周囲の環境に対して、どのような素材をどのくらいの粗さやピッチで用いるか。素材の使い方によって生まれる空間のリズムや表情にこだわり建築を設計しています。」

森の中にある梼原町の「雲の上の図書館 / YURURIゆすはら」。
Photo : Kawasumi Kobayashi Kenji Photograph Office

「例えば梼原町の図書館は、森の中に位置していてまわりが木で囲まれているので、外装材のピッチを粗くつくりました。逆に都会で周りにガラスが多いような環境なら、細かいピッチにしたりすることで、環境に合わせて調整しています。

今回は建築と違い持ち帰った場所によって置く環境が異なるので、家庭内に置くときに違和感のない粗さを意識して企画しました。」

建築的な視点が生きた「銅のはつり折敷」

板の表面に道具の痕跡を残し味わいとみなす技法を「なぐり」といい、江戸時代頃まで建材用の木材加工には欠かせない技術でした。このなぐり加工を写し取り、極薄の銅板に施すことで構造的な強度と意匠性を持たせたのがこの折敷。

飾り板として置くものを引き立てる使い方がおすすめです。

「これは素材の専門家チームから出てきたアイデアです。薄暗い環境の中に置いたときに、素材の表面の揺らめきが見えてきます。建物内外の明るさも織り込んで設計を考える、建築的な視点が再現されています」

ものの見方を揺さぶる、建築的暮らしの道具

こうして建築的な視点と、暮らしの中での見え方・あり方を行き来しながら生み出されたKuma to Shika シリーズ。担当するメンバー達にも新鮮な発見があったそうです。

プロジェクトメンバーが素材やアイデアを持ち寄りMTGする様子

「建築はどんな環境にその建物があるか、わかっていることが大前提で設計が進みますが、暮らしの中のアイテムって、どんな環境で使われるかが見えない状態で相手に手渡すんですよね。これは建築の現場にはない感覚です。

でも一方で、単に設計図で当てはめておしまいでなく、それを受容する人間の体で心地よいかどうかを探求する感じは、建築も工芸も通じるものがあると感じました。目で見て、肌で触れた時の質感を楽しんでもらいたいです」(宮澤さん)

「今回手がけたアイテムはどれも、単に『使える道具』としてではなく、その背景にある土地や素材のストーリーを通じて、ものの見方を揺さぶっていくことを目指して作っています。

アイテムの発売は事務局の他のメンバーにも新鮮に映るはずです。『建築の仕事』の定義そのものも揺さぶっていけたら面白いですね」(堀木さん)

「普段我々が建築の現場で目にする素材を、スケールや解像度を変化させてプロダクトをつくってみました。
プロジェクト当初は建てられた建築をハブとして新しい経済活動が生まれてくることを意識していましたが、これからは色々なメディアを通して人間の生活というものに肉薄したいと思います。」(隈さん)

工芸も建築も揺るがす、Kuma to Shika の物語がいよいよはじまります。

6月18日(金)より、中川政七商店オンラインショップ・一部直営店舗、
東京国立近代美術館「隈研吾展」(6月18日~9月26日)にて販売開始。
中川政七商店 渋谷店では、その開発の過程の資料や素材を公開する企画展『隈研吾と考える、建築と工芸』展を開催。

文:尾島可奈子

日本のいいものが集う合同展示会「大日本市」のご案内

全国のバイヤーの皆さまへ展示会のご案内です。

中川政七商店が主催する、工芸を中心としたものづくりメーカー(工芸・食品・化粧品等)が集う合同展示会「大日本市」のご案内です。

2021年6月23日~25日にWHAT CAFE/E Hall(東京・天王洲アイル駅)での開催を予定しています。
過去最大65ブランドの“日本のいいもの”が集結します。

会期中は、ものづくりへの造詣が深い人々を「カタリベ」と命名し、「sio」オーナーシェフ鳥羽周作氏やスープ作家有賀薫氏など6名の専門家、また一般消費者による出展商品レビューを、展示会場およびオンラインでお届けする企画も用意。
また目利きのプロによるレビュー企画「登竜門」や、出展商品の一部を一般消費者も購入できるオンライン企画「推しの逸品」など、展示会の枠を超えた新たな取り組みを実施します。
個性豊かなつくり手たちとの出会いに、ご期待ください。

第7回 合同展示会「大日本市」

【開催日】2021年6月23日(水)~6月25日(金)
【時間】10:00~18:00(最終日のみ15:00まで)
【会場】E HALL(東京都品川区東品川2-1-3)/WHATCAFE(東京都品川区東品川2-1-11)
【出展】65ブランド(+商品展示のみ12ブランド)
衣服/バッグ/帽子/アクセサリー/調理道具/食器/文具/食品など
【来場対象】小売店バイヤー/メディア関係者/ものづくりに関するプロデューサー・デザイナー/出商業デベロッパー/出展検討中のメーカー
【主催】株式会社中川政七商店
【公式サイト】https://dainipponichi.jp/shop/pages/exhibitions202105.aspx


中川政七商店のもうひとつの顔。「工芸メーカーの再生支援」をする理由

中川政七商店には、いくつかの「顔」があります。

一番の柱は、工芸をベースにした生活雑貨メーカーとしての顔。もうひとつ、最近知っていただく機会が増えたのが、「工芸の再生支援をしている会社」の顔です。

「いちメーカーが、なぜ他メーカーの再生支援を?」

その理由は、日本の工芸メーカーをとりまく、決して明るくない状況にあります。今回は中川政七商店の「もうひとつの顔」、再生支援のお話です。

「もう、会社を畳みます。」きっかけはそんな挨拶でした

「もう会社を畳みます」

そんな廃業の挨拶が、年に何件もあったと13代中川政七は振り返ります。工芸は分業制。例えば焼きものをつくるのにも、粘土屋、絵の具屋、型屋、生地屋、窯元…などさまざまな人々の手で支えられています。全国800のつくり手とともに商品開発をする中川政七商店にとって、彼らの廃業は死活問題です。

「このままでは、うちのものづくりもできなくなる」

そんな危機感から2009年、工芸の再生支援をはじめました。

中川政七商店もかつて経営危機に直面し、ブランディングによって再生した経験があります。そのノウハウを生かせば、同じような会社を救えるかもしれない。日本の工芸をこれ以上衰退させたくない。そうした想いが使命感となって、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンのもと、工芸の再生支援プロジェクトが動き出しました。

旗印は、「日本の工芸を元気にする!」

この時、再生支援に一番に手をあげたのが、後にオリジナルブランド「HASAMI」が大ヒットする、長崎県波佐見町の焼きものメーカー、マルヒロでした。

長崎県波佐見町は、長く有田の下請け産地としてものづくりをしてきた町です。しかし生産地表記の厳密化の波を受けて「波佐見焼」と名乗りはじめると、売り上げが激減。マルヒロも、借金が売上の1.5倍という倒産寸前の状況でした。

再生支援に取り組む期間は約2年。その間に何度も現地に足を運び、決算書の見方から商品設計、年間の製造計画まで自社のノウハウを共有し、一緒にブランドづくりと商品開発を行っていきます。最後には中川政七商店が主催する合同展示会「大日本市」への出展など、流通もサポートします。

2009年、マルヒロとの様子

マルヒロのケースでも、商品開発だけでなく、売上データの管理から梱包の仕方、展示会での商品説明のコツまで、ひとつひとつどうあるべきか、に向き合っていきました。

産地をけん引する一番星に

こうして2010年、マルヒロからオリジナルブランド「HASAMI」がデビュー。ブランド名は「波佐見」という産地を背負う覚悟と、焼きものに釉薬(ゆうやく)をかけるための道具「釉薬バサミ」を掛け合わせたネーミングです。

メインアイテムであるマグカップは、その無骨で愛らしい見た目と、スタッキングできる機能性が受け、大手セレクトショップでの取り扱いや、雑誌への掲載と、一躍「HASAMI」の名が全国に知られるようになっていきます。その後もカルチャー色の強い陶磁器ブランドとして成長し、今では全国の小売店約700店で取り扱われるという、全国の窯元が憧れる存在に。

マルヒロのファクトリーショップ

この「HASAMI」のヒットを契機に、マルヒロは経営を少しずつ立て直し、 2015年にはファクトリーショップをリニューアル。2016年には周辺4町を巻き込んだイベント「ぐるぐる肥前」を成功させるなど、近年の波佐見焼大躍進の立役者となりました。波佐見の町にも、カフェや雑貨店が増え、泊まりがけで訪れる旅行者も多く見られるようになるなど、嬉しい変化が生まれています。

大切なノウハウを他社に共有する理由

時おり、「なぜ、自分たちの大切なノウハウを他メーカーに共有するのか?」と聞かれますが、この取り組みを通して日本各地の工芸がより輝けば、使い手にとっても、魅力的な暮らしの道具が増えることになります。工芸の使い手が増えれば、つくり手も潤います。そうして全国のつくり手が元気になれば、私たちも、ものづくりを続けていくことができるのです。

展示会「大日本市」の様子。つくり手がバイヤーに直接商品の魅力をプレゼンする

現在、工芸の再生支援は新潟三条の包丁、兵庫県豊岡のかばん、大阪和泉のカーペットなど、50を数えるまでになりました。「大日本市」ではデビューを果たしたブランドのつくり手が集い、生き生きとバイヤーさんに自分たちのものづくりの魅力を語っています。

中川政七商店の店頭やオンラインショップにも、こうして生まれた全国のアイテムが自社アイテムと共に並び、日本の工芸の魅力を発信しています。

全国には300の工芸産地があると言われます。その全ての火を絶やさず、生き生きと輝く未来を目指して、私たちは歩みを止めず、「日本の工芸を元気にする!」取り組みを続けていきます。

【季節のしつらい便】部屋を飾る感覚で由来も学べる七夕飾り

我が家では、子どもと手拭いや手づくりの飾りで部屋を飾り付け、季節を楽しんでいます。
最近では、梅雨入りにあわせかたつむりをつくって飾ったばかりでしたが、4歳の娘の心は早くも次へ。
「次は何つくる?夏は何つくったらいいかな?」「その前に七夕あるよ」という会話から、七夕についてたずねると、「折り紙で飾りをつくって笹につけること」。
どうして飾るかとの問いには「お部屋をかわいくするため!」(笑)。

それも大切な理由だけど、せっかく楽しみにしている行事、由来や飾りの意味を知ることができれば、もっと楽しめて思い出になるのでは、と思いました。そこで、以前から気になっていた「季節のしつらい便 七夕」を体験してみることに!

「季節のしつらい便 七夕」は、手拭いでできた笹の絵柄のタペストリーと、切り紙飾り用の和紙、でんぐりシート、短冊、こよりがセットになっていて、笹飾りのタペストリーをつくることができます。
また、今回体験したいと思ったきっかけである七夕にまつわるあれこれを解説したしおり付き。

娘に見せると、「わぁー、七夕!作りたい!」と一目見て目を輝かせます。

つくる前に、しおりを一緒に読むことに。
織姫と彦星が離れ離れにされたというエピソードには「えー、そんなんかわいそう」との感想が。年に一回、七夕の日だけは会えることを聞いてほっとした様子で「きれいに飾って見せてあげよう!」とやる気もアップ。お願いごとをする日、と理解したところで制作スタートです。

まず、和紙の切り紙飾り。飾りに込める願いを説明しながら何をつくるか相談します。折り紙とは違う和紙の感触を楽しみながら折り、私が下絵を描いて、はさみでカットに挑戦。曲線は難しかったですが、直線はチョキンと一回切りできました。折りたたんだ和紙を丁寧に広げては、あらわれる形に「かわいい!」を連発。

次はでんぐり飾りです。こちらはテープで貼って広げるだけ。でんぐりシートを広げる時に、指に力が入って形が潰れそうになりながらも、何とか形になりました。

そして、短冊にお願い事を書きます。たくさんある中から、最近はまっていて頑張っていることの上達を願うことに。「じがじょうずになりますように」「なわとびがじょうずになりますように」。下書きを確認しながら真剣に書きました。

飾りと短冊にこよりを通すと、いよいよ飾り付けへ。

「思いが結ばれるように、お願いが叶いますように、ってこよりを結ぶんだよ」とひとつずつ込めた願いを確認しながら結びます。

ホームページを見てつくった七夕人形も一緒につけて完成です。娘は飾りにタッチしてみたり、うっとり眺めたり、達成感でいっぱいの様子。「短冊書くの頑張ったね」「お母さんも切るの頑張ったね」と称え合いました。

ひとまず完成しましたが、まだ飾りを増やしたい娘。余っていた和紙でつくり足し、折り紙で輪飾りも作ってテープでつけました。「まだつけれるんちゃう?」と、更につくり足す気満々の娘。七夕当日までにどんどん賑やかになりそうで楽しみです。

その後、2歳の妹にタペストリーを見せながら「これはね、お願い事をしてるんだよ」と語っている姿を発見。娘なりに理解してくれたんだと嬉しくなりました。子どもにとって、自分で調べて学び、形にすることはかけがえのない経験だと実感。素敵な体験をくれた「季節のしつらい便」に感謝しつつ、これからも、季節ごとの行事や風習について、子どもと一緒に楽しく学びたいなと思いました。


<掲載商品>

季節のしつらい便 七夕

【職人さんに聞きました】3児の父が手がけた、親子のための器

家で過ごす時間が増えた2020年。

中川政七商店から、親子の「食べる時間」をいつもよりちょっと深くする食器がデビューしました。

その名も「親子のための器」シリーズ。

お子さん向けの食器というと、落としても安心な木製やプラスチックのものも多いですが、
このシリーズはちょっと違います。

「落としたら割れてしまうという経験も込みで、ものに触れる時間を楽しんでもらいたい」

自身も4歳の子を持つデザイナーがそんな思いから企画したのが、つるつる、ざらざら、「触感」を楽しめるやきものの食器です。

平皿、飯碗、汁椀、マグカップの4アイテムを展開。汁碗以外は全てやきものです

たとえばマグカップは、底の部分に器をコーティングする釉薬をかけていません。

持った時に手の中でつるつる、ざらざらと違った手触りが感じられるようになっています。

一方で、子どもが持った時の安全性や、使いやすさも妥協はしたくない。

重すぎず、軽すぎず、丈夫で、やきものの風合いが楽しめる素材‥‥

検討に検討を重ねてたどり着いたのが、陶器と磁器のあいだの性質を持つ、「せっ器(半磁器)」でした。

やきものの中でも作るメーカーの少ないせっ器を手掛け、親心の詰まった商品のアイデアをかなえたのが、山功高木製陶です。

デザイナーの親心をかなえた、せっ器(半磁器)とは?

「ざらざらとした土の触感を味わうなら陶器ですが、陶器は薄く作ると欠けたり、割れたりしやすいんです。かといって厚くすると重みが出る。

薄く作っても丈夫なのは磁器ですが、今度は土っぽさがなくなります。

せっ器はある程度薄く作っても丈夫で、土っぽい手触りも味わえる。ちょうど陶器と磁器の中間のようなやきものなんですよ」

そう教えてくれたのは代表の髙木崇さん。デザイナーと一緒に試行錯誤しながらシリーズを作り上げました。

工房のある岐阜県土岐市は、古くから美濃焼を作ってきた町。陶器も磁器も手掛ける一大産地です。

近くの橋も、やきもので装飾されていました

「産地は分業制が進んでいて、たとえば駄知という町はどんぶりの産地として有名です。同じ市の中でも地域ごとに作るものが分かれているんですね。
うちの工房がある泉町は、『玉煎茶 (たませんちゃ) 』ってわかります?昔、公民館に行くと必ず見かけたような、青地に白い水玉模様の入った湯呑みをずっと作ってきた町でした」

あ、見たことある!という柄。こちらはお茶碗タイプ

しかし、こうした湯呑みを使ってお茶を飲むニーズが年々少なくなり、山功さんは作れるものを増やそうと、せっ器を手掛けるように。

陶器と磁器のいいとこ取りのような性質を持つせっ器ですが、あまり知られていないのは、作られるようになったのが比較的新しい時代だからだそう。

今回のシリーズがずらりと並びます

日本有数のやきもの産地であるこの一帯でも、手掛けるメーカーは限られるそうです。

「時代の変化に対応していきつつ、いろいろやっていくうちに扱う素材が増えて、アイテムもマグやプレートのような洋食器が増えて。気付いたら何でもできるようになってしまったっていう感じですね」

実は今回の器シリーズ、シンプルなつくりのようで、親子で使うシーンを想定したさまざまな設計の工夫がこらされています。

たとえば飯碗は、子どもの手で持った時に全体は「つるつる」、高台付近だけ「ざらざら」の触感を楽しめるように大きさ、厚み、重さを調整。

欠けやすい縁の部分は、厚めの「玉縁仕上げ」で丈夫になるようひと工夫。

平皿は、中の料理がすくいやすく、汁気のあるものも入れやすいように縁を立たせてあります。

デザイナーのイメージ、設計図と、前工程を担う生地屋さんや型屋さんの意見、高木さんの経験を掛け合わせながら、何度も試作をしてたどりついたかたちです。

「それと」

と髙木さんがおもむろに平皿の裏を見せてくれました。

「平皿だけは裏面にも釉薬をかけて、つるつるにした方がいいですよと提案させてもらいました」

重心が低く、置いて食べることが多い平皿は底部分を手で持つことが少ないので、釉薬が全体にかかっています。

その分サッと洗いやすく、親にも優しい設計です。

実は高木さん自身も、3人のお子さんを持つパパ。

作り手として、親として、どちらの経験ともが「親子のための器」のディティールに活きています。

工房には小さな自転車や似顔絵のイラスト、手作りの愛らしい器まで、お子さんの存在を感じるものがそこかしこにありました
娘さん作のお皿

「上の子は、学校から帰ってくると家に帰らずに真っすぐ工房に寄るんですよ。

後を継ぐのかわかりませんが、もし将来やりたいといった時に、ものづくりが変わらずできる環境は残してあげたいですね」

親子のための器シリーズは、大きくなっても使えるシンプルなデザイン。

いつかデザイナーや高木さんのお子さんが大きくなった時に、食卓を囲みながら「この器はね‥‥」と語る日がくるかもしれません。

企画から製造の現場まで、親心がたっぷり詰まった「親子のための器」シリーズでした。

<取材協力>
株式会社 山功髙木製陶

<掲載商品>
親子のための器

<合わせて読みたい>
【デザイナーが話したくなる】親子のための器