これからの季節に長く寄り添ってくれる。夏から秋への一枚。

立秋も過ぎて、雨の影響か少し肌寒いような日も。
まだまだ暑さが続くとは言え、ひと足早く次の季節への準備も考えていきたいところです。
蒸し暑さの残るいまこの瞬間から、気温が下がる秋になっても着ることのできる、長く活躍する服や小物をご紹介します。

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「さらっと着られる」麻デニムパンツ

中川政七商店 麻デニムパンツ

「麻生地は、吸水、吸湿、速乾性に優れているのが魅力。もし、麻だけのデニムが実現できれば、夏場のように汗をかきやすいシーズンでも、さらりと着られるものができるはず。」
かつてないほどさらっと着られる麻デニムの開発は、デザイナーのそんな思いから始まりました。

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夏にもかぶれる麻素材「麻ブレードのベレー帽」

年々厳しさを増す日差し。ちょっとした外出にも帽子なしでは出かけられなくなってしまいました。
だけど、きれいめな服装にも合いつつ大げさにならない、そんな夏の帽子って意外と難しい。
夏にかぶれる麻素材のベレー帽が、そんなわがままを叶えてくれました。

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毎日、肌が気持ちいい。呼吸する麻のインナー「更麻」

しっとりやらわかな質感の生地は、麻特有のカタさがなく、肌にフィットしてよく伸びる。汗ばむ日も冷え込む日も、麻本来の特性が働いて、汗や熱がこもらず肌がさらりと気持ちいい。
毎日変化する環境にもしなやかに応える最高の着心地のインナーは、「更麻」と名付けられました。

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原点はオードリー・ヘップバーン!“つっかけ”を進化させた「HEP」のサンダル

HEP

ちゃんとしたお出かけにも、ちょっとそこまで、の気軽なシーンにも。
いわゆる「つっかけ」を、現代の生活に合うようにアップデートした「HEP」のサンダルは、どんなシーンにも対応してくれます。

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プロに教わる、服の汚れの落とし方。意外なコツは「ゴシゴシしない」こと

夏場はたくさん汗もかくし服の汚れが気になりませんか。
そこで、最後は、服のお手入れについてご紹介します。
洗剤メーカー「がんこ本舗」の代表・木村正宏さんに、服の汚れの落とし方をお伺いしました。

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二十四節気の節目を意識してみると、日々少しずつ季節が変化していることを感じます。
少し先の季節のこと、暮らしのことを考えるのもまた、一つの楽しみかもしれません。

<関連特集>
夏から秋の一枚

プロ野球選手の求める感覚にフィットする理由。想像した理想をカタチにするグラブづくり。

プロからアマチュアまで、国民的スポーツとして、老若男女に愛されている野球。いよいよ開幕した東京五輪でも日本代表の活躍が期待されている。そんな選手らのプレーを支える道具に注目。選手たちが手の一部のように使いこなすグラブのものづくりの裏には、どんな苦労があるのだろう。
多くのプロ野球選手と契約を結んでいるミズノのグラブ担当クラフトマンに話を伺った。

兵庫県宍粟市波賀町にあるミズノテクニクス波賀工場

46名が働くミズノテクニクス波賀工場の中でも、プロ野球選手のグラブを主に担当するのは3名。話を伺ったのは、そのうちの一人である田中章太クラフトマン。捕手用のキャッチャーミットの製作を手掛けている。捕手用のミットは、ちょっと特殊で専門的な知識、高い技術が必要とされることもあり、ミット一筋でやってきた。

プロ野球選手のミット製作を手掛ける田中章太クラフトマン

「牛の革を使ってつくるのは同じですが、形状も違うし、求められるものが根本的に違うと自分のなかでは捉えています。捕手って、投手の投げる球をどのポジションよりも多く捕らないといけないし、衝撃に耐えられる強さも必要です。それと、気持ちよく投手に投げさせたいからと、音にこだわる選手も多いですね」

投手が投げた球を受ける際に鳴り響く「パァーン!」という高い音。投手はその捕球音を自身の調子を測るバロメーターとしていることがあり、捕手はそんな投手の気持ちを慮ってグラブを要望することも少なくない。音には、材料や形状、受球面の張りやしわの状態が影響するので、張りが弱いと革が沈んで音も吸収されてしまう。つまり、音は革が板のように張っているほど出やすいが、ボールは捕りにくくなる。技術の高い選手は一定の位置だけしかボールを捕らないので、その一部分だけを深く、それ以外はしっかりと張りがあるように設計。音の出やすさと球の捕りやすさのように相反する要望であっても、積み上げてきた経験や知識、技術を駆使して、選手の求めるミットをつくっている。

求められていることを想像し、その思いを形にする

ほぼ全てが手作業で行われる、グラブ製作

グラブ製作は、革の裁断以外、ほぼ全てが手作業で行われている。革を縫い合わせたり、紐を通すといった基本工程に加え、軽くするために革の厚みを調整したり、水分を飛ばしたり、手になじみやすいようオイルを塗ったりと、選手からの要望に応えるため、一つひとつに工夫を凝らしていく。選手それぞれの細かい要望に対応していくのは、どんな苦労があるのだろう。

「人によって考え方も違いますし、求めているものもそれぞれ違うので、大変ではあります。また表現も曖昧なので、その曖昧なニュアンスの中から相手の真意を汲み取って、カタチにしていくのは……つくり手の醍醐味でもあるんでしょうけど。でも、やっぱり難しいと感じます」

グラブの硬さについての要望があったとして、硬さも柔らかさも、人によって感じ方は違う。つくり手の考える硬さが、選手の求める硬さと同じであるとは限らない。そこで大切になるのが、選手とのやり取りで、直接話したり、実際に使っているグラブを見せてもらったり、借りたグラブを分解して革の厚みの数値を測ったり。できることを全てやって、常に自分自身で答えを見つけていく。それは経験を積んでも同じで、慣れることはないという。だが、製作経験が長くなると無意識のくせがグラブに反映されてしまうことがある。グラブに対する思いやこだわりが強くなり、自分がよいと考えるつくり方や使い方が出てしまうのだ。

「グラブはこうじゃなきゃダメなんだとか、こういう形がいいんだよねっていうことを押し付けてしまっていることがあると思っていて。だけど使うのは自分ではないので、最初からつくり手の色に染めるんじゃなくて、選手が自分自身でつくり上げていけるグラブを提供したい。」

グラブはすぐには使えず、自分自身の手になじませていく時間が必要なので、余白を残した状態で納品するのが田中さんのスタンス。相手の求めるポイントを、頭で理解していても、指の動きに完璧に対応させるのは難しい。もちろん使えないと返されることも多い。何がダメなのか具体的な表現であることは少なく、よく言われるのは「なんか違うんだよね」。
もう一度つくり直したり、パーツを変えたりと状況に合わせて対応していく。グラブづくりには、理想をカタチにできる技術力だけでなく、選手の考えていることを想像する力も求められるのだ。

「選手に渡すときは、いつも緊張します。自分のなかでの完成度は50~60%のミットを絶賛していただいたり、逆に自信満々のミットが全然ダメだったり。使ってもらうまで本当に分からない」

今も忘れられないグラブづくりの原点。2年半かかった初めてのプロの世界。

プロ野球選手を担当して15年。数多くのミットを手掛けてきた田中さんの最も印象に残っているのが、現在巨人の二軍監督を務める阿部慎之助選手。初めて担当を任された選手だ。通常、プロ野球選手を担当するまでに5~10年の下積みが必要だが、田中さんは前職で経験があったこともあり、入社3ヵ月での大抜擢。ところが、実際にミットを使ってもらうまでには、2年半もの時間がかかった。

「最初は、ただミットに手を入れるだけ。何のコメントもなく、それで終わり。プロってこういう世界なんだと。いきなり高い壁にぶち当たったと感じ、辞めようかなって思いました。僕じゃあ無理だなって」

自分のつくったものを渡したら何も言わずに立ち去られる状況は、想像するだけで辛い。当時、阿部選手が使用していたのは他社製のミット。そこへアプローチをかけてミズノ製ミットを使ってもらうことが、田中さんに与えられたミッションだった。突き返されてもめげずに通ううちに「こういう革がいいよね」と意見も貰えるようになり、一緒に革を開発したり、形状を調整したりして試行錯誤を重ね、ようやく使ってもらえるミットが完成する。阿部選手の最終的な決め手は何だったのだろう?

「一番は材料開発ですね。阿部選手の求めていたことに材料面で応えられたことが、大きいなって思います」

阿部選手が納得するミットを提供できた理由、それはミズノの誇る革にあった。

ミズノのグラブは「革がいい」と言われる理由

革で6割ほど特性が決まってしまうと言われるほど、グラブづくりにおいて革選びは重要だ。例えば、張りやすさを重視するなら密度の濃い革が良いとされるが、密度の濃淡は見ても分からない。これまでの経験と、触れたときの感触だけを頼りに選ぶのだ。革は一枚一枚に個性があり、「これだ!」と感じるものに出会うまで探し続ける。保管しているストックに選手の要望に応えられる革がないと感じたら、次の入荷を待つこともある。

革の保管庫。オーダー内容に合わせて数ある革の種類から素材を選定

ミズノのグラブには、革製造のメーカーであるタンナーと協同開発したオリジナルの革が使われている。タンナーと独占契約を結び、コンセプトに合った革をつくり込んでいくのは、世界的にみても珍しい取り組み。そのおかげで、グラブの張りに影響する密度の濃さといった細かい要望を伝えるなど、革を加工する段階から関わることができる。現在、プロ野球選手のグラブのほとんどは北米産だが、捕手用のミットには日本産の革が使われている。この「捕手用ミットは国産革」という新しい常識をつくったのが、田中さんと阿部選手だった。

「日本の牛の革は、繊維の絡みが強く、密度が濃くて非常に耐久性に優れています。だからあれだけ強い球の衝撃を受けるポジションでも長く使うことができる」

これまでも一部で国産の革は使われていたが、材料のばらつきや量を確保するなど課題が多かった。それを、田中さんはタンナーと協力して一つひとつクリアしていった。質も数も満足できるものを用意できたことが阿部選手との契約につながり、国産革は捕手用ミットのベースとなった。

終わりのないグラブづくり

グラブは野球選手にとっての生命線であり、商売道具。それぞれ強いこだわりを持っていて、妥協することはない。そんな替えのきかないものづくりに携わり続ける田中さんにかかるプレッシャーは想像もつかない。

「理想通りのミットと言ってもらえたことも、ゲームで長く使ってもらえたこともありますが、つくる上での不安は消えないですね。同じものをイメージしてつくりますが、なかなかたどり着けない。むちゃくちゃプレッシャーを感じますし、いつも不安の中で自分と戦いながらつくっている感じです。」

それでも今後の目標を聞くと、「いい商品を提供し続けたい」という。

田中さんがグラブづくりと出会ったのは、22歳のとき。知人の紹介で入った会社で簡単な作業を手伝いながら、少しずつ基礎を学ぶうちにグラブづくりにのめり込んでいった。それ以来、どんなに評価されても慢心することはない。一人ひとりの要望に合った材料を選び、それぞれの特性を活かしてグラブをつくり上げていく。選手の要望を実現し、安心して使ってもらうためなら、今までにない材料でも手に入れ、どれだけ時間がかかっても何でもやってきた。
そんな妥協しない姿勢が、今日も選手の活躍をそっと支えている。

<取材協力>
ミズノ株式会社
https://www.mizuno.jp/

*お問合せ先
ミズノお客様相談センター 0120-320-799

文:眞茅江里


<関連特集>
スポーツメーカーの老舗「ミズノ」と麻の老舗「中川政七商店」。
業界は違えども「ものづくり」という同じ場所に立ち続けてきた二社がコラボレーションして、機能的で丈夫な野球のグラブ革を暮らしの道具に仕立てました。


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五輪選手の好成績を助ける、日本の職人たちの「道具作り」秘話

東京五輪開幕が開幕し、日々スポーツの話題に熱が帯びていますね。選手を支える大きな存在のひとつが、数々の道具たち。競技に使用するものから、身に着けるものまで、今日はそんな道具たちを手掛ける職人のストーリーを紹介します。

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酷暑に体をいたわる。夏の食卓におすすめの道具たち

梅雨が明けて日々暑さが増していますね。
朝も夜も息つく間もなく暑い。自宅の周辺でもいよいよ蝉の大合唱が聞こえてきて、夏が来たことを実感しています。
急な暑さに体がついていかない、というのを何度か繰り返し、この時期はいつもより少しだけ食卓に気を配るようになりました。
疲労回復によい薬味をたっぷり使ってみる。火照った体を冷やしてくれる夏野菜を選ぶ。目にも涼しい硝子の器を使ってみる。
体が欲しているものに耳を傾けること。当たり前のことかもしれませんが、改めて大切なことなのだと気付かされます。

今日は、夏の食卓にまつわるお話や暮らしの道具たちを紹介します。

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夏の煎茶の一番美味しい飲み方

佇まいが美しい硝子の急須。
中のお茶の色が楽しめたり、茶葉の開く様子を見ながらゆっくりと過ごす時間だったり、硝子だからこその楽しめる良さがありますよね。
ゆっくり煎茶を淹れて冷やして飲む時間は、夏の休日の楽しみでもあります。

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そのまま食卓に出せる「波佐見焼の絞り小皿」

レモンやすだちを絞ったり、しょうがをおろして入れたりと、薬味はほんのひと手間でいつもの食卓を、ちょっとだけ特別なものに変えてくれます。
「なくても困らないけれど、あるとうれしいし、美味しい。そんな薬味を、いつもの食卓にもっと手軽に取り入れることができる道具があったら」
こだわったのは、誰でも扱える使いやすさと、食卓に持って行きたくなる佇まい。
ありそうでなかった、こだわりの「波佐見焼の絞り小皿」をご紹介します。

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DYK ペティナイフ

薬味を切ったり、食卓にもう一品の野菜を切って添えたり。
夏は茹でたり炒めたりせずとも、そのまま食べたい日も多いと思います。
そんな時、気軽に使える取り回しのよいペティナイフが1本あると重宝します。
何本あっても困らない扇子は、夏の贈りものにぴったりの暮らしの道具です。

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夏にこそ使いたい料理道具、土鍋

夏の土鍋の使い方

体力が必要な夏、健康な食事を摂って栄養を蓄えたいものです。
「鍋」料理の印象が強い土鍋。夏の間は出番を無くして棚の奥にしまわれがちですが、それはとても勿体ない。実は夏も、土鍋は大活躍することをご存知でしょうか。
鍋料理以外にも、アイデア次第でさまざまな使い方ができる土鍋。
ステンレスやアルミ製に比べるとちょっと重たいけれど、わざわざ土鍋で調理をしたい理由は、土鍋ならではの特徴にあります。

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夏に食べたい「うなぎのせいろ蒸し」。老舗に聞く、本当に美味しいうなぎの食べ方

柳川 若松屋さんの鰻のせいろ蒸し

うなぎと言えば、「うなぎのせいろ蒸し」。長い間、それは日本全国共通の認識だと思ってました。
だけど、うな重やうな丼は見かけるのに「せいろ蒸し」は見当たらない。地元を出てから初めて、その認識はマイナーであることに気付きました。
こんなに美味しいうなぎのせいろ蒸しをみんなが知らないとはもったいない。と、土用丑の日、本当においしいうなぎの食べ方をご紹介します。

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蒸し暑い日本の夏を心地好く過ごす、暮らしの知恵。
暦を生かして、夏を乗り切りましょう。

【工芸の解剖学】そのまま食卓に出せる「波佐見焼の絞り小皿」

レモンやすだちを絞ったり、しょうがをおろして入れたりと、薬味はほんのひと手間でいつもの食卓を、ちょっとだけ特別なものに変えてくれます。

「なくても困らないけれど、あるとうれしいし、美味しい。そんな薬味を、いつもの食卓にもっと手軽に取り入れることができる道具があったら」

こだわったのは、誰でも扱える使いやすさと、食卓に持って行きたくなる佇まい。
ありそうでなかった、こだわりの「波佐見焼の絞り小皿」をご紹介します。

解剖ポイントその1:食卓にそのまま持っていきたくなる佇まい

「絞り器って、台所だけで使う“道具”っぽい印象のものが多い。」

調理器具なので機能性を重視したものが多いのは当然ですが、そのまま食卓に出せるような佇まいのものがあれば、もっと気軽に使える道具になるかもしれない。
そんな思いから、うつわのように食卓に馴染む佇まいの絞り器をつくりました。

鉄粉が多く含まれている磁土を使うことで、黒点が現れ、ゆらぎのある表情に。

素材には、鉄粉が混じった磁土を採用。磁器でありながら、土もののように一つひとつ違うゆらぎのある表情が生まれました。シンプルでありながら温かみもあり、日本の食卓にしっくり馴染む佇まいです。

解剖ポイントその2:種落ちや液だれしにくい形

佇まいも大事ですが、あくまで調理道具。機能性との両立は絶対条件です。
絞り器で大事なのは、種落ちしないことと、絞りやすさ。包丁のように毎日必ず使うわけではないけれど、だからこそ、使うのが少しでも億劫に感じる道具は使われなくなってしまいます。

柑橘類を絞る上でストレスに感じるのは、注ぐ際に種落ちしてしまうこと。そこで、機能性の中でも特にこだわったのが、注ぎやすさです。

種落ちを防ぐ為にどんな形にしようか考える中で、
「余分なものを取り除いて、必要な液体だけ注ぐ。そんな道具があったはず」と、ヒントにしたのが急須でした。

急須をベースに、注ぎ口のある形に決定。茶漉しを参考につくった注ぎ口の穴は、小さすぎると果肉が詰まってしまうため、サイズや数、配置を細かく調整していきました。

試作の一部。穴のサイズや数、配置は細かく調整を重ねた

製造は、これまでにもレモン絞り器をつくったことのある波佐見焼のつくり手に依頼。絞り器の経験はあったものの、注ぎ口のあるものは初めてということで、お互いに手探り状態で開発を進めていきました。

型取りした後、一つひとつ手作業で注ぎ口を接着していく

急須のように湯切れのよいものをイメージして試行錯誤。デザイナーが検証した3Dプリンターの型ではうまくいっても、実際に焼いてもらうと穴が小さくなったり、厚みが出て形状が変わってしまったり。これまでにお付き合いのある型師の方にも相談したりして、最終の形に辿り着きました。

少し反り返った形と、口の厚み。絶妙なバランスによって、液だれしにくい形を実現しています。

解剖ポイントその3:絞りやすく気軽に使える、小ぶりなサイズ感

素材の磁器は薄くて硬く繊細なエッジが出せるため、果肉を絞る時にしっかりと捉えることができます。山型のてっぺんの部分まで深い溝が入っているので、すだちやかぼす等の小さな果物にも対応。果肉をきっちり捉えて絞ることができます。

直径約10cmと大きすぎないサイズ感で、食卓に並べても邪魔になりません。小さな手でも押さえやすく、ほどよい重みで安定感もあるので楽に使えます。

受け皿は、レモンを絞っても果汁があふれないくらいのちょうどいい深さ。唐辛子やオリーブオイルなどを加えて、ドレッシングをつくることもできます。

同時発売の「波佐見焼のおろし小皿」とスタッキングしてコンパクトに収納できる

小ぶりなので保管に困らないのもうれしいところ。器のような佇まいで、豆皿などと一緒に食器棚の隙間に置いておけるので、さっと取り出して使うことができます。楽に取り出せる場所に置けることが、気軽に使える道具にも繋がります。

なくても困らないけれど、あるとうれしい。料理を引き立てる彩りや香りを添える薬味。
食卓で過ごす時間を、より美味しく豊かなものにしてくれます。

<掲載商品>
波佐見焼の絞り小皿
波佐見焼のおろし小皿

文:眞茅江里

【工芸の解剖学】最高の履き心地を目指してつくった「ウールカーペットのスリッパ」

スリッパってなかなか「これ」と思えるものがない。

履き心地が良くて、丈夫で、佇まいの良い、置いてある姿にも愛着が湧くようなスリッパが欲しい。できれば、長く使えるものを。

そんな願いを叶えるために、中川政七商店がたどり着いたひとつの答えが「最高級のカーペットでつくったスリッパ」です。

「足裏が喜ぶ」最高の履き心地を目指してつくった、新しいスリッパのかたちを解剖します。

解剖ポイントその1:「足裏が喜ぶ」最高の履き心地

靴を脱いで、素足で過ごすことも多い日本の暮らし。

「足裏の感覚はとても大切なのでは?」という気づきから、足が最高に心地いいスリッパづくりは始まりました。

「最高の履き心地」のヒントにしたのが、高級ホテルのラウンジ。

「あの雲の上を歩くような、ふかふかとしながら足裏をしっかりと支えてくれる安心感や心地よさを、スリッパで再現できないか?」

そんなアイデアから生まれたのが、中敷に本物のカーペットを使用したスリッパでした。

素材には、実際に三つ星ホテルに使われているカーペット10種類以上から繰り返し着用テストを行い、スリッパという日常的に磨耗する環境下でもへたりにくかった2種類の生地をセレクト。

毛足が1本1本立ち上がったカットパイルタイプは、まさに絨毯そのもの。足をふんわりと包み込み、特に保温性に優れます。

フェルト加工した太い糸をループ状に織り込んだループパイルタイプは、接地面が少ないので、よりさらっとした肌ざわりです。

履いてみると、どちらも体重をグッと支えてへたらない、足を包み込むようなフィット感。歩くと柔らかく足についてきて重さを感じません。床の冷たさや固さが足に響かず、履いたそばから足まわりがすっぽりとあたたかです。それでいて足裏への「ふかふか」の伝わり方が全く異なり、2種それぞれの踏み心地を楽しめます。

解剖ポイントその2:堀田さんのカーペットの魅力を引き出す構造

この、「足裏が喜ぶ」履き心地を叶える2種類のカーペットは、どちらも大阪の堀田カーペットさんによるもの。

現在、日本のカーペットの99%は、基布に多数のミシン針で繊維を植毛する「タフテッド」式です。一方、1962年創業の堀田カーペットさんが手がけるのは、経糸と横糸を重ねて織りあげる「ウィルトン」式のウールカーペット。

量産向きのタフテッド式に対して耐久性が高く、多様な柄を表現できるウィルトン式は、その分職人の高い技術が要求され、この「ウールの織物」をつくれるメーカーは、今や日本で希少です。

そんな、ウールの特徴と適性を知り尽くした堀田さんのカーペットの魅力を最大限に生かすべく、スリッパの構造も工夫しました。

高級ホテルのラウンジで使われるカーペットは、クッション材の上にカーペットを敷きこむ「二層構造」になっている

高級ホテルの床がふかふかな理由は、クッション材の上にカーペットを敷き込むという「二層構造」にあります。これをスリッパで再現しようとすると、中敷が厚手になりすぎて、本体に縫い付けることができません。

そこで今回のスリッパでは中敷が取り外せるセパレートタイプを採用。実際のカーペットと同じ二層構造をそのまま再現することに成功しました。

中敷を取り出してスチームアイロンを当てると、ウールの特性でへたったところがふんわり立ち、ふかふかの履き心地が持続します。また、汚れが気になれば外して掃除機で吸い取ると、ウールの遊び毛がホコリや汚れををからめ取ってくれます。これもウールカーペットならでは。スリッパ全体も手洗いで自宅でのお手入れが可能です。

さらに、日本では左右同じ形のスリッパが一般的ですが、今回はあえて左右差のある仕様に。足の形にフィットして、よりカーペットの心地よさを足裏全体で感じられるように仕上げました。

解剖ポイントその3:大事にしたのは、玄関に揃えた時の佇まい

もうひとつ大事にしたのが、履き心地と佇まいの良さの両立。今回のスリッパを堀田カーペットさんとともに手がけたデザイナーの榎本さんは、「スリッパってどこか野暮ったいイメージがあった」と振り返ります。

「これまでの自分の買い方を振り返っても、手に取りやすい価格で、色や機能性を見ながらなんとなく妥協して選ぶことが多い。一方で作家さんの一点もののような、高級なスリッパも世の中にはあります。もっと選択肢があっていいし、家に置くものとして、機能も見た目も愛着を持てるようなものをつくりたいと思いました」

そこで榎本さんが大事にしたのが、玄関に揃えた時の美しさでした。

足を包むアッパー部分は中敷と同じウール素材の生地を採用。履くときに見える内側のフチ部分にもアッパーと同じ生地を縫い付けて、全体に統一感を持たせてあります。

置いてあるときの佇まいに気を配り、内側のフチにアッパーと同じ生地を縫い付けている

「このスリッパは堀田さんのカーペットの心地よさが命です。何気なく置いてある姿や履いた時に、何よりカーペットの質感や素材の良さを感じてもらえるように考えてつくっていきました」

置いた姿は品よく、履けば「足裏が喜ぶ」最高の踏み心地。足元から暮らしの心地よさを見直す、新しいスリッパのかたちです。

<掲載商品>
「ウールカーペットのスリッパ」

<取材協力>
堀田カーペット株式会社

文:尾島可奈子

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合わせて読みたい

「堀田カーペット」のご自宅を訪問。お風呂とトイレ以外、すべてカーペットの暮らしとは?

「ウールカーペットのスリッパ」を一緒につくった堀田さんのご自宅は、お風呂とトイレ以外、リビングもキッチンも寝室も廊下もすべてがカーペット。
「快適に暮らすのに、カーペット以外を選ぶ理由がなかった」と語る堀田さんのご自宅にお邪魔して、その魅力を伺いました。

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0.2パーセントまで縮小した市場から逆襲する、堀田カーペット新社長のライフスタイル戦略

いまや新築住宅にカーペットを敷く人の割合は、0.2パーセント。圧倒的な劣勢の中、住宅用カーペットの良さを広めて0.2を少しでも伸ばそうと奮闘している、カーペットの伝道師がいます。
「万人受けを狙うのではなく、自分たちが心底欲しい!と思えるものをつくる」と語る、堀田カーペットの三代目社長のお話を伺いました。

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タイルカーペットの新定番。パズル感覚で組めるDIYカーペットの誕生秘話

パズル感覚で、好きなカラーや模様を並べて置く。裏側には滑り止めがついているから、ズレる心配もない。部屋の形に合わせて、ハサミやカッターで簡単にカットすることもできる。日本唯一の技術で開発した、パズル感覚で組めるDIYカーペットの誕生秘話をご紹介します。

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メーカーの悩みを全力サポート。中川政七商店もうひとつの顔「産地支援」の仕事とは?

中川政七商店にはいくつかの顔があります。

まず暮らしの道具を「つくる」こと。
つくったものをお店などを通して世の中に「伝える」こと。

そしてもう一つが、全国の工芸メーカーの経営や流通をサポートし「支える」ことです。

せっかくつくった品物でも、必要としている人に届かなければ意味がありません。

そこで中川政七商店が行っているのが、「大日本市」という合同展示会。自社だけでなく全国のつくり手が集い、「日本の“いいもの”と、“いい伝え手”を繋ぐ」場を提供しています。

「でも一体、なぜ他メーカーのサポートを?」

今日はあまり知られていない、全国のメーカーのサポーターとしての中川政七商店の顔を、その理由とともにご紹介します。

出展したいと思える展示会、ないならつくる。

「ついに注文とれました!」そんな声が飛び交うのは、中川政七商店が主催する合同展示会「大日本市」会場。

中川政七商店は「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げていますが、つくり手が元気になるためには、「欲しい」と思う人にしっかり届く、流通の出口が大切です。かつて中川政七商店が販路を開拓しようと考えたとき、出展したいと思える展示会になかなか出会えませんでした。

ないなら、自らつくる。本当の意味で全国の工芸メーカーが自立し、事業を継続していくために、つくり手それぞれが意思をもって売り手や使い手と向き合う場をつくりたい。そんな思いから合同展示会「大日本市(だいにっぽんいち)」をはじめたのは、2011年のことです。

大日本市ってどんな展示会?

大日本市の特徴は、大きく2つあります。

ひとつは地域のものづくりに特化していること。テーマがはっきりしているので、選んで足を運んでくれるバイヤーさんとの商談も弾みます。

自社で初めてブランドを立ち上げたというメーカーの出展も多く、一回一回のバイヤーさんとの会話が真剣勝負。毎朝、前日の売上と来場者による人気投票結果が発表される朝礼では、出展者同士がお互いの結果に一喜一憂し、励まし合う姿が恒例です。

この大日本市がきっかけで大きな飛躍を遂げたのが、中川政七商店が工芸再生支援し、第一回大日本市に出展した長崎県の波佐見焼メーカー、マルヒロでした。

当時倒産寸前まで追い込まれていたマルヒロが大日本市でデビューさせた自社初のオリジナルブランド「HASAMI」は、会場で大手セレクトショップやメディアの目に留まり、そこから徐々に売り上げを伸ばし、今では波佐見焼の名を世に知らしめる存在となっています。

大日本市の特徴、もうひとつは「学びの場」という意識です。

「どう生産管理をしたら良いか?」
「お客さんとのコミュニケーションの取り方は」

扱う品物は違っても、メーカーが抱える悩みには共通のものも多くあります。そこで大日本市では、参加する企業むけに勉強会を企画し、展示会での商品のPRの仕方などを学べる機会を提供しています。

接客勉強会で、バイヤー役とメーカーに分かれてシミュレーションする様子
勉強会での学びを活かし、つくり手が積極的にバイヤーに商品の魅力をプレゼンする姿が会場のそこかしこで見られる

最近では、大日本市に継続して出展するメーカーが先輩として新規デビュー企業に接客のコツを伝授するなど、横のつながりや交流が、大日本市の文化として育ちつつあります。

初めは3社から始まった小さな合同展示会は、回を重ねるごとに接客や展示ディスプレイの内容をアップデート。少しずつ規模を拡げ、昨年からはオンライン展示会もスタートさせました。進化し続ける展示会に、今では日本各地のメーカー約60社が集結し、全国から約3000名のバイヤーが訪れるようになっています。

つくり手のサポートだけでなく、バイヤー向けのトークイベント等も実施

目指すのは、未来の問屋

しかし、メーカー共通の悩みは、まだまだつきません。

「顧客管理が大変でなかなか新商品の開発に手が回らない」
「発送に資材も人も時間もとられて大変」

実はこうした部分は、かつては産地のプロデューサー的存在である、各「産地問屋」が担っていた仕事でした。

市場のニーズをいち早く掴み、つくり手の特徴を熟知して、新商品を企画したり、流通を引き受けたり。つくり手と使い手をつなぐ欠かせない存在であったはずの産地問屋ですが、工芸の衰退にともない少しずつ減っているのが現状です。

問屋不在の中、いちメーカーが商品企画からバイヤーへの商談、在庫管理に発送まで全てを自社で担うのは簡単ではありません。結果として新商品開発に手が回らない、つくっても売り先がない…といった悪循環を、かつては私たちも経験してきました。

この、工芸をめぐる長年の問題を、なんとか解決したい。つくり手と伝え手、どちらの経験も積んできた中川政七商店だからこそできることがあるはず。そんな思いから今、中川政七商店が新たに取り組んでいるのが、全国のメーカーの流通を継続的にサポートする「問屋」事業です。

自らもメーカーとしてつくり手に寄り添いながら、全国約60の直営店と、これまでに築いた全国の小売店とのつながり、そして大日本市という場を生かして、ものづくりの魅力をきちんと世の中に伝えていく問屋を目指します。

大日本市が消滅するとき?

合同展示会の主催に、継続的にメーカーの流通をサポートする問屋事業。

一見、「なぜわざわざ他の企業のサポートを?」と思えることも、中川政七商店にとっては大切な意味があります。

ひとつには、ともにものづくりをする仲間が増えること。

中川政七商店は自社工場を持ちません。協業する全国のつくり手が元気にものづくりを続けてくれていればこそ、私たちは自社のものづくりを行うことができます。

展示会にも出展する堀田カーペットと一緒につくった「ウールカーペットのスリッパ」の開発風景

もうひとつは、展示会や問屋事業を通して全国のいいものが集まれば、流通手段である中川政七商店の直営店の品揃えが充実する、ということ。お店に並ぶものが多様化すれば、日本のものづくりの魅力を知ってもらうきっかけが増えることにつながります。

そうして一つひとつ、一人ひとり、つくり手と使い手がつながってゆけば、きっとその先に「日本の工芸を元気にする!」が達成された未来があるはず。

もし大日本市が幕を閉じる時が来るとしたら、それは日本の工芸が元気になった時。そんなことをスタッフ同士で話しながら、今日も中川政七商店は全国の工芸メーカーのサポーターであり続けます。

「大日本市」の取り組みに興味をもってくださった展示会出展希望のメーカー様、商品お取り扱い希望の小売店様は、下記専用サイトよりお問い合わせください。

現在、中川政七商店公式オンラインショップでも、「大日本市」出展商品を期間限定でご紹介しています。

文:尾島可奈子