海外のつくり手も元気にする。台湾発「KŌGA – 許家陶器品」デビューの道のり

2021年9月、中川政七商店の工芸再生支援を経て新たなブランドが日本でデビューします。

名前は許家陶器品(KOGA tableware)。

つくり手は、台湾で100年近く続く陶磁器メーカーです。

今回は、「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げる中川政七商店が、初めて海外のつくり手を元気にするために取り組んだ、台湾の工芸再生支援のお話です。

工芸の衰退は、世界共通の問題


きっかけは3年前に届いた、1通のメールからでした。

「この国の工芸の復興を目指したい。力を貸してもらえませんか?」

送り主は企業支援などを行っている台湾デザイン研究院(TDRI)。ちょうど中川政七商店の社内では、社長が十三代 中川政七から十四代 千石あやに交代したばかりの頃です。

「社長交代の節目に、改めて私たちが海外でできることがあるのか、あるとしたらどんなかたちなのか。まさに可能性を検討しようとしていたタイミングでした」

2019年、プロジェクト始動時の記者会見で話す十四代の様子

そう振り返る十四代が当時、社内で話し合っていたのは4つのことです。

  • 工芸が失われつつあるのは日本に限らず、世界共通。そこに対して私たちが何かできることは無いか?
  • 日本の工芸の衰退は、戦後先進国から持ち込まれた大量生産大量消費のものづくりの影響も大きい。自分たちが海外で取り組みをする時、そうなってはいけない。
  • 日本の工芸の輸出ではなく、その土地らしさを活かしたものづくりのノウハウを伝えることなら、私たちが取り組む意味があるのでは。
  • 中川政七商店が扱うのは暮らしの道具。生活様式が似ている国なら、これまで積み上げてきたブランディングの手法が生きるかもしれない。

これまで中川政七商店では、自社の経営再建やブランディングの経験を活かし、全国60社のつくり手の工芸再生支援を行ってきました。「ものを売るという視点ではなくブランドをつくる」。このノウハウなら、海外のものづくり復興にも役立つかもしれない。そう海外との関わりを検討する中で飛び込んできた、台湾からの工芸再生支援依頼でした。

「国を超えて協業してほしいと言われるのはありがたいことだと感じましたし、直感的にお受けすべきだと思いました。ただ十三代会長からは当初『先に国内でやるべきことがあるのでは』と問われ、ずいぶん悩みました」

そんな時に「絶対にやるべき」と声をかけたのが、後に台湾工芸再生支援でタッグを組むことになる、method代表の山田遊さん。バイイングからショップや地域イベントの監修まで幅広く手掛け、中川政七商店のよきアドバイザーでもあります。

「白か黒かでなく、やり方を考えればいい。必要なら手伝うよ」

その言葉に力を得て、また会長からも最後には「やるからには絶対に結果を残さないといけないよ」と背中を押され、十四代と社内で結成された工芸再生支援チームは台湾へ向かいました。

初めての海外工芸再生支援先は、陶磁器メーカーのご夫婦

佳鼎の四代目、許世鋼氏

TDRIからのオファーは、日本のケースと同じく地域の中小規模の企業への経営コンサルティングとブランディング指導。手をあげた数十社から支援先に決定したのが、鶯歌(イングー)という土地の陶磁器メーカー「佳鼎(ジャーディン)」です。

実際に現地での工芸再生支援を担当した島田智子は、最初の印象をこう話します。

「鶯歌は台湾陶磁器の代表的な産地で、日本で言えば有田のような、観光もさかんな土地です。佳鼎はそこで100年近く続く歴史あるつくり手ですが、最終候補数社の視察に伺った時、お店の前では観光客向けに、仕入れた日本の焼き物の企画展が行われていました。

自社ですでにたくさんの商品も出されていましたが、売り上げの主力となるブランドが無い。ちょうど、私たちが最初に工芸再生支援を行った波佐見焼メーカー「マルヒロ」の初期の頃のように、ブランドの整理がされていない状態でした。

旧工場を観光地化。二階は歴史資料館のようになっている

それでも二階にあがると窯元の歴史資料館のようになっていて、語れる魅力が眠っていそうでした。日本で学んで現地で素材を集めて再現したという独自の釉薬も美しかった。整理すれば、台湾を代表するようなうつわのブランドが生まれるかもしれない、と感じました。

窯元独自の釉薬で開発した丹青碗。祖業である瓦工場から、日用食器へと転換するきっかけとなった商品

何より、佳鼎の経営を担う許さんご夫婦がとても勉強熱心で、これにかけるという強い意気込みを感じたんです」

こうして支援先が決定。経営面を中川政七商店のチームが、プロダクトの開発を山田遊さん率いるmethodのチームが引き受けることに。いよいよ台湾での工芸再生支援が本格化していきました。

似ているものづくり事情、異なる食卓事情

現地でのMTG風景(2019年)。窯元の歴史を掘り下げながら、ブランドを組み立てていった

「実際に始まってみると、日本も台湾も、国に関係なく『工芸あるある』、つまり中小規模のつくり手が抱える課題は同じでした。帳簿に材料費が載っていたりいなかったりと利益計算が曖昧だったり、複数ある自社ブランドの住み分けができていなかったり。

解決すべき課題が日本のつくり手と共通だったので、経営のフェーズは日本と同じプロセスをそのまま生かして進めることができました」

一方で明らかになったのが、台湾と日本の食卓文化の違いです。

実は台湾は屋台などの外食文化が根強く、日本のように毎食自炊する人は少数派です。そのため自宅に揃えている食器の数も少なく、キッチンが無いマンションも珍しくないそう。

「それでも、少ないながらも自炊する人たちはどううつわを選んでいるのか。TDRIのスタッフさんを通じて、台湾で自炊する人の食器棚を撮ってきてもらったりしながら、台湾の食卓事情をリサーチしました」

実際に撮影してきていただいた写真の一部

一方で許さんご夫妻には、4代続く窯元の歴史を調べてもらい、メーカーとしてのらしさを掘り下げていきました。こうして、山田遊さん率いるmethodの伴走のもと生まれたのが、台湾発の陶磁器ブランド「KŌGA – 許家陶器品」(翻訳すると「許さんの家のテーブルウェア」)。そのデビューを飾ったのが、根強い外食文化を逆手にとった「台湾の食卓で使えるきほんの一式」です。

「台湾の食卓で使えるきほんの一式」

50近いご家庭のキッチンの風景から、「台湾の人が初めて自分のためにうつわを揃えるなら、この一式を」という提案が導き出されました。

例えば、おかずを盛り付けるうつわの深さは4cm以上。お粥や煮物など汁物の多い台湾の食文化に対応します。

出来立ての熱々をいただく食事も多いため、持ちやすいように底部分には高台を設けました。

そして、どのうつわも台湾では一家に一台あるという保温・炊飯道具「万能電気釜」に必ず入るサイズに。

うつわの色は、窯の炎の色や、代々生み出されてきた佳鼎独自の釉薬の色、鶯歌の風景をイメージした色など、許さんの窯元らしさの出る4色に。

組み合わせれば、食卓がカラフルに彩られます。

海外の工芸再生支援を通じて見えたもの

ブランドのデビューはまず昨年の12月に台湾で記者発表され、年明けの2021年1月に台湾国内で販売のためのクラウドファンディングを実施。目標の10倍を超える額を達成することができました。

「もちろん日本のこれまでの事例と同じで、ブランドをつくって終わりではありません。あとはどうやって人の手に届けていくか。ここからがスタートです。

それでも、クラウドファンディングは台湾の人たちにどう受け止められるかのひとつの試金石でした。やはり食器に興味がないのではないかと、はじめは心配でしたが、早々に目標額を達成して手応えを感じました。

私たちがこれまで大事にしてきた、土地の風土や技術を生かしたものづくりのあり方が、台湾の人たちにも届いたのだなと」

また、今回のプロジェクトを後押しし、プロダクトの開発支援を担当したmethodの山田遊さんはプロジェクトの道のりと意義をこう振り返ります。

「このプロジェクトが始まる際、台湾でも若い世代を中心に、日々の食事と、その際に用いる器や道具も大事に選びたい、という気運が少しずつ盛り上がりつつあるように感じていました。

ちょうどプロジェクトの道半ばで、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、全てオンラインで進めざるを得ませんでしたが、台湾の食生活を考慮しながら、台湾で作られた新しい食器で、日常の食卓を彩り、食事を楽しむ、という意義は、より強くなったように思います。」

「KŌGA – 許家陶器品」は2021年9月22日に日本でもブランドデビューを迎えます。日本の使い手にとっては、また新たなうつわとの出会いです。

国に関係なく、土地の風土や技術が生きた工芸はきっと面白い。台湾、日本、どちらの使い手にとっても、「KŌGA – 許家陶器品」が暮らしと工芸を楽しむきっかけとなりますように。

<掲載商品>
「KŌGA – 許家陶器品」

文:尾島可奈子

スープ作家・有賀薫さんに聞いた、「長いおつき合いになりそうな予感がするキッチンツールたち」

一流シェフが愛用する調理道具や、長年お店で道具と向き合ってきた店主が「これは」と手に取るもの。
道具を使うことに長けている各分野のプロフェッショナルが選ぶものには、どんな秘密があるのでしょうか。
私たちが扱う暮らしの道具を実際に使っていただいて、ものの良さだけでなく至らなさも含めて感想を教えてもらいました。

本日紹介するのは、スープ作家として365日、毎日スープをつくっている有賀薫さん。
さまざまなキッチンツールを使ってみての感想を記事にまとめていただきました。


スープ作家。1964年生まれ、東京出身。
ライター業のかたわら、家族の朝食に作り始めたスープが2020年2月時点で約2900日以上になる。
著書に『スープ・レッスン』『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』『朝10分でできる スープ弁当』など。レシピ提供、コラム執筆、イベントなどを通じて、現代家庭の料理改革を推進中。


では早速、有賀さんによる「長いおつき合いになりそうな予感がするキッチンツールたち」を見ていきましょう。

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サイズと自分の手の関係って大事だなと気づかせてくれた、DYKのペティナイフ

多くの道具は、手で触れ、手で扱うものです。だから、使う自分自身の手の大きさや形にその道具がフィットするかどうかはわりと大事にしています。でも、一度使い慣れてしまうと多少不便なものでも案外気にならなくなってしまうんですよね。
そのことに気づかされたのは、DYKのペティナイフを握ったときでした。

DYK 包丁 ペティナイフ

包丁やナイフはやっぱり道具の中でも最も握っている時間が長いものなので、持った感覚、切った感覚がしっくりくるものを選ぶようにしています。

写真を見ておわかりになるでしょうか。この包丁、普通のペティナイフと違って、刃渡りはとても短いのですが、柄は普通の包丁に近いぐらいしっかり太くて長さもあります。軽いけれどちゃんと握れる。それまで使っていたペティナイフの柄は細くて力が入りにくかったのに、使い慣れていたので不満に思うことを忘れていたんです。でもDYKのナイフを握った瞬間、これこれ!と、一気に喜びがあふれました。


刃が短いので、フルーツを切ったり、ハムやチーズをちょこっと切ったり。お蕎麦の薬味のネギやスープのトッピングのパセリが少しだけ刻みたい、そんなシーンは日々の料理の中に頻繁に出てきます。その都度、気持ちよく手にフィットする道具があるとないとでは、一日のトータルの幸福量が違ってきます。

++
サイズといえば、実は同じDYKのおたまも使ってみたのですが、こちらは我が家の日常使いには少し大きすぎました(笑)

DYK ステンレス お玉

肉じゃがをよそおうとしまして、

小さめのお椀や小鉢だと、はみだしてしまいます。実はおたまって、通常のサイズでもかなり大きいんですね。なので私はかなり小さなサイズのものを使っています。写真で比べるとわかっていただけると思います。

おたまだけでなくキッチン道具は、手の大きい人か小さい人か、力のあるなし、なんだったらキッチンの大きさにもよるので、決してこの製品が悪いってことじゃないんです。でも、使うのは誰でもなく自分なので、誰がおすすめしたではなく、自分の手の感覚を信じることが大事だなとあらためて思いました。

++

ささいなことも我慢しちゃいけないんだと思えた、THEの醤油差し

長年、ストレスに思っていた道具がありました。醤油差しです。よさそうなものを買って使っても、いつも失望させられます。醤油がたれたり、口のところに醤油がガビガビ固まったり。しまおうとして、テーブルの上に醤油の輪ができていたりすると、ブルーな気持ちに。

それまで使っていたのは機能は良くてもデザインがちょっと古くさかっとり、スタイリッシュだけど頻繁に詰まったり。満点というものがなかったんです。

今回、思わぬご縁で理想の醤油差しと出会えました。それがTHE 醤油差し!

THE 醤油差し

まず、構造です。注ぎ口がどこにもありません。構造的にはふたに切れ込みが入っていて、そこから醤油が出てくるしくみ。醤油を入れて醤油をたらしてみると、素晴らしくキレがよく、思わず何度か無駄に醤油を出してしまいました。

注いで残った醤油が、微妙な角度がついた切れ込みに戻っていくため、まったく垂れない。もちろん切れ込みは醤油が行ったり来たりするので汚れますが、醤油がまだ残っていてもふたをとってふただけ洗う、みたいなこともできるのです。醤油が固まって注ぎ口に詰まるという、あのストレスから解放されます。

サイズもちょうどいい。醤油差しに入れた醤油はどうしても劣化が早く、どろっとなってしまいがち。でもこのサイズなら少量入れてさまになります。

そして、なんといっても美しさ。醤油差しは卓上で使うものなので、デザインが気になります。この醤油差しはぽってりとあたたかみを持ちながらも洗練されたイメージです。
似ていると思いませんか?そう、あの赤いふたのついた有名メーカーの醤油差しに。真似ではなく、絶対リスペクトしているよね!と、なんだか嬉しくなりました。

それまで私は、醤油差しという商品に対してそんなにパーフェクトを求めちゃいけないのかなと、なんとなくあきらめていました。でも、使ったあとでネットの紹介ページをよく読んだら、私が感じたことがそこに全て書いてあったんです。
考えている作り手はちゃんと考えてくれている。だから使う側の私たちも我慢したり妥協するのではなく、こうなっているほうがいいよね、という「使い手の気持ち」をもっと伝えなくちゃいけないんだなと思いました。

++

さて、我慢と言えば、スープ作家としてなんとなく不満だったのが、だしを漉すあみ。通常のザルはどうしてもかつおぶしの細かいくずがあみの目を通ってしまいます。撮影などではさらし布を使って漉していましたが、それも面倒です。

家事問屋のだしとりあみは網の部分がすごく細かいメッシュ状になっているので、袋の最後に残った粉状のかつおぶしを全部入れても写真の通り、クリアなだしがとれます。

家事問屋 だしとりあみ

こういう小さなストレスが解消されるのって本当に快感です。だしとりあみは使わない人も多いと思いますが、よくだしを取る人にはおすすめ。

使っているうちに、その良さがじわじわきた漆器

第一印象はいまいちだったんだけど、付き合ってみるとその人柄に引き込まれる人っていますよね。この器は私にとって、そういう人のようでした。RIN&COの越前硬漆シリーズです。

RIN&CO. 越前硬漆

スープを盛り付ける色つきの器で、いいものがないかなと思って探していました。漆器なのに洋食器に寄せた形がいいかな、と気軽に選んだものの、届いてみると、思った以上にカラフル。うちにある器と馴染むかとひいてしまいましたが、こわごわ使い始めてみると、あれ?とても使いやすい。

漆器といってもカジュアルです。とくに、上の写真で使っている、口の広い形の平椀は盛り付けやすく使い勝手が幅広い。スープはもちろん、ちょっとした常備菜を盛り付けるにも大活躍だし、ふだんのご飯茶わんをこういう塗りものに変えるの、ありかもと思いました。刷毛目がついていて傷もつきにくく、気楽に使えます。

しかもこれ、なんと食洗機対応なんです。漆器としては本当に画期的ですよね。「硬漆」は新しく開発された技術で傷つきにくい強い漆なんだそうです。(じつは途中までそのことを知らずに手洗いしていました…)

漆器は軽く、手ざわりや口当たりがよく、熱いものを入れても持ちやすくて、かつ保温性もある。せとものと違って割れにくいから子どもが使っても安心です。それは私たちも普段の生活で実感しているはず。
こんなに高性能なのに、なぜみんなが漆器をお椀以外に使わないかといったら、お手入れが大変そうということと、なんとなくイメージとして感じる格式の高さ、現代の食卓に合わないデザインかなと思います。

昔の物事から新しい知恵を開かせる「温故知新」という言葉がありますが、いまどき、それをやっていると昔の良いものはどんどんなくなってしまう。今必要なのは、目の前のみんなの暮らしをよーく見て、そこに古い知恵をどう使うか考えていく「温新知故」なんじゃないか。この器を使いつつそんなことを考えました。

多くの人が求めているのは、特別な日に使う特別な器ではなく、日常に気兼ねなく使えるシンプルで飽きのこない器です。その点、この漆器は、お手入れの点は完全にクリアしていますし、カジュアルな雰囲気もあります。
ブルーなどはおいしそうに見せるのが若干難しい色なので、もう少しおだやかな色のものも選べると、色物をアクセントに使って今っぽい食卓につながるかもしれないと感じました。

売る人が「気軽ですよ、今の暮らしに合いますよ」というのではなく、商品そのものが暮らしを語りかけてきたら最高です。

++
同じくじわじわと良さを感じたもうひとつの商品が、この越前木工の丸いトレー。お盆って、これまでほとんど使いませんでした。もちろんいくつか使ってみたのですが、どうもしっくりこない。うちは少人数家庭なのでお盆なしでも困りません。

RIN&CO. 越前木工 丸トレー

このトレーは気がつくとつい使っているのです。さりげないというか、お茶にもコーヒーカップにも汁物碗にも合う感じ。
なにより、手に持ったときの縁のカーブがなんとも気持ちいいんです。急に立ち上がっているわけでもないし、かといって浅すぎない。指をかけるとほっと落ち着くこの感じ。

なにがいいのか、理由はよくわからないです。なんだか自分に合ったんですね。道具にはそういうところがあると思います。

撮影にもよく使わせてもらっています。

このお盆の上の、THE SOUP SPOONも、自然に手に取ってしまう道具でした。柄が丸くて適度な重みがあって、持って落ち着くカトラリーです。

++++

さて、ご紹介した道具たち、いかがでしたでしょうか。今回は私が選ばせてもらっていくつか使った商品の中から、特に良いと思ったもの、紹介したいと思ったものを書いてみました。ひとめぼれのもの、使った瞬間すぐわかるもの、じわじわ良さがわかるもの。道具は人にも似ています。

自分のこれ!という道具と出会うことはそう簡単なことでもないと思っています。でも、考えてみてください。この先の人生から食べるということがなくなるとしたら、それは死ぬとき。だからキッチン道具選びには長い時間をかけてもいいのです。出会ったり別れたりを繰り返しながら、これ!という一生ものの道具と出会えたら、暮らしは少しずつ豊かになっていくはずです。

みなさんも、自分にぴったりの道具を探し当てられますように。

文:有賀薫
note

<掲載商品>
DYK ペティナイフ
DYK ステンレス お玉
THE 醤油差し
THE SOUP SPOON
家事問屋 だしとりあみ
RIN&CO.

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*この記事は、中川政七商店が運営する合同展示会「大日本市」の「カタリベ」企画で書かれた記事を再編集して掲載しました。

秋を愉しむ。暮らしの中のひと手間。

秋ってなんとなく、四季の中でも「愉しむ」という言葉がぴったりな季節のような気がします。趣があって奥行深い豊かな季節ですが、自分から動かないとするっと去っていってしまうような。
季節の移り変わりを意識して、旬のものを暮らしに取り入れる。あえて手間をかけてやってみる。そんなことが、一日いちにちの暮らしを積み重ねていくのだなと感じます。
日々の暮らしを作業にしてしまわないように、秋を愉しみ尽くそう、というのがここ数年の秋におけるささやかな目標です。

そこで今日は、秋を愉しむための暮らしの道具をお届けします。

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旬の手しごとを愉しむ

季節ごとの愉しみといえば、まず思い浮かぶのが旬の味。秋といえば、秋刀魚、さつまいも、梨と美味しいものが沢山ありますよね。
夏のイメージが強いレモンですが、こちらも実は秋が旬なのだとか。
旬のものって、食べるために準備する時間もなんだか少しわくわくしませんか。味わうだけじゃなくて作業する時間ごと愉しむのも旬のものの醍醐味なのかもしれません。
レモンを浸ける時間ごと愉しむ「旬の手しごと」で、贅沢なひとときを過ごしてみませんか。

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秋の夜長を愉しむ

秋の夜は空が澄んで月が美しく見えたり、過ごしやすい気温で快適だったり。いいところが沢山あると分かりつつも、空が明るい時間が短くなることに寂しさを覚えてしまう気持ちも…。
今年は秋の夜長を愉しんでみようと考えて、手始めに和ろうそくを焚いて夜のひとときを過ごしてみました。
炎の揺らぎが与えてくれる癒しの時間は想像以上に心地好いもので。この秋はゆったりと癒される夜の時間を愉しめそうです。

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お酒を嗜む時間を愉しむ

家でゆっくりお酒を嗜むとき、今日はどの酒器にしようかなと悩む時間も愉しいものです。
陶磁器、ガラス、錫に漆器。さまざまな素材と形の酒器。料理を盛り付けるには少しハードルがあるような、繊細なつくりのものや意匠にこだわったものなど、酒器だからこそ使えるようなものも。
洗う時には少し気を使いますが、少し気を使う感じも最後まで嗜んだような気がして嬉しくなります。

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お湯を沸かす時間を愉しむ

涼しくなると温かいお茶を飲む機会がぐっと増えます。去年の秋から使い始めて、もうこれがない台所の景色は考えられない、というのが土瓶です。知人の家にお邪魔した際、土瓶でお湯を沸かしているのがいいなあと思って触発されて取り入れてみました。
特に好きなのが、朝起きてすぐにお湯を沸かす時間。
涼しくなると朝起きる時間が徐々に遅くなってしまうのですが、土瓶を使うようになってからは、静謐な朝の空気の中、こぽこぽと湧く音を聞きながら過ごす時間を愉しみたくて、いつもの秋冬よりも少しだけ早く起きれるようになりました。
ひとつの道具で日常の過ごしかたが変わる。暮らしの豊かさを教えてくれた道具です。

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一つひとつ愛着のある道具とともに、暮らしにひと手間くわえて。秋を愉しみつくそうと思います。

【心地好い暮らし】第1話 青いレモン酒をつくる

何かを漬けるという行為をしている人はどれぐらいいるのだろうか。
炒めるでも和えるでもなく、切ってあるいは剥いて、調味料をまぶして瓶などに詰める。
すぐには食べられない。見守る育てる系の家事。

ピクルスや浅漬け辺りが初心者。梅干し、ぬか漬けは準備の時間と日々の手間を想像すると中級者な感じがする。家でアンチョビつく ってますとかになるともはや上級者過ぎて、いったいどういう経緯で?と聞きたくなってくるレベル。
私には絶対無理だ。

それでも奈良に越してからずいぶんと家で料理をする機会が増えた。そもそもご飯を食べに行く店が少ない(ここ数年、本当に美味しいお店が増えました。嬉しくてしょうがない!)前職に比べて家に早く帰れるようになった。会社のキッチンに「庭になった梅の実お裾分け」が積まれてあって創作意欲が湧いた。などなど、それまでは記憶の片隅に祖母や母がしてた事として保存されていた風景が思い出され、少しずつ自分でもつくり始めた。

だからといって、毎年決まって梅を漬けているか、毎日糠床をかき回しているかというと、全くそんなことはない。地方都市奈良とはいえ毎日そこそこ忙しいし、ある程度の気持ちの余裕がないと、すぐそこのコンビニで買えるものを、人はつくったりしないのだ。



だからこそ、この漬けるという行為は癒しなんだなと思う。
美味しいものを自分でつくりたいという欲求より、この時間この作業に身をゆだねることを贅沢だと感じている気がするし、なんでこんなに穏やかに愉しいのだろうと不思議な気持ちにさえなってくる。

人間はやっぱり便利を優先して、自らつくること、そこから得られる喜びを失ってしまったのかもしれないなぁ…と考え始めるぐらいの時間でレモン酒ができあがった。
なんと清々しく目に美しい食べもの(飲みもの?)なんだろう。それにあのつくっている時に台所を包むレモンの香り。
みなさん、やるべきですよ。最後は瓶を眺めながら声にだして言ってしまうくらい心地好い時間だった。



ここまで読んでいただいて、最後に商品へ誘うボタンがあるってどうなんだろうなと、経営者とは思えない気持ちになりつつも、青いレモンは手に入れるのが結構難しいのです。
どちらかというと材料は揃えておきましたので。という気持ちです。

この商品でなくとも、ぜひ次の休みに時間があれば何かを漬けてみることをおススメします。漬けるための静かな時間、見守る愉しみ、出来上がりの喜び。
全編通して想像以上の癒し効果に驚かれるのではないかと思います。



書き手 :千石あや




この連載は、暮らしの中のさまざまな家仕事に向き合いながら「心地好い暮らし」について考えていくエッセイです。
次回もお楽しみに。

秋を迎える準備。十五夜の楽しみかたをお届けします

気が付けば、朝夕には涼しい風が吹き込むようになりました。
厳しい暑さの峠を越す処暑を迎えると、いよいよ秋の気配が近づいているように思います。
次の季節への気配って、どうしてこんなにときめくのでしょうか。いそいそと、季節を迎え入れる準備をはじめたくなります。

9月といえば、季節を楽しむのにぴったりな行事「十五夜」が待っています。
そこで今日は、十五夜の楽しみかたをお届けします。

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月を愛でる時間を楽しむ「十五夜」

十五夜って素敵な風習だなと思いつつ、なんとなく通り過ぎてしまう、という方も多いのではないでしょうか。
私自身、中川政七商店に入社するまでは、あんまり意識したことがない行事でした。いつ?なにをしたらいいの?を、ぼんやりとしか理解していなかったように思います。

そこでまずは、簡単に十五夜のおさらいを。

<十五夜とは?>
十五夜は中秋の名月ともいわれ、毎年旧暦8月15日(現在の9月7日~10月8日の満月の日)に行われる月見の行事です。
1年の中でも空気が澄み月がきれいに見えることから、月を愛でる行事として定着しました。

季節のしつらい便 お月見」の歳時記のしおりより。月の名前。

つまり、季節ごとに桜や紅葉を楽しむように、一番美しく見えるとされる旬の月を楽しむ行事なんですよね。
2021年の十五夜は9月21日になりますが、美しい満月を見たいからこの日、であって、絶対にこの日じゃないと、と堅苦しく考える必要はないように思います。

我が家は毎年近い週末に、というように、ゆとりを持って毎年少しずつ形の違う月を楽しむのも乙な楽しみ方なのかもしれません。
春には周囲を見渡して桜を楽しむように、仲秋の頃の夜には空を見上げて月を愛でる時間を楽しんでみてください。

十五夜の飾りつけ

十五夜の基本的なお供えについて、紹介します。

飾りつけの風習は、収穫の季節への感謝を表しています。
丸いお団子を月に見立てて飾る月見団子の他、十五夜の季節に収穫できる里芋やさつまいもをお供えする風習があります。
すすきを立てるのは、稲穂に見立てているのだそうです。

三宝にお団子をお供えする場合、十五夜に由来して、15個飾るのが定番とされています。
最下段は3列3個ずつ、中段は、2列2個ずつ、最上段は1列2個なのだそうです。
私は最初にお供えした時、1番上を1個にしてしまって、あれ?14個しか乗ってない、と慌てたものでした。

十五夜のお団子を味わうレシピ

お団子をつくったあとには、おいしく頂きたいですよね。
簡単につくれるレシピを教えていただいたので、よければご覧ください。
私は中でも、月の色から見立てて、みたらし団子にして味わうのがお気に入りです。

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十五夜を楽しむ「季節のしつらい」

小さなお月見飾り

十五夜のお団子は15個が定番とされていますが、簡易化して5個を飾る場合もあるようです

十五夜は楽しみたいけど、自分でお団子をつくるのは時間がなくて大変!という方におすすめなのが、この「小さなお月見飾り」。飾ると秋の訪れを感じることができ、サイズ感もちょうどいいお飾りです。
食べ物じゃないのでしばらく飾っておけて、家の中にそっと季節を取り入れてくれます。

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季節のしつらい便 お月見

お月見を楽しむ道具がまとめてセットになった、体験キット「季節のしつらい便 お月見」。
うさぎの飾り、水引のすすき、お団子の粉、三宝、懐紙、竹串、歳時記のしおりがセットになっていて、これ一つで十五夜を満喫することができます。子どもから大人まで楽しめるお月見飾りセットです。

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十五夜の楽しみかたについて、お届けしました。
私は今年、平安時代のように、盃に映る月を楽しんでみようと思います(平安時代の頃は、空を見上げるのではなく、水面や盃に映った月を愛でていたそうです)。

料理道具を知り尽くした飯田屋の店主に聞く、「幸せな食事を増やすための道具とは?」

一流シェフが愛用する調理道具や、長年お店で道具と向き合ってきた店主が「これは」と手に取るもの。

道具を使うことに長けている各分野のプロフェッショナルが選ぶものには、どんな秘密があるのでしょうか。

私たちが扱う暮らしの道具を実際に使っていただいて、ものの良さだけでなく至らなさも含めて感想を教えてもらいました。

本日紹介するのは、浅草・合羽橋にある料理道具専門店「飯田屋」の6代目店主、飯田結太さん。

聞けばさまざまな道具を使いつくし、その良さを日々お客さんに語り尽くしている飯田さんに、さまざまなキッチンツールを使ってみての感想を記事にまとめていただきました。


飯田 結太/飯田屋6代目店主

“超”料理道具専門店飯田屋6代目店主。料理道具ヲタクとして世界中の料理道具を研究。「マツコの知らない世界」「タモリ倶楽部」など様々な番組で料理道具の奥深い世界を面白おかしく発信。自身が仕入れを行う道具は必ず前もって使ってみるという絶対的なポリシーを持ち、日々世界中の料理人を喜ばせるために活動している。
「人生が変わる料理道具」監修
「かっぱ橋商店街リアル店舗の奇蹟」著者


では早速、飯田さんによる「幸せな食事を増やすための道具」を見ていきましょう。

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日本人に愛される「シャキふわ」を生む、おろし金|かもしか道具店「だいこんのおろし器」


実は事務所には300種類ほどのおろし金があるんです。僕はおろし金をいろいろ調べているなかで、道具によって変わる5つの食感があることに気づいたんです。

一番やわらかい食感で口溶けを感じるのが「ふわふわ」、大根を生かじりするみたいな強い食感が「ジャキジャキ」。その間に「シャキシャキ」「シャキふわ」「ふわシャキ」があります。

かもしか道具店 だいこんのおろし器

今回使用したかもしか道具店さんの「だいこんのおろし器」は「シャキふわ」のおろし器なのかな、と。「シャキシャキ感」が強く、食感が少し残る感じのおろし金です。「シャキふわ」は日本人にはこれまでよく食べてきた、つまり家庭にあったおろし金ってこの味わいだったと思うんですよね。

刃のことを僕たちは「目立て」って言うんですが、これは日本人に愛される目立なんだろうなと思います。

そしてこの「だいこんのおろし器」、調理道具であり器にもなってくれる。

おろす部分を外せばこのまま食卓に出せるんです。おろした後、中でちょっとした和え物もできるでしょうし、高さがあるからこぼれにくい。そういう配慮や計算がされてるんだろうなぁと感じましたね……!

あと、僕はこの裏側が大好きなんですよ!
わざと傷がつけてありますよね。これ、シューズの滑り止めと同じ役割なんです。

大根をおろすには力が必要。力がいるって事はつまり滑りやすいんですよ。

樹脂ならシリコンやナイロンのゴムをつけることができますが、陶器だから付けられない。
それを少しでも軽減させるように、裏に傷をつけてスパイクにしたんだろうなと。これも色々考えたんだろうなぁって思いますね。

ちなみに僕は、これでにんじんをおろしてカレーの隠し味に入れるのが結構好きで。
にんじんは細かくおろすとすべて溶けてしまうんですけど、「だいこんのおろし器」を使うとちゃんと食感が残ってくれる。旨味と少しだけ歯触りを表現してくれるんです。

あと、まだ食べてはないんですが、秋の魚の時期になったらもう絶対合いますね……!これを使った大根おろしで食べる、脂たっぷりのサンマなんて、もうどう考えてもルパンと次元みたいなものですよ!(笑)。きっと素晴らしい相性を見せてくれるんだろうなぁと思います。

誰でもたくさん、かんたん、おいしい燻製| かもしか道具店「くんせい鍋」

今まで燻製鍋はいろいろなもの使ってきました。ちなみに、この「くんせい鍋」は8個目ですね(笑)。大きいものから小さいもの、網が2段や3段式、重さが違うものまで……そういう遍歴がある中で、僕はこれ使い続けると思います。すごいよかったです。

かもしか道具店 くんせい鍋

モール系ECサイトで売っているような、いわゆる「初心者用」と言われる燻製鍋って、すごいちっちゃくて。単純に乗っかる食材の量が少ないんですよね。そして燻製って時間かかりますよね。10分ほど火をくべて、20分くらい馴染ませる。1回分出来上がるまで30分位かかるとして、ちっちゃい鍋だと2~3人で食べる時は全然食べたりなくて……(笑)。

だからこそ、食材ができるだけいっぱい入るような形状がいいんですよね。このかもしかさんの「くんせいの鍋」、ちょうどいいです。

蓋の形も、丸いドーム型なのでちゃんと燻煙が充満してくれる。上からも当たるし、下からも当たるし、ちゃんと滞留してくれると思います。

もちろん燻煙は漏れます。でも漏れていいんですよ!

よく燻製鍋って「少しでも煙漏らしたくない」って言う人がいて、特にマンションなんかだと匂いが気になる!っていう気持ちもすごくわかるんです。ただ、適度に煙が漏れてくれないと、生の食材に当たった煙が中に留まって「臭み」や「苦味」変わってしまう。

その煙が少しずつ出てくれたほうが、美味しくできるんです。かもしか道具店さんの「くんせい鍋」は、煙が出るけどもちゃんとおいしい燻製が誰にもできるアイテムだと思います。

すべての料理が喜ぶ至高のスプーン|THE「THE DINNER SPOON」


今回使用した道具たちのなかでもこの「THE DINNER SPOON」、圧倒的に1番でしたね……!

僕はスプーンが大好きでこれまでもたくさん使ってきたんですけど、その中において「ここまで主張しないスプーンってなかったなぁ」と正直びっくりしました。

THE DINNER SPOON

美しい見た目や使いたくなるデザインであることはもちろん大事ですが、スプーンの素晴らしさはそれだけじゃない。大事なのは「掬った時」と「口に入れた時」と「口から抜いた時」なんですよ。

まず口に入ったときに、スプーンは主張しちゃいけないんです。

脇役です。主張していいのは食材だけ。100%食材を舌に感じさせるような働きをするというのが僕の中でのカトラリーの立ち位置なんです。「THE DINNER SPOON」はそれを忠実にできていた。

ちなみに、スプーンが口に入ったときに当たるのは、側面とくぼみの頂点。この2箇所の口へのあたり具合でスプーンが主張するかどうかが決まってくるんですね。

じゃあ当たらせないようにするには何が1番いいか?というと、単純に平べったくすればいいんですよ。ただ平べったくするだけだと何も掬えなくなってしまう。

そこを「THE DINNER SPOON」はギリギリまで薄くして、そして深みも持たせている。

そして僕が感動したのがここのスプーンの下の頂点。

すごく後ろの部分に頂点があるんですよ。

僕たちはスプーンの凹んだところを「ツボ」と呼びます。頂点は通常ツボの真ん中にあるんですよ。でも「THE DINNER SPOON」は、できるだけ後ろのほうに頂点をずらしているんです。だから口当たりがしない。これは絶対計算ですね。

僕はこういったカトラリーも、料理道具だと思ってます。

料理人がつかう料理道具があって、そしてカトラリーは「一番最後に調理する道具」なんですよ。ここに関しては主張しちゃいけない。何故かって、料理人の意図したものを100%の状態で食べる場所なので何も主張しないことが大切。だから、料理道具以上に使い勝手がすごく問われるアイテムなんです。その使い心地は調理に使う道具よりよっぽど難しいと思っていて。

その点において「THE DINNER SPOON」は圧倒的、本当に素晴らしいアイテムでした。

フォークの柄の決定版|THE「THE DINNER FORK」


一口にカトラリーの柄といっても、平べったいもの、球体、木製などいろんな柄がありますよね。たくさんの柄を持ち比べてきましたが、「THE CUTLERY」シリーズの柄はすばらしいですね……!

とくにこの柄で使い心地が素晴らしいと思ったのが「THE DINNER FORK」。フォークとこの楕円型の柄の相性の良さは、ナイフやスプーンと比べて一線を画しますね。

THE DINNER FORK

なぜかと言うと「刺す」からなんですよ。

刺すときに柄に指を当てると思うんですが、これって平べったい方がいいんです。少し平べったいことで、何か刺した時に、感触がすっと指に返ってくる。食材の柔らかさを指で感じることができるんです。

これってすごく大事で、料理って舌だけじゃなく、鼻も目も指先も、五感すべて使った総合エンターテイメント。「THE DINNER FORK」は刺したときにすばらしい「触感」を与えてくれるんです。

フォークに関してはいろいろな柄の形が出ているけれど、もうこれこそが定番でいいんじゃないですかね……! みんなにもぜひ触ってもらいたいです。どんな風に使っても、きっと全部気持ちいいと思います。

強いて気になるところを言うとするなら……刺すということに対して突出しているので少し口離れが気になっちゃいましたね。

でも、フォークの刃が甲を描くことによって食材が滑らないことや回しやすいという意図はすごくわかって、面白い道具でした。

賛否両論が起こる!? 道具の進化を感じるカトラリー|THE「THE DINNER KNIFE」


「THE DINNER KNIFE」は挑戦的な商品ですよ。ギリギリところを狙った、賛否両論が出るアイテムかなと。

まずテーブルナイフでほとんどないと思うんですけど、これ両刃なんです。言うなれば、切れない包丁なんですよ。

THE DINNER KNIFE

三徳包丁やペティナイフなど、切れなきゃいけない両刃の包丁は「まな板」という柔らかい台が刃をキャッチしてくれます。それに対してテーブルナイフの相手はまな板ではなくて、硬い陶器や器、つまりセラミックなわけです。

実は包丁の切れ味ってまな板の種類によって変わっていくんですよ。

昔、大妻大学が発表した文献によると、木のまな板とプラスチックのまな板を8000回上から叩いていく実験をしたところ、木のまな板の方が刃の先端が鋭角なままだったんです。何が言いたいかと言うと、包丁の切れ味の持続性はまな板の硬さに比例してくるんですよ。固ければ固いほど、持続性は落ちてしまう。

つまり、両刃のナイフがテーブルで使う堅いお皿なにぶつかると、切れ味がどんどん落ちていく。刃欠けの可能性すらあるんです。

なので、きっと「THE DINNER KNIFE」は開発するなかでギリギリ切れないような刃つけをしているのだと思います。

「すばらしいね」「これすごい挑戦だね」って言う方もいれば、「すぐに切れなくなっちゃったじゃないですか」って言う人も出てくる恐れがある……。そういう意味でも、少し玄人向けの商品なのかなと思いました。

ただ、これはいままであまりなかった商品ですね。今回の道具の中で、一番「道具の進化」に携わっているものだと思います。

長く愛して一生の宝物になる、鉄の玉子焼き器|フォームレディ「ambai / 玉子焼」

卵焼きっていま爆発的に売れてるんですよ!

飯田屋でも欠品を起こすレベルで、コロナになってからおうち時間が増えて「プロが使うような本格的な調理器具使っておいしいものを作りたい」というニーズがすごい増えてるんです。

なかでも「鉄製」と「銅製」のものは超売れ筋! 特に銅製のものが人気ですが、これから卵焼きを本格的にはじめようと思っている人には、フォームレディさんの「玉子焼」の方を勧めますね。その理由は「形状」と「内側の加工」にあるんです。

ambai 玉子焼 角小

まずはこの形状。昔ながらの銅製の玉子焼き器と比べると、先端が少しクランクしてるんですよ。角度が斜めになっているので菜箸を入れやすく、玉子の巻やすさがあります。

そして実際に使っていて「これはようやった!」と思ったところなんですけど、この玉子焼き器、四辺がなめらかで丸いんです。これ、洗うときに便利なんですよ〜!(笑)

僕、家では銅製の卵焼き器を使ってるんですけど、四辺が直角だとどうしても汚れが溜まりやすいんです。やっぱり洗うところも含めて料理だと思うんですよね。使う人の気持ちを考えて、そこをカバーしてくれるんだな……って思いました。

そして内側の加工。これよく見てもらうと表面がざらざらしていて、わざと傷をつけてるんです。

これは「ファイバーライン加工」と言って、鉄版の表面に凹凸を施して鉄特有の「こびりつきやすい」という弱点を少なくした加工なんです。「凹の部分」には油が馴染みやすく、「凸の部分」は接地面を少なくしてこびりつきにくい。使い始めようと思った方が少しでも使いやすくなるようにしてくれているんです。

そして鉄のフライパンって、手間をかけた分だけ愛着を感じさせてくれる道具なんですよ。

使えば使うほど油が馴染んでいて、どんどん使いやすくなってくる。鉄とか銅の料理道具はできるだけ若いうちから使ったほうがいいと思います、一生の宝物になって自分の人生変えてくれますから!

熱伝導でふわふわ、冷めても美味しい玉子焼き!|アイザワ「純銅卵焼き 関西型」

銅は元々「ザ・職人」のもので、「俺たちはこれ以外使わないから」と言わしめるほどの材質なんです。そしていま、ご家庭で使いたいという方が本当に増えて、銅の卵焼き機はバカ売れしてるんです……!
でも使いはじめて最初に戸惑うのが、銅の卵焼き器って巻きににくいんですよ! 四辺が垂直になっているんで「菜箸どうやって入れんの?」って(笑)。やっぱり元々プロの道具なんですね。使っていくうちに、腕の力で巻けるようになっていきます。

アイザワ 純銅玉子焼 関西型

「銅の卵焼き器」がいいのは理由があって、それは熱伝導の良さ。

卵焼き器って下だけじゃなくて側面も使いますよね。熱伝導が良ければ、火が当たっていないところも熱くなり、熱が均等に行き渡るんです。つまり銅の卵焼きというのは熱ムラがない。

それが何に繋がるかと言うと、味ブレが起こりにくいんです。卵に対して安定的に、下からも横からも熱を伝えることができるおかげで、冷めてもふっくらとした卵焼きになるんです!

あと「純銅卵焼き」の好きなところが、もうひとつありまして。

僕、ずぼらな男なので「やっちゃった〜」って言って、木柄焦ちゃったりするんですよ……(笑)。でもこれ、柄が外せるんです。木柄のリペアパーツだけで買って、取り替えることができる。それが好きなんですよ。

今、使い捨ての道具って多いんですよね。道具は使い続けるほど、どんどん手に馴染んで、自分の手の延長線上みたいに可愛くなる瞬間が訪れる。でもその時に道具の交換時期になっちゃうこともあるんです。

銅の卵焼き器は、柄の部分が焼けちゃっかりカタカタしてくるかもしれない。でも、この部分だけ交換すればいいんですよ、この卵焼き器の本質は銅板なので!

これはもう長く使わせるための設計だと思いますね。

生まれ変わってももう一度使いたい菜箸|ヤマチク 「盛付箸(無塗装 28cm)」

ヤマチクさんの「盛付箸」、ほんとに素晴らしかったです。

ヤマチク 盛付箸

僕は学生時代に銀座の箸の専門店で働いてたんです。箸ももう、何百本持ったかわかんないレベルで持ってた。だからこそ思うんです、ヤマチクさんの箸は素晴らしすぎると……!

菜箸だけもでも何本も持っていて、ステンレス、樹脂、シリコン、チタン、竹……。長さも23cmや30cm、すごい大きいのだと45cmのもあります。そして今回使用した「盛付箸」、いろんな箸を使った中で、断トツでナンバーワンですね。

まず使ってて軽いんですよ!「軽い」ってやっぱりいいですね。盛り付けやりやすいし、かき混ぜるのもすごくやりやすいです。

そして持ち手の丸形。

箸の持ち手って四角や三角、六角もありますが、僕の中での至高の形は「丸」。丸が一番指先への当たりがいいんです。

料理していると、フライパン持って鍋持って菜箸持って……と、持ち替えることたくさんありますよね。この「盛付箸」はどのタイミングで取ったとしても指先への当たり心地が変わらず、いつもと同じ感覚で調理ができるんです。それが好きなんですよね……。

そして何よりもバランス、つまり長さがちょうど良い。調理器具によって合うものはそれぞれですが、普通のフライパンやお鍋であればこの「盛付箸」で充分です。

あとこれは使っていて楽しい、料理人のテンションを上げる箸なんですよ! 地球上の全員ではないと思いますが、かなり多くの料理人を幸せにしてくれる道具だと思います。

麺に優しい、手にも優しい。|ヤマチク 「パスタ箸(無塗装 33cm)」

「パスタ箸」を使うと、麺や具材が傷つかないですね。

ヤマチク パスタ箸 

鮭のパスタを作ると、どうしても身が崩れてしまうことが多かったんですが、これで混ぜている時は崩れなかったですね。箸先が全部丸いことで、食材へのあたりがすごく柔らかくなる。そこがしっかり考えられているんだなぁと思います。

あと、手なじみが良いですね。
麺って意外と重いんですよ。飯田家ではパスタを一度にたくさんは作らないんで「盛付箸」でも充分でしたが、料理人の方は一気につくるので麺が重かったりするんですね。その時に細い箸だと混ぜる時に指に当たってしまうのですが、この「パスタ箸」は太いのでその圧が逃げるんですよ。

パスタのための箸と聞いて「なるほど、そこまで考えてやるんだ!」とちょっと楽しくなりましたね。箸は調理によってそれぞれ良い形であるはずなので、ヤマチクさんにはこれからもいろんな研究してもらいたいです。

飯田屋が考える「幸せな食事」のつくり方とは

僕たち道具屋がなにを目指すかと言うと、料理人のテンション上げることなんです。料理人が楽しくなると、それがだれかの人生の幸せに繋がると思っています。

僕はこれを「87,600」という表現をしています。1日3食、それが365日、人生80年間だとしたら……3×365×80、合計して「87,600」。この数字を飯田屋では「人生で連続する最高の幸せのチャンス」という言葉で定義してるんです。

でも87,600回すべてを「幸せでおいしい食事」にするのは難しい。ただお腹を満たすだけ、エネルギー補給のための食事なんていくらでもありますよね。

ただ、その87,600回の食事うちたった10回に1度でも「すごい幸せでおいしい!」と言う瞬間に巡り会えたなら。つまり8,760回……いや、人生80年と言わずもっと増えているので、10,000回近いチャンスがあるんですよ。このチャンスは、人生を変えるには充分な数だと思っていて。

そして、その幸せでおいしい食事を増やすためには、絶対に料理人が必要なんですよ。

たとえばの話、料理って「ひとてま」を増やすだけで化けませんか?

今日はいつもよりきれいに食材を切ってみようかな、ちゃんと塩分量測ってみようかな、見栄え良く盛り付けてみようかな。そのたったひと手間で、料理はうんと良くなります。その時に自分が楽しく思える料理道具を使ってみる。そうするとテンション上がって、その「ひとてま」が苦じゃなくなるんですよ。

だからこそ「料理人のテンション上げる道具」の存在というのはすごく大切で、料理人がテンションが上げてつくった料理っていうのは人を幸せにするはずなんです。「幸せでおいしい食事」になるんです。

文:飯田結太


<掲載商品>
かもしか道具店 だいこんのおろし器
かもしか道具店 くんせい鍋
THE DINNER SPOON
THE DINNER FORK
THE DINNER KNIFE
ambai 玉子焼 角小
アイザワ 純銅玉子焼 関西型
ヤマチク 盛付箸
ヤマチク パスタ箸 

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*この記事は、中川政七商店が運営する合同展示会「大日本市」の「カタリベ」企画で書かれた記事を再編集して掲載しました。