日本のいいものが集う合同展示会「大日本市」のご案内

全国のバイヤーの皆さまへ展示会のご案内です。

中川政七商店が主催する、工芸を中心としたものづくりメーカー(工芸・食品・化粧品等)が集う合同展示会「大日本市」のご案内です。

2021年6月23日~25日にWHAT CAFE/E Hall(東京・天王洲アイル駅)での開催を予定しています。
過去最大65ブランドの“日本のいいもの”が集結します。

会期中は、ものづくりへの造詣が深い人々を「カタリベ」と命名し、「sio」オーナーシェフ鳥羽周作氏やスープ作家有賀薫氏など6名の専門家、また一般消費者による出展商品レビューを、展示会場およびオンラインでお届けする企画も用意。
また目利きのプロによるレビュー企画「登竜門」や、出展商品の一部を一般消費者も購入できるオンライン企画「推しの逸品」など、展示会の枠を超えた新たな取り組みを実施します。
個性豊かなつくり手たちとの出会いに、ご期待ください。

第7回 合同展示会「大日本市」

【開催日】2021年6月23日(水)~6月25日(金)
【時間】10:00~18:00(最終日のみ15:00まで)
【会場】E HALL(東京都品川区東品川2-1-3)/WHATCAFE(東京都品川区東品川2-1-11)
【出展】65ブランド(+商品展示のみ12ブランド)
衣服/バッグ/帽子/アクセサリー/調理道具/食器/文具/食品など
【来場対象】小売店バイヤー/メディア関係者/ものづくりに関するプロデューサー・デザイナー/出商業デベロッパー/出展検討中のメーカー
【主催】株式会社中川政七商店
【公式サイト】https://dainipponichi.jp/shop/pages/exhibitions202105.aspx


中川政七商店のもうひとつの顔。「工芸メーカーの再生支援」をする理由

中川政七商店には、いくつかの「顔」があります。

一番の柱は、工芸をベースにした生活雑貨メーカーとしての顔。もうひとつ、最近知っていただく機会が増えたのが、「工芸の再生支援をしている会社」の顔です。

「いちメーカーが、なぜ他メーカーの再生支援を?」

その理由は、日本の工芸メーカーをとりまく、決して明るくない状況にあります。今回は中川政七商店の「もうひとつの顔」、再生支援のお話です。

「もう、会社を畳みます。」きっかけはそんな挨拶でした

「もう会社を畳みます」

そんな廃業の挨拶が、年に何件もあったと13代中川政七は振り返ります。工芸は分業制。例えば焼きものをつくるのにも、粘土屋、絵の具屋、型屋、生地屋、窯元…などさまざまな人々の手で支えられています。全国800のつくり手とともに商品開発をする中川政七商店にとって、彼らの廃業は死活問題です。

「このままでは、うちのものづくりもできなくなる」

そんな危機感から2009年、工芸の再生支援をはじめました。

中川政七商店もかつて経営危機に直面し、ブランディングによって再生した経験があります。そのノウハウを生かせば、同じような会社を救えるかもしれない。日本の工芸をこれ以上衰退させたくない。そうした想いが使命感となって、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンのもと、工芸の再生支援プロジェクトが動き出しました。

旗印は、「日本の工芸を元気にする!」

この時、再生支援に一番に手をあげたのが、後にオリジナルブランド「HASAMI」が大ヒットする、長崎県波佐見町の焼きものメーカー、マルヒロでした。

長崎県波佐見町は、長く有田の下請け産地としてものづくりをしてきた町です。しかし生産地表記の厳密化の波を受けて「波佐見焼」と名乗りはじめると、売り上げが激減。マルヒロも、借金が売上の1.5倍という倒産寸前の状況でした。

再生支援に取り組む期間は約2年。その間に何度も現地に足を運び、決算書の見方から商品設計、年間の製造計画まで自社のノウハウを共有し、一緒にブランドづくりと商品開発を行っていきます。最後には中川政七商店が主催する合同展示会「大日本市」への出展など、流通もサポートします。

2009年、マルヒロとの様子

マルヒロのケースでも、商品開発だけでなく、売上データの管理から梱包の仕方、展示会での商品説明のコツまで、ひとつひとつどうあるべきか、に向き合っていきました。

産地をけん引する一番星に

こうして2010年、マルヒロからオリジナルブランド「HASAMI」がデビュー。ブランド名は「波佐見」という産地を背負う覚悟と、焼きものに釉薬(ゆうやく)をかけるための道具「釉薬バサミ」を掛け合わせたネーミングです。

メインアイテムであるマグカップは、その無骨で愛らしい見た目と、スタッキングできる機能性が受け、大手セレクトショップでの取り扱いや、雑誌への掲載と、一躍「HASAMI」の名が全国に知られるようになっていきます。その後もカルチャー色の強い陶磁器ブランドとして成長し、今では全国の小売店約700店で取り扱われるという、全国の窯元が憧れる存在に。

マルヒロのファクトリーショップ

この「HASAMI」のヒットを契機に、マルヒロは経営を少しずつ立て直し、 2015年にはファクトリーショップをリニューアル。2016年には周辺4町を巻き込んだイベント「ぐるぐる肥前」を成功させるなど、近年の波佐見焼大躍進の立役者となりました。波佐見の町にも、カフェや雑貨店が増え、泊まりがけで訪れる旅行者も多く見られるようになるなど、嬉しい変化が生まれています。

大切なノウハウを他社に共有する理由

時おり、「なぜ、自分たちの大切なノウハウを他メーカーに共有するのか?」と聞かれますが、この取り組みを通して日本各地の工芸がより輝けば、使い手にとっても、魅力的な暮らしの道具が増えることになります。工芸の使い手が増えれば、つくり手も潤います。そうして全国のつくり手が元気になれば、私たちも、ものづくりを続けていくことができるのです。

展示会「大日本市」の様子。つくり手がバイヤーに直接商品の魅力をプレゼンする

現在、工芸の再生支援は新潟三条の包丁、兵庫県豊岡のかばん、大阪和泉のカーペットなど、50を数えるまでになりました。「大日本市」ではデビューを果たしたブランドのつくり手が集い、生き生きとバイヤーさんに自分たちのものづくりの魅力を語っています。

中川政七商店の店頭やオンラインショップにも、こうして生まれた全国のアイテムが自社アイテムと共に並び、日本の工芸の魅力を発信しています。

全国には300の工芸産地があると言われます。その全ての火を絶やさず、生き生きと輝く未来を目指して、私たちは歩みを止めず、「日本の工芸を元気にする!」取り組みを続けていきます。

【季節のしつらい便】部屋を飾る感覚で由来も学べる七夕飾り

我が家では、子どもと手拭いや手づくりの飾りで部屋を飾り付け、季節を楽しんでいます。
最近では、梅雨入りにあわせかたつむりをつくって飾ったばかりでしたが、4歳の娘の心は早くも次へ。
「次は何つくる?夏は何つくったらいいかな?」「その前に七夕あるよ」という会話から、七夕についてたずねると、「折り紙で飾りをつくって笹につけること」。
どうして飾るかとの問いには「お部屋をかわいくするため!」(笑)。

それも大切な理由だけど、せっかく楽しみにしている行事、由来や飾りの意味を知ることができれば、もっと楽しめて思い出になるのでは、と思いました。そこで、以前から気になっていた「季節のしつらい便 七夕」を体験してみることに!

「季節のしつらい便 七夕」は、手拭いでできた笹の絵柄のタペストリーと、切り紙飾り用の和紙、でんぐりシート、短冊、こよりがセットになっていて、笹飾りのタペストリーをつくることができます。
また、今回体験したいと思ったきっかけである七夕にまつわるあれこれを解説したしおり付き。

娘に見せると、「わぁー、七夕!作りたい!」と一目見て目を輝かせます。

つくる前に、しおりを一緒に読むことに。
織姫と彦星が離れ離れにされたというエピソードには「えー、そんなんかわいそう」との感想が。年に一回、七夕の日だけは会えることを聞いてほっとした様子で「きれいに飾って見せてあげよう!」とやる気もアップ。お願いごとをする日、と理解したところで制作スタートです。

まず、和紙の切り紙飾り。飾りに込める願いを説明しながら何をつくるか相談します。折り紙とは違う和紙の感触を楽しみながら折り、私が下絵を描いて、はさみでカットに挑戦。曲線は難しかったですが、直線はチョキンと一回切りできました。折りたたんだ和紙を丁寧に広げては、あらわれる形に「かわいい!」を連発。

次はでんぐり飾りです。こちらはテープで貼って広げるだけ。でんぐりシートを広げる時に、指に力が入って形が潰れそうになりながらも、何とか形になりました。

そして、短冊にお願い事を書きます。たくさんある中から、最近はまっていて頑張っていることの上達を願うことに。「じがじょうずになりますように」「なわとびがじょうずになりますように」。下書きを確認しながら真剣に書きました。

飾りと短冊にこよりを通すと、いよいよ飾り付けへ。

「思いが結ばれるように、お願いが叶いますように、ってこよりを結ぶんだよ」とひとつずつ込めた願いを確認しながら結びます。

ホームページを見てつくった七夕人形も一緒につけて完成です。娘は飾りにタッチしてみたり、うっとり眺めたり、達成感でいっぱいの様子。「短冊書くの頑張ったね」「お母さんも切るの頑張ったね」と称え合いました。

ひとまず完成しましたが、まだ飾りを増やしたい娘。余っていた和紙でつくり足し、折り紙で輪飾りも作ってテープでつけました。「まだつけれるんちゃう?」と、更につくり足す気満々の娘。七夕当日までにどんどん賑やかになりそうで楽しみです。

その後、2歳の妹にタペストリーを見せながら「これはね、お願い事をしてるんだよ」と語っている姿を発見。娘なりに理解してくれたんだと嬉しくなりました。子どもにとって、自分で調べて学び、形にすることはかけがえのない経験だと実感。素敵な体験をくれた「季節のしつらい便」に感謝しつつ、これからも、季節ごとの行事や風習について、子どもと一緒に楽しく学びたいなと思いました。


<掲載商品>

季節のしつらい便 七夕

【職人さんに聞きました】3児の父が手がけた、親子のための器

家で過ごす時間が増えた2020年。

中川政七商店から、親子の「食べる時間」をいつもよりちょっと深くする食器がデビューしました。

その名も「親子のための器」シリーズ。

お子さん向けの食器というと、落としても安心な木製やプラスチックのものも多いですが、
このシリーズはちょっと違います。

「落としたら割れてしまうという経験も込みで、ものに触れる時間を楽しんでもらいたい」

自身も4歳の子を持つデザイナーがそんな思いから企画したのが、つるつる、ざらざら、「触感」を楽しめるやきものの食器です。

平皿、飯碗、汁椀、マグカップの4アイテムを展開。汁碗以外は全てやきものです

たとえばマグカップは、底の部分に器をコーティングする釉薬をかけていません。

持った時に手の中でつるつる、ざらざらと違った手触りが感じられるようになっています。

一方で、子どもが持った時の安全性や、使いやすさも妥協はしたくない。

重すぎず、軽すぎず、丈夫で、やきものの風合いが楽しめる素材‥‥

検討に検討を重ねてたどり着いたのが、陶器と磁器のあいだの性質を持つ、「せっ器(半磁器)」でした。

やきものの中でも作るメーカーの少ないせっ器を手掛け、親心の詰まった商品のアイデアをかなえたのが、山功高木製陶です。

デザイナーの親心をかなえた、せっ器(半磁器)とは?

「ざらざらとした土の触感を味わうなら陶器ですが、陶器は薄く作ると欠けたり、割れたりしやすいんです。かといって厚くすると重みが出る。

薄く作っても丈夫なのは磁器ですが、今度は土っぽさがなくなります。

せっ器はある程度薄く作っても丈夫で、土っぽい手触りも味わえる。ちょうど陶器と磁器の中間のようなやきものなんですよ」

そう教えてくれたのは代表の髙木崇さん。デザイナーと一緒に試行錯誤しながらシリーズを作り上げました。

工房のある岐阜県土岐市は、古くから美濃焼を作ってきた町。陶器も磁器も手掛ける一大産地です。

近くの橋も、やきもので装飾されていました

「産地は分業制が進んでいて、たとえば駄知という町はどんぶりの産地として有名です。同じ市の中でも地域ごとに作るものが分かれているんですね。
うちの工房がある泉町は、『玉煎茶 (たませんちゃ) 』ってわかります?昔、公民館に行くと必ず見かけたような、青地に白い水玉模様の入った湯呑みをずっと作ってきた町でした」

あ、見たことある!という柄。こちらはお茶碗タイプ

しかし、こうした湯呑みを使ってお茶を飲むニーズが年々少なくなり、山功さんは作れるものを増やそうと、せっ器を手掛けるように。

陶器と磁器のいいとこ取りのような性質を持つせっ器ですが、あまり知られていないのは、作られるようになったのが比較的新しい時代だからだそう。

今回のシリーズがずらりと並びます

日本有数のやきもの産地であるこの一帯でも、手掛けるメーカーは限られるそうです。

「時代の変化に対応していきつつ、いろいろやっていくうちに扱う素材が増えて、アイテムもマグやプレートのような洋食器が増えて。気付いたら何でもできるようになってしまったっていう感じですね」

実は今回の器シリーズ、シンプルなつくりのようで、親子で使うシーンを想定したさまざまな設計の工夫がこらされています。

たとえば飯碗は、子どもの手で持った時に全体は「つるつる」、高台付近だけ「ざらざら」の触感を楽しめるように大きさ、厚み、重さを調整。

欠けやすい縁の部分は、厚めの「玉縁仕上げ」で丈夫になるようひと工夫。

平皿は、中の料理がすくいやすく、汁気のあるものも入れやすいように縁を立たせてあります。

デザイナーのイメージ、設計図と、前工程を担う生地屋さんや型屋さんの意見、高木さんの経験を掛け合わせながら、何度も試作をしてたどりついたかたちです。

「それと」

と髙木さんがおもむろに平皿の裏を見せてくれました。

「平皿だけは裏面にも釉薬をかけて、つるつるにした方がいいですよと提案させてもらいました」

重心が低く、置いて食べることが多い平皿は底部分を手で持つことが少ないので、釉薬が全体にかかっています。

その分サッと洗いやすく、親にも優しい設計です。

実は高木さん自身も、3人のお子さんを持つパパ。

作り手として、親として、どちらの経験ともが「親子のための器」のディティールに活きています。

工房には小さな自転車や似顔絵のイラスト、手作りの愛らしい器まで、お子さんの存在を感じるものがそこかしこにありました
娘さん作のお皿

「上の子は、学校から帰ってくると家に帰らずに真っすぐ工房に寄るんですよ。

後を継ぐのかわかりませんが、もし将来やりたいといった時に、ものづくりが変わらずできる環境は残してあげたいですね」

親子のための器シリーズは、大きくなっても使えるシンプルなデザイン。

いつかデザイナーや高木さんのお子さんが大きくなった時に、食卓を囲みながら「この器はね‥‥」と語る日がくるかもしれません。

企画から製造の現場まで、親心がたっぷり詰まった「親子のための器」シリーズでした。

<取材協力>
株式会社 山功髙木製陶

<掲載商品>
親子のための器

<合わせて読みたい>
【デザイナーが話したくなる】親子のための器

たった3枚の布からできた「たっつけパンツ」、普段着にちょうどいい理由

ちょっとした家仕事に動きやすく、
ちょっとそこまで、にもきれいなシルエット。

普段着にちょうどいいかたちを目指して、あたらしい定番パンツが中川政七商店に加わりました。「たっつけパンツ」というちょっと変わった名前は、日本の労働着がルーツになっています。

「たっつけって、元々は武士が狩りに行くときに履いていた立付(たちつけ/たっつけ)という履き物で、だんだん畑仕事をする人たちの間に広まっていったようです」

デザイナーの河田めぐみさんは、今の暮らしにあう新たなパンツづくりのヒントを、日本の労働着の歴史の中に探って行きました。

「中川政七商店には『もんぺパンツ』という日本の労働着をベースにしたパンツがあって、発売以来ずっと人気のロングセラーです」

中川政七商店のもんぺパンツ

「もともと労働着は家仕事や畑仕事での動きを考えて作られているので、足捌きがよかったり、とても機能的なんですね。その使い勝手の良さが支持されているのだと思います。

今回も、単に着心地のいいパンツをつくるだけなら簡単ですが、中川政七商店として手掛けるなら、そういう日本の生活の歴史とつながるようなアイテムにしたいと思っていました」

日本の労働着は大きく4つに分類でき、ひとつが「もんぺ」型、そしてもう一つに今回モチーフにした「たっつけ」型があるそうです。

ロングセラーのもんぺパンツは裾がすぼまってふっくらとしたシルエットですが、たっつけパンツは足先が細くすっきり。

自転車に乗る時などにも動きやすいデザインには、元々の「たっつけ」の歴史が詰まっています。

足捌きがよいので、自転車に乗るときにも動きやすい

「たっつけは元々山に狩りに行く時に履かれていたものなので、腰周りはゆったり、足先はすっきりとしたかたちです。これは少しデザインを整えれば、今の暮らしの中でも快適なパンツになるだろうと考えました」

「服のパーツをとる時のパターンもよく出来ていて、一枚の布をできるだけ使い切って無駄にしないよう、直線をうまく生かしながら型がつくられているんです。

昔の型紙を見ると、すごく考えられたかたちだなと感じます。こうした資源を無駄にしない考え方も受け継ぎたいと思いました」

たっつけパンツはたった3枚のパーツから作られています。元々のたっつけの直線的ならしさを受け継ぐだけでなく、その資源を大事にする考え方も生かした仕様です。

シルエットは、機能性だけでなく「ちょっとそこまで」履いていける見た目のきれいさも意識。素材には一年を通して履きやすい綿麻の生地を採用して、日本の労働着のエッセンスを今の暮らしのなかに生かした「たっつけパンツ」が完成しました。

「今も植木職人、大工さんと職業によって違う履き物のかたちがあるように、歴史の中には日本の風習や文化から生まれた形や素材がたくさん埋もれています。

このたっつけパンツも、そうした暮らしの知恵につながりながら、今の暮らしのなかで心地よく活躍する『定番着』になれたら嬉しいです」


<掲載商品>

たっつけパンツ

奈良に新しい集いの場を。鹿猿狐ビルヂングの楽しみ方

猿沢の池越しに興福寺の五重塔を望み、少し坂を登れば春日大社。そのほど近く、細い路地が入り組んだ迷路のようなならまち元林院町に、そのお店はあります。

「鹿猿狐 (しかさるきつね) ビルヂング」。

中川政七商店が300余年商いを続けてきた創業の地に、2021年4月にオープンさせる新しい「集いの地」です。

なぜ、鹿猿狐?

それは集うお店にヒントがあります。

3階建ての建物の1、2階には、創業の地に満を持して構える「中川政七商店」の旗艦店。隣接する1階部分には「たった一杯で、幸せになるコーヒー」を掲げるスペシャリティ珈琲専門店「猿田彦珈琲」、東京・代々木上原のミシュラン一つ星掲載店「sio」によるすき焼き店「㐂つね」が軒を連ねます。

つまり、集うのは中川政七商店の「鹿」、猿田彦珈琲の「猿」、㐂(き)つねの「狐」の3匹。だから鹿猿狐ビルヂング。

新しい集いの場への迷い込み方は二通りです。今日は、創業当時の面影を感じさせるこの入口から、鹿猿狐ビルヂングの世界をご案内します。

ならまちをそぞろ歩いて、はじまりの地へ

近鉄奈良駅から南に伸びるもちいどのセンター街の路地を東へ折れると、昔使われていた鹿避けの柵ごしに、ちらちらと覗くディスプレイ。入口の焼板の壁に真鍮であつらえられた看板には、二匹の向かい合う鹿。

ここはおよそ35年前、中川政七商店が初めて直営店をオープンさせた場所です。

もとは創業家である中川家の住まいだった築100余年の建物の中には、季節ごとの洋服やバッグが並び、奥には御座敷で抹茶やお茶菓子が楽しめる、「茶論 (さろん)」の喫茶スペースが設けられています。

二十四節季に合わせてしつらえが変わる盆栽。手掛けるのは奈良の塩津植物研究所

「茶論」茶道体験をテイクアウト

ならまち歩きを楽しむ人たちの喉を潤すのは、中川政七商店から茶道の新しい楽しみ方・学び方を提案する「茶論」のオリジナルメニュー。

テイクアウト用のカウンターでは、目の前でお茶を立ててくれます。

ここから一歩踏み込んで、さらに建物の奥へ進みましょう。小道を抜けると、そのまま鹿猿狐ビルヂングへつながっています。

小さな階段を降りてゆくと右手にはすきやき店「㐂つね」。正面に真っ直ぐ進めば、猿田彦珈琲と中川政七商店 奈良本店が見えてきます。

鹿猿狐ビルヂング まずはこの3匹にご挨拶

遊 中川本店側からビルヂングに渡ってまず目に飛び込んでくるのが、この大きなディスプレイ。

鹿の背中に猿が乗り、2匹を見上げる様に狐がそばにたたずんでいます。「鹿猿狐ビルヂング」を象徴する3匹の動物たちがお出迎えです。

1階で奈良初出店の猿田彦珈琲と奈良の工芸に出会う

愛らしい3匹の表情を眺めていると、右手から珈琲のいい香りが。鹿猿狐ビルヂングの1階には猿田彦珈琲が奈良初出店。その周りを囲む様に、奈良土産と奈良の作家ものがずらりと並びます。

中川政七商店 奈良本店が大切にしているコンセプトのひとつが、創業の地「奈良」を感じてもらうこと。1階にはこの地を訪れた記念となるようなアイテムを展開しています。

こちらが鹿猿狐ビルヂングの正面入り口。道を一本向こうに越えれば、猿沢池が目の前です。


続いて階段を登って2階へ上がってみると‥

2階 3000点のアイテムが並ぶ、中川政七商店 奈良本店の真髄

ずらりと並ぶ暮らしの道具。

その数3000点ほど全てが、中川政七商店オリジナルのアイテムです。

こちらは、中川政七商店を象徴する文様として新たに考案された「政七紋」のシリーズ

鹿猿狐ビルヂング限定アイテムや、大充実の品揃えの「ふきんコーナー」も見逃せません。

中央の企画展ブースでは、オープンに合わせて「奈良であること」を体感してもらうインスタレーションを展示しています。

土・水・火・風の4つをテーマに、ディスプレイするものは社員総出で集めました。

もうひとつの見どころが窓辺のライブラリーコーナー。

「中川政七商店の100」と題して、ブックディレクターの幅允孝さんが選書した奈良や工芸にまつわる100冊が並んでいます。

下段の電光掲示板には、本の一節が時折流れます。どの本のことばか、ゆっくり探してみるのも楽しい時間です。

ライブラリーコーナーのある窓辺は、手績 (う) み手織りの麻生地が光をやわらげます。

(手織り麻ずらり)四季に合わせて色が変わります。春は桃花と紫香
(軒下)窓辺から見える軒下部分。吉野檜でつくられています

この手績み手織りの麻こそ、中川政七商店の商いの原点。お買い物を楽しんだら、この織物に触れ、体感できる「布蔵 (ぬのぐら)」へ行ってみましょう。

来た道を戻って、遊 中川 本店からの小道を左へ折れると‥

布蔵で中川政七商店のルーツ「手績み手織りの麻」のものづくりを体験

江戸時代、武士の裃に重用され江戸幕府の御用達品にも指定された手績 (う) み手織りの高級麻織物「奈良晒」。中川政七商店は1716年、その商いで創業し、以来300余年にわたり、この「手績み手織り麻」のものづくりを守り続けてきました。

布蔵は、本社機能がここにあった頃に、実際に麻生地を保管するために使われてきた蔵です。入口には従業員が出入りするための下足箱が今も残されています。

そんな中川政七商店の「麻」を守ってきた蔵が、鹿猿狐ビルヂングのオープンに伴い、麻のものづくりを体感できる工房にリニューアル。

事前に予約しておけば、麻に関する道具や布、機織り機が展示される蔵の中で、手績み手織り麻の織物がどの様に糸になり、布として織られていくかを学ぶことができます。実際の織り手さんからレクチャーを受けて、織りの体験を行うこともできます。

1疋(約24m)の生地を織るには熟練の織り子さんで10日かかります

体験をされた方には手績み手織り麻のポーチをプレゼント。体験をする前と後では、生地の見え方がガラリと変わっているはずです。

時蔵 これまでの300年とこれからの100年を見据えて

鹿猿狐ビルヂングにはもうひとつの蔵が併設されています。それが時蔵 (ときぐら)。

ここには、中川政七商店の300年分の歴史がアーカイブされています。一見がらんとした蔵の中にどうアーカイブされているかというと、壁一面が創業の1716年から始まる年号別の桐箱になっているのです。

普段は閉ざされている桐箱。中に各年に関わる資料などが大切に保管されている

年号は、創業の1716年から、未来の2137年まで。未来の分も含め400年分以上の桐箱が用意されています。

300年の歴史はどのように繋がり、現在に至ったのか。桐箱の手前では中川政七商店の物語を展示で紐解きながら紹介。

2階に上がると、そこは工芸の未来への展望を感じるような展示スペースに。300周年の際に製作した、新旧の技術を対比させた「二体の鹿」オブジェや、過去から未来へ工芸の変遷を描いたクロニクル屏風が並びます。

創業の地 奈良で工芸を未来へつなぐ。

鹿猿狐ビルヂングの3階には、奈良に魅力的なスモールビジネスを生み出すN.PARK PROJECTの拠点として誕生した、コワーキングスペース「JIRIN」があります。

古きを学び進化し続けてきたこの街で、今の奈良に出会い、今の工芸に触れてもらう。これからの未来を創る。新しい集いの場から、100年先の日本に工芸があることを願って、鹿猿狐ビルヂングも進化を続けていきます。

<店舗情報>
鹿猿狐ビルヂング
奈良県奈良市元林院町22番(近鉄奈良駅より徒歩7分)