酷暑に体をいたわる。夏の食卓におすすめの道具たち

梅雨が明けて日々暑さが増していますね。
朝も夜も息つく間もなく暑い。自宅の周辺でもいよいよ蝉の大合唱が聞こえてきて、夏が来たことを実感しています。
急な暑さに体がついていかない、というのを何度か繰り返し、この時期はいつもより少しだけ食卓に気を配るようになりました。
疲労回復によい薬味をたっぷり使ってみる。火照った体を冷やしてくれる夏野菜を選ぶ。目にも涼しい硝子の器を使ってみる。
体が欲しているものに耳を傾けること。当たり前のことかもしれませんが、改めて大切なことなのだと気付かされます。

今日は、夏の食卓にまつわるお話や暮らしの道具たちを紹介します。

————————————————

夏の煎茶の一番美味しい飲み方

佇まいが美しい硝子の急須。
中のお茶の色が楽しめたり、茶葉の開く様子を見ながらゆっくりと過ごす時間だったり、硝子だからこその楽しめる良さがありますよね。
ゆっくり煎茶を淹れて冷やして飲む時間は、夏の休日の楽しみでもあります。

→記事を見る
→商品を見る

■□■

そのまま食卓に出せる「波佐見焼の絞り小皿」

レモンやすだちを絞ったり、しょうがをおろして入れたりと、薬味はほんのひと手間でいつもの食卓を、ちょっとだけ特別なものに変えてくれます。
「なくても困らないけれど、あるとうれしいし、美味しい。そんな薬味を、いつもの食卓にもっと手軽に取り入れることができる道具があったら」
こだわったのは、誰でも扱える使いやすさと、食卓に持って行きたくなる佇まい。
ありそうでなかった、こだわりの「波佐見焼の絞り小皿」をご紹介します。

→記事を見る
→商品を見る

■□■

DYK ペティナイフ

薬味を切ったり、食卓にもう一品の野菜を切って添えたり。
夏は茹でたり炒めたりせずとも、そのまま食べたい日も多いと思います。
そんな時、気軽に使える取り回しのよいペティナイフが1本あると重宝します。
何本あっても困らない扇子は、夏の贈りものにぴったりの暮らしの道具です。

→記事を見る
→商品を見る

■□■

夏にこそ使いたい料理道具、土鍋

夏の土鍋の使い方

体力が必要な夏、健康な食事を摂って栄養を蓄えたいものです。
「鍋」料理の印象が強い土鍋。夏の間は出番を無くして棚の奥にしまわれがちですが、それはとても勿体ない。実は夏も、土鍋は大活躍することをご存知でしょうか。
鍋料理以外にも、アイデア次第でさまざまな使い方ができる土鍋。
ステンレスやアルミ製に比べるとちょっと重たいけれど、わざわざ土鍋で調理をしたい理由は、土鍋ならではの特徴にあります。

→記事を見る
→商品を見る

■□■

夏に食べたい「うなぎのせいろ蒸し」。老舗に聞く、本当に美味しいうなぎの食べ方

柳川 若松屋さんの鰻のせいろ蒸し

うなぎと言えば、「うなぎのせいろ蒸し」。長い間、それは日本全国共通の認識だと思ってました。
だけど、うな重やうな丼は見かけるのに「せいろ蒸し」は見当たらない。地元を出てから初めて、その認識はマイナーであることに気付きました。
こんなに美味しいうなぎのせいろ蒸しをみんなが知らないとはもったいない。と、土用丑の日、本当においしいうなぎの食べ方をご紹介します。

→記事を見る

————————————————

蒸し暑い日本の夏を心地好く過ごす、暮らしの知恵。
暦を生かして、夏を乗り切りましょう。

【工芸の解剖学】そのまま食卓に出せる「波佐見焼の絞り小皿」

レモンやすだちを絞ったり、しょうがをおろして入れたりと、薬味はほんのひと手間でいつもの食卓を、ちょっとだけ特別なものに変えてくれます。

「なくても困らないけれど、あるとうれしいし、美味しい。そんな薬味を、いつもの食卓にもっと手軽に取り入れることができる道具があったら」

こだわったのは、誰でも扱える使いやすさと、食卓に持って行きたくなる佇まい。
ありそうでなかった、こだわりの「波佐見焼の絞り小皿」をご紹介します。

解剖ポイントその1:食卓にそのまま持っていきたくなる佇まい

「絞り器って、台所だけで使う“道具”っぽい印象のものが多い。」

調理器具なので機能性を重視したものが多いのは当然ですが、そのまま食卓に出せるような佇まいのものがあれば、もっと気軽に使える道具になるかもしれない。
そんな思いから、うつわのように食卓に馴染む佇まいの絞り器をつくりました。

鉄粉が多く含まれている磁土を使うことで、黒点が現れ、ゆらぎのある表情に。

素材には、鉄粉が混じった磁土を採用。磁器でありながら、土もののように一つひとつ違うゆらぎのある表情が生まれました。シンプルでありながら温かみもあり、日本の食卓にしっくり馴染む佇まいです。

解剖ポイントその2:種落ちや液だれしにくい形

佇まいも大事ですが、あくまで調理道具。機能性との両立は絶対条件です。
絞り器で大事なのは、種落ちしないことと、絞りやすさ。包丁のように毎日必ず使うわけではないけれど、だからこそ、使うのが少しでも億劫に感じる道具は使われなくなってしまいます。

柑橘類を絞る上でストレスに感じるのは、注ぐ際に種落ちしてしまうこと。そこで、機能性の中でも特にこだわったのが、注ぎやすさです。

種落ちを防ぐ為にどんな形にしようか考える中で、
「余分なものを取り除いて、必要な液体だけ注ぐ。そんな道具があったはず」と、ヒントにしたのが急須でした。

急須をベースに、注ぎ口のある形に決定。茶漉しを参考につくった注ぎ口の穴は、小さすぎると果肉が詰まってしまうため、サイズや数、配置を細かく調整していきました。

試作の一部。穴のサイズや数、配置は細かく調整を重ねた

製造は、これまでにもレモン絞り器をつくったことのある波佐見焼のつくり手に依頼。絞り器の経験はあったものの、注ぎ口のあるものは初めてということで、お互いに手探り状態で開発を進めていきました。

型取りした後、一つひとつ手作業で注ぎ口を接着していく

急須のように湯切れのよいものをイメージして試行錯誤。デザイナーが検証した3Dプリンターの型ではうまくいっても、実際に焼いてもらうと穴が小さくなったり、厚みが出て形状が変わってしまったり。これまでにお付き合いのある型師の方にも相談したりして、最終の形に辿り着きました。

少し反り返った形と、口の厚み。絶妙なバランスによって、液だれしにくい形を実現しています。

解剖ポイントその3:絞りやすく気軽に使える、小ぶりなサイズ感

素材の磁器は薄くて硬く繊細なエッジが出せるため、果肉を絞る時にしっかりと捉えることができます。山型のてっぺんの部分まで深い溝が入っているので、すだちやかぼす等の小さな果物にも対応。果肉をきっちり捉えて絞ることができます。

直径約10cmと大きすぎないサイズ感で、食卓に並べても邪魔になりません。小さな手でも押さえやすく、ほどよい重みで安定感もあるので楽に使えます。

受け皿は、レモンを絞っても果汁があふれないくらいのちょうどいい深さ。唐辛子やオリーブオイルなどを加えて、ドレッシングをつくることもできます。

同時発売の「波佐見焼のおろし小皿」とスタッキングしてコンパクトに収納できる

小ぶりなので保管に困らないのもうれしいところ。器のような佇まいで、豆皿などと一緒に食器棚の隙間に置いておけるので、さっと取り出して使うことができます。楽に取り出せる場所に置けることが、気軽に使える道具にも繋がります。

なくても困らないけれど、あるとうれしい。料理を引き立てる彩りや香りを添える薬味。
食卓で過ごす時間を、より美味しく豊かなものにしてくれます。

<掲載商品>
波佐見焼の絞り小皿
波佐見焼のおろし小皿

文:眞茅江里

【工芸の解剖学】最高の履き心地を目指してつくった「ウールカーペットのスリッパ」

スリッパってなかなか「これ」と思えるものがない。

履き心地が良くて、丈夫で、佇まいの良い、置いてある姿にも愛着が湧くようなスリッパが欲しい。できれば、長く使えるものを。

そんな願いを叶えるために、中川政七商店がたどり着いたひとつの答えが「最高級のカーペットでつくったスリッパ」です。

「足裏が喜ぶ」最高の履き心地を目指してつくった、新しいスリッパのかたちを解剖します。

解剖ポイントその1:「足裏が喜ぶ」最高の履き心地

靴を脱いで、素足で過ごすことも多い日本の暮らし。

「足裏の感覚はとても大切なのでは?」という気づきから、足が最高に心地いいスリッパづくりは始まりました。

「最高の履き心地」のヒントにしたのが、高級ホテルのラウンジ。

「あの雲の上を歩くような、ふかふかとしながら足裏をしっかりと支えてくれる安心感や心地よさを、スリッパで再現できないか?」

そんなアイデアから生まれたのが、中敷に本物のカーペットを使用したスリッパでした。

素材には、実際に三つ星ホテルに使われているカーペット10種類以上から繰り返し着用テストを行い、スリッパという日常的に磨耗する環境下でもへたりにくかった2種類の生地をセレクト。

毛足が1本1本立ち上がったカットパイルタイプは、まさに絨毯そのもの。足をふんわりと包み込み、特に保温性に優れます。

フェルト加工した太い糸をループ状に織り込んだループパイルタイプは、接地面が少ないので、よりさらっとした肌ざわりです。

履いてみると、どちらも体重をグッと支えてへたらない、足を包み込むようなフィット感。歩くと柔らかく足についてきて重さを感じません。床の冷たさや固さが足に響かず、履いたそばから足まわりがすっぽりとあたたかです。それでいて足裏への「ふかふか」の伝わり方が全く異なり、2種それぞれの踏み心地を楽しめます。

解剖ポイントその2:堀田さんのカーペットの魅力を引き出す構造

この、「足裏が喜ぶ」履き心地を叶える2種類のカーペットは、どちらも大阪の堀田カーペットさんによるもの。

現在、日本のカーペットの99%は、基布に多数のミシン針で繊維を植毛する「タフテッド」式です。一方、1962年創業の堀田カーペットさんが手がけるのは、経糸と横糸を重ねて織りあげる「ウィルトン」式のウールカーペット。

量産向きのタフテッド式に対して耐久性が高く、多様な柄を表現できるウィルトン式は、その分職人の高い技術が要求され、この「ウールの織物」をつくれるメーカーは、今や日本で希少です。

そんな、ウールの特徴と適性を知り尽くした堀田さんのカーペットの魅力を最大限に生かすべく、スリッパの構造も工夫しました。

高級ホテルのラウンジで使われるカーペットは、クッション材の上にカーペットを敷きこむ「二層構造」になっている

高級ホテルの床がふかふかな理由は、クッション材の上にカーペットを敷き込むという「二層構造」にあります。これをスリッパで再現しようとすると、中敷が厚手になりすぎて、本体に縫い付けることができません。

そこで今回のスリッパでは中敷が取り外せるセパレートタイプを採用。実際のカーペットと同じ二層構造をそのまま再現することに成功しました。

中敷を取り出してスチームアイロンを当てると、ウールの特性でへたったところがふんわり立ち、ふかふかの履き心地が持続します。また、汚れが気になれば外して掃除機で吸い取ると、ウールの遊び毛がホコリや汚れををからめ取ってくれます。これもウールカーペットならでは。スリッパ全体も手洗いで自宅でのお手入れが可能です。

さらに、日本では左右同じ形のスリッパが一般的ですが、今回はあえて左右差のある仕様に。足の形にフィットして、よりカーペットの心地よさを足裏全体で感じられるように仕上げました。

解剖ポイントその3:大事にしたのは、玄関に揃えた時の佇まい

もうひとつ大事にしたのが、履き心地と佇まいの良さの両立。今回のスリッパを堀田カーペットさんとともに手がけたデザイナーの榎本さんは、「スリッパってどこか野暮ったいイメージがあった」と振り返ります。

「これまでの自分の買い方を振り返っても、手に取りやすい価格で、色や機能性を見ながらなんとなく妥協して選ぶことが多い。一方で作家さんの一点もののような、高級なスリッパも世の中にはあります。もっと選択肢があっていいし、家に置くものとして、機能も見た目も愛着を持てるようなものをつくりたいと思いました」

そこで榎本さんが大事にしたのが、玄関に揃えた時の美しさでした。

足を包むアッパー部分は中敷と同じウール素材の生地を採用。履くときに見える内側のフチ部分にもアッパーと同じ生地を縫い付けて、全体に統一感を持たせてあります。

置いてあるときの佇まいに気を配り、内側のフチにアッパーと同じ生地を縫い付けている

「このスリッパは堀田さんのカーペットの心地よさが命です。何気なく置いてある姿や履いた時に、何よりカーペットの質感や素材の良さを感じてもらえるように考えてつくっていきました」

置いた姿は品よく、履けば「足裏が喜ぶ」最高の踏み心地。足元から暮らしの心地よさを見直す、新しいスリッパのかたちです。

<掲載商品>
「ウールカーペットのスリッパ」

<取材協力>
堀田カーペット株式会社

文:尾島可奈子

□■□

合わせて読みたい

「堀田カーペット」のご自宅を訪問。お風呂とトイレ以外、すべてカーペットの暮らしとは?

「ウールカーペットのスリッパ」を一緒につくった堀田さんのご自宅は、お風呂とトイレ以外、リビングもキッチンも寝室も廊下もすべてがカーペット。
「快適に暮らすのに、カーペット以外を選ぶ理由がなかった」と語る堀田さんのご自宅にお邪魔して、その魅力を伺いました。

→記事を見る

0.2パーセントまで縮小した市場から逆襲する、堀田カーペット新社長のライフスタイル戦略

いまや新築住宅にカーペットを敷く人の割合は、0.2パーセント。圧倒的な劣勢の中、住宅用カーペットの良さを広めて0.2を少しでも伸ばそうと奮闘している、カーペットの伝道師がいます。
「万人受けを狙うのではなく、自分たちが心底欲しい!と思えるものをつくる」と語る、堀田カーペットの三代目社長のお話を伺いました。

→記事を見る

タイルカーペットの新定番。パズル感覚で組めるDIYカーペットの誕生秘話

パズル感覚で、好きなカラーや模様を並べて置く。裏側には滑り止めがついているから、ズレる心配もない。部屋の形に合わせて、ハサミやカッターで簡単にカットすることもできる。日本唯一の技術で開発した、パズル感覚で組めるDIYカーペットの誕生秘話をご紹介します。

→記事を見る

メーカーの悩みを全力サポート。中川政七商店もうひとつの顔「産地支援」の仕事とは?

中川政七商店にはいくつかの顔があります。

まず暮らしの道具を「つくる」こと。
つくったものをお店などを通して世の中に「伝える」こと。

そしてもう一つが、全国の工芸メーカーの経営や流通をサポートし「支える」ことです。

せっかくつくった品物でも、必要としている人に届かなければ意味がありません。

そこで中川政七商店が行っているのが、「大日本市」という合同展示会。自社だけでなく全国のつくり手が集い、「日本の“いいもの”と、“いい伝え手”を繋ぐ」場を提供しています。

「でも一体、なぜ他メーカーのサポートを?」

今日はあまり知られていない、全国のメーカーのサポーターとしての中川政七商店の顔を、その理由とともにご紹介します。

出展したいと思える展示会、ないならつくる。

「ついに注文とれました!」そんな声が飛び交うのは、中川政七商店が主催する合同展示会「大日本市」会場。

中川政七商店は「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げていますが、つくり手が元気になるためには、「欲しい」と思う人にしっかり届く、流通の出口が大切です。かつて中川政七商店が販路を開拓しようと考えたとき、出展したいと思える展示会になかなか出会えませんでした。

ないなら、自らつくる。本当の意味で全国の工芸メーカーが自立し、事業を継続していくために、つくり手それぞれが意思をもって売り手や使い手と向き合う場をつくりたい。そんな思いから合同展示会「大日本市(だいにっぽんいち)」をはじめたのは、2011年のことです。

大日本市ってどんな展示会?

大日本市の特徴は、大きく2つあります。

ひとつは地域のものづくりに特化していること。テーマがはっきりしているので、選んで足を運んでくれるバイヤーさんとの商談も弾みます。

自社で初めてブランドを立ち上げたというメーカーの出展も多く、一回一回のバイヤーさんとの会話が真剣勝負。毎朝、前日の売上と来場者による人気投票結果が発表される朝礼では、出展者同士がお互いの結果に一喜一憂し、励まし合う姿が恒例です。

この大日本市がきっかけで大きな飛躍を遂げたのが、中川政七商店が工芸再生支援し、第一回大日本市に出展した長崎県の波佐見焼メーカー、マルヒロでした。

当時倒産寸前まで追い込まれていたマルヒロが大日本市でデビューさせた自社初のオリジナルブランド「HASAMI」は、会場で大手セレクトショップやメディアの目に留まり、そこから徐々に売り上げを伸ばし、今では波佐見焼の名を世に知らしめる存在となっています。

大日本市の特徴、もうひとつは「学びの場」という意識です。

「どう生産管理をしたら良いか?」
「お客さんとのコミュニケーションの取り方は」

扱う品物は違っても、メーカーが抱える悩みには共通のものも多くあります。そこで大日本市では、参加する企業むけに勉強会を企画し、展示会での商品のPRの仕方などを学べる機会を提供しています。

接客勉強会で、バイヤー役とメーカーに分かれてシミュレーションする様子
勉強会での学びを活かし、つくり手が積極的にバイヤーに商品の魅力をプレゼンする姿が会場のそこかしこで見られる

最近では、大日本市に継続して出展するメーカーが先輩として新規デビュー企業に接客のコツを伝授するなど、横のつながりや交流が、大日本市の文化として育ちつつあります。

初めは3社から始まった小さな合同展示会は、回を重ねるごとに接客や展示ディスプレイの内容をアップデート。少しずつ規模を拡げ、昨年からはオンライン展示会もスタートさせました。進化し続ける展示会に、今では日本各地のメーカー約60社が集結し、全国から約3000名のバイヤーが訪れるようになっています。

つくり手のサポートだけでなく、バイヤー向けのトークイベント等も実施

目指すのは、未来の問屋

しかし、メーカー共通の悩みは、まだまだつきません。

「顧客管理が大変でなかなか新商品の開発に手が回らない」
「発送に資材も人も時間もとられて大変」

実はこうした部分は、かつては産地のプロデューサー的存在である、各「産地問屋」が担っていた仕事でした。

市場のニーズをいち早く掴み、つくり手の特徴を熟知して、新商品を企画したり、流通を引き受けたり。つくり手と使い手をつなぐ欠かせない存在であったはずの産地問屋ですが、工芸の衰退にともない少しずつ減っているのが現状です。

問屋不在の中、いちメーカーが商品企画からバイヤーへの商談、在庫管理に発送まで全てを自社で担うのは簡単ではありません。結果として新商品開発に手が回らない、つくっても売り先がない…といった悪循環を、かつては私たちも経験してきました。

この、工芸をめぐる長年の問題を、なんとか解決したい。つくり手と伝え手、どちらの経験も積んできた中川政七商店だからこそできることがあるはず。そんな思いから今、中川政七商店が新たに取り組んでいるのが、全国のメーカーの流通を継続的にサポートする「問屋」事業です。

自らもメーカーとしてつくり手に寄り添いながら、全国約60の直営店と、これまでに築いた全国の小売店とのつながり、そして大日本市という場を生かして、ものづくりの魅力をきちんと世の中に伝えていく問屋を目指します。

大日本市が消滅するとき?

合同展示会の主催に、継続的にメーカーの流通をサポートする問屋事業。

一見、「なぜわざわざ他の企業のサポートを?」と思えることも、中川政七商店にとっては大切な意味があります。

ひとつには、ともにものづくりをする仲間が増えること。

中川政七商店は自社工場を持ちません。協業する全国のつくり手が元気にものづくりを続けてくれていればこそ、私たちは自社のものづくりを行うことができます。

展示会にも出展する堀田カーペットと一緒につくった「ウールカーペットのスリッパ」の開発風景

もうひとつは、展示会や問屋事業を通して全国のいいものが集まれば、流通手段である中川政七商店の直営店の品揃えが充実する、ということ。お店に並ぶものが多様化すれば、日本のものづくりの魅力を知ってもらうきっかけが増えることにつながります。

そうして一つひとつ、一人ひとり、つくり手と使い手がつながってゆけば、きっとその先に「日本の工芸を元気にする!」が達成された未来があるはず。

もし大日本市が幕を閉じる時が来るとしたら、それは日本の工芸が元気になった時。そんなことをスタッフ同士で話しながら、今日も中川政七商店は全国の工芸メーカーのサポーターであり続けます。

「大日本市」の取り組みに興味をもってくださった展示会出展希望のメーカー様、商品お取り扱い希望の小売店様は、下記専用サイトよりお問い合わせください。

現在、中川政七商店公式オンラインショップでも、「大日本市」出展商品を期間限定でご紹介しています。

文:尾島可奈子

夏の盛りにそなえて。日本の夏を楽しむ暮らしの道具たち

今年も、夏至がやってきました。
例年通り梅雨の最中ではありますが、今日はこれから来たる夏の盛りを予感させるような晴れ間が広がっています。

夏の暑さを思うと少し気が滅入ってしまいますが、同時に夏の風物詩を思うと心が弾みます。風に鳴る風鈴の涼やかな音色や、夕涼みに浮かぶ線香花火のささやかな灯火。

今日は、日本の夏を楽しむ暮らしの道具たちを紹介します。

————————————————

この夏は、涼しげな信楽焼の「線香鉢」を窓際に

夏と言えば、暑さと並んで油断ならないのが、蚊との攻防。
様々な虫除けが開発されていますが、煙をくゆらせる夏の景色を見たくて、我が家ではなんだかんだ蚊取り線香を好んで使っています。

→記事を見る
→商品を見る

■□■

夏には夏の香りでリフレッシュしてみませんか

好きな香りは心地よく、気持ちをやわらげてくれます。
季節によって食べたいものが変わるように、香りも季節によって変えたいものです。
線香づくり日本一の淡路島の職人がつくる、夏にふさわしい線香でリフレッシュしてみませんか。

→記事を見る
→商品を見る

■□■

自分好みの音色がわかる、中川政七商店の「風鈴」音くらべ

夏の季語でもある風鈴。
窓を開け、さぁっと入ってくる風に鳴る音が、一時の安らぎをくれます。風鈴は形や材質によって、奏でる音がまちまち。
部屋をお気に入りの音楽で満たすように、風鈴も自分好みの音色を選んでみると、ちいさな安らぎを楽しめる瞬間がふえるかもしれません。

→記事を見る
→商品を見る

■□■

伝統的な製法でつくられる、日本の手花火で夏を満喫する

日本には、伝統的な夏の行事や風物詩がたくさんありますが、その中でも夏を感じるイベントと言えば、花火ではないでしょうか。
この夏は、伝統的な製法を守る花火職人がつくる「日本の手花火」で夏を満喫してみませんか。

→記事を見る
→商品を見る

■□■

夏の夜をゆったり楽しむ、和ろうそく

夏至と言えば、短夜。国や地域を超えて、キャンドルナイトが開催される時期ですね。
短いからこそ大切の過ごしたい夏の夜。明かりを灯してゆったりと過ごしてみませんか。

→商品はこちら

■□■

夏のお出かけの必需品、ミントスプレー

清涼感を与えてくれるミントスプレーは、夏のお出かけの必需品。
腕の内側にかければ、真夏の汗ばむ日中も爽やかな気分に変えてくれます。

→記事を見る
→商品を見る

————————————————

四季のある日本の繊細なうつろいを教えてくれる二十四節気。
自然のリズムを取り入れることで、暮らしに新たなたのしみを発見できるかもしれません。

それでは、次回もお楽しみに。

隈研吾と中川政七商店が考える、建築と工芸の新しい関係

毎日の暮らしは様々なものでできています。

衣服や、ありとあらゆる日用品、食事、そして住まい。

「どうしたら人は心地よく暮らせるか?」を建築の視点から問い続けてきたひとりの建築家と、工芸の視点から向き合ってきたメーカーが出会い、建築と工芸がひとつになるものづくりを、はじめます。

その名も「Kuma to Shika」プロジェクト。

「Kuma」は、その土地の環境や文化に溶けこみ、素材を大切にする、建築家・隈研吾。
「Shika」は、日本各地の素材・技術・風習を活かしたものづくりをする、中川政七商店。

両者が同じ志のもと、建築の発想や素材から生まれる「今の工芸」を提案します。

プロジェクトが進む中で、隈さんはこんなメッセージを発信しました。

「建築デザインというのは建物のデザインのことではないと最近考える様になった。
建築デザインとは生活のデザインでなければならない。
今の建築をめぐる状況は、高度成長下の建築をつくればよい、
大きく高くつくればよいという状況とは全く対照的である。
作ることが目標ではなく、そこでいかに暮らすかを考えることが建築家の目標となったのである。

工芸は暮らしに最も近い。
工芸を変えることで僕は暮らしてについて考え提案したい。
今の工芸を追求する中川政七商店とそんなことを一緒に考えたい。」

建築家の仕事の定義そのものを大きく変えてしまうようなプロジェクトのきっかけは、2011年の東日本大震災に遡ります。

はじまりは東北から

「私たちは、建物をつくる現場や地域に何度も通います。そこで触れた土地のらしさを建築に取り入れたり、設計を進める中で地域の人たちと広く関わっていくことをよしとしている設計事務所ですね」

Kuma to Shikaプロジェクト担当のひとり、隈研吾建築都市設計事務所(以下、隈建築事務所)の宮澤一彦さんは、土地との関わりを誰より楽しみにしている隈さんその人を「好奇心の人だし、ここは好奇心の事務所」と語ります。

それだけ地域とのつながりを大切に設計を続けてきたからこそ、2011年の東日本大震災は、隈さんや宮澤さんら事務所メンバーにとってショックの大きいものでした。

「付き合いのある東北の職人さんたちが被災されて、何かできることがないかと考えました。

そこで立ち上げたのが、東北のものづくりを応援する『East Japan Project(EJP)』です」

East Japan Projectで生み出されたプロダクトのひとつ「NARUCO Kokeshi Bottle Cap」

知り合いのデザイナー数人に声をかけ、地元の職人たちと共にオリジナルアイテムを開発し、特設サイトで販売。しかし、課題も見えてきました。

「私たちには小売業の知識がありません。例えば原価計算をどうやってするか、数をいくつつくるかなど未知なことだらけでした。きちんと利益を出してつくり手に循環していくようなサイクルをどうやったら生み出せるか、手探りが続きました」

模索しながら、プロジェクトは9年間継続。その間に、希望を感じる出来事がありました。

建築事務所が「もの」づくりに携わる意義

「他の案件で手掛けた福祉施設で、地域ゆかりのメーカーさんと施設利用者の方が協業して、オリジナルのプロダクトをつくって販売しようという話が持ち上がったんです。

私たちは設計のプロセスで土地の特徴的な素材や技術にたくさん出会い、建築にも取り入れますが、一度建物が竣工すると、その先に活かす方法を持っていません。

結局そのプロダクトは販売にこぎつけることができなかったのですが、こうした『もの』があれば、竣工した後も建築と地域との関係性は続いていくのだと改めて気づきました」

土地土地の素材や人、技術の素晴らしさは誰よりも知っている。あとは、それを「もの」に変換してきちんと流通させることができればーー。

「建築とものづくりで、東北に限らずお世話になってきた全国各地を元気にすることができるかもしれない」

改めて建築事務所が「もの」づくりに携わる意義を見出したところで、隈建築事務所と中川政七商店は出会いました。

隈建築事務所からは、建築の発想や土地土地の素材を。

中川政七商店からは、素材やアイデアを暮らしの道具に変換するノウハウと流通の仕組みを。

お互いの得意を持ち寄り、ものづくりの対象を東北から全国に拡げ、建築の発想や素材から生まれる「暮らしの道具」が少しずつかたちになっていきました。

デビューするのは6種のアイテム

「素材集めは事務所内のデザイナーを集めて、3つのチームに分かれて行いました。子育て中のお母さんチーム、デジタルに強いチーム、素材の専門家チームです。

建築の現場には本当に様々な素材が転がっているので、できるだけ多様な視点で『こんなの使えそうかな?』を探していきました」

ものづくりのプロセスを明かすのはkuma to shika もうひとりのプロジェクト担当、堀木俊さんです。

今回デビューした6種のアイテムには、建築ならではの素材やアイデアが詰まっています。

丈夫さと透け感を活かした「飛散防止シートのバッグ・ポーチ」

ひとつめは、建築現場で建物の養生に使われる飛散防止用のメッシュシートを使用した、大きな折り目が印象的なトートバッグ。

建築現場で使用されている様子

「お母さんデザイナーチームにファブリックといえばこの人、という布の専門家がいて、彼女から上がってきたのが飛散防止シートです。建築現場では本当によく使われる素材で、その丈夫さや透明感がバッグやポーチに向いているのでは、とアイデアが生まれました」

耐荷重はバッグ中が15kg、大が45kgと業務用素材ならではの丈夫さですが、折りたためばコンパクトに持ち運びでき、広げればたっぷりと荷物が入ります。

ファブリックのプロとして、お母さんとして、両方の視点が生かされています。

同じシリーズのフラットポーチは、飛散防止用のメッシュシートと、奈良の特産品である蚊帳(かや)に使われる目の粗い薄織物「かや織」をビニールコーティングした生地が使われています。メッシュシートの透明感が生かされ、中のものが一目でわかる仕様です。

建築現場らしい草木を活用。「植物で染めた花ふきん・ハンカチ」

「ボタニカル・ダイ」という、植物を使った特殊な染色技法によって染めたふきんとかや織ガーゼハンカチ。染料には草木染めでは珍しい、クマザサとスギが用いられています。

「スギは全国どこでも使われている、とてもメジャーな建材ですし、クマザサも建物の周りに植えたり、私たちには身近な素材です。使い込んでいく中での色合いの変化も楽しんでもらえそう、という生活視点から素材候補に挙がりました」

家が<クマナイズ>される「組み木の飾り棚」

建築の「構造」を生かしたのがこのオブジェのような飾り棚。3D設計を行うデジタルチームからのアイデアだったそうです。

木材を組み上げる組子の手法のひとつ、地獄組。サニーヒルズジャパンの建物全体が地獄組で覆われている。

「日本の木造建築は組木の技法を構造部分はもちろん、建具など装飾部分へも使用することで木という自然素材を面の空間づくりへと昇華させてきました。

その組木の技法を幾何学的なデザインに生かした飾り棚です。ネジを使わず、単純な台形のパーツを組み合わせるだけでだけで面白い表情の棚が立ち現れます。付属のフックで壁にかけて浮かせたり複数の棚を連続させることで複雑な表面起伏を持った壁面を作ることができます。

2個3個と並べて使うと連続性が出て美しさが増します。隈建築事務所の設計の目線が生かされているので、飾ると家がクマナイズされるんじゃないでしょうか(笑)」

複数連続させることで意外な表面起伏の棚が立ち現れる。

まさに建築工芸品。「タイルのマグネット」

建物の外壁や内壁で使用される美濃焼タイルを採用したマグネット。

「建築のパーツを、買って帰れるというこのプロジェクトの醍醐味が詰まったアイテムだなと感じます。タイルはまさに建築工芸品ですね」

表面の荒さも設計された「和紙の折りタペストリー」

手漉きで和紙の中に木チップを漉き込んだタペストリー。部屋の和洋問わずオブジェのように飾れます。紙にランダムに配置された荒々しい木チップは、まるで紙が原料の木に戻ったかのような印象です。

「木チップは吉野ひのきです。私たちは内装材を検討するときに、表面をどれくらいの粗さにするかに気を配ります。周囲の環境に対して、どのような素材をどのくらいの粗さやピッチで用いるか。素材の使い方によって生まれる空間のリズムや表情にこだわり建築を設計しています。」

森の中にある梼原町の「雲の上の図書館 / YURURIゆすはら」。
Photo : Kawasumi Kobayashi Kenji Photograph Office

「例えば梼原町の図書館は、森の中に位置していてまわりが木で囲まれているので、外装材のピッチを粗くつくりました。逆に都会で周りにガラスが多いような環境なら、細かいピッチにしたりすることで、環境に合わせて調整しています。

今回は建築と違い持ち帰った場所によって置く環境が異なるので、家庭内に置くときに違和感のない粗さを意識して企画しました。」

建築的な視点が生きた「銅のはつり折敷」

板の表面に道具の痕跡を残し味わいとみなす技法を「なぐり」といい、江戸時代頃まで建材用の木材加工には欠かせない技術でした。このなぐり加工を写し取り、極薄の銅板に施すことで構造的な強度と意匠性を持たせたのがこの折敷。

飾り板として置くものを引き立てる使い方がおすすめです。

「これは素材の専門家チームから出てきたアイデアです。薄暗い環境の中に置いたときに、素材の表面の揺らめきが見えてきます。建物内外の明るさも織り込んで設計を考える、建築的な視点が再現されています」

ものの見方を揺さぶる、建築的暮らしの道具

こうして建築的な視点と、暮らしの中での見え方・あり方を行き来しながら生み出されたKuma to Shika シリーズ。担当するメンバー達にも新鮮な発見があったそうです。

プロジェクトメンバーが素材やアイデアを持ち寄りMTGする様子

「建築はどんな環境にその建物があるか、わかっていることが大前提で設計が進みますが、暮らしの中のアイテムって、どんな環境で使われるかが見えない状態で相手に手渡すんですよね。これは建築の現場にはない感覚です。

でも一方で、単に設計図で当てはめておしまいでなく、それを受容する人間の体で心地よいかどうかを探求する感じは、建築も工芸も通じるものがあると感じました。目で見て、肌で触れた時の質感を楽しんでもらいたいです」(宮澤さん)

「今回手がけたアイテムはどれも、単に『使える道具』としてではなく、その背景にある土地や素材のストーリーを通じて、ものの見方を揺さぶっていくことを目指して作っています。

アイテムの発売は事務局の他のメンバーにも新鮮に映るはずです。『建築の仕事』の定義そのものも揺さぶっていけたら面白いですね」(堀木さん)

「普段我々が建築の現場で目にする素材を、スケールや解像度を変化させてプロダクトをつくってみました。
プロジェクト当初は建てられた建築をハブとして新しい経済活動が生まれてくることを意識していましたが、これからは色々なメディアを通して人間の生活というものに肉薄したいと思います。」(隈さん)

工芸も建築も揺るがす、Kuma to Shika の物語がいよいよはじまります。

6月18日(金)より、中川政七商店オンラインショップ・一部直営店舗、
東京国立近代美術館「隈研吾展」(6月18日~9月26日)にて販売開始。
中川政七商店 渋谷店では、その開発の過程の資料や素材を公開する企画展『隈研吾と考える、建築と工芸』展を開催。

文:尾島可奈子