家の中に、歳時記のある風景を。今、中川政七商店が届けたい「しつらい」のこと

家で過ごす時間が増えた今年。家の中のことに目を向ける人が多くなりました。家中の大掃除をした人、ベランダを秘密基地に見立てた人。部屋に季節の花を飾るようになった、という人も。

四季折々の変化を感じながら、家の中をどう心地よくし、日々をどう健やかに過ごすか。実はこれは、今に限らず、昔から日本で大切にされてきたことでした。

例えば端午の節句には子どもの健やかな成長を願ってこいのぼりを掲げ、菖蒲湯に浸かる。お正月には干支の飾りものを飾って、一年の無病息災を願い、縁起尽くしのおせちやお雑煮をいただく。

中川政七商店では永らく、季節の行事ごとに飾りもので部屋を設える風習を「しつらい」と呼び、大切にしてきました。この美しい日本の文化を残したい思いで、季節ごとに掛け替えるタペストリーやお飾りをつくり続けています。

「日本の歳時記を大切にしていきたい。でも…」

そんな中、ひとりのデザイナーは悩んでいました。

住まいや暮らし方の変化の中で、例えば大掛かりな鯉のぼりや雛飾りは収納スペースや飾る場所を確保するのも大変、というご家庭が増えてきています。

飾る機会が減れば、歳時記の意味や面白さを知ったり、誰かと話す機会が減っていくのも自然なこと。お月見や節分などに何をしたらいいかわからない、お飾りも飾り方が不安、などの声もよく耳にします。

「興味がないのではなく、きっかけや楽しみ方さえわかれば触れてみたい、と思う人は多いのかもしれない。それならば、気軽に取り入れられるきっかけを、私たちがつくれないだろうか?」

そんな思いから、私たちは今の暮らしに「ちょうどいい」しつらいを考え、ものづくりに活かすようになりました。

今の暮らしに「ちょうどいい」しつらいってなんだろう?

例えば、これまで飾りものは床の間に飾ることを想定したタペストリーが主流でしたが、玄関のちょっとしたスペースで飾れるかけ飾りや、棚の上にも飾れるコンパクトな置き飾りを企画。

雛飾りは、雛壇がそのまま収納箱にもなる小さな「こけし雛箱飾り」をつくりました。

こうしたお飾りをつくる時に心がけていることがあります。それは、元々のかたちの意味や歴史をきちんとふまえながら、和室にも、マンションの玄関先にも飾りやすいデザインを目指すこと。

手のひらサイズで毎年人気の「つるかめ注連縄飾り」。鶴の赤い水引は日の出を、亀の白い水引は富士山を表現。鶴には麦穂、亀には稲穂をつけて、実りの多い1年を願う気持ちを込めています。壁や柱に吊るして飾れるよう裏にはループ付き

季節ごとに家を彩るお飾りは、色や飾り方が決まっていたり、不思議な姿をしています。それらはどれも、人々が日々の安らかなことを願って生まれた祈りのかたち。そんなお飾り文化を支えるものづくりも、日本各地に発達してきました。

それぞれの飾りものやしつらいの歴史、意味を大切に受け継ぎながら、ただ昔のまま残すのではなく、全国のつくり手さんの力を借りて、今の暮らしに「ちょうどいい」姿に仕立て直してみる。

たとえば、この「小さな鏡餅飾り」はお餅部分は白木、橙は伊賀組紐、敷き布は中川政七商店のルーツでもある麻の布で仕立てています。お飾りものは、各産地の職人技を集結させて初めて成り立つ工芸品でもあります

そうすることで、例えば一人暮らしをする人も、家に気軽にしつらいを取り入れて、季節の移ろいや四季折々の行事の魅力を身近に感じてもらえたら、と思っています。

さらに今年、親子でお飾りをつくるところから楽しめる「体験型」のしつらいの提案、「季節のしつらい便」も新たにスタートしました。

親子で楽しめる「季節のしつらい便」とは?

例えばお正月には、干支の張子飾りを絵付けして飾れるセット。

来年2021年は丑の張子です

春にはお雛様、夏には七夕飾り。十五夜の頃には、お月見団子を親子でつくって飾れるセットを販売。飾って愛でるだけでなく、その手前のつくってみる過程も体験しながら、日本の歳時記の魅力を家の中で気軽に楽しめるシリーズです。名前に「便」とある通り、季節ごとの体験セットが、年間を通して登場します。

季節のしつらい便 桃の節句
季節のしつらい便 端午の節句

どれも、飾っておくのにかさばらないコンパクトなサイズです。セットの中には飾り方や、しつらいの楽しみ方を盛り込んだ冊子がついています。そのお飾りに込められた縁起や意味も載せてあり、親子でキットづくりを楽しみながら、日本の風習や文化を身近に触れられるようにつくりました。

来年のお正月のしつらい便の中身
こちらは、絵付け前の練習用にダウンロードして使える張子の絵形

家族で一緒に完成させる、季節のしつらい

季節ごとに、体験の仕掛けも変わります。十五夜のしつらい便の中身は、お団子をつくる材料や、できたお団子を飾る三宝の台、すすきの飾りなど。これ一式で、家族で一緒にお団子づくりからお月見飾りまで体験できるセットになっています。

他にも七夕やクリスマスには、笹やもみの木の絵柄を染めた手拭いに、自分で飾りつけを楽しめるセット。ちょっとした壁のスペースを使って飾ることができます。

家族で一緒に楽しめて、今の暮らしの中で飾りやすい。そんなしつらいを季節ごとに考えました。

また、それぞれのしつらいに関わる工芸の面白さも感じてもらえるよう、素材や技術もひと工夫。

七夕やクリスマスの手拭いは、両面で柄を楽しめる注染染めを採用しているため、壁面だけでなく部屋の間仕切りにも使うことができます。お正月の張子の丑は、首振りの赤べこで有名な会津でつくられたもの。子どもが触れて楽しむことができ、体験の記憶がより残るようにと採用しました。

飾りのひとつひとつに宿る、何十工程にも及ぶ職人たちの技を最後は飾る人がつないで、世界に一つ、我が家だけのしつらいが完成します。

歳時記のある風景を、家族の中に、未来の中に

家で過ごす時間に、少しだけ手間をかけて、家族で歳時記を遊んでみる。遊びながら日本の四季や、季節ごとの暮らしの知恵に触れる。その体験が家族の思い出の中に残れば、いつか子どもたちが大きくなった時に、今度は自分の子どもと一緒に歳時記を楽しむ日が来るかもしれません。

家の中に歳時記のある風景が、未来にずっとつながっていくことを願って。中川政七商店はこれからも、四季折々のしつらいをお届けします。

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季節のしつらい便

【季節のしつらい便】世界に一つだけの丑の張子づくり

毎年飾る干支の置物。
我が家では干支の鈴飾りを玄関に置いてあり、まだ小さな娘は意味合いを知らないながらも毎日目にしていて、時折り触ったりもしています。

干支飾りは出来上がったものを購入するのが当たり前だと思っていましたが、今年は〝親子で楽しめる歳時記体験キット”があるということで、絵の具で絵を描いたり色を塗ったりするのは娘にとっても楽しい経験になるのではと思い、挑戦してみることにしました。

自ら体験することによって、日本のお正月という歳時記を少しでも知って、より親しむことにつながれば嬉しいなという想いも込めて。

2021年の干支は丑。
箱から出てきた真っ白な張子の首ふり牛を見て、丑の頭を揺らしながら娘は興味津々で早く絵付けをしたそうな様子でしたが、まずはリーフレットを見ながら、十二支や干支の置物を飾ることの意味を簡単に説明。

理解するのは中々難しいようでしたが、十二種類の動物には興味を示し、うさぎが好きな娘は「わたしは卯がよかった〜」などと言いながらどうにか話を聞いてくれました。

歳時記についての説明は短めに切り上げ、いよいよ絵付け体験へ。
いきなりぶっつけ本番は不安なので、オンラインショップから絵型 をダウンロードして、どんなデザインにしたいかを考えながらひとまず紙の絵型に下書き。

しおりに載っている赤べこを参考に見せながら描かせてみましたが、4歳の娘にはまだ細かな絵付けは難しそうなのと自分の好きな色を使いたいようで、早くも赤べことは程遠いものになりそうな気配。


下書きで一通り練習を終えたら遂に本番。
せっかくなので娘の自由な発想に任せて色付けしていく様子を見守っていると、練習など関係なしで頭の部分からいきなりピンク色!その後も水色→赤色→黄色→緑色…となんともカラフルな色使いに!!


驚いている私たち大人のことはお構いなしに、娘は躊躇なくどんどん好きな色を塗っていきます。お腹の部分や脚の裏もそれぞれこまめに色を変えながら全体を塗り終えたら、絵の具が乾くまで少し休憩。


その後、顔の模様や尻尾などはしおりを見本にしながら描いて終了。最後は集中力が切れかけていましたが、なんとか完成することができました。


上手な仕上がりとはいきませんでしたが、味のある(?)世界に一つだけの丑の張子は、時間が経つほどに愛着が湧いてきて、親子共に想い出に残る干支飾りになりました。

市販の干支の置物にも素敵なものがたくさんあり自分好みのものを探すのも楽しいですが、自分たちで絵付けしたものを見ると、他にはないオリジナルの干支飾りもまた良いものだなと、十二支全てつくりたくなりました。

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