中川政七商店初の複合商業施設・まちづくりの拠点 「鹿猿狐ビルヂング」4月14日グランドオープン

路地を巡り出会う、触れ、学び、味わう奈良。

猿沢の池越しに興福寺の五重塔を望み、少し坂を登れば春日大社、鹿がのんびり草を食むその奥には大仏様のいらっしゃる東大寺という、古き良き古都奈良の風景。
そのほど近く、細い路地が入り組んだ迷路のようなならまち元林院町にて、中川政七商店は300有余年商いを続けてまいりました。

その創業の地に2021年春、新しい集いの場が生まれます。
中川政七商店の鹿、猿田彦珈琲の猿、きつねの狐。
3匹が集うこの建物を我々は「鹿猿狐ビルヂング」と名付けました。
我々が共に志すのは、古きを学び進化し続けること。
ふと気がつけばこの奈良という街もそうした進化を繰り返してきた場所です。

古の歴史の深さを垣間見せながら、同時におおらかで新しい。
奈良に住まう人も訪れる人も、足を踏み入れた路地の先々で、そんな今の奈良に出会っていただけると思います。

1716年創業の奈良の老舗・株式会社中川政七商店は、2021年4月14日(水)、同社初の複合商業施設「鹿猿狐ビルヂング(しかさるきつねびるぢんぐ)」を奈良市元林院町(ならまちエリア)に開業いたします。

約126坪の敷地面積に3階建ての同施設を設計するのは、日本を代表する建築家の一人、内藤廣氏。
施設内には、創業の地に満を持して構える旗艦店「中川政七商店 奈良本店」、関西初出店となるスペシャルティコーヒー店「猿田彦珈琲」、ミシュラン一つ星掲載店による初のすき焼き店「きつね(きつね)」、まちづくりの拠点となるコワーキングスペース「JIRIN(じりん)」を展開します。
また同施設とともに巡っていただけるよう、近隣の「遊 中川 本店」「茶論 奈良町店」もリニューアル。築100余年の町家の貯蔵庫を改装した「時蔵」や「布蔵」とともに、中川政七商店の歴史を辿っていただけます。

中川政七商店がつくる、新しい奈良の拠点

江戸時代中期、中川政七商店は麻織物「奈良晒」の問屋として奈良に創業し、日本の工芸をベースにした生活雑貨をつくり続けてきました。
その中で、近年進めてまいりました産業観光の取り組みを、創業の地である奈良で実現すべく、まちづくりの拠点となる複合商業施設をオープンいたします。


コンセプトは、“路地を巡り出会う、触れ、学び、味わう奈良”。
この場所でしかできない買い物や飲食、ワークショップなど様々な体験型コンテンツをご用意し、奈良に暮らす方および国内外から訪れる方が、より一層奈良の魅力を感じていただける拠点を目指します。

街並・伝統・現代・近未来を建築として表現

約126坪の敷地面積に3階建ての同施設を設計するのは、日本を代表する建築家の一人、内藤廣氏。開放的なガラ
ス窓と周囲の街並みを活かした瓦屋根が特徴の建物の中央には、中庭とそこにつながる新たな路地が創られ、古き
よき趣が残る「ならまち」の風景に溶け込んだ新たな空間が生まれます。

【中川政七商店】創業の地 奈良で、原点、軌跡、今を巡る

創業の地に満を持して構える旗艦店は、中川政七商店の原点、軌跡、今を巡っていただける場所。創業の商いである
手績み手織り麻のものづくりに触れられる「布蔵」や、300余年の歴史をアーカイブ展示する「時蔵」、そして800を超えるつくり手と生み出す約3000点の商品に出会える「中川政七商店 奈良本店」。
300年の歴史が紡いできた、いまの暮らしに寄り添う暮らしの道具を手に取っていただけるとともに、本店でしか購入できない限定品など奈良を訪れる記念となるような商品をご用意しています。施設全体を通して、中川政七商店がつくる暮らしの道具の根底にある、奈良という土地から生まれた価値観や美意識を感じていただけます。

【猿田彦珈琲】歴史的街並みの中で、究極の一杯を楽しむ

「たった一杯で、幸せになるコーヒー屋」をモットーに、東京・恵比寿にて創業したスペシャルティコーヒー専門店。創業者である大塚朝之氏が自ら厳選した高品質のコーヒー生豆を、独自の知見と技術を生かし、焙煎から抽出までこだわりと誇りをもって提供しています。関西初出店となる同店は、開放的なガラス窓に面した空間が特徴。古きよき趣が残る街並みの中で、究極の一杯をお楽しみください。

【きつね】温故知新のすき焼きと弁当を味わう

東京・代々木上原にあるミシュラン一つ星掲載店「sio」による初の、すき焼きをメインにコースでお召し上がりいただくレストラン。これまでのすき焼きをアップデートする温故知新の料理をはじめ、食を通じて奈良で過ごすひとときに感動をお届けします。観光の合間やランチ代わりに気軽に楽しんでいただけるよう、お弁当のテイクアウトもご用意しています。

【布蔵】奈良の工芸に触れる体験

手績み手織り麻の絵はがきを制作するワークショップや、麻生地づくりの道具に触れられるツアーなど、奈良の工芸や歴史、文化に触れる体験型コンテンツをご用意しています。

<コンテンツ例>
・麻生地にステンシルを施し、オリジナルはがきを制作
・麻生地づくりの道具を実際に触り、使うことでものづくりの工程や奥深さを体験

【JIRIN】まちづくりの礎になる学びの場

3階の「JIRIN」は、中川政七商店による初のコワーキングスペース。奈良に魅力的なスモールビジネスを生み出す「N.PARKPROJECT」の拠点として誕生した、共に働き、共に学ぶ場です。
興福寺の五重塔を臨む窓が広く心地よい空間には、BACH・幅允孝氏が選書したライブラリも用意。中川政七商店が企画する経営講座やトークイベントなど、奈良での創造的な活動を支援するプログラムを開催予定です。

近隣施設

鹿猿狐ビルヂングとともに巡っていただけるよう、築100余年の町家を活かした近隣施設も店内をリニューアル。「遊 中川 本店」では日本の染織技術に支えられた服や服飾小物などが四季折々に並びます。「茶論 奈良町店」では観光の合間にほっと一息過ごせる喫茶を、また貯蔵庫を改装した「時蔵」「布蔵」では、中川政七商店の歴史を体験いただけるコンテンツをご用意しています。

遊 中川 本店

中川政七商店初の直営店として1985年にオープンした空間は、「中川政七商店 奈良本店」の一部としてリニューアルします。

茶論 奈良町店

茶道の新しい楽しみ方・学び方を提案する「茶論」は、季節の美味しいお菓子・選りすぐりのお茶をご提供します。

時蔵・布蔵

中川政七商店の300年の歴史がアーカイブされる「時蔵」と、手績み手織り麻の道具に触れられる「布蔵」を公開します。

施設概要:鹿猿狐ビルヂング
施設名:2021年4月14日(水)グランドオープン
開業日:4店舗(中川政七商店 奈良本店、猿田彦珈琲、きつね、JIRIN)
    ※近隣に「遊 中川 本店」「茶論 奈良町店」「時蔵」「布蔵」あり
テナント数:奈良県奈良市元林院町22番(近鉄奈良駅より徒歩7分)
所在地:奈良県奈良市元林院町22番(近鉄奈良駅より徒歩7分)
設計:内藤廣建築設計事務所
敷地面積:126.98坪(419.06㎡)
延床面積:241.16坪(795.84㎡)
施設U R L:https://nakagawa-masashichi.jp/shikasarukitsune/

【季節のしつらい便】娘の成長を感じながらつくる雛人形

華やかで厳かな桃の節句の雛人形。私も娘もとても好きなしつらいです。
毎年この時期になると部屋の中だけは一足早く春になったかのようで、ウキウキします。
大切なお飾りを娘に受け継いでいってほしいと願いながらも、よくよく考えてみればどうして人形を飾るのか、桃の節句にどのような歴史や意味が込められているのかなど、これまできちんと話すタイミングはありませんでした。

そんな時に、雛人形をつくりながら自然と行事を学べる「季節のしつらい便」が発売。早速、娘と一緒に体験してみました。

はじめに、しおりにある『桃の節句とおひなさま』を、娘が朗読してくれるところから始まりました。「厄を払うってなに?」など疑問に思ったことを質問する中で、「女の子の成長を願う気持ちを込めるんだね」と、節句の意味を理解できた様子。
一緒に載っている日本各地の雛飾りのイラストに思いを馳せていよいよ雛人形づくりのスタートです。

まずは紙に下書き。お絵描き大好きな娘が、顔や髪形、どんな色にするかなど描き進めます。細かい塗りになるので、筆の使い方や顔の書き方など何度も練習。筆で描くのが難しいところは、絵具の上から塗ることができるペンを使うことにしました。

次に下書きの絵を見ながら、着物選びです。
「おひなさまはピンクの桜!」「隣にくるお内裏様はどんなのが合うと思う?」などコーディネートを考える楽しい時間。人形の顔にも鉛筆で薄く下書きしました。

失敗できない色塗りの工程。私が細い筆で髪の毛の輪郭をとり、娘が塗っていきます。思っていたよりスイスイ上手に塗っていてびっくり。
髪の毛が乾いたら顔を描きこみます。立体物に描くのは難しいのですが、今日一番の集中で上手にできました。髪飾りや烏帽子も装飾しておしゃれを楽しんでいる様子。

娘が顔を描いている間、私の方では着物の工程を進めます。端を折りながら両面テープで貼っていくだけなので簡単。ワイヤーは少し硬めなのでラジオペンチなどがあると便利です。
顔部分が乾いたら、綿を詰めた本体にセットし形を整えます。二人で協力しながら着物を着せたり腕の形をつくりました。

最後に、笏と扇を持たせて、完成です!
並べる時に「どっちが右?左?」と、ナイスな質問をくれた娘にしおりを見ながら説明。チェストに置くと、とてもいい出来栄えに感激。
「すごく素敵にできたね~!いい顔してる!」「着物のあわせもかわいいよ!」
と、盛り上がりました。

いつもは飾るだけですが、こうしてつくってみると雛人形に願いを込めた気持ちがより分かった気がします。制作中は娘と褒めちぎり合いながら(笑)楽しくできたので、親子のコミュニケーションツールとしても素晴らしいのでは!と思いました。

娘の健やかな成長を願って飾るひな人形を娘の成長を感じながら制作できたところも親として感慨深い時間でした。

<関連特集>
季節のしつらい便

【はたらくをはなそう】大日本市課 白山伸恵

2003年入社
本社、営業事務・経理・総務関係の担当を経て
卸売課の営業として全国の小売店を担当
大日本市展示会ではたくさんのメーカーさんとも関わり
工芸を元気にする大切さを更に感じる日々
現在、大日本市課として仕入業務を担当


私が入社した頃はまだ直営店からも小売店からも注文がFAXで届いていて、それを全てシステムへ手入力。連絡は電話が主流でした。それが今では直営店は各店で自動発注を行い、小売店からもWEBで発注いただくようになりました。
連絡方法もメールやチャットなどデジタルツールが続々と取り入れられ各自の時間が優先されています。

入社してしばらくは、中川政七商店の300年の歴史と、日々のめまぐるしい変化のギャップに戸惑うことも多かったのですが、社員が集まる機会に何度も語られ共有されることで、それがなぜそのように進んでいるのか?どのようにするべきか?を考え、納得して理解しながら仕事に取り組むことが出来るようになり充実感も多くなりました。


現在は、大日本市課で、日本の“いいもの”と“いい伝え手”を繋ぐ仕事に携わっています。商品をお客さまの元へ届けるためには、小売店の存在が欠かせません。「大日本市」は、展示会を中心に商品と小売店が出会う場をつくっています。

課の名前も元々は卸売課でしたが、自社商品を卸す為の課ではなく、日本全国の工芸メーカーの商品を仕入れて販売する工芸問屋として、日本の工芸を元気にする!覚悟をもつ為「大日本市課」と課名が改まりました。

私自身、日々の業務の中で、つくり手である工芸メーカーの方々、全国の小売店の方々と関わることで繋がりの大切さを知り、自分に出来ることは何でもやりたいという気持ちでいます。
そこで生まれる感謝の言葉や頼りにしていただけることが励みになっています。

そして、「学び続けること」はいくつになっても大切なことだと今更ながら感じています。
恥ずかしくても知らないことを聞くことや調べること、前に進むことを日々意識して取り組むようにしています。
同じチームのメンバーには頼ることも多いですが、学び知ったことは更に活かしてチームの力になれるよう日々励んでいければと思っています。


中川政七商店では、一緒に働く仲間を募集しています!
詳しくは、採用サイトをご覧ください。

 

<愛用している商品>

・THEの洗剤
 少量で何でも洗える、自然なラベンダーの香りもお気に入りです。

・DYK ペティナイフ
 ちょっとした野菜や果物のカットに毎日使っています。

・花ふきん
 中川政七商店の定番のひとつ
 やっぱりふきんの中で大判で乾きやすく一番使いやすく重宝しています。

日常にハレを取り入れる、手毬の宇宙

伝統的なお正月の遊びといえば、凧揚げ、コマ回しの他に、昔は女の子たちが手毬をつく姿もよく見かけられたそうです。「手毬」や「手毬唄」は新年の季語にもなっています。

ゴムまりが入ってきて以降は手毬は遊ぶ道具から観賞用に変化し、すっかり姿を見かける機会も減りましたが、今でも全国に15地域ほど、手毬の産地が存在しています。

「昔は全国に46種類くらいあったんです。ただ遊ぶだけ、見るだけでなく、いろいろな縁起を日常に気軽に取り入れられるアイテムでもあったんですよ」

そう教えてくれたのは東京・北千住にあるはれてまり工房代表の佐藤 裕佳さん。

全国の手毬文化を伝え残すために、ものづくりワークショップや手毬グッズの開発、手まりをモチーフに活かしたカフェやスイーツブランドを展開されています。

中川政七商店ではこの春、このはれてまり工房さんと共に「手毬のさくら根付」をつくりました。

小さなサイズに込められた、知られざる手毬の世界を、佐藤さんの案内で探訪します。

はれてまり工房代表の佐藤 裕佳さん

定義するのも難しい、自由な工芸

手毬の歴史は古く、中国から日本へと渡来したのは飛鳥・奈良朝時代のころ。平安朝時代以降は公家の遊びに用いられ、江戸に入るとお土産やお祝いの贈り物などに変化していきました。

明治時代に入るとゴムまりの普及により、糸を使った手まりは観賞用に。

「各地に手毬づくりは伝わっていて、特に雪国は、農業ができない冬の間につくる、貴重な収入源にもなっていたようです。私の出身地である秋田県由利本荘市にも『本荘ごてんまり』という伝統的な手毬が伝わっています」

この「本荘ごてんまり」を大学の卒業式の髪飾りに使ったことがきっかけで、各地にある手毬の魅力と存続の危機を知ったことが、現在の佐藤さんの活動のきっかけだったそうです。

各地で最も盛んにつくられていたのは、実は昭和の高度経済成長期。地域おこしや観光の手土産にと、全国に一斉に広まっていきました。その数、最盛期には記録に残るだけでも46種類。現存する15種類ほども、その姿は実に様々です。

「実は、手毬って研究されている先生でも定義が難しいと言うほど、素材やつくり方や模様も自由度が高いんです。糸を巻きつける芯も、もみ殻やヘチマの綿、発泡スチロールなど様々。暮らしの身近なものでつくってきたのでしょうね。

変わったものでは、滋賀県愛荘町の『びん細工手まり』。球体の瓶の中に手毬がぴったりと入っています。新潟の『栃尾てまり』は中身が独特で、蚕の繭の中に木の実を7つ入れて、手毬の芯に使うものが昔は主流だったそうです」

フリーハンドで生み出す模様

図案も決まったルールはあまりなく、つくり手次第。頭の中に描いた図案を、まち針で印を付けたりしながらフリーハンドで糸をかがっていきます。はれてまり工房さんでも、今回のようなアイテムの企画があるごとに新作が生まれているそう。見た目は伝統的な佇まいですが、デザインは常に進化を遂げています。

「それでも人気の柄というのは全国共通であって、一番スタンダードなのは菊。両面に菊があしらわれた二つ菊はよく見かけるんじゃないかなと思います」

「他にも縁起のいい麻の葉柄や菱がつながっている菱つなぎ、亀甲柄、それに、今回手がけた桜のモチーフもやはり人気ですね」

「桜柄はいろいろな地域でつくれられていて、糸の掛け方やデザインも様々です。今回は2面の桜にし、葉桜を思わせる黄緑色の『帯』をつけることで引き締めています」

「また絹糸を使用することで小さくても柄の繊細さがきちんと出て、職人の技術への敬意を表せたかなと思っています。どこかの糸一本の色や素材が違うだけで表情がぐんと変わるのが手毬の面白さです」

今回の根付のように小さいサイズは、ちょっとした糸の加減で柄のニュアンスが変わるので特に技術がいるそう。細やかな技が生きた、手のひらサイズの工芸品です。

日常にハレを取り入れる縁起ものとして

つくり方に決まったルールがないからこそ、伝わる姿も多様。ですが、その根っこには共通してひとつの意味が受け継がれています。

「ハレとケという言葉がありますが、ケがただただ続いていくと、ケが枯れて穢れ(ケガレ)になる。それを穏やかなケに戻すのがハレです。

手毬はそんなケに、さりげなくハレを取り入れるものだったのだと思います。まるい形は万事が丸く収まる、縁(円)をつくるといった意味につながりますし、弾むような人生を、という意味も込められます。地域によって、結婚などのハレの日に贈る文化も伝え残されてきました。

物質的に豊かな生活を送る今の時代の中では、こうした『もの』に託された思いや願いは少し気付きにくくなっているかもしれません。だからこそ、大切な人の幸せを願ってつくられ、贈られてきたものだと知ると、見る目や手にするときのワクワク感も変わるんじゃないでしょうか。

日常にハレを取り入れるアイテムとして身につけたり、誰かに贈ったりしてもらえたら嬉しいです」

万事が丸く納まり、縁が生まれて、人生が弾むように。一年の始まりに、こんなに心強い味方はないかもしれません。

<取材協力>
はれてまり工房
東京都足立区千住東2丁目5−14
http://haretemari.com/

100年先の日本に工芸があるように。中川政七商店のものづくり

100年先に残したいものづくりを

時代がどんなに変わっても、100年先の日本に工芸があるように。

もし、中川政七商店がものづくりをする理由を聞かれたら、そう答えます。

全国のつくり手たちと共にものづくりをする私たちが日々目の当たりにするのが、今にも失われてしまいそうな各地の工芸や技術の数々。

日々工芸に向き合う社員一人ひとりの「これがなくなるには惜しいな」という想いを根っこに、中川政七商店は「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げ、自分たちでものづくりを続けることを大切にしています。

これは、そんな「中川政七商店のものづくりってどんなもの?」のお話です。

つくり、伝えることで残す

例えば、ロングセラーの花ふきん。

素材には、地元・奈良でかつて一大産業だった「蚊帳 (かや) 」の生地が使われています。時代の変化による需要減少で、存続の危機にあった蚊帳を、何か別の用途で今の暮らしに生かせないか、という思いで開発されました。

もともと虫を避けて風を通すための目の粗い織りは、吸水性や速乾性に優れ、使うほどにやわらかく、ふきんの生地にぴったり。一般的なふきんの4倍ほどの大判に仕立てたことで、重ねて使えば水をよく吸い、広げて干せばすぐに乾く、現在の花ふきんが誕生しました。

より詳しいものづくりのストーリーはこちら

残したいものづくりは、地元の奈良に限らず全国に広がっています。

例えば2019年にデビューした歯ブラシスタンドは、岐阜県多治見で底引網用につくられてきた、陶の「おもり」がベースになっています。

おもり自体は漁師さんの減少により需要が減っていましたが、歯ブラシスタンドとして見立ててみると、もともと海で使うものなので耐久性はお墨付き。水周りに気兼ねなく置けて、適度な重さで安定して使えます。

こんなふうに、各地には生かし方を変えれば今の暮らしに沿うものづくりが無数にあります。時代の変化の中で、「しかたない」と失われてしまうのはもったいない。ならば、私たちが今の暮らしに沿うように、つくり、伝え続けることで残していこう。これが、私たちのものづくりの原動力です。

全国に800を超えるつくり手と残す

中川政七商店には、全国50を超える直営店があります。これが、つくったものを「伝える」拠点。ですが実は、「つくる」拠点としての自社工場は持っていません。

つまり私たちのものづくりは、膝を突き合わせて新商品に共にチャレンジする、つくり手の存在がいて初めて成り立ちます。

その数、全国に800社以上。織物に焼きもの、金属と、素材も技術も多様で、世の中にあまり知られていない貴重なものも多くあります。だからこそ、開発の上で共通して大切にしていることがふたつあります。

ひとつは、産地の「素材・技術・風習」に向き合ったものづくりをすること。産地のプロフェッショナルであるつくり手の知見や技術に学び、お互いにアイデアを出し合い、協力しながら新たなものづくりに挑戦しています。

例えば全国の焼きもの産地と開発した「産地のうつわ」シリーズでは、それぞれの焼きものの特徴を生かすために、暮らしの中で使いやすい基本的なサイズ感や形状は統一しながらも、産地の素材や技術によって培われた製法に従ってつくっています。

こちらは「素朴でありながら表情豊かなうつわ」信楽焼
「印判絵柄のゆらぎが楽しいうつわ」有田焼

そして大切にしているふたつ目は、「今の暮らしに沿うようにアップデートすること」です。

使ってもらうことで残す

自分たちが残したいと思ってつくったものでも、使われなければ世の中に残っていきません。そのものがもつ本質的な魅力を伝えながら、今の暮らしの中で使いやすいことを常に心がけています。

先ほど登場した歯ブラシスタンドでは、歯ブラシが立てやすいよう、穴の大きさを微調整し、色合いも家の中で使うことを想定して、従来なかった鮮やかな色合いに挑戦。

もともとのおもりの色
鮮やかなカラー展開の歯ブラシスタンド。穴の形状も少し変えてある

「産地のうつわ」シリーズは、気軽に各地の焼きものを取り入れられるよう、和洋中、朝昼晩と使いやすいデザインにし、高台裏に水がたまりにくいようにするなど、工夫を重ねました。

もうひとつ、日本有数の刃物産地、岐阜県関市のメーカーさんと開発した「最適包丁」も、「今の暮らしに最適な道具」という考え方をたっぷり詰めこんだアイテムです。

例えばサイズは、核家族・共働き家庭が多い今の暮らしを想像して、一般的な万能包丁よりもひとまわり小さくしました。これなら、短い時間でさっと取り出せて取り回しが楽です。また、ひと家族の人数が減っていることから、キャベツひと玉よりも半玉がちょうど切りやすい刃渡りにサイズを調整しました。

刃先はお手入れにかける時間が最小限ですむよう、切れ味が長続きする薄刃仕上げを採用。

一方で素材はステンレスの中でも最高級のものを使うことで、小さいサイズながら、切れ味はプロ並です。

産地で培われた素材・技術・風習を大切にしながら、今の暮らしに沿うように、アップデートする。ひとつひとつに向き合うものづくりは簡単ではありません。しかし、私たちが「いいな」と思うものが、使い手にとっても「いいな」と思えるものであれば、きっとその先に、来年も、再来年も、100年先も誰かが「いいな」と思い、暮らしの中に生き続けるものづくりの未来があるはずです。

私たちが残したいと思うものを、使い手の視点を添えてつくり、伝える。受け取った人が使うことで、ものづくりが残る。

遠回りのようですが、100年先にも日本の工芸が残っているように、私たちは今日もつくり手と使い手の間に立って、この挑戦を続けます。

<掲載商品>
花ふきん
漁師のおもりシリーズ
産地のうつわ きほんの一式
最適包丁

花ふきん愛用スタッフが考えた、春を告げる「花ふきん 糊こぼし」

中川政七商店のロングセラー商品である花ふきんに、ちょっと変わった名前の新柄が登場しました。その名も「花ふきん 糊こぼし」。

年末年始や引越しシーズンなどに、ご挨拶の品として贈られることの多い花ふきんに、春限定のデザインとして採用されました。

誕生のきっかけは今年、全店舗スタッフを対象に企画された新春向け商品のアイデアコンテスト。みごと最優秀賞に輝いたのが、中川政七商店 タカシマヤ ゲートタワーモール店スタッフ、樋口さんが考案した「花ふきん 糊こぼし」でした。

糊こぼしとは?なぜ新春限定の柄なのか?生みの親である樋口さんにその魅力と誕生秘話をたずねました。

毎日2・3枚を使い分ける花ふきんヘビーユーザーです

「入社して4年目になりますが、勤める以前からずっと花ふきんを愛用しています。

丈夫で大判、すぐ乾くので、食器拭き以外にもお弁当を包んだり何かと重宝していましたが、子どもが生まれてからは保育園用に毎日2、3枚を持たせて、夜は沐浴に使ったりと、さらに用途が広がりました。何枚あっても困らないので、友人の出産祝いにもセットで贈ったりしています」

暮らしの中で、とても身近な存在だった花ふきん。新春向け花ふきんのデザイン公募があった時は、自分が欲しいと思うものを作ろう、とすぐに案を考え始めたそうです。

奈良に春の訪れを告げる「糊こぼし」

樋口さんが「新春」と聞いてすぐに思い浮かんだのが「糊こぼし」でした。濃い紅色に白く模様が入った椿で、糊をこぼしたように見えることからこの名前がついたそう。

実は、中川政七商店の創業の地である奈良では、春の訪れを告げる花として知られています。

東大寺の新春の行事として有名な「お水取り」(修二会)では、練行衆のお坊さん達がこの糊こぼしの造花を作って二月堂の十一面観音さまに捧げます。

「その季節になると奈良の和菓子屋さんでは、糊こぼしをかたどった和菓子が時期限定で販売されます。私は数年前に奈良を訪れた際、偶然この糊こぼしの和菓子に出会って、何てきれいなんだろうと心に残っていました」

春のご挨拶にぴったりな紅白の椿

「花ふきんは吸水や速乾性といった機能だけでなく、『花』と名前がつくように、その色合いも使うときの楽しみです。お店では、夏場にスカーフや汗取りとして首に巻いていると教えてくれたお客さまもいらっしゃいました」

「鮮やかな紅白の椿なら、見た目にも楽しく、台所にちょっと掛けてあっても、お弁当包みや家の収納、バッグの目隠しなどにしても、きっと華やか。何より、新しい年の春のご挨拶にぴったりです。糊こぼしで作ってみよう、とアイデアがまとまりました」

デザインは、中川政七商店の「ご飯粒のつきにくいお弁当箱」を包んだ姿を想像しながら、お昼時、包みを広げたときにひとつの絵として楽しめるように考えたそうです。

「ただ椿の花を散りばめるのではなく、椿の木々を空から見下ろしているような構図になっています。余白をたっぷり取った柄は今までの花ふきんになく、落ち着いた中に華のあるデザインになりました」

試行錯誤の末にたどり着いた、1枚1枚変わるデザイン

長年花ふきんの捺染を手掛ける松尾捺染株式会社さんにとっても、こうした余白のあるデザインは初めてのこと。

当初は「花柄が集まった大きなひとつの円がふきんの中心に来る」というデザイン案でしたが、プリント位置に個体差が出るため、別の道を探ることに。

コンテストで選ばれた、当初の樋口さんのデザイン図

「もともとのデザインの雰囲気を、どうやったら再現できるだろう?」

樋口さん、商品課のふきん担当、メーカーさんと共に調整を重ねながら、たどり着いたのが「大判な花ふきんだからこそ可能な大柄のデザイン」でした。

プリント位置に個体差が出て柄位置がランダムになる、という点を生かして、花の円がいくつも集まる華やかなデザインに。

ものによって柄の出方が変わることで、1枚1枚に個性が生まれました。

「お店で好きな柄を吟味したり、育児や家事の合間に、今日はどのふきんを使おうかと選ぶ時間は、暮らしの中のちょっとした楽しい時間だと思います。新しい年の家仕事や、大切な人との新春のご挨拶の時間に、この糊こぼしふきんが彩を添えられたら、とても嬉しいです」

<関連商品>
花ふきん