こんにちは。ライターの小俣荘子です。
みなさんは古典芸能に興味はお持ちですか?
独特の世界観、美しい装束、和楽器の音色など、なにやら日本の魅力的な要素がたくさん詰まっていることはなんとなく知りつつも、観に行くきっかけがなかったり、そもそも難しそう‥‥なんてイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか。 気になるけれどハードルが高い、でもせっかく日本にいるのならその楽しみ方を知りたい!そんな悩ましき古典芸能の入り口として、「古典芸能入門」を企画しました。そっとその世界を覗いてみて、楽しみ方や魅力を見つけてお届けします。
今回は、「歌舞伎」の世界の入り口へ。
国立劇場にある伝統芸能情報館で開催中の企画展示「かぶき入門」を訪れました。
※国立劇場では、古くから日本に伝わる芸能を「伝統芸能」という言葉で表現されています。今回の記事では、それにならった記事表現を行なっております。
国立劇場では、歌舞伎や文楽をはじめ数々の伝統芸能の公演のほか、公演の記録、貴重な資料の保存や展示、伝承者の養成や調査研究も行われています。専門性の高い内容だけでなく、今回の展示のように、これから歌舞伎について知りたい、観てみたい!という方に向けた企画も展開されています。
歌舞伎の世界を体感してみる
この日は、企画を担当された名倉さんにご案内いただきながら鑑賞させていただきました。今回の企画展示「かぶき入門」は、初心者向けのもの。6・7月に行われる「歌舞伎鑑賞教室」(初心者向け解説付きの歌舞伎公演)と連動した展示がされていて、小学生のお子さんから大人まで歌舞伎への理解を深めながら楽しめる内容になっているのだそうです。歌舞伎の歴史や、「隈取(くまどり)」などのメイクの写真、舞台衣装や小道具、演目の様子を描いた「錦絵」の展示のほか、花道や舞台を疑似体験できるセットの用意も。シアタースペースでは、歌舞伎の魅力を解説した映画などの上映、文化デジタルライブラリーのコーナーでは、過去の公演映像や、鑑賞の解説などの動画も視聴できます。(会期中すべて無料で鑑賞可能です)
オペラと並べて語られることも多い歌舞伎。芝居や音楽だけでなく、大掛かりな舞台セットやあっと驚く舞台装置、役者の華やかな衣装やヘアスタイルなど、視覚的に楽しむ要素が多いのも歌舞伎の特徴です。間近で鑑賞する衣装の細工など、とても見応えがありました。
初心者向けの公演で歌舞伎を鑑賞してみる
先ほども少し書きましたが、国立劇場では初心者向けの歌舞伎公演も行なっています。
今年は6月と7月に開催されます。親子での鑑賞機会や、社会人向けのお仕事後の遅い時間の公演、外国人向けの公演(通常の日本語と英語のイヤホンガイドに加え、中国語、韓国語、スペイン語の同時通訳イヤホンガイド付き)も。リーズナブルな価格で、気軽に歌舞伎を鑑賞できる機会です。
歌舞伎鑑賞教室とは
四百年の歴史を持つ歌舞伎の魅力を、より多くの方々に気軽に楽しんでいただけるよう、人気のある演目を充実した俳優陣でご覧いただきます。また、歌舞伎俳優がみどころなどをわかりやすく解説する「歌舞伎のみかた」もご好評いただいております。ご観劇の手引きになる豆知識を小冊子にまとめた『歌舞伎―その美と歴史―』やプログラムの無料配布など歌舞伎を初めてご覧になる方にも最適な公演です。(国立劇場公式サイトより引用)
歌舞伎の魅力について伺うと、「歌舞伎は江戸時代の空気を感じられるところも魅力です。当時の最先端トレンドや、話題になっていたこと、日常の生活の様子が織り込まれているものなので、現代にいながらにして当時の様子が感じられるのです」と語ってくださいました。歌舞伎から感じる時代の空気。例えば、6月の鑑賞教室で上演される「毛抜(けぬき)」は、当時の話題の最先端だった「磁石」を巧みに取り入れたトリックが効果的に使われる演目です。陰謀により天井に仕込まれていた磁石に、屋敷の娘の髪飾り(鉄製)が反応してしまい、髪の毛が逆毛立つという奇病にかかったと大騒ぎになり婚約が破棄されてしまいます。主人公が毛抜きが動く様子を見てひらめき、事件を解決するという推理劇です。ストーリー展開はもちろんのこと、きらびやかな舞台や、主人公が見得(みえ)を切るシーン、人間味あふれる芝居の数々といった歌舞伎の魅力が詰まった、見た目にも面白く、わかりやすい内容となっています。
7月に上演される「鬼一法眼三略巻 一條大蔵譚(きいちほうげんさんりゃくのまき いちじょうおおくらものがたり)」は、「鬼一法眼三略巻」という物語の一場面で、源義経にまつわる説話を題材にした物語に着想を得て作られています。人形浄瑠璃で初演されたのちに、すぐに歌舞伎でも上演されるようになった作品です。現代で例えると、漫画やアニメの人気作から実写映画化されて大ヒットした作品といったイメージが近いかもしれません。この、江戸時代から現代にまで残る人気の作品では、平清盛が権力を掌握して栄華を極める時代に、源氏の再興を志す人々の物語がドラマチックに描かれています。主人公の一條大蔵卿は、源氏の子孫でありながら源平の対立には全く無関心で道楽に明け暮れている男。しかしその本心は…。頼りない男から瞬時に凛々しい姿に豹変する瞬間が大きな見どころです。この意表をつくストーリー展開を、見た目にも効果的に演出します。「ぶっかえり」という演出手法が用いられるのですが、衣装が一瞬にして変わるという手品のような仕掛けです。
袖肩部分の縫い合わせ糸を黒衣(くろご=観客からは見えないという約束になっている舞台上で様々な補助を行う者)が一気に引き抜くことで、衣装の裏側が表に現れ様子がガラリと変えるしかけを「ぶっかえり」と言います。現代のアイドルのコンサートで行われる衣装の早替えを思い出しました。現代劇の舞台演出にも通じる技術のルーツもたくさんありそうです。
「時代の空気」に敏感であったり、新しい技術を使った演出は現代の歌舞伎にも多く登場します。今年3月に歌舞伎座で行われた「俳優祭」。多くの人気歌舞伎俳優が出演される公演ですが、上演中にはトレンドを意識した演出が多数ありました。尾上菊之助さんと市川海老蔵さんがピコ太郎氏のPPAPを彷彿とさせるお芝居をされたり、中村勘九郎さんが星野源さんの「恋ダンス」を歌舞伎風にアレンジして取り入れて花道を彩るなど、その時代を生きる人々が一緒に共有できる面白さが演出にあふれていました。
伝統芸能と聞くと難しいイメージもありますが、歌舞伎はエンターテイメントです。当時の観客の興奮に思いを馳せながら、江戸時代の人々と同じように好奇心を持って歌舞伎を観てみるとまた新しい発見があるかもしれません。
気軽に立ち寄ることのできる展示や初心者向けの公演など、活用して歌舞伎を楽しんでみるとたくさんの魅力に出会えそうです。
企画展示「かぶき入門」
会期:4月22日(土)~7月27日(木)
開室時間:午前10時~午後6時(毎月第3水曜日は午後8時まで)
休室日:7月1日(土)
場所:国立劇場伝統芸能情報館 1階 情報展示室
<取材協力>
日本芸術文化振興会(国立劇場)
東京都千代田区隼町4-1
資料サービス課 03-3265-7061
<参考サイト>
国立劇場歌舞伎情報サイト
http://www.ntj.jac.go.jp/kabuki/
文・写真 : 小俣荘子