「作らずにはいられない」作家、タカさんのものづくりの話

こんにちは。さんち編集部の西木戸弓佳です。
鎌倉にオープンした土産店、「鎌倉八座」で見つけたかわいい人形たち。「三浦土人形」と名付けられたその人形たちの作り手はなんと、女性のお坊さんなのだそう。なんとありがたい人形なのか‥‥。

鎌倉八座で見つけた「三浦土人形」の波乗りだるま
鎌倉八座で見つけた「三浦土人形」の波乗りだるま

お話を聞くため、お寺にお邪魔してきました。三浦七福神の一つである恵比須さまが祀られている圓福寺。そこにお坊さんであり、ただひとりの「三浦土人形」の作家・村井タカさんがいらっしゃいます。

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作りたくて、仕方がない

「気付くとどんどん増えていっちゃうから、最近はちょっと作るものの数を絞るようにしてます」と笑うのは、作家の村井タカさん。「思いつくと作らずにはいられないから、すぐ新しいものを作っちゃうんです」と話されるタカさんのアトリエには様々な形の人形たちが並びます。ひとつひとつ型から手作りされる人形たちは、ちょっと気が抜けていてゆるさがたまりません。

端午の節句に作られた桃太郎。子どもの成長を願い、元気いっぱいです
端午の節句に作られた桃太郎。子どもの成長を願い、元気いっぱいです
犬の上に干支のモチーフが乗る、毎年の干支シリーズ。さて来年の戌年は‥
犬の上に干支のモチーフが乗る、毎年の干支シリーズ。さて来年の戌年は‥
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小さい頃から物づくりが好きで、美術大学へ進学。しかし当時の、“お題の決まった物”を作る授業に「物足りない」と、大学を中退されます。
「作り手として、自分独自のものを見つけ出さないとつまんないな、という感覚がありました。若かったですし、自分が今思ってることを形にしたいし、人に訴えかけるものがいいなって」。大学の授業は嫌いではなかったものの、「何のためにやってるんだろう」という迷いもあったのだとか。
そんな時に展覧会で、伏見人形などの民芸品に出会います。
「民芸品を見た時に、それらが非常にイキイキしてて『おもしろい!』『何なんだ、これは!』って、刺激を受けました。作ってる人の個性がまるっきり出てるし、江戸時代からの伝統もあってか庶民にとても受け入れられてる感じがして。人間のエネルギーというか、生きることへのエネルギーが強いなって」。興奮気味に話されるタカさんから、民芸品との出会った時の感動が伝わってきます。「大学よりこっちの方が勉強になるんじゃないか」と、大学を中退。仕事をしながら陶芸の専門学校で学びます。

民芸品との出会いについて「もうね、すっごくパワーを感じた」と話されるタカさん
民芸品との出会いについて「もうね、すっごくパワーを感じた」と話されるタカさん

学校を卒業後は、“作ることを続けるため”の他の仕事をしながら、物づくりも継続。「作らずにはいられなかった。今も変わらないけど」と、笑いながら物づくりのことを対して話してくださるタカさんはとてもチャーミングで、作ることがとことん好きな根っからのクリエイターなんだろうなと感じます。

土人形以外にも、人物を中心とした作品作りもされています
土人形以外にも、人物を中心とした作品作りもされています

お坊さん兼、作家

作り手としてのしてのタカさんが魅力的でそればかり書いてしまいましたが、冒頭でもお伝えした通りタカさんはお坊さんでもあります。結婚・出産を経て、ご実家である圓福寺に戻られた後、本格的にお坊さんとしての仕事もされているのだそう。
「寺の娘として生まれたけど、お寺を次ぐ弟もいたし物も作りたかった。若い頃から一応坊さんとしての勉強や修行はしてたものの、正直二の次だったと思います。だけど、修行をさせてもらって、それまで気付かなかったことにたくさん気付かせてもらった。今は自分が作れているのは阿弥陀様や父母のおかげだと、心から思います」。修行のお話を聞くと、それはそれは大変そうでしたが、「させてもらって良かった。やれば出来ないことなんかないなぁと思う」と話されます。

仏教の教えの際に使われているタカさん手書きのイラスト
仏教の教えの際に使われているタカさん手書きのイラスト

お坊さんと物づくり。全く違う素質のようにも思いますが、共通することはあるのでしょうか。
「物づくりも仏教も“自分を見つめる”という点では一緒かもしれません。物を作ってると失敗もありますし、あぁでもないこうでもないって修正しながら、忍耐強く物や自分と向き合う作業です。仏教も同じで、今自分に足りてないもの、必要なものって何なのかを自分で考えながら、そこを鍛える修行をしていくんです。制作も修行も、他人じゃなくて自分と向き合う作業。作ることで“見ること”を鍛えられてきたので、スムーズに修行に入れたというのはあるかもしれません」。

お坊さん用のお経のための楽譜 (!)
お坊さん用のお経のための楽譜 (!)

タカさんの作られる物の中には、お経の中に出てくる教えやモチーフが登場します。般若心経(はんにゃしんぎょう)の「色即是空、空即是色(しきそくぜくう、くうそくぜしき)」という“この世のすべてのものの本質は空である”ことからイメージした物、仏典に出てくる極楽に住む鳥、“迦陵頻伽(かりょうびんが)”がモチーフとなった物など、仏教にそれほど深い教養のない私から見るとアイデアの原点がユニークに感じ驚かされます。さすが、お坊さん‥。

お父様への贈りものとして飾られていた迦陵頻伽がモチーフとなった人形は手を合わせていました
お父様への贈りものとして飾られていた迦陵頻伽がモチーフとなった人形は手を合わせていました

願いを込めて、境内で作られる土人形たち

「元々、元気に育ってほしい、幸せになってほしいなど願いを込めて作られてきたものです。買った人が幸せになってほしいなと願いを込めて作っています」。鎌倉八座でも売っているベロ出しだるま。“だるまは忍耐”と言い手も足も出てないけど、タカさんの作られる達磨は手足が付いている上に、おどけた顔で舌を出しています。「だるまだって色んな形があっていい。一生懸命頑張ってもうまくいかないこともあるし、これを見てふふふって笑ってくれたらいいなって。最近教えでも、『自分で解決できないことは、人様に頼っていい。南無阿弥陀仏って唱えればいいんですよ』なんて言ってます。
お坊さんであるタカさんの作品は、持つ人の心にゆとりを与え救いの手を差し出しているのかもしれません。

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「朱孝窯」
神奈川県三浦市南下浦町金田258 圓福寺境内
046-889-1963
※ 境内のアトリエにて作品の販売も行っていますが、タカさんがご不在の場合もありますので事前にお問い合わせください。

こちらでも販売してます
「鎌倉八座」
神奈川県鎌倉市小町1-7-3
0467-84-7766
営業時間 : 9:30〜18:30
※ 人気のため制作が間に合わないこともあるそうです。品切れの場合もありますので予めご了承ください

文・写真 : 西木戸弓佳

6月 一番簡単にお付き合いできる盆栽「復活草」

こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。
日本の歳時記には植物が欠かせません。新年の門松、春のお花見、梅雨のアジサイ、秋の紅葉狩り。見るだけでなく、もっとそばで、自分で気に入った植物を上手に育てられたら。そんな思いから、世界を舞台に活躍する目利きのプラントハンター、西畠清順さんを訪ねました。インタビューは、清順さん監修の植物ブランド「花園樹斎」の、月替わりの「季節鉢」をはなしのタネに。植物と暮らすための具体的なアドバイスから、古今東西の植物のはなし、プラントハンターとしての日々の舞台裏まで、清順さんならではの植物トークを月替わりでお届けします。

6月は復活草(ふっかつそう)。大人しそうな見た目ですが、さてインパクト大な名前の由来はどこにあるのでしょうか。今回も清順さんが代表を務める「そら植物園」のインフォメーションセンターがある、代々木VILLAGEにてお話を伺いました。

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◇6月 一番簡単にお付き合いできる盆栽「復活草」

復活草は雨が大好きな植物です。乾燥が続くと葉を閉ざして、自ら生命活動を停止してしまうんです。いわば仮死状態ですね。それが、また水をあげると葉を開いていって、緑に戻るという特殊な性質を持っています。だから復活草。これから雨が多くなるので、水が好きな植物がいいかなと思って選びました。

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盆栽のように外で育てますが、シダ植物なので日陰にもある程度耐えます。別名イワヒバと言って、崖にくっついて自生しているんですよ。それも断崖絶壁の、風がビュンビュン当たるようなところに生えているんです。一度海外からきた植物学者のお客さんを案内がてら、近くの山に登って命綱なしで復活草を採っていたら、高いところに登りすぎて降りられなくなったことがありました。23・4歳の頃だったかな。しばらく岩にしがみついたまま動けずに、同行した人になんとか上から引き上げてもらって事なきを得ましたが、今思うと復活草の名前をなぞるような経験でしたね (笑) 。

ヨーロッパだったらバラやチューリップが「キレイ」となるんですけど、日本人はこういう“けったいな”ものを愛でる文化があります。それはもう江戸時代くらいから。ミニマリズムというか、ちっちゃい中に世界観が凝縮した感じが好きなんですね。復活草は長らく盆栽の世界で愛されてきた植物ですが、育て方はシンプル。土が乾いてきたら水をやる、でOKです。そういう意味では「一番簡単にお付き合いできる盆栽」と思ってもらったらいいと思います。名前も縁起がいいので、父の日のプレゼントにも良さそうですね。

それじゃあ、また来月に。

<掲載商品>

花園樹斎
植木鉢・鉢皿

・6月の季節鉢 復活草(鉢とのセット。店頭販売限定)

季節鉢は以下のお店でお手に取っていただけます。
中川政七商店全店
(阪神梅田本店・ジェイアール名古屋タカシマヤ店は除く)
遊 中川 本店
遊 中川 神戸大丸店
遊 中川 横浜タカシマヤ店
*商品の在庫は各店舗へお問い合わせください

——


西畠 清順
プラントハンター/そら植物園 代表
花園樹斎 植物監修
http://from-sora.com/

幕末より150年続く花と植木の卸問屋「花宇」の五代目。
日本全国、世界数十カ国を旅し、収集している植物は数千種類。

2012 年、ひとの心に植物を植える活動「そら植物園」をスタートさせ、国内外含め、多数の企業、団体、行政機関、プロの植物業者等からの依頼に答え、さまざまなプロジェクトを各地で展開、反響を呼んでいる。
著書に「教えてくれたのは、植物でした 人生を花やかにするヒント」(徳間書店)、 「そらみみ植物園」(東京書籍)、「はつみみ植物園」(東京書籍)など。


花園樹斎
http://kaenjusai.jp/

「“お持ち帰り”したい、日本の園芸」がコンセプトの植物ブランド。目利きのプラントハンター西畠清順が見出す極上の植物と創業三百年の老舗 中川政七商店のプロデュースする工芸が出会い、日本の園芸文化の楽しさの再構築を目指す。日本の四季や日本を感じさせる植物。植物を丁寧に育てるための道具、美しく飾るための道具。持ち帰りや贈り物に適したパッケージ。忘れられていた日本の園芸文化を新しいかたちで発信する。

ハレの日を祝うもの はじめての日から、ずっと使える漆椀

こんにちは。さんち編集部の杉浦葉子です。
日本人は古くから、ふだんの生活を「ケ」、おまつりや伝統行事をおこなう特別な日を「ハレ」と呼んで、日常と非日常を意識してきました。晴れ晴れ、晴れ姿、晴れの舞台、のように「ハレ」は、清々しくておめでたい節目のこと。こちらでは、そんな「ハレの日」を祝い彩る日本の工芸品や食べものなどをご紹介します。

子どもが一生、食べることに困らないように

赤ちゃんの生後100日目に行われる「お食い初め」。「一生食べるのに困らないように」との願いを込めて、赤ちゃんに食事の真似をさせる風習です。

「お食い初め」の起源ははっきりとはわかっていませんが、平安時代から行われていた儀式だとか。平安時代は赤ちゃんにお餅を食べさせる「百日(ももか)」という儀式があり、その後鎌倉時代には餅から魚肉に変わって「真魚はじめ」と呼ばれるようになったそう。この「真魚はじめ」で初めてお箸にふれることから、「箸揃え」や「箸初め」という呼ばれ方を経て、室町時代にはようやく「お食い初め」と呼ばれるようになりました。

生後100日というと、ちょうど赤ちゃんに乳歯が生えるころ。それを祝って、新しい茶碗や汁椀、皿などを用意します。そのとき料理に「歯固め」の石を添えることもあります。「お食い初め」の風習も地方によってさまざまで、関西では歯固めの石の代わりにタコを添えたり、固い栗の実を添えるという地域もあるのだそうですが、いずれも「赤ちゃんの歯が固くなるように」という願いをこめて添えられるものです。

ずっと使える、越前漆器のうつわ

福井県鯖江市で8代200年に渡って越前漆器をつくりつづけてきた「漆琳堂」。塗りを専門とした「塗師屋(ぬしや)」のこちらでは、一つひとつ漆を手塗りしてさまざまな漆のうつわをつくっています。

「漆琳堂」8代目の内田徹さん
「漆琳堂」8代目の内田徹さん

記念すべき「お食い初め」の日、子どものために用意する新しいうつわは、どんなものがいいだろう?鯖江の「漆琳堂」と奈良の「中川政七商店」が一生懸命考えてつくったうつわが、「ずっと使える入れ子の漆椀セット」です。

子どもがはじめて使ううつわは、やっぱりいいものに触れさせてあげたい。でも、「お食い初め」のためだけに使うのはもったいない。だから「お食い初め」の時から、大人になるまでずっと使える漆器のセットを。漆器は軽くて割れづらいため、子どもがはじめて持つ食器にぴったりです。

椀・鉢・皿の3点セット。大人になったら小鉢や豆皿としても
椀・鉢・皿の3点セット。大人になったら小鉢や豆皿としても
めでたいことが重なるようにと、うつわも「入れ子」で縁起よく。桐箱入りで、「ハレの日」ご出産のお祝いにぴったり
めでたいことが重なるようにと、うつわも「入れ子」で縁起よく。桐箱入りで、「ハレの日」ご出産のお祝いにぴったり

漆によく見られる朱や黒ではなく、このうつわは白い漆をつかっています。はじまりの色とされる「白」の漆はその神聖さから神の色ともされているのだそう。使いはじめはベージュのような色味ですが、経年変化で少しずつ白くなっていくので、子どもの成長とともにうつわの変化も楽しめます。

小さいころから本物のうつわに親しんで、ものを長く大切に使う習慣になりますように。なにより、食べものを美味しく楽しくいただくうつわになると良いな、と思います。
今は小さな赤ちゃんがいつか大人になって、より白くなった漆椀を大きな手にちょこんと持つ日が楽しみです。

 

<掲載商品>
ずっと使える入れ子の漆椀セット(中川政七商店)

<関連商品>
ずっと使えるベビースプーン(中川政七商店)
ずっと使えるベビーマッシャー(中川政七商店)
ずっと使えるベビーコーム(中川政七商店)

<取材協力>
株式会社 漆琳堂
福井県鯖江市西袋町701
0778-65-0630
http://www.shitsurindo.com

文:杉浦葉子

【鎌倉のお土産】菓子研究家・いがらしろみさんによるRomi-Unie Confitureの手作りジャム

こんにちは、さんち編集部の西木戸弓佳です。
わたしたちが全国各地で出会った “ちょっといいもの” を読者の皆さんへのお土産にプレゼント、ご紹介する “さんちのお土産”。今回は、新たな文化が発展し続ける古都・鎌倉のお土産です。

鶴岡八幡宮に続く参道・若宮大路を進んでいく途中、とても美味しそうな甘い匂い‥中を覗かずにはいられません。菓子研究家・いがらしろみさんによるジャムのお店、Romi-Unie Confiture(ロミ・ユニ コンフィチュール)。ここで作られている手作りジャムが買える、鎌倉の人気店です。

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壁いっぱいの、色とりどりのジャム。見ているだけでワクワクするような、目に楽しい風景が広がります。
季節によってメニューが入れ替わり、約40種類のジャムが店頭に並ぶのだそう。「お菓子みたいなジャム」をコンセプトに作られたジャムたちは、アプリコットとバニラ、いちごとミントと黒こしょう、プラムとアールグレイ、文旦とはちみつのマーマレードなど、気になるものばかり。また、“カシュ・カシュ”・“アニヴェルセール (記念日) ”・“メルシー (ありがとう) ”・“リュクス (贅沢) ”・“マドモワゼル”などと付けられた、ジャムの名前もかわいらしいです。

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ジャムを作るのは、毎日(!)。 店内にあるアトリエで、素材の仕込みから銅鍋で煮て、瓶詰めまで、全て人の手で行われているのだそう。店内にある小窓から覗くことのできるアトリエでは、食材を切ったり、材料を量ったりとせっせと仕込みをされてる様子が見えました。小さなアトリエは工場と違って一気にたくさんは作れないけれど、その分、その日その日の食材ときちんと向き合いながら、ていねいに作っているんだろうなぁ。そんな手作りのごちそうを手軽に持ち帰れるなんて幸せです。

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スタッフの方の「どれも本当に美味しいし、味が全部違うので、全部おすすめ」というジャムの中から、頭を悩ませて今回選んだのは、鎌倉限定の「キャラメル・カマクラ」といちごといちごのオー・ド・ヴィーの入った「ハイジ」。
「キャラメル・カマクラ」は、海と山が共存する鎌倉をイメージして地元・湘南で取れたお塩(海の恵)とヘーゼルナッツ(山の恵)で作られたもの。焼き立てのトーストやパンケーキに乗せると、キャラメルがとろっと、口に入れるとナッツの香ばしい香りが広がるのだとか。これは、朝ご飯を楽しみに、早起きができそうです。
今回は、この2種をお土産として皆さんへお届けします。(応募の方法はページ下部をご覧ください。)

ここで買いました。

Romi-Unie Confiture(ロミ・ユニ コンフィチュール)
鎌倉市小町2-15-11
0467-61-3033
www.romi-unie.jp

さんちのお土産をお届けします

読者のみなさまの中から抽選で1名さまにさんちのお土産 “Romi-Unie Confitureの「キャラメル・カマクラ」と「ハイジ」(各80g)” をプレゼント。
応募期間は、2017年5月18日〜6月1日までの2週間です。
お問い合わせフォームから、件名に「さんちのお土産 “ジャム” 」、本文に住所・氏名・年齢・ご職業・お電話番号・「さんち〜工芸と探訪〜」のご感想を明記の上、ご応募ください。
※当選者の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。 いただきました個人情報は、お土産の発送以外には使用いたしません。
ご応募、当選に関するお問い合わせにはお答えできかねますので予めご了承ください。

文・写真 : 西木戸弓佳

わたしの一皿 たまには失敗

最初にあやまっておきたい。ごめんなさい。今月は料理の仕上がりがイマイチなのです、とほほ。とほほほほ。みんげい おくむらの奥村です。

食材の色をいかした煮物は、薄口醤油か白醤油が良いのだけど、すっかり切らしていた。あー残念。味はよいのに真っ黒じゃないか。家の料理なのでそういうこともある。ありますよね。前向きにいきましょうか。味はよかったのですよ、実に。

春は苦味の野菜や山菜の季節。きびしい冬が終わり、ぐぐっと伸びてきた緑に苦味がある。これってなんだかすてきじゃないですか。きっとこの苦味には意味がある。口にすればおいしいし、身体をどこかきれいにしてくれるような気がするから。

ということで今月は「ふき」。緑がきれいな食材です。北海道から沖縄まで全国で見られるふき。しかもそこら中にあるので昔からなかなか優秀な春の食材だったのだったんじゃないでしょうか。板ずりして、塩つきのままゆでて、冷水にとり、皮をむく。下ごしらえがちょっと面倒なのは季節食材のかえってよいところじゃないかとも思えます。できあがりがますます楽しみになるから。

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小さいころは、ふきってなんともぼんやりとした、あってもなくてもよい食べ物じゃないかと思っていたけれど (ストロー状の食べ物って子供心に楽しいものだけど、なぜかふきはそこまで気持ちが上がらなかった) 、大人になってくるとしみじみ美味しい。むしろ好んで食べたいと思うばかり。

ふきに合わせたうつわは丹波のもの。丹波立杭焼 (たんばたちくいやき) は六古窯の1つで、長い、長い歴史をもつ。このうつわは俊彦窯という窯で焼かれたもので黒い釉薬が掛かっている。黒いうつわも良いもんです、と、この連載で黒いうつわを使うのは二回目。黒い釉薬から時折、赤ともオレンジとも思えるような土の表情が見えます。鉄分の多い土が焼成によってこういう色になっているんです。そのちょっとした表情がまたこのうつわのよいところ。黒なのに強さや暗さは感じない。どこかぼってりと田舎っぽいおだやかな雰囲気がする。民藝のうつわのよさ、というのはまさにこういうところ。

そうそう、丹波というのは兵庫と京都にまたがっている地域ですが、焼き物の丹波は兵庫。丹波篠山と言えば「あっ」と思う食いしん坊がいるかもしれない。黒豆、松茸、栗に猪にワインに‥‥。そう食材の宝庫。そんな土地だから、山が美しいんですよね。大阪からも神戸からも遠くないのにまるで別世界。そろそろ窯元の工房の中にツバメが巣をつくりにやってくる頃かな。

そんな場所で作られるうつわなので、ふきだったり他の山菜だったり、山の食材にもよく似合うのは当然かもしれない。

ところでこのかつおぶしたっぷりに煮る煮物は、ふきの、苦味があるのにどこか柔らかさや丸さがあるという不思議な味わいと、かつおぶしに醤油というわれわれが慣れ親しんだ和食の基本の味わい。どこかなつかしさと、奥ゆかしさや余韻を感じるという、まさに日本の味、日本らしさなんじゃないかと思います。ずーっと伝えていきたい味わいです。

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ふきの煮物がうれしいのは冷めてもおいしいこと。作って2日目、3日目ぐらいには、お腹が空いてきた夕方、ホウロウ容器からこれをちょっと取り出してうつわに移し、冷たいままでとりあえず。ちょいとおちょこ一杯の日本酒でもやれば、エンジン掛かって夕飯のしたくも加速します。

そんなだから、何日か持つからと思ってある程度たくさん作るのだけど、すぐなくなってしまう。春はつくづく食いしん坊にはうれしい季節です。

奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の3分の2は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。

みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com

文:奥村 忍
写真:山根 衣理

由比ヶ浜の風を感じる古民家で、打ち立ての蕎麦をいただく 鎌倉 松原庵

こんにちは。さんち編集部の山口綾子です。

旅に出かけたら、何をいちばん優先しますか?やっぱり「食」と答える方が多いのではないでしょうか。

でも、ガイドブックに大きく載っているお店だけでは物足りない。地元の人たちおすすめのお店で、その土地の空気を味わいたい。そしてそこに、地元のお酒と美味しい肴があれば最高ですよね。

今日は由比ヶ浜駅から程近い「鎌倉 松原庵」さんを訪ねました。

鎌倉駅から江ノ島電鉄に乗り換え、のんびり揺られながらもあっという間に由比ヶ浜駅に到着です。由比ヶ浜駅から徒歩2~3分、こんなに閑静な住宅街の中にお店がある‥‥?と少し心配になりますが、すぐに「鎌倉 松原庵」の看板が見えてきます。

大きなのれんをくぐって敷地内へ。古民家の落ち着いた雰囲気の中にあたたかみのある照明が効いています。景色も含めて素晴らしい晩酌の時間になりそうです。

正面入口の小道
正面入口の小道

店内は全部で70席あり、テーブルと座敷、テラスがあります。今回は座敷に通していただきましたが、夏~初秋のテラス席も格別だとか。冬場も利用は可能で、ストーブとブランケットが用意されています。

趣のある店内。縦型の2枚の絵は信州を中心に活躍する田嶋 健さんによる作品
趣のある店内。縦型の2枚の絵は信州を中心に活躍する田嶋 健さんによる作品
夜のテラス席の様子
夜のテラス席の様子

鎌倉 松原庵さんは、2007年3月に開業されました。きっかけは“築70年の古民家があるのでそこを蕎麦屋にしませんか”というお話があったからだそうです。

松の木をはじめとした自然を含めた環境と建物の調和が取れていたため、なるべくその状態を活かした店づくりを心がけていらっしゃいます。店内に入ると、あたたかな品格もありながら、まるで誰かのお家にお邪魔しているかのような居心地です。

いよいよ、晩酌です

「旬菜三点盛り」と人気の「すだち鬼おろしそば」、神奈川のおすすめの日本酒を注文します。

お通しは、きゅうりに醤油豆をのせたもの。甘じょっぱい味が晩酌にぴったりです。ちなみにこの醤油豆は系列店の「酢重正之商店(すじゅうまさゆきしょうてん)」で販売されています。

どんなお酒とも相性が良さそうな醤油豆です
どんなお酒とも相性が良さそうな醤油豆です
左からアスパラガスと筍の天婦羅、うどのきんぴら、ほうれん草と春菊のおひたし
左からアスパラガスと筍の天婦羅、うどのきんぴら、ほうれん草と春菊のおひたし

「旬菜三点盛り」は、季節によって内容が変わることもあるそうです。今回は春の味覚が満載でした。

塩でいただくアツアツの天婦羅と、ピリっと甘辛いきんぴら、出汁のきいた優しい味のおひたしと3種がバランス良く楽しめます。天婦羅には、鎌倉ならではの海鮮あられ揚げもおすすめです。

キリリと冷えた日本酒とお蕎麦の相性は最高です
キリリと冷えた日本酒とお蕎麦の相性は最高です

日本酒は「天青 風露 特別本醸造」。とても飲みやすく、後味がサッと辛口の美味しい日本酒でした。

つゆがキラキラと輝いていました‥‥
つゆがキラキラと輝いていました‥‥

「すだち鬼おろしそば」は、すだちのさっぱりとした苦味と蕎麦のつゆ、大根おろしが絡み合って、人気が高いのも大きく頷けます。

お、美味しい!蕎麦は細めの二・八の田舎蕎麦で、喉越しがよく風味が豊かなことがひとつの特徴の蕎麦です。その日に食べる分だけ、店内で手打ちをするそうです。

鎌倉 松原庵さんのお料理へのこだわりが、“蕎麦前”という江戸時代からの粋な蕎麦の食べ方にあります。この食べ方をお客様に味わっていただくために一品料理の品揃えにも注力されているとか。

「ご友人やご家族と、会話を楽しみながらお酒に合う一品料理をつまみ、最後に蕎麦で〆る、という時間を鎌倉 松原庵の空間とともにお楽しみいただけると幸いです」とのこと。

お料理の器も、日本全国から選りすぐりの作家による作品で、調度品としてよりも、実際に盛り付けたときに美しくなるものを選んでいるそうです
お料理の器も、日本全国から選りすぐりの作家による作品で、調度品としてよりも、実際に盛り付けたときに美しくなるものを選んでいるそうです

料理、空間、サービスといったすべてが、お客様の邪魔にならないよう、昔からこの場所を知っていたかのような雰囲気づくりを心がけていらっしゃるということを聞いて、最初に感じた居心地の良さに結びつきました。

人気のお店ではありますが、今の時期からあじさいが咲く頃までは比較的落ち着いているようです。併設のカフェも同じく居心地が良く、あっという間に時間が経ってしまいますよ。平日の夜に行かれることをおすすめします!

こちらでいただけます

鎌倉 松原庵
神奈川県鎌倉市由比ガ浜 4-10-3
TEL 0467-61-3838

<アクセス>
「江ノ電由比ヶ浜駅」から徒歩3分
<営業時間>
11:00 ~ 22:00(21:00 LO)
<定休日>
なし


文:山口綾子
写真:鎌倉 松原庵 / 山口綾子