こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。
今月「さんち」で取材している福井県越前一帯は、日本でも有数の和紙の産地として知られます。和紙は消臭・抗菌に優れた効果が認められ、その繊維が宇宙滞在用被服にも採用されているそうです。
紙なのに破れないの?水に弱くないの?なぜ消臭・抗菌効果が?
越前和紙発の「和紙繊維」を開発し、宇宙へと旅立った和紙の靴下を製造した株式会社キュアテックスさんに、「紙」にとどまらない、和紙の知られざる実力を伺いました。
意外と知らない高機能素材・和紙
和紙と聞くとまずやわらかな風合いの紙そのものをイメージしますが、もともと日本では暮らしの中で幅広く活用される高機能素材でした。
障子やふすまは今も馴染み深いものですし、昔は袋状にした和紙の中に藁を入れた紙衾 (かみぶすま) なんて簡素な布団も存在したそうです。以前に連載記事「キレイになるための七つ道具」で紹介した「あぶらとり紙」も、金箔を薄くのばす工程で使われる和紙が発祥でした。
耐久性は1000年以上!?抗菌、消臭などの効果も。
暮らしの道具からものづくりまで様々に活用されてきたのは、それだけ使い勝手が良いという証。実は和紙はとても丈夫で、その耐久性は1000年以上の保存にも耐えるといわれています。
驚異的な耐久性の秘密は、生み出される工程にありました。
紙漉きの事例は古くから世界各地で見られるそうですが、主流は綿や麻から取れる短い植物繊維を原料に、簀 (す) と呼ばれる ふるいのような道具ですくい上げて繊維を絡ませ紙状にする「溜め漉き」という製法。
対して和紙は、繊維の長い木の皮を使用し、とろみのある植物性粘液「ねり」と原料の繊維を混ぜ合わせて紙を漉きます。これは日本で独自に考案された「流し漉き」と呼ばれる製法で、なんと平安時代には始まっていたそうです。
うまく漉くには高い技術を要しますが、少量の材料でごく薄い紙を効率的に漉くことができ、さらに繊維が均一に分散されるので、表情がつややかで美しく、丈夫になります。「原料が少なく済む」から発想された製法は、資源少ない日本の風土の賜物といえるかもしれません。
さらに、原料に使用されている木の皮には嬉しい効果が。
木の皮は、人間でいえば皮膚に当たるもの。幹本体を守るために紫外線をブロックし、表面の湿度を一定に保ち、虫の侵入を防ぎ、菌の繁殖を防ぐなど、木が本来持っている力が備わっていて、加工後の和紙もその効果は失われずに持続されるのだそうです。
思えば昔からの暮らしの知恵にも、防虫のためにタンスに入れるくすのきや、殺菌作用があるといわれるクロモジを使った黒文字楊枝など、木の力をかりた暮らしの知恵がいくつも存在しています。
「自然から授かった力をもつ和紙を、もっと幅広く活かせないか」
1300年の歴史を持つ越前和紙の職人たちの間で、今から20年ほど前、和紙から作る「和紙繊維」の構想が始まりました。10年の歳月をかけて開発が行われ、ついに完成した和紙繊維事業を元に2007年、創業したのが株式会社キュアテックスです。
宇宙へ旅立った和紙繊維
和紙繊維づくりは、和紙づくりから始まります。福井市に工場を持つキュアテックスでは和紙を1.5~2ミリ幅のテープ状に仕立て、「こより」をつくる要領で紙に撚 (よ) りをかけ、糸状にしていきます。
もともと丈夫な和紙に「ひねり」を加えることでさらに丈夫さが増し、水にも溶けず、洗濯やクリーニングに耐えられる、丈夫な繊維が出来上がるのだとか。
撚りの回転数や仕上げの仕方などを独自に設定し開発された和紙繊維は、生地に仕立てた時に紫外線を80%以上カット、着用24時間後でも最大83%の消臭効果を発揮するそうです (キュアテックス調べ) 。
2010年には、キュアテックスの和紙繊維で編んだ靴下がなんとJAXAの宇宙滞在用被服に採用。当時話題となった日本人女性宇宙飛行士とともに宇宙へ旅立ったのです!
和紙繊維製品としては、日本で初めての宇宙関連事業への採用。高い快適性を求められる宇宙ステーション内での生活において、和紙繊維の機能性が世界に認められた瞬間でした。
暮らしの中から宇宙へ。長い歴史を積み重ねてきた越前の和紙は、昔からの暮らしの知恵に根を下ろしながら、新しい形で現代に息づこうとしています。
<取材協力>
株式会社キュアテックス
http://curetex.jp/
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文:尾島可奈子
写真提供 (一部除く) :株式会社キュアテックス、公益社団法人福井県観光連盟