こんにちは。ライターの小俣荘子です。
私はここ数年、洋装と和装それぞれ半分ずつくらいの割合で外出するようになりました。慣れてしまうと思いのほか楽しく快適なものですが、出かける先で「大変でしょう」と労いの言葉をかけられることもしばしば。一方、不安を口にされつつも興味を示してくださる方にもたくさん出会うようになりました。
きものは現代の装いとして身近なものではなくなっている一方で、いつかは着てみたいと考えている方も多いようです。
洋服と同じようにきものも日常に取り入れられたら、毎日はもっと彩り豊かになるはず。連載「きものを今様に愉しむ」では、きものとの付き合い方や、愉しむヒントをご紹介してまいります。
自分のための一着を仕立ててみる
これまでの連載で、自由なきものスタイリングやカジュアルな着方、気軽なレンタルきものでのお出かけ提案、ゆかたのきもの風アレンジやお手入れ方法をご紹介してきました。
さて、いよいよ今回は、呉服屋さんで自分にぴったりの一着を仕立てる様子をお届けします!
訪れたのは、「KIMONO by NADESHIKO 原宿店」。プレスの小林千晴 (こばやし・ちはる) さんに案内していただきました。
反物 (たんもの) 選びから始まるきもののお仕立て。来店時の服装やお店での相談の仕方などのポイントも伺ってきました。
きもの選びの前にしておくとよい、4つのこと
来店前に考えておくこと、準備しておくもの、店頭で伝えると良いことなど小林さんに伺いました。
1.どんなところに着て行きたいか、具体的なイメージを膨らませておく
ひとことで「きもの」と言っても、種類は様々。「結婚式などのフォーマルな場に着ていきたいか、カジュアルなお出かけ着として着たいかはもちろんのこと、着たい場所やシチュエーションによって、おすすめのきものが違います」と小林さん。
どんなシチュエーションで、どんな風に着たいかを具体的に店頭で伝えるとスムーズです。雰囲気についても、洋服と同じように「きれいめ」「可愛いらしく」「レトロ」「クール」といった表現で十分伝わります。理想のイメージを膨らませておきましょう。
2.持っている帯や小物で使いたいものがあれば、事前準備を
きもののスタイリングに慣れていない場合、最初はプロであるお店のスタッフと一緒に自分が一番気に入るものを探し、一式揃えて購入すると安心です。もし使いたいものがある場合は、実物を持参したり、あらかじめ撮影して画像を用意したりしておくと選びやすいとのこと。
3.予算、支払方法を相談する
「当店では、お若い方にもお手に取りやすい値段設定にしておりますが、はじめて一式揃える時にはどうしてもお金がかかります。一生着られるようないいモノを選ぶか、初めは気軽に安価なモノにするか、どんな支払方法だと無理なく購入できるか、遠慮なくスタッフに相談してください」と小林さん。生地だけではなく、仕立て代や裏地代、小物類など購入に必要な要素が多いきもの。はじめに用途と全体の予算をきちんと伝えること、反物の価格以外にかかる金額について最初に確認しておくと安心ですね。
4.信頼のできるスタッフ、お店で購入する
「初めてのきものは分からないことだらけです。不安や疑問をなんで相談できるスタッフ、アフターフォローがしっかりあるお店で購入し、きものの世界を楽しんでいただきたいです」と小林さんも強調されていました。
当然ではありますが、お店に入ったからといって、そこで必ず購入しなければいけないというわけではありません。店頭のマネキンや、スタッフの方々のスタイリングを眺めることで自分の着たいイメージを膨らませることもできます。お店の雰囲気を見て、自分に合う、合わないを検討してから購入に進みましょう。
予算15万円で、いざ店頭へ!
教えていただいたことを踏まえて、さっそく店頭へ。
今回は、普段使いで「ちょっとおしゃれをして出かけたい時」の1着を作ることにしました。予算は15万円でお伝えしています (もし合わせたい帯や小物があれば、この時に伝えましょう) 。
まずは、反物選びから。素材と柄の解説をしていただきながら選びます。
「普段使いなら、お手入れしやすいものが良いかもしれませんね。洗濯機で洗える化繊素材のほかに、木綿も手洗いできますよ」と教えていただきました。
気に入った反物をいくつか選んで、試着してみます。
気分はシンデレラ?肩合わせをしながら顔うつりをチェック
大きな鏡の前に移動して、生地を身体にあてていきます。長襦袢 (ながじゅばん) を着ているかのように見える衿を洋服の上に付けてもらいます。きものの試着は基本的に洋服の上から。仕上がりイメージに近づけるために、襟のついていない、凹凸が少ない服装での来店がオススメです。また、髪の長い方はアップにしておくと試着しやすくなります。
ここで、呉服屋さんのすごい技術が!針もはさみも一切使わずに、反物がきものの形へと変身していきます。
「やはりきもの姿を見慣れていない方は、反物の状態では仕上がりの様子を想像しにくいものです。こうしてお仕立て上りのイメージをご覧いただくと、選びやすくなりますよね」と話しながら、あっという間にこの状態を作ってくれる小林さん。まるで魔法使いのようです。たしかに、反物の時よりも格段に想像しやすくなりました。さらに、その上から、他の生地もあてて見比べていきます。
次から次へと生地をあてて、自分にぴったりのものを探します。一度にたくさんのきものを纏う機会なんて、なかなか無いもの。新しい自分が垣間見える、楽しい試着時間です。
半衿や帯、小物を選ぶ
気に入った生地が見つかったら、次は帯や周辺の小物を選んでいきます。今回は、衿元からちらりと覗く半衿 (はんえり) も白以外のものを合わせてみました。
続いては、帯選び。帯は名古屋帯の他、ゆかたを着る際によく使われる半幅帯 (はんはばおび) もカジュアルな雰囲気で合わせる際に活躍します。
同じきものでも、帯を変えるだけで印象がガラリと変わります。実際に巻いてみて雰囲気を見ていきます。
帯を決めたら、帯の上で差し色となる帯締めや帯揚げ、帯締めにつける飾りの帯留めも合わせていきます。
きものの柄の中にある色や、色調が近いもので合わせると全体の雰囲気がまとまりやすくなります。あえて濃いめの締め色を入れてキリリとした印象にすることも。なりたい雰囲気に合わせて選びます。
その他、必要があれば、バッグや装履 (ぞうり) も合わせてみましょう。もちろん、普段洋服で使っているバッグや、シューズなどを合わせてみてもおしゃれの幅が広がります。
季節や必要に合わせて用意するもの
表面上あまり見えないのでつい忘れがちなのが、裏地と長襦袢、着付け小物です。必要に応じて、こちらも選びます。
今回は、木綿の単衣 (ひとえ) のきものでしたが、袷 (あわせ) のきものの場合は裏地が必要となってきます。単衣とは、夏前後の季節の変わり目に爽やかに纏える裏地の付いていないきもの。そのため、裏地選びは不要です。袷とは、春秋冬に纏う裏地付きのきものです。着たい季節や利用シーンを伝えれば店頭で提案してもらえるので、わからないことがあれば質問してみてください。
長襦袢は、きものの下に着るインナーのことで、歩くときなどに袖、裾からちらりと柄が覗きます。こちらも予算に合わせて素材とデザインを選びます。自分のサイズにぴったりのものを1つ持っていると着付けしやすく、袖や裾の位置も合うので便利です。最近では、肌着と長襦袢が一体型になったリーズナブルな既製品もあるので、そういったものを活用することもできます。
「腰紐や伊達締め、帯板、帯枕などの着付け小物は、成人式で揃えたものや、ゆかたで使っているものも使えます。仕立て上りのお品を引き取りに来られる際に足りないものを揃える方も多いですよ」とのこと。こちらも足りないものだけ揃えればよいので、ぜひ手持ちのものを確認してみましょう。
最後に、採寸、仕立て上りスケジュール (3週間程度) を確認し、お会計です。あとは出来上がりを待つばかり。自分にぴったりの一着、楽しみですね。
今回、きもの選びの所要時間は1時間ほどでした。2時間前後かける方が多く、生地選びや小物合わせにもっと時間をかける方もいらっしゃるとのこと。時間には余裕を持っておいて、納得がいくまでこだわって選びたいですね。
「呉服屋さんって、なんだか怖い」と、若い女性から聞くことがあります。
「料金体系や、何が必要なのかがわからないブラックボックスのような状態にお客様は不安になられるのだと思います。金額のことや必要なもの、ご自身の持っている帯や小物が使えるかどうかなど、店頭で気兼ねなくお尋ねくださいね。お話を伺えると、私たちもご希望にあった提案をしやすくなりますので」と小林さんは言います。
また、「入店したら買わなければ‥‥」というプレッシャーも捨ててしまいましょう。お洋服を買いに行くように、まずは気軽に。心を惹かれたきものに触れてみると、きっと次第に不安は払拭されていきます。
自分に合ったスタイルで、ぜひきものを愉しんでみてください!
<取材協力>
株式会社やまと
東京都渋谷区千駄ヶ谷5丁目27番3号
文・写真 : 小俣荘子