全国ものづくりツアー「大日本市」で感じた産地の未来

日本には衣食住にまつわる数多くの産地があり、個性豊かなものづくりが行われています。今日ご紹介する「大日本市」とは、日本各地から工芸メーカーが集まる合同展示会です。まさに、全国を旅するように「産地めぐり」ができるのです。

そして、それぞれが各産地の一番星を目指し、熱い思いを持って臨む一大イベントでもあります。言わば「産地の未来」を担うメーカーやトレンドを、いち早く知る場所ともいえるのです。

今回は2月上旬に東京・芝浦ふ頭にて開催された大日本市より、バイヤー&プレス限定でお披露目された52社59ブランドのうち、初出展のブランドを中心に紹介します。

気になるブランドがあれば、ぜひウェブサイトなどをチェックしてみてください!

OOO/群馬 桐生

トリプル・オゥのラインナップ
この繊細な細工は全て手作業によってつくられています

刺繍アクセサリーブランド「OOO(トリプル・オゥ)」は、群馬・桐生で明治10年に創業した刺繍工場、株式会社笠盛が『自由な発想のものづくり』のために立ち上げたブランド。

トリプル・オゥ ロゴ
商品に施される技術を使って彩られたロゴマーク

糸のみで作られたアクセサリーは肌に優しく、一見、真珠のように見えますが、よく見るとすべてが糸の玉でできています。独自の技術を用いて、刺繍用の機械と手作業を組み合わせて、一玉ずつ作っているそうです。

また、糸でつくられているため、付けていることを忘れてしまいそうなほど軽いのも特長。金属が一切使われていないので、アレルギーを持っている方も安心して触れられます。

メタリック糸、シルク糸、ブレンド糸など、デザインに応じてオリジナル素材を使い分ける。

今回の大日本市では、「将来的にその産地を引っ張っていってほしい」という思いを込めて、実行委員会から『未来の一番星』として奨励されていました。

とくに注目度の高いブランドが選ばれる『未来の一番星』

builderino/東京 墨田

1925年に東京・本所区(現在の墨田区)にて創業した、かんざし、飾り櫛、帯留め等の製造を行う直井装身具。下町で栄えた「かんざし飾り」の技術を、時代を超えた今でも女性のファッションのために活かし続けるために生まれたブランドが「builderino(ビルダリーノ)」です。

英語の”builder”とイタリア語の接尾語”-ino”をあわせた造語で、「小さな棟梁」という意味を持っています。

ひとつひとつ手作業のため、仕上がりがそれぞれ異なります

貝殻から作られる胡粉(ごふん)を用いたろう付けと呼ばれる技法で、小さなパーツを手作業でつなげています。そのため、アクセサリーひとつひとつが異なる表情を見せてくれます。

大切にしているのは「さりげない存在感と遊び心」だそう。おしゃれを追求する女性のための上質アイテムです。

series(山次製紙所)/福井 越前

1500年の歴史を持つ伝統工芸、越前和紙の可能性を広げるために山次製紙所から立ち上げられたブランドが「series(シリーズ)」です。

小物入れなど、現代の生活に馴染む和紙の使い方を、アイデアで実現する

ブースで特に目を引いたのは、華やかなネオンカラーの茶缶。表面の凸凹模様は、越前和紙の型押しという技法を活かしたアイデアです。茶葉に限らず、小物入れとしても活躍してくれそうですよね。色違いで並べるだけでも、絵になりそうです。

こんな茶缶ならお茶の時間が待ち遠しくなります

鍋島 虎仙窯/佐賀 鍋島 伊万里

伝統工芸の鍋島焼を用いた、佐賀の「鍋島 虎仙窯(なべしま こせんがま)」が目指すものづくりは、美術品と量産品の間に位置する「美術的商工藝品」です。

江戸時代、将軍家や諸大名のために作られたという鍋島焼。「鍋島 虎仙窯」では、現代では美術品として評価されている鍋島様式の技術を背景にした日用品を作りだしています。

虎仙窯
白磁に幾何学模様が入ったシリーズ

青磁の湯飲み椀を手に取ってみると、釉薬の塗りの厚みがすぐにわかります。丹精を込めた塗り重ねが、唯一無二の淡いグラデーションを演出しているのでしょう。また、美術品のような美しさにも関わらず、重ねて収納できるところも魅力のひとつです。

鍋島焼についてわかりやすくご説明いただきました

PAPER VALLEY/佐賀 肥前

手すき紙のプロダクトブランド「PAPER VALLEY(ペーパーバレー)」は、和紙の原料の一つである梶の木の栽培から、一枚の紙ができるまでの全ての工程を、佐賀県の名尾で行っています。

名尾は、豊かな湧き水と原料栽培に適した寒暖差をもたらす谷に位置し、かつて100軒もの紙漉き工房が軒を連ねていました。しかし現在、当工房を残すのみとなっています。

産地の最後の工房であることから、PAPER VALLEYのものづくりは「残しておきたい紙」がコンセプト。

「長年寄り添った夫婦がそれぞれに宛てる」「生まれたばかりの我が子に向けて」といったテーマを持つメッセージカードには、長所や短所、20年で一番うれしかったことなど、相手への想いを伝える欄があります。

職人でもあるブランドマネージャーの谷口弦さんが商品の成り立ちを話してくださいました

PAPER VALLEYの谷口さんいわく、「和紙って書き直しが大変だから、間違えないように1文字ずつ丁寧に書きますよね。だからこそ、この和紙をつかったメッセージカードは、相手を思いやり、気持ちを込める時間の大切さが思い出せるアイテムなんです」とのことです。

ポストカードをよく見ると、下地の上に薄い和紙が重ねられています。和紙特有のニュアンスがあいまって柔らかい雰囲気に

小林製鋏/新潟 三条

江戸時代より、日本有数の刃物産地である越後三条で、昭和20年から続く老舗の小林製鋏。農家向けの収穫はさみを専門とする彼らが作ったのは、シンプルなデザインとカラーリングの園芸はさみです。

野菜の収穫や盆栽の芽摘みなどに最適。きゅうり、ぶどう、りんごなど、作物によって収穫に適したハサミは異なるとのこと

実際に握ってみると、コンパクトな作りながら、どれもしっかりと手に馴染みます。心地よい重みを感じつつ、いざ試し切りをしてみると、抵抗も少なく枝がスパっと切れました。

グリップが滑りにくく、使いやすさは抜群

Good Job! センター香芝/奈良 香芝

カラフルで愛らしい鬼の張子

カラフルな展示が目を引くのは、奈良の「Good Job! センター香芝」。

デジタル工作技術と障がいのある人のすぐれた手仕事を組み合わせ、民芸の新しい可能性を提案しています。3Dプリントによる細かなディテールのある張り子、貴重な春日大社境内の杉を活用したものづくりを展開しています。

ディレクターである藤井克英さんの後ろでは、張り子のベースとなる型を3Dプリンタが作っている最中でした。完成した型を手で整え、紙を貼り付けて彩色すれば完成です。通常は木製の型を3Dプリンタで置き換えることで、新しい張り子づくりを実現しています。

手書きを生かした線のゆるやかさや、独特のカラーリングが印象的な商品が多く、眺めていて飽きることがありませんでした。

鹿コロコロという郷土玩具。さまざまな表情が愛らしい

Bocchi/千葉 旭市

茹で落花生

千葉の旭市で落花生問屋を営む「株式会社セガワ」の三代目が立ち上げた、新ブランドの「Bocchi(ぼっち)」。

「畑からテーブルまで」をコンセプトに、日本の農と食を未来へ楽しく正しく繋げられるよう、製品を通したエールを送っています。

千葉県の房総半島は、落花生の一大産地。その生産量は国内の約8割を占めるといいます。豊富な千葉産の落花生を丁寧に焙煎し、20以上ものの工程を経て、ピーナッツバターが作り上げられています。

味はもちろん、目を引くパッケージは贈り物に喜ばれそうです

メイン商品であるピーナッツペーストを試食してみると、驚くほどの香りが広がります。自然な甘みとクリーミーな舌触りで、思わず笑顔に。

瓶を開けてみると、ピーナッツペーストと油分が2層のグラデーションになっています。これは、保存料などの食品添加物を使用していないためだそう。そのため、食べる前にスプーンでかき混ぜることが、おいしく食べる作法です。

濃厚なピーナッツペーストが味わえました

持てる技術を、現代の暮らしへ使うブランドたち

以上、今年新しく出店したブランドを中心に「大日本市」をレポートしました。

粋を極めた技術の実演があったり、工芸品だけにとどまらず食品もあったりと、本当にさまざまな産地を旅行しているかのように楽しめた展示会でした。真心をこめた日本のものづくりはこれからも目を離せません。

<掲載情報>
OOO(トリプル・オゥ)
builderino(ビルダリーノ)
series(シリーズ)/山次製紙所
鍋島 虎仙窯
PAPER VALLEY(ペーパーバレー)
小林製鋏
Good Job! センター香芝
Bocchi(ボッチ)

大日本市 合同展示会 公式ホームページ

文・写真:さんち編集部、石村淳

見てよし、飲んでよし、使ってよし。佐賀の地酒を有田焼で味わえるカップ酒

ずらりと並んだこの華々しいカップたち。焼き物に詳しい方なら、「有田焼かな」とピンとくるかもしれません。

でも、このカップ、ただの有田焼のカップじゃないんです。カップの中身は、お酒。何とも豪華な有田焼のカップ酒なのです。

カップ酒ブームにのって誕生

古伊万里酒造
古伊万里酒造の販売所「前 (さき) 」

開発したのは、佐賀県伊万里市にある老舗の酒蔵・古伊万里酒造と有田焼の窯元・文八工房。今からおよそ10年前、カップ酒ブームを目の当たりにした窯元が「有田焼のカップ酒が並んでいたら美しいだろう」と、古伊万里酒造に商品開発を持ちかけました。

有田焼カップ酒の名は「NOMANNE (のまんね) 」。伊万里の方言で、「飲みませんか」「飲んでみて」という意味だそう。外国語のようにも聞こえる言葉の響きも素敵です。

NOMANNE
高級感あふれる黒箱に収められるので、ギフトにもピッタリ。有田焼のカップにお酒もついていることを考えると、1本1,600円(税別)はお手頃

2006年の有田陶器市で試作品を販売し、250個ほど用意したカップ酒は即日完売に。翌年には商品化され、お土産や贈答品として人気を博しています。

県に認められた酒を佐賀の酒器でいただく

カップ酒のプラスチックキャップの大きさが直径64ミリと決まっているため、そのサイズに合わせた飲み口になるよう、カップ部分をつくらなければなりません。

NOMANNE

「磁器の有田焼は焼成で土が2割ほど縮むため、その調整は大変でした。窯元と試行錯誤を繰り返しましたね」と、古伊万里酒造4代目前田くみ子さん。

一方で、磁器の有田焼カップは透明ガラスのカップよりも遮光性が高いので、酒質が安定するという利点もあるのだそう。

中身のお酒は、佐賀県産のお米と水でつくられ、「佐賀県原産地呼称管理制度」で県の専門家から認められた純米酒。「NOMANNE」は、正真正銘の佐賀のお酒を佐賀の器でいただける、こだわりのカップ酒なのです。

カップ酒から学べる、有田焼の様式

現在、「NOMANNE」の絵柄は5つ。すべて白磁に有田焼の古典柄が施されています。

一般的に、有田焼の様式は「古伊万里」「柿右衛門 (かきえもん) 」「鍋島」の3つに大きく分けられ、その3様式を「NOMANNE」を通じて知ることができます。このさりげなさが何とも粋です。

NOMANNE
古伊万里様式の中でも初期は、シンプルな染付がメイン。蛸唐草 (たこからくさ) の染付
NOMANNE
こちらも古伊万里様式。蓮の花を描いた芙蓉手 (ふようで) の染付
NOMANNE
古伊万里様式の金襴手 (きんらんで) 。染付とはうって変わって、金彩が施され、豪華絢爛な雰囲気に
NOMANNE
この牡丹唐草の文様は、古伊万里酒造の前田家に伝わるお皿の意匠からとったデザインだそう
NOMANNE
柿右衛門様式の牡丹柄。十分な余白と左右非対称な構図を活かして花鳥風月が描かれているのが柿右衛門様式の特徴
NOMANNE
鍋島様式の橘柄。鍋島の中でも、赤、黄、緑の3色を基調に絵付けした「色鍋島」と呼ばれるもの

お酒を飲み終わったあとは‥

飲み終わった後に、有田焼の器として活用できるのも嬉しいところ。そのままカップとして使うのはもちろん、花瓶やペン立て、箸立て、保存容器など、使い方はさまざまです。

旅の思い出の品として自分用にも、贈り物にもしたい「NOMANNE」。

「NOMANNE」片手に、しばらく会っていないあの人を「飲まんね?」と誘ってみるのも一興です。

ここで買えます

・古伊万里酒造蔵元販売所「前」
古伊万里酒造オンラインショップ
・新宿伊勢丹酒売場
・西武池袋本店酒売場

<取材協力>
古伊万里酒造
佐賀県伊万里市二里町中里甲3288-1
0955-23-2516
http://www.sake-koimari.jp/

文・写真:岩本恵美

土産の起源は神宮にあり。西郷どんも買った!? 鹿児島神宮のおもちゃ

赤、黄、緑の鮮やかな配色に、凛々しい2頭の馬が描かれた太鼓。

鹿児島神宮に伝承される信仰玩具の一つ「初鼓(はつづん)」です。

鹿児島神宮の初鼓
初鼓

棒をくるくる回すと、糸の先に付いた大豆が「ポンパチ、ポンパチ」とかわいらしい音を響かせることから、「ポンパチ」ともよばれています。

信仰玩具とは全国各地に伝わる伝説や信仰と結びついたもので、それぞれの地域の郷土玩具としても親しまれています。

「初鼓」のある鹿児島神宮は多くの信仰玩具が伝承されていることでも知られています。

海幸彦の釣り針を呑んだ魚、「鯛車」

鹿児島空港のある霧島市にある鹿児島神宮。社伝によると、創建は708年のこと。当時、鹿児島は大隅国と薩摩国の2つに分かれていましたが、鹿児島神宮は東側の「大隅国」の一宮でした。平安時代に編集された「神名帳」に「大隅国 鹿児島神社」と記されている、格式の高い神社です。

祀られている御祭神は、浦島太郎物語のモデルにもなった「海幸彦と山幸彦伝説」の天津日高彦火火出見尊(山幸彦)と、奥さんの豊玉比売命(豊玉姫)で、ふたりの伝説にちなんだ信仰玩具も多くあります。

鹿児島神宮の鯛車
鯛車

これは、海幸彦の釣り針を呑んだ赤女魚(鯛)に因んだ「鯛車」。

鹿児島神宮の鯛車

クリッとした目と水玉模様の尻尾が愛らしいです。

浦島太郎の玉手箱に通じる「香箱」

鹿児島神宮化粧箱
化粧箱

こちらは、豊玉姫の御輿入れの時の調度化粧箱にちなんだ「化粧箱」。香箱ともいわれています。

「化粧箱には、ほかにもいろいろ云われがあるんですよ」
と話すのは権禰宜(ごんねぎ)の伊賀昇三さんです。

鹿児島神宮の伊賀昇三さん
伊賀昇三さん

「山幸彦が海の御殿から帰るときに、海の神から“満ち潮の玉”と“引き潮の玉”をもらいますが、その玉が入っていた箱にちなんだものという話もあります」

なるほど、浦島太郎の玉手箱にも通じるものですね。

そのほか竹刀、はじき猿、馬土鈴、弓矢、シタタキタロジョ、笛太鼓、羽子板、鳩笛、土鈴と全部で12種類の信仰玩具が納められています。

龍馬さんや西郷さんも買ったかもしれない!?

現在、鹿児島県の伝統工芸品にも指定されている「鯛車」「化粧箱」「初鼓」。
これらの信仰玩具はいつ頃から作られているのでしょうか。

「はっきりとはわかりませんが、ずいぶん昔から続くのもののようですね。時代、時代で多少変わっていると思いますよ。初鼓の絵柄もほとんど変わっています。塗料もその時代にある塗料を使ってるしょうからね、」

鹿児島神宮の鯛車
明治7年、神宮号を宣下され鹿児島神宮と改称。一番小さな鯛車には「正八幡」の文字があるのでそれ以前のものと思われる

「この辺りは、坂本龍馬が新婚旅行で訪れたという妙見温泉や西郷隆盛が通ったという日当山温泉など湯治場が多く、昔から賑わっていました。当宮にお参りにきて、温泉に入って帰るという方も多かったのではないでしょうか。そのお土産として、お札などと一緒に信仰玩具があるわけです。子どもや孫へのお土産ですね。昔は玩具屋とかいうのがありませんでしたからね」

もしかしたら龍馬さんや西郷さんもここを訪れ、鯛車や初鼓を買っていたかもしれないと思うと、なんだかワクワクします。

「“みやげ”は“土産”と書きますね。その土地、土地のものを買うから“土産”ですが、“宮笥(みやけ)”とも書くんですよ」

“みやげ”の語源はお札の入った“宮笥”

「宮笥」は、江戸時代に人気となった「お伊勢詣り」に由来するそうです。当時、大金のかかるお伊勢詣りは誰もが行けるものではなく、村の代表者(厄年の人が多い)が、村人たちからお金を集めてでかけていました。

「厄払いのためですね。その時に、ちゃんとお参りに行ってきましたよという印として、お宮からお札の入った“宮笥”をもらってきたんです。それが“みやげ”の語源になっているともいわれています」

なるほど。お土産はとても縁起のいいものだったんですね。

人馬一体になって踊る初午祭

鹿児島神宮に伝わる信仰玩具の中でも人気なのが、冒頭にご紹介した「初鼓」。

鹿児島神宮の郷土玩具、ポンパチ
ポンパチと音が可愛い

毎年旧正月の1月18日を過ぎた最初の日曜日に行われる「初午祭」で、馬を装飾する豆太鼓を模したものです。

鈴懸馬
華やかな装飾をまとった神馬

御神祭である天津日高彦火火出見尊が農耕畜産漁猟の殖産を指導奨励したことから、五穀豊穣、家内安全、厄除・招福を祈るお祭りで、毎年10万人が訪れる、鹿児島の三大行事の一つでもあります。

見どころは「鈴懸馬踊り」。華やかに飾られた御神馬を先頭に踊り子たちが続き、太鼓や三味線に合わせて人馬一体となって踊りながら参詣します。一説には、1543(天文12)年、島津貴久公が神馬の夢を見たことがはじまりともいわれています。

「神様の前に馬をお連れするから華やかにしていこうというので、足元に鈴をつけたり、花飾りや初鼓をさしたり、徐々に増えていって、今の形になったんじゃないかなと思います」

鹿児島神宮鈴懸馬
背には太鼓や花を挿し、首には鈴がかけられている

お祭りの縁起物として売られる「初鼓」は、年間、2000個以上も出るそうで、信仰玩具としてはもちろん、地域に根付いた郷土玩具であることがよくわかります。

初鼓をはじめ、鹿児島神宮に納められている信仰玩具の多くを作っているのは、神宮側にある「工房みやじ」さん。代々信仰玩具を納めている工房で、全て手作り、ひとつひとつ色をつけ、絵を描いています。

赤、緑、黄の色には健康を、豆の音で悪いものを追い払うという願いが込められているそうです。

鹿児島神宮の伊賀昇三さん
農家の方が農作業の合間につくるという、大きいサイズのポンパチ

描かれた踊り子さんたちの笑顔から、楽しんで描いている様子が伝わってきて、みなさんがお祭りを大切にしていることが感じられます。

神様と一緒に遊ぶ

「信仰玩具にはいろいろな意味がこめられていると思います。おもちゃとは言え、神様のご利益のあるものですから。例えば、そこら辺に投げ散らかしたらだめですよというようなこともありますね。」

それは確かにすごく説得力がありますね。お守りやお札と同じで、決して粗末には扱えません。

「それだけでなく、神様は子どもが大好きなので、子どもと一緒に遊んでくださっているんだと思いますよ。童子八幡とか、座敷童とか、小さな子どもの格好をして出てきたりしますよね。」

「その子どもが家におれば家が繁栄するけれども、居なくなると家が廃れるとか。だから、信仰玩具もきっと、神様が一緒に遊ぶ、いろいろな神事にも使われる、そういうものだと思います」

鹿児島神宮の境内
境内に置かれた鯛車

神様に見守られながら一緒に遊ぶ。

そこには、作り手の想いや、それを大切に持ち帰る人の想いも重なるようで、なんだかとっても温かい気持ちになりました。

古くから地域の人々に愛されてきた信仰玩具。

これからも子どもたちを楽しませ見守りつづけることでしょう。

<取材協力>
鹿児島神宮
鹿児島県霧島市隼人町内2496番地1
0995-42-0020
http://kagoshima-jingu.jp/

 

文 : 坂田未希子
写真 : 菅井俊之

細萱久美が選ぶ、生活と工芸を知る本棚『柳宗理 エッセイ』

こんにちは。中川政七商店バイヤーの細萱久美です。

生活と工芸にまつわる本を紹介する連載の七冊目です。今回は日本を代表するインダストリアルデザイナー、柳宗理さんの本をご紹介します。

柳宗理さんのことは、よく知っているという方から、名前は聞いたことがあるという方まで、比較的広く知られているデザイナーの1人だと思います。

20世紀に活躍し、戦後日本のインダストリアルデザインの確立と発展における功労者であり、代表作のバタフライスツールは海外でも有名です。

テーブルウェアや調理道具など、今でも入手しやすいプロダクトは多数あり、定番となっているモノも少なくないので、もしかしたら柳宗理デザインと知らずに使っていることもあるかもしれません。

柳宗理 鉄フライパン
柳宗理の鉄フライパン。使えば使うほど、シンプルな美しさと、使い心地の良さを感じます

プロダクト以外の作品は本を読むまで知りませんでしたが、自動車、歩道橋、そしてオリンピックの聖火台のような大掛かりなものに至るまで、活躍の幅が広かったそうです。

横浜市営地下鉄の仕事も興味深く、水飲み場、ベンチ、あると何気に嬉しい背もたれサポーターも宗理さんが生み出した公共の道具。横浜駅の「港の精」のようなレリーフも手がけられています。

2003年、88歳を迎えた年に宗理さんが初めて刊行したエッセイ選集である、そのタイトルも「エッセイ」は、日本のプロダクトデザインをリードしてきた重鎮が、軽妙な言葉でつづっているデザイン論です。

いつか読もうと本棚に長いことありつつも、ようやく読むに至った本なのですが、工芸と暮らしを知る本棚には必須だと改めて実感しました。

内容は、タイトルがエッセイというだけに、思いのままに編集されています。

それまで書き溜められたデザイン論から、雑誌「民藝」における伝説的連載「新しい工藝/生きている工藝」、日本と世界のアノニマス・デザイン、そしてお父さんであり、民藝運動の父と言われる柳宗悦さんのこと、民藝とモダンデザインの関係についてなど、柳宗理のデザインにまつわる発想や嗜好がじっくり理解できる本です。

柳宗理 ステンレスボウル
柳宗理のステンレスボウル。料理の専門家や多くの家庭の主婦の意見に基づき、長い間研究を重ねてデザインされたもの

著者のデザイン観が最も凝集されているのが冒頭の「アノニマス・デザイン」の項。アノニマスとは「無名の・匿名の」という意味で、デザイナーが関与せずに作られたモノを指します。

たとえば匿名の職人によって作られたジーパン、野球のボール、ピッケルなどにむしろ優れたデザイン性を見出しています。

ご自身もデザイナーでありながら、アノニマスとは如何に、とも思いましたが、決してデザイナー否定という発想ではなく、派手で奇抜な流行の使い捨てデザインの否定という考えです。本業ゆえに、デザインに対してはかなり手厳しい言葉が綴られています。

「本当の美は生み出すもので、作り出すものではない」というのが宗理さんの基本概念であり、柳デザインのプロダクトも、それと知らずに選ばれ、使い続けられることが理想なのかもしれません。

この概念は、「用の美」や「用即美」といった、柳宗悦さんが民藝運動の中で発した概念と通じています。ここで、用を実用とだけ捉える認識は間違いで、生活は物質的なものと心理的なもので成り立っており、用には物と心の調和があってこそ美となりえると言います。

「用の美」こそ、柳親子の共通にして最重要な概念と理解しました。これを成すデザイナーという職業はなかなかに難しい仕事で、自分はデザイナーではないですが、生活工芸の商品企画に携わっているので、「用の美」の意味を「機能美」と誤解していたことが分かり、府にも落ちたことは大きな収穫でした。

手仕事の民藝と、宗理さんのモダンデザインには用即美を始め、必然性のある「材料」「技術」を活かし、「量産」「廉価」を目指すなど共通項は多いのですが、そもそも宗理さんのプロダクトは、かなりの手仕事の末に生まれています。

デザイン考案時の幾多の模型は手で作られ、完成したプロダクトは人の手でしか作り出せないフォルムをしているモノが少なくありません。

実際に燕三条の金属工場でやかんの製造を見学したことがありますが、人間工学にも基づいた微妙なフォルムは、熟練の職人さんの手加減で慎重に仕上げられ、インダストリアルであると同時に「用と美と結ばれるもの、これが工芸である」と実感しました。

「健全な社会が健全なデザインを生む」という言葉もあり、1人のエンドユーザーという立場でも、良いものを長く使うことを心がけ、良い工芸品を生み出すデザイナーと作り手を応援していきたいと思わされた本です。

デザイナーはもちろんのこと、工芸や民藝、暮らしの道具に興味とこだわりのある方には一読をおすすめします。

<今回ご紹介した書籍>
『柳宗理 エッセイ』
柳宗理/平凡社ライブラリー

細萱久美 ほそがやくみ
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。


文:細萱久美

ディープな産地ナイト スナック天国・嬉野

突然ですが、みなさん「スナック」にどんなイメージをお持ちですか?

入りにくい?昭和な感じ?おじさん臭い?色々とあると思います。特に若い方にとってはほとんど馴染みのない世界なはず、最近では見かける機会も少なくなってしまっています。

そんな昔ながらのスナックが、若者からご年輩の方までの交流の場として、今なお息づく街が佐賀県にありました。

誰が呼んだか、「嬉野スナック天国」。本日は産地のディープな夜にみなさんをご招待します。

温泉街として栄えた嬉野

嬉野は日本有数の温泉街として有名で、日本三大美肌の湯として、かつてはあのシーボルトも利用したといいます。古来より海の神、水の神として広く祟敬を集めていた豊玉姫神社から、温泉の泉源が佐賀藩の蓮地藩に召し上げられ、藩営の浴場として栄えてきました。

『肥前風土記』に「東の辺に湯の泉ありて能く、人の病を癒す」という一文が記されていますが、これは、江戸時代に長崎街道の宿場町として栄えた嬉野温泉のことを指しているそうです。

他にも「東西遊記」や「西遊雑記」など、多くの紀行文・旅日記にも嬉野温泉のことが書かれていることからも、嬉野がいかに温泉街として名が知られていたかということがわかります。

「全国スナックサミット」の第1回目は嬉野

そんな嬉野は、実は熱烈なファンを持つほど、「スナック天国」として全国に名を馳せています。

それを裏付けるように、全日本スナック連盟会長である浅草キッドの玉袋筋太郎さんが主催した「全国スナックサミット」の記念すべき第1回の開催地は、なんとここ嬉野。スナックを観光資源として売り出していく目的で企画され、県内外からたくさんの人が集まり、ママさんの赤裸々トークや常連客とのデュエット歌合戦などで盛り上がったそうです。

この街は全国有数のスナック街として、スナック愛好家から熱い寵愛を受けているのです。

スナック天国になった嬉野

現在の嬉野は、中央に流れる嬉野川を挟んで温泉旅館や商店、飲食店、住宅など、観光と市民生活の場が共存しています。嬉野温泉に立ち寄る観光客の夜の歓楽街として、そして遊び場の少ない地元民の社交の場として、観光と生活の場が寄り添う地域性の中で全国でも珍しいスナック街は発展を遂げていきました。

嬉野温泉観光協会のHPを見てみると、左端にある見出しの並びが「焼肉」と「うどん・そば」に挟まれる形で「スナック」が入り、なんと25以上のスナックが掲載されています。

また、嬉野にはカラオケボックスがほとんどなく、地元の若い人が歌いに来る場所としてもスナックは活用されているそうです。そんな地元に密着した嬉野のスナックは、あのみうらじゅんさんが「世界遺産」として認めたという逸話も残るほど、今や嬉野の顔として存在感を放っています。

今回訪ねたのはメインストリートから1つ路地を入ったところの、「シュール」というスナック。勇気を出して扉を開けると、底抜けに明るいママが「ちょりーっす!」と迎えてくれました。

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ママにお話を伺うと、ここには地元の若者とご年配の方、そして窯業の職人も息抜きをしに集まってくるそうです。他のスナックを含めてスタッフに地元の若い女性も多く、若者の遊び場、集い場としての役割も担っています。

「どんなに口説かれるより、どんなに褒められるより、飲みんしゃいが一番嬉しい」と話してくれるママとお酒を酌み交わしながら良い気分にお酒がまわったところで、誰からともなくカラオケがはじまります。気心の知れた仲間だけでなく、その場で出会った人ともすぐに打ち解けて、一緒にカラオケを楽しめるのもスナックの魅力です。

ほうきギター、アフロのカツラ、セロテープなどのアイテムを駆使し、お客さんの歌を盛り上げてくれるママさんは、まさに職人の街が生んだ職人ママさん。時には美声を響かせ、あの手この手で楽しませてくれます。

ママさんの十八番、クリスタルキングも仕込み完璧。
ママさんの十八番、クリスタルキングも仕込み完璧。
嬉野スナックは地元の若い方にとってもカラオケを楽しめる身近な存在です。
嬉野スナックは地元の若い方にとってもカラオケを楽しめる身近な存在です。

ディープな夜はあっという間に過ぎ、心地よい疲労感とともに宿に帰ります。肥前を支える若者からご年輩の方、そして職人を支えていたのは、プロ意識抜群の職人肌のママさんでした。

ぜひみなさん、嬉野温泉にお立ち寄りの際には、スナック天国でディープな産地の夜をお過ごしください。

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<取材協力>
スナック シュール
佐賀県嬉野町下宿乙612

文:庄司賢吾
写真:菅井俊之

室町時代から愛でられてきた小さな器、おてしょ皿

—— なにもなにも ちひさきものは みなうつくし
清少納言『枕草子』の151段、「うつくしきもの」の一節です。
小さな木の実、ぷにぷにの赤ちゃんの手、ころっころの小犬。
そう、小さいものはなんでもみんな、かわいらしいのです。

日本で丁寧につくられた、小さくてかわいいものを紹介する連載、第12回は佐賀県有田の「おてしょ皿」です。

はじまりは室町時代。貴族たちに愛された、ちいさなお皿

おてしょ皿は、漢字では「手塩皿」と書きます。食卓で塩などの調味料を乗せる小さなお皿です。とりどりの形と絵柄は目にも楽しく、コレクターも多いのだとか。

様々なフォルム、絵付けがされた可愛らしいおてしょ皿。お箸と並べるとその小ささがよくわかります
様々なフォルム、絵付けがされた可愛らしいおてしょ皿。お箸と並べるとその小ささがよくわかります

おてしょ皿の歴史は古く、日本の文献で最も古い記録は室町時代。京都・朝廷の食卓で、手元に塩を盛るために使われていた器 (当時は土器) にその原型が見られます。

有田焼が生まれた1616年 (江戸時代初期) 以来、様々な磁器が作り出されましたが、おてしょ皿は江戸時代に作られた最も小さい器でした。4寸 (約11センチメートル) ほどの大きさに形や絵付け・装飾など、技術の粋を凝らして作られ、貴族や大名たちに愛されました。

現代では、醤油などの調味料や薬味入れとしてはもちろん、前菜の器として、ジャムやバター皿、アイスクリームやフルーツなどを乗せたプチデザート皿として、また箸置きやスプーンレストとしてなど、様々な形で使われています。

また食卓以外でも、リングやピアスなどの小さなアクセサリーやちょっとした小物を置くためのトレイとして活用する方も。

お刺身を盛り付けた一皿。小さな前菜に華やかな存在感を与えます
お刺身を盛り付けた一皿。小さな前菜に華やかな存在感を与えます

有田焼創業400年、おてしょ皿を振り返る

2016年に400周年を迎えた有田焼の記念プロジェクトのひとつとして、江戸時代のおてしょ皿を研究・復元し、現代に新しいおてしょ皿を生み出す取り組み「伊万里・有田焼 手塩皿collection創出プロジェクト」が実施されました。

有田焼の窯元21社が組織するこのプロジェクトでは、古い時代の貴重な有田焼を数多く所蔵し研究している佐賀県立九州陶磁文化館、同館名誉顧問の大橋康二氏を講師に勉強会を開催。同館所蔵の古いおてしょ皿の観察などを通じ、製作方法や土、絵付け・厚み・釉薬の風合いなどを確認していきました。

佐賀県立九州陶磁文化館に収蔵されている『柴田夫妻コレクション』のおてしょ皿
佐賀県立九州陶磁文化館に収蔵されている『柴田夫妻コレクション』のおてしょ皿

おてしょ皿のように食卓で1人1つ使う皿は、同じ形のものを複数枚作る必要があります。精巧なサイズコントロール技術がない時代、職人の手仕事によって限りなく同じ形のものを、その上とても小さなものを作っていくのはかなり難しいこと。収蔵品を細かく見ると、工夫や努力の跡が見えてくるのだそうです。

3Dスキャンで蘇った、江戸時代のおてしょ皿

こうして研究が深められた後、収蔵品の中から特徴のある13種類のおてしょ皿を選定し、実物を3Dスキャンし鋳込型を作成。そこから縁取りや細部の彫りなどの修正を繰り返し、形状を復刻しました。

こうして完全復刻されたフォルムを元に、各窯元が現代のライフスタイルに合った新作の制作に挑みました。

13のフォルム
復刻した13のフォルム。

写真の上段左から、丸文菊花型、菊花文菊花型、貝型、盤型。

中段左から、木瓜 (もっこう) 型、角型、折紙型、壷型、桃型。

下段左から八角型、富士型、七宝文菊花型、銀杏型。

いくつかの形を詳しく見ていきましょう。

13のフォルムの中に菊をモチーフにしたものは3つありますが、こちらは菊を横から見た所を表したもの。花弁に動きが感じられる珍しい表現が美しいですね
13のフォルムの中に菊をモチーフにしたものは3つありますが、こちらは菊を横から見た所を表したもの。花弁に動きが感じられる珍しい表現が美しいですね
七宝文菊花型。全て手で作られているので、花弁の先がちょっとずつ違う形です。指跡が残っている部分もあり、1つひとつ指先を使って花弁を作っていたことが伺えます
七宝文菊花型。全て手で作られているので、花弁の先が少しずつ違う形です。指跡が残っている部分もあり、1つひとつ指先を使って花弁を作っていたことが伺えます
木瓜 (もっこう) 型。木瓜は日本の家紋に由来します。鳥の巣の形に似ていることから、子孫繁栄を意味する形として、大名たちに愛されました。この凹凸模様を作るために何がしかの型がつくられていたようです
木瓜 (もっこう) 型。木瓜は日本の家紋に由来します。鳥の巣の形に似ていることから、子孫繁栄を意味する形として、大名たちに愛されました。この凹凸模様を作るために何がしかの型がつくられていたようです
盤型。なんと、将棋の盤の形です。将棋は大陸から伝来したゲームで、江戸時代に盛んとなり、有田では駒を作った時期もありました。この形が作られたことからも、流行の様子が伺えますね
盤型。なんと、将棋の盤の形です。将棋は大陸から伝来したゲームで、江戸時代に盛んとなり、有田では駒を作った時期もありました。この形が作られたことからも、流行の様子が伺えますね

バラエティ豊かなおてしょ皿は眺めているだけでも楽しく、コレクションしたくなる気持ちがとてもよくわかりました。「これも欲しい、あれも可愛い!」とついつい色々と買い求めてしまいました。

さて、どうやって使おう?と、食事の時間の楽しみがまたひとつ増えました。

<取材協力>
佐賀陶磁器工業協同組合
佐賀県西松浦郡有田町外尾町丙1217番地
電話:0955-42-3164
おてしょ皿公式サイト
http://otesho.aritayaki.or.jp/
佐賀県立九州陶磁文化館
佐賀県西松浦郡有田町戸杓乙3100-1
0955-43-3681

<参考文献>
「おてしょ皿 古伊万里のちいさなちいさな小皿」 編集:伊万里・有田焼手塩皿collection創出プロジェクト 2014年 佐賀陶磁器工業協同組合

文・写真:小俣荘子
写真提供:佐賀陶磁器工業協同組合