七五三に贈りたい、京都生まれの千歳飴

日本人は古来より、普段の生活である日常を「ケ」、祭や伝統的な年中行事を行う非日常を「ハレ」と呼んで、日常と非日常を意識してきました。

晴れ晴れ、晴れ姿、晴れの舞台、のように「ハレ」は、清々しくておめでたい節目のこと。こちらでは、そんな「ハレの日」を祝い彩る日本の工芸品や食べものなどをご紹介していきたいと思います。

七五三の起源は平安時代

七五三は、3歳、5歳、7歳になる子どもたちの成長の節目に健やかな成長を願って氏神さまにお参りする日。旧暦の11月は収穫を終えて実りを感謝する月で、満月にあたる15日は吉日であることから、11月15日に氏神さまへの感謝を兼ねて参拝するようになりました。

七五三の起源は、はるか平安時代までさかのぼります。

3歳児が剃っていた髪を伸ばし始める「髪置(かみおき)」、5歳児が初めて袴を着ける「袴着(ちゃっこ)」、7歳児が着物の付け紐をとって初めて帯を結ぶ「帯解(おびとき)」。これらの儀式が、江戸時代に「七五三」としてまとまって行われるようになったのがはじまり。

「7つ前は神のうち」という言葉のように、幼児の生存率が低かったその昔は、7歳を無事に迎えるまでは未だ人の子ではなく、神さまの子だと考えられていたのだそう。

つまり、七五三とは子どもから大人への仲間入りをする「7歳のお祝い」にあたるのですね。

七五三と千歳飴の関係は?

さて、その七五三と千歳飴の関係はというと、元和の時代、大坂の平野甚右衛門が江戸へ出て、浅草・浅草寺の境内で売りはじめたという説がひとつ。

もうひとつは、元禄・宝永の頃に飴売りの七兵衛が紅白に染めた「千年飴」「寿命飴」という名の棒状の飴を売り出して人気商品になったのがはじまりという説があります。

どちらが正しいかは定かではありませんが、ふたりとも、とっても商売上手だったようです。

当時、飴は江戸庶民の代表的なお菓子であり、神社のお供えものにされる神聖なものでもありました。

千歳飴の細長い形は、長寿を願う気持ちから。子どもたちの健康と幸せを思う親たちは七五三のお祝いとして、鶴亀や松竹梅などのおめでたい絵柄が描かれた袋に入った、この飴を持たせるようになったのだといいます。

岩井製菓の平たい千歳飴

京都府宇治市の「株式会社 岩井製菓(以下、岩井製菓)」は、昭和39年創業の京飴やさん。こちらでは毎年8月から千歳飴づくりをスタートし、全国各地の寺社や和菓子店などに、なんと数十万本もの千歳飴を納めています。

京都 岩井製菓の千歳飴
左から、抹茶、グレープ、レモン、苺ミルク、ミルク。

千歳飴といえば円柱状のものを想像しますが、こちらの千歳飴は少し平たいもの。

らせん状のラインが美しいアクセントになっており、可愛らしい色合いにも目を惹かれます。

昔ながらの地釜で少しづつ時間をかけて丹念に煮詰め、熟練した技でていねいに形作られた飴。本来の香ばしい甘さを引き立てるためにできる限り天然着色料を使用し、見た目だけでなく、食べ易さや美味しさにもかなりのこだわりよう。

「日本の伝統文化をいつまでも大切にしたい」と願う、岩井製菓の千歳飴です。

岩井製菓の千歳飴
細長い棒状にした飴を転がしながら、均等ならせん状にラインを入れる職人技!©株式会社岩井製菓

11月15日の七五三の日。晴れ着に身を包んだ小さな人たちが、千歳飴の長い袋を少しひきずりながらも嬉しそうに歩いている姿に出会えるといいな、と思います。

<取材協力>
株式会社 岩井製菓
京都府宇治市莵道丸山203-3
TEL:0774-21-4023
http://www.iwaiseika.com

文・写真:杉浦葉子

こちらは、2017年11月15日の記事を再編集して公開いたしました

ものづくりの最前線が集結!開催中の「こもガク×大日本市菰野博覧会」を楽しむ方法

こもガク × 大日本市菰野博覧会

工芸産地を盛り上げるイベント「こもガク×大日本市菰野博覧会」が、2018年10月12日(金)~14日(日)まで、三重県菰野町で開催されています。

「こもガク×大日本市菰野博覧会」は、工芸産地に里山、温泉がそろう菰野町の魅力を発信する体験型イベント「こもガク」と、「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げる中川政七商店の「大日本市博覧会」がタッグを組んで開催する3日間のお祭り。

工場見学やワークショップ、マルシェで地場産品のショッピング、夜は湯めぐりに温泉街での一杯と、贅沢体験が目白押しです。

今回は、実際にイベント初日の菰野町を直撃!各エリアの様子をお役立ち情報とともにお届けします。これを読めば出かけたくなること間違いなし、ですよ!

スタートはここから!メイン会場の「菰野町町民センター」へ

菰野町町民センター/体育センター
菰野町町民センター/体育センター
目印の赤いバルーン
目印の赤いバルーン(※風が強い場合は飛んでいないことがあります)

「こもガク×大日本市菰野博覧会」のメイン会場は、四日市インターチェンジから15分ほどの場所にある菰野町町民センター。ワークショップなどイベントの空席状況確認や道案内なども行っており、インフォメーションセンターとしても頼りになる旅の拠点です。

萬古鹿
菰野を代表する焼き物「萬古焼」で作られた鹿がお出迎え

関連記事:3日間しか見られない「鹿」は300年前の技法で生まれた

まずはここで「こもガク×大日本市菰野博覧会」のパンフレットを手に入れましょう。会場MAPや各イベントの詳細情報が掲載されている“こもの旅”の必携アイテムです。

パンフレットを手に入れたら「いざ出発」といきたいところですが、ちょっと待った!メイン会場では、中川政七商店の期間限定ショップに加えて、東海3県の魅力あるショップが出展している「東海市(とうかいいち)」も行われています。

会場奥にひときわ目を引く巨大なやぐら。三重県初出店となる中川政七商店の期間限定ショップです。

中川政七商店の期間限定ストア
奥のやぐらゾーンが、中川政七商店の期間限定ショップ

中川政七商店のオリジナルブランドのほか、全国から集められた逸品が勢ぞろい。今回の大日本市博覧会に合わせて企画された特別限定商品も販売されます。

「木綿湯布」
今回お披露目となる「木綿湯布」。三重県や菰野町限定の柄も!
中川政七商店限定ストア
期間限定の中川政七商店ストア
期間限定の中川政七商店ストア
期間限定の中川政七商店ストア

中川政七商店期間限定ショップを囲むように並ぶのは「東海市」のショップです。三重・愛知・岐阜の3県から、工芸品やデザインプロダクト、食品などのショップが出展しています。

「東海市」
イベント初日は平日でしたが、大勢の人で賑わっていました

全部欲しくなるほど素敵なものばかり。これは、お財布の中身がいくらあっても足りません!

とても素敵な「長良川デパート」の和傘
とても素敵な「長良川デパート」の和傘
三重県大台町は「奥伊勢」と呼ばれる、隠れた柚子の産地
ユネスコエコパークに認定されている三重県大台町は「奥伊勢」と呼ばれる、隠れた柚子の産地
奥伊勢の宮川物産では特産の柚子を使ったドリンクなどが購入できます。
奥伊勢の宮川物産では特産の柚子を使ったドリンクなどが購入できます。ラベルも可愛い!
無駄な力を使わずスーッと閉まるシンプルな茶筒
無駄な力を使わずスーッと閉まるシンプルな茶筒
「こもガク×大日本市菰野博覧会」メイン会場
「こもガク×大日本市菰野博覧会」メイン会場
「こもガク×大日本市菰野博覧会」メイン会場
「こもガク×大日本市菰野博覧会」メイン会場

なお、「東海市」ではクレジットカードは使えません。ショッピング大好きな方は現金の用意をお忘れなく。

公式ガイド「さんちの手帖」

そして、「こもガク×大日本市菰野博覧会」を120%楽しむために欠かせないのが、公式ガイドアプリ「さんちの手帖」です。

見どころ情報も満載の「さんちの手帖」
見どころ情報も満載の「さんちの手帖」

見どころ32ヵ所の情報とマップ機能を搭載。位置情報をオンにすると近くのスポットが確認できるだけではなく、見どころに近づくと「旅印 (たびいん) 」を獲得することができます。期間中に集めた旅印の数に応じて会場限定のプレゼントがもらえるので、見どころ巡りもより楽しくなりますね。

※「さんちの手帖」の詳しい使い方はこちら

メイン会場には、アプリの説明や集めた旅印の景品交換を行う「さんちの手帖ブース」も設置されていますので、ぜひ立ち寄ってみましょう!

「さんちの手帖」ブース
菰野町体育センター入口に「さんちの手帖」ブースがあります

また、メインエリアでは13日(土)・14日(日)には、これからの工芸産地の未来や地元発のものづくりを提案するトークイベントも開催されます。


10/13(土)15:00-16:00
「花と器」
内田鋼一(陶芸家) × 佐々木直喜(花匠)
詳細:facebookイベントページ

10/14(日)13:00-15:00
「工芸産地の未来」
中川政七(中川政七商店)×内田徹(漆琳堂)×山田立(玉川堂)×山口典宏(山口陶器)
詳細:facebookイベントページ

萬古焼に組子、菰野町のオープンファクトリーを楽しむ

メイン会場を出発して最初にやってきたのは、工場見学やワークショップが行われている工芸エリア。

まずは、萬古焼のオリジナルブランド「かもしか道具店」で知られる山口陶器へ。今回の旅印集めのプレゼントにもなっている「ごはん鍋」を製作している会社です。

山口陶器

到着すると、何やらスマートフォンから通知音が!これが旅印を獲得できる通知です。通知画面からボタンを押すと、ポン!という気持ちよい音とともに旅印をゲット。この調子でどんどん集めていきましょう。

山口陶器で旅印をゲット
旅印をゲット!通知を逃してもアプリの「訪問した見どころ」メニューから旅印が取得できます

さて、山口陶器ではちょうど工場見学の真っ最中。

参加者の方々からも質問が次々に出てきます
参加者の方々からも質問が次々に出てきます
職人の真剣な表情を見られるのもオープンファクトリーならでは
職人の真剣な表情を見られるのもオープンファクトリーならでは

参加者の中には外国人の方の姿もありました。日本の工芸品に興味を持ってもらえると、こちらまで嬉しくなります。

若い年代の方も見学に訪れています。記念にパチリ
若い年代の方も見学に訪れています。記念にパチリ

山口陶器のオープンファクトリーは、イベント期間中10時~16時まで(12時~13時をのぞく)の毎時0分から行われています。予約は必要ありませんが、各回20名までとなっているので時間に余裕をもって訪れたいですね。

カモシカ道具店
山口陶器さんが運営する「かもしか道具店」も会期中は特別な陳列でお出迎え

続いて、伝統工芸の組子建具を製作する指勘建具工芸に伺いました。伊勢志摩サミットで各国首脳へ贈られた文箱もこちらの作品。工場内に飾られている作品も、見ているだけで背筋が伸びるほどの迫力を感じます。

指勘建具工芸
指勘建具工芸

こちらでは、ちょうどワークショップの組子体験が始まっていました。

加工に使う工具についても、1つ1つ丁寧に説明してくれます。参加者の皆さんも説明を聞きながら、熱心に質問しています。

指勘建具工芸三代目・黒田裕次さんの説明に参加者の方々も聞き入っています
指勘建具工芸三代目・黒田裕次さんの説明に参加者の方々も聞き入っています

今回はコースターか鍋敷きを選び、それぞれ「あさのは」「ほしがた」「はながた」「べんてん」「さくら」と5つのデザインから好きなものを選びます。

いよいよ組子体験のはじまりです。

鍋敷きとコースター、5つのデザインから好みのものを選んで挑戦!
鍋敷きとコースター、5つのデザインから好みのものを選んで挑戦!
自分が作るコースターや鍋敷きのデザインを楽しそうに選ぶ参加者の方々
自分が作るコースターや鍋敷きのデザインを楽しそうに選ぶ参加者の方々

デザインを決めたあとは、レクチャーを受けながら皆さん集中していました。

指勘建具工芸
指勘建具工芸

工房内にはショップもあり、コースターや写真立てなどを購入することができます。自分の旅の思い出に、家族や友人へのプレゼントにもぴったりです。

指勘建具工芸
指勘建具工芸

工芸エリアでは、ほかにも染付体験や手作り陶芸体験、製陶所見学、ごはん鍋を使ったごはん炊き講座などが行われます。

自分で体験してみてこそ、伝統技術のすごみや素晴らしさが分かるもの。ものづくりの最前線を見学・体感できる菰野のオープンファクトリー、この機会を逃さず、ぜひ参加してみてください。

また、13日(土)には菰野町唯一の酒蔵である早川酒造の酒蔵見学も行われます。「田光」「早春」など、鈴鹿山脈釈迦ヶ岳の伏流水を使用した日本酒の人気は全国区。普段は一般の見学は受け付けておらず、今回のイベント限定の企画。日本酒好きは参加必須ですね。

※オープンファクトリーの詳しい情報はこちら

地元の名産品がそろう、道の駅「菰野ふるさと館」へ寄り道

工芸エリアを出発したあとは、インフォメーションセンターのひとつでもあり、地元の名産品が揃う道の駅「菰野ふるさと館」へ。

「菰野ふるさと館」
菰野ふるさと館

地元食材の生のマコモをはじめ、マコモを使った加工食品の品数には驚きです!

菰野町の町名の由来となったと言われる「マコモ」
菰野町の町名の由来となったと言われる「真菰(マコモ)」
のど飴やゴーフレット、ワッフルなど、ありとあらゆるマコモ商品が並びます
のど飴やゴーフレット、ワッフルなど、ありとあらゆるマコモ商品が並びます
マコモアイス。左側が茎を利用したもの、右側が葉を利用したもの。両方ともとても美味しい!
マコモアイス。左側が茎を利用したもの、右側が葉を利用したもの。両方ともとても美味しい!
「マコモ」のイメージポスター⁉斬新です
「マコモ」のイメージポスター⁉斬新です

地元の名産品も勢ぞろいしており、ついつい買い込んでしまいます。

菰野ふるさと館
菰野ふるさと館

記念写真はここで! コスモス畑で1日限りのカフェ

続いては、ピンクや白の色鮮やかなコスモスが一面に咲き乱れるコスモス畑にやってきました。

一面に広がるコスモス畑
一面に広がるコスモス畑

13日(土)には、このコスモス畑の真ん中に1日限定で移動カフェ「Bond Café Kichen」がオープン!

一面のコスモス畑の中に赤と黒のワーゲンバス、これは絶好の写真
スポットになりそうですね。

1日限定のカフェがオープンするのは13日。インスタ映え間違いなし!
1日限定のカフェがオープンするのは13日。写真映え間違いなし!

里山の自然を楽しみながら、香り高いコーヒーや手づくりの焼き菓子を楽しめるなんてうらやましい!オープン日ではないことが、つくづく残念です…。

開湯1300年を迎える湯の山温泉にも足を延ばそう

傷ついた鹿がその傷を癒したという伝説が残り、別名「鹿の湯」とも呼ばれる湯の山温泉。開湯1300年を迎える歴史ある温泉で、美肌効果の高い美人の湯(!)です。

湯の山温泉街

13日(土)の夜には、温泉エリアでもイベントが目白押しです。

夜間の日帰り入浴ができる「星空の温泉めぐり」、温泉に入った後は温泉街のワインバーやカフェ、居酒屋などでちょっと一杯「夜のゆのやま」、ミニシアター上映会など、旅の締めくくりにぴったりの贅沢な時間。

“こもの旅”の疲れを心地よく癒してくれるに違いありません。

湯の山温泉

そのほか、温泉入浴付きの「湯の山温泉ガイドウオーキング」や「湯の山名物僧兵鍋教室」も実施されていますので、興味のある方は開催日時をチェックしてくださいね。

集めた「旅印」を、さんちの手帖ブースへ!

見どころを巡って旅印が集まったら、メイン会場のさんちの手帖ブースに戻ります。

旅印5個で湯の山せんべいがもらえます
旅印5個で湯の山せんべいがもらえました!

今回の旅では5軒分の旅印を獲得。「湯の山せんべい」を受け取りました!ピンクのビジュアルが可愛らしい菰野町のお菓子です。

ちなみに、旅印30個で「かもしか道具店のごはん鍋」、旅印15個で「オリジナル手ぬぐい木綿豆腐」がもらえます!

かもしか道具店 土鍋
木綿湯布

 

快適に菰野を旅するポイント

最後に、これから「こもガク×大日本市菰野博覧会」を訪れる方のために、快適に菰野を旅するポイントを伝授します!

◇事前のスケジューリングをしっかりすべし
各エリアが離れて点在しているため、思った以上に移動に時間がかかります。時間のロスなく見どころを巡るには、しっかりスケジューリングができるかどうかがポイント。

限定イベントの多い13日なら、午前中にワークショップ・見学→コスモスカフェで軽食→マルシェやメインエリアでショッピング→湯の山温泉、が理想的!

◇職人さんと交流すべし
普段見ることのできない場所を見学し、普段接することができない職人と交流できるのが、オープンファクトリーの醍醐味です。気になったこと、聞いてみたいこと、何でもどんどん質問しましょう。新たな発見があり、充実した旅になるはずです。

◇カード利用不可多し!現金を多めに用意すべし
メインエリアのショップやマルシェなど、ほとんどのお店でカードは使えません。欲しいものを買い損ねることのないよう、現金を多めに用意していくことをおすすめします。イベント会場でしか購入できない商品も多く、心残りのないようにしたいですね。

◇「さんちの手帖」は事前にダウンロードすべし
公式ガイドアプリ「さんちの手帖」には見どころ情報が満載。事前にダウンロードしておけば、スケジュールも立てやすくなります。また、メイン会場にはWi-Fiスポットがなく、その場でダウンロードすると時間がかかってしまうことも。備えあれば憂いなし、です。

工芸・里山・温泉と魅力いっぱいの町・菰野町を見て、知って、体感する「こもガク×大日本市菰野博覧会」は14日(日)まで。ぜひ、この週末に足を運んでみてください!

こもガク×大日本市菰野博覧会

工芸、温泉、こもの旅。

こもガク×大日本市菰野博覧会

【開催概要】
開催名:「こもガク×大日本市菰野博覧会」
開催期間:2018年10月12日 (金) ~14日 (日)
開場:三重県三重郡菰野町
主催:こもガク×大日本市菰野博覧会実行委員会

公式サイト:http://komogaku.jp/
公式ガイドアプリ「さんちの手帖」の使い方はこちら:https://sunchi.jp/sunchilist/komonocho/72248

<取材協力>
山口陶器
菰野町川北200ー2
059-393-2102
「こもガクx大日本市菰野博覧会」山口陶器ページ

指勘建具工芸
菰野町小島1537-1
059-396-1786
「こもガクx大日本市菰野博覧会」指勘建具工芸ページ

道の駅 菰野ふるさと館
菰野町菰野2256
059-394-0116

菰野町町民センター/体育センター
(公式ガイドアプリ景品交換所、中川政七商店期間限定ショップ、東海市)
菰野町福村871
059-394-1502

 


文:小堀真里
写真:西澤智子

こもガク × 大日本市菰野博覧会を120%楽しむ、公式アプリ「さんちの手帖」の使い方

いよいよ本日スタート!こもガク × 大日本市菰野博覧会とは?

2018年10月12日(金)〜10月14日(日)の3日間に渡って、工芸産地のお祭りが行われます!

場所は萬古焼の産地、三重県菰野町。

菰野町

お祭りの名は「こもガク × 大日本市菰野博覧会」。

「こもガク」とは地元の事業者による、塾とマルシェを組み合わせた体験型のイベントです。「コモノを知って、コモノを学ぶ」をコンセプトに開催されます。

一方の「大日本市博覧会」は、「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げる中川政七商店が、100年後の「工芸大国・日本」を目指し2016年より開始した産地巡礼型の工芸の祭典。

その両者の想いが合致し、2018年は「こもガク × 大日本市菰野博覧会」が開催されることになりました!

こもガク菰野博覧会
特設ページはこちらからどうぞ!

全32ヶ所の見どころがアプリの中に

工房、ショップなどの見どころめぐりに欠かせないのが、公式ガイドアプリ「さんちの手帖」。32ヶ所すべての見どころ情報をアプリで見ることができます。

 

app store さんちの手帖
google play さんちの手帖

 

アプリを使って、どんな楽しみ方ができるのか。「こもガク × 大日本市菰野博覧会」を120%楽しむ、アプリの魅力と使い方をご紹介します!

見どころめぐりを、もっと楽しく便利に

地図を開けば、どの場所にどんな見どころがあるのか一目瞭然。

位置情報をオンにしてアプリを開くと、TOP画面「近くの読み物」タブから地図で見る機能が使えます
位置情報をオンにしてアプリを開くと、TOP画面「近くの読み物」タブから地図で見る機能が使えます

位置情報をオンにすると、自分の今いる位置から近いスポットを確認できます。

さらに、それぞれの見どころに近づくと、さんちの手帖オリジナルの「旅印 (たびいん) 」を獲得できる機能が。

無事に取れました!旅印ゲットの瞬間には「ポン!」という小気味良い音が。ぜひ通知音をオンにしてお楽しみください!

イベント期間中、このアプリで集めた旅印の数に応じて、先着で会場限定のプレゼントがもらえるのです!

旅印を集めてプレゼントをもらおう!

イベント中、集めた「旅印」の数に応じてもらえるプレゼントはこちら。この博覧会だけの豪華ラインナップです!

<プレゼントその1:旅印30個>
かもしか道具店のごはん鍋 3名様/日

かもしか道具店 土鍋

30の見どころを周り旅印を集めてくださった方には先着で、「かもしか道具店のごはん鍋」をプレゼント!

これからの季節、重宝すること間違いなしの土鍋!中川政七商店のお店でも人気の高い、菰野町が誇るかもしか道具店の土鍋をプレゼント。土鍋を手に入れて今年の冬を温かく過ごしてみてはいかがでしょうか。

<プレゼントその2: 旅印15個>
木綿湯布 10名様/日

木綿湯布

今年デビューの中川政七商店による新しい温泉土産「木綿湯布−もめんどうふ−」をプレゼント!

手ぬぐい片手に温泉街をぶらりとするもよし、菰野町の思い出として飾るのもよし、様々な使い方でお楽しみくださいね。

 

<プレゼントその3:旅印5個>
湯の山せんべい 丸缶 30名様/日

湯の花せんべい

昭和32年創業、菰野町の「日の出屋製菓」のおせんべい。サクサクと軽く、ほのかな甘さ独特の食感の昔懐かしい炭酸煎餅。

第19回全国菓子博覧会技術優秀賞も受賞している、菰野町のお菓子をプレゼント!

関連記事はこちら:「レトロかわいいパッケージに一目惚れ、日の出屋製菓の『湯の花せんべい』」

※ プレゼントの交換場所は、さんちブース(場所:菰野町町民センター) です。
※ こもガク × 大日本市菰野博覧会の期間 (2018年10月12日~14日) 以外に集められた旅印はプレゼント交換の対象にはなりません。

 

「さんちの手帖の使い方」

では、ここからは「旅印」の集め方など、具体的なアプリの使い方をご案内していきます。

 

 

<まず、アプリから博覧会の特設ページへ>

アプリをダウンロードして各見どころを訪ねると、「旅印」を獲得できることを知らせる通知が届きます。事前にアプリ画面から通知の許可をしておいてくださいね。

準備ができたら、まずはアプリのTOPページに設置された「こもガク × 大日本市菰野博覧会」特設バナーをタップ。

トップ画面、緑色のバナーが目印です
トップ画面、緑色のバナーが目印です

 

<見どころを探す>

特設ページの「見どころ」タブから、32ヶ所すべての見どころ情報を見ることができます。

特設ページが表示されたら、見どころタブをタップ。リストから更に気になる見どころをタップすると、詳しい情報がチェックできます!
特設ページが表示されたら、見どころタブをタップ。リストから更に気になる見どころをタップすると、詳しい情報がチェックできます!

イベントを楽しむほど、豪華プレゼントに1歩近づきます。ぜひ全制覇する気持ちで巡ってみてくださいね。

 

<「旅印」を取得する>

各見どころに近づくと、お知らせが届きます。お知らせをタップして旅印を取得しましょう!

アプリを持って歩いていたら、通知が来ました!すかさずタップすると、取得画面が現れるので「押印」ボタンを押しましょう
アプリを持って歩いていたら、通知が来ました!すかさずタップすると、取得画面が現れるので「押印」ボタンを押しましょう
無事に取れました!旅印ゲットの瞬間には「ポン!」という小気味良い音が。ぜひ通知音をオンにしてお楽しみください!
無事に取れました!旅印ゲットの瞬間には「ポン!」という小気味良い音が。ぜひ通知音をオンにしてお楽しみください!
さらに、旅印をタップすると、その見どころの詳細ページが閲覧できます。赤いスタンプマークが旅印獲得の印です!
さらに、旅印をタップすると、その見どころの詳細ページが閲覧できます。赤いスタンプマークが旅印獲得の印です!

通知を逃してしまったら‥‥

通知が消えてしまっても、アプリメニューの「訪問した見どころ」からも旅印を取得することができます

RENEW ×大日本市鯖江博覧会 中川政七商店
通知が消えてしまっても、「訪問した見どころ」からも旅印を取得することができます

 

<「旅印」を確認する>

獲得した「旅印」は、下のメニューの「旅印帖」で確認できます

こもガク × 大日本市菰野博覧会

※画像はイメージです

目指せ全制覇。ぜひふるってご参加下さい!

<Q & A>

Q:プレゼントはどこでもらえますか?

→ A.さんちブース(場所:菰野町町民センター)へお越しください

 

Q:近くにいるのに、旅印の通知がきません

→ A.位置情報サービスはオンになっていますか?また通知を許可していますか?
(左上メニューにある「通知設定」・「位置情報設定」をご確認ください)

 

Q:通知設定も位置情報設定もオンになっていますが、見どころにきても通知がきません

→ A.一度、該当の見どころから200メートル以上離れて再度近づいてみてください

 

Q:使い方がわからないので質問をしたいです

→ A.さんちブース(場所:菰野町町民センター)へお越しください

 

*お使いの端末によって、旅印が獲得できない場合がございます。ご不明な点がございましたら、さんちブースまでお越しください。

 

「さんちの手帖」ダウンロードはこちらから

app store さんちの手帖
google play さんちの手帖

 

3日間しか見られない「鹿」は300年前の技法で生まれた

2018年10月12日 (金) から、10月14日 (日) までの3日間に渡り、「こもガク×大日本市菰野博覧会」が開催されました。

祭典のシンボルとなる萬古焼の「鹿」を制作

開催を記念して、菰野町に伝わる繊細な「古萬古(こばんこ)」の絵付けで今回の博覧会のシンボルの鹿が制作されました。

完成した「萬古鹿」
完成した「萬古鹿」。鹿は、今回の博覧会を共同開催する中川政七商店のシンボルでもあります
萬古鹿

剥製や骨格見本を参考としてリアルな鹿の姿を模しつつ、造形のバランスを追求して作り上げられたという萬古鹿。触れたくなるような滑らかな曲線、存在感のある立派な角が印象的です。そして、体を彩る色絵の美しさに目を奪われました。

「古萬古」の技法を用いた制作現場へ

萬古焼といえば、土鍋や急須などが有名ですが、300年の歴史の中で時代の移り変わりに合わせて多種多様なものが作られてきました。発祥当時は、文人や知識人に好まれた繊細で鮮やかな絵柄のものが主流でした。現在は「古萬古」と呼ばれているものです。

古萬古の壺。鹿の像に描かれた柄もこのころに用いられたものが取り入れられました
古萬古の壺。鹿の像に描かれた柄もこのころに用いられた文様が取り入れられました

今回つくられた、萬古焼の鹿を手がけたのは堀野証嗣さんと山口静香さん。

昔ながらの技法を取り入れての作陶はどんなものだったのでしょうか。祭典開催から遡ること1ヶ月、制作現場を取材させていただきました。

堀野証嗣さんと山口静香さん
迎えてくださった堀野証嗣さんと山口静香さん。お二人は父娘。堀野さんのお父様の代から3代に渡って陶芸に携わってこられたのだそう

昔ながらの萬古焼を現代に

伺ったのは、菰野陶芸村にある堀野さんの工房。

伺った日は、絵付けの工程が進んでいるところでした
この日は、絵付けの工程が進んでいるところでした

堀野さんは長年作陶を続ける中で、「古萬古」の赤絵の繊細さ、風雅な味わいに魅せられ、これを現代に甦らせる取り組みも行ってこられた方。

「磁器は色がパキッと反射するので鮮やかで華やかですよね。一方、つちものである陶器に彩色を施すと柔らかい雰囲気になります。独特の落ち着きが生まれるんです」と堀野さん。

工房での堀野さん

地元の土と、天然素材の釉薬

堀野さんは作品に合う素材をその都度吟味されるのだそう。今回の制作には、地元の土が使われました。

この土は「粒子は粗めでありつつ、粘りが強い」のだそう。複雑な造形を行う際にも扱いやすいのだとか
この土は「粒子は粗めでありつつ、粘りが強い」のだそう。複雑な造形を行う際にも扱いやすいのだとか
造形の際に使われた台
造形の際に使われた台。細い足の付いた像は支えがないと作れません。堀野さんお手製のこの台を使って胴体を支えながら形作られました
形が出来上がると、足の部分を別に切り分けて乾燥させ、窯で焼きます
形が出来上がると、足の部分を切り分けて乾燥させ、胴体と別々に窯で焼きます。この足の造形が一番苦心したところなのだそう

釉薬は、松の葉を乾燥させて灰にした「松葉釉(まつばゆう)」を使用。萬古焼で昔から使われてきたものです。この釉薬を使うと、素朴で柔らかな質感に仕上がるのだとか。

乾燥させた松葉
松葉釉の原料となる乾燥させた松葉
乾燥させた松葉
釉薬を作るには大量の松葉を集めて、乾燥させる必要があります。他の植物の葉や松の茎など、松の葉以外のもの混ざってしまうと仕上がりが変わるので手作業で仕分けをするのだそう
できあがった松葉釉。大量の松葉と手間から生まれるのはごくわずかな量の釉薬
できあがった松葉釉。大量の松葉と手間から生まれるのはごくわずかな量

現代では、合成釉薬を使うことが一般的。その方が様々な窯の中の環境に対応できるので、作品の質が安定するといいます。一方で松葉釉を使うと思い通りの仕上がりにならないこともあるのだとか。

それでも、この釉薬を使ったのには理由がありました。それは、焼きあがりに偶発的に生まれる斑点を期待してのこと。

赤い斑点「鹿子出 (かのこで) 」
土に赤い斑点「鹿子出 (かのこで) 」が綺麗に浮かび上がりました。「よりシカらしくなってよかった」と堀野さんも満足されている様子でした

単なる柄にとどまらない“衣を纏ったような”絵付け

今回の絵付けは、娘の山口さんが担当されました。

絵付けする山口静香さん
山口さんが描いたデザイン画
山口さんが描いたデザイン画。「古萬古」の柄を描きつつモダンな仕上がりに

古萬古焼の文様を組み合わせた絵柄に、「瓔珞文様 (ようらくもんよう) 」が合わせられています。

左脇に置かれた湯飲みは、瓔珞文様を描く際に参考にしたもの
古萬古の鹿
頭部の文様に組み合わされた瓔珞文様
絵柄の縁に瓔珞文様が加わることで、鹿が衣を纏っているようにも見えますね
絵柄の縁に瓔珞文様が加わることで、鹿が衣を纏っているようにも見えますね

赤の発色を良くする成分は‥‥

赤い絵付けに使われているのは、「紅殻 (べにがら、またはベンガラ) 」という顔料。

紅殻
紅殻。すりつぶして粒子を細かくして使います

粉状になった紅殻を、ガラス板でさらに細かくして使います。この際に使われる水分は、なんと腐らせたお茶。お茶の中のタンニンが紅殻と反応して、鮮やかに発色するのだとか。これも昔からの使われ方です。

お茶と紅殻を混ぜるようにすり合わせて伸ばしています
お茶と紅殻を混ぜるようにすり合わせて伸ばしています
出来上がった顔料を絵筆につけて、フリーハンドで描いていきます
出来上がった顔料を絵筆につけて、フリーハンドで描いていきます
絵付けする山口静香さん
立体物への絵付けは筆の運びの工夫が必要なことも多く、考えながら手を入れるそうですが、一度絵付けが始まると「無心になる」という山口さん。集中されている様子にこちらも息を飲みました

父娘一緒に仕事をするのは、実は今回の制作が初めてのことだったそう。

「娘を褒めるのもなんですが、絵のバランスがすごく良いんです。柄というより、鹿が何か纏っているように見える。今はまだ下絵だけですが、瓔珞文様に色が入るとさらによくなると思います」と語る堀野さんが印象的でした。

堀野さんと山口さん父娘

<取材協力>
八幡窯 堀野
三重県三重郡菰野町千草7072-1 菰野陶芸村内
059-392-3064

文:小俣荘子

写真:西澤智子

美しすぎる工場見学。技術の粋を集めた「組子の家」がすごい

その部屋に入った瞬間、息をのむような景色が目の前に広がっていました。

指勘建具工芸

どうぞ、と出してくれたお茶の姿まで美しい。

指勘建具工芸

「電気を消すと模様が光るように見えるので、『光輪 (こうりん)』と名付けたんですよ」

ここは三重県菰野 (こもの) 町。

3代続く建具専門店「指勘 (さしかん) 建具工芸」の住まい兼ショールームが一般公開されており、その圧倒的な美しさが人気を呼んでいます。

指勘建具工芸の工場見学

3代目の黒田裕次さんに部屋の解説をしていただきました。

指勘建具工芸3代目の黒田裕次さん
指勘建具工芸3代目の黒田裕次さん

「組子の家」の正体

この部屋に使われている技術は「組子 (くみこ) 」。

指勘建具工芸の組子

ふすまや障子などの建具の表面に、細かな木片を組み込んで意匠を表します。釘を一切使わず、多くは麻の葉柄など縁起の良い模様を表現します。

こちらの模様は「八重桜亀甲」と「八重麻の葉」。もともと縁起の良い柄をさらに組み合わせた複雑なつくりです
こちらの模様は「八重桜亀甲」と「八重麻の葉」。もともと縁起の良い柄をさらに組み合わせた複雑なつくりです

「建具は家の中で間仕切りとして機能しますが、間を切るという言葉の中に、昔の人は『魔を切る』、悪いものを家の中に入れない、という験担ぎも持たせていたのだと思います。だから縁起の良い柄が多いんでしょうね」

その伝統的な技法を究極まで極めることに挑んだのが、黒田さんの父にして2代目の黒田之男 (くろだ・ゆきお) さん。

40代後半から50代前半の職人として脂ののった時期に1年1作品のペースで大作に取り掛かり、完成したのがこの「全面組子づくり」の部屋です。

1面ずつ見て行きましょう。

着色一切なし。千年以上前の素材も駆使した「白鷺城」

指勘建具工芸の「白鷺城」

「これは姫路城を表したもの。着色したパーツを使わずに、全て素材の色差だけで瓦屋根や白壁の濃淡を表現しているんですよ」

指勘建具工芸の作品「白鷺城」

えっ。

同じ杉なのに、こんなにも色の差が出るのでしょうか。

指勘建具工芸の作品

使う木材は杉やヒバ、桐など。一番色の濃いパーツは神代杉 (じんだいすぎ) といって、千年以上地中に埋まって掘り起こされると、こういう色になるのだそう。

全部で10万パーツを組み上げて、模様を浮かび上がらせていると言います。素材だけで十分贅沢な世界です‥‥。

斜めから見るのがおすすめ。「桑名の花火」

今度は対照的に、色をふんだんに使った鮮やかな作品、「桑名の花火」。

指勘建具工芸の「桑名の花火」
指勘建具工芸の作品「桑名の花火」

「桑名の花火大会をイメージして作ったものです。この作品は斜めから見ると、立体感が増しますよ」

指勘建具工芸の作品「桑名の花火」

作品によって鑑賞するベストポジションも違うとのこと。ちなみに先ほどの「白鷺城」は、正面から見るのが一番良いそうです。

製作費1000万円!実際に注文者が現れた逸品

残る一面は、花柄が影絵のように美しく映し出される「蓮華」。

指勘建具工芸の「蓮華」
指勘建具工芸の作品「蓮華」

「よく見てもらうと、木がこういう風にずっと繋がっているんです」と黒田さんがある部分を示します。

黒田さん

「木材を、紙一重のところまで切り込んで折り合わせているんです。これはかなり高い技術のいるものですね」

指で示す角のところは、ひとつながりの材に切り込みを入れて延々と折り曲げているそう!
指で示す角のところは、ひとつながりの材に切り込みを入れて延々と折り曲げているそう!

「製作費ですか?うーん、材料も良いものを使っているので、トータル1000万円くらいでしょうか」

1000万‥‥!金額にも驚きですが、『これと全く同じように作って欲しい』という注文があったというのも、嬉しい驚きでした。

「もう一度作るとなると材から全て集めるのが大変で (笑) 。父と二人掛かりで納めた大仕事でしたね」

組子は木のトロを使う

この信じらないほど細やかな組子づくりの様子は、近所に構える工場で実際に見学することができます。

ちょうど制作途中の組子がありました
ちょうど制作途中の組子がありました
傍には色別に分けられた組子のパーツが
傍には色別に分けられた組子のパーツが

組子に使われる材は薄さわずか1.5ミリというものも。1.5センチでなく、1.5ミリ、です。

この薄さ!目がチカチカしてきそうです
この薄さ!目がチカチカしてきそうです

作業途中で割れたりしないよう、使うのは年数が経って木目のよく詰まった部分のみ。黒田さんは「木のトロ」と呼んでいました。

向かって右は夏に育った部分。木目がゆったりなのがわかります。組子に使うのは、パーツをあてている目の細やかなところのみ
向かって右は夏に育った部分。木目がゆったりなのがわかります。組子に使うのは、パーツをあてている目の細やかなところのみ

小さな小さなパーツになるまでに、幾度も裁断を繰り返します。

はじめは見上げるほどの大きさです
はじめは見上げるほどの大きさです
設計図に基づいて、必要な長さ、幅を揃えていきます
設計図に基づいて、必要な長さ、幅を揃えていきます
長さ、幅を揃えたら木材の角を直角に整え、最後に必要な厚みにスライス。それぞれに機械を変えて行います
長さ、幅を揃えたら木材の角を直角に整え、最後に必要な厚みにスライス。それぞれに機械を変えて行います
ちなみに、「指勘」の名前の由来となっているのがこの道具。建具は家にぴたっとはまるよう直角が命。そこで直角をはかるために使う「指金」と、初代である黒田勘兵衛さんの名を取って「指勘」という屋号が生まれたそう
ちなみに、「指勘」の名前の由来となっているのがこの道具。建具は家にぴたっとはまるよう直角が命。そこで直角をはかるために使う「指金」と、初代である黒田勘兵衛さんの名を取って「指勘」という屋号が生まれたそう
最後はこんな薄さに!パーツを切り出したら、曲げたい角度に合わせて切り込みを入れていきます
最後はこんな薄さに!パーツを切り出したら、曲げたい角度に合わせて切り込みを入れていきます
ようやくパーツの完成です
ようやくパーツの完成です
台にはパーツの仕様書が。切り込みをどの角度でどの深さまで入れるか、緻密に計算されています。それでも数字通りになることはほぼなく、最後は「勘」で決めていくそう
台にはパーツの仕様書が。切り込みをどの角度でどの深さまで入れるか、緻密に計算されています。それでも数字通りになることはほぼなく、最後は「勘」で決めていくそう

パーツを揃えるまででも大変な道のり。実はここまでで作品の仕上がりはおよそ決まってしまうそうです。これからいよいよ組み上げていきます!

指勘建具工芸の組子づくり
指勘建具工芸の組子づくり
そっと手で押して‥‥
模様を決める最後のパーツは、残りのパーツにしっかり添わせないといけないため、微妙に揺れる人の指はNG。木の板で押し込みます
模様を決める最後のパーツは、残りのパーツにしっかり添わせないといけないため、微妙に揺れる人の指はNG。木の板で押し込みます
指勘建具工芸の組子づくり
このような作業を繰り返して、ようやく模様が完成します!
このような作業を繰り返して、ようやく模様が完成します!

見ているこちらが息をするのを忘れるような細かな作業。

実は、ほんの10年ほど前までの指勘さんは、組子のような意匠のない、シンプルな障子や襖などの建具をメインに作っていたそうです。

このように工場や作品をオープンに公開し、組子の魅力を打ち出していこうと決めたのは、3代目の裕次さんの代から。

美しすぎる工場見学の背景に、一体どんな想いがあるのでしょうか。

つくる以上に、伝える努力を

「昔は技術を習得したら一人前でしたが、今はそれだけで一生食べていける、という時代でもありません。お客さんは建具屋に頼まなくても、ハウスメーカーさんで建具を作ってもらうこともできる」

黒田さん

「一般的な建具も作り続けていますが、指勘にしかできないことを残したい。それは何か?と考えた時、父が極めてきた組子の面白さを、もっと世の中の人に伝えたいと思ったんです。

そうしたら、『もっとこういうデザインができる?』『ワンポイントだけうちの障子に使いたい』など、新しい発想をお客さんからもいただけますしね」

この工場見学が功を奏し、最近はわざわざ遠方から職人希望で見学に来られる人もいるとか。

ワークショップも体験できるので、ぜひ自分の手で組子作りにチャレンジしてみては。

「もうお帰りですか。実はこの奥にもうひとつ見ていただきたいものが‥‥」

そう、この組子の家、まだあっと驚く仕掛けが部屋の奥にあるのです。

それはぜひ、行ってご自分の目で確かめてみてくださいね。

<取材協力>
指勘建具工芸
三重県三重郡菰野町小島1537-1
059-396-1786
http://www.sashikan.com/jp/


文:尾島可奈子
写真:尾島可奈子、指勘建具工芸

陶磁器の耐熱温度はなぜ高い?直火OKのお皿を生み出したプロを訪ねる

三重県の萬古焼メーカー〈かもしか道具店〉さんに学ぶ、陶磁器の基礎

お皿‥‥と一口にいっても、プラスチック、木、ガラス、陶器、磁器‥‥とその素材はさまざま。今回はその中でも、焼き物・陶磁器についての話です。

同じ陶磁器でも、オーブンにかけられるものもあれば、ダメなものもあります。耐熱温度には差があります。その違いは何なのでしょう。

素材?分厚さ?製法?

三重県菰野町の「かもしか道具店」に、オーブンどころか、直火にかけられるお皿があると聞き、足を運んでみました。

三重県菰野町のかもしか道具店
田園に囲まれた自然豊かなロケーションに佇む「かもしか道具店」。おしゃれなロゴが目を引きます

陶磁器は大抵がレンジ対応。耐熱温度が高いわけ

「大抵の陶磁器は電子レンジで使えます。そもそも陶磁器は、つくるときに約1200度の温度で焼くので、ある程度の耐熱性があるんです。

ただ、オーブンや直火だとダメなものも。それは土や釉薬(※)など、素材によって耐熱性が変わるからです」と話してくれたのは、「かもしか道具店」主宰の山口典宏さん。

※釉薬(ゆうやく、うわぐすり)とは
陶磁器をつくる際、成形した器の表面にかける薬品のこと。ガラス質のコーティング剤。
コーティングすることで強度を強くする、汚れを付きにくくする他、色付けや光沢だしなど装飾の意味もある。

「山口陶器」の代表取締役でもある山口さん
萬古焼の窯元「山口陶器」の代表取締役でもある山口さん

直火OKな陶磁器。驚異の耐熱温度のひみつは土

日本で初めてつくられた直火OKなお皿は、実は三重県四日市市や菰野町で作られる陶磁器、萬古焼 (ばんこやき) 。

三重といえば伊賀焼の土鍋が有名ですが、萬古焼の土鍋も、古くからつくられてきました。

その過程でいつしか「割れない土鍋」をつくる研究が始まり、昭和30年代後半、原料メーカーと民間企業によって“直火でも割れない土”が開発されたのです。

その鍵となっているのが、「ペタライト」という原料。

高い耐熱性で知られる鉱物のひとつで、陶磁器の土、釉薬に一定量加えることで、通常よりも高い耐熱・耐衝撃性を示すことが確認されています。

今まで使っていた陶磁器の土にペタライトを配合することで、直火でも割れない土鍋の開発に成功。その後は、グラタン皿など土鍋以外のお皿も手がけていったそう。

かもしか道具店の土鍋
ジンバブエで採取されるペタライト。商品にもよりますが、山口さんが手がける耐熱食器にはペタライトを50%配合しています

お皿が割れる原因は急激な温度変化にあり

そもそも、なぜお皿がオーブンや直火で割れてしまうのか?

主な原因は温度差。オーブンや直火によって低温から高温へと急激に温度が上昇したり、部分的に高温になることで割れてしまうのだそう。

ただ、商品を見ただけではペタライト入りかどうかは、見分けがつきません。
「耐熱」表示を頼るしか、見分ける術はなさそうです‥‥!

かもしか道具店の陶磁器

ペタライトを土に配合する際には、釉薬にも配合します。そうしないと窯で焼くときに土と釉薬が同じように縮まず、割れてしまうからです。

そのノウハウを持つのも、ペタライト配合の土を開発した萬古焼産地ならではです。

耐熱温度の高さゆえ生まれる、陶磁器のバリエーション

「かもしか道具店」で扱っている陶磁器はどれも耐熱皿で、バリエーションも豊富。

これら平皿でさえ、見た目に反して直火OKなんです。

そんな直火OKの陶磁器の魅力は、遠赤外線により芯から食材に火が通ることと、その後も料理が冷めにくいこと。

朝パパッと目玉焼きをつくってそのまま食卓に出したり、夜に炒めもののワンプレートをつくったり。

料理が冷めにくいから、遊ぶことに夢中になっている子どもに「冷めちゃうから早くごはん食べなさい!」と怒ることも、少なくなるかもしれません。

かもしか道具店の陶のフライパン

<掲載商品>
陶のフライパン

<取材協力>
かもしか道具店
三重郡菰野町川北200-2
059-393-2102
https://www.kamoshika-douguten.jp/


文:広瀬良子
写真:西澤智子