体験して、ナマハゲ行事の本当の意味がわかる。男鹿真山伝承館へ行ってきました

ユネスコ無形文化遺産「男鹿のナマハゲ行事」を体験取材

今年も残すところあとわずかとなりました。

大晦日は、年越しそばを贔屓のお店に食べに行く人もあれば、テレビの特番をこたつでゆっくり鑑賞という人、あるいは年末年始もバリバリ仕事!など、きっと年越しの仕方もさまざまかと思います。

「うおぉぉぉぉ!」

バンバンバン!!!

ある地域では、家中の戸や壁を叩いて回り、大声を上げる「異形の者」を家に招き入れて大晦日の晩を過ごすのが恒例行事。

「泣ぐ子はいねぇが!!!」

ナマハゲ

そう、このセリフで有名な、秋田県の「男鹿 (おが) のナマハゲ行事」です。

2018年11月には、他県の9行事と合わせてユネスコの無形文化遺産に登録されたことでも話題になりました。

登録名は「来訪神 (らいほうしん) 仮面・仮装の神々」。

こわーい「鬼」のイメージがあるナマハゲですが、本当は、神様?一体何のために、大きな音を立ててわざわざ大晦日の家々を訪ね歩くのでしょう。

意外と知らないその行事の実際を、大晦日以外にも体験できる場所があると聞いて、男鹿まで一足早く行ってきました。

秋田まで行けない人もぜひこの記事で、「ナマハゲがやってくる大晦日」を体感してみてくださいね。

男鹿のナマハゲ行事を体験できる、男鹿真山伝承館へ

訪ねたのは男鹿真山伝承館。

大きな秋田杉の鳥居をくぐった先に‥‥
大きな秋田杉の鳥居をくぐった先に‥‥

日本海に突き出た男鹿半島の中で「お山」として古くから地域の信仰を集めてきた「真山 (しんざん) 」のふもとにある、真山神社が運営しています。

古くから霊山として大切にされてきた真山。一帯には社寺や文化財が集まっています
古くから霊山として大切にされてきた真山。一帯には社寺や文化財が集まっています
石段をずうっと登って行った先に拝殿があります
石段をずうっと登って行った先に拝殿があります

「ナマハゲって、嫌がる子どもを泣かせるような、恐いイメージがどうしても先行していますよね。

でも、行事の肝心な部分があまり伝わっていない。それを知っていただくために、実演を行なっています」

対応いただいた神主で伝承館館長の高森さん
対応いただいた神主で伝承館館長の高森さん

実演が行われるのは、地域の伝統的な曲家 (まがりや) 民家の広間。タイムスリップしたような空間でナマハゲを見学できます。

男鹿真山伝承館
実演が行われるのが右側の仏間。お客さんは隣の間に座り、間近でその様子を見学できます
実演が行われるのが右側の仏間。お客さんは隣の間に座り、間近でその様子を見学できます
仏壇と神棚が一緒になっています。この辺りも地域性があって興味深い
仏壇と神棚が一緒になっています。この辺りも地域性があって興味深い
床の間にはナマハゲが描かれた掛け軸が
床の間にはナマハゲが描かれた掛け軸が

まず現れたのは解説の女性。

いよいよ、はじまりました!
いよいよ、はじまりました!

「こちらでご覧いただいくナマハゲは、真山地区のナマハゲです。

このナマハゲのお面には角がありません。これは真山というお山の神様だからだと言い伝えられております」

流れるように行事の解説をしてくれます
流れるように行事の解説をしてくれます

一番最初はそんな説明から始まりました。

男鹿でナマハゲ行事を行う集落は80ほどあり、地区ごとにその出で立ちや振る舞いが違うそうです。

中でも真山地区のナマハゲは古い形式が残されているとのこと。

「それでは、まもなくナマハゲがやってきます」

解説員さんの最後のことばに、前で正座していた3兄弟の男の子たちがずざざっ、と後ずさりしました。

怠け者はいねがぁ!

解説員さんが去ると、主人役の男性が広間に入って来ます。

主人役の男性
「これからの実演は、土地の言葉で話します。わからないところも、まずは雰囲気を味わってみてください」
「これからの実演は、土地の言葉で話します。わからないところも、まずは雰囲気を味わってみてください」

玄関の方を向いて正座し、ナマハゲの来訪を待ちます。

正座してナマハゲを待つ

ガラガラガラ、と戸が開く音が。

「おばんです。ナマハゲ来たども入っていいすか」

はじめにやってきたのは先立 (さきだち) と呼ばれる役目の人。

先立さん。ナマハゲ行事は全て男性のみで行われます
先立さん。ナマハゲ行事は全て男性のみで行われます

ナマハゲは、その年に不幸ごとや出産があった家には入れないしきたりなので、こうして先立さんがまず家々に確認をするのです。

「おめでとうございます。寒いとこ大変だったすな」

まずは先立さんに挨拶
まずは先立さんに挨拶

主人が先立さんにねぎらいの言葉をかけ、ナマハゲ一行を迎え入れることを承諾します。

「うおぉぉぉぉ!」

バンバンバン!!!

ほどなく、大声とともに外の雨戸を激しく叩くような音が突然、背後から聞こえてきました。これは、来ると分かっていても、恐い!

ナマハゲがやって来た!
ナマハゲがやって来た!

音のする場所がどんどん移動していき、ついに。

勢いよく障子が開きます
勢いよく障子が開きます

ナマハゲが玄関に姿を表しました。家に上がる際に、7回、四股を踏みます。

手足を大きく振って四股を取ります
手足を大きく振って四股を取ります

「怠け者はいねがぁ」

ズンズン!客席の方まで入って来ます。すごい迫力です!
ズンズン!客席の方まで入って来ます。すごい迫力です!

「嫁はどこさ行った、どこにも見当たらねぇなぁ」

バンバンバン!!!

隠れている子どもやお嫁さんを、家中の壁や戸を叩いたりして探し回るのです。

背中も大きく見えます
背中も大きく見えます

主人「おめでとうございます。ナマハゲさん、今年もまた荒れてるところよぐ来てけだすな」

主人はこの間に、用意しておいたお膳をさっと準備
主人はこの間に、用意しておいたお膳をさっと準備

主人は落ち着き払った様子でナマハゲをもてなします。

ナマハゲ「年に一度山から里さ降りてこねば、怠け者や悪い病が流行っても困る。しっかり祓っていくど」

そう、ナマハゲは年の瀬に山から降りて来て、その年1年の家の災禍を祓い、来年の福を呼び込んでくれる存在なのです。

大きな声を出したり音を出して歩くのは、この家の一年間の悪霊を追い払うためなんだとか。

一家の主はこの大切なお客様を、美味しい御膳とお酒でもてなします。

主人「まんず座って、酒でも飲んでくなんしぇ」

彩りもあざやか。ナマハゲを迎え入れる家には、こうしたお膳が必ず用意されています
彩りもあざやか。ナマハゲを迎え入れる家には、こうしたお膳が必ず用意されています
ナマハゲも勧めに応えて席に着きます。座る前に今度は5回、四股を踏みます
ナマハゲも勧めに応えて席に着きます。座る前に今度は5回、四股を踏みます
主人によるもてなしが始まりました
主人によるもてなしが始まりました

ナマハゲ「なかなかうめえ酒だ」

主人「あきたこまちでつくった酒で」

お酒をいただく様子。大晦日の晩は、お面の下で実際にいただくそうです
お酒をいただく様子。大晦日の晩は、お面の下で実際にいただくそうです

そんな会話を2、3した後、ナマハゲが本題を切り出します。ナマハゲ行事の本来のハイライトである「問答」の開始です。

ナマハゲは何でも知っている

ナマハゲ「ところで親父、今年の田畑の作柄は」

主人「去年しっかりお祓いしてもらったおかげで大豊作であったすでば」

主人も丁寧に答えていきます
主人も丁寧に答えていきます

ナマハゲ「婆さまは元気だか。もう歳なんだから、家族みんなで面倒見てやらねばだめだど」

主人「みんなで大事にしてるす」

こんな風に、その年の作物の具合や家族の息災をたずね、しっかりやりなさいと激励するのです。

一方で、怠け者には容赦なし。

いつも炉端に当たってばかりで手足に火だこを作っているような者は、その火だこ (=土地の言葉で「ナモミ」) を剥いでしまうため、「ナモミ剥ぎ」から「ナマハゲ」と呼ばれるようになったというのが、有力な語源説です。

手に包丁を持っているのが定番の姿ですが、あれはナモミを剥ぐためのものなのだとか。戒めとしては、かなり効き目がありそうです‥‥!

ナマハゲ「ところで嫁や子どもらはどこさ行った」

ここからがナマハゲ行事のハイライト
声に一層迫力が増します

これがお約束。話は必ず、隠れているお嫁さんや子どもたちに及びます。

主人「孫達もさっきまでここで遊んでだんだども」

ナマハゲ「ナマハゲが来たからといって逃げる、隠れるというのは、普段ちゃんとやってねぇがらでねーが」

主人「いやいや嫁は気立てはいいし、よぐ働くし、孫達も勉強はするし家の手伝いもよぐするし、本当によぐできた嫁子どもらで」

懸命に弁解する主人
懸命に弁解する主人

主人は家族を必死にかばいます。しかし、ナマハゲは全てお見通し。

ナマハゲ「本当だが。ここの孫のイチロー、学校さ行けば先生の言うことひとつも聞がない、学校から帰って来れば宿題もやらねでゲームばっかり、手伝いもさねて聞いてるど」

1年の悪行を暴いて、主人に詰め寄ります。実演ではわかりやすいようにと、日頃の行いが書き記されている「ナマハゲ台帳」がオリジナルで登場していました。さながら閻魔帳のよう
1年の悪行を暴いて、主人に詰め寄ります。実演ではわかりやすいようにと、日頃の行いが書き記されている「ナマハゲ台帳」がオリジナルで登場していました。さながら閻魔帳のよう
「去年ナマハゲさんに注意されてから勉強もしてるはずなんですが‥‥」と弱腰になる主人。ナマハゲの言葉にじっと耳を傾けます
「去年ナマハゲさんに注意されてから勉強もしてるはずなんですが‥‥」と弱腰になる主人。ナマハゲの言葉にじっと耳を傾けます

ナマハゲ「親父からもっと勉強するように注意さねばだめだど。それに嫁のミツコ、つい最近には‥‥」

こうして銘々の1年のよろしくない行いがすっかり明かされてしまうと、「もう1回探してみるが」とナマハゲは再び立ち上がり、3回四股を踏んで家中を再び大捜索。隠れている子どもたちやお嫁さんを引っ張り出すのです。

ナマハゲが遠巻きに眺めていた子どもたちのところへ!
ナマハゲが遠巻きに眺めていた子どもたちのところへ!
勉強はちゃんとしてるか、親の言うこと聞いてるか、と詰め寄ります
勉強はちゃんとしてるか、親の言うこと聞いてるか、と詰め寄ります
し、してます、と小声で返す少年
し、してます、と小声で返す少年

これからは親の言うことをちゃんと聞くか、勉強するか、とナマハゲに迫られて、家の子どもたちは泣きながらこの1年、勤勉でいることを誓うわけですね。

「ナマハゲさん、来年来るまでにしっかり直しておぎますので、まんず、この餅こで御免してくなんしぇ」

まぁまぁ‥‥とその場をとりなす主人
まぁまぁ‥‥とその場をとりなす主人

最後にはお餅やご祝儀をナマハゲに手渡して、主人がその場をおさめます。

ナマハゲも礼儀正しく受け取ります
ナマハゲも礼儀正しく受け取ります

「また子どもら言うごど聞がねがったら、あの真山の山さ向かって手っこ三つ叩け。すぐにおりて来るがらな」

最後にダメ押しの忠告
最後にダメ押しの忠告

「皆まめ (健康) でれよ。来年まだ来るがらな」

来年の再訪を約束してナマハゲが去っていきます。

次に会えるのは、来年の大晦日です。去ってしまうとなると、少し寂しいような‥‥
次に会えるのは、来年の大晦日です。去ってしまうとなると、少し寂しいような‥‥

去った後には、動き回って落ちた衣装のワラが。

ナマハゲの落し物
ナマハゲの落し物

20分ほどの、あっという間の時間でした。そして気になることがふつふつと湧いてきます!

ナマハゲって一体何者なんでしょうか?神主の高森さんに再びお話を伺います。

意外と知らないナマハゲの「本当」。一問一答インタビュー

——ナマハゲって一体何者なんでしょうか?

「その起源やいつ始まったかなども諸説あって確かでないのですが、日本には昔から、山の神・田の神という考え方があります。

春になると田んぼの守り神として山から里へ降りて来て、収穫が終わった頃に山へ帰って山の神になる、という伝承です」

高森さん

「ナマハゲは、そんな山の神さまが1年の終わりに山から里へ降りてくる、農耕周期の節目の行事だという考え方があります。

他にも、真山にこもる修行僧をあらわしたとか、半島に漂流した外国人の姿からきているなど、いろいろな起源説がありますが、稲ワラで編んだ衣装をまとっていたり、問答で今年の作柄のことをたずねたり、いずれにしても農耕との結びつきを強く感じますね」

ケデと呼ばれる衣装。その年に収穫した稲ワラで編んであります
ケデと呼ばれる衣装。その年に収穫した稲ワラで編んであります
ケデから落ちた稲ワラは翌日までそのままにしておくそう。体に巻くと病気が治る、子どもの頭に巻くと賢くなるなど、神様が残していった縁起物として大切に扱います
ケデから落ちた稲ワラは翌日までそのままにしておくそう。体に巻くと病気が治る、子どもの頭に巻くと賢くなるなど、神様が残していった縁起物として大切に扱います

——どんな人がナマハゲになれるんですか?

「大晦日の本番では、その集落の青年がお面をつけてナマハゲをつとめます。

元々は未婚の若い男性のみでしたが、今はそれだと人数が限られてしまうので、ゆるやかになっています。

とはいえ、人が足りないからと他の集落の人がやって来てナマハゲになる、ということはまずありません。あくまでもその集落の中で執り行われるんです」

——お面にツノがないこと以外に、真山のナマハゲの特徴はありますか?

真山神社の社務所には、真山地区のお面の見本が置かれていて、実際に被ってみることもできます
真山神社の社務所には、真山地区のお面の見本が置かれていて、実際に被ってみることもできます

「ナマハゲの人数も、実は地区によって異なります。真山では先立さんとナマハゲ2名の、3人一組。

出発の前の儀式と神社でのお祓いをすませて、午後6時ごろに出発して家々を回ります」

取材の日も雪がちらついていました。大晦日はもっと寒そう!
取材の日も雪がちらついていました。大晦日はもっと寒そう!

「所作にも古くからの色々な決まりごとがありますね。

例えば四股は、真山地区では7・5・3と日本の祝事に繋がる数字の組み合わせで踏みます。

踏み出す足も左右どちらからと決まっていて、間違えるとナマハゲが後で先輩に叱られてしまうんですよ。こうした所作も、地区によって異なります」

一つひとつの所作に意味があります
一つひとつの所作に意味があります

——お膳が豪勢でした。どんな献立なんですか?

ナマハゲ用のお膳

「これも集落ごとに異なりますが、まず尾頭付きの魚が2匹。それに豆煮やナマスなど、お正月のおせち料理ですね。

でも、真山地区ではしきたりがあって、ナマハゲはお膳には手をつけないんです。

お酒は必ず3杯勧められて、2杯をいただきます。3杯目は置いていって、お神酒としてその家が後でいただくんです」

高森さん

家ごとにお酒をどんどん重ねていくので、途中交代しながら行事が行われるそう。お酒が強くないとナマハゲも大変です。

お皿も地区によって3・5・7いずれかの枚数で出すなど決まりがあるそう。手をつけないなんて、なんだかもったいない気もします
お皿も地区によって3・5・7いずれかの枚数で出すなど決まりがあるそう。手をつけないなんて、なんだかもったいない気もします

——なぜお嫁さんや子どもたちは隠れているんでしょうか?

「あれは、ああやって隠れているお嫁さんや子どもさんに問答を聞かせているんですね。

こうしたらだめだとか、ちゃんとこうしなきゃとか自分で考えさせる時間にする。

その上で、最後には隠れているところを、主人がわざとナマハゲに教えるんです」

高森さん

「隠れていた者をナマハゲがこらしめようとすると、必ず主人がかばいます。そうするとナマハゲも、それ以上責めないんです。

その姿をみて子どもたちは親を尊敬し、家族の結束が生まれるんですね。

また、来たばかりのお嫁さんのところにはナマハゲは必ず向かいます。早く土地に慣れてもらえるようにという意味も込めているんですね」

なるほど。

家族同士だと言いづらいこと、聞き入れづらいこと。それが人に言われるとなぜだかすんなり耳を貸せること。どちらも確かにある、ある。

男鹿ではナマハゲが遠慮なく一家の間に立ち入ることで、一年の最後に主は大黒柱としての威厳を示し、家族はそれぞれに我が身を振り返って、すっきりと新しい年を迎えてきたわけですね。なんとよくできた仕組み。

今でこそ家族のあり方も様々ですが、農作業など家族一丸となって何かに取り組むためには、この効果は一層大きかっただろうと想像します。

一年最後の1日に、家族の一員としての自分を振り返ってみるというのはよい年越しかもしれないなと、わが身を省みてしみじみ。

「もうひとつ、地域の青年たちにとっては、幼いころ恐れていたナマハゲに自分がなることが、一人前として認められた証でもあるんですよ」

最後に高森さんはそんなお話も教えてくれました。

実際、ナマハゲになるって、どんな心持ちなのでしょう。あのお面や衣装も、自分たちで作っているのでしょうか。

ナマハゲのお面
ナマハゲの衣装、ケデ

ナマハゲ特集、まだ続きがあります。

次はナマハゲを30年来「作って」きた人50年来「なって」きた人のお話など。

どうぞお楽しみに!

「これでみなさんもお祓いしてもらったので、また1年先まで病気や怪我のないように、どうぞよいお年を」と解説員さん。この記事を読んだみなさんにも、ナマハゲのお福分けができていますように
「これでみなさんもお祓いしてもらったので、また1年先まで病気や怪我のないように、どうぞよいお年を」と解説員さん。この記事を読んだみなさんにも、ナマハゲのお福分けができていますように

<取材協力>
男鹿真山伝承館
秋田県男鹿市北浦真山字水喰沢97
0185-33-3033
http://www.namahage.ne.jp/~shinzanjinja/entry5.html

文:尾島可奈子
写真:船橋陽馬 (根子写真館)

*こちらは、2018年12月31日の記事を再編集して公開しました。

しめ飾りの種類をいくつ知っていますか?「べにや民芸店」で見るユニークな正月飾り

この時期になるとスーパーの店頭などで売られているのをよく目にするしめ飾り(注連飾り)。

神聖な場所を示すしめ縄に、稲穂や裏白(うらじろ)、だいだい、御幣(ごへい)などの縁起物を付けてつくられており、お正月に年神様を迎える準備のひとつとして飾ります。

このしめ飾り、地域や作り手さんによって特徴が異なるのをご存知でしょうか。

しめ飾り

縁起を担いで年神様をお迎えする目的は同じでも、その土地に伝承する物語が由来になっていたり、暮らしに馴染みの深い道具がモチーフになっていたり、形状は様々。

全国各地でバラエティ豊かなしめ飾りが今もつくられ続けています。

そんなしめ飾りを一堂に集めた展示販売会「日本各地のしめ飾り展」を毎年開催しているのが、東京・駒場にある「べにや民芸店」さん。

べにや民芸店
べにや民芸店
べにや民芸店
店内の様子

展示会開催中の同店にお伺いして、魅力溢れるしめ飾りの数々を見せていただきました。

べにや民芸店「しめ飾り」展
会場には、全国から集まったしめ飾りがびっしり

各地に残るしめ飾り

伊勢地方に伝わる「笑門飾り」
・三重県 伊勢地方に伝わる「笑門飾り」
笑門飾り

まずこちらは三重県伊勢地方の「笑門(しょうもん)」飾り。

昔、須佐之男命(スサノオノミコト)を助けたとされる「蘇民将来」の逸話に由来する飾りで、年神様をお迎えするほかに無病息災の意味も含まれているので、伊勢地方では一年中飾っておくそうです。

笑門飾り
実際にべにや民芸店さんで一年飾った状態のもの。経年変化も楽しめます

ユズリハ、裏白、柊、馬酔木など縁起の良い葉っぱがついています。

愛媛県西予市「宝結び」のしめ飾り
・愛媛県西予市「宝結び」のしめ飾り

続いては、愛媛県西予市でつくられる「宝結び」のしめ飾り。長寿・多幸などを願う吉祥文様「宝結び」を輪のなかに配したデザインは、つくり手である上甲清(じょうこう きよし)さんが着想したオリジナル。

黒米バージョンと白米バージョンの2種類がつくられています。

宝結び

ちなみに、このしめ飾りのように輪っかの中に文様をしっかり編むには高い技術が必要とのこと。

「鶴寿」。現在は作れる人がいない
「鶴寿」。現在は作れる人がいない

参考にと見せていただいたこちらは「鶴寿」と呼ばれるお飾りで、30年以上前に山口県の下関でつくられたのだそう。

文字通り、鶴と寿を表していますが、難易度が非常に高く、当時つくっていた職人さん以外には真似ができず、現代に至ってはつくれる人がいなくなってしまったといいます。

・秋田県「宝珠型」のしめ飾り
・秋田県「宝珠型」のしめ飾り
秋田県「宝珠型」のしめ飾り

秋田の「宝珠型」のしめ飾り。藁(わら)ではなくスゲという植物が使用されており、近くで見るとまた違った風合いを感じるお飾りです。

秋田県「宝珠型」のしめ飾り
近くで見ると質感の違いがわかる
島根県出雲地方の「鶴亀飾り」
・島根県出雲地方の「鶴亀飾り」

こちらは、鶴と亀がついていかにもおめでたい島根県・出雲地方のしめ飾り。このように長寿を意味するモチーフが使われることは非常に多くなります。

鳩・ハサミ・お椀。一風変わったモチーフのしめ飾りも

地方によって、横長だったり、縦長だったりと特徴があるしめ飾り。中には暮らしの道具などをモチーフにしたユニークなものも存在します。

京都「鳩」のしめ飾り
・京都「鳩」のしめ飾り

なにやら鳥のように見えるこちらは、「鳩」をかたどったしめ飾り。京都でつくられています。

べにや民芸店 店主の奥村良太さんいわく、「鶴はよく見ますが、鳩は珍しい」とのこと。よくよく見ると、胴体の部分の輪っかが二重になっていて、鳩の特徴を表しているそうです。

鳩のしめ飾り
胴体部分が二重の輪っかで表現されている
静岡県御殿場「ハサミ」型のしめ飾り
・静岡県御殿場「ハサミ」型のしめ飾り
静岡県御殿場「ハサミ」型のしめ飾り

二つのしめ縄がクロスしているように見える、静岡県 御殿場の「ハサミ」型しめ飾り。

御殿場には、ハサミを奉納する珍しい神社があり、それに由来しているのではと言われています。厄を断ち切る、邪心を摘み取るといった意味が込められているお飾りです。

長野県上田 お椀型のしめ飾り「おやす」
・長野県上田 お椀型のしめ飾り「おやす」
おやす

お椀のかたちをした「おやす」と呼ばれるしめ飾り。長野県 上田のもの。

かつては、中におせち料理などを入れてお供えしていたそう。現在は橙(だいだい)などを入れることもあるようです。

奇跡的に続いてきたしめ飾りの伝統

前回の東京オリンピックの年に創業して55年になる「べにや民芸店」では、30年以上も前からしめ飾りを扱ってきたそう。

「やはり、地方によって形が違う面白さがありました。なるべくなら地域に根付いたものがよいと考えていて、ここにあるのは伝統的なものが多いと思います」

と、奥村さん。

べにや民芸店 奥村良太さん
べにや民芸店 奥村良太さん

しめ飾りは、作り手さん自身もはっきりとした由来を知らないままに受け継いでいるケースが多いのだとか。

「それでもこれだけたくさんの種類が今日まで残っているのが不思議ですよね。

『鳩』の飾りを作っている方に『なんで鳩なんですか?』と聞いた時も、『ずっと作ってるから』としか答えてくれませんでした(笑)」

三重県伊賀地方「えびす馬」飾り
・三重県伊賀地方「えびす馬」飾り(写真中央)

中央に見えるのは、三重県 伊賀の「えびす馬」飾り。作り手さんは80台半ば。一昨年に一度引退されたものの、今年再び作ってくれたのだそうです。

奥村さんの知る限り、その方以外に作っている人はいないとのこと。

「えびす馬」に限らず作り手さんの高齢化が進み、伝統的な飾りを伝え続けていくのは難しい状況になっています。

一方、そのデザイン性の高さ・面白さが徐々に広まって、最近は若い方も来店するようになったとのこと。

しめ飾り

「輪飾りと呼ばれる小ぶりなものであれば、水周りや勝手口など家の中で気軽に飾ることができたりして人気です」

京都の輪飾り「ちょろ」
・京都の輪飾り「ちょろ」

玄関だけでなく、家の中の各部屋で飾るタイプであれば、気軽に導入できるかもしれません。そのほか、門柱や門松につけるもの、車のナンバープレートにつけるものも存在します。

しめ飾り
しめ飾り
ナンバープレートにつけるタイプのしめ飾り
ナンバープレートにつけるタイプのしめ飾り

ここまで、日本各地に残るしめ飾りをいくつか紹介してきました。

紹介できたのはほんの一部ですが、気になるものはあったでしょうか。好みのデザインを探したり、部屋のどこに置こうか考えてみたりすると、正月飾りが身近に感じるようになってきます。

また、自分の地元にはどんなタイプの飾りが残っているのか、改めて調べてみても面白いのではないかと思います。

職人がひとつひとつ手作りしているしめ飾り。同じ種類でも、実際に見比べてみると少しずつサイズや形状が異なっていて、選ぶのも楽しいはず。

べにや民芸店さんは、年末30日まで営業中。すでに売り切れてしまっているものもありますが、しめ飾りの多様性に触れられるよい機会です。是非一度、足を運んでみてください。

<取材協力>
べにや民芸店
http://beniyamingeiten.com/index.html

文:白石雄太
写真:カワベミサキ

「雪は天からの手紙」中谷宇吉郎 雪の科学館で氷の世界を体験

雪景色といえば有名なのは金沢の兼六園。雪吊りの松がたわわに雪を抱える景色はきらきらとまぶしさを感じます。

©金沢市
©金沢市

そういえば大人になると、雪を楽しむ機会は少ないかもしれません。もっと雪を味わうために、金沢から電車で約30分、加賀の片山津へ移動してみます。目的地は「中谷宇吉郎 雪の科学館」、行ってきます!

「雪は天から送られた手紙である」

——— 雪は天から送られた手紙である

この素敵な言葉を残したのは、加賀市片山津出身の中谷宇吉郎(なかや・うきちろう)(1900〜1962)。雪の結晶の美しさに魅せられ、世界で初めて人工的に雪の結晶を作り出すことに成功したという科学者です。

雪や氷に関する科学の分野をつぎつぎ開拓し、活躍の場はグリーンランドなど世界各地に広がったといいます。趣味も幅広く、絵をよく描き、随筆や映画作品を通じて科学の魅力をやさしく紹介しました。

「中谷宇吉郎 雪の科学館」は、そんな宇吉郎の人柄や研究の成果を、展示や映像だけでなく実験などを通じた体験で楽しむことができるというのです。

伺った日は、やはり雪!こちらがエントランスです。
伺った日は、やはり雪!こちらがエントランスです。
すっきりしたお天気の時は、こんな風に右後方に柴山潟と白山が見えるのだそう。©雪の科学館
すっきりしたお天気の時は、こんな風に右後方に柴山潟と白山が見えるのだそう。©雪の科学館

白山を望み、柴山潟に接するという環境のなかで、雪をイメージした六角塔3つを配置して設計されたというこちらの施設。(設計:磯崎新氏)。エントランスホールの天井を見上げると、なんと雪の結晶と同じ六角形!これは、雪づくしが楽しめそうな予感です。

天井までもが雪モチーフ。©雪の科学館
天井までもが雪モチーフ。©雪の科学館

まずは、宇吉郎の「ひととなり」ゾーンから。こちらでは、宇吉郎の生涯や人となり、科学、芸術、生活をはじめ、人や自然との出会いなどについて紹介しています。

宇吉郎が生前に使っていた品や当時の写真などが展示されているコーナー。
宇吉郎が生前に使っていた品や当時の写真などが展示されているコーナー。
親戚一同が特注し、学士院賞受賞の記念にと宇吉郎に贈った「雪の結晶 蒔絵文箱」。繊細な蒔絵が美しいです。
親戚一同が特注し、学士院賞受賞の記念にと宇吉郎に贈った「雪の結晶 蒔絵文箱」。繊細な蒔絵が美しいです。
展示では、宇吉郎の書いた随筆などからの一節が添えられています。趣あふれる詩のような言葉を紡ぐ宇吉郎は、ロマンチストだったのかもしれません。
展示では、宇吉郎の書いた随筆などからの一節が添えられています。趣あふれる詩のような言葉を紡ぐ宇吉郎は、ロマンチストだったのかもしれません。

「雪の結晶」に魅せられる

宇吉郎は、人工雪をつくる前には天然雪の研究をしていました。雪の結晶を顕微鏡で観察するところから始め、雪山に冬じゅうこもって3,000枚もの雪の結晶の写真を撮影したのだといいます。

宇吉郎が撮影した天然雪の結晶の乾板(ガラス板に乳剤を塗ったもの)。フィルム代わりに使われたそう。
宇吉郎が撮影した天然雪の結晶の乾板(ガラス板に乳剤を塗ったもの)。フィルム代わりに使われたそう。
こちらは1964年から1994年にかけて、のべ160日間も冬の山小屋にこもり、雪の結晶のカラー写真を撮影したという吉田六郎氏のもの。自然がつくる色あいと形に感動します。
こちらは1964年から1994年にかけて、のべ160日間も冬の山小屋にこもり、雪の結晶のカラー写真を撮影したという吉田六郎氏のもの。自然がつくる色あいと形に感動します。

宇吉郎が人工雪をつくって研究したという常時低温研究室の展示では、世界で初めて宇吉郎が人工雪の作製に成功した装置(レプリカ)を見ることができます。研究と言えど、「いろいろな種類の雪の結晶を勝手に作って見ることが一番楽しみなのである」と随筆の中で宇吉郎は語っています。

常時低温研究室では、部屋全体をマイナス10〜30℃、最低マイナス50℃にまで冷やし、極寒の中で雪の結晶を作っていたのだそう。
常時低温研究室では、部屋全体をマイナス10〜30℃、最低マイナス50℃にまで冷やし、極寒の中で雪の結晶を作っていたのだそう。
人工雪の製作装置をのぞくと、棒の先から伸びるウサギの毛の先に、雪の結晶が。当時はたくさん着込んで凍えながらの研究だったそう。すっかり宇吉郎の気分!
人工雪の製作装置をのぞくと、棒の先から伸びるウサギの毛の先に、雪の結晶が。当時はたくさん着込んで凍えながらの研究だったそう。すっかり宇吉郎の気分!

学芸員の石川さんに、宇吉郎が雪の結晶写真をまとめた実物のアルバムを見せていただきました。写真乾板に撮られた陰画は焼き付けされて、撮影順にアルバムに貼られ、通し番号がつけられたそう。天然雪のアルバムだけで12冊、人工雪の方は9冊に及びます。

一冊一冊、丁寧に分類されている宇吉郎の結晶写真。
一冊一冊、丁寧に分類されている宇吉郎の結晶写真。
こちらは、天然雪の結晶写真。一枚一枚データも書き添えられています。
こちらは、天然雪の結晶写真。一枚一枚データも書き添えられています。
こちらは人工雪の結晶。よく見ると、毛のようなものが見えますね。人工雪はウサギの毛を芯に成長するのだそう。
こちらは人工雪の結晶。よく見ると、毛のようなものが見えますね。人工雪はウサギの毛を芯に成長するのだそう。

温度や湿度などの状況でどんな形の結晶ができるのかを調べ、いろいろな結晶の形を分類したという宇吉郎。その過程は相当なものだったに違いありません。私たちが雪の結晶としてイメージするシンプルな六角形の雪の結晶は、水蒸気が少なめの時にできるもので、いろいろな形の結晶の中では、ほんの一部なのだそう。

続いては、雪と氷の実験です!

ダイヤモンドダストに氷のペンダント。雪と氷の実験を満喫!

私がひそかに楽しみにしていた雪と氷の実験!こちらではいろいろな実験観察を体験することができます。みなさんにはぜひ実際に体験していただきたいので、少しだけ様子をご紹介します。

氷のペンダント作り体験。光に透けてきれいで、溶けるのがもったいないです。子ども達にも人気です。
氷のペンダント作り体験。光に透けてきれいで、溶けるのがもったいないです。子ども達にも人気。
人工雪の観察では、毎日新しい雪の結晶を見ることができます。
人工雪の観察では、毎日新しい雪の結晶を見ることができます。
こちらは冷凍庫の中でダイヤモンドダストをつくる実験。空気中のチリがダイヤモンドダストの元になります。実眼で見ると、キラキラがふわふわ舞ってまるで小宇宙のよう!ほんとうに綺麗!
こちらは冷凍庫の中でダイヤモンドダストをつくる実験。空気中のチリがダイヤモンドダストの元になります。実眼で見ると、キラキラがふわふわ舞ってまるで小宇宙のよう!ほんとうに綺麗!
そのダイヤモンドダストを捕まえる実験。シャボン液を張った枠を冷凍庫に入れると、次々に結晶のような形が広がります。幻想的な瞬間です。
そのダイヤモンドダストを捕まえる実験。シャボン液を張った枠を冷凍庫に入れると、次々に結晶のような形が広がります。幻想的な瞬間です。

このほか、氷の中の美しい模様「チンダル像」を観察する実験など、さまざまな体験が待っています。館内のところどころで歓声が。みなさん楽しんでらっしゃるようです。

宇吉郎の海外での研究についての展示や、宇吉郎に関する映像が観られるなど盛りだくさんの「雪の科学館」。大人も子どもも、たっぷり楽しめる空間でした。

左から、学芸員の石川さん、施設長の角谷さん。ご案内ありがとうございました!
左から、学芸員の石川さん、施設長の角谷さん。ご案内ありがとうございました!
ミュージアムショップで購入した、宇吉郎の一筆箋、雪の結晶ポストカードとシール。袋もかわいい雪の結晶です。
ミュージアムショップで購入した、宇吉郎の一筆箋、雪の結晶ポストカードとシール。袋もかわいい雪の結晶です。

雪を満喫したら、ひと休み。併設のティールーム「冬の華」からは、柴山潟を一望できる絶景を望むことができます。この日はあいにくの曇天でしたが、水面にはたくさんの水鳥たちが羽を休めていました。

手前に見える中庭に敷き詰められた岩は、宇吉郎が亡くなる前に滞在していたグリーンランドから運んできたもの。風に舞う人工霧が楽しめるという、霧の芸術家・中谷芙二子さん(宇吉郎の次女)の作品。
手前に見える中庭に敷き詰められた岩は、宇吉郎が亡くなる前に滞在していたグリーンランドから運んできたもの。風に舞う人工霧が楽しめるという、霧の芸術家・中谷芙二子さん(宇吉郎の次女)の作品。
ババロアとコーヒーのセットをいただきました。添えられたクッキーは雪の結晶型!
ババロアとコーヒーのセットをいただきました。添えられたクッキーは雪の結晶型!

柴山潟に降る雪を眺めながら、学芸員の石川さんが教えてくれたお話を思い出していました。

雪の結晶は、高い空の温度や湿度によりさまざまな形をつくります。「空から降ってきた雪の結晶を地上で受けとってみると、結晶が空の様子を教えてくれるようだ」。研究中、そんな風に感じた宇吉郎は『雪は天から送られた手紙である』という言葉をのこしたのだそうです。

片山津のこの地で生まれた中谷宇吉郎さん。大人になってからは東京や北海道、世界各地で活躍しましたが、その根っこにあったものはやはり、小さい頃に慣れ親しんだ片山津の雪景色だったのではないでしょうか。片山津の雪と「中谷宇吉郎 雪の科学館」。みなさんもぜひ訪れてみてください。きっと、素敵な雪に出会えます。

 

中谷宇吉郎 雪の科学館
石川県加賀市潮津町イ106番地
0761−75−3323
http://kagashi-ss.co.jp/yuki-mus/yuki_home

文・写真:杉浦葉子

この記事は2017年2月7日公開の記事を、再編集して掲載しました。

【わたしの好きなもの】割烹着

肩こりなし、袖まくりなしの日本のエプロン「割烹着」

割烹着って、若い世代では昔の人が着ていたものと思う人もいるかもしれないですね。
エプロンも割烹着も、食事を作るときに「さあ、やるぞ!」と思わせてくれる
スイッチを入れてくれるものだと思っています。
じゃあ、なぜエプロンではなくて割烹着?

私は肩こりがひどいので、エプロンの紐がかかっているだけで、なんだか気になるんです。。
そして、割烹着のいいところは袖まですっぽり覆うので、服の汚れを気にせず油ものや水仕事をできること。
さらに何度も袖をまくりあげては、落ちてきてを繰り返す、あの煩わしさからの開放!

デザインも着物から洋服に変わった現代に合わせて、余裕をもって着ることができるけれど、スッキリと見える身幅になっています。襟ぐりもボートネック風になっていて、チュニックを着ているような感覚になります。
ポケットは、両サイドに付いているから利き手を選ばず使えますし、
レシピを調べるのに使っていたスマホも、洗い物のときにはサッとポケットにしまうことができて、無いよりあった方が絶対便利!ちょっと置きができない台所では意外と重宝しています。

<掲載商品>
割烹着 ロング丈
割烹着 ショート丈
割烹着 ショート丈 縞

人気再燃の「ベーゴマ」。遊び方から造り方まで、日本唯一のメーカーに聞く

お正月の代表的な遊びといえばコマまわしがすぐに思い浮かぶ。

最近は、鉄のかたまりからつくられた存在感たっぷりの「ベーゴマ」が再び注目されているらしい。埼玉県・川口市でベーゴマを専門に手がける日三鋳造所(にっさんちゅうぞうしょ)を訪ね、ベーゴマが製造される工程や、初心者が楽しく遊べるコツを教わった。

独特の形状が記憶に残る「ベーゴマ」
独特の形状が記憶に残る「ベーゴマ」

いまも“ベーゴマ専門”の看板を掲げ続ける日三鋳造所

つけもの樽やバケツの上にシートを被せた「床」の上で、鉄製の心棒のないコマをぶつけ合う。相手のコマをはじき出せば勝負あり。ベーゴマ遊びはルールが極めてシンプルだからこそ、子どもから大人まで夢中になれる。

ベーゴマ

平安時代に京都の周辺でバイ貝に砂や粘土を詰めて、子どもがひもで回したことがベーゴマの起源とも言われている。やがて同じ遊びが関東に伝わり、“バイゴマ”から“ベーゴマ”になまったのだとか。

筆者は両親ともに東北地方の出身なので、小学生の頃に関東地方に引越してきて初めて、ベーゴマで遊ぶ同級生たちを目の当たりにした。一応回し方を教わってみたものの、上達する前にプラモデルやテレビゲームに心移りしたことを覚えている。

ベーゴマ
日三鋳造所の事務所には貴重なベーゴマも展示されている

日三鋳造所は、昭和から平成の時代を超えて、今もベーゴマを専門につくり続ける数少ないエキスパートだ。かつては鋳造業者が本業のかたわらにつくることも珍しくなかったが、かかる手間を考えると採算が合わないため、徐々に手がける場所が少なくなった。

社長の辻井俊一郎さんによると、現在もベーゴマの製造・販売を続けている会社は全国でも数カ所を残すだけだそう。中でもベーゴマを専業にしているのは唯一、日三鋳造所だけとなっている。

日三鋳造所 代表取締役の辻井俊一郎さん
日三鋳造所 代表取締役の辻井俊一郎さん

そもそも川口が鋳物(いもの)の街として繁栄してきたのは、街沿いを流れる荒川周辺で、鉄を流し込む「砂型」に使うための良い砂が採れたことに由来するそうだ。

街には今も鋳造工場が残っているが、その多くは賑やかな駅周辺から少し離れた場所にある。鋳造所ではキューポラと呼ばれる溶解炉を使って高熱で鉄を溶かしながら作業をおこなうため、蒸気や臭いが発生して周辺に漂う。

埼玉県内で最も東京に近い街として注目される川口市内に住居が増えてくると、次第に鋳物工場に苦情が寄せられるようになり、多くの工場が閉鎖や移動を余儀なくされた。

実は日三鋳造所も一度は看板を下ろすことを決め、そのタイミングで自社工場も閉鎖している。

日三鋳造所
かつての工場跡には、使われなくなった鋳造設備(こしき炉)を展示している

しかし、辻井さんを思いとどまらせたのが、ベーゴマを愛するファンから寄せられた数々の励ましの便り。中には、ベーゴマづくりを続けて欲しいと、自分のお小遣いの100円玉を手紙に貼って送ってきた小学生もいたそうだ。

現在、古くからのパートナーである河村鋳造所に委託し、ベーゴマの製造を続けている。

ひもを巻くコツをつかめればベーゴマが楽しくなってくる

ベーゴマは初心者には少しとっつきにくいところがある遊びだ。心棒のないコマにひもを巻き付けられるようになるまでが最初の関門。そこから自分でコマが回せるようになるまでのハードルがやや高い。

「だからこそコマの回し方を教える人の存在が大事なんです」と語るのは日三鋳造所の中島さんだ。

日三鋳造所の“ベーゴマ伝道師” 中島茂芳さん
日三鋳造所の“ベーゴマ伝道師” 中島茂芳さん
ひもをしっかり巻けるようになるまでが少し難しい
ひもをしっかり巻けるようになるまでが少し難しい
ベーゴマ
ベーゴマ
説明書きを見ても難しい。人に教わるのが確実だ

中島さんは広告業界から現職に転じた異色のキャリアの持ち主。社長の辻井さんから誘いを受けて同社の一員になり、現在はベーゴマへの愛着が高じて、“伝道師”として全国津々浦々に飛び回りながらベーゴマの遊び方を伝えている。

中島さんのMyベーゴマ
中島さんのMyベーゴマ。いつでもその魅力を伝えられるように、常にポケットに入れて持ち歩いている

中島さんは「大人も子供も、年齢や男女の区別なく平等に遊べるところがベーゴマのいいところ。勝負を始めてみるまでは、どちらが勝つかわかりません」と楽しそうに話す。

実力者になると、狭い空間でも見事に回せるようになる
実力者になると、狭い空間でも見事に回せるようになる

最後には「運」をどれだけ味方につけられるかも大きいというが、相手のコマをはじき出すためのセオリーをひとつ挙げるとすれば、同じ大きさでもなるべく重いコマを勢いよく回すことがある。

昭和の時代、プロ野球選手の名前を冠した「野球シリーズ」のベーゴマが発売され、当時の子どもたちにもてはやされた。天面には人気選手の名前が刻まれる。

名前の画数が多いと文字が占める割合が高くなり、その分だけ削り取られる部分が減る。つまり「長嶋」の方が「王」よりも重いベーゴマになるため、子どもたちに人気だったのだと辻井さんが面白いエピソードを語ってくれた。

野球選手シリーズ
野球選手シリーズ

コマ自体のメンテナンスも勝負の鍵をにぎっているそうで、たとえば、底面をヤスリで磨くとよく回る「強いコマ」になる。

ベーゴマの種類は背の高さで「タカ」と「ペチャ」の2種類に大別される。相手が回したコマの下に潜り込むと弾き飛ばせる確率が高くなるので、コマの厚みは薄いほうが有利と言われている。ただし薄いコマのほうが回すのも難しい。

実は種類がこまかく分かれている
実は種類がこまかく分かれている

ひもの巻き方には俗に言う「女巻き」と「男巻き」の違いがあり、また地方によって「関西巻き」などスタイルも変わる。巻き方による必勝法は存在しないそうだが、最初はコマにひもを巻き付けるだけでも一苦労だ。

「イベントの参加者にベーゴマを初めて体験する方がいた場合、回せばよい状態までひもを巻いてお渡ししています。最初にコマを回す楽しさを実感してもらえると、次第に自力でひもが上手に巻けるようになってきます」

日三鋳造所 中島さん
中島さんは、地元から上京する際にもお気に入りのベーゴマを持ってきたという生粋のベーゴマ好き

教え方も少しずつ改良してきたのだと、辻井さんと中島さんが口を揃える。

1400度で溶かした「鉄」からベーゴマがつくられる

日三鋳造所が企画・デザインしたベーゴマは、週に1回のペースで鋳造されている。ベーゴマがつくられるおおまかな過程を紹介しよう。

鋳造を請け負っている、河村鋳造所
鋳造を請け負っている、河村鋳造所

最初にベーゴマのデザインを象ったアルミ製の父型の上下面に砂を敷き詰めて、ベーゴマの砂型をつくる。砂の中に小石などが混ざらないよう、ふるいにかけながら砂を乗せていく。小石やゴミが混入してしまうとベーゴマの絵柄に影響が及ぶからだ。

ベーゴマの父型。これを砂で上下から挟んで「砂型」をつくる
ベーゴマの父型。これを砂で上下から挟んで「砂型」をつくる

砂型は特殊な圧縮機械を使ってがっちりと固める。上下の砂型が完成したら、中に挟んでいたアルミ板の父型を抜き出す。そして上下がズレないように砂型を重ね合わせると、そこにベーゴマの母型になる空間ができる。

ここに溶けた鋳鉄(ちゅうてつ)を流し込む。川口の鋳造所では昔から溶けた鋳鉄を「ゆ」と呼ぶのだと、鋳造所で働く職人の方が教えてくれた。

ベーゴマ
工場内に並ぶ「砂型」。左手前に並んでいる、穴がひとつのものが、ベーゴマの型

鋳造を行う日は朝の4時からキューポラに火を入れて熱しておく。午前中に1,400度ぐらいまで温度を上げたら、午後からは工場の床にびっしりと敷き詰められた大小様々の砂型に、溶かした鉄を一気に流し込んでいく。

中央に見えるのが、キューポラ
中央に見えるのが、キューポラ。溶けた鉄を流し始めると基本的に止めることはできない
ガス抜きのために火をつけながら流し込んでいく
ガス抜きのために火をつけながら流し込んでいく

河村鋳造所では大型工作機のエンジンに使うパーツからベーゴマまで様々な鋳物を手がけている。大きな工業部品は硬い鉄の方が材料として好ましいため最初に着手する。続いてより柔らかくなった鉄をベーゴマの型に流し込む。

流し込むスピードが早すぎると型がずれ、遅すぎてもムラになる
流し込むスピードが速すぎると型がずれ、遅すぎてもムラになる

ベーゴマは砂型が小さいので、溶けた鉄が入れやすいように小さな手桶に移し替えて流し込む。小さなといっても、その重さは20kgを超える。溶けた鉄を職人たちが実に手際よく砂型に流し込んでいく。経験と勘、そして体力と集中力が求められる。

寒い冬には鉄が固まりやすいため、砂型に開けた小さな穴に「速く・正確に」溶けた鉄を流し込まねばならない。

ベーゴマ
ベーゴマ

キューポラから時折激しく火花が散って、あたり一面には溶けた鉄から生まれた蒸気が漂う。荒々しい光景の現場で、職人たちは黙々と休まずに手を動かし続ける。大きな砂型には3〜4人がかりで連携しながら溶けた鉄を流し込む。

ベーゴマ

息をぴたりと合わせた所作は驚くほどに正確で迷いがない。職人たちは真剣な目で作業に集中しながら、時には笑顔で冗談も交わし合う。60代から70代の職人の方々が中心という現場にはまだ、昭和の日本の熱気がそのまま残っている。

ベーゴマ

ひたむきに働く彼らの手が、夢中でベーゴマに興じる日本の子どもたちの笑顔を長年に渡って支え続けてきた。

ベーゴマ

10分から15分も待たないうちに、最初に鉄を流し込んだ砂型を職人たちが次々と壊していく。砂型の中で鉄はすぐに冷めて凝固するので、あとは砂を避けて空気に晒しながら冷まして形を安定させる。

ベーゴマ
ベーゴマ

1つの砂型につきベーゴマは6個・9列、合計54個が連なった状態で製造される。この日は20台前後の砂型から新しいベーゴマがつくられた。

ベーゴマ
つながった状態で取り出されるベーゴマ

日三鋳造所に送り届けられたベーゴマはバレルと呼ばれる機械に入れて1時間前後ぐるぐると回し続けて面取りをおこなう。最後にこの工程を加えることでエッジのざらつきが取れて、きれいなベーゴマの形に仕上がる。

ベーゴマの熱が再び高まっている

いま、ベーゴマのイベントが全国で増えてきている。毎年10月の最終日曜日には、「全国ベーゴマ選手権大会」が川口市で開催されており日三鋳造所も協力している。

また、中島さんは、日ごろから全国の児童館やショッピングセンターなど、子供たちが多く集まる場所にも出かけてイベントやワークショップを通じて“むかし遊び”の醍醐味を多くの人々に伝えている。

「今までにベーゴマで遊んだことのない小さな子どもたちが、初めてベーゴマを回せるようになった時に見せる笑顔に触れると充実感がわいてきます」と、中島さん。

日三鋳造所 中島さん
手のひらでも簡単にまわす
手のひらでも簡単にまわす中島さん

同社がつくったベーゴマは全国の雑貨屋、大型スーパーの玩具店から縁日の出店まで様々な場所で取り扱われている。辻井さんによると、人気の漫画やアニメのキャラクターとコラボしたオリジナルベーゴマも受注が増えているそうだ。天面にキャラクターがプリントされたカラフルな最新のベーゴマもある。

「令和」記念のベーゴマ
「令和」記念のベーゴマ
ベーゴマ

「むかしは、夏は花火、冬はベーゴマで遊ぶのが相場だったそうですが、今は季節に関係なく様々なイベントが開催されています。私も方々に飛び回ってベーゴマの遊び方を教えています」と語る中島さんは、このインタビューが終わった後もまたすぐに“ベーゴマの伝道師”として都内の学童保育の現場に出かけていった。

河村鋳造所の従業員も高齢の方々が占めるようになり、その仕事の過酷さゆえに後継者も育ちにくいのだという。鉄という素材が持つ力強さをそのまま封じ込めてしまうような、むかしながらの手法でつくられたベーゴマを私たちが手にできる機会が長く続いてほしいと思う。

ベーゴマ

今回取材スタッフ一同も日三鋳造所にてベーゴマを体験させてもらった。筆者はあまりにも久しぶりに手にしたため、残念ながらうまく回せなかったが、中島さんが勢いよく回したベーゴマが火花を散らす様子を目の当たりにして歓声をあげたり、大人気もなく盛り上がってしまった。

ベーゴマ

令和になって最初の冬休みがやってくる。

小さい頃、ひもが上手く巻けずに断念してしまった人も、今まで一度も触ったことがないという人も、次の正月には昔懐かしいベーゴマ遊びに挑戦してみてもらいたい。また、近所でベーゴマをまわせるイベントが開催されていたら思い切って参加してみてはいかがだろうか。

ベーゴマ
ベーゴマが好きでたまらないお二人

<取材協力>
日三鋳造所 http://www.beigoma.com/
河村鋳造所

文:山本敦
写真:阿部高之

タオルの買い替えは12月が吉。正しい選び方と長持ちのコツ

タオルの買い替えに12月をおすすめする理由

こんにちは。細萱久美です。

12月の旧暦は「師走」ですが、師走の語源は、僧(師)がお経をあげるために東西を馳せる(走る)月、というのが有力な説かと思います。

新年を迎える準備も昔ほど複雑ではなくなりましたが、それでも大掃除、年賀状の準備、お年賀の準備などで、何かと忙しない月なのは現代も変わりません。

かつては、暮れの内に新調してもらった和服を元旦に着て、まずは家族揃って祖先神である「歳神様」をお迎えし、その後神社に参拝に行くのが一般的だったそうです。現代ではそのような習慣のある家も少ないと思いますが、新年に新しいものを身に付けたり、新年を区切りに古くなったものを新調すると、清々しく過ごせる気がします。

例えば、下着や寝具の状態をチェックしたり、歯ブラシやタオルなどの消耗品は、買い替え時として分かりやすいタイミングかもしれません。

相性のいいタオルの選び方。今治タオルも参考に

今回はその中から、タオルの選び方やお手入れのちょっとしたコツをお話したいと思います。素材や織り、デザインなど多種多様なタオルがあるので、選ぶ際は悩んでしまいますね。

ただ、使い心地が好みに合わないと、毎日のことなので結構気にはなります。すぐに使わなくなると勿体ないので、相性の良いタオルを見つけたいものです。

肌触り、吸水速乾に加え、重量感やボリュームもチェックポイント。そして品質の良さは耐久性にもつながるので、多少価格の高いタオルでも、結局割安になるかもしれません。品質面では、ジャパンブランドとなった今治タオルは、選ぶ際の一つの目安になるかと思います。

今治タオルは独自の品質基準を設けて、合格したものだけがブランドとして認められています。

デザインは、飽きずに使うことや、バスルームが「見せる収納」の場合は特に、ベーシックな色無地がおすすめです。潔い白も素敵ですし、ベージュや薄いブルーなど少し色があっても、気軽さが加わり使いやすいと思います。

タオルのお手入れは、柔軟剤の使い方にもひと工夫

お手入れについてですが、お気に入りのタオルをより気持ちよく、より長く使うためのコツはご存知でしょうか?世間ではちょっとした柔軟剤ブームですが、タオルには頻繁な柔軟剤使用は不要です。逆に吸水性が落ち、毛羽が出やすくなったりするのでご注意を。

ただし、使い込んでへたってきた場合は、少量の柔軟剤使いは有効です。あとは、毛羽立ちやパイルの引っ掛かりを防ぐためにも洗濯ネットに入れてお洗濯してください。

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あくまでも私の好みにはなりますが、片面パイル片面ガーゼのタオルを好んで長年使っています。重厚感のあるパイルタオルや、逆にふわふわのタオルよりも、軽やかさと多少のしっかり感を兼ね備えたタオルが使いやすく感じます。

比較的乾きも早いので、梅雨時期でも臭いが気になりにくかったり、季節によって使う面を変えられたり、収納にもさほどかさ張らないなど、機能的なメリットも多いタオルです。

タオルは日々の生活に欠かせないので、肌に合う一枚と出会えるとちょっとした幸せすら感じさせてくれる、師走の暮らしの道具です。

<掲載商品>
パイルガーゼタオル

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立

東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

Instagram

文・写真:細萱久美

※こちらは、2016年11月22日の記事を再編集して公開しました。