栃木県益子にある「よしざわ窯」は代表作「レモン皿」のような、見た目のかわいらしいデザインが魅力。シンプルでアンティークのようなモノから、花や鳥、動物、植物をデザインしたものなど、さまざまな凝った食器をネットショップで販売しています。
リーズナブルな価格で、色合いが鮮やかなことから多くの女性ファンを惹きつけました。Instagramを中心に人気に火がつき、ただ今売り切れが続出中です。
今回はそんな「よしざわ窯」へお邪魔して、お話を伺ってまいりました。「よしざわ窯」の人気の秘密に迫ってみようと思います。
「なんでもやってみよう」とネットショップからスタート!
もともとサラリーマンだった吉澤さん。益子焼の窯元だった両親は個人で器を制作し、益子町で開かれる陶器市などで販売していたのですが、2006年そろそろ引退というタイミングで引き継ぐことになりました。
奥さんの出産を機に2003年に開設したネットショップ「on the table」を一緒に運営する形で試行錯誤が始まります。「器の制作からネットショップの運営までなんでもやってみよう」という気持ちでした。
創業メンバーで現在もデザインを担当する成良恵奈さんなど、制作者やホームページを運営する人など分担制ができあがり、今に至ります。
「そこに成良がいたのが後々大きかったですね。デザインをきちっとやってくれる人がいたから、いろいろなことが自由にできました。どんなアイデアでも、きちんとデザインされているお皿ができるようになったのが大きい」と吉澤さんは言います。
成良さんがいたことで自由にできた。いったいどういうことでしょうか。
社員のアイデアから生まれた鳥鉢
成良さんが全てのデザインを担当しているのかというと、どうやら違うようです。最初に変わったデザインの器を考えついたのはパートタイムで仕事をするの事務職の女性だったそうで‥‥。
「”鳥鉢”ということで鳥の形をした”取り鉢”を作ったら、というアイデアが出たんです。それを成良がイラストに起こしてくれた。うちの器はそんなふうに、誰かのアイデアをバトンリレーするように作っていくことが多いですね」
アイデア自体は「よしざわ窯」で働いている皆さんから生み出されます。それを取りまとめるのは成良さんを含めた女性3人のデザイン部です。企画会議のようなものはありません。アイデアの元となる言葉や写真、イラストから図面に起こして、形にしていきます。
吉澤さんは成良さんと保育園から高校までずっと一緒だったそうです。成良さんは造形作家としても活動しており、個展も開いています。ただ、デザインの勉強をしていたわけではなく、全部独学。ほかの2人は主婦のデザイナーです。彼女たちは石膏の型作りから見様見真似で学びながら、今までやってきたそうです。
「みんなで『こういうのいいよね』『ああいうのいいよね』と言いながら進めていきます。時には成形段階で変えてしまうこともあります。その辺はカチッと決めていません。合理的に進めているわけではなく、途中で感覚的に制作を止める場合もあります」
さらに吉澤さんは「言語的なアイデア、もしくはアイデアの欠片みたいなものをかなり無責任に投げっぱなし。でも、デザイン部の3人がちゃんと器として成り立つ、デザインとして成り立つものにしてくれます。実際に形にしていくなかでの修正能力は相当高いですね。3人を信頼しています」と語ります。
女性スタッフが3分の2!使う人の目線で生み出される器の魅力
よしざわ窯で働くスタッフの3分の2は女性です。フットワーク軽く、アイデアがあがった時点で「まずはやってみよう」と動き始めます。
「家事の中でも、“毎日の料理”は重い課題です。お客さまから『そこそこな料理が器で助けられました』という声をいただき、勇気づけられました。それはうちの妻もよく言っています。それくらい器には日々を助けるパワーがある」
スタッフは自身の毎日の家事の中から、「こんな器があったらいいのに」を商品のアイデアにしていくことが多いそう。使う人の立場に立って考え抜かれた器が使う人に選ばれる。よくよく考えてみれば、これは必然の結果なんですね。
料理を載せてこその器
よしざわ窯のネットショップ「on the table」では“器は食卓で使ってこそ”という意味合いが込められています。よしざわ窯の器は料理と常にセット。使うということをかなり意識して作っているそうです。
「料理のアイデアから器に落とし込むというケースもありますが、後からどんな料理を載せられるのかを考えることもあります。そのへんもかなり曖昧。一生懸命いろんなものを載せてみて、これは何に使ったらいいのか。ネットショップでは必ず、使い方と一緒に提案しています」
カレーを食べるときにいいのか。サラダを食べるときにいいのか。はたまた麺類を食べるときにちょうどいい深さなのか。皆で話し合います。さらに「よしざわ窯」ではホームページやSNSで、自社の器にどんな料理を載せたらいいのか、提案もしています。最近では、ホームページを作るための写真スタジオも新設したといいます。
益子の土があったからこそ、このデザインが出来上がった。
さて、工場を見学させていただきましょう。
よしざわ窯では石膏型の上に粘土の生地を当てる、たたら作りで器を製作しています。ろくろでは丸いものしか作ることができませんが、たたら作りはさまざまな形の器を作ることができるので自由度が高いのが特徴。よしざわ窯のような凝ったつくりの器に適した作り方といえます。
ちなみに、益子の土は砂気と鉄分が多いそうです。そのため、やや厚手でごつごつした質感を持っており、出来上がりはボテッとした感じのものになります。「これがたたら作りと相性が良かった」と吉澤さんは言います。益子という土地だからこそ成り立つデザインでもあったわけです。
アイデアはざっくりと。生産管理はきっちりと。
製作は全て分担制。それぞれ1日に何個作ったかという表があるそうです。アイデアを考えるときは「ざっくり」でも、正確さやスピード、生産管理に関しては効率性を追い求めています。
窯の部屋に行くと、素焼きや本焼きを待つ器が大量の台車に乗せられています。地面にはレールのようなものが引かれており、焼きあがったらいつでも入れ替えられるようになっています。
「器の価格をリーズナブルにするために、どれだけロスを減らすか、どれだけ作った商品を無駄なく、寝ている状態なく窯から出して商品化できるか。こだわってきました」と吉澤さん。
よしざわ窯はネットショップを中心に販売をしています。決済方法は先払いで、お客さんからお金をいただいて、出来上がったものをすぐに発送する仕組み。売り切れの場合も、メールマガジンに登録していれば再入荷情報がお知らせで届く。そうやって、できるだけ在庫ロスや売り逃がしを防いでいるのです。
ネットショップだからできたこと
さかのぼること2000年代。器が売れなくなった時期がありました。ここ、益子にはたくさんの販売店がありますが、お店の棚はどこもすでに腕利きの陶芸家や工房の作品がひしめき合っている状態。売り先をどうしようか悩んでいるときに吉澤さんが出会ったのがネットショップでした。
「個人のお客さまへ、ギャラリーや百貨店で取り扱われている高級な器だけでなく、私たちが作っているようなもうちょっと安くて手作り感のあるものをお届けしたかったんです。
これまで多くのお客さんに向き合うには、東京へ行くしかなかった。でも、ネットであれば田舎からでも発信できます。誰にお礼を言ったらいいか、わからないですけどね(笑)」
インターネットやSNSを積極的に活用することで、よしざわ窯のかわいらしい器たちを求める人々の心に刺さり、人気の窯元となりました。
使う人の実感を元にスタッフがアイデアを生み出し、デザイン部が取りまとめる。作ったものはしっかりと在庫・流通管理をしてお客さんに届ける。今の時代に合わせるようにフレキシブルな体制を作り上げていったのです。
スタッフたちが力を合わせて一つの「作品」を仕上げていく。だからこそ、温かみのある器が提供できているのでしょう。
<取材協力>
よしざわ窯
栃木県芳賀郡益子町益子3546
0285-77-0880
文:梶原誠司
写真:長谷川賢人(1、4枚目はよしざわ窯ご提供)
*こちらは、2019年5月3日の記事を再編集して公開いたしました。