「能面」の意味と種類。笑ったり泣いたり、実は表情豊かな能面の秘密

「能面」の役割とは

能の舞台で使われる「能面」。その役割と、実は豊かな表情の秘密に迫りました。

まずは「能」について簡単に触れておきましょう。

能は、能面をかけて演じる一種の仮面劇です。人ならざるものを演じる主役 (「シテ」といいます) は多くの場合、能面を身につけて登場します。

物語の冒頭に登場するワキと呼ばれる脇役によって、観客はシテのいる異界へと誘われる形で能楽の鑑賞が始まります。能のストーリーはシンプルで象徴的。話の筋を追うというよりは、物語の主題となる「悲しみ」などの感情や、クライマックスに向かって演じられる舞の「高揚感」そのものを味わいます。

※詳しくは「古典芸能入門 『能』の世界を覗いてみる 」をご覧ください。

能ではなぜ仮面をつけるのか?

主役のシテは神様や鬼、幽霊など異界の者であることが多く、私たち観客はシテを通じて「あちら側の世界」を垣間見ることになります。

こちら側とあちら側 (異界) を繋ぐ役割となるシテは、舞台上で生身の人間としてではなく、異界の者になりきることが求められます。連載の「能の回」でお話を伺った能楽師の山井綱雄 (やまい つなお) さんは「能舞台に立つにはトランスフォーメンション (変身) が必要です」とおっしゃっていました。

装束を身にまとい、全ての支度が済んだ演者は、「鏡の間」と呼ばれる舞台のすぐ奥に位置する特別な部屋 (揚幕1枚を隔てるだけで舞台と地続きの空間は、演者にとって舞台の一部。演者が精神を統一する空間です) で、鏡の前で厳かに能面を身につけます。

ちなみに、能面を身につけることは「つける」ではなく、「かける」と表現されます。魔法にかけられるような「変身」「憑依」の意味合いが感じられますね。

能面は、面 (オモテ) とも呼ばれますが、オモテに見せる顔をつけることで、演者はそのウラの暗闇の中に姿を隠すのだそうです。

日常生活において、お化粧をすることでシャキっと気合いが入り、モードが切り替わったり、振る舞いに差が表れたりといった経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。さっきまで部屋でダラダラとしていた自分はどこへやら。素顔と異なる顔で覆うだけで別の人格が姿を表すというのはなんとも不思議です。

能の世界でも、面をつけることは見た目としての変身に加えて、演者本人が内面から変身するための重要な役割を担っているというのにも頷けます。

若い女性の面「小面 (こおもて) 」
若い女性の面「小面 (こおもて) 」 写真提供:新井達矢

能面は無表情ではない?

ところで、「能面のような顔」という表現は、無表情で何を考えているかわからない様子を指しますが、能面は本当に無表情なのでしょうか。たしかに、展示されている能面を眺めると、女面などは表情が読み取りにくく感じます。

しかし不思議なことに、物理的には変わることのないはずの硬い木でできた能面を通して、舞台上で私たちは豊かな表情を見つけることができるのです。

例えば、一般的に怖いお面のイメージを持たれることの多い「般若 (はんにゃ) 」からは、怒りだけでなく、鬼になってしまった女性の悲しみや苦しみが感じられ、せつなくなります。

女性の怨霊を表現する面「般若」
女性の怨霊を表現する面「般若」

「小面」などの無表情に見える女性面も、悲しみのあまり涙を流しているようにすら見えたり、舞がクライマックスに向かう部分で恍惚とした表情が浮かび上がったり。様々な表情の移り変わりに驚かされます。

「曖昧な表情」「非対称な作り」に秘密。能面にも「利き顔」?

演者によって命が吹き込まれること、観客が投影する心情による効果は大きいですが、実は、能面の「曖昧な表情」や「非対称な作り」にも秘密があります。

この「曖昧な表情」は「中間表情」などと呼ばれることもありますが、おそらくはあらゆる「表情の元」を少しずつ備えているのではないかと言われています。これが演者の表現と結びつくことで多様な表情が浮かび上がります。

能面は左右が「非対称な作り」になっています。その違いは「陰と陽」とも呼ばれます。私たち生身の人間の顔も左右非対称で、カメラに向ける「利き顔」とも言うべき好きな角度がある方もいらっしゃいますね。

左右非対称に作られている女面。左右で目尻や口角の向きなど見比べてみてください。あからさまな違いはないですが、このわずかな差によって多様な表情が浮かび上がります。 写真提供:新井達矢
左右非対称に作られている女面。左右で目尻や口角の向きなど見比べてみてください。あからさまな違いはないですが、このわずかな差によって多様な表情が浮かび上がります。 写真提供:新井達矢

加えて、顔の上下の動きでも表情は変化します。能では、やや仰向けにすると高揚した様子(「照ル」といいます)、少しうつむくと陰りのある様子 (「曇ル」といいます) が表現されます。ほんの少しの角度の違いで、喜びや幸福感、いじらしさや悲しみに暮れる様子、恥じらいや絶望など様々な表情を感じさせるのです。

在原業平の顔を表したといわれるアンニュイなハンサム面「中将 (ちゅうじょう) 」
在原業平の顔を表したといわれるアンニュイなハンサム面「中将 (ちゅうじょう) 」
面をわずかに傾けるだけでも表情が変化します
面をわずかに傾けるだけでも表情が変化します。少し険しい表情?

無表情に見える能面に何か不気味さや怖さを感じている方は、ぜひ一度、能舞台の上で能楽師の顔にかかった能面をご覧になってみてください。

畏怖の念を抱くことはあるかもしれませんが、演者と一体になった能面からは、生きた多様な表情をきっと受け取ることができるでしょう。

※本日掲載した能面は、全て新井達矢 (あらい たつや) さんの作品です。こちらの記事では、面に魅入られその才能を日々磨き続ける若き職人・新井さんを訪ねています。ぜひご覧ください。

<参考文献>
『お能の見方』増補改訂版 新潮社 著者・白洲 正子、吉越 立雄 (1993年)
『能って、何?』 新書館 編集・松岡 心平 (2000年)

文・写真:小俣荘子 (「小面」写真提供:新井達矢)
こちらは、2017年9月23日の記事を再編集して公開しました。

シフォンケーキの作り方をプロに聞く。失敗しないコツと道具の使い方

かっぱ橋の老舗製菓道具店「馬嶋屋菓子道具店」で聞く、初心者も失敗しないシフォンケーキの作り方

バレンタインが近づくとトライしたくなる、お菓子づくり。

先日、お菓子作りの道具について教わった、かっぱ橋道具街の馬嶋屋菓子道具店さんによると、30〜40代の女性に人気なのは、シフォンケーキなのだそう。卵、砂糖、小麦粉など身近な材料とシンプルな工程で、気軽に挑戦できることが好まれているようです。

昨年、私もシフォンケーキに挑戦したのですが、見事に失敗。レシピ通りに作ったのに膨らまなかったのです。

そこで専門家に尋ねると、失敗の理由は道具選びと使い方にありました。そのときに教わったことは「失敗しないお菓子作り!おいしく作る秘密は道具選びにあり」の記事にまとめています。

シフォンケーキ作りを成功に導くアルミ型

さて、かっぱ橋道具街の老舗製菓道具店「馬嶋屋菓子道具店」でのアドバイスを元に、今年はアルミ製のシフォンケーキ型を手に入れました。

しっかりと熱を通し、型の側面に生地が張り付くことでふっくらと膨らむシフォンケーキ。熱通りが良く、生地が張り付いても水洗いできる素材であるアルミは、その条件にピタリと当てはまります。

アルミシフォンケーキ型 17cm (コーティング加工無し) 1,782円 (税込)
アルミシフォンケーキ型 17cm (コーティング加工無し) 1,782円 (税込)

メレンゲだけじゃない!成功の秘訣

道具を手に入れたところで、シフォンケーキ作りに再挑戦!

シフォンケーキ成功のポイントというと「メレンゲ作り」が注目されますが、実はそれだけではないのだそう。プロは道具の使い方にも気を払っているのだとか。

馬嶋屋菓子道具店さんで教わった、レシピと道具の扱い方を実践してみました。

シフォンケーキ 基本の材料
シフォンケーキ 基本の材料

材料 (20cm型 1台分)

※カッコ内は17cm型の分量です。

卵黄:110g ※Mサイズ卵約6個分 (60g)
上白糖:60g (30g)
サラダ油:60cc (30cc)
牛乳:100cc (50cc)
薄力粉:160g (80g)
ベーキングパウダー:3g (1.5g)
卵白:220g ※Mサイズ卵約6個分 (120g)
上白糖:80g(40g)

(馬嶋屋菓子道具店「基本のシフォンケーキ」レシピより)

まずは、計量と下準備です。オーブンは180度に予熱しておきます。

容器は大きめを

材料を混ぜて泡立てていくうちに、生地はボリュームを増します。卵黄と卵白は、大きめのボウルに入れておくと作りやすくなります。

卵白と卵黄を入れるボウルは大き目を
大きいボウルを使うと、泡立て時の飛び散りも防げて安心でした

シフォンケーキの型には、「何も塗らない」

シフォンケーキ型には、何も塗らないのが鉄則。

多くの焼き菓子は、型に油分を塗って型離れを良くしますが、シフォンケーキはすべりを良くすると生地の膨らみを妨げたり、焼き上がり後に逆さまにして冷やす際に落下してしまう恐れがあります。うっかり塗ってしまわないように注意です!

そのままの状態で生地を流し込みます
そのままの状態で生地を流し込みます

粉類、砂糖はふるっておく

上白糖は溶けやすいので初心者にも扱いやすいそう。ただし、湿度に弱く、固まっていることがあるため、ザルなどでふるっておきます。

上白糖は粗めのザルなどでふるう。
上白糖はをふるう際は、粗めのザルなどでOK

同様に粉類もふるっておくことで、ダマにならずなめらかな生地ができあがります。

薄力粉、ベーキングパウダーを合わせて、ふんわりとふるう
薄力粉、ベーキングパウダーを合わせて、ふんわりとふるう

卵黄の泡立ても、しっかりと

準備ができたら、まずは卵黄に材料を混ぜていきます。

シフォンケーキづくりにおいて、実は卵黄の泡立ても重要。白っぽくなるまでしっかりと泡立てます。

卵黄の色の変化と材料を入れるタイミングに注意すると、なめらかな生地に仕上がります。

卵黄に上白糖60gを加え泡立て器でしっかりとすり混ぜる
卵黄に上白糖を加え、泡立て器でしっかりとすり合わせる
白っぽくなるまで時間をかけて混ぜる
混ぜていると、こんな風に白っぽくなります
サラダ油、牛乳を順に加え、混ぜ合わせる
白くなったところで、サラダ油、牛乳を順に加え、さらに混ぜ合わせる
ふるっておいた薄力粉、ベーキングパウダーを加え、泡立て器でグルグルと混ぜ合わせる
ふるっておいた薄力粉、ベーキングパウダーを加え、グルグルと混ぜ合わせる

「薄力粉を加えた後は、グルテンが出すぎることを心配される方もいるかと思いますが、グルグルと混ぜ続けなければ大丈夫」とのこと。粉が生地に溶け込めば完了なので、粘りが出過ぎないうちに全体を混ぜ終えます。

道具の切り替え、砂糖を入れるタイミングが鍵

続いては、いよいよメレンゲ作り。

卵白を泡立てる際、まずは泡立て器で軽くコシを切るようにほぐすことから始めます。この状態にすることで、上白糖が均等に混ざるようになります。

最初からハンドミキサーを使いたいところですが、ぐっと我慢。上白糖を混ぜる前に泡立ってしまうと、ボソボソのメレンゲができてしまうのだそう。

卵白を泡立て器でかるくコシを切るように混ぜ合わせ、ハンドミキサーに持ち替え、泡立て始める
泡立て器でほぐした卵白。この状態に整えてからハンドミキサーに持ち替え、泡立て始める

メレンゲは、上白糖を入れるタイミングで仕上がりが変わります。3回に分けることがポイント。上白糖が卵白と馴染んで泡立ってきたら順次加えていきます。

仕上がりの理想は、ピンっと角が立つメレンゲではなく「角は立つけれど、しなやかな弾力のあるメレンゲ」。

最初から上白糖を全部入れてしまうと安定はするものの泡立ちが悪くなるそう。泡立てが不足すると、焼き上がった時に底面が凹んでしまう原因にもなります。

少しボリュームが出始めたら上白糖80gを3回に分けて加えながら、弾力のあるしなやかなメレンゲを作る
上白糖を3回に分けて加えながら、弾力のあるしなやかなメレンゲに仕上げます

「ハンドミキサーは、メーカーによって強さも様々です。レシピによっては『○○分くらい泡立てる』と書かれているものもありますが、参考程度にして、仕上がりを目で確かめながらやってみてください」とアドバイスをもらいました。

さっくりと「切っては返し」を繰りかえす

メレンゲが泡立ったら、先に作っておいた「卵黄の生地」と合わせていきます。

まずはメレンゲ4分の1を加え、生地に馴染ませるつもりで泡立て器のまま混ぜ合わせます。

メレンゲの1/4を7.に加えグルグルと泡立て器で均一に混ぜ合わせる
グルグルと泡立て器で均一に混ぜ合わせる

続いて、残りのメレンゲを2回に分けて加えていきます。

メレンゲを潰さないよう、ゴムベラで生地を「切りながら返すよう」に、さっくりと混ぜ合わせます。完全に混ざっていないと空洞ができやすいので、しっかりと均一に。

残りのメレンゲを2回に分けて加え、ゴムベラでさっくりと泡を消さないように混ぜ合わせる
ゴムベラでさっくりと泡を消さないように混ぜ合わせる

一気に流し込み、一気に焼く

生地が出来上がったら、型に流し込んでオーブンへ。

型へは、一気に流し込みます。少しずつ入れると中に空気が入り、大きな空洞の元になってしまうのだそう。

型に一気に生地を流し込む
生地は、一気にすべて流し込む
流し込み終わったら、型をゆすって生地を平らにならします
流し込み終わったら、型をゆすって生地を平らにならします

型の中で生地を整えたら、状態が良いうちにすぐオーブンへ。

家庭用オーブンは、コンパクトなサイズのため温度が下がりやすいのだそう。オーブンは必ず予熱しておき、扉を開く時間は最小限にします。途中で気になったとしても決して開けないこと。

しっかりとボリュームが出て、割れ目にも焼き色がつくまでじっくりと焼いていきます。180度のオーブンで、焼き時間は40~45分ほどが目安です。

しっかりと膨らんできました!!
しっかりと膨らんできました!!

焼き上がったら、すぐ逆さまに

焼き上がったら、オーブンから取り出してすぐに逆さに返します。上向きのままだと、しぼんで食感が悪くなるので、必ず反対向きに。

オーブンから出してすぐに逆さにして、型の穴に瓶などを刺しこみそのまま冷ます
型の中央にある穴に瓶などを差し込み、そのまま冷ます
瓶にさして逆さまにしている状態
アルミ型にしっかりと張り付いているので、すべり落ちる心配はありません

このまま完全に冷めるまで待ちます。冷ましている間、部屋中甘い香りが漂っていてなんとも幸せな気持ちになりました。

ナイフは動かさない

しっかりと冷めたら、型から外していきます。

シフォンナイフやペティナイフを用意します

まず周囲を軽く内側に押し、シフォンナイフやペティナイフを型に沿わせてさし込みます。さしたナイフは型に添わせて、そのまま一周させます。

ナイフを上下に動かすと、生地がボロボロと剥がれてしまうのでご用心
ナイフを上下に動かすと、生地がボロボロと剥がれてしまうのでご用心
中心は竹串などを使う
中心部分はナイフがさしにくければ、竹串などを使う
底面も同じように
周囲が外れたら底ごと持ち上げ側面の型から外し、底面にも同様にナイフを入れる

剥がし終えたら、反対向きにしてお皿に乗せて切り分けます。

できあがりました!
できあがりました!

生地の目がきめ細かくてなめらか。ふわっふわで溶けてしまうような舌触りで、思い描いていた理想のシフォンケーキでした。

甘すぎないので、フルーツやクリームなど色々なものと合います。この日は、洋酒を効かせたクリームとイチゴと一緒にお皿の上へ。「これは大人のケーキだ!」と、甘いものが苦手な家族も喜んでくれました。

洗うときは優しく

使い終わった型には、ナイフで取りきれなかった生地が張り付いています。柔らかいスポンジに洗剤をつけ、やさしく洗います。洗い終わったらしっかりと乾かしておきましょう。アルミは傷付きや変形が起きやすいので食洗機は避けたほうが良いそう。

米粉や油分の多い材料にも挑戦!

昨年は、何度作ってもうまく膨らませることができなかったシフォンケーキ。しかし、道具を性質に合ったものに変えて、教わったコツの通りに作ったら、初回から見事に膨らませることができました。道具選び、道具使い、大切ですね。

せっかくなので、他の材料でも作ってみることに。

小麦粉を米粉を替えたり、他の素材を加えて作ったりする場合、初心者はまずは専用のレシピで作ることを勧められました。

例えば、単純に小麦粉を米粉に置き換えただけだと、素材の性質の違いから失敗してしまうのだとか。グルテンの粘りが出る小麦粉と違って、米粉の生地はサラサラ。同じ分量で作ると型から液漏れしてしまうことも。

また、抹茶やココアなどを使う場合、含まれる油分の影響で型から滑り落ちやすくなり膨らみにくくなることがあるそう。強力粉を加えたりメレンゲの立て方を工夫したり、アレンジが求められます。

たしかに専用のレシピで作るのが安心ですね。さっそく、レシピを調べて挑戦しました。

米粉を使ったシフォンケーキ。ココアと抹茶を混ぜて焼いたものもしっかりと膨らみました
米粉を使ったシフォンケーキ。ココアと抹茶を混ぜて焼いたものもしっかりと膨らみました!米粉ならではの、しっとり感とシフォンケーキらしいふわふわ感が一体となった不思議な食感が魅力的でした

いろいろなレシピを見ながら作ってみて感じたのは、素材の性質を知ることの大切さ。作るお菓子に合わせて、型を選ぶこと、道具を正しく使うことを意識してお菓子作りを進めると初めての材料でも大きな失敗はしませんでした。

「お菓子作り成功の秘訣は道具にあり」。

これからお菓子作りをするときは、素材だけでなく道具も吟味して楽しんでいきたいなと思いました。

<取材協力>
馬嶋屋菓子道具店
東京都台東区西浅草2-5-4
03-3844-3850
http://majimaya.com/

文・写真:小俣荘子
画像提供:馬嶋屋菓子道具店
※こちらは、2019年2月5日の記事を再編集して公開しました。

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成人式を支える「着物メンテナンス」の仕事人。クリーニングを超えたプロ技を見学

新潟・十日町の着物メーカー「はぶき」の“感動を与える”メンテナンス事業

着物の一大産地、新潟県十日町市。

その歴史は古く、1500年以上前の遺跡から機織りに使われる道具や織物の痕がついた土器が見つかるほど。

中世~江戸期には麻織物の産地として栄え、その後は絹織物に転換、隆盛を極めます。第二次世界大戦後には、京都から職人を招いて染物の技術までも習得し、発展を遂げました。

織も染も作れる。さらには全てを自社で行う十日町

十日町の着物産業には2つの大きな特徴があります。ひとつは、織と染の両方の産地であること。紬、絣、友禅染め、絞り染め、草木染めなど幅広い技術が受け継がれ、さまざまな商品が生産されています。

十日町を代表する織物のひとつ「明石ちぢみ」
「織」は異なる色の糸を使って生地を織ることで柄を生み出します。こちらは十日町を代表する織物のひとつ「明石ちぢみ」 (十日町市博物館 展示)
友禅染めの振袖
「染」は生地に後から柄を描きます。こちらは、「友禅染め」の振袖。 (製作は、黒柳徹子さんをはじめ多くの着物通のオリジナルデザインも手がける株式会社はぶき。右側の振袖は中小企業庁長官賞受賞作品)

そしてもう一つの特徴は、着物メーカーごとにデザインから仕立てまで一貫生産していること。他の地域では、各工程ごとの分業制であることが一般的な着物づくり。すべての工程を1社で行うスタイルは全国でも稀です。

独自に発展した十日町の着物産業は、製造だけでなく、メンテナンス (アフターケア) を専門的に行える会社まで生み出しました。

作るだけじゃない。クリーニングやアフターケア、成人式まで

着物メンテナンス事業をいち早くはじめ、今や日本中から相談が寄せられる株式会社はぶきを訪ねました。

株式会社はぶき

1971年に創業したはぶきには、扱いの難しい絹織物の丸洗いや、シミ抜き、染め直し、箔加工など、専門知識と高い技術によるメンテナンスが必要な着物が日本中から運ばれてきます。

さらには、成人式で着用される全国各地の晴れ着を支えているのも同社の技術とサービスなのだとか。詳しくお話を伺いました。

お話を伺った、株式会社はぶき常務取締役の富澤和也さん
お話を伺った、株式会社はぶき常務取締役の富澤和也さん

「もともと着物業界には、『地直し (じなおし) 』という仕事がありました。着物の製作過程でどうしても発生してしまう汚れやシミ。そうしたものを綺麗に直す仕事です。その技術を活用すれば、出来上がった着物を直す仕事もできるのでは?という発想から、メンテナンス事業が生まれました。

メンテナンスには多様なニーズがあり、ただ汚れを落とすだけでなく、年齢や時代に合うように着物の色を染め替える、シミが目立たないように絵を加える、破れてしまった部分を修復する、取れてしまった箔を貼り直すなど、製造工程のノウハウが必要な作業が多くありました。そこに地直しで培った当社の技術を活用したのです」

染料や薬剤が並びます
生地と汚れの種類によって使う薬剤や落とし方も様々。机には色々な薬剤や道具が並びます
シミ抜きでは、薬剤をシミの部分にだけ染み込ませて、落とし、洗浄します
シミ抜きでは、薬剤をシミの部分にだけ染み込ませて、落とし、洗浄します
水に弱い絹。ドライヤーですぐに乾かします
絹は水に弱いので、洗浄後すぐにドライヤーですぐに乾かします
乾かしたらシワを伸ばします。小型のアイロンも必需品
乾かしたらシワを伸ばします。小型のアイロンも必需品です

「着物は絹の扱いひとつ取っても難しいものです。一般のクリーニング屋さんは、絹糸の洗濯は外注しているところも多く、そういったところからご依頼をいただくこともあります。洗濯は化学です。汚れの種類、生地の素材、加工方法それぞれに合った薬品や洗浄方法を判断しなくてはなりません。誤ると色落ちさせてしまったり、傷めてしまうので、繊維の特性や産地ごとの織物、染物の作られ方にも深い理解が求められます。

メンテナンスをする職人は、各産地の着物の歴史から種類の特性、仕立ての技術についてまで広く深い知識を持っています。

十日町は、着物に従事している方が多いので、自然と技術や知識が培われた方も多いですが、メンテナンスでは特に研究がされています」

日本中の成人式を支えるサービス

自社のものづくりノウハウに加え、全国各地の着物についての知識豊富なはぶき。着物の取扱全般に信頼を置かれる同社は、着物販売の大手企業とタッグを組み、成人式の振袖に特化した着物の物流管理も行なっています。

株式会社はぶき常務取締役の富澤和也さん

「振袖を着るためには、非常に多くのものが必要です。小売店で成約された振袖一式を成人式で最高の状態でお使いいただけるように整えて保管し、お届けする。そしてまた綺麗な状態に整えてお戻しします。

『成人式は人生でたった一度しか訪れない。大切なアニバーサリーに携わる仕事。その日に嫌なことがあると一生の思い出になってしまう。二十歳を迎えるお嬢様に感動を与えるような仕事をしなければならない』

この取り組みを始めた当初から、取引先のご担当者がよくおっしゃることなのですが、本当にその通りなんですよね。プライドをかけて、間違いのない最高の状態のものをお届けするようにしています」

大量の振袖を美しく整え、整理しているところ
美しく整えられた振袖を整理しているところ。数千着に及ぶ振袖を前に、「ここにある振袖の産地や金額、タグを見ないでもみんな言えるようになってしまいました」と笑う富澤さんが頼もしく、印象的でした

成人式直後は、“戦場”さながら

はぶきがもっとも忙しくなるのが、成人式直後の1週間。

「成人式の翌日から膨大な量の振袖が帰ってきます。その量は、運送会社の大きな物流センターがパンクしてしまうほど。大型トラックが何往復もしながら荷物を運んでくれます。

毎日1800個〜2400個ほど振袖の箱が届くので、次々と開封していきます。この時ばかりは、他部署や地域の方々の手も借りて、地域をあげての対応になります。

開封した振袖を整理して、汗や血液、襟元のファンデーションの汚れを取ったり、ついてしまった臭いを取り除いたり、シワを伸ばしたり、1着ずつ整えていきます。こうしたところで、ゼロから着物を作る時とは異るメンテナンスの知識が生きています」

生地と汚れの種類によって使う薬剤や落とし方も様々。机には色々な薬剤や道具が並びます

ちょうど成人式の次の週末から3月までが、翌年の成人式の振袖レンタルの申し込みが増えるタイミングなのだそう。そのため、たった1週間のうちに、膨大な量の振袖を整えて、再びお店に出荷していきます。なんともハードなスケジュールです。

「1日でも早く整理して、レンタル振袖の在庫が少なくなっているお店に返したいので、正確さとスピードを追求して進めています」

箱にまで施された工夫

最高の状態で届けるためのこだわりは、振袖だけでなく、小物、さらには梱包材の工夫にまで及んでいます。

ショールもふっくら加工で毛がはねるように乾燥。 バックや草履も、指紋を全て取ってある。溶剤で全て磨いてある。指紋も泥も何もない状態にする。 「感動を与える」というミッションのために。 シワにならないように箱の中に仕切りがあり、上に小物を乗せることで適度な重みで大丈夫になっている。 潰れたりシワにならないように。適度な重みで動かないように。 箱も、ガムテープを一切使わずに、組み立てて、限界まで硬くして(折れるギリギリの硬さ)、重みに耐えられるコンディションを研究して作られた箱。 ガムテープは劣化してしまう。箱が壊れてしまわないように。 新潟県の素材技術応用センターで考えられて作られた
この箱は、振袖セットのために開発されたもの。箱の破損や劣化につながるガムテープを一切使わずに組み立られる設計。可能な限り紙の強度を上げ、重みに耐えられるように研究して作られています
ショールもふっくら加工で毛がはねるように乾燥
こちらの袋に入っているのは振袖の上に羽織るふわふわのショール。ふっくらと毛がはねるように特別な乾燥方法で仕上げ、潰れないように箱の中へ
バックや草履は、溶剤で全て磨き、新品のように指紋も泥も何もない状態にしているのだそう
バックや草履は、溶剤で全て磨き、新品のような状態にしているのだそう

箱の中には仕切りがあり、その下に振袖が入っています。上に乗せた小物類で箱の底に適度な重みがかることで、振袖が動いてよれたりシワにならないようになっています。

加えて、箱を包む茶紙はナイロン製のクロスを使って作られていて、破れにくく、水を弾いて濡れにくい素材なのだそう。全国各地に届けるものなので、雨や輸送時の衝撃から可能な限り守れるように考え抜かれていました。

金彩を多用した振袖

「感動を与える」というお話がありましたが、はぶきの技術とこだわり抜いた工夫は成人式を迎えたお嬢さんたちにたくさんの喜びを届けているようです。

「ありがたいことに、お客様から『とても素敵な成人式を迎えられました』『丁寧なお仕事に感動しました』など書かれた手紙を何通もいただき励みになっています」

十日町独自の生産土壌が生んだ、新しい着物ビジネス。高いメンテナンス技術や物流管理のシステムが、今日も日本中の着物を支えています。

<取材協力>
株式会社はぶき
新潟県十日町市四日町1735番地1
0120-893-723
http://kimono-habuki.jp

文:小俣荘子
写真:廣田達也

*こちらは、2018年7月18日の記事を再編集して公開しました。

これなら持ち歩ける「防災ホイッスル」見つけました。メガネの素材で作る「effe」

防災グッズを探していたら、こんな可愛らしいものに出会いました。

防災ホイッスル「effe エッフェ」
動物の形?
防災ホイッスル「effe エッフェ」
ネックレス?

実はこれ、どちらも災害などで助けを呼ぶときに活躍する防災用ホイッスル (救助笛) なのです。

小さな子どもやお年寄りなど、肺活量の少ない人でも簡単に音が出せるよう、構造が工夫されています
小さな子どもやお年寄りなど、肺活量の少ない人でも簡単に音が出せるよう、構造が工夫されています
防災用ホイッスル「effe エッフェ」
こちらは、アルファベットをかたどったもの。自分のイニシャルのものを選んで使っても楽しそう!
キーリングのほか、イヤホンジャック付きのタイプも。いつもそばに持っていられますね
キーリングのほか、イヤホンジャック付きのタイプも。いつもそばに持っていられますね

「いつも」と「もしも」がひとつになった、お守りホイッスル

これらは、メガネフレームの素材でできた笛のアクセサリーブランド「effe (エッフェ) 」の製品。“メガネの聖地”とも呼ばれる世界三大産地のひとつ福井県鯖江市にあるメガネ工房「プラスジャック」で作られています。

メガネ素材のセルロースアセテートはイタリア生まれ。イタリア語では「F」をeffe (エッフェ) と発音します。Fukui (福井) 、Factory (工場) 、Fue (笛) の頭文字がブランド名の由来です。

そしてもうひとつ「えっ、笛!?」と驚くような、笛の概念にとらわれないものをつくりたいという思いが込められているのだそう。いつも身につけるお守りのような存在になればと開発されました。

アクセサリーのようにいつも身につけられる
アクセサリーのようにいつも身につけられる

人の命を守るものだから

しかしなぜ、メガネ工房が防災用ホイッスルを作ったのでしょう?プラスジャック社 代表の津田功順 (こうじゅん) さんにお話を伺いました。

「製作のきっかけとなったのは、鯖江市役所防災課の藤田裕之さんからの相談でした。『メガネの素材を使って、アクセサリーのような笛が作れないでしょうか?』と。

聞けば、阪神大震災では瓦礫などの下敷きになり助けを呼べず亡くなった方が全体の7割にも上ったそうです。その教訓から、福井県の自治体では防災用ホイッスルの配布が行われました。

しかし、多くの人は配布されたホイッスルをカバンの中にしまいこんでいました。あからさまな防災グッズを日々身につけることにハードルを感じる方も多いようです。これでは、いざという時にすぐに取り出せません。

違和感なく自然にいつも身につけられるものとしてメガネ素材に目が向けられたようです」

メガネ素材のセルロースアセテートは、綿花を主体とした植物性繊維でできており、発色が良く、色味や風合いのバリエーションが豊富。熱を加えると柔らかくなり加工しやすくなるため、メガネやアクセサリーをつくるのに適した素材なのだそう。

また、軽くて温度変化が少ないことから、肌につけた時の馴染みがよく温かみを感じられます。普段から身につける素材としてぴったりだったのですね。

とはいえ、メガネの製造を一筋に続けてきた津田さんは笛を作ったことなどありません。命に関わる大変な取り組みをすぐに引き受けることはできなかったと言います。

「必要性は分かったものの生半可に取り組めるものではありませんからね。それでも何度も相談に通ってくれる藤田さんの熱意に最後は負けました。

メガネは目を補助する道具として体の一部となって人を助けます。防災用ホイッスルも人を助けるものですから、やってみようと。人の命に関わるものなので、作るからにはちゃんとした物をと決心しました」

メガネ工房の様子

「届く音」を「誰でも簡単に」出せるように

普段から身につけられるデザインにするのはもちろんのこと、防災用ホイッスルとして「しっかりと音が出る」ことが最重要。津田さんの試行錯誤が始まりました。

「まずは、適切な音や構造について調べ始めました。市にも相談して国の基準がないか問い合わせましたが、特に存在せず各社が自社判断で作っているのが現状でした。独自に研究する他ありません。

福井県工業技術センターで宇宙の音の響きを研究されている筧瑞恵先生にご協力いただきながら、検証が始まりました。既存の防災用ホイッスルを買い集めて構造や音質を調べ、実験を重ねました」

津田さんが目指したのは、子どもやお年寄りをはじめ、肺活量の少ない人でも吹けること、瓦礫の間を通り抜けて防災ヘリコプターなどの騒音があっても聞こえる音、水が入ってしまった時も振れば水抜きができてすぐ使えることなどをクリアする笛。

単に音の出る構造はすぐに作れたものの、目指す音質や機能のものが出来上がるまでには膨大な試作品作りが続きました。

「吹き込み口が大きいと肺活量が必要になる、空気の流れる角度や長さ、距離で音が変わる、吹き溜まりで音域が決まる、空気が逃げる箇所の深さも音域に関わるなど、様々な要素の微調整が必要でした。

コンマ1ミリメートルの調整で音が変わるんです。様々なバリエーションの試作品を工業試験場へ持参しては、音を測る機械にかけて試行錯誤を重ねました」

こうして、7年以上もの歳月をかけてやっと完成したのが「effe」の防災用ホイッスルでした。

考え抜かれた笛の構造は、空気の通る隙間や角度が厳密に設計されています
考え抜かれた笛の構造は、空気の通る隙間や角度が厳密に設計されています

正確なものづくりに生きる鯖江の技術

設計通りの構造で正確につくり上げ、長く使える製品にするために、鯖江で長年培われてきたメガネ作りの技術が使われています。

切り出されたパーツをはり合わせるには職人の技術が不可欠です。正確にはり合わせることで、しっかりと音が出て、長持ちするホイッスルが作られているのだそう。

つなぎ合わせるのには熟練の職人の技術が使われています
つなぎ合わせるのには熟練の職人の技術が使われています

防災、防犯に幅広く

デザインを手がけるのは、デザイナーの谷川美也子さん。性別や年齢を超えて日常的に使いやすく、安全性の高い形になっています。2018年にはグッドデザイン賞を受賞しました。

防災用ホイッスル「effe エッフェ」
防災ホイッスル「effe エッフェ」
バッグチャームとしても

近年では、子供の防犯グッズとしても注目されており、動物シリーズのバリエーションを増やしているのだそう。

私も、動物デザインに一目惚れ。家族にもプレゼントして、毎日持ち歩いています。事件や災害のない毎日を願うばかりですが、いざという時に備えておくことが大切。

お守りのように持ち歩ける「effe」のホイッスルは心強い味方になっています。

<掲載商品>
防災用ホイッスル「effe エッフェ」
https://effesabae.com/

<取材協力>
プラスジャック株式会社
福井県鯖江市御幸町1-301-11
www.plusjack.com

文:小俣荘子

「SUWADA」の爪切りが驚くほどよく切れる理由

驚くほどよく切れる。諏訪田製作所 SUWADAの「爪きり」

SUWADAの爪きり

まいにちの爪切りにおすすめの一本があります。

江戸時代から鍛冶産業が盛んな新潟県三条市。ここに、ニッパー型爪切りのリーディング・メーカーとして知られる諏訪田製作所があります。同社の「爪きり」は使いやすさと切れ味が評判を呼び、ネイルアーティストや医療関係者にも愛用されています。

切れ味へのこだわりから、素材はカスタムナイフや庖丁にも使用されるステンレス刃物鋼を採用。硬い刃に仕上るので、刃の消耗も少ないのだとか。

SUWADAのつめ切り

わずかな力でヤスリがけ不要なほどの切れ味。爪が飛び散らない優れもの

爪切りの仕組みは、刃と刃を合わせて切る「合刃 (あいば) 」と呼ばれ、いかに隙間なくぴたりと刃が合わさるかが切れ味に大きく影響します。高い技術が必要とされるこの工程は、熟練の職人が担当する腕の見せ所。

刃の合わせを隙間をなくす調整する
刃の最終的な調整は全て手仕事で行われます。光に当てて隙間の有無を確認しながら刃を削り、両刃を合わせていきます

きちんと刃の合わさった爪切りは、パチンという音もせず静かに使えます。スッパリと切れるので爪が飛び散ることもありません。断面はつるりと滑らかに仕上り、ヤスリがけも不要なほど。わずかな力で切りやすいように、手で握り込むニッパー型を採用しているのも、長年愛されるSUWADAの爪きりの特長です。

他にも刃の先端を尖らせて細かいカットに対応できるようにしたり、刃にカーブをつけて爪を丸く整えやすくするなど、SUWADAの爪切りには随所に細やかな工夫が。そのため、巻き爪や分厚い爪も、心地よく切ることができるのです。

日々何気なくやっている。使い勝手の良い道具に出会えると、お手入れの時間が楽しみになりそうです。

<掲載商品>

爪きり クラシックS (諏訪田製作所)

爪きり クラシックL (諏訪田製作所)

文:小俣荘子

※こちらは、2018年1月7日の記事を再編集して公開しました。

書き初めは、手のひらサイズの書道セットで

こんにちは。ライターの小俣荘子です。

日本で丁寧につくられた、小さくてかわいいものを紹介する連載、今回は佐賀の書道具店がつくる書道セットです。

コンパクトでどこでも使える書道セット

年賀状や手紙、祝儀袋などに墨と筆でサッと美しい文字を書けたら‥‥、そんな憧れを抱いたことはありませんか?

とはいえ、毛筆にはなんだかハードルを感じてしまいます。準備と片付けの手間、墨による汚れの心配、慣れない筆の扱いにくさなどが頭をよぎります。そんな思いを汲んで作られた、初心者も気軽に使えるコンパクトな書道具を見つけました。

有田焼の産地、佐賀県の吉田陶芸が作った「花陶硯 (はなとうけん) プチ硯セット」です。

コンパクトな書道セット
手のひらサイズの箱の中に、硯 (すずり) 、墨、筆が入っており、手軽に持ち運べる
どこでも広げられるコンパクトなセット
場所を取らずに広げられる

つるりと美しい白地に鮮やかな絵付けが特徴の有田焼の硯、三重県で平安時代から作られている彩り豊かで擦りやすさ抜群の「鈴鹿墨」、書き心地と携帯性に優れ化粧筆としても有名な「熊野筆」がセットになっています。

硯の裏には鮮やかな絵が描かれている
長さ11センチメートルほどの硯は、擦り面の裏に鮮やかな柄が描かれています。お気に入りをひとつ選べば、「書く」時間がいっそう楽しくなりそうです
柔らかく擦りやすい鈴鹿墨。1適の水を使って10回ほど擦るだけで、便箋5枚程の手紙分の墨がすぐに出来上がる。墨の色は5色から選べる
柔らかく擦りやすい鈴鹿墨。2〜3適の水で10〜20回ほど擦るだけで、はがき5枚ほどの手紙を書ける墨汁が出来上がります。墨の色は5色から選べます
ポータブルな熊野筆
金具で筆先の根元を2/3ほど締めているので、書くのに必要な先端だけに墨が染みます。根元が固定され軸となるため書きやすく、墨も少量で済むので、片付け時のお手入れも簡単です

正月の書き初めにも。美しさと使い勝手の両立にこだわった擦り面

白く美しい硯が墨で黒ずんでしまったら悲しいですが、この硯にはそんな心配もありません。擦り面は、墨がなめらかに素早く擦れることと、墨の洗い流しやすさ、相反する2つの条件がギリギリで重なる「ちょうどいいポイント」を追求して作られました。すりガラスのような細かな凹凸となっています。

硯の擦り面の拡大画像
見た目にも美しい擦り面

お正月に向けて、古くからの日本の習慣や文化に触れたくなる季節。なかなか一歩を踏み出せなかった毛筆ですが、この手軽さなら始められそう。そんな思いにかられました。

<掲載商品>
花陶硯プチ硯セット

<取材協力>
吉田陶芸
佐賀県西松浦郡有田町蔵宿丙4096-9

文:小俣荘子
写真:吉田陶芸、小俣荘子

※こちらは、2017年12月4日の記事を再編集して公開しました。