【わたしの好きなもの】筆ペン

筆ペン ~届けたいものがあります~



仕事柄、金封や手紙を書く機会が多くあります。

その際に筆ペンを使用するのですが、筆のコシが柔らかすぎたり固すぎたりすると、思い通りの線が出なくて書きづらく感じることもありました。

今回は、私が巡り合った理想の一本をご紹介します。

私が使用している筆ペンは、約380年の伝統を誇る奈良筆の老舗「あかしや」の職人が一本一本手作業で作っている、中川政七商店オリジナルのものです。




一番の特徴は、ペン先にコシがあり、実際の筆と同じような感覚で書けること。力の入れ具合によって太い線も細い線も書くことが可能で、表現の幅が増え、線一本一本に表情が出て気持ちを乗せることができます。




カートリッジ式でインクの交換も簡単です。

デザインもシンプルで、入っている焼印の柄も上品なので飽きずに使用でき、筆立てに立ててもなじみます。また、軸は天然の紋竹を使用しているので一本一本で表情が異なり、自分だけの筆ペンだと思える部分も魅力です。

桐箱に入っているので贈り物にもオススメ。私は、桐箱には鉛筆を入れて筆箱として活用しています。




現代はメールやLINEなどで連絡をとることがほとんどで、PCやスマートフォンの画面上で見る文字は無機質な印象を与えがちです。

その一方で、送る相手への心を込めた手書きの文字には温度があり、書き手の想いが息づいていると感じています。



金封の表書きはお祝いする気持ちやお悔やみの気持ちを込めて、手紙は送る相手へ想いを馳せながら、書いています。そうすることで、より丁寧に書こうという意識も芽生えます。

字が上手ではないからと手書きを敬遠する気持ちもあるかと思いますが、相手のことを想い、伝える言葉を選び、そして自分の手で書く言葉は文字の巧拙に関わりなく気持ちが届くものです。




自分がもらう立場で考えても、自分に対してそれだけの時間と心を使い、届けてくれるその気持ちが嬉しく、差出人の方を身近に感じてあたたかい気持ちになります。


心の機微を手書きの文字に乗せて、心のやりとりをこれからも大事にしたいと、今日も筆を取っています。


中川政七商店 管理課 吉田



<掲載商品>
筆ペン
 

京都「HOTOKI」でうつわを好きになる。工房を眺めながらコーヒーを飲める店

陶芸一家が営む、総合的なうつわの店

京都市左京区・岩倉。比叡山の借景が見事な圓通寺や「雪の庭」として名高い妙満寺、門跡寺院の実相院など名刹も多く、風光明媚な景色が残るエリアとして知られている。

そんな岩倉の閑静な住宅街に突如現れるのが、高床式倉庫を思わせるようなモダンな一軒家。

ここは陶芸家・清水大介さんが代表を務めるkiyo to-bo(株)の実店舗のひとつ「HOTOKI」。shop・工房・カフェが一緒になったうつわの総合ショップだ。

京都市左京区・岩倉にある総合的なうつわの店「HOTOKI」
京都市左京区・岩倉にある総合的なうつわの店「HOTOKI」

大介さんの父である陶芸家・清水久さんと2名のスタッフが職人として工房を、母の祥子さんがカフェを、そして弟の洋二さんが全体の運営を担っている。

店は階段を上がった2階の手前にshop、奥にカフェがあり、1階が陶芸体験もできる工房となっている。shopには、同じくkiyo to-boが運営する清水団地の工房「トキノハ」のうつわと、[HOTOKI]オリジナルのうつわが並ぶ。

HOTOKIのうつわ
壁面に簡単に取り付けられる花器「TUKU(ツク)」シリーズ
壁面に簡単に取り付けられる花器「TUKU(ツク)」シリーズ
うつわは、いくつかのシリーズごとに特徴が分かれていて自分の好みにあわせて選びやすくなっている
うつわは、いくつかのシリーズごとに特徴が分かれていて自分の好みにあわせて選びやすくなっている

この店の特徴は、うつわを買えるだけではなく、「触って作って楽しめる」こと。まずはカフェという気軽な体験を通してうつわに触れ、気に入ればshopで買うことができる。そしてカフェからは1階の工房の様子が眺められ、空いていればその場で陶芸体験もできるのだ。

HOTOKI

ここでしかできない、カフェの在り方とは。

洋二さんはHOTOKIを「お客様をもてなす場所」と話す。

「うつわを売っているだけのお店だと、何か買って帰らないといけないような気がして、足を踏み入れるのを躊躇してしまう人もいる。僕たちはまず自分たちが作るうつわのことを知ってもらいたいので、いろんな方向へ間口を広げています」。

HOTOKIの運営全般を担う、二男の清水洋二さん
HOTOKIの運営全般を担う、次男の清水洋二さん

そのためにまず、この店の強みである「カフェ」がある。最大の特徴は、使いたいうつわを自分で選べることだ。

「コーヒーやスイーツにこだわるのはカフェとして当たり前のこと。でも、うつわを自分で選んで使えるのは、僕たちならではのサービスだと思います」。

「自分でうつわを選ぶということは、そのうつわを認識するということ」と洋二さん。

数あるうつわの中から自分で選ぶことにより、自分が好きなものの特徴に気づき、実際に使った手触りや飲み心地の良さで、うつわのファンになるきっかけを与えてくれる。

ジャズが流れるカフェスペース
ジャズが流れるカフェスペース
棚に並んだカップから好きなものを選んで使うことができる
棚に並んだカップから好きなものを選んで使うことができる

洋二さんは「当たり前のこと」というが、カフェのメニューのクオリティの高さも見逃せない。コーヒーは「大山崎コーヒーロースターズ」のシングルオリジンを使用。

「コーヒーがちゃんと美味しいこと」は、コーヒー文化の根付く京都では大事な要素だ。

コーヒーはスッキリとした口当たりながら、コクのある味わい。濃厚なケーキにもよく合う
コーヒーはスッキリとした口当たりながら、コクのある味わい。濃厚なケーキにもよく合う
HOTOKIのカフェメニュー

ここのうつわでしか楽しめない個性的なメニューも考案。

冬季限定の「ティラミス」や夏に登場する「かき氷」は、HOTOKIのうつわがなければ完成しないオリジナルスイーツだ。通常メニューのガトーショコラなども手掛ける「cake salon fuyuko style」と共同開発し、メニューに合わせてうつわも一から考案したそう。

このようにうつわを用いてゲストにサプライズを与えることも、「HOTOKI」ならではのおもてなしだ。

「ここではとりあえずコーヒーでのんびりして、うつわに触れてもらう。そして僕たちのうつわのファンを増やしていく。その最初の種まきとして、カフェは大事な要素です」

本棚の選書も絶妙で、うつわ、アート、ファッション、ローカルなど、訪れる人の心理を突くようなジャンルの本が並ぶ。こちらの棚も洋二さんが手掛けているという。

HOTOKIカフェスペース

「うつわの本ばかり出したら押しつけがましくなってしまう。みんなが手に取りやすいカフェの本やファッション誌もバランスよく配置しました」。

店内には久さんのコレクションでもあるジャズが流れ、純粋にカフェとしてゆったりとした時間を過ごすことができるのも、ファンの心を掴む要素のひとつだろう。

ふらりと訪れ、その場で陶芸体験も。

そしてここのもう一つの魅力が、陶芸体験の手軽さにある。

カフェからはすぐ下の工房がのぞけるようになっていて、作陶の様子が垣間見えるだけでなく、予約に空きがあれば実際の陶芸体験も可能だ。

カフェスペースから見える工房の様子
カフェスペースから見える工房の様子
体験教室の予約表。当日でも空いていれば即体験できるが、事前の予約がオススメ
体験教室の予約表。当日でも空いていれば即体験できるが、事前の予約がオススメ

コースは電動ろくろ体験と手びねり体験があり、電動ろくろなら約15分で2000円とかなりの手軽さ。手びねり体験4500円は、土1kgを使って久さんの手ほどきを受けながら、約1時間半かけてうつわを制作していく。

洋二さんの父で陶芸家の久さん。丁寧な指導は陶芸未経験者にも好評
洋二さんの父で陶芸家の久さん。丁寧な指導は陶芸未経験者にも好評

親子での体験も可能で、工房には小学生が作ったとは思えないようなうつわも並ぶ。さまざまな種類の絵柄入りのスタンプで好きな模様を施す時間は、ものづくりの楽しさを教えてくれるようだ。

陶芸体験者が制作したうつわ。絵付けもできる
陶芸体験者が制作したうつわ。絵付けもできる
制作した器に模様を刻む時に用いる陶器のスタンプ
制作した器に模様を刻む時に用いる陶器のスタンプ
陶芸体験で小学生が実際に制作した力作
陶芸体験で小学生が実際に制作した力作

「手軽にできて楽しめるのがここのコンセプト。まずは土に触ってみて、『楽しかったな』『うつわって面白いな』という気持ちを、子供たちにも知ってもらえたら嬉しいですね」と洋二さん。

体験後で作ったうつわは工房の方で焼成し、約1ヶ月後に完成。自身のうつわを手にする瞬間は喜びもひとしおだろう。

HOTOKIのうつわもこの工房で作られている
HOTOKIのうつわもこの工房で作られている

入り口のレジ横にはなにやらクラシックな佇まいの機器が。実はこれ、アメリカで製造されたアンティークのガチャガチャの機械なんだとか。

アンティークのガチャガチャ

イベント時にはうつわを購入した人の特典としてガチャガチャを実施。オリジナルの箸置きをプレゼントした。

オリジナル箸置きを作成している様子
オリジナル箸置きを作成している様子

「せっかく岩倉まで足を運んでもらうのだから、お客様には特別な時間を過ごしてほしい。ここでは面白いことをしたいと常に考えています」。

目的は美味しいコーヒーでも、15分の電動ろくろ体験でもいい。さまざまな入り口からうつわの世界への扉が開け、その魅力にはまってしまうだろう。そんな仕掛けが、この空間には溢れている。

<取材協力>
HOTOKI
京都府京都市左京区岩倉西五田町17-2
075-781-1353
https://hotoki.jp/

文:佐藤桂子
写真:松田毅

【わたしの好きなもの】motta024

 
初めてのハンカチ「motta(モッタ)」
 

わたしは、中川政七商店のハンカチブランド「motta(モッタ)」のハンカチを愛用しています。

  

「motta」との出会いは、まだここで働き始める前、ちょうど転職活動をしていた時のこと。

 

スーツに合うハンカチはないかなと探していたところ、スタッフさんから「洗いざらしでいいのでお手入れ楽ちんですよ」と薦められ、面倒くさがりのわたしはその一言で購入を決めました。

 

正直に言うと、それまではハンカチなんてどれも同じようなものだろうと思っていたのです。こだわりもなく、コンビニなどで買ったものをなんとなく使っていただけでした。

 

そんなわたしが「楽ちんだから」と購入した「motta」ですが、初めて使ったとき、麻のシャリっとした素材感になんだか背筋がピシッとしたことを覚えています。

 

使い勝手も抜群で、スッと水を吸収するのに手触りはサラッとしていて、手を拭いた後も乾くのが早いです。

 

麻の感触は慣れてくるととても心地良く、「カバンから出して手を拭く」その瞬間が毎回ちょっと嬉しくなりました。

 

もちろん、手入れが楽なのも良いポイントです。

 

お洗濯後は軽くシワを伸ばして干すだけで綺麗に仕上がります。アイロンがけはしたことがありません。(笑)

 

ちなみに、わたしがよく使っているのは「motta024」のキイロです。

  

麻62%・綿38%で、綿が少し入っているのでシャリ感もありつつ柔らかい手触りです。可愛らしい水玉模様と元気なイエローカラーが気に入っています。

 

最近さらに別の使い方を発見しました。夏の暑い日、日光へ旅行したときの話です。

 

東照宮までの道のりで汗が止まらなくなり、途中の水場で「motta」を濡らして首に巻いてみました。すると、麻混生地なので通気性が良く、全然熱がこもらない。時間が経ってもずーっと冷えたまま!

 

このハンカチ、便利すぎない‥‥?と感動してしまった思い出です。

 

既に「motta」をお持ちの方はぜひ夏場に試してみてください。

 

ヒヤッと気持ち良いうえにちょっとオシャレにもなれますよ。

日本市 東京スカイツリータウン・ソラマチ店 門林

 

 


<掲載商品>
motta024

手こぎ舟でのんびりお花見 近江八幡の水郷めぐり

場所取りや騒音に困らないお花見、行ってみたくありませんか?

せっかく花を眺めるなら、ゆっくり、粋に楽しみたい、そんな願いが叶う穴場、「近江八幡の『水郷めぐり』」を今日は紹介します。

いざ、近江八幡へ

琵琶湖周辺には水辺だけでなく山もあり、特に京阪神や名古屋の人たちには手軽なレジャー基地になっています。

東岸での観光エリアの代表は大きな城のある彦根でしょう。次には北国街道の宿場町で、「黒壁スクエア」を中心として1980年代後半に町おこしに成功した長浜が挙げられます。そして、近江八幡も忘れないようにしましょう。

水郷と琵琶湖

かつて琵琶湖の周囲には大小約40個の内湖(ないこ)がありました。内湖とは、ほとんどそのまま琵琶湖につながっているような周辺の湖のことをいいます。しかし、戦後の食糧難の時代に、どんどん干拓され農地へと変わっていきました。

大中之湖干拓地の南隣にある「西の湖(にしのこ)」が、現在残っている最大の内湖です。その周辺の湿地帯を「水郷」、あるいは「水郷地帯」といいます。

琵琶湖は1993(平成5)年6月に、「ラムサール条約(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)」の登録エリアとなっていますが、2008(平成20)年10月にはこの水郷まで登録範囲が拡大されました。

水郷の中に残されたヨシの群生地。水郷めぐりの手こぎ舟はこの中を抜けていく

時代劇の定番のロケ地

3月末だとまだ少し肌寒い日もあるが、桜の花のつぼみもふくらんで、春はもうすぐ

琵琶湖や内湖は野鳥の生息地・繁殖地であり、その生命を支え、この水郷の光景を特徴づけているのがヨシ(蘆、葭、葦)です。イネ科の多年草で、池や沼などの低湿地に生え、高さは1〜3メートルにもなります。

水質浄化作用の大きいことでも知られていて、1992(平成4)年には「滋賀県琵琶湖のヨシ群落の保全に関する条例」が定められました。この水郷だけではなく、琵琶湖全体でヨシ原(ヨシ群落)の減少に歯止めをかけるための努力が続けられています。

舟をすっぽりと隠してしまうほどの高くて密集しているヨシ原があり、内湖ならではの静かな水面が広がっていて、水郷ではのどかな光景は昔から変わりません。

そのため、格好の時代劇のロケ地となっています。これまでに、『鬼平犯科帳』『剣客商売』『水戸黄門』『雲霧仁左衛門』などが撮影されました。「背の高い草むらの間を船頭が操る舟が通る」「手前に船着き場があって、向こうの水面に背の高い草が伸びている」といったシーンがあれば、「これはおそらく、近江八幡の水郷だろう」と疑ってみていいでしょう。

手こぎ船から眺める桜の風景。「時代劇の登場人物」になり「花見」を楽しむ

そんな時代劇の登場人物になったような気分を味わえる水郷めぐりの舟があります。通年で営業はしているものの、実際には水や風がぬるむようになったら観光シーズン入りです。

この水郷めぐりのコースの一部には桜が植えられているので、もし、3月末か4月初めといった早めの時期に「水郷めぐり」の舟に乗り込んだのならば、「時代劇の登場人物」と「花見」が同時に楽しめます。

水郷めぐりの舟は全部で4種類あり、それぞれ運営者が異なります。また、水郷とは水路でつながっている八幡堀でも別にもう1種類あります。

コースや舟のタイプも異なっていて、「手こぎ舟・エンジン船」「桜のあることろを通る・通らない」の違いがあります。

やはり、「時代劇の登場人物」となれば、手こぎ舟の方が気分が高まります。春先に行くのならば、桜も見たいですよね。この両方が満足できるのは、実は「近江八幡和船観光協同組合」の舟のみとなっています。

近江八幡和船観光協同組合の船頭さんたち。もちろん、「長谷川平蔵・水戸光圀・秋山小兵衛も私たちがお乗せします」
「揺れるから気をつけてね」
のんびりゆったり。最も基本的なコースで約80分の手こぎ舟の旅
春といえば、もちろん桜ばかりではない。菜の花も目を楽しませてくれる
待合場所は、もともとヨシの保管場所になっていた建物だ

満開ももちろんいい。ただ、花筏を割って進むのは水郷めぐりならでは

近江八幡和船観光協同組合が用意しているコースには、比較的近くで最もヨシが茂っているところを回ってくる「水郷めぐり・かわら堀」(60分)もあります。

しかし、桜の並木の下を通るのは残るふたつのコース「水郷めぐり・普通」(80分)と「水郷めぐり・遠回り」(120分)です。春ならばやっぱりこちらに乗りたいところでしょう。

桜が満開になるようならば、同時に菜の花も満開になります。桜はコースのあちらこちらにありますが、メインとなるのは最初のヨシ原を抜けて、掘割りに入ったところです。約40本のソメイヨシノが200メートルに渡り、頭の上に覆いかぶさるようにして植えられています。

満開のときに、舟から見上げると、全部桜の花です。しかし、ちょっと過ぎたぐらいであればがっかりすることはありません。頭の上に桜の花びらが降り注ぐ「花吹雪」だってあります。水面を桜の花びらが埋め尽くす「花筏(はないかだ)」も楽しめます。手こぎ舟がこれを割るようにして進みます。

後ろにうっすら見えている山のうち、低いほうが安土城のあった安土山

【わたしの好きなもの】しめつけないタイツ/冷えとり絹綿スパッツ

 
母譲りのスパッツ愛
 

わたしはスパッツが大好きです。

 

物心つかない頃からわたしのスパッツ人生は始まっています。

 

幼い頃のスパッツといえば、防寒対策、ケガ防止の安全対策、なによりぷくぷくの足にスパッツ姿はかわいいですよね。

 

きっとそのような理由で、母親は私にスパッツを履かせていたのだと思います。

 

そんな母の愛から始まったスパッツ人生。

 

レギンスやトレンカなど名前の変遷があったり、薄いもの厚いもの、柄がついていたり‥‥歳を重ねるごとに様々なスパッツと出会い、付き合ってきました。

 

出かける時、仕事の時、家でリラックスの時、就寝時、ごく自然に、わたしの生活はスパッツとともにありました。

 

スパッツというものは肌に一番近く、密着するものです。わたしは肌が弱い方で、蒸れてかぶれたり、締め付けで痒くなったり、スパッツとの付き合いも一筋縄ではいかないものでした。できるだけお肌に優しくて、着心地のよいものを‥‥と、次第にスパッツに対する眼差しも変わっていきました。

 

中川政七商店に入社して出会ったスパッツ、タイツたちは何よりほんとうに着心地がよいのです。もはや着るというよりも、自分の皮膚をもう一つ装着するような感覚。それだけフィットして、なじみが良く、着続けるうちに育っていくのを実感できて愛おしい、まさに身体の一部です。

 

本日は仕事や外出時に愛用しているタイツと、就寝時に愛用しているスパッツを紹介させていただきます。

 

まずはボックス入りの「しめつけないタイツ 綿」。

 

最大の特徴はお腹まわりのしめつけがないこと。

 

通常1本の平ゴムをぐるっと入れてお腹まわりを留めるものが多いのですが、こちらは広い範囲にゴムを入れており、肌を包み込むように生地を密着させることで、しめつけずにずれ落ちない構造になっています。

 

イメージとしては腹巻のような感じでしょうか。なので履き心地がとっても優しい。

お腹まわりだけでなく足の部分まで同じように作られているので、まるで履いていないような感覚になります。一方で、しっかりと足にフィットする頼もしさも。
 

ふっくらとした生地感で、綿でも暖かいので、夏場以外はほとんど毎日履いています。

 

ロゴマーク入りのボックスが可愛く、ギフトにおすすめ。ボックスは、机の中の文房具の収納などにちょうどよかったりもします。

 

次は家でのリラックスタイムに活躍しているスパッツを紹介します。

 

スパッツは、オンとオフの切り替えにも一役買ってくれている存在です。

 

いくらしめつけないとは言え、一日中わたしの皮膚の一部として頑張ってくれたタイツやスパッツを脱ぐ瞬間は、脱皮するような感覚で開放感に包まれます。その感覚も好きです。

 

そしてお風呂に入り、おやすみ前に新たな皮膚を装着します。

 

それが「冷えとり絹綿スパッツ」。これを足に通した瞬間から、わたしはおやすみモードに入ることができます。

先ほどから「皮膚を装着」など少し不気味な表現をしてしまっていますが、決して言い過ぎではないのです。

 

というのも、こちらのスパッツは肌に接する内側部分が絹の糸で編まれています(外側は綿の糸)。

 

絹は、“人肌”の成分に近いタンパク質でできた繊維。つまり「皮膚を装着」と言っても過言ではないのです。履き心地は優しく「し~っとり」「とろ~ん」 。吸放湿性、保湿性、保温性に優れていることが、この履き心地につながっていると感じます。

 

丈も長めでかかとまで覆えるところも嬉しいです。

 

よくよく考えてみると四六時中スパッツやタイツとともに過ごしてきたわたしの人生。単なる消耗品ではなく、一緒に育んでいく身体の一部のような感覚をもたらしてくれる、わたしの愛用品です。
 

中川政七商店 二子玉川ライズ店 辻川
 


<掲載商品>
冷えとりふくらはぎウォーマー
しめつけないタイツ ウール

「3月のライオン」に登場する将棋駒は退会駒?道具の秘密を追って

「ハチミツとクローバー」で知られる羽海野チカさんによる人気漫画『3月のライオン』。

2017年には実写版映画が公開され話題となりました。若き天才ともてはやされる17歳のプロ棋士を描いたこの作品。ストーリーはもちろんですが、やっぱりさんち読者の工芸ファンの方々は、対局のシーンで使われている美しい将棋駒が気になったのではないでしょうか。

どこで、どんな風に生まれ、どんな物語が隠されているのか。劇中で登場する美しい将棋駒について、映画の装飾を担当された渡辺さんにお話を聞いてきました。

©2017映画「3月のライオン」製作委員会
©2017映画「3月のライオン」製作委員会

-映画で使われている駒は、シーンによって使い分けられているのですか?

「ほとんどの対局のシーンで将棋連盟のものや実際の棋士の先生がお持ちのものをお借りしましたが、その中で3つ、特別なものを用意しています。

映画前編(映画は前後編の二本立て)の冒頭・名人戦の対局時、映画後編のラストの対局時、そして神木隆之介さん演じる主人公の桐山零くんが自宅で使っている駒の3つです。

どのシーンも映画で非常に重要なシーンだったり、想いの込もる道具なので、きちんと選んで用意したものを使いたいなと思っていました」

主人公の将棋駒に隠された秘密

©2017映画「3月のライオン」製作委員会
©2017映画「3月のライオン」製作委員会

-主人公が自宅で使っている駒は、物語の中でも重要な役割がありますよね。

「桐山零くんの駒は実際に使ったものが今ありますよ。ちょっと待ってくださいね」

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「こちらです。映画本編ではほぼわからないのですが、この桐山零くんの駒には実は僕から監督に提案した隠れた設定がありまして。

将棋界には奨励会(正式名称は新進棋士奨励会)という、プロ棋士を目指す方々が所属する研修機関があるんですね。そこで四段に昇段できた、ごく限られた人間だけがプロ棋士になれる。いわば虎の穴みたいなところ。

その奨励会を退会する時に奨励会から将棋駒を贈られる「退会駒」というシステムがあるんです。

原作者の羽海野先生から、主人公の桐山零くんの実のお父さんが将棋をしていたと聞いていたので、お父さんの将棋時代の親友であり、将棋の父である幸田を通じてこれを彼に持たせようと思ったんです。それで、道具としても物語が作れるなと」

箱には桐山零くんのお父さんの名前が。
箱には桐山零くんのお父さんの名前が。

「何十年と使ってきた駒ってどんな風に経年変化するんだろうと思って、実際に色々と見せていただきました。そうすると、つげの飴色がすごくきれいで。みんなの努力の跡ですよね。

今回で言えば桐山親子の努力の跡。その重みを再現しなければと2ヶ月間かけて駒を育てました。

普通に将棋連盟の1階で販売されている比較的安価な駒なのですが、それを日焼けさせたり油を塗り込んだりしてつくっていきました」

袋もくったりと良い感じにくたびれています。
袋もくったりと良い感じにくたびれています。

良い駒を求めて向かった天童で出会った駒師

「冒頭の対局シーンでは天童の掬水(きくすい)さんの駒をお借りしました。掬水さんは将棋駒の伝統工芸士で、息子さんの淘水(とうすい)さんと親子2代にわたって将棋駒をつくられています。

掬水さんのことは商工会の方から紹介してもらって。最初、当たって砕けろで会いに行ったのが出会いです。どんな怖い方が出てくるのかと思っていたら、とってもやわらかい印象で驚いたことを覚えています。

その時は後継者育成講座も見学させていただいたのですが、『王の文字の横文字1本にどういう意味があるか考えてください』なんて授業をされていました。

一筆に対する意味を教えている。これは好きじゃないとできない仕事だなと。その場で今回の映画へのご協力を快く受け入れていただき、今回の撮影が実現しました」

画像提供/掬水
画像提供/掬水

「掬水さんの駒はすべて受注生産のフルオーダーなので、撮影では掬水さんの駒をお持ちの顧客の方にお借りすることになりました。

実際の駒を目にすると、美しさに本当にうっとりしてしまいました。指してみると、映画のシーンでも何度かクローズアップされていたように、指に“チュン”と吸い付く感覚がするんですよね。

棋士の方々は、やはり良い駒はすぐにわかるようです。現場でも『良いの用意できましたね!』なんて言われたりして。主演の神木隆之介さんも“違う”と言ってくれました。やっぱり良い道具を用意すると俳優さんたちも喜んでくれるんですよ」

冒頭の名人戦の撮影風景  ©2017映画「3月のライオン」製作委員会
冒頭の名人戦の撮影風景 
©2017映画「3月のライオン」製作委員会

ラストシーンでは実際の名人戦でも使われた駒を

「後編のラストシーンでは掬水さんの息子さん、淘水さんの駒を使わせていただきました。

お借りしていた掬水さんの駒を返却しに行った日に、ちょうど名人戦が天童で行われていたんですよ。そこでね、迎えにきてくださった掬水さんから『今日の名人戦では息子の駒が使われているんですよ』なんて話を聞いて。

おめでとうございますと言いながら、なかなか技術が継承されなかったり後継者の問題がある中で、この美しい駒を2世代で作っているのがすごいなと改めて思ったんです。

そこで、ラストシーンの駒はもう他のものを用意していたのですが、息子さんの淘水さんの駒をラストシーンのためにお借りできないかってお願いしてみました。その時もダメもとだったのですが、是非にと言っていただいて。

でもまた受注生産なので、どうしようと思ったら『今日名人戦で使っているものをどうぞ』と。もうね、持って帰るのも緊張ですよ。実は掬水さんの駒の時もそうだったのですが、新幹線の中でずーっと膝の上に置いて、トイレにも行けない(笑)

その日の名人戦では佐藤天彦(あまひこ)さんが羽生善治さんに勝ってタイトルを奪取した。まさに時代を変えた駒です。そんな駒を大切なラストシーンに用意することができて、本当におふたりには感謝しています。是非天童にも行かれると良い。おふたりの駒は本当に美しいですよ」

-ありがとうございました。行ってきます!


将棋駒と温泉のまち、天童へ

渡辺さんのお話を聞いて、映画の裏にもこんな物語があったとは、と驚きも冷めやらぬまま天童へ。東京駅から新幹線で3時間、車窓からはまだ残る雪景色を見ることができました。

さくらんぼの木に囲まれた、天童駅からほど近い工房にお邪魔すると、渡辺さんの言っていた通り、とても穏やかな空気で掬水さん、淘水さんのおふたりが出迎えてくれました。

穏やかな笑顔で語る掬水さん。

どうぞ、と早速見せていただいたのは淘水さんの駒。先の名人戦と映画後編のラストシーンで使われた作品です。まさにうっとりするような美しさで、そっと触れるだけで緊張してしまいます。

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将棋駒は製作方法によってスタンプ駒、書き駒、彫り駒、彫り埋め駒、盛り上げ駒と名称が異なります。

スタンプ駒と書き駒はその名の通り、木地に直接文字をスタンプ、もしくは書いたものです。彫り駒は文字を彫って漆をいれたもの。彫り埋め駒は、彫った文字の部分に漆を塗り込み、研いで平滑に仕上げたもの。

盛り上げ駒はその上にさらに文字を漆で盛り上げた最高級品で、タイトル戦で使われるのは盛り上げ駒。掬水さんと淘水さんが作られているのもこの盛り上げ駒です。

それぞれの工程ごとの駒。
左が彫り埋め駒、右が盛り上げ駒。

お話だけではわからないでしょう、と実際の作業も見せていただきました。居心地の良いあたたかい作業場で、現在は掬水さんの娘さんも含めて3人で作業を行なっているそう。とは言っても分担や流れ作業ではなく、ひとりがひとつの駒を担当し、最初から最後まで作っていくのだとか。

製作途中の彫り駒。

駒の木地は伊豆七島のひとつ、御蔵島(みくらしま)のツゲを5年ぐらい乾燥させて使っています。もともとかたく、密度の高いツゲの木地を、陶器の道具で艶出しと木の導管をつぶしてなめらかにしていきます。

そのほかにも山形の刃物、自身で調整して使う蒔絵用の細筆など、ひとつひとつ大切に手入れされている道具を見せていただきました。

この筆を職人さんが自身で調整して使うのだそう。

盛り上げの作業は1枚あたり15分ほど。蒔絵用の細い筆を使って、慎重に慎重に文字を描いていきます。まさに職人技です。

完成した美しい盛り上げ駒。

駒の美しさはもちろん、掬水さん、淘水さんのやわらかいお人柄にも魅せられて、工房を出て帰路につく頃にはすっかり盛り上げ駒の虜になってしまいました。まだ映画を観ていない方は、ぜひちいさな将棋駒たちにも注目してみてください。


3月のライオン

【前編】公開終了
【後編】公開終了

監督:大友啓史
出演:神木隆之介 有村架純 倉科カナ 染谷将太 清原果耶 佐々木蔵之介 加瀬亮 伊勢谷友介 前田吟 高橋一生 岩松了 斉木しげる 中村倫也 尾上寛之 奥野瑛太 甲本雅裕 新津ちせ 板谷由夏 伊藤英明 豊川悦司
原作:羽海野チカ「3月のライオン」(白泉社刊・ヤングアニマル連載)
配給:東宝=アスミック・エース

映画公式サイト 3lion-movie.com

掬水さんのブログ
http://kikusuinokoma.blog.fc2.com

文/井上麻那巳
※こちらは、2017年3月31日の記事を再編集して公開しました。