【ハレの日の食卓】山と川と家具とお菓子・中峰さんの「ガトーショコラ」

季節の行事や家族の誕生日、人生の節目になるようなタイミング。
ハレの日は、食卓もいつもより少し特別です。

この記事はそんなハレの日の過ごし方が気になって企画した、この時期だけの短期連載。
暮らしを楽しむ作り手さんに、どんな料理でハレの日の食卓を囲んでいるのか教えていただきました。

今回は、奈良県東吉野村で家具工房とカフェが併設した場を夫婦で運営する、中峰さんの「ハレの日の食卓」を訪ねます。

今回の取材先:

MINE PRODUCT & FURNITURE 中峰渉さん / Little oven 中峰瞳さん

山と川と家具とお菓子。奈良県・東吉野村で、家具工房とカフェが併設した場を夫婦で運営。夫の渉さんは、中川政七商店 奈良本店で扱う神棚も製作。今回のガトーショコラは、妻の瞳さんが営むカフェでも提供する。
https://mine-littleoven.com/


渉さん:

もともとは飛騨高山の木工家具メーカーに務めていて、その後、会社員生活を経て東吉野村に移住しました。

飛騨高山での仕事は楽しかったんですが、地元である関西に戻りたいなと思って。でも転職活動をしたものの、家具の製作に携われる企業となかなか縁がなかったんですよね。であれば一度会社員をやってみようと、家具とは全く異なる分野の企業に就職しました。ただ、木工に全然関わらなくなるのは寂しいので、自由に作業できる場所を探していて。そんなときに知人の紹介で出会ったのが東吉野村です。

それから5年くらいは、平日は兵庫で会社員、休日は東吉野村で趣味の家具製作という日々。最初は自宅の家具を作る程度だったんですけど、ありがたいことにいろんな方からの注文も増えてきて。忙しくなり体力的にも働きかたを見直そうかなと、移住と独立を決意して今に至ります。

今は自宅から歩いてすぐの場所に、僕が家具を製作する工房と妻が営むカフェを併設した場所を設けています。もともと僕が使っていた工房に少しスペースを増築して、カフェをオープンした形ですね。

一部、中川政七商店さんに販売いただいている神棚なども作っていますが、仕事のほとんどはオーダー家具の製作。お店や個人宅問わず、机や棚、椅子などの依頼をお受けしています。

手前が中川政七商店の奈良本店で販売している、神棚のサンプル
自宅には渉さんが作った家具が並ぶ。こちらの本棚は最近作った品

瞳さん:

工房横のカフェでは季節の果物を使ったケーキや、今回紹介するガトーショコラなどの生菓子と焼き菓子を中心に、プリンや珈琲などもお出ししています。もともとケーキ屋さんやパン屋さんで働いた後、数年間は子育てをしながら自宅で小さいお菓子教室を時々開いたり、イベントに出店したりしていて。移住して子育てが少し落ち着いてきたタイミングで、3年ほど前にお店を開いたんです。

今は月火水で仕込みをして、木金土の3日間お店を開いています。お店には県外の方が来てくださることもあれば、村内の方や移住者の方も来られますね。クリスマスや誕生日のホールケーキを作らせていただくことも多くて、お役に立ててとっても嬉しいです。

奥が瞳さんの営むカフェスペース、手前が渉さんが仕事をする工房スペース
お店の外観。右がカフェ、左が家具工房(画像提供:中峰さん)

渉さん:

「地方への移住」と聞くとハードル高く感じる方もいらっしゃると思うんですが、僕たちの場合は、僕がしばらく週末だけ過ごしていたこともあったので、わりとギャップなく東吉野村での暮らしになじめました。コンビニが遠いことも、もともと知ってたしね(笑)。いろいろ遠くて不便もあるけど、住んでみたら意外となじみますよ。コンビニがなくてもそれならそれで潔く暮らせるし、僕の仕事柄、大きな音も出てしまうので逆にこの環境はありがたいですね。

瞳さん:

うん、ストレスはないですね。村の皆さんの人柄もいいし、適度な距離感で応援してくださるので心強いです。秋になると「栗が採れたよ」って電話がかかってきたり、釣り好きのご近所さんからその日釣れた魚を頂いたり、そんな、街中に住んでいるときにはあまりなかった旬の豊かな暮らしを楽しんでいます。

窓から見える、茶畑(手前)と栗の木(奥)
愛犬の小梅ちゃん。毎日、一緒にお店へ出勤する

中峰さんの、ハレの日の食卓

瞳さん:

うちは、お正月は実家に帰るのでおせち料理は作ってなくて。クリスマスは自分が(お店で)作る側に回るので疲れ果てちゃって、しっかり準備をできるほどの余裕もないから、お店で余ったケーキを持って帰って、余った材料でサンタクロースをちょこっと作って載せるとか、その程度(笑)。だから、ハレの日の食卓と聞いて一番先に浮かぶのは娘の誕生日です。

娘が二人いるんですが、上の子は特に、生クリームが好きじゃなくてチョコレートが好き。だからガトーショコラのリクエストがよく入ります。

渉さん:

誕生日だからケーキ以外の料理にも気合いを入れたいんだけど、子どもからは普段食べない某店のフライドチキンとかの希望が入る(笑)。いつもは飲食店が近くにないから食事は家で作るんですけど、イベントのときは普段食べられないものが食べたいんでしょうね。

瞳さん:

だからだいたい娘の誕生日はメインを買ってきて、スープや副菜を作って、ケーキも置いて皆で祝ってます。

ガトーショコラのレシピは娘が小さい頃からずっと作っているもの。お店で出しているレシピと一緒で、お酒は入れないようにして、いろんな世代の方に食べていただける味わいに仕上げています。

中峰さんの「ガトーショコラ」

材料(直径15cmの丸型1台分):

・チョコレート(ビター)…70g
・無塩バター…45g
・生クリーム…45ml
・ココアパウダー…40g
・薄力粉…15g

A卵黄…3個分(約50g)
Aグラニュー糖…30g

B卵白…4個分(約130g)
Bグラニュー糖…60g

準備:

・オーブンを170度に予熱する
・ココアパウダーと薄力粉は合わせて振るっておく
・型に製菓用ペーパーを敷く

作りかた:

1. チョコレートを細かく砕く。バター・生クリームと共にボウルに入れ、湯煎で溶かす。

2. 別のボウルにAを入れて混ぜ合わせたら、1へ加えて軽く混ぜておく。

3. 次にメレンゲを作る。
 Bの卵白にBのグラニュー糖を少し入れ、ハンドミキサーで混ぜて馴染ませる。
 残りのグラニュー糖を入れ、ツノがやさしくおじぎする程度まで泡立てる。

4. 2に3のメレンゲをひとすくいほど入れてヘラで少し混ぜ、
 振るっておいた粉を入れてしっかり混ぜる。
 残りのメレンゲを入れ、泡が潰れないようやさしく混ぜ合わせる。

5. 4を型に流し入れ、オーブンで35分ほど焼く(湯煎焼きにすると、しっとりと焼き上がる)。

6.  型ごと冷蔵庫で1日寝かせて完成。2日後くらいがおいしく食べられておすすめ。

使った商品はこちら:

・(写真中央)HASAMI プレート イエロー
※その他は取材先私物

文:谷尻純子
写真:奥山晴日

【旬のひと皿】根菜と鶏つくねの生姜のスープ

みずみずしい旬を、食卓へ。

この連載「旬のひと皿」では、奈良で創作料理と玄挽きの蕎麦の店「だんだん」を営む店主の新田奈々さんに、季節を味わうエッセイとひと皿をお届けしてもらいます。



ひんやり冷えた空気のなか、台所に立つ湯気にホッとする季節になりましたね。12月に入り、2023年ももうすぐ終わり。「早かったね〜」とお客さんとお話ししながら、今年も無事に過ごせてきたことをありがたく思います。

一年頑張ってきた身体に「おつかれさま」の気持ちを込めて、今回は根菜から出る、やさしく奥深い味を楽しめる、鍋のようなスープを作ります。

野菜に火を入れるときは焦らずじっくりと、蓋をしながら蒸らすように。甘さを引き出してから出汁を入れて、出汁に野菜の旨味を重ねていきます。

お出汁は今回、お店で使っている数種類の節を入れた、通常より濃いめのものを使用しましたが、ご家庭では普段お使いの出汁でどうぞ。出汁の味は使う材料や好みの濃さなどによってそれぞれ違うので、ご家庭ごとの味ができあがると思いますが、出汁と野菜の旨み、それにつくねから出る鶏出汁の三重奏が、皆さまの身体の芯や心まで届くといいなと思っています。

師走は様々なイベントも多い時期ですが、どうかお身体にはお気をつけて。無事に年越しをするまでは気を抜けません‥‥。蕎麦屋だけに!(笑)

今年も良い締めくくりができますように、来年も皆さまにとって良い年になりますようにと、奈良から願っています。

少し早いご挨拶になりますが、旬のひと皿、2024年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

<冬野菜と鶏つくねのスープ>

材料(2人分)

・大根…1/4本
・にんじん…1/2本
・ごぼう…1/2本
・青ねぎ…2〜3本
・生姜…1かけ
・出汁…3~5カップ 
・塩…小さじ1弱〜お好みで調整

◆鶏つくね
・鶏ミンチ肉…150g
・白ねぎ…1/4本
・生姜…5g
・卵…1/2個
・塩…1.5g(お肉に対して1%)
・片栗粉…小さじ1強

つくねの材料は2人分の分量で書いていますが、卵 1/2個と中途半端なので、すべて倍量で作り、余った分は次の日のおかずやお弁当にしても。

また出汁の量は、スープとして食べたい場合は3~4カップ程度を目安に。まずはスープとして食べ、その後にご飯を入れ雑炊まで楽しみたい場合は4~5カップ程度とするのがおすすめです。適宜味見をしながら塩味を調えてください。

作り方

まずは材料の下準備。

ごぼうは皮をそぎ、食べやすい大きさで千切りにする。ボウルに入れた水に10分ほど浸し、アクを抜く。大根と人参は皮を剥き、同じく食べやすい大きさに千切りする。青ねぎも食べやすい長さになるよう、ざっくりと斜めに切る。

次に鶏つくねを作る。

白ねぎをみじん切りにし、生姜は皮をむいてすりおろす。ボウルに鶏ミンチ肉を入れて少し練り、粘り気が出たら白ねぎと生姜、溶いた卵、塩、片栗粉を加えてさらに混ぜる。

別の鍋にたっぷりの水を入れてコンロで熱し、沸騰したらつくねをスプーンですくい、湯に落としてサッと湯がく。表面が白っぽくなったら湯からあげておく。

続いてスープを作る。

鍋を熱し、サラダ油(分量外)少々を入れる。ごぼうの水分をしっかり切って鍋にこんもりと入れ、塩少々(分量外)を入れたら蓋をして、弱火でじっくりと汗をかかせるように火を入れる。時々かき混ぜながら炒め蒸しする。

すべての材料をスープで煮込む。

ごぼうを1本食べてみて、アク臭くなく美味しい!と感じたら、鍋ににんじんを加えて全体を混ぜ、塩(分量外)をする。蓋をしてじっと待ち、人参がしんなりしてきたら大根も入れて同様に。野菜をサウナに入れている気分で。ここでちゃんと野菜の甘味を引き出せると、スープの味もグッとよくなる。すべての野菜に軽く火が入ったら、出汁と塩を加えて煮る。

先ほどのつくねをスープのなかに落とし、じんわりと火を入れる。つくねはしっとり、スープには鶏の出汁を染み渡らせるような気持ちで。つくねに火が通ったら、最後にねぎと生姜を入れて完成。

アレンジ編:<シンプル雑炊>

余ったスープは冷蔵庫に入れて取って置き、翌朝にごはん適量と溶いた卵を入れて軽く火を通し、雑炊に。シンプルですが、冬野菜の旨みがじんわりと感じられるご馳走が完成します。
(食べる前に、翌朝用にスープだけ取り分けておくと衛生的です)

うつわ紹介

・基本のひと皿:食洗機で洗える漆のスープボウル 大 白

・調理に使った土鍋:伊賀焼の土鍋 小 飴

写真:奥山晴日

料理・執筆

だんだん店主・新田奈々

島根県生まれ。 調理師学校卒業後都内のレストランで働く。 両親が母の故郷である奈良へ移住することを決め、3人で出雲そばの店を開業する。  
野に咲く花を生けられるようになりたいと大和末生流のお稽古に通い、師範のお免状を頂く。 父の他界後、季節の花や食材を楽しみながら母と二人三脚でお店を守っている。

【ハレの日の食卓】綴織の織元・清原織物さんの「車エビのトマトクリームパスタ」

季節の行事や家族の誕生日、人生の節目になるようなタイミング。
ハレの日は、食卓もいつもより少し特別です。

この記事はそんなハレの日の過ごし方が気になって企画した、この時期だけの短期連載。
暮らしを楽しむ作り手さんに、どんな料理でハレの日の食卓を囲んでいるのか教えていただきました。

今回は、滋賀県唯一の綴織(つづれおり)の織元・清原織物さんの「ハレの日の食卓」を訪ねます。

今回の取材先:

清原織物 代表 清原聖司さん
滋賀県唯一の綴織の織元。結納のふくさや着物の帯、劇場のどんちょうなど、ハレの日に使われる美術織物を古くから製造する。近年は「祝いの品々」をコンセプトにしたブランド「sufuto(すふと)」を立ち上げ、中川政七商店でも名刺入れやふくさを販売中。
https://kiyoharaorimono.jp/



清原さん:

室町時代の終わりから江戸時代の始まり頃にご先祖様が京都で創業し、100年ほど前に京都から滋賀へ事業所を移して以降、現在は滋賀で唯一の綴織の織元として商いをしています。

綴織は4000年ほど歴史があると言われている織物で、起源を遡ると古代エジプトまで遡るほど。それが飛鳥・奈良時代にシルクロードにのって中国から日本に入り、京都の御室(おむろ)という地域に根付きました。うちももともとは、そこで始まっています。

織物の特徴としては経(たて)糸が見えないこと。織物は経糸と緯(よこ)糸を交差させて織りあげていきますが、緯糸を強く打ち込んで織ることで経糸が見えなくなるんです。密度高く織るので生地が丈夫になりコシも出て、耐久性がある。おまけに使える色の数に制限がなく豊かな表現力を持つため、美術織物に向いているといわれます。例えば御神輿の装飾幕や舞台の緞帳(どんちょう)、着物の帯、結納の袱紗(ふくさ)など、主にハレの場に利用されている織物です。

その他に、今はこの技術をもっと多くの方に気軽に触れてほしい想いから、「祝いの品々」をコンセプトに「sufuto」というブランドを立ち上げました。10年程前に家業に入って目の当たりにしたのは、綴織の需要減少。このままだといけないと危機感を持ち、100年先にも綴織を残していくため、新たな事業を検討したいと考えたことがきっかけです。

sufutoでは今、名刺入れや袱紗、のし袋・ぽち袋などを扱っています。多くの方にハレの日の雑貨として手にしていただけるようなものを作りたいと考えて、綴織の技術で作る布製品だけでなく、祝いをテーマに商品展開の範囲を広げたんです。普段の暮らしで美術織物を目にする機会は多くない方も、sufutoを通じてハレの日に想いを馳せたり、その先にある当社や綴織に興味を持ってくださると嬉しいですね。

清原織物さんの、ハレの日の食卓

清原さん:

うちの“ハレの日”といえば、お正月や卒入学式。今はもう子どもが大きいんですけど、昔は卒入学式などのタイミングで実家に集まり、赤飯やちらし寿司を食べていました。

年末年始は大みそかの昼間から、工場や自宅の分の鏡餅や食べるお餅を子どもたちと作ってましたね。子どもたちが大きくなってもお正月には集まっているので、実家でおせち料理を食べたり、自宅で料理を作って囲んでいます。

今回ご紹介するのは、数年前からお正月の定番となったメニュー。沖縄にあるお取引先さんから毎年お歳暮でいただく車エビを使った、トマトクリームパスタです。糸を生業にしているので、パスタが糸っぽくて清原織物らしいかなと思い、紹介するメニューに選びました(笑)。

沖縄は車エビの養殖が盛んらしく、年末になると生きたエビをたくさん送ってくださいます。頂いたエビはおせち料理に使うんですが、それだけだと余ってしまって。せっかく頂いた美味しい食材なので別の料理にもアレンジしたいと思い、ちょっと豪華なパスタにして家族で楽しんでいます。

作るのはだいたい元日の夜や、2日のお昼くらいのタイミング。家族に向けて僕が作っていて、おせち料理に飽きてきているのか(笑)、みんな喜んで食べてくれますね。エビの頭も一緒に煮込むので出汁たっぷりで、ハレの日ならではの贅沢なメニューです。

清原織物さんの「車エビのトマトクリームパスタ」

材料(2人分):

・パスタ…200g
・車エビ…10尾
・にんにく…2片
・玉ねぎ…大1/2個
・トマト缶(ホール)…1缶
・生クリーム…100ml
・コンソメ(顆粒)…小さじ4
・塩…適量
・胡椒…適量
・オリーブオイル…適量

作り方:

1. エビは頭と身に分け、身部分の殻をむく。背ワタをとり、食べやすい大きさに切る。

2. にんにく、玉ねぎをみじん切りにする。

3. フライパンにオリーブオイルとにんにくを入れて弱火で熱する。
 香りがしてきたら玉ねぎを入れて中火でしんなりするまで炒める。

4. エビの身を加えて炒め、トマト缶をあけてトマトを潰す。
 エビの頭とコンソメも加え、5分ほど煮込む。

5. 塩胡椒をして生クリームを加え、1分ほど煮込んだらエビの頭を取り出す。

6. かために茹でたパスタを投入したら火をとめ、全体をあえたら完成。
 うつわに盛る際、お好みで胡椒をする(今回は彩りでスプラウトも添えました)。

使った商品はこちら:

小鹿田焼の平皿 飴刷毛目 浩二窯
パスタのためのフォーク
※その他は取材先私物

文:谷尻純子
写真:奥山晴日

年末特別連載【ハレの日の食卓】:暮らしを楽しむ、4組の作り手さんを訪れました

季節の行事や家族の誕生日、人生の節目になるようなタイミング。
ハレの日は、食卓もいつもより少し特別です。

この連載はそんなハレの日の過ごし方が気になって企画した、この時期だけの短期企画。
暮らしを楽しむ4組の作り手さんに、どんな料理でハレの日の食卓を囲んでいるのか教えていただきました。

全4回、どうぞお楽しみに。


第1回:綴織の織物・清原織物さんの「車エビのトマトクリームパスタ」

https://story.nakagawa-masashichi.jp/257082

第2回:山と川と家具とお菓子・中峰さんの「ガトーショコラ」

https://story.nakagawa-masashichi.jp/257073

第3回:美濃焼の窯元・蔵珍窯さんの「ちらし寿司」

https://story.nakagawa-masashichi.jp/257079

第4回:奈良の茶農家・嘉兵衛本舗さんの「番茶ぜんざい」

https://story.nakagawa-masashichi.jp/257076


皆さまのハレの日が、どうか良き日となりますように。

【家しごとのてならい】第4回:漆器を扱いこなす

毎日の家しごと。それなりに何とかできるようになり、だいたいは心得たつもりだけれど、意外と基本が疎かだったり、何となく自己流にしていたりするものってありませんか?

そのままで不都合はないものの、年齢を重ねてきたからこそ、改めて基本やコツを学んでみたい。頭の片隅にはうっすら、そんな思いがありました。

この連載では、大人になった今こそ気になる“家しごとのいろは”を、中川政七商店の編集スタッフがその道の職人さんたちに、習いに伺います。

とはいえ、難しいことはなかなか覚えられないし、続きません。肩ひじ張らず、構えずに、軽やかに暮らしを楽しむための、ちょっとした術を皆さんにお届けできたらと思います。

今回のテーマは「漆器を扱いこなす」。越前漆器の老舗・漆琳堂の8代目当主であり、越前漆器伝統工芸士の内田徹さんを講師に迎え、編集チームの谷尻が習いました。


今回の講師:漆琳堂 代表取締役社長 内田徹さん

1976年福井県生まれ。 大学卒業後に家業で今年で230年目を迎える漆琳堂に入社。 10年余り祖父・父から漆器製造の下地・塗りを習い、 産地最年少で越前漆器伝統工芸士に認定される。 2019年漆琳堂の代表となり、現在に至る。
https://shitsurindo.com/



そもそも、漆とは

漆とは、ウルシの木の樹液を原料とする天然塗料のこと。自生しているウルシを傷つけることで樹液が流れ、それを集め精製して作ります。

人間がケガをすると血が出て、治癒に向けてかさぶたが出来るのと同じで、ウルシの木も傷がつくと樹液を流し、傷を修復するために固まる性質を持ちます。これを利用してうつわの塗膜として塗ったり、金継ぎのように接着剤として使われたりするのです。

ウルシの木(撮影:廣田達也/読みもの「漆は甘い、のか」より)

国内の漆は95%ほどが中国産、5%ほどが日本産。原料価格の安いことが理由ではなく、その質や採れやすさなどの理由で、100年以上前から中国産漆は使われてきました。ちなみに、日本産の漆は岩手県や茨城県で採られます。

漆の産地が中国や岩手・茨城にありながら、日本における漆器の産地は石川県(輪島塗・山中塗)や福井県(越前漆器)など、別の場所にあります。これは、漆の精製技術がそれらの産地ですぐれていたこと、また漆は湿気で固まるため、曇天で湿度の高い日が多い東北や北陸の地域に産地が集中したからといわれます。

内田さん:
「実は漆器は陶磁器と違い、材料や見た目、作り方が産地ごとに大きく異なるわけではありません。それは木地屋さん(きじや:木を削り、塗る前のうつわを作る職業)が全国の山を渡り歩いて漆器を作っていたことや、陶磁器のなかった時代にどの地域でも木を削って漆器を食事に使っていたことが主な理由です。ただ、越前漆器の場合は日用品や業務用、山中漆器だとギフト用、輪島塗だと美術工芸がそれぞれ多いなど、発展の仕方に傾向はありますね」

漆器の良さは、熱の伝導率が低いので熱いものを入れてもうつわが熱くならないこと。熱いものは熱いまま、冷たいものは冷たいまま食べられます。また陶磁器に比べて軽くて割れにくいのも漆器ならでは。漆を塗ることで強度が増すため、丈夫で長持ちするのも嬉しいところです。

一般的には汁物用としてのお椀のイメージが強いものの、かつてはご飯をよそう際の飯椀としても多く使われており、ご自身も家では漆器にご飯をよそっている、と内田さん。

「漆には衛生的にも効果があると言われており、洗い残した部分があっても菌が増えにくいという研究結果もあるようです。昔からお正月には漆器の重箱が使われますが、それももしかしたら、料理が長持ちする実感があったのかもしれませんね」

参考:うるし振興研究会による検証結果

育ていけるのが、漆器の楽しさ

また徐々に固くなっていく性質も、漆の特徴の一つ。一般的な化学塗料の場合は塗った日が一番美しく、その日から劣化の始まるものが多いのですが、漆の場合は「100年かけて硬化する」といわれています。つまり、私たちが手にする漆器はまだ育つ過程のもの。次の世代へ渡ったときが、一番ベストな状態かもしれません。

内田さん:
「最近嬉しかったのは、お客さまから修理の依頼をいただいたうつわの育ち方。中川政七商店さんの『食洗機で洗える漆椀』の塗り直し依頼だったのですが、手元に届いたものを見て、表面にツヤが増しているサマがすごくいいなと思いました。恐らく、ふきんなどで水分を拭き取ったりしているうちに漆の粒子が磨かれ、ツヤが出てきたんだと思います。大切に使ってくださったんだなって、とっても嬉しい気持ちになりました。お客さまに『新品をお渡しするんで、これはうちに頂けませんか?』と申し出たくらいです。

もちろん塗り直しで新品同様の見た目にもできますが、うつわの表情が変わっていくのも育てる楽しみの一つです」

左が5年間使用されたお椀、右が新品

【漆器を扱いこなす】其の壱:選び方

漆の基本を押さえたら、次に選び方を伝授いただきます。せっかく迎えるからには、自分にとってのベストなものを選びたい!どんな視点で求めるとよいのでしょう。

サイズ

まずは意外と難しいサイズから。日本料理店ではお吸物のお椀として、4寸(直径約12cm)が基本とされています。両手の親指と人差し指でお椀にちょうど手が回るくらいが、4寸の目安。

一般家庭でも昔はこのサイズを使うことが多かったそうですが、ただし、それはごはんと汁物、香の物が献立の主だった頃のこと。今はそこにハンバーグや野菜炒めなどのおかずも付く場合が多いため、お椀を4寸にすると献立全体の量を多く感じるかもしれません。

ご自身の食べられる量にもよりますが、今は汁物専用の場合、直径約11~12cm(3.6寸以上、4寸以下)のものを使うことが多くなっています。

内田さん:
「4寸だと具だくさんの豚汁とか、ちょっとした丼に合うサイズですね。5寸(直径約15cm)くらいだとうどんのような麺類に合うサイズになってくる。とはいえ、小さいと汁物限定になるので、多用途に使いたい場合、まずは4寸より少し大きいくらいの直径13~14cmのものを買っておくと使い勝手がよいと思います」

どんな用途に使うことが多そうか。イメージしながら選んでみましょう。

一般的にお椀は、布袋さんのお腹を横に見た形といわれる「布袋型」と、羽を反らしたような「羽反(はぞり)型」の二つが主とされます。布袋形のお椀は中腹にふくらみが出るので、汁を飲み干すときに角度をつけて持つことになり、他方、羽反型はフチが反っているので角度をつけずとも飲みきりやすいと、形によって所作が異なります。

左が布袋型・右が羽反型(写真提供:漆琳堂)

内田さん:
「羽反型だと顎を上げすぎず飲めるため、所作が美しくなると思います。また別の視点として、羽反型の場合すぐに汁が口もとへ流れてきますが、布袋形だとほどよくすすれます。だから、猫舌の人は布袋形がおすすめ、のような言い方もできますね。そんな違いを意識しながら選んでいただくといいのではないでしょうか」

加えて、もう一つ気になるのは高台の高さ。高い方が格式高いと思われる方も多いのですが、高低に用途の別はなく、好みで選んで問題ありません。

内田さん:
「もともと日本では囲炉裏の枠にうつわを置いて食事をしたり、外での田んぼ仕事の途中に草むらに置いてごはんを食べたりしていたので、持ちやすいことが高台が高くなった由来だとされています。『ハレの日の席では高くなくてはいけない』のようなことは全くなく、デザインのお好みで選んでいただいて大丈夫です」

続いては、色。漆器と聞いて思い出す色といえば、黒と赤。最近は色漆のものもよく見ます。

内田さん曰く、歴史を紐解くと黒は庶民の色、赤は高貴な色とされていたのだそう。そのためかつては、赤色の漆器は目上の人や男性用という使い分けもあったといいます。

内田さん:
「もちろん今は色による差別はなくなっていますが、赤が高貴な色だったことから、ハレの日のうつわだと僕は赤色をおすすめしています。一方で、法事のときは赤色は使わないなど、シーンに合わせて色を変えることはあると思います」

内田さん:
「あと、色の使い分けでもう一つ言うと、黒いうつわに白米を入れるとめっちゃはえるんですよ。つまり、美味しそうに見える。『黒いうつわでごはんを食べると肥える』って、昔から言われているくらいです。

一方でお味噌汁を飲み終わった後の味噌かすは、黒いお椀よりも赤いお椀の方が目立ちにくいので、汁物用には赤いお椀が広まったと聞いています。なので、ごはんをよそうなら黒、汁物なら赤、のような考え方でもいいですね」

ちなみに、漆琳堂さんが手がける漆器には、青やピンクのような色漆の商品も。生漆(きうるし)は精製すると有色透明になり、そこに顔料を加えて色を作るそうです。さまざまな色をした現代的な印象の漆器は、これまで漆器に盛られてこなかった洋食や中華にも使い勝手抜群です。

漆琳堂さんが手がける人気の「RIN&CO.」シリーズ。色展開豊富な他、高台をなくして洋食にも対応できるような形状に

なお、ツヤの有無については特に気にせず好みで問題ありません。

内田さん:
「ただ、例えば値段の張るお料理屋さんなどは間接照明がメインで少し暗いことも多いので、うつわにツヤがないと貧相に見えるんですね。なので僕たちは、ツヤのあるものをおすすめしています。反対に今の一般家庭では明るい照明がついているため、ツヤを消したマットな色のものをご提案する場合が多いですね」

重さ

お椀はだいたい100g前後。特に選び方の決まりはないので、持ちやすい重さの物を選ぶようにします。なお同じシリーズでも木の育つ環境や、手塗りの場合は漆の厚さで微妙に質量が違うこともあり得ます。可能であれば、持ってみてしっくりくるものを迎えると良いでしょう。

価格

漆器と聞くと高価なものに思えますが、現代では100円ショップや雑貨店での販売も見かけるようになりました。一方で、百貨店などでは一つ3万円ほどするような高価なものも。中川政七商店でも3000円台から、2万円弱の価格帯まで幅広く扱っています。

漆器の価格には主に、素材と塗料の組み合わせが関係します。例えば安い品は、塗料を塗る前のうつわが木ではなく、ABS樹脂のような素材で作られるため価格を抑えられるのです。また樹脂のなかでも、ピュアなものを使うこともあれば、別の用途で使われた後にリサイクルされた樹脂が使われる場合も。

さらに木地に木は使っているものの、木そのものを削るのではなく粉にして固める技法も、漆器の価格を抑えられる作り方の一つです。

内田さん:
「1000円から5000円くらいの品だと、木の粉を固めて作ったうつわに漆を塗ったものが多いと思います。現代と伝統技術のハイブリッドみたいなやつですね。

逆もあって、木地は木を削ったものだけど塗装はウレタンという場合もあります。このあたりの識別は、商品の品質表示を見ていただくのが一番です。

伝統的な木を削って作る技法のものだと、1万円以下は少ないと思いますね。

木を削って作るお椀って、そのお椀の大きさになるまで木の成長を待つしか作る術がないんですよ。『一寸倍』って言葉があって、一寸大きくなれば木地の値段は倍するといわれているほどです。なので、伝統技法で作られた大きなお椀だと3万円くらいのものもあります」

なお、一概にどれが悪い・いいという話ではありません。漆琳堂さんでも、お客さんの状況や価格別にさまざまな作り方を提案したり、挑戦したりしているそう。

内田さん:
「例えば業務用漆器であれば注文数が多く、納期が短い場合が多いため、ベストなサイズの木を探してそれを削って‥‥ってしていると時間が足りないんですね。だから木を削るのではなく、木の粉を固める技術を使ってうつわを作ることもありますよ」

<漆器を扱いこなす心得:選び方>

・サイズ:汁物専用なら直径11~12cm、多用途の場合は13~14cm、麺類に使う場合は15cmがおすすめ
・形:布袋型と羽反型が主。望む所作や、飲みやすさで自分にあったものを検討する
・色:日常では気にせず好きな色を使って問題なし。ハレの日は赤色がおすすめ
・重さ:使いやすいものを好みで選ぶ
・価格:素材と塗料の組み合わせで変わる。品質表示を確認し、自分が望むものを迎える

【漆器を扱いこなす】其の弐:扱い方

選び方を心得たら、続いて扱い方を習います。何となく扱いにくいイメージの漆器ですが、どんなポイントに注意すれば長く使って行けるのでしょう。

使用頻度

意外にも、「漆器の状態を保つには、よく使うのが一番」と内田さん。

使わないまま長期で保存するよりも、毎日使った方が健やかな状態に保てるのだといいます。高頻度で使った場合、傷みが早くなると気にされるかもしれませんが、修復サービスを使えばきれいになるので気にせずたくさん使ってあげましょう。

洗い方

中性洗剤を使い、スポンジの柔らかい部分で洗います。堅い部分は塗膜を傷つけてしまうので注意しましょう。水で洗っても問題ありませんが、うつわに付いた汚れを無理にこすると塗膜が削れるため、お湯で浮かせながら洗うのがおすすめです。汚れがひどい場合は、10〜20分ほどお湯につけてから洗うと汚れが落ちやすくなります。

ただし、長い間水につけておくと塗膜が変色する原因となるため、洗い桶に入れっぱなしにしたり、お味噌汁を入れたまま冷蔵庫で半日以上置く、などは避けてください。保存容器としては使わないようにしましょう。

また意外と見落としやすいのが高台裏の汚れ。洗う際には裏までしっかり洗うようにしてください。

なお食洗機に対応している、していないは、塗料の種類により異なります。商品パッケージや取扱説明書などを確認し、個別に判断してください。

スポンジの柔らかい部分で、やさしくキュッキュッと洗います

しまい方

しっかり乾かせるよう、食器かごに斜めに置いて水分をきります。漆器にカルキ分が残ると白い跡になり目立つので、気になる方は柔らかいふきんで拭いてから乾かすようにしましょう。布で拭くことで、もともとは不揃いな漆の粒子が均一になりツヤも増します。

長期で保存する場合は乾燥に注意。うつわ同士がくっつくのを避けるため、重ねる場合は薄い布やキッチンペーパーなどを挟み、乾燥しにくい場所に置きます。

とはいえ上述の通り、うつわにとって一番いいのは頻度高く使い続けること。2年も3年も使わないのはうつわの状態を悪くしかねないため、大切に取っておくのではなく、よく使ってあげてください。

修理

凹んだり塗膜がはがれてもご安心を。漆琳堂さんをはじめ、修復サービスをしている漆器屋さんに相談すれば、ひどい状態のものでなければ対応してもらえます。

凹みや塗膜の傷には漆を塗り直し、ヒビの場合は漆で詰め物をしてから塗装して、新品同様の表情でまた手元に戻ってきます。

内田さん:
「うちだと修理期間は4~6か月ほど。状態によって異なりますが、修理金額は購入金額の半額ほどで対応させていただいてます。長く使うために、ぜひご活用ください」

<漆器を扱いこなす心得:扱い方>

・使用頻度:頻度高く使う方が、漆器にとっては良い
・洗い方:中性洗剤を使い、スポンジの柔らかい部分で洗う
・しまい方(短期):水気をきってしっかり乾かす
・しまい方(長期):重ねる場合は薄紙などでしきり、乾燥しない場所で保存
・修理:ヒビや塗膜の剥げは修理可能。それぞれの状態にもよるので、詳しくは修理対応をする漆器屋へお問合せを

【漆器を扱いこなす】其の参:料理との合わせ方

最後に教えてもらったのは、食卓での“意外な”使い方。漆器といえばお椀のイメージが強く、お味噌汁やお吸いものは合わせる料理の定番ですが、それ以外にどんな料理に合わせられるのでしょう?

内田さん:
「汁物だけでなく、僕は白ご飯も漆器で食べます。あとは形にもよるんですけど、グラノーラを入れることもあるし、平皿っぽいものにはパスタやカレーを盛り付けたりもします。漆器は天然由来の素材かつ軽くて割れにくいので、お子さんが使うのにもおすすめです」

というわけで、まずは定番の汁物を盛り付けてみました。いつもの汁物も漆器によそうだけで、キリッとした表情になるような気がします。

汁物を入れたうつわは「食洗機で洗える漆のスープボウル 大 濃茶」、料理には「里いものとん汁」を使用

続いて別のうつわにグラノーラを入れてみました。口径が広く、少し深さのあるうつわを選べば何かと使えそうです。

「RIN&CO.越前硬漆 平椀 INDIGO03」を使用

内田さんの例にならい、カレーも合わせてみました。漆器でカレーを食べるのは初めてですが、陶磁器のうつわとはまた違った佇まいの良さが。

うつわは「RIN&CO. 越前硬漆 深ボウル L NORTH GRAY 01 」を使用。「産地のカレー 近江の黒鶏黒カレー」を盛り付けました

内田さん:
「あとはお蕎麦に使える大きさのものがあれば、ラーメンを入れるのもいいですよ。漆器は熱伝導率が低く、温かいものを盛り付けても手に持ちやすいし、料理も冷めにくいのがいいところ。ぜひ和食だけでなく、いろいろな料理に活用いただければと思います」

提案いただいた通りに、ラーメンを盛り付け。大椀があれば、麺類から丼ものまで幅広く使えそうです。熱い料理も冷めにくく、料理の美味しさをそこないません。いつものインスタント麺もちょっとリッチな印象になり、気分が上がります。

うつわは「食洗機で洗える漆椀 大椀 朱」、料理には「産地のラーメン きのこと食べたい鯛だしラーメン しょうゆ味」を使用

なお、料理に使う際は電子レンジでの使用は避けましょう。油や酸は、料理に使われる程度の量であれば心配無用。酢の物や揚げ物にも、気にせず使って問題ありません。

ただし、高温に熱した油を入れるのは傷む原因となりますので避けてください。

また汁物や、漆器を洗う際の湯の温度は、人の手がやけどしない程度であれば気にせず使って問題ありません。

<漆器を扱いこなす心得:料理との合わせ方>

・料理の種類:和食にとらわれず、洋食や中華などいろいろな料理と合わせられる。お気に入りの使い方を見つけると楽しい
・使用を避けるケース:電子レンジ調理、やけどする熱さの湯や高温に熱した油を入れるのは避ける



重厚な佇まいやお手入れが難しいイメージなどから、普段使いのうつわとしては、どうも自分にはハードルが高いと感じてしまっていた漆器。選び方や扱い方、また種類の幅や料理との相性などを教えていただくことでそんな気負いも消え、食卓への登場頻度が増えそうです。

万が一の際も修理をすれば、一生付き合っていける食卓道具に。私だけの漆器として育てていきたいと、改めて大切にしたい気持ちになりました。内田さん、どうもありがとうございました。

越前の街を見わたせる公園にもご案内いただきました。天気もよく、気持ちいいお散歩でした

<関連商品>

中川政七商店では漆琳堂さんと一緒に、普段から気軽に使える漆椀をつくっています。

食洗機で洗える漆椀
食洗機で洗える漆のスープボウル
越前漆器の豆皿
ワイズベッカー越前漆器 酒器

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その他、漆琳堂さんが手がけるオリジナルブランドの商品も多数販売中です。

RIN&CO. -北の地のものづくり-
お椀やうちだ

文:谷尻純子
写真:奥山晴日

【わたしの好きなもの】冬ならではの装いを楽しむ「かや織ニードルパンチのトートバッグ」

暑い日にはサラッとした麻や、汗をよく吸う綿素材の服を、寒い日には毛足が長くやわらかいウールニットや、生地の厚みが心強いコーデュロイを。そんな風に季節に応じて洋服を変えるように、バッグも季節ごとに使い分けたいなと思っていました。

季節のバッグと聞いて思い浮かぶのは、主に夏に活躍する籠バッグ。私も愛用者の一人です。一方、冬は?と考えてみたのですが、冬にしか使えないバッグは持っていない。手袋やマフラー、コートなど、まずは寒さをしのぐ衣服に気がいって、冬用バッグはここ数年、迎えていませんでした。

「何か、いいのないかなぁ」と探していたところ、出会ったのがこの「かや織ニードルパンチのトートバッグ小」。もこもこの見た目がいかにも秋冬用で、これはいいかも!と思い、さっそく使ってみたので、お気に入りポイントを紹介させてください。

①冬の景色を思わせる佇まい

一番気に入っているのは、何といっても冬の景色のような佇まい。こちらのバッグは“木枯らし”をイメージした「薄茶」と、“雪道”をイメージした「薄墨」の二色展開で、私は薄茶を使っています。

薄墨

確かに、ベージュのウール生地とななめに縫われた白いかや織生地の組み合わせは、寒々しい日にピューッと吹く木枯らしのような表情。そんなそっけなさや荒々しさを感じつつも、あたたかみのある素材感やころんとしたまるいフォルムがほどよく柔和にしてくれるので、全体的にはやさしい印象です。

ちょっぴりスパイスのきいたデザインで、ナチュラルなコーディネートのときにも、少しエッジをきかせたコーディネートのときにも、どちらにも活躍。シーズンが限定されるバッグは、せっかくなのでその時期にたくさん使っておきたいと思う派なのですが、しっかり出番の多いバッグになってくれました。

秋冬らしいこっくりした色のワンピースにも合って、使いやすい!

②軽くてふかふかの持ち心地

初めてバッグを手にしたとき、「何これ!ふかふか!!!」と心の声が。想像以上に生地がやわらかく、ふと撫でたくなるほどです。写真で見ていたときは「ウールだし、ちょっとごわごわした生地なのかな?」と思っていたのですが、もう一度言います。ふかふかでした。

特に好きなのは持ち手。やさしい肌あたりかつ、厚みのある生地、おまけに幅広なので、手に食い込む感じがなく、何なら触れている部分があたたかい。「持つだけで癒されるバッグ」なんて、キャッチコピーをつけたいくらいです。

このふかふかを実現できたのは、ウール生地の中にもこもことした綿を入れているから。ふんわり、ふかっとした佇まいと持ち心地は、そんな隠し技によるものなのです。

荷物が少し重いときはバッグを肘にかけて持つのですが、もちろんふかふか。持ち手が細いものだと、重い荷物を入れたら紐がぐいぐいと肌にめり込む感覚があり、家に帰って肌を見ると、紐を持っていた部分が赤く跡になっている‥‥という経験も一度や二度ではないのですが、このバッグは肌への食い込みはノーストレスでした。

③コンパクトながら、必要なものがしっかり入るサイズ感

私がいつも持ち歩くのは、財布とスマートフォン、ハンカチ、家のカギ、小さめの化粧ポーチ、そして本。ちょっと時間が空いたとき、SNSを見たい日もあれば、小説やエッセイが読みたくなることもあり、本は常に2冊ほど持っているので少し荷物が多いのが悩みです。

そのため大きめのバッグを使うことが多いのですが、コンパクトなバッグを持つことにも憧れる。「ちょっと小さいかな~?」と思いつつ荷物を入れてみると‥‥、嬉しい!しっかり入りました!!

何なら少しゆとりがあるので、水筒を持ち歩くのも、外出先でちょっとした物を購入して入れるのも、外した手袋やカイロを入れておくのもへっちゃら。思ったよりも大容量でした。

また全体はもこっとしたシルエットですが、重さのある布ではないため、カバン本体の重さに関してはまったく気になりません。この軽さは結構驚きなので、できるものなら皆さんにも一度、手に持ってみていただきたいくらいです。

軽くてコンパクトなのにしっかり荷物も入るとは、頼もしい限り。ちなみに同シリーズには「トートバッグ大」「ポーチ」「ポシェット」など、形や大きさを変えたラインナップもあるので、それぞれのお好みや用途にあった一つを選んでいただけます。

④アップサイクル商品を使える嬉しさ

最後に一つ、使用感ではないのですが、お伝えしたいこと。このバッグ、実は中川政七商店の定番商品である、かや織ふきんの端材をあしらって作られています。

使用したのはニードルパンチという加工技術。剣山を思わせる無数の針で生地を刺し、重ねた生地の繊維を絡み合わせて結合する加工方法です。

ふきんを製造する際にはどうしても一定量、生地の端材が発生します。通常は廃棄へ向かうのですが、せっかく作るものは、できるだけ有効活用したい。そんな一人のデザイナーの想いがこの商品へと至りました。

ものの寿命を延ばしたり、最後まできちんと使い切ったりすることに想いがいく最近。自分が使うものがその貢献になっていることに、少し誇らしい気持ちを持てたりするのです。

せっかく四季の巡る日本。うだるような暑さの夏にも、身体が芯から冷える冬にも、その時期にしか出会えないお洋服やバッグで、季節が移ろうことの楽しさを感じていけたらなと思います。


<掲載商品>

かや織ニードルパンチのトートバッグ小 薄茶

編集担当:谷尻