仙台で見つけたユニークなお土産。こけしのしまぬきの「通信こけし」と「仙台張子」

わたしたちが全国各地で出会った “ちょっといいもの” を読者の皆さんへ紹介する “さんちのお土産”。

今回は、宮城県仙台市で見つけた、かわいい郷土玩具土産2つをお届けします!

仙台の中心にある老舗「こけしのしまぬき」

伺ったのは、仙台の中心、アーケード街に本店を構える明治25年創業の老舗・こけしのしまぬき。もともとは煙草屋さんでしたが、お店に飾っていたこけしが人気になり、次第に専門で扱うようになったそうです。

大きなこけしがお出迎え
レトロな看板も味があります

こけしをポストに直接お届け!通信こけし

東北地方の伝統的な工芸品であるこけし。江戸末期から明治にかけて、温泉地の土産物として広く普及しました。

もともとは子供用のおもちゃとして親しまれてきましたが、近年ではコレクションを楽しむ人も増えていますね。こけしを愛好する女性を指す「こけ女」という言葉も生まれるほど盛り上がりをみせています。

伝統こけしは産地によって系統があり、サイズや表情、胴の模様などがそれぞれ異なります。

シンプルな造形ながら、その実とても奥が深いこけしの世界。特に宮城県は約10種類あるこけしの系統のうち「弥治郎(やじろう)系」、「遠刈田(とおがった)系」、「鳴子(なるこ)系」、「作並(さくなみ)系」など半数近くが存在する一大産地にあたります。

しまぬきさんの店内には伝統こけしだけではなく、こけしをモチーフにしたオリジナル商品が多く揃っています。今回のお土産1つめは、そのなかでもとびきりユニークな「通信こけし」。

こけしの中にくるくる丸めた手紙を入れて、宛名を書いた荷札をくくりつければ、そのままポストに投函することができます。

こけしの中に巻物状の便せんが入っています
送り方の説明書もしっかり付いています

ある日突然、自宅のポストにこけしが届いていたら‥‥。そんな相手の顔を想像しながら手紙を書いてみるのもいいですね。ちょっとしたサプライズのあとには可愛らしい置物にもなります。

とぼけた表情が愛らしい、手のひらサイズの仙台張子

また、しまぬきさんではこけしのほかにも、宮城や東北の工芸品を広く取り扱っています。

なかでも、ほっこりするような愛らしいフォルムと鮮やかな色合いが目を引くのが仙台張子。仙台市内で制作されている伝統工芸品のひとつで、1830~1844年(天保年間)に仙台藩の藩士松川豊之進によって作られ始めたと言われています。

仙台張子といえば青いだるまのモチーフが有名ですが、今回は手のひらサイズの羊のお面をチョイス。玄関や机に飾るのもぴったりです。

ちょっととぼけた憎めない表情がなんとも言えませんね。目に入るたびに和ませてくれそうです。

内側にもしっかりと模様が

ここで買いました。

こけしのしまぬき 本店
宮城県仙台市青葉区一番町3-1-17
022-223-2370
http://www.shimanuki.co.jp/

文 : いつか床子
写真 : 尾島可奈子

※こちらは、2017年8月2日の記事を再編集して公開しました。

鎌倉をよく知る人が勧める「日帰り鎌倉旅行」の観光地めぐり

旅をするとき、訪れたいのは必ずしも観光地には限らないと思うのです。

その土地に詳しい人から聞く話は興味深く、安心感も手伝って、それなら行ってみたいと感じる場所も多いもの。

そんなふうに考えて、今回は「鎌倉を旅する」というテーマで、地元の人におすすめの場所を聞いてみました。

地元の人も、観光客も楽しめる、鎌倉のスポットを紹介します。

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イワタ珈琲 鎌倉

鎌倉で70年。鉄板メニューのホットケーキは欠かせない〈 イワタ珈琲店 〉

朝10時にオープンする老舗・「イワタ珈琲店」鎌倉駅を降りてすぐ。旅のはじまりにどうでしょう。

看板メニューのホットケーキは、60年ほど前から変わらぬレシピです。熱々のホットケーキに大きなバターとたっぷりのシロップをかけてどうぞ。

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鎌倉 もやい工藝

手しごとの体温を感じに。〈 もやい工藝 〉

県外からのファンも多く訪れる、工芸店。店内には、店主が選りすぐった日本全国の手仕事が集まります。

鎌倉駅から歩いて約15分、鎌倉の代表的な見どころ・銭洗弁天への道すがらにあるので散歩にもおすすめです。

駅まわりの喧騒が嘘のような、静かで落ち着いた環境です。

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手紙舎 鎌倉

15坪のロマンティック空間〈 手紙舎 鎌倉店 〉

由比ガ浜通りにある老舗書店の跡地に2017年にオープンした手紙舎鎌倉店。

手紙社の創業者 北島勲さんと渡辺洋子さんがセレクトしたイラストレーション、器、手仕事の道具・作品のショップとともに、小さな喫茶スペースも設けられます。

手紙社の中では最も小さな15坪のお店ですが、だからこそ作家の息吹が凝縮したような、ロマンティックな空間を楽しめることでしょう。

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鎌倉 松原庵

古民家の良さを生かしたそば店〈 鎌倉 松原庵 〉

“蕎麦前”という江戸時代からの粋な蕎麦の食べ方はご存知ですか?

この食べ方をお客様に味わってもらうために一品料理の品揃えに注力したお蕎麦屋さんが、鎌倉・由比ヶ浜からほど近い「鎌倉 松原庵」さんです。さて、どのような食べ方が“蕎麦前”なのでしょうか。

地元の美味しいお酒とこだわりの空間と共に味わってみましょう。

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鎌倉 THE BANK

伝説のバー〈 THE BANK 〉

2016年10月、伝説のバーと呼ばれた「THE BANK」が、奇跡の復活を果たしました。

新たなオーナーであり、インテリアデザインを担当したのは、ユニクロのグローバル旗艦店、Nike東京本店など、世界中で活躍されているワンダーウォールさん。
実は、ワンダーウォールさんにとってはじめてのプロジェクトは、2000年に誕生したTHE BANKだったのだそうです(!)

2000年当時の話から再オープンまでの秘話をじっくりとうかがいました。

THE BANKの歴史とともに、鎌倉の夜をお楽しみください。

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すこしずつ暖かくなり、お出かけしたい季節になってきましたね。鎌倉へ旅するならぜひ、お目当ての場所に加えて、ぜひ今回紹介した場所も散策コースに加えてみてはいかがでしょう。それでは、よい旅を!

美味しいコーヒーと燕三条の道具を楽しめる「ツバメコーヒー」

私は、一日の間に何度も飲んでいるほどコーヒーが好きです。なのでスペシャルティ・コーヒー・ブームも大歓迎のできごと。あちこちに気になるコーヒーのお店もあります。

新潟県燕市「ツバメコーヒー」

新潟、燕市に金物工場の取材にうかがった時にも素敵なコーヒー店との出会いがありました。その名もツバメコーヒー。

コーヒーも美味しく、店内の空間も心地よく、喫茶室のとなりには燕三条産の製品を中心とした生活道具のショップもあるという充実したお店です。

今回は、その店主の田中辰幸さんがコーヒー店開店を思い立ち、まったくの素人からコーヒー焙煎を始め、開店し、店を拡張し、現在に至るまでの試行錯誤の物語をお届けします。

どうしたら美容院にお客さんが来てくれるか?から生まれたコーヒー店

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燕の街に2012年11月に開店した「ツバメコーヒー」。ちょうど今の“ザ・サード・ウェーブ”という、本格的自家焙煎コーヒーのブーム前夜に誕生した最先端のコーヒー店です。

お母さまが創業した美容院の経営を受け継いだ田中さんが、もっといろいろな人にこの場所に来てもらうにはどうしたらいいだろうと考えて、始めてみた業態でした。

「それまでも美容院のお客様に飲み物をお出ししていたので、そのためのコーヒー豆を取り寄せていたんです。

コーヒー通の人たちの間でも評判の高い徳島のアアルトコーヒーという自家焙煎の珈琲店にコーヒー豆をオーダーしていたんですが、その注文のやり取りの時に何気なく『焙煎ってむずかしいんでしょうか?』という質問を店主の庄野さんにしたら、『誰にでもできるよ』という答えが返ってきて(笑)。

美容室はお客様の滞在時間が長いので、少数のお客様と親密なコミュニケーションが取れる場所です。だけど逆にそこに行かない人にとっては近寄りがたい場所になってしまう。

ぼくはこの場にもっといろいろな方に来てもらうためにはどうしたらいいかとということをその当時考えていて、じゃあコーヒー屋をやろうかな、っていうことに自分の中でなったんです」

店主の田中辰幸さん。
店主の田中辰幸さん。

田中さんは大学時代、京都でスターバックスコーヒーの店舗でアルバイトした経験もありました。そこで初めてコーヒーという飲み物をおいしいと思い、自分でハンドドリップして淹れるようにもなったそうです。しかし自分で生豆を買ってきて焙煎までするというのはまた別の次元の話です。

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「アアルトコーヒーさんは、とりあえず『誰でもできるよ』と言ってるけど、やはり自分でやるとなったら、焙煎というものがよくわかっていないことを再認識したわけです。それで2012年の1月に、一度徳島に行って実際に焙煎をするところを見せてもらった。だけど、見たところで結局何もわからないんですよ(笑)。

ぼくはもともと、考えて考えて考え続けるみたいな人間だったんです。だけど何か新しいことを始めるにあたって、考えていても実行することには何もつながっていかない。そこで思いきってまず焙煎機を買うことにした。

焙煎の機械って、まあまあの国産車くらいの値段はする。買ってしまうとこれを使わないわけにはいかないというところに自分を追い込んだわけです。アアルトコーヒーさんが脱サラして店を始めたのが36歳の時で、ちょうどその時ぼくも36歳だった。そんな偶然もありましたし」

燕の街に、自分が行きたい場所をつくる

ツバメコーヒーのある場所は国道116号線から少し入ったところ。鉄道の駅からは遠く、店の前には水田が広がっています。

「よく考えると、燕のこういう場所でコーヒー屋を素人がやってできるわけがないんですよ。ぼくがコーヒーが好きで、やりたいと思ったからやるだけで。だから、この街に『自分が行きたい場所を作る』というのが最初のきっかけでした。今考えると、あらゆることが大胆でしたね」

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そんな試行錯誤と決断を経て、ツバメコーヒーは2012年11月に開店します。当初は現在のような喫茶室の空間はなく、店舗の一番外側に面したカウンターだけでの営業でした。

「ガラス貼りで外に面しているから冬はすごく寒くて、夏はすごく暑くて。よくあれで自分は生きてたと思いますよ(笑)。

まあぼくは暑くても寒くてもいいんですが、コーヒーを淹れる間にはどうしてもお客様をお待たせすることになる。それが寒かったり暑かったりというのでは本当に申し訳ない。これはなんとかしないと思っていろいろ考えて…」

そうしてできたのが、現在のお店の形。喫茶室と生活道具を販売するスペースを増設したのです。

「それまでの美容室の待合室だった部屋と、席を8席から2席削ったスペースで、コーヒーを座って飲んでいただける空間を作った。そして今までのカウンターの背後の壁面を取って、そことつなげました。

そうするまでは、その壁を抜いたらこの建物は崩壊するんじゃないかと思い込んでいたんですが(笑)、改築を頼んだ人に相談したら可能だと。そこで壁を壊して空間が貫通した時には『これで新たな世界が開けた!』という実感がありましたね」

本棚の間から併設の美容院がのぞく
本棚の間から併設の美容院がのぞく

燕三条の生活道具をあつかうショップ

新しい店舗には、壁一面に本棚のある居心地のいい喫茶室ができたほか、エントランスを入ったところに生活道具のショップも設けられました。

並んでいるのは、食器、台所道具、ガーデニング用品、アウトドア用品、靴下などのファッション小物、書籍のほか、ツバメコーヒーのツバメのマークをデザインした缶、ブックカバー、手ぬぐい、ノートなどのオリジナルの商品もあります。

コーヒーを待つ間に買い物が楽しめる併設のショップ。地元燕の製品も充実。
コーヒーを待つ間に買い物が楽しめる併設のショップ。地元燕の製品も充実。
オリジナルの手ぬぐい○円(税込)。
オリジナルの手ぬぐい1200円(税込)。

「コーヒー店にショップを併設することで、お客様にコーヒーを淹れる待ち時間に買い物も楽しんでいただける。もともと、この場所までコーヒーだけのために遠方から来ていただくというのもむずかしい。そこに生活道具のショップもあれば、コーヒー+買い物という1カ所で2つの楽しみを提供できるとも思ったんです。

ショップの品揃えは地元産のものということを基本に選んでいますが、ただ地元のものだから無条件にいいというわけではなく、長年使い込んでエイジングしてよさが増してくるもの、そしてぼくが使ってみてよいと思うものというのを選択の基準にしています」

燕の鎚起銅器のトレイ。お会計のトレイも鎚起銅器製でした。
鎚起銅器のトレイ。お会計のトレイも鎚起銅器製でした。

コーヒー、お買い物とも楽しめるこの場所には、ほかにもお客さんたちが目指してくるものがあります。それが看板犬の黒スケ。水田が広がる風景が見える店内で、柴犬の黒スケとふれあうことができるのもこの店の魅力です。

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「黒スケは今7歳で、コーヒー店を始める前からいたんですよ。家族連れでいらしたお客様だと子どもさんたちはよく黒スケと戯れてますね。ぼくが店にいなくても全然文句はいわれないんですけど、黒スケがいないと『え、いないんですか! 楽しみにして会いに来たのに』と残念そうに言われますよ(笑)」

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燕で、カフェにしかできないことを

ツバメコーヒーは2016年11月で開店4周年になりました。今や燕にこの店ありという存在で、遠くからも目指してくる人の多い場所となっています。しかし田中さんは未だ自らの店に厳しいところを見せているのです。

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「ぼくはまだまだ自分の職人としての腕を信頼できないんですよ。だから、おいしいものがあればそれらを集めてきて味わっていただくという方法でメニューを考えています。

たとえば店で使っている牛乳もガンジーミルクというイギリス原産の乳牛から採れたブレミアムミルクで、その牛乳から作ったソフトクリームやコーヒーフロートもあります。瀬戸内からの無農薬のレモンと砂糖を仕入れて組み合わせ、時間が勝手に作ってくれるレモネードだとか。スキルがない人間でもお客様に納得していただけるものを出す方法を常に考えているんです」

そんな田中さんが今考えているこの店の次のステージは?

「店を開店した直後である2014年頃からザ・サードウェーブという空前のコーヒーブームがやってきた。ぼく自身、サードウェーブに共感してこの店を始めたんですが、最近はコーヒーについてとやかく言う気がなくなってきて、今はシンプルに美味しいコーヒーを出す、純喫茶のような路線に行きたいんですよ。

エスプレッソマシンとかではなく、水出しコーヒーで、コーヒーゼリーとかもあるような。今の店のスタイルは西海岸のサードウェーブのカフェみたいになっているんですが、日本のふつうの純喫茶みたいなのもいいかなと」

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「燕みたいな田舎の街でおもしろい店が成立するには、カフェにしかできないような機能を発揮していくことに意味があると思うんです。いろいろな人とつながることができたり、この場所をメディアとして機能させるようなことができたらいいですね。

そして、この店が燕市という土地にあることをおぼえていただいて、店がもっとお客様たちのものになっていってほしい、そんな願いは開店した当初よりも強くなっています」

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ツバメコーヒー
新潟県燕市吉田2760-1

0256-77-8781
http://tsubamecoffee.com


文:鈴木伸子
写真:神宮巨樹

※こちらは、2016年12月21日の記事を再編集して公開しました。

「鬼おろし」でおろした大根がみぞれ鍋に合う理由

こんにちは。細萱久美です。

この連載では「炊事・洗濯・掃除」に使える、おすすめの工芸を紹介しています。今回は、「鬼おろし」という名の大根おろしをご紹介します。

鬼おろしとは、一般的な大根おろしに比べて刃が大きく、それが鬼の歯を連想させることからこの名がついたそうです。

大根などを粗くおろすことに向いています。植物繊維や水分が素材に残りやすいので、ふんわりシャリシャリと仕上がります。

今の季節だと、みぞれ鍋を作るのにおすすめです。たっぷりの大根おろしを作ると、結構手が疲れますが、この鬼おろしだと大根半本くらいはあっという間です。

少し歯ごたえの残る大根おろしが、鍋にはむしろ向いていると思います。水分が出にくいのでサラダ感覚でも使えたり、秋刀魚の季節には秋刀魚が水っぽくなりにくく、一味違うことに驚かれるのでは。

玉葱も、目が痛くなる前におろせてしまうので、カレーやソースを作るのに欠かせなくなりました。使い慣れると年中便利で、調理に欠かせない道具になると思います。

百貨店や専門店で見かける鬼おろしは、おそらく竹製品が一般的ですが、私が愛用しているのは、森川雅光さんが作る木製のもの。森川さんは倉敷の工房で、この鬼おろしだけを作り続けている職人さんです。

他には見ない独自の鬼おろしで、桜の木の台に、竹を削りだした鋭い刃が1本1本埋め込まれています。

家事の道具にもさまざまな工芸品がありますが、この鬼おろしは、中でもかなりの手間を掛けて作られている道具の一つです。

一般的な鬼おろしは、竹を波刃にカットして組み立てられています。竹は乾燥で割れやすかったり、作りによっては衝撃で刃が欠けることがあるかも。

森川さんの鬼おろしは、小さな刃が埋め込まれており、見るからに頑丈。使っていても刃のシャープさに、むしろ指を削らないように気を付けています。

そして、おそらくここがポイントだと思うのが、数十本の刃を埋め込む際に、あえて刃の向きをアトランダムにしていること。

この作りのおかげで、素材をより早くおろせるのでしょう。道具の丈夫さや機能性を高めるために、決して無駄な作りではなく、必然的な形にたどり着いたのだと思います。

桜の台の面取りも抜かりなく、持ち手も持ちやすく馴染みます。無駄なく丁寧に作られた道具は本当に美しいので、台所にあるだけで嬉しくなります。

中川政七商店でも、7年前くらいから扱わせていただいています。取り扱う店舗も増えたのですが、森川さんお一人で製作されているので仕上がる数にも限りがあり、いつでも在庫があるとは限りません。

商売としては、アイテム数が増えていきがちなところですが、一人で一つのものを変わらず作り続けるスタイルは粋な感じがします。

工芸や民芸の街、倉敷にはたまに訪れる機会があるので、工房にもお邪魔して、森川さんにもお会いしてみたいと思わせる温かみのある道具です。

<掲載商品>
鬼おろし (森川雅光)

細萱久美 ほそがやくみ
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、
美味しい食事、美味しいパン屋、
猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

文:細萱久美

※こちらは、2018年1月8日の記事を再編集して公開しました。

蒸し野菜に最適な、電子レンジでも使える「わっぱセイロ」

こんにちは。細萱久美です。

1年の始まりの月、1月は旧暦で睦月のお話です。睦月は、親類知人が集まり、仲睦まじく宴会をする月、ということで正月を睦び月と呼んだのが由来とされています。

この風習は、これからも変わることの無い日本の正月文化ですね。私は東京出身で東京在住なので帰省がなく、あまり気分が変わりませんが、普段よりは家でゆっくり過ごしています。

12月から1月は忘年会や新年会シーズンなので、お正月も含め飲食の量がついつい増える時期でもあります。

1月半ばにもなると、ちょっと身体が重いぞ‥‥と感じる方も少なくないのでは。そのまま油断していると、体重計に乗ってびっくり!となるので、胃を休める食事も心がけたいところです。

おすすめなのは、デトックス効果もある温かい野菜料理。特に繊維の豊富な根菜類は意識して食べると良いと思います。おせちの食材の残りなどを無駄なく使い切るには、「野菜スープ」や「蒸し野菜」は簡単、ヘルシー、しかも美味しいメニューです。

蒸し野菜に最適な「わっぱセイロ」

今回紹介する調理道具は、蒸し野菜を作るのに最適な「わっぱセイロ」です。私が使っているのは「足立茂久商店」さんのセイロ。現在11代目の足立照久さんが、ひとつひとつ手作りでセイロを作り続けています。

足立茂久商店のある新潟県寺泊の山田は、江戸末期には既に「ふるい」業組合も存在し、ふるいや裏漉し、セイロなどが盛んに作られていたそうです。

それも今やこの地で曲げ物を生業とするのは、江戸時代より続くこちらただ一軒!大変希少なセイロとなってしまいました。希少ゆえというよりも、シンプルで美しいデザイン、金具を使わず丈夫で長持ち、そして価格も適正という理由で選んだ道具です。

天然素材だからこそ、電子レンジにも耐えられる

このセイロを使って作る蒸し野菜は、作り方というほどもなく、数種類の野菜をやや大振りに切ってセイロに入れ、湯気のあがった鍋に乗せて10分前後蒸すだけ。れんこん、人参、お芋、ごぼう、たまねぎなどの根菜や、ブロッコリーやキノコ、そしてトマトも1分ほどさっと蒸すと彩りも綺麗です。

これ以上簡単な調理もあまり無い気がしますが、セイロの蓋を開けた時に立ち昇る湯気は、ご馳走に感じます。大き目のセイロで作れば、お客様のおもてなしにも喜ばれると思います。

蒸すことで、茹でるよりも野菜の旨味が閉じ込められて甘味も増し、美味しい塩を付けるだけで素材の味が引き立ちますが、ソースを少し凝ると味にも変化がつき、簡単にバリエーションが出来ます。

便利に思うセイロですが、電子レンジの普及も影響して、最近では利用している家庭も減っているでしょうか。個人的には、蒸す方が、蒸気で水分を程よく補いながら食材を温めるので、ふっくら仕上がって美味しいように思います。

と言いつつも、この足立さんのセイロは、なんと電子レンジに対応する画期的なセイロ。どんな特殊な技法かと思いきや、天然素材のみで作られています。

実はそこがミソで、金具を使わず、厳選した柾目の檜と竹くぎの天然素材を使うことで、電子レンジでも耐えられるのだそうです。先代が開発したという「電子レンジで使えるわっぱ」は、時代の変化に合わせた発想だけではなく、伝承技術があってこそ生まれた道具と言えます。

一度火が強かったために少し焦がしてしまいました。まだまだ問題なく使えますが、もし壊れても修理をしながら何十年も使えると思います。これもまた、使い込むことで深みの増す大切な睦月の暮らしの道具です。

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立

東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

Instagram

文・写真:細萱久美

※こちらは、2016年 12月23日の記事を再編集して公開いたしました

有田焼の染付豆皿(梶謙製磁社)

特集「産地のうつわはじめ」

中川政七商店の全国各地の豆皿
11窯元の豆皿をご紹介していきます

はじまりは、調味料用の「手塩皿」

今回ご紹介するのは、有田焼の「染付」シリーズです。小ぶりな佇まいと、中央に描かれたワンポイントの絵付けがなんとも愛らしい豆皿。

中川政七商店の有田焼の豆皿

そのはじまりは、有田で生産されていた調味料用の「手塩皿」だといわれています。

古くは食膳の不浄を払うため、また好みで少量の塩や薬味を盛って食膳に添えるため、数多くつくられました。

中川政七商店の有田焼の豆皿

こうしたゆかりのある地で、創業から250年以上焼き物を続けている老舗窯元「梶謙製磁社」とともに、素地に藍色のみで絵付けをした染付の豆皿をつくりました。

鹿・鶴・松・竹・梅と縁起のよいモチーフを、一つひとつ、女性の絵付け師さんが手描きで表現しています。さりげない濃淡や細やかな線が、職人の手仕事ならではの味わいです。

中川政七商店の有田焼の豆皿

料理を引き立てる美しい白磁に素朴な絵柄を合わせたお皿は、おもてなしはもちろん、普段の食卓にも使いやすいのが魅力です。

中川政七商店の有田焼の豆皿

国内で最初につくられた磁器「有田焼」 

華やかな絵付けの伝統的な有田焼。有田観光協会提供。
伝統的な有田焼

「有田焼」のはじまり

江戸時代の初め、朝鮮人陶工・李参平らによって有田町の泉山で磁器の原料となる陶石を発見し、日本で初めて白磁のうつわを焼いたことから「有田焼」が始まったと伝えられています。透き通るような素地の白さと、繊細で華やかな絵付けが特徴です。

産地のうつわはじめ

益子焼
九谷焼