重森三玲がつくった、枯山水とモダンな庭。ふたつの景色が楽しめる「ちそう菰野」

旅先で出会う、日本庭園。

美しく剪定された木や、手入れの行き届いた砂紋。

なんの前知識がなくても心が洗われるような風景に目を奪われますが、見方を知ると、さらに魅力が一段と深まります。庭には、持ち主の想いや、その土地の文化が詰まっているものです。

今回は、三重県内に唯一存在する、世界的に有名な作庭家・重森三玲(しげもりみれい)が手がけた庭を訪ねます。

三重にあるちそう菰野
庭は、ギャラリー&レストラン「ちそう菰野」から望めます。門を入り、建物までのエントランスも風情たっぷり

菰野町を訪れた重森三玲氏

重森氏が手がける庭があるのは、三重県菰野町。

なぜこの場所に庭をつくることになったのか? 重森氏に作庭を依頼した横山秀吉(よこやま ひできち)さんの孫にあたる、横山陽二さんに話を伺いました。

「祖父はこの家を後世に残したいという想いから、庭をつくりたいと思ったそうです。書物で重森さんのことを知り、“一見さん”でお願いに参りました。

当時すでに著名だった重森さんは最初驚いたそうですが、菰野町に足を運んでくさだり、電車の車窓から眺めた田園風景や、この場所から近い廣幡神社が借景にできるロケーションを気に入り、庭づくりを承諾してくださいました」

慌ただしい日常から、舟石で「心の旅」に

重森氏がつくった庭は、建物を挟むように「表庭」と「裏庭」とがあります。

表庭は、重森氏が得意とする、見事な枯山水。ちなみに枯山水とは、水を使うことなく、石や砂で水のある風景を表現する日本庭園の形式です。

三重にあるちそう菰野の重森三玲が作った庭
作庭当時は私邸でしたが、2017年にギャラリー・レストラン「ちそう菰野」として開かれることとなり、レストランスペースから表庭・裏庭ともに一般に開かれた場所となりました

庭には、舟のような形の「舟石」があり、そのまわりは海に見立てた幾重にも広がる砂紋を見ることができます。これは、舟石で「心の旅」にでることをイメージしたもの。

医師をしていた秀吉さんは、庭を眺めて心整える場所になるように‥‥と、重森氏に依頼。上空からこの庭を見ると、苔山で「心」という文字が描かれているそうです。

奥には、仏に見立てた立派な緑石も目を引きます。雨が降ると艶やかに輝き、また苔もひらいて、しっとりと風情ある趣に。

吉田宗匠が手がけた茶室

隣には、陽二さんの母の実家から移築したという、吉田宗匠が手がけた茶室「尽日庵(じんじつあん)」も。

この「尽日庵」という名前、『終日、春を探しに出かけたが春は見つからない。家に帰ると庭先に祠んだ梅のつぼみがあり、春の訪れを告げる花はこんな身近にあったのか』という漢詩から命名されたとか。

茶室へと導く前庭には、尽日庵になくてはならない梅畑もつくられています。

三重にあるちそう菰野 重森三玲が作った庭

表庭とは異なる趣の裏庭

「ちそう菰野」を挟んで反対側にあるのが裏庭。こちらは伝統的な格式の表庭とはうって変わり、モダンな色彩とデザインです。

白い白川砂と赤い天狗砂、青小判石敷。これは、重森氏が菰野町を訪れた際に電車の車窓から見た日差しを受けてキラキラと光る田園風景が描かれています。

三重にあるちそう菰野の重森三玲が作った裏庭

こちらの庭は、1968年6月にできあがって以来、家主やその知人以外は目にすることのできないものでしたが、2017年にレストラン・ギャラリー・庭からなる空間「ちそう菰野」として一般開放。

重森氏が手がけた、古典的な庭とモダンな庭に囲まれて食事ができるとは、なんて贅沢なひとときなのでしょう。

素敵な空間の「ちそう菰野」とともに、その空気感を存分に味わいに出かけてみてください。

<取材協力>
横山陽二さん(名古屋外国語大学准教授)

ちそう菰野
三重県三重郡菰野町大字菰野2657
059-390-1951
http://chisoukomono.com

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美しい日本庭園で「三重県の縮図」を味わう。ちそう菰野は五感を開放できるレストラン

三重にあるちそう菰野のレストラン。田代夫妻
「ちそう菰野」をつくった現代アーティストのご夫妻にお話を伺いました。田代裕基さんは彫刻家、理恵さんは料理家です


こもガク×大日本市菰野博覧会

工芸、温泉、こもの旅。

こもガク×大日本市菰野博覧会

10月12日 (金) ~14日 (日) の3日間、「萬古焼」「湯の山温泉」「御在所岳」「里山」など豊かな魅力を持つ町三重県菰野町で「こもガク×大日本市菰野博覧会」が開催されます。

期間中「さんち〜工芸と探訪〜」のスマートフォンアプリ「さんちの手帖」は、 「こもガク×大日本市菰野博覧会」の公式アプリとして見どころや近くのイベント情報を配信します。また、各見どころで「旅印」を集めるとプレゼントがもらえる企画も実施。多彩なコンテンツで“工芸と遊び、体感できる”イベントです。ぜひお越しください!

【開催概要】
開催名:「こもガク×大日本市菰野博覧会」
開催期間:2018年10月12日 (金) ~14日 (日)
開場:三重県三重郡菰野町
主催:こもガク×大日本市菰野博覧会実行委員会

公式サイト
公式Facebookページ
公式ガイドアプリ(さんちの手帖)


文:広瀬良子
写真:西澤智子

東京で楽しめる日本旅行。全国の土産ものに出会える〈日本橋 日本市〉が本日オープン

店内に入ると、祭り囃子が聞こえてきた。

 

リズミカルで力強い和太鼓に、軽快な笛の音。懐かしいような、わくわくするような。その旋律は人々が江戸の町を笑顔で闊歩する、賑やかで楽しげな雰囲気を連想させた。

9月25日。東京・日本橋「日本橋高島屋S.C.」に、中川政七商店が「日本の土産もの」をコンセプトに展開するブランド「日本市」の東京初の旗艦店がお目見え。

店の中を見わたせば、北海道・室蘭の懐かしき豆菓子から、軽妙洒脱なパッケージが目を惹く長崎・五島列島のうどん、職人の伝統技が生み出す岩手の鉄器など、全国津々浦々の土産ものが楽しそうに並んでいる。

日本市 日本橋 高島屋SC店

テーマは、「日本を旅するように、ご当地の土産ものに出会える店」である。

江戸時代、五街道の起点として栄えた日本橋

「そもそも日本橋は五街道の起点として江戸時代に栄えた地であり、文化の集合地となった場所。全国各地の名産品が集まり、多くの商売人とお客さんで賑わった町です」

そう話すのは、企画担当者の池原由以さん。

五街道とは、江戸と地方を結ぶために江戸幕府が整備した主要街道のこと。東海道、甲州街道、奥州街道、日光街道、中山道を指す。そして日本橋へと続く五街道は、いつしか諸国の商人たちの有益な旅路となり、日本橋は人や文化が行き交う町へと発展していくことになる。

「そんな日本橋にちなんだ土産もの屋として、“街道みやげ”をテーマに全国各地のいいものをご用意しました」

総アイテム数は1200点以上。さて、どんな出会いが待ち構えているのだろうか。

北海道から沖縄まで、18街道の“いいもの”ずらり

まず目についたのが、街道別の土産ものたち。

日本橋高島屋 SC 中川政七商店が運営する日本市
その土地の魅力がギュッと詰まったいいものばかり

それにしても、驚いたのはその街道数。五街道以外にも室蘭街道、薩摩街道、真珠道という街道まで…知らなかった。街道って、こんなにあるんだ。

日本橋タカシマヤ 日本市
店内に飾られている日本全国街道分布図

「実は、まだまだあります。調べ始めたらきりがないほど!今回はその中から18の街道に着目して、それぞれにまつわる土産ものをセレクトしました」と池原さん。

瀬戸内で育った柑橘ゼリーや青森の紅玉りんごを加えた玉羊羹、山形で栽培されたりんごを搾ったジュースなどの定番商品から、焼き団子味やぬた味など珍しい七種の味が楽しめる山形の煎餅といった、現地ならではのレアものまで。

「商品には、味やデザインはもちろん、そのものができた歴史や背景、作り手の熱い思いを聞きながら、その土地の魅力が凝縮されたものを選びます。実際に旅先で見つけた商品も多いんですよ」

北から南へ。東から西へ。店内をぐるりと一周すれば、全国の街道を旅するような気分で買い物を楽しむことができる。

楽しみ方は人それぞれだ。たとえば、故郷の土産ものを見つけて懐かしさを覚えたり、初めての出会いにわくわくしたり。ときには故郷のものであるにも関わらず「知らなかった」と衝撃を受けることや、新しい土産ものとの出会いが、次の旅先を決めることになるかもしれない。

中川政七商店の日本市・日本橋店
お目にかかったことのない品々がずらりと並ぶ

スタッフが商品にまつわる物語を丁寧に話してくれるのも嬉しい。「宮城のあられは、自分たちでお米を栽培することから始まります。化学調味料も保存料も着色料も使ってなく量産はできませんが、その代わり、小さなお子様も食べれるようなもち米100%の「赤ちゃんあられ」が作れます」とか、島根県の生姜糖について聞けば「ジブリ映画に出てくるような大きな釜でグルグルとかき回しながら煮ているんですよ」というふうに。

「土産話といいますが、商品と一緒に物語を添えることができたら最高ですよね」と池原さん。

江戸の伝統技を生かした、日本橋店だけの逸品も

また、日本橋店だけのオリジナル商品にも注目だ。

中川政七商店の日本市 日本橋店
ディスプレイにはかつての日本橋、木造でつくられた太鼓橋をイメージ
中川政七商店の日本市 日本橋店
日本橋の上を多くの人々が行き交う様子が描かれている

グラフィックアイテムに使用されているのは江戸時代の日本橋の、活気ある様子を描いた日本橋モチーフ(デザイン事務所10inc.[柿木原政広さんと西川友美さん])だ。太鼓橋を渡る人々の陽気な姿や、猫や犬といった動物たち、そして川の両側には、かつて問屋が多く栄えていたことを物語る、白壁の土蔵が建ち並ぶ風景も描かれている。

日本市・日本橋店オリジナルの手ぬぐい
魚を加えた猫の姿も

この日本橋モチーフは軒先ののれんをはじめ、手捺染手ぬぐいや花ふきん、千代布といったテキスタイル商品から、スチームクリームや茶店のだんごもなかのパッケージにも登場。訪れる人々に江戸時代の日本橋の風景を連想させてくれる。

中川政七商店 日本市・日本橋のオリジナル商品
日本橋をモチーフにしたグラフィックアイテムを使用した商品多数

さらに江戸切子や江戸唐木箸などの伝統的な技法を生かし、老舗企業の職人とともに作ったオリジナル商品や、旅の安全とご縁を祈願する旅守りや脚の疲れを防ぐため脚絆にヒントを得た靴下など、良い旅のためのグッズも用意している。

江戸時代から200年にわたり作られてきた東京・利島の「つばき油」
江戸時代から200年にわたり作られてきた東京・利島の「つばき油」
日本市 日本橋店限定 御守箒
江戸箒の老舗・白木屋伝兵衛と一緒に作った「御守箒」。厄をはらい、福を集める意味をもつ
旅守り
江戸組紐を用いた「旅守り」は東京・浅草桐生堂によるもの
カネ十農園のお茶
静岡・牧ノ原台地の茶農園・カネ十農園が手がけたこだわりの煎茶「静岡茶」
梅ぼ志飴 中川政七商店
日本橋の老舗・榮太樓總本舗の「梅ぼ志飴」を麻の老舗である中川政七商店の巾着に詰めて
東京ミッドタウンデザインアワードを受賞した「東京はしおき」
東京ミッドタウンデザインアワードを受賞した「東京はしおき」
江戸唐木箸「日本箸」
日本橋に工房と店を構える川上商店と作った江戸唐木箸「日本箸」
東京・堀口硝子「江戸切子の丸板皿」
東京・堀口硝子とともに日本の伝統文様を合わせた「江戸切子の丸板皿」
膝栗毛の旅くつした
江戸時代の旅人が脚の疲れを防ぐためにつけた脚絆にヒントを得た「膝栗毛の旅くつした」
MERI「布草履」には日本橋店 限定カラー
布製ルームシューズ・MERI「布草履」には日本橋店だけの限定カラーを用意
八王子の大原織物と日本市のジャガード
東京・八王子の大原織物と作った「まめ巾着 八王子ジャガード」

江戸という町を、旅人に楽しんでもらおうとするかのような、粋なラインナップだ。

「宿場町」をなぞらえた期間限定ブースを用意

同店にはもう一つの目玉がある。各街道や都市、自治体、企業などを2週間ごとに特集するPRスペースだ。イメージは街道沿いに栄えた「宿場町」だという。

日本市のPRスペース
店内に5坪ほどのスペースを設けている

「かつて日本全国の商人が文化を発信するために訪れた江戸の宿場町のように、店内にポップアップブースを設け、定期的に全国各地の産地の一品が集まるイベントを実施しています」

ちなみに現在、開催されているのは東海道にまつわる土産ものを揃えた「東海市」。次回は、越前のものづくりを紹介する「福井市」の開催も決まっているのだそう。

「特集する産地ごとにこのスペースのテーマは変わります。その土地のみなさんからじっくり話を聞きながら、どのような企画展にするのか、産地の方々と一緒に作り上げていきたい」と、語る。

土産ものを通して、産地を元気にする

日本市は、中川政七商店が「土産もので地方を元気にする」ことを目的に、進めているプロジェクト。その土地で産まれた工芸やモチーフを何より大切に考え、ときには地元の作り手と土産屋もサポートしながら、地産地消の土産もの作りに取り組み続けてきた。すべては産地を元気にするために。

「日本橋 日本市」は、「日本市」に込められたそうした思いが大きな結晶となった場所。

池原さんは言う。「私自身、旅が好きで。観光地に行くとどんな土産ものがあるのか、いつも楽しみに拝見するのですが、手に取ったものがその土地で作られたものではないことがあって、がっかりしたことがあります。ましてや、日本産ですらないこともある。それはやはり寂しいことです。

もちろん産地に元気がなければ、地産地消でものづくりを続けていくことは難しいのも現実。

だからこそ、たとえ遠い地にいても、産地ならではの一品を選んだり、その土地の人々が懸命に守り育んでくれているものを買うことができれば、それはきっと、その土地の〝元気〟に繋がっていくのだと思います」

日本市日本橋店

日本の首都であり、国際都市である東京で、いつ来ても、日本中の旬の土産ものに出会える──ここは、そんな場所だ。

 

日本市 日本橋高島屋S.C.店

東京都中央区日本橋 2-5-1
日本橋髙島屋S.C. 新館1階

03-5542-1131

営業時間:10:30-20:00
定休日:館に準ずる 

 

文:葛山あかね

“秋バテ”をスマートに防ぐ個性豊かなマッサージグッズ

こんにちは。中川政七商店のバイヤーの細萱久美です。

連載「日本の暮らしの豆知識」の9月は旧暦で長月のお話です。長月は、新暦では10月上旬~11月上旬にあたるので、季節は完全に秋です。

気温の変化による“秋バテ”に気をつけたい

この時期は夜が段々長くなってくるため、「夜長月」と呼ばれていたのが、略して「長月」になったという説が有力です。他には、雨が多い時期でもあるので「長雨月」からの「長月」説や、旧暦は稲作との結びつきも強いので、「長」は稲が毎年実ることを祝う意味から付いたという説もあります。どれもこの季節に相応しい説で、すてきです。

暑さのピークである8月に、冷房による夏の冷えを溜め込みがちで、血の巡りや代謝の滞りを感じることが多いです。熱さに負けて湯船に浸からずシャワーで済ませたり、運動不足であったり、自覚のある複数の原因はありますが、夏バテという程ではないのでやり過ごしています。

ただ9月にそのだるさを持ち越したままだと、気温の変化が大きくなるので、余計調子が上がらないという人も増えているそうです。これぞ、秋バテ!?

冷えと自律神経は密接に関係しており、自律神経の乱れで体内の機能もうまく回らなくなるという悪循環に陥るので、日々出来る体調管理には気を付けたいですね。

私は運動が出来ない (しない) 分、なるべくマッサージやツボを押すことで、滞りを流すように心がけています。知識はほとんどありませんが、東洋医学には興味があり、経絡とツボに関する本や、薬膳料理の本を読んだり、東洋医学の基本でもある「五臓六腑」の簡単なセミナーに行ったことがあります。

季節の変わり目や、身体が悲鳴をあげている時は、鍼治療に行くこともあり、西洋医学だけでは解明できない「身体の不思議」は間違いなくあるなと実感します。

みなさんも自然とツボを押していることってありませんか?私もさほど詳しくなくとも、重要なツボや、ツボとツボをつなぐ経絡をなんとなく意識しつつ、気持ち良いと感じる程度にマッサージをしています。

東京 赤坂のサンエア株式会社が展開するユニークなマッサージグッズ

道具としては、もちろん素手もありますが、全体の疲れを流し取りたい場合は、「政七つぼころりん」の出番。名前もかわいく、見た目もユニークなつぼころりんですが、本格的でかなり優秀な働きをします。

天然木で作ったコロコロのピンをツボに押し付けたり、上下左右にマッサージして使います。ゴム台座は程よい弾力性があり、力の強弱を付けやすいのです。

つぼころりんをはじめ、ブラシや、叩き用、フェイス用など、複数の個性的なマッサージアイテムを作っているのは東京赤坂にあるサンエア株式会社。こちらの企業は、オリジナリティにあふれ、人を健康にしてくれる商品を展開しています。

その使い方を気軽に学ぶための場を設けたり、動画や読み物を作るなど、人の健康サポート啓蒙に力を入れている企業姿勢に感銘を受けます。もちろん、商品を広く知ってもらう目的もありますが、商品を正しく且つ有効に活用してもらうための地道な活動です。

アフターケアサービスもしっかり。もしもピンが抜けたら付け直してもらえますし、かなり使いこんだブラシ類の修理・リフレッシュにも対応しています。たまに会社にもお伺いしているので、見せて頂いたことがありますが、20年以上 (!?) 使いこんだと思われるブラシも送られてきていました。

愛好家としては、使いこんだ自分だけのブラシが手放せないのだなあ、ここまで愛されるとメーカーの社長さんも本望だろうなと思います。

サンエアの看板商品でもあるブラシは、中川政七商店でもオリジナル仕様で作ってもらっていますが、「ブラシは髪をとかす道具」という一般概念を越えて、頭皮やフェイスライン、足裏までマッサージする道具としての提案があります。

「つぼころりん」の他に、マッサージにも使える「ヘアブラシ」も

私も今でこそ納得していますが、初めはこの斬新な発想に驚きました。そして実際に使いやすく、使い慣れると他に変わるアイテムが無い気がします。

健康ブラシ愛に溢れる個性的な社長さんのキャラクターも愛すべき方ですが、マーケティングだけでは得られないところから生まれたオリジナルティある「モノ」や「発想」には、尊敬すると同時に刺激を受け、負けじとそういったモノを生まねばなと、仕事面においても影響を受けている、長月の暮しの道具です。

<掲載商品>
政七つぼころりん (中川政七商店)
ヘアブラシ (中川政七商店)

 

細萱久美 ほそがやくみ
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、
美味しい食事、美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

文:細萱久美

こちらは2017年8月27日の記事を再編集して掲載しました

わたしの一皿 小代焼の深海を泳ぐ

たどりついた感がある。

毎年、好きだなとは思っているけれど、季節の終わりには正直なところ「またか」と思ってしまう野菜、苦瓜。

しかし、去年からこの料理を家で作りはじめて、苦瓜消費量は激増。季節の終わりも苦にならなくなったのだ。日本語で言うならば苦瓜の煮干し炒め、か。台湾の料理である。そして苦瓜料理の決定版、と言わせてもらおう。

素材としては主役は苦瓜なのだけど、安い時に買っておくでもいいし、グリーンカーテンをして苦瓜ができすぎている人からもらえればなお良し。ちなみに苦瓜は緑のものでも、白のものでもかまわない。

みんげい おくむらの奥村忍による「わたしの一皿」瑞穂窯

その他そろえておきたい脇役たちをご紹介しよう。まずは小さな煮干し。5cmほどのもの。続いて豆豉(トウチ)。中華食材店で買うことができる。僕はいつも行く台湾で買ってくる。そして唐辛子。

豆豉なんて、使うかなあと思うでしょう。大丈夫。いつもの麻婆豆腐に入れればコクが出るし、炒め物だって同じ。あれば使う。使えるようになる。どうぞご用意ください。

これらを苦瓜を下ゆでしたものと炒める。苦瓜は、苦味が強いのが好きならば厚め、苦味が苦手ならばできるだけ薄めに切ってゆでておく。刻んだにんにく、しょうが、ねぎを炒め、そこに苦瓜、煮干し、豆豉と唐辛子。そして味付けに酒、醤油、砂糖。下ゆでしているので、味が全体に馴染めばOKだ。

この料理は台湾でよく食べる。暑い夏の台湾でこの料理を見かけると、ついつい頼んでしまう。食堂のようなところでは作り置きのものが小皿で出されるが、この料理は常温でもとても美味しい。豆豉の塩気と味の深みがたまらない。

みんげい おくむらの奥村忍による「わたしの一皿」瑞穂窯

苦瓜をよく食べるけど、ゴーヤチャンプルーや、おひたしばかりでバリエーションがない、という人はぜひ試してもらいたい。冷めても美味しいのでたくさん作っておきたい。お弁当のおかずにだって良いですね。

まだまだ暑いこの時期はうつわも少し涼やかにいきたいもの。我が家は青のうつわが多い。なので夏はうつわに困らない。とはいえ青にも色々ある。

今日は熊本の小代焼(しょうだいやき)、小代瑞穂窯の青だ。青と黒のせめぎ合い、といった雰囲気のこの楕円の鉢。鉢の形が使いやすいものなので、実際のところ年中使っているのだが、夏はこの青をできるだけ見せて、少しでも涼やかに感じたいところ。

白・黄・青と大きく3つの色に別れる小代焼にあって、この青。瑞穂窯の青は色がなかなか出にくい。ほぼ黒に振れる時もあれば、白味の強い青に振れる時も
あり、今回のものは黒に振り切れるほんの少し前、と言った感じの雰囲気で、まるで深海をのぞき込んでいるかのような雰囲気がある。

みんげい おくむらの奥村忍による「わたしの一皿」瑞穂窯

今日はこの深海を小魚(煮干し)に混じって苦瓜(それも切り身)が泳いでいるのだ。などと見立てるのはどうかと思うが、食材の色も映えて、なかなか良いでしょう。

もうひとつ。この料理は大きなうつわに入れれば入れただけ食べてしまうので、このくらいのサイズにしておこうという自制心を込めてのうつわ選びでもある。

中華やイタリアン、フレンチなんかはどうにも白い磁器の皿のイメージがあるが、そんなの誰が決めたルールでもない。白い皿とは違った映え方もあるし、面白みがある。今日だって、中国で生まれた発酵調味料の豆豉が、台湾の家庭料理になり、それを日本で作っているのだ。料理だって自由だ。うつわ選びだって、ますます自由であれ。

知り合いの画家は、子供の頃から母に食事のたびにうつわ選びを任されたそうだ。それが彼女にとっての色合わせの原点だったそう。うつわ選びから人生が変わるかもしれない。ずいぶん素敵な話じゃないですか。

奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。

みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com

文:奥村 忍
写真:山根 衣理

人間国宝がデザインした、暮らしに溶け込む「ござ」

こんにちは。中川政七商店のバイヤーの細萱久美です。
連載「日本の暮らしの豆知識」の8月は旧暦で葉月のお話です。旧暦の名前の由来は諸説ある場合が多いようですが、葉月の由来もやはりいくつか説があります。

新暦では9月上旬から10月上旬の秋にあたるため、「葉が落ちる月」の説が有力と言われていますが、他には、稲の穂が張る「穂張り月 (ほはりづき) 」という説や、雁が初めて来る「初来月 (はつきづき) 」という説、南方からの台風が多く来る「南風月 (はえづき) 」という説など多数あります。

新暦の8月はと言えば、秋の気配はまだまだ先のこと。暑さのピーク時期ですね。最近の猛暑振りには辟易 (へきえき) もしますが、暑い夏ならではの楽しみやモチーフもたくさんあります。

海水浴、花火、盆踊りなどのお愉しみや、ビールや最近大流行のかき氷も暑いほど食べたくなります。

毎夏話題になり、注意喚起されるようになった熱中症も、外を歩いているとすぐにクラクラしてくるので、他人事ではありません。太陽の光の下を歩くと、暑さとは別に、疲れを感じることはありませんか?

日傘も無ければ相当の紫外線を浴びることになります。紫外線が肌に良くないことは知られていますが、細胞の働きに影響を与えることで免疫力が落ち、結果疲れを感じるそうです。目からも紫外線の影響は受けるので、夏の外出時はサングラスをかけるのはファッション以外の効果もあるのだそう。

夏の休日の外出後は、昼寝 (夕寝?) をすると、疲労回復にもなり気分がすっきりします。その際は、水分を取らないと逆効果なのでお忘れなく。

「三宅松三郎商店」の「花むしろ」

私は、リビングでは床座りタイプで、通年はウールラグを敷いていますが、夏はイ草で出来た「花むしろ」も利用します。イ草は触感がさらりとし、座っても寝転がっても気持ちがよいもの。夏の昼寝にも最適です。

愛用の花むしろは、岡山県倉敷の「三宅松三郎商店」のものです。書籍「日本の暮しの豆知識」でも紹介していますが、三宅さんの民芸運動の流れを汲んだ長年変わらぬ丁寧なもの作り、季節や日本文化を大切にした丁寧な暮らしには、尊敬と憧れを抱いています。

イ草栽培の盛んな岡山県南部では、さまざまなイ草製品が造られてきました。その中で、模様を織りこんだござを、花ござとか花むしろと呼びます。

「三宅松三郎商店」は、1912年の創業以来、花むしろなどのイ草製品を製造し続けて、現在三代目の三宅隆さんと操さんご夫婦お二人で、イ草の仕入から製品の販売まで切り盛りをされています。

人間国宝「芹沢銈介」がデザインした、モダンでカラフルな図案

この工房は、民芸運動の一翼をになった人間国宝の染色家、芹沢銈介 (せりざわ・けいすけ) 氏がデザイン図面に関わったことがあります。今でもその図案集が大切に保管されており、工房にお邪魔した際に貴重な資料を拝見することが出来ました。

芹沢銈介氏の図案集
芹沢銈介氏の図案集

赤、緑、黄色などカラフルなストライプや格子状にデザインされた図案や試作品は、今見てもモダンで欲しい!となるものばかりでした。

当時の織り機は現在とは違うこともあり、再現の難しいデザインも多いのですが、シンプルでシックな色使いの花むしろは、現代の生活にも取り入れやすいと思います。

織りは機械と言えど、手仕事の行程が思った以上に多いのです。イ草の選別、染め、織ったら10メートルほどの長い花むしろを天日干し。

そのあと、サイズにカットして縁処理や手縫いで縫い合わせなどを施します。製造工程を拝見すると、体力仕事でもあり根気も必要で、価格がとてもリーズナブルに思われます。

何度かお邪魔していますが、毎回奥様の操さんが、お抹茶と和菓子でおもてなししてくださいます。その茶器をはじめ、ご自宅のインテリアには花むしろをはじめとする民芸品や工芸品が多く、そのどれもが毎日の生活に使われ、暮らしにとけ込んでいるのを感じます。

花むしろも、夏のイメージが強いですが、サイズによって畳敷きや、テーブルランナー、コースターなどいたるところに年中使うそうです。手入れもサッと拭くだけ、巻いたら意外と嵩張らず出し入れも気軽です。

醍醐味はやはり寝っころがって、すべすべ気持ちの良いイ草の心地よさを感じること。香りも穏やかで、気持ちの良い夏のお昼寝に欠かせない、葉月の暮らしの道具です。

<掲載商品>
花むしろ各種 (三宅松三郎商店)

<関連書籍>
日本の暮しの豆知識

細萱久美 ほそがやくみ
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、
美味しい食事、美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

文:細萱久美
写真:木村正史

こちらは、2017年7月30日の記事を再編集して掲載いたしました。

夏にこそ使いたい料理道具、土鍋

毎日、暑い日が続きますね。体力が必要な夏、健康な食事を摂って栄養を蓄えたいものです。

今日の記事は、夏の間の土鍋の使い方。身近な食材だけで簡単にできる、夏に食べたい土鍋を使った料理を考えてみました。

わざわざ土鍋を使いたい理由

「鍋」料理の印象が強い土鍋。夏の間は出番を無くして棚の奥にしまわれがちですが、それはとても勿体ない。実は夏も、土鍋は大活躍することをご存知でしょうか。

鍋料理以外にも、アイデア次第でさまざまな使い方ができる土鍋。

ステンレスやアルミ製に比べるとちょっと重たいけれど、わざわざ土鍋で調理をしたい理由は、土鍋ならではの特徴にあります。

 

* * *

<土鍋の特徴 その1> じっくりと熱を通す
他の鍋と大きく違うところは、熱の伝わり方。火の熱をそのまま伝えるのではなく、まずは土鍋自身がじっくり温まってから蓄熱をして、その熱を土鍋全体を通して食材に伝えます。それにより、食材の芯からじっくりと熱を通して、うまみを引き出してくれるという嬉しい効果が。

<土鍋の特徴その2> 蓄熱性が高い
じっくりと熱を通すことから、温まるまでには少し時間がかかりますが、その分蓄熱性が高い土鍋。火から下ろした後も高い温度を保ってくれることも魅力です。また、蓋をしたままだと高い温度での蒸し状態に。ご飯をふっくらと美味しく炊くことができますし、卓上に出した後でも温かい状態を保てるのも嬉しいところです。

<土鍋の特徴その3> 保冷性がある
さらに。夏にお勧めしたい土鍋の使い方は「冷やす」という方法です。意外と知られていませんが、保温効果のある土鍋は、熱いものを熱く保つだけでなく、冷たいものを冷たく保つ効果もあります。

特に、たくさんの気孔を含んでいる「土」が特徴である伊賀の土鍋は、水を含ませて冷やすのがおすすめ。含ませた水分が蒸発する時の気化熱作用によって土鍋の中を冷たく保ってくれます。

その秘密は、土の特性に。昔、琵琶湖の底だったという伊賀の地層から採れる土には、400万年も前に生息していた有機物(植物や生物)がたくさん含まれています。この土を高温で焼くことで、中の有機物が焼けて発泡して、土の中が気孔だらけのような状態になるのだそうです。

* * *

土鍋の特徴を活かして、暑い夏の土鍋の使い方と料理を考えてみました。

冷やして使う

夏はやはり冷たいものが食べたくなるもの。土鍋の保冷効果を活かすと、卓上でも料理を冷たいまま楽しむことができます。

* 野菜盛り
あらかじめ土鍋自体を冷やしておけば、氷も溶けにくく、ずっと冷えたままの野菜をいただけます。

夏の土鍋の使い方

* 夏野菜の和風ジュレ
夏のパーティーに使える、見た目も涼しい夏野菜ジュレ。切った夏野菜と和だしで作ったジュレを土鍋で混ぜて、そのまま冷蔵庫で冷やせば完成です。そのまま食べても、豆腐やそうめん、ハムや海老などにかけてもおいしくいただけます。

* 土鍋のふたで、カルパッチョ
ふたは、優秀な保冷皿として活躍します。蓋に水を含ませて冷やしておくと冷蔵庫から出した後もしばらく冷たい状態に。鯛、カンパチ、スズキなど、夏においしい旬の魚を、お刺身やカルパッチョでどうでしょうか。

夏の土鍋の使い方

オーブンで焼く

* 夏野菜のオーブン焼き
土鍋の種類にもよりますが、耐熱性に優れた土鍋は、そのままオーブンで調理することができるものが多いです。しっかりと野菜を食べて栄養を付けたい夏。夏野菜には、ビタミンやミネラルなど夏に必要な栄養素が多く含まれていると言われています。火の通りにくい根菜などは少し火を通し、夏野菜やお肉・ソーセージなどを詰め、土鍋のままオーブンへ。野菜やお肉の芯へじっくりと熱が伝わり、旨味たっぷりに仕上がります。

夏の土鍋の使い方

蒸し器として使う

* オレンジプリン
土鍋で蒸すと、ふるふるした絶妙な口当たりに仕上がるプリン。夏に食べたい柑橘系の果物を入れ、爽やかな夏のデザート、とろとろのオレンジプリンはいかがでしょうか。ふきんを敷いて蒸すと容器が安定するだけでなく火の当たりが柔らかくなります。

夏の土鍋の使い方

煮て、そのまま冷やす

* りんごのコンポート
深めの土鍋に、砂糖、白ワイン、レモン、お好みでカルダモンやシナモンなどを入れて、煮立てる。沸騰したららりんごを入れて更に5分。あとは何もせず、土鍋の余熱調理に任せます。熱が取れたら、そのまま冷蔵庫へ。
驚くほど簡単ですが、土鍋の力で深い味わいの夏のデザートが完成します。

 

アイデア次第では、まだまだたくさんの活用ができる土鍋。食材を美味しく調理できるだけでなく、保温・保冷の道具としても大活躍します。煮て、焼いて、冷やして。ぜひ、夏の間も使ってみてください。

 

< 使用した土鍋 >
長谷園 ビストロ蒸し鍋
かもしか道具店 ごはんの鍋
・中川政七商店 土鍋 飴釉

2017年6月27日公開の記事を再編集して掲載しています。猛暑が続くこの夏、体力づくりは健康な食事からです。ぜひ、土鍋を取り出して夏にも活用してみてください。

文・写真 : 西木戸弓佳