銭湯で役立つ!中川政七商店で買える、3つの「湯上がり道具」

すっかり正月気分は抜けた頃かと思いますが、いやはや、まだ寒い日が続きます。寒いなか、毎日の入浴をシャワーで済ませる方もいるでしょうが、寒いときこそ、湯船にしっかり浸かるのもおすすめです。

手足の先までしっかり温まると、布団に入ったときにぬくもり、心地よさが違う!‥‥ということで、筆者はもっぱら銭湯をよく利用します。

よく眠れるようになるだけでなく、溜まった疲れも軽くなるような気がします。最近は銭湯も、タオルを借りられるようになったり、ボディソープやシャンプーが備え付けられていたりと、手ぶらで訪れやすいところが増えているようです。

身軽に行くのもよいのですが、肌の乾燥なども気になる季節。そういうときにも役立つ「暮らしの道具」があるものです。今回はそれらを扱う中川政七商店から、筆者が使い続けている「湯上がり道具」を3点ご紹介します。

1.携帯性バツグン、水だけで磨ける歯ブラシ

「TRAVEL TOOTHBRUSH MISOKA for TO&FRO」は、コンパクトな歯ブラシ。

トラベルグッズを作る「TO&FRO」と、水だけで磨ける歯ブラシである「MISOKA」がコラボレーションして生まれただけあって、携帯性に優れた使いやすさがあります。

それこそ、コンビニで売っている板状のガムよりも小さいと思うサイズで、お風呂だけでなく、日常的にも役立つ一本。歯磨き粉を使わずとも、非常に細かい毛先が歯の表面を磨き上げ、親水性を持たせることで汚れが付きにくくなり、歯をツルツルに仕上げてくれます。

板状ガムよりも小さなコンパクトサイズで、カラビナを使用して鞄やポーチにぶら下げて持ち運べる便利なデザインは、日常使いの携帯用としても最適な歯ブラシです。

筆者だけかもしれませんが、お風呂で歯磨きするの、結構きもちがいいものなんです。体もしっかり洗ったあとで、口の中もさっぱりしていると、その後のお風呂も心地よく楽しめる感じが増すようで。

2.すっと伸びて、やさしい肌当たりの化粧水

「荒れ性用花梨の化粧水」は、元宮内庁御用達の香水「久邇香水」を作っていた香水職人さんが、手荒れのひどい家族のために研究し、花梨の種で作った‥‥という化粧水。

国産の花梨の種をたっぷり使い、一本ごとに丁寧に作られているそう。さらりとした使い心地で、天然成分のみだからか、肌に当たったときの感触もやさしいように思います。さらに、染み込ませると、肌表面のうるおいがしっかりキープされるよう。保湿作用が高く、しっとりします。

銭湯はふだんよりも湯に浸かる時間が長かったり、非常にさっぱりする反面、やはり湯上がりには保湿をしないと肌がより乾燥しがちのよう。そもそも寒さもあって乾燥しやすいですから、寝るまでの心地よさをキープするためにも一本持っていきたい道具です。

3.静電気が起きにくい竹素材のヘアブラシ

背面に中川政七商店のロゴがあしらわれたヘアブラシ。ピンの一本ごとが竹素材で出来ており、静電気が起きにくいのが特徴です。この時期、すぐに静電気って起きてしまいますが、このヘアブラシではその心配もないなぁ、と思っています。

また、ピンの先端が丸くできており、髪を整えながら頭も軽くマッサージできるような感触もあり、風呂上がりに使うと気持ちがいい!

竹に含まれる天然油分が、しなやかでツヤのある髪に仕立ててくれる効果も期待できるとか。

銭湯によっては、シャンプーはあるけれどコンディショナーがなかったり、あるいは相性が悪かったりと、髪の調子が整わないときがありますが、そこでも優しく髪に入っていく感じがあるんです。

湯冷めに気をつけて、よい夜を。

「風呂は命の洗濯」と、誰かが言っておりましたが、広い湯船に使って、体をぴかぴかになるイメージで磨いておりますと、最近はそれをよく実感するものです。

実は、銭湯によっては、対外的には謳っていなくても、成分的には「ほぼ温泉」という場所も結構あったりします。あるいは、明確に温泉であることもしばしば。お気に入り銭湯を語る機会はいずれどこかで持ちたいと思いつつ‥‥これを書きながら、すでに肌が湯船を求め始めたので、行きつけの銭湯へ行って参ります。

疲れが溜まっているのかしら。洗濯しましょう。洗濯しましょう。

<掲載商品>

TRAVEL TOOTHBRUSH MISOKA for TO&FRO|TO&FRO(中川政七商店)
荒れ性用花梨の化粧水(中川政七商店)
ヘアブラシ(中川政七商店)

文:長谷川賢人

深い謎に包まれた九谷の五彩

特集「産地のうつわはじめ」

中川政七商店の全国各地の豆皿
11窯元の豆皿をご紹介していきます

他では出会えない、豆九の豆皿

姫リンゴ・ソテツ・木瓜(ぼけ)の表情がなんとも新鮮で、わくわくを感じる盆栽の柄。輪花形で少し深みがあるのが特徴です。季節に合わせた珍味や副菜の取り合わせも楽しめます。

見つけたらつい手にとってみたくなりそうなこのシリーズですが、これまでは九谷焼の組合にしか卸しておらず、全国的に販売されるのは今回が初めての機会。

地産地消の品として、探しても他には流通しないシリーズです。もしも目が合いピン!ときたら、出会いの直感をたぐり寄せてみてください。

九谷焼窯元 上出長右衛門窯の豆皿

ミステリアスな歴史に包まれた九谷焼

石川県南部を中心に生産されている高級食器、九谷焼。その歴史は「古九谷」と「再興九谷」に大きく分けられます。

「古九谷」の歴史は、遡ること360余年。1655年(明暦元年)に大聖寺藩の直営として、雪深い山間の加賀国江沼郡九谷村で生産が始まりました。

当時、100万石を領した加賀藩は江戸や京都から名工を集い、九谷焼の創成に大きな影響を及ぼしたと言われています。

豪放華麗な様式美を原点に発展をつづけ、優美な絵柄と筆使いが見る者を圧倒する「古九谷」ですが、開窯から50年で廃絶の道を辿ります。

ただ、その理由がいまだ定かではないというミステリアスな歴史に包まれた伝統工芸。九谷焼が再興された「再興九谷」がうまれるまでに、それから100年の時が流れました。

九谷焼を身近に感じる、転写の技術

九谷焼には古来から、古典的でありながら瑞々しさを感じられる五彩(青、黄、紫、紺青、赤)の技法が伝わります。

そんな九谷古来の五彩を多くのひとに身近に感じてもらうため、考案されたのが「KUTANI SEAL」。あらかじめ印刷された文様をシールのように器に転写することで、製品の量産が可能となりました。

ポップで愛らしい表現も「KUTANI SEAL」の魅力です。

加賀文化の粋を兼ね備えた窯元「上出長右衛門窯」

石川県の代表的な伝統工芸である九谷焼。窯元「上出長右衛門窯(かみでちょうえもんがま)」は、1879年(明治12年)に石川県能美郡寺井村で創業しました。

東洋で始まった磁器の歴史を舞台にしながら、一点一線丹誠込めて、割烹食器を中心に酒器や茶器などを手がけます。

現代のデザインを豊富に取り入れ進化を続ける上出長右衛門窯。時代に寄り添う柔軟さと加賀文化の粋を兼ね備えた活気に満ちた窯元です。

温度による色の変化を示した見本皿
温度による色の変化を示した見本皿
絵付師の井上さん

掲載商品

九谷焼の豆皿
各1,500円(税抜)

豆皿の写真は、お料理上手のTammyさんが撮ってくださいました。他にも普段の食卓のコーディネイトの参考になるような写真がたくさんあります。Instagramも、ぜひ覗いてみてください。

文:中條美咲

産地のうつわはじめ
益子焼
九谷焼
美濃焼
萬古焼
珉平焼
小石原焼
鍋島焼
有田焼
有田焼

「白黒つけない」サクラ色の碁石が誕生、その裏側にある囲碁の未来に関わる話

史上最年少、わずか10歳のプロ棋士誕生。

彗星の如くあらわれた天才少女のニュースに、日本囲碁界は年初から大いに沸きました。

2019年4月1日付でのプロ入りが決まっているのは、大阪市の小学生 仲邑菫(なかむら・すみれ)さん。

昨今の将棋ブームの火付け役となった藤井聡太さん(現・七段)のように、囲碁界を盛り上げる存在として今後の活躍が期待されています。

囲碁人気が沸騰するかもしれません
囲碁人気が沸騰するかもしれません

そうした明るいニュースがある一方で、棋士の対局に欠かせない道具、「碁石」の製造現場は今、多くの課題を抱えています。

「ハマグリ碁石」最後の産地。宮崎県日向市

高級碁石は、白石と黒石で原料が異なることをご存知でしょうか。

黒石は三重県の那智黒石。そして白い碁石の最高峰として名高いのが「ハマグリ碁石」。

黒木碁石店で、碁石の理想の形として定められている「マスターストーン」
「ハマグリ碁石」

(※ハマグリ碁石について詳細はこちら

名前の通りハマグリの貝殻を原料としており、その美しさや質感の素晴らしさで世界中の囲碁ファンに愛されている碁石です。

かつて、地元の浜で良質のハマグリが大量に採れたことから「ハマグリ碁石」の一大産地となったのが宮崎県日向市。

日向市のお倉ヶ浜
日向市のお倉ヶ浜

やがて黒石も含めて碁石の製造は日向に集約され、現在では日本で唯一、碁石の製造技術が受け継がれている地域となっています。

日向の碁石職人についてはこちら

今も碁石を作り続ける唯一の産地です
今も碁石を作り続ける唯一の産地です

今回は碁石製造の現場や業界の未来について、日向市で100年以上に渡って碁石を作り続けている黒木碁石店の5代目、黒木宏二さんにお話を伺いました。

未来に見切りをつけてしまった業界

「日向に昔は10社以上あった碁石会社ですが、今は弊社を含めて3社しか残っていません」

黒木碁石店 5代目の黒木宏二さん
黒木碁石店 5代目の黒木宏二さん

そう黒木さんが言うように、この数十年で多くの碁石会社が廃業していきました。

当面の営業は問題ないように思えても、子どもや親族に会社を継がせず、自分の代で廃業を決める同業者たち。

「未来に対して見切りをつけている」

別業界でのサラリーマンを経て家業に戻ってきた黒木さんは当初、碁石業界についてこう感じたそうです。

なぜそんな風になってしまったのか。

日向の碁石から、黒木碁石店の碁石へ

黒木さんはその要因のひとつとして、碁石の価値の低下を挙げました。

「以前は、どの会社が作った碁石もすべて“日向のハマグリ碁石”と一括りにされていました。

すると、業界として碁石の選別基準が統一されていないため、同じハマグリ碁石であっても製造元によって品質にバラつきが出てしまいます。

作っている側としても、努力していいものを作っても自分たちの評価に直結しないので張り合いがない。ともすれば、低品質のものを納める会社もあったかもしれません」

黒木さん

購入する側は同じ「日向のハマグリ碁石」と認識して買い求めているのに、実は品質にバラつきがあるとなれば不信感が生まれます。

また、組合を作って共通の販売価格を定めていても、勝手に値下げして販売する会社があらわれてしまう。

結果、値段の下げ合いが起こり、碁石の価値も下がる一方。そんな負の循環が発生してしまったのだとか。

そこで黒木碁石店では、黒木さんのお兄さんである4代目の時、「黒木碁石店のハマグリ碁石」をブランド化すべく舵を切りました。

黒木碁石店の名前をしっかりと記載する

まず、それまで紙の箱だったパッケージを桐箱に変更し、黒木碁石店の名前もしっかりと印字。碁石の規格などもシール貼りではなくひとつひとつ箱に刻印して高級感を出しました。

紙の箱から桐箱に変更
紙の箱から桐箱に変更

さらに「ナンバリング碁石」と呼ぶ、ブラックライトを照射すると独自の管理番号が浮かび上がる仕組みも導入。

ナンバリング=黒木碁石店の正規品の証として、品質管理と保証体制を強化しました。

ナンバリング碁石
ナンバリング碁石

黒木碁石店のハマグリ碁石であれば一定の基準でいつでも安心して選んでもらえるように、仕組みを整えていったわけです。

考えてみれば、碁石は1セット数万円〜数十万円もする高級品。こうした取り組みは当然にも思えますが、これまで業界では誰もおこなっていませんでした。

「今は海外のお客様が多いので、いかに外国人の方々に価値を見出してもらえるかを考えました。

数十万円もするのに紙の箱では嫌だとか、そういった声に応えていったかたちです。

ナンバリングにしても、ひとつひとつに手間を掛けているというメッセージでもあります」

価値を理解してもらい、安売りせずとも購入してもらえるように。そうして体制を整えた上で、適正な価格への値上げも実施したそうです。

向かって左が日向産のハマグリ。右はメキシコ産
向かって左が日向産のハマグリ。右はメキシコ産

現在、ハマグリの原料はメキシコから輸入しています。

海外からの仕入れとなるとどうしても数千万円単位の金額が動くため、リスクも大きくなります。

仕入れたハマグリの価値を高めるためには手間暇をかけた丁寧なものづくりが必要で、そうしないと碁石作りは成り立たないのだと黒木さんは言います。

新たな価値を生んだカラー碁石「さくらご」

碁石は厚みによって価値が変わるほか、傷の有無や縞目模様の状態によってグレードが分けられます。

かと言って、細かくグレード分けして品質の低いものまで商品化すると、結果的にブランド全体が下の価値に引っ張られてしまう。

「そこでブルーラベルという規格を立ち上げました。厳選品の碁石を1級品として、そこまでではない言わば1.5級品だけど、黒木碁石店の碁石として世に出せるもの。

ブランド価値は守りつつ、その中で差分はきちんと伝えた上でご理解いただき、買いやすい価格でご提供する。そういう位置付けの規格です」

ブルーラベルの碁石
ブルーラベルの碁石

このブルーラベルの基準に達しなかった碁石たちは、着色しておはじきとして販売されたり、一部がストラップなどに再加工されたり、それ以外はストックとして倉庫に眠ったままになっていました。

原料のハマグリがいつでも潤沢に手に入る状況ではない中で、この規格外品の取り扱いも長年課題になっていたそうです。

低いグレードで販売するとハマグリ碁石の価値を毀損しかねないし、全ておはじきにしてお土産価格で販売するのではビジネスとして厳しいものがある。

そこで生まれた商品が、碁石を桜色と若草色に着色したカラー碁石「さくらご」です。

さくらご
さくらご

「今ある資源を利用していかに新しい価値観を提供できるのか。海外のお客様に対してどう訴求できるのか。という発想ではじまった商品です」

中国に出張に行く際、空港で目にする免税店。ある時そこに南部鉄器の茶瓶が置かれているのを見た黒木さんは、

「中国は茶の文化があるから、茶瓶も売れるのだろうか。だとすれば、囲碁の文化があるんだから、碁石も売れるかもしれない」と思いつきました。

ただし、大きな碁盤を含めた本格的なセットや、数万円もする碁石を空港で買うとは考えづらい。

さくらご
さくらご

免税店で気軽に並べられる大きさのセットで、和的な要素を集めたコンセプチュアルな商品で、と考えていった末に行き着いたのが「さくらご」でした。

規格から外れた碁石を日本らしい色に着色し、入れ物は茶筒型に。そこに初心者指導に使える9路盤の布をセットにして販売。

すると海外からの反響は勿論、国内では囲碁のプロ棋士や指導者、さらに囲碁にまったく興味がなかった人たちにも興味を持たれ、ヒット商品になりました。

子どものプレゼントに買ってみようと検討する人も多かったそうです。

規格外品とはいえ原料は同じハマグリを使っており、仕上げも丁寧におこなわれているため、打ち心地は本格的。

最後は人の目で厳しい品質チェックを行う
碁石は人の目で厳しい品質チェックを行い、選別する

ハマグリ碁石の価値を下げずに、囲碁の間口を広げる商品になりました。

分業制が崩れてしまう前に

自社製品のブランド化や、さくらごの発売など、着実に成果を上げているように見える黒木碁石店の取り組み。

しかし、まだまだ課題は山積みです。

「碁石作りは、原料の採取から加工、販売まで分業で成り立ってきた世界ですが、そのサプライチェーンが崩れつつあります。たとえば、那智黒石は原料自体はまだありますが、それを採掘して円柱状にくり抜いてくれる職人さんが減っています」

焼き物の世界でも、型屋さんの廃業によって器が焼けなくなり、窯元も廃業してしまうといったことが起きています。究極的には、自社ですべての工程を賄う必要が出てくるわけですが、簡単なことではありません。

「サプライチェーンを維持するには、商品が売れないときでも一定の発注を確保して買い支えることが必要になってきます。それには、碁石だけをやっていたのでは難しいでしょう」

「はまぐり碁石の里」
囲碁に関する『学び』と『食』の発信基地として営業している「はまぐり碁石の里」

黒木碁石店の母体であるミツイシ株式会社では、碁石以外の事業もおこなっています。

「違う事業部で収益基盤を作って、碁石産業をきちんと残していく余剰を作れないだろうか。常に複合的な中で存続の道を探っています」

100年先の人たちへ。資源と技術の継承

ハマグリ碁石の産業を次世代へ繋ぐために、原料の確保と職人の育成は急務。

原料については現状メキシコからの輸入に頼っていますが、この先も安定して入ってくるとは限らない状況です。現に、メキシコ政府から制限がかかり、数年にわたって輸入が止まってしまったこともあるのだとか。

また、この100年の間に絶滅状態になってしまった地元 日向産のハマグリについては、復活の道は厳しいとのこと。

かつて、ハマグリが浜一面に打ちあがっていた「お倉ヶ浜」
かつて、ハマグリが浜一面に打ちあがっていた「お倉ヶ浜」

「人が十数年立ち入らずにハマグリを育てられる環境を用意できれば、いつかはまた増やせるかもしれませんが、我々が生きている間には難しいだろうと思っています。

ただし、100年先の人たちへ資源を繋ぐことを考えると、何かその道筋は立てておきたい。その方法は常に考えています」

現在、黒木碁石店で碁石作りをしている職人さんは4名。

もっとも若い方で53歳。しかし、現状ではまだ若い作り手の募集はかけていないそうです。

「積極的に人を採用するにはまだ体制が不十分であると思っています」

と、黒木さん。もっとも、業界に未来を感じていないわけではありません。

「心の面と、待遇の面。この両面が揃ってはじめて、ぜひうちで働きませんかと言えるんだろうなと思います。

その確信が持てるまで、まだあと少しもがいてみないと、というのが正直な気持ちです。今の職人さんたちがいるうちに、時代にあった答えを見つけられれば」

下鶴さん
碁石職人 下鶴美文(しもづる よしふみ)さん
碁石職人の和田さん
碁石職人の和田さん

心に関しては、外部からの目に見える評価が職人のやりがいにつながると考え、伝統工芸士への認定を県や市に働きかけました。

「やはりお金に変えがたい一生の称号ですし、励みになるんだと思います。

この会社で働けば楽しい、夢がある、自信を持ってそう言える体制を整えてから、積極的な採用活動をするつもりです。

そのために、正しい姿勢でものづくりを続けて、黒木碁石店としてのブランド力を引き続き高めていきます」

ミツイシ株式会社の経営理念
会社の経営理念

原料の枯渇や職人の後継者問題、業界全体の活性化など、たくさんの課題があり、いずれも向き合うのに時間がかかる上、自分たちだけでは解決できない問題も含まれています。

それでも悲観的にはならず、とにかくやってみて、前向きにもがいてみる。それが一番の近道であると、黒木さんは確信しているようでした。

黒木さん

日向のハマグリが採れなくなった40年前、なんの情報もない中で、黒木碁石店の3代目は海外に原料を見出し、ハマグリ碁石の産業をつなぎました。

「そんな先人の苦労を思えば、やってやれないことはないんだろうなと思っています」

<取材協力>
黒木碁石店(ミツイシ株式会社)
http://www.kurokigoishi.co.jp/

文:白石雄太
写真:高比良有城

日本全国、産地のうつわはじめ

手のひらに収まるサイズがかわいく、何枚でも集めたくなる豆皿。色々なおかずを少しずつ盛り付けて食卓を華やかに見せたり、お気に入りの一枚で取り皿として使ったり。

「産地のうつわはじめ」では、日々の暮らしを晴れやかに彩る、縁起の良い豆皿をご紹介します。

一言に豆皿と言っても、地域や窯元によってその個性はさまざま。日本全国の「産地」の背景に触れながら、お気に入りのうつわを探してみるのはかがでしょうか。

特集「産地のうつわはじめ」

※ 2019年1月16日より順次ページ公開

ぽってりとした厚手のうつわ、益子焼

益子焼

産地:栃木県益子
素材:陶器
装飾性:低
産地規模:大

深い謎に包まれた九谷の五彩

九谷焼

産地:石川県
素材:磁器
装飾性:高
産地規模:小

縁起のいい「ふくら雀」に込められた願い

美濃焼

 

産地:岐阜県
素材:陶磁器
装飾性:中
産地規模:大

 

地場産業を支える色とりどりのばんこ焼

萬古焼

産地:三重県
素材:半磁器
装飾性:低
産地規模:中

 

Awabi wareが取り組む、珉平焼へのオマージュ

珉平焼

産地:兵庫県淡路島
素材:陶器
装飾性:中
産地規模:小

 

聞こえてくるのは、身体に染みついた「ろくろ」のリズム

小石原焼

産地:福岡県朝倉
素材:陶器
装飾性:低
産地規模:小

 

ふわりと淡く醸し出す繊細な青の風合い、 鍋島青磁

鍋島焼

産地:佐賀県伊万里
素材:磁器
装飾性:高
産地規模:小

たおやかな曲線の美。春を招く木瓜の花

有田焼

熟練の職人が手描きした絵付けの味わいを楽しむ

有田焼

産地:佐賀県有田
素材:磁器
装飾性:高
産地規模:大

 

食卓をもっと鮮やかに彩る「あ」「うん」の狛ねこ波佐見焼

波佐見焼

産地:長崎県波佐見
素材:磁器
装飾性:中
産地規模:中

 

沖縄の風と土から生まれた「やちむん」

やちむん

産地:沖縄県
素材:陶器
装飾性:中
産地規模:大

 

手のひらに収まる小さな豆皿。この一枚をきっかけに、旅をするように「産地のうつわ巡り」に出かけてみませんか。

海や山に囲まれ、地域や産地ごとに個性あふれる窯元さんがひしめく日本。たくさんあるゆえに、いつも迷っては、眺めてばかり。

そんな時、うつわと親しむ手がかりとして、つくられた場所=「 産地 」の背景に触れてみるのはどうでしょうか。

小さくみえるこの島国には、脈々と焼き物文化が息づいていて、風土・特色・得意な技術もそれぞれです。

「好き」のありかを探るきっかけに、日本のうつわを、産地のことを知っていく。

特集「産地のうつわはじめ」では、日々の暮らしを晴れやかに彩る、縁起の良い豆皿をご紹介していきます。いずれも、これまでにご縁を結んだ窯元さんや、産地ゆかりの品々です。

お世話になったあの人に贈るため、頑張った自分へのご褒美として、お気に入りの一枚を見つけたり、豆皿との出会いをきっかけに「産地」を訪ねてみる。

さまざまにご縁が芽生え結ばれていくと良いなぁと思います。

 

<関連商品>

中川政七商店 産地のうつわはじめ

ぽってりとした厚手のうつわ、益子焼

特集「産地のうつわはじめ」

中川政七商店の全国各地の豆皿
11窯元の豆皿をご紹介していきます

「来る者は拒まず」という気風に吸い寄せられる、益子の地

今回ご紹介するのは、飾り気のない素朴な土の味わいを持つ益子焼の豆皿です。産地である栃木県益子町には、昔から「来る者は拒まず」という気風に吸い寄せられるように、陶芸家志望の若手が数多く集います。

深い青色ののれんに、控えめに窯名が染め抜かれています
深い青色ののれんに、控えめに窯名が染め抜かれています

新旧の風が入り交じるこの地で、歴史ある益子焼の窯元「えのきだ窯」でつくられた豆皿は、肉厚であたたかみのある風情と、伝統釉を用いたモダンな掛け釉が特徴です。

野菜の煮付けや漬け物に、土の風合いがどんな食卓にも馴染みやすく、手に取るとほっと落ち着く一皿です。

飾り気のない素朴な土の味わい

・日用品として欠かせない益子の土
砂気が多く肌理が粗く、粘りも少ない益子の土。この地の豊富な陶土は、精巧なうつわには向かなかったため、江戸時代後期から明治時代にかけて、水がめや火鉢、壺などの日用品の産地として知られていくことになりました。

どこまでも生活に寄りそった益子の焼き物は、磁器に比べて肉厚につくられ、素朴で温かみのある風合いが感じられます。

同じものが集めて重ねて置かれている

・民藝ゆかりの益子焼
のちに人間国宝となる陶芸家・濱田庄司は、英国への留学時代、さまざまな工芸家が豊かな田舎生活を営みながら製作する様子を目の当たりにしました。そして帰国後の1923年、健康的な田舎暮らしが残っていた益子町に拠点を置くことに決めました。

その後、日本民藝館の創設者・柳宗悦、河井寬次郎らとともに「各地の風土から生まれ、生活に根ざした民藝には、用に則した『健康な美』が宿っている」と、「雑記の美」の価値を見つめ直し、民藝運動の提唱を盛んに行いました。

つくるだけでなく、職住一体の暮らしかた・働きかたを実践した濱田庄司。彼の生き方に憧れて益子で作陶を志す若手も多く、現在では民藝ゆかりの地として、全国に知られる産地となりました。

創業80年の伝統とともに、現代の暮らしに寄り添う「えのきだ窯」

榎田ご夫妻

5代目の榎田若葉さんは、夫の榎田智さんと共に陶芸作家として活躍されています。伝統ある窯元で育った若葉さんですが、彼女自身もイギリスへの語学留学やイスラエルでの農業ボランティアへの参加経験など、国際色豊かな経歴の持ち主。

使いやすさのなかにモダンな感性をとりこみながら、濱田が昇華させた流し掛けの技法を用い、のびやかで安心感のあるふだん使いのうつわを生み出します。

若葉さんの人気シリーズ、水玉柄の器
若葉さんの人気シリーズ、水玉柄の器

参照:『没後40年 濱田庄司展 –山本爲三郎コレクション』
   「民藝とは何か」(日本民藝協会HP)

掲載商品

益子焼の豆皿
各900円(税抜)

豆皿の写真は、お料理上手のTammyさんが撮ってくださいました。他にも普段の食卓のコーディネイトの参考になるような写真がたくさんあります。Instagramも、ぜひ覗いてみてください。

文:中條美咲

産地のうつわはじめ

益子焼
九谷焼

わたしの一皿 白磁で遊ぶ冬景色

そばは冷たいそばに限る。なんて物知り顔で語っていたのは数年前まででした。

いやね、冷たいそばは好きなんですよそりゃ。しかし、温かいそばもいいんですよ。特に冬はね、メガネくもらせながら温かいそば。これに限ります。みんげい おくむらの奥村です。

うどんかそばかと言われればそばと即答してきたこの人生。そこに変わりはありませんが、温かいそばの株がここ数年上がり続けておりまして、ますます楽しみが広がりました。

きっかけは旅。海外の旅から帰ると、鮨も食べたい。しかし「ダシ」を味わいたい気持ちがここ数年強くて、そうなると温かいそばなんだ。

しかもここ数年は「汁で呑む」という酒の飲み方を知ってしまって。そうなると旅から戻ったわけでなくても、温かいそばを積極的に頼むようになりました。

そしたら、今まで見向きもしなかった温かいそばのメニューに見つけてしまったのですよ「かきそば」。おおおおお、なんと魅力的な。

店によっては天ぷらだったり、薄衣がついていたりと定義はあいまいなんだろうけど、ともかく冬にこれを食べない人生なんてありえない、とまで好きになってしまった上、家でもよく作っているのです。

出汁で牡蠣を煮込む様子

家で作る時は、かきはそばつゆで煮る。かるく。熱はしっかり入るけど、かきがちぢんでしまわないように。

そうするとそばつゆにもかきの旨味がたっぷりと溶けだしてこれがたまらない。

ネギは好みで煮る時間を決めたらよい。ご覧のとおり、今日はくったくた。シャキシャキ派はほんの軽く火を通して。

邪道かもしれないけど、家で食べる時はそばを少なめにして、ご飯をセットにします。

ぷりぷりのかきもいいし、このそばつゆがたまらないんだな。どちらも米にも合う。

そばがあるんだから米はいいでしょ、と言うあなた。やってごらんなさいよ。違うんだから。

ざるに乗った牡蠣

ついでに言うと、かきはできるだけ大ぶりなものが良い。今日は三陸のもので洗うそばからそのぷりぷり具合に心が踊る。

そんな訳で今日はそばが少なめだから、丼は小さめ。と言うよりも丼ではなく鉢です。白磁のもの。

ちょっと前にも白磁のうつわを出しましたが、また別の作り手です。

静岡でうつわづくりをしている、齋藤十郎さんのもの。普段は陶器の作り手ですが、これは珍しい白磁。

静岡・斎藤十郎さんの白磁器

面白いので、同じ作り手の2つのうつわを比べたい。これらはまったく同じ土を使い、灯油の窯と電気の窯で焼かれたもの。色の違いがわかるでしょうか。

前にも書いたけど、白磁は色の幅が広い。工業的な白磁を真っ白とするならば、それより黄色寄り、青寄り、など広がりがあり、そこもまた面白い。

海外なら古くは中国や朝鮮の李朝やヨーロッパ。国内なら九州の古陶にあるいは現代の作り手たちのもの。世界にちらばる白磁の面白さにハマるとずぶずぶと抜け出せなくなります。

加えて言うと、無地の白磁はうつわの形がダイレクトに見える。作り手の齋藤さんもそこが難しいがおもしろいというようなことを言っていた。

実際作り手泣かせなんだろうけど、自分の手に馴染む、そこにあって美しい白磁はなんとなく他のうつわよりも気品がある。

そばを茹でる様子

そばを茹でる時はたっぷりのお湯で。かきも煮すぎないように、ネギも好みの感じで。

なんども作ればこのへんは慣れてきますよ。うまくタイミングを合わせて美味しく作りましょう。

できあがったかきそば

さて、いただきます。ところで、夜にかきそばを食べるなら断然お酒とともに。

しかしこの場合は悩ましい。温かいうちに全てを食べたいのだが、ゆっくり酒も飲みたい。

そんな時は天ぷらそばの「天ぬき」よろしく「かきぬき」もいいですね。ゆずの香りを鼻で感じたら、「寒い冬の夜も悪くはないな」なんて言いながら一献、また一献。

奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。

みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com

文・写真:奥村 忍