「ほっとひと息」を丁寧に過ごしたい人へ。有田焼の「mg&gk(もぐとごく)」でお茶にしませんか

春風が吹いていた。

午前中に洗濯はすませたし、掃除もさっと終わらせた。さてと。これから何をしようか。さしあたり予定はないし、出かける気分でもないような。まあ、いいか。ゆっくりお茶でもしながら考えようっと──。

たまの休日。穏やかな午後。

忙しい毎日のなかで何もせずゆったりと寛ぐことのできるひとときは大切だ。自分に甘く、自分に優しい。そんな愛しい時間に、そっと寄り添ってくれそうなのが「mg&gk」の器である。

mg&gk(もぐとごく)ロゴ

“もぐとごく”と読むという。もぐもぐ、と、ごくごく。文字通り、ちょこっと食べたり飲んだりするための有田焼の新ブランドだ。

有田焼というけれど、料亭や旅館で目にする、いわゆる“ザ・有田焼”とは違う。もっと優しくて可愛らしい雰囲気をもっている‥‥そんなことを思いながら「mg&gk」の故郷をたずねることにした。

有田焼の伝統と格式に
柔らかく、みずみずしい世界観を

改めて、有田焼とは佐賀県有田町周辺で焼かれた磁器の総称。有田町は日本で初めて磁器が焼かれた産地としておよそ400年の歴史をもつ。

有田焼の神様を祀る陶山神社。「mg&gk」の工房はそのすぐ脇にある
有田焼の神様を祀る陶山神社。「mg&gk」の工房はそのすぐ脇にある

訪れたのは、創業62年を誇る「渓山窯(けいざんがま)」だ。名工・篠原龍一さんが、豊かな自然と清冽な水に恵まれた猿川渓谷に魅せられて、同地に窯を築いたそうである。

青空に「渓山窯」の煙突が伸びる
青空に「渓山窯」の煙突が伸びる

時代の流れをくみ取りながら、使う人の“日常の豊かさ”を思い描き、料理が主役になる器づくりを大切にする窯元である。

「有田焼というと濃い染付がくっきりと施されていたり、赤や青、黄など絵付けの色鮮やかさがあったりと、どちらかというとインパクトの強い印象があるのではないでしょうか」

そう話すのは「渓山窯」三代目の篠原祐美子さん。

有田焼のイメージ。「渓山窯」の伝統的な文様を描いた猪口の数々
有田焼といえばこんなイメージが主流。「渓山窯」の伝統的な文様を描いた猪口の数々

「それに有田焼というとやはり“和食器”というイメージがありますよね。そうしたイメージをちょっと覆してみようかと」

佐賀県のコンサルティング事業の一環として、中川政七商店とクリエイティブデザイナー兼プロダクトデザイナーの辰野しずかさんとともに、有田焼の新しいかたちを模索した。

「そのなかで『渓山窯』らしさとは何だろうってことを改めて考えて。うちならではの魅力とは?やっぱりそれは“染付(そめつけ)”にあるのかなと思ったんです」

有田焼は陶石を原料にした透明感のある白磁に、鮮やかな色が繊細に施されているのが特徴だが、そのなかで染付とは呉須(ごす)と呼ばれる藍色に発色する絵の具で絵付けをしたもの。簡単にいえば白地に青だけを施した器のことである。

同窯では創業以来、“染付の美”を追い求め、今も昔と変わらず、職人1人1人が全製品を手づくり手描きで絵付けを行っている。

和紙に炭で描いた図柄を器に写してから、呉須で線を描いていく
和紙に炭で描いた図柄を器に写してから、呉須で線を描いていく
「渓山窯」三代目の篠原祐美子さんが絵付けをしている風景
絵付歴25年のベテラン。絵を描くことが好きで、この道に入ったとか

篠原さんのほかにも女性職人は数名いるが、辰野さんは、篠原さんらが染付する姿を見て、有田焼に女性ならではの柔らかな雰囲気を重ね合わせ、有田焼の新しいかたちを思い浮かべたのだという。

──優しくて、大らかで、エレガントな有田焼の姿である。

主張しすぎないこと。
極限まで“呉須”を薄くする

そんな世界観を表現するために辰野さんから提案されたのは「呉須を極限まで薄くしてはどうか」ということだった。

絵付けの作業風景

実は、これには「抵抗があった」と篠原さんは言う。

「というのも、有田焼では輪郭となる線はくっきりと描くものという概念があったから。濃み(だみ:塗る作業)で薄い絵の具を用いることはあっても、線書きを薄くするということをやったことがなくて。だから、はじめはとても勇気がいりました」

それは、技術的にも難しい挑戦だった。

まず、どのくらい薄くしていいのかが分からない。薄すぎれば焼き上がったときにラインが見えないし、かといって濃すぎれば「mg&gk」ならではの柔らかなニュアンスが出なくなる。ポイントは“主張し過ぎない”ことだった。

熟練職人の作業風景
熟練の職人でもはじめは難しい作業だったとか

呉須の濃度や成分、色味を変えながら、何度もテストを繰り返す。どんな表情に仕上がるのかは焼き上がってみないと分からないから、

「とにかく毎回、心配で(笑)」。

一方、新たな試みにより見えてくることもあった。

「呉須の濃度を変えるだけで、こんなにも印象が違うんだとはじめて知りました。同じ和柄でも呉須を薄くするだけで柔らかくやさしい表情になるし、和食器としてだけでなく、洋食器の雰囲気にもなり得るんだという発見があったんです。これには驚きました」

穏やかな、それでいて芯のある口調で、篠原さんは語る。ちなみに呉須の濃度はマニュアル化ができないという。

「作業の途中で水分が蒸発したりするから、職人が水分や顔料を加え、濃度を調整しながら絵付けをしなければなりません。最後はやっぱり職人の技と勘に頼ることになります」

呉須を含んだ細い筆先から淡い青色が線となって描かれる。それはとてもみずみずしく、とてもたおやか。絵柄の濃淡やラインのゆらぎが異なるのも手描きでつくる「mg&gk」ならではの魅力である。

縁起のいい吉祥文様4種

こうして生まれた「mg&gk」の第一弾は、フィナンシェと紅茶の器だ。

「mg&gk」の第一弾、フィナンシェと紅茶の器

絵柄は4種類。平穏な日々を祈る青海波に金の上絵で星を描いた「波」、円満を意味する円形を重ねた吉祥文様の「七宝」、成長を願う吉祥文様の「麻の葉」、そしてシンプルに描いた定番の「縞」模様など、縁起の良い模様を採用している。

4種の絵柄
左上:「波」、右上:「七宝」、左下:「麻の葉」、右下:「縞」

本当だ。
和柄なのに、薄い呉須で描かれているからか洋食器のような雰囲気。穏やかに、素朴でありながら、気品のある佇まいを醸している。

4月3日の発売に先駆けて、4月1日からは兵庫県、芦屋で生まれた洋菓子ブランド「アンリ・シャルパンティエ」とのコラボレーションモデルも発売。

日本発の洋菓子ブランド「アンリ・シャルパンティエ」とのコラボレーションモデル

こちらは「七宝」文様に、同店のモチーフとなる「青い炎」を配したオリジナルデザイン。カップと小皿に、長年愛され続けるフィナンシェを詰め合わせたセットは、たとえば母の日のプレゼントにもおすすめだ。

そして第二弾以降も「mg&gk」は今後さらに面白い展開を予定している。

「まだまだ模索中ですけど、これまでの有田焼になかったような、日常的に“もぐもぐ、ごくごく”を楽しめるアイテムを製作中です」

何が登場するのか心待ちにしつつ、さてと。まずは、ゆっくりお茶にしよう。

<取材協力>
渓山窯
佐賀県西松浦郡有田町大樽2-3-12
https://www.keizan-shop.com/

<掲載商品>
・ mg&gk フィナンシェと紅茶の器(中川政七商店)
・ mg&gk フィナンシェと紅茶の器 限定モデル(アンリ・シャルパンティエ)

文:葛山あかね
写真:藤本幸一郎

デザイナーが話したくなる「蚊帳生地で作った服」


ふんわりやわらかい蚊帳生地で作った女性らしい服のシリーズです。
この商品を企画したデザイナーにここだけの話を聞いてみました。



蚊帳生地はその風合いに特徴があり、目が詰まりすぎていないから、風通し良くふんわりとした仕上がりになります。そして、この生地の特徴こそが縫製を難しくしてしまうそうです。



服を作るのだから、生地を縫い合わせることは、当然の作業です。それが蚊帳生地の場合、普通に通常の縫い合わせの方法では、滑脱してしまう(いわゆるほどけてしまう)可能性が大きいのです。

そこで、まず生地を2枚縫い合わせて、その1枚1枚をそれぞれを2回折り返して縫います。通常は簡単に仕上げているものならロックミシン、カッターシャツなどでも2回縫うことで仕上げていることが多いのですが、この服はロックミシンはどこにも使っていないどころか、3回の手間をかけて縫い合わせます。
(ややこしいですよね・・・メモをとっていても、わからなくなりそうで、何回も繰り返し説明してもらいました。。)




もうひとつ、蚊帳生地の難しいところが、きれいにカーブを作ること。
目が詰まっていないので、カーブを作って折り返すと生地がまとまらず繊維がばらばらしてしまう。
それでもデザインにこだわって女性らしいカーブと、動きが加わる部分なので、強度をもたせることを考えて縫製することに。

本体と同じ共生地をテープのようにカットしたものを用意し、さらにカーブに合わせた芯と一緒に本体と3枚合わせて縫製します。扱いにくい生地を丁寧に塗っていかないときれいなカーブにならないので、とても大変な作業だそうです。




生地をよく見ると、経糸(たていと)には白、緯糸(よこいと)に色の糸を使っています。これは、1色で生地を作るより、やわらかい印象になるようにと2色使いにしたそうです。

そもそもこのふんわりした状態で縫製されているのかと思っていたら、蚊帳生地は生地になった時点では、ノリが付いていて、商品の1.3倍ほどの大きな状態で縫製しているのだとか。生地がぼわんっとハリがある状態なので、折り返す以外に、ギャザーを入れる細かい作業も考えただけで気が遠くなります。
縫製後にようやく洗い加工といって、きれいにノリを落としてふんわりさせたものが、この状態なんです。




生地以外にも、注目していただきたいのは、奈良で作っている貝ボタン。海がない県なのに、と思われるかもしれませんが、全国トップシェアを誇っている、奈良の産業です。
つるんとしたやさしい光沢と手触りで、少し高さのある小さめのボタンをこのシリーズにも使っています。




「蚊帳生地で作ったら涼しそ~」と思っていた、このシリーズ。聞けば聞くほど、大変な手間をかけできあがっているのだと勉強になりました。
奈良で作った材料で服を作れることはとても嬉しいことと話していたデザイナー。そして、難しい縫製をしてくださっている方々。丁寧に洗って、大切に着ていこうという思いがふくらんだ時間でした。

 

母の日に贈るなら和紙造花を。耐久性あり、水に強く好きな香りも付けられる。

今年のゴールデンウィークは10連休です。長期休暇を楽しみにしていらっしゃる方は少なくないと思います。ゴールデンウィークを超えると、5月12日の母の日が近づいてきます。母の日のプレゼントはどんなものにしようか。毎年、悩まれる方も多いのではないでしょうか。

私、早くも買ってしまいました。

郵送で送ってもらいました。逆さま厳禁!
郵送で送ってもらいました。逆さま厳禁!

メッセージ付きです。
メッセージ付きです

これ、皆さんわかりますかね。ブーケなんですけど、中身は和紙で作られた造花なんです。

窓のそばに置いてみました。造花に感じられないような、きめ細やかな仕事ぶり。さて中身を開けてみましょうか。
窓のそばに置いてみました。造花に感じられないような、きめ細やかな仕事ぶり。さて中身を開けてみましょうか

ラベンダーの香りを発しています。
ラベンダーの香りを発しています

開封すると、ラベンダーの香りがふわっと鼻の中を通っていきます。造花なのに香りがする。これはどういうことなのでしょうか。

耐久性に強く、水に強い! だから香りを付けられる

注文したのは福井県にある「AI-LI (あいりぃ)」というフラワーショップです。ここでは和紙造花を制作しています。

店主・五十嵐純子さんの旦那さんの実家が、越前和紙づくりをしていて、和紙を分けてもらう機会も多いとのこと。五十嵐さんとお電話でお話をしたところ、「日本家屋が減って、和紙が使われる襖や障子も少なくなりました。和紙造花を自然におうちで飾ってもらえるといいなあと思っています」とおっしゃっていました。

一般的に、和紙は繊維の長い楮や三椏の「木の皮」を原料に、とろみのある植物性の粘液と混ぜ合わせて紙を漉きます。そのため和紙は一つ一つの繊維が長く、耐久性に優れます。

また、木の皮は幹を守るために表面の湿度を保つため、水にも強い特性を持っています。だから、香りをつけることができるのです。また、虫の侵入や菌の繁殖も防いでくれます。「AI-LI」の和紙造花は、好きな香りのリクエストも受け付けています。

和紙造花は水に強い性質を持っています。
和紙造花は水に強い性質を持っています

越前和紙の種類の多さは造花作りに適している

越前和紙は1500年もの長い歴史を誇り、品質、種類、量ともに日本一の和紙産地として生産が続けられています。産地としても大きいので、数多くの紙を漉いています。硬いものから柔らかいもの。厚みのあるものから薄いもの。紙質の種類が多いので、和紙造花を作る際にも、繊細で幅広い表現が可能になるのです。

和紙はカールをつけるにしても、素材がしなやかなので、形がそのまま残ってくれるそうです。普通の紙を使うと、形をつけても戻ってしまいます。

今回、購入したものは茎をワイヤーにしていましたが、全て和紙を使った造花も作ることができるそうですよ。

巧緻に作られています。
巧緻に作られています

和紙造花はきれいなままで保つことができる

造花は生花と違って、枯れる心配がありません。お手入れや水替えなどの手間も一切かかりません。常に新鮮なうつくしさを保ってくれるのって、ありがたいですね。

また、和紙造花はホコリを呼ばないそうです。表面を細かく見てみると、和紙には細かい毛羽が立っているので、ホコリが密着しないのです。ホコリは集まりますが、乗っかっているだけで、容易に取り除けるわけです。

ほかにも、病院では院内感染などもあるので最近は生花の持ち込みが厳しいそうです。生花に関してはアレルギーを持っている方もいらっしゃるかもしれません。造花であれば、そういった心配がありません。

手に持ってみました。大きさは横18㎝×奥行15㎝×高さ22㎝。
手に持ってみました。大きさは横18㎝×奥行15㎝×高さ22㎝

お母さん、喜んでくれるかな

「AI-LI」では月に50~60個くらいの和紙造花を20人ほどでつくっています。注文のピークは母の日前の3月から4月頃。大量発注があるときは分担しながらつくります。「1人が徹底して作れば1日くらいで出来上がる」そうです。

花びらは1枚ずつカットし、貼り合わせるという細やかな仕事ぶり。2014年のNHK紅白歌合戦では水森かおりさんの衣装にも使われたことがあるといいます。

生花と見間違えるほど、精緻に作られた和紙造花。香りを感じながらにこやかな笑顔を浮かべるお母さんの姿を想像してみましょう。今年は母の日に香りをつけた和紙造花を贈ってみませんか。

ケースに入れなおしてみました。さあ、お母さんに贈ってみよう。
ケースに入れなおしてみました。さあ、お母さんに贈ってみよう

<取材協力>
和紙の花フラワーギフトショップ「AI-LI (あいりぃ)」新田塚店
福井県福井市二の宮5-18-25 バロー新田塚店内
0776-87-0878

文・写真 : 梶原誠司

へぎそばの「へぎ」って何?生みの親に聞く由来とおすすめの食べ方

そば通を唸らせる新潟名物「へぎそば」

新潟県には、全国のそば通を唸らせる名物「へぎそば」があります。

へぎそばの特徴は、「フノリ」という海藻をつなぎに使うこと。それによるツルツルとしたのどごしと、弾力のある歯ごたえが魅力です。また、一口サイズに束ねて盛り付けられたそばには独特の美しさがあります。

その生まれには、新潟の地場産業である着物づくりとの密接な関わりがあるのだとか。

「へぎそば」の生みの親、十日町市の小嶋屋総本店でお話を伺いました。

小嶋屋総本店
へぎそばを生んだ小嶋屋総本店。その味は5回もの皇室献上を賜るほど

小嶋屋総本店3代目 小林重則さん
小嶋屋総本店3代目 小林重則さん

着物に無くてはならない「布の糊」

「十日町市は着物の一大産地として発展を遂げてきた街です。フノリは、着物づくりに欠かせない素材でした。

フノリは、『布海苔』とも『布糊』とも書きます。布の糊なんですね。煮溶かしたフノリから取れる粘り気のあるエキスが糊となります。糸を液状の糊にくぐらせることで保護したり、強い撚り (より) をかける際に役立ちました。多くの人が着物産業に携わっていたこの街では、フノリはとても身近な素材だったんです」

着物づくり使われたフノリ
着物づくり使われたフノリ (十日町市博物館 展示)

フノリを使って糊付けされた糸
フノリを使って糊付けされた糸 (十日町市博物館 展示)

「フノリは海藻ですから、食料にもなります。飢饉を救ったという歴史も残っています。乾燥させることで一年中保管できるので、保存食として暮らしを支えていたんですね。

この地域は小麦粉を栽培していなかったので、当時そばのつなぎには山ゴボウの葉や自然薯、鶏卵などが使われていました。そこで、もっと身近で手に入りやすいフノリが使えるのでは?と創業者である祖父の重太郎が思いつきます。

研究を重ね、出来上がったフノリつなぎのそばは、今までにない食感と味わい。たちまち評判を呼びました」

「へぎ」にはどんな意味が?

へぎそばは「うつわ」も独特です。

へぎそばの「へぎ」は「剥ぎ (はぎ) 」が訛ったものといわれています。木を剥いだ板を食台にしたものを指しています。この「へぎ」にそばを盛ったので「へぎそば」と呼ばれました。へぎは、養蚕の現場で使われていたものを活用したのだとか。

「へぎ」に3〜4人前のそばを盛り付けて、みんなで囲んで食べるのが一般的です。

器として使われた「へぎ」
器として使われた「へぎ」。3〜4人前のそばを盛りつけ、みんなで囲んで食べる

独自の盛り付け方の理由とおすすめの食べ方

さらには、この独自の盛り付けにも着物づくりとの関わりがありました。

一口サイズに束ねて盛り付けられています
一口サイズに束ねて並んでいます

この形、織物用の絹糸を束ねた「おかぜ (かせ繰り) 」とよく似た姿をしています。日常的に目にしていた姿形が食べやすさと結びついて、この盛り付けとなったようです。

手を振りながら、水から揚げたそばを束ね、八の字に盛り付けます。この様子は、まるで糸を手繰るような動作です
手を振りながら、水から揚げたそばを束ね、八の字にして盛り付けます。まさに糸を手繰るような動作ですね

「昔は米などの五穀は年貢として大半を納めねばならず、手元にはほとんど残りませんでした。そのため五穀に含まれない玄そば (そばの実) を栽培して自分たちの食料にしていたといいます。

普段はそばがきにして食べていたそうです。手間をかけて作る、そば切(麺にしたそば)は餅などと同様に、ハレの日のご馳走でした。

玄そばの実は三角形。『三角=みかど』に通じる縁起物とされました。今も、冠婚葬祭やお祭りなどの宴席でそばが振る舞われます。お酒を飲んだ後の締めにもなるので『そば肴』とも呼ばれ親しまれているんですよ」

へぎそば

薬味にはカラシを添えます。つゆには入れず、少量をそばに塗るようにつけるのがおすすめとのこと。この地域はワサビが採れなかったためカラシが用いられるようになったそうですが、そのさっぱりとした辛さは、へぎそばと相性抜群です

着物づくりがそばに与えた影響を紹介してきましたが、実は、そばも着物づくりに役立っている一面があります。糸を白く漂白するとき、そばの茎を燃やして作ったアク汁を使います。暮らしで身近な食材を着物づくりに生かしたのですね。

冬は雪に閉ざされる豪雪地帯。限りある資源を有効活用して使い切る知恵がそこここにあります。

持ちつ持たれつともいうべき着物産業とそばは、この地で生きる人々の工夫の結晶と言えそうです。どちらも、人々を魅了し続けています。

<取材協力>

小嶋屋総本店

新潟県十日町市中屋敷758-1

025-768-3311

http://www.kojimaya.co.jp/

文:小俣荘子

写真:廣田達也

※こちらは、2018年7月25日の記事を再編集して公開しました。

登山に欠かせない専用アイテム。山のプロが認めた靴下の秘密

もし「今度山登りに行こう」と決まったら、服装や持ち物は何を用意しますか?

リュックに脱ぎ着しやすいウェア、帽子に登山靴。

もう一つ、忘れてはいけない大切なアイテムがあります。

「山は足で登るものなので、踏ん張りが効かなきゃいけないんです。

でも、登山靴って硬くて大きいので完全に足にフィットするのが難しい。やっぱりちょっと足が動くんですよね、靴の中で。このズレが、疲れの元なんです。

そんな靴と足の間で踏ん張りを支えてくれるのが、靴下です」

そう話すのは株式会社ヤマップの髙橋勲さん。

ヤマップ高橋さん

ヤマップは日本最大級の登山コミュニティーサイト「YAMAP」の運営会社。月一回は会社メンバーで定例登山にいくというほど山を愛する、いわば山のプロ集団です。

登山スタイルでインタビューに応じてくれました
登山スタイルでインタビューに応じてくれました

プロが認めた登山のための靴下

そんなヤマップが「山登りにぴったり」と太鼓判を押し、コラボ企画のラブコールまで送った靴下があります。

その名も「山を登るくつした」。

日本の靴下生産の5割を占める、奈良県発の靴下ブランド「2&9 (にときゅう) 」のアイテムです。

山を登るくつした

後ほど紹介するコラボ靴下
後ほど紹介するコラボ靴下

山登りにしっかりとした靴が必要なのはわかりますが、靴下がそれほど重要とは、思いがけない事実。

今日はこの商品をひもときながら、意外と知らない山登りのキーアイテム、靴下の実力に迫ります。夏山シーズン前の予習にどうぞ。

山のプロから見た靴下の重要性

泊りがけのハードな登山もするという高橋さん。「山を登るくつした」を実際に山で履いてみて「これはいい!」と感動したのだとか。

背景には、高橋さんや山好きのヤマップ社員がずっと感じていた、ある「不足」がありました。

「アウトドアのウェアってどんどん進化していて、インナーからズボン、靴までかなり機能的になっているんですけど、靴下だけはあんまり進化していませんでした。多少開発もされてはいるんですが、これは、というのがなかったんですね」

長時間歩き続ける登山。

例えば靴下の履き口がきつければ、むくみにつながります。

通気性が悪ければ、蒸れが気になってくる。服なら汗をかけば脱ぎ着ができますが、靴は一度履いたらずっと履いたままです。

靴

さらに、生地の厚みやサイズが合わないと、擦れて痛みに繋がってしまうことも。

「楽しく快適な登山のポイントは、足の踏ん張りと疲れをためないことです。

わずかな擦れや蒸れも、続けば足が疲れ、歩く姿勢が崩れてさらに疲労が溜まっていく、という悪循環になってしまいます」

登山の足元を支える重要なアイテムでありながら、常に登山アイテムの商品情報に接している山のプロでも、なかなかしっくりくるアイテムにめぐり合えませんでした。

「蒸れない、ズレない、疲れにくい。そんな靴下があれば」

そんなある日、スタッフの方がたまたまネットで見つけたのが、この「山を登るくつした」でした。

山を登るくつした

注目ポイント①つま先のかたち:踏ん張りのきく足袋型

まず目に留まったのがそのつま先のかたち。

山を登るくつした

「もともとスタッフでも足袋型のソックスを登山に愛用している者が結構いたので、これはいいぞと思いました」

手袋でもミトンよりは5本指の方が物をつかみやすいように、靴下も指先が分かれたタイプの方が地面をつかみやすく、次の一歩を踏み出しやすくなります。

注目ポイント②編み方:つま先の立体構造

「さらによかったのが、同じ足袋型でも一般的なものと違って、立体的な編み方をしていることです」

山を登るくつした

丸編みという立体的な編み方をしているので、つま先に縫い目が当たらず、足を動かしても生地がずれずに擦れにくくなっています。

生地のズレを防ぐ機能は、かかと周りにも。特殊な編み加工を足首部分に施し、かかとを固定 (ヒールロック) する構造で足の疲れを軽減します。

同様に、サイド、足の甲部分にもサポート加工が施されている。触ると硬く、しっかり足を固定する
同様に、サイド、足の甲部分にもサポート加工が施されている。触ると硬く、しっかり足を固定する

注目ポイント③通気性:蒸れを防ぐメッシュ生地

「ここ、履き口に近い甲の部分がメッシュになって蒸れにくくなっているんですよ」

逆三角形の部分がメッシュ加工になっている

「通気性ってとても重要で、長く歩いた後にその差が出てきます。小さなストレスが積み重なって足の疲労になるので、これから山開きする富士山のように長時間の登山の時は特に、蒸れにくいことが大切です」

他にも、小さなストレスを積み上げずに足を守る工夫が各所に。

足裏にはタオルと同じパイル編み加工を
足裏にはタオルと同じパイル編み加工を

締め付けずにむくみを防ぐゆったりした履き口
締め付けずにむくみを防ぐゆったりした履き口

社内であっという間に話題になり、「うちでも商品化したい」とすぐにコラボ商品の提案に奈良へ向かったそうです。

作っているのは日本最大の靴下産地、奈良の靴下工場

高橋さんたちが向かった奈良は、日本有数の靴下産地。生産量は全国の5割を占めます。

「山を登る靴下」の生みの親「2&9 (にときゅう) 」は、そんな奈良の靴下工場と一緒に商品開発を行っています。

今回「山を登るくつした」を作ったのは、奈良県大和高田市に工場を構える西垣靴下さん。

西垣靴下株式会社

工場内には靴下づくりの機械がずらり
工場内には靴下づくりの機械がずらり

足を固定するテーピング編みを業界に先駆けて考案し、10年前に売り出したウォーキングソックスが大ヒット。そのノウハウを生かして生まれたのが、今回の「山を登るくつした」です。

これが西垣さんが最初に手がけたウォーキングソックス。ここから、つま先の立体構造や足裏のパイル編み、履きやすい履き口や、足をしっかり固定するサポート加工が「山を登るくつした」に採用されています
これが西垣さんが最初に手がけたウォーキングソックス。ここから、つま先の立体構造や足裏のパイル編み、履きやすい履き口や、足をしっかり固定するサポート加工が「山を登るくつした」に採用されています

「もともとはテーピング編みという技法を取り入れた、より強力に足全体を固定するソックスです。

2&9の『山を登るくつした』はそれをレジャーや普段使いにも取り入れやすいよう、カジュアルダウンさせた格好ですね。要望があれば他にもまだ、いろんなアレンジができますよ」

お邪魔した日も、足袋型ソックスを製造中でした
お邪魔した日も、足袋型ソックスを製造中でした

そんな新しいものづくりに意欲的な西垣靴下さんの協力で、2&9×YAMAPコラボ版「山を登るくつした」も誕生しました。

YAMAPコラボ版「山を登るくつした」
こちらがYAMAPコラボ版「山を登るくつした」

指先を5本指にアレンジ
指先を5本指にアレンジ

高橋さん、インタビューの日もわざわざ履いてきてくださいました!
高橋さん、インタビューの日もわざわざ履いてきてくださいました!

ハイカットの登山靴にも対応できるよう、履き口の丈を長めに
ハイカットの登山靴にも対応できるよう、履き口の丈を長めに

サポート加工などはそのままに
サポート加工などはそのままに

「足袋型の方がつま先がしっかり厚くクッション性があります。5本指はそれより生地が薄くなりますが、しっかり5本の指で地面を掴めるので踏み込む力が出やすくなります。

どちらがいいかは個人の好み次第ですね。私やうちの会社で一番山に登っているスタッフも、両方とも気に入って使っています」

普段と違う環境で、普段より長く足を使う登山。足を守る靴下も、機能性の高いものが一足あると、道中の心強い味方となってくれそうです。

山のプロが太鼓判を押す、山登りのための靴下。その実力は、ぜひ来る夏山シーズンで試してみては。

<掲載商品> *登場順
山を登るくつした (2&9)
5本指の山を登るくつした (YAMAP)

<取材協力> *登場順
株式会社ヤマップ
https://corporate.yamap.co.jp/

西垣靴下株式会社
http://www.nishikutu.co.jp/

文・写真:尾島可奈子
取材場所提供:DIAGONAL RUN TOKYO

※こちらは、2018年6月12日の記事を再編集して公開しました。しっかり準備をして山登りを楽しみたいですね。

【わたしの好きなもの】筆ペン

筆ペン ~届けたいものがあります~



仕事柄、金封や手紙を書く機会が多くあります。

その際に筆ペンを使用するのですが、筆のコシが柔らかすぎたり固すぎたりすると、思い通りの線が出なくて書きづらく感じることもありました。

今回は、私が巡り合った理想の一本をご紹介します。

私が使用している筆ペンは、約380年の伝統を誇る奈良筆の老舗「あかしや」の職人が一本一本手作業で作っている、中川政七商店オリジナルのものです。




一番の特徴は、ペン先にコシがあり、実際の筆と同じような感覚で書けること。力の入れ具合によって太い線も細い線も書くことが可能で、表現の幅が増え、線一本一本に表情が出て気持ちを乗せることができます。




カートリッジ式でインクの交換も簡単です。

デザインもシンプルで、入っている焼印の柄も上品なので飽きずに使用でき、筆立てに立ててもなじみます。また、軸は天然の紋竹を使用しているので一本一本で表情が異なり、自分だけの筆ペンだと思える部分も魅力です。

桐箱に入っているので贈り物にもオススメ。私は、桐箱には鉛筆を入れて筆箱として活用しています。




現代はメールやLINEなどで連絡をとることがほとんどで、PCやスマートフォンの画面上で見る文字は無機質な印象を与えがちです。

その一方で、送る相手への心を込めた手書きの文字には温度があり、書き手の想いが息づいていると感じています。



金封の表書きはお祝いする気持ちやお悔やみの気持ちを込めて、手紙は送る相手へ想いを馳せながら、書いています。そうすることで、より丁寧に書こうという意識も芽生えます。

字が上手ではないからと手書きを敬遠する気持ちもあるかと思いますが、相手のことを想い、伝える言葉を選び、そして自分の手で書く言葉は文字の巧拙に関わりなく気持ちが届くものです。




自分がもらう立場で考えても、自分に対してそれだけの時間と心を使い、届けてくれるその気持ちが嬉しく、差出人の方を身近に感じてあたたかい気持ちになります。


心の機微を手書きの文字に乗せて、心のやりとりをこれからも大事にしたいと、今日も筆を取っています。


中川政七商店 管理課 吉田



<掲載商品>
筆ペン