京都「HOTOKI」でうつわを好きになる。工房を眺めながらコーヒーを飲める店

陶芸一家が営む、総合的なうつわの店

京都市左京区・岩倉。比叡山の借景が見事な圓通寺や「雪の庭」として名高い妙満寺、門跡寺院の実相院など名刹も多く、風光明媚な景色が残るエリアとして知られている。

そんな岩倉の閑静な住宅街に突如現れるのが、高床式倉庫を思わせるようなモダンな一軒家。

ここは陶芸家・清水大介さんが代表を務めるkiyo to-bo(株)の実店舗のひとつ「HOTOKI」。shop・工房・カフェが一緒になったうつわの総合ショップだ。

京都市左京区・岩倉にある総合的なうつわの店「HOTOKI」
京都市左京区・岩倉にある総合的なうつわの店「HOTOKI」

大介さんの父である陶芸家・清水久さんと2名のスタッフが職人として工房を、母の祥子さんがカフェを、そして弟の洋二さんが全体の運営を担っている。

店は階段を上がった2階の手前にshop、奥にカフェがあり、1階が陶芸体験もできる工房となっている。shopには、同じくkiyo to-boが運営する清水団地の工房「トキノハ」のうつわと、[HOTOKI]オリジナルのうつわが並ぶ。

HOTOKIのうつわ
壁面に簡単に取り付けられる花器「TUKU(ツク)」シリーズ
壁面に簡単に取り付けられる花器「TUKU(ツク)」シリーズ
うつわは、いくつかのシリーズごとに特徴が分かれていて自分の好みにあわせて選びやすくなっている
うつわは、いくつかのシリーズごとに特徴が分かれていて自分の好みにあわせて選びやすくなっている

この店の特徴は、うつわを買えるだけではなく、「触って作って楽しめる」こと。まずはカフェという気軽な体験を通してうつわに触れ、気に入ればshopで買うことができる。そしてカフェからは1階の工房の様子が眺められ、空いていればその場で陶芸体験もできるのだ。

HOTOKI

ここでしかできない、カフェの在り方とは。

洋二さんはHOTOKIを「お客様をもてなす場所」と話す。

「うつわを売っているだけのお店だと、何か買って帰らないといけないような気がして、足を踏み入れるのを躊躇してしまう人もいる。僕たちはまず自分たちが作るうつわのことを知ってもらいたいので、いろんな方向へ間口を広げています」。

HOTOKIの運営全般を担う、二男の清水洋二さん
HOTOKIの運営全般を担う、次男の清水洋二さん

そのためにまず、この店の強みである「カフェ」がある。最大の特徴は、使いたいうつわを自分で選べることだ。

「コーヒーやスイーツにこだわるのはカフェとして当たり前のこと。でも、うつわを自分で選んで使えるのは、僕たちならではのサービスだと思います」。

「自分でうつわを選ぶということは、そのうつわを認識するということ」と洋二さん。

数あるうつわの中から自分で選ぶことにより、自分が好きなものの特徴に気づき、実際に使った手触りや飲み心地の良さで、うつわのファンになるきっかけを与えてくれる。

ジャズが流れるカフェスペース
ジャズが流れるカフェスペース
棚に並んだカップから好きなものを選んで使うことができる
棚に並んだカップから好きなものを選んで使うことができる

洋二さんは「当たり前のこと」というが、カフェのメニューのクオリティの高さも見逃せない。コーヒーは「大山崎コーヒーロースターズ」のシングルオリジンを使用。

「コーヒーがちゃんと美味しいこと」は、コーヒー文化の根付く京都では大事な要素だ。

コーヒーはスッキリとした口当たりながら、コクのある味わい。濃厚なケーキにもよく合う
コーヒーはスッキリとした口当たりながら、コクのある味わい。濃厚なケーキにもよく合う
HOTOKIのカフェメニュー

ここのうつわでしか楽しめない個性的なメニューも考案。

冬季限定の「ティラミス」や夏に登場する「かき氷」は、HOTOKIのうつわがなければ完成しないオリジナルスイーツだ。通常メニューのガトーショコラなども手掛ける「cake salon fuyuko style」と共同開発し、メニューに合わせてうつわも一から考案したそう。

このようにうつわを用いてゲストにサプライズを与えることも、「HOTOKI」ならではのおもてなしだ。

「ここではとりあえずコーヒーでのんびりして、うつわに触れてもらう。そして僕たちのうつわのファンを増やしていく。その最初の種まきとして、カフェは大事な要素です」

本棚の選書も絶妙で、うつわ、アート、ファッション、ローカルなど、訪れる人の心理を突くようなジャンルの本が並ぶ。こちらの棚も洋二さんが手掛けているという。

HOTOKIカフェスペース

「うつわの本ばかり出したら押しつけがましくなってしまう。みんなが手に取りやすいカフェの本やファッション誌もバランスよく配置しました」。

店内には久さんのコレクションでもあるジャズが流れ、純粋にカフェとしてゆったりとした時間を過ごすことができるのも、ファンの心を掴む要素のひとつだろう。

ふらりと訪れ、その場で陶芸体験も。

そしてここのもう一つの魅力が、陶芸体験の手軽さにある。

カフェからはすぐ下の工房がのぞけるようになっていて、作陶の様子が垣間見えるだけでなく、予約に空きがあれば実際の陶芸体験も可能だ。

カフェスペースから見える工房の様子
カフェスペースから見える工房の様子
体験教室の予約表。当日でも空いていれば即体験できるが、事前の予約がオススメ
体験教室の予約表。当日でも空いていれば即体験できるが、事前の予約がオススメ

コースは電動ろくろ体験と手びねり体験があり、電動ろくろなら約15分で2000円とかなりの手軽さ。手びねり体験4500円は、土1kgを使って久さんの手ほどきを受けながら、約1時間半かけてうつわを制作していく。

洋二さんの父で陶芸家の久さん。丁寧な指導は陶芸未経験者にも好評
洋二さんの父で陶芸家の久さん。丁寧な指導は陶芸未経験者にも好評

親子での体験も可能で、工房には小学生が作ったとは思えないようなうつわも並ぶ。さまざまな種類の絵柄入りのスタンプで好きな模様を施す時間は、ものづくりの楽しさを教えてくれるようだ。

陶芸体験者が制作したうつわ。絵付けもできる
陶芸体験者が制作したうつわ。絵付けもできる
制作した器に模様を刻む時に用いる陶器のスタンプ
制作した器に模様を刻む時に用いる陶器のスタンプ
陶芸体験で小学生が実際に制作した力作
陶芸体験で小学生が実際に制作した力作

「手軽にできて楽しめるのがここのコンセプト。まずは土に触ってみて、『楽しかったな』『うつわって面白いな』という気持ちを、子供たちにも知ってもらえたら嬉しいですね」と洋二さん。

体験後で作ったうつわは工房の方で焼成し、約1ヶ月後に完成。自身のうつわを手にする瞬間は喜びもひとしおだろう。

HOTOKIのうつわもこの工房で作られている
HOTOKIのうつわもこの工房で作られている

入り口のレジ横にはなにやらクラシックな佇まいの機器が。実はこれ、アメリカで製造されたアンティークのガチャガチャの機械なんだとか。

アンティークのガチャガチャ

イベント時にはうつわを購入した人の特典としてガチャガチャを実施。オリジナルの箸置きをプレゼントした。

オリジナル箸置きを作成している様子
オリジナル箸置きを作成している様子

「せっかく岩倉まで足を運んでもらうのだから、お客様には特別な時間を過ごしてほしい。ここでは面白いことをしたいと常に考えています」。

目的は美味しいコーヒーでも、15分の電動ろくろ体験でもいい。さまざまな入り口からうつわの世界への扉が開け、その魅力にはまってしまうだろう。そんな仕掛けが、この空間には溢れている。

<取材協力>
HOTOKI
京都府京都市左京区岩倉西五田町17-2
075-781-1353
https://hotoki.jp/

文:佐藤桂子
写真:松田毅

一生ものの日用品を探すなら富山へ。「現代の荒物」が揃う〈大菅商店〉は必訪です

「さんち必訪の店」。

産地のものや工芸品を扱い、地元に暮らす人が営むその土地の色を感じられるお店のこと。

必訪 (ひっぽう) はさんち編集部の造語です。産地を旅する中で、みなさんにぜひ訪れていただきたいお店をご紹介していきます。

“現代の荒物屋” 高岡の大菅商店へ

今回訪れたのは富山県高岡市にある「大菅商店」。“現代の荒物(あらもの)屋”をコンセプトに、2016年4月にオープンしたお店です。

「荒物」とは、ほうきやちりとり、ざる、たわしなど、どこの家にもある日用品。

大菅商店

ひと昔前は、町の商店街に必ずと言っていいほど荒物屋さんがありましたが、今ではお目にかかることが少なくなりました。

現代の暮らしにフィットした日用品

日本三大仏の一つ、高岡大仏から歩いてすぐ。白いのれんが目印の「大菅商店」が見えてきました。

築約110年の土蔵づくりの建物
築約110年の土蔵づくりの建物

店の中に入ると、“荒物”がいたるところに並べられています。

大菅商店
季節の花々がさりげなくお店を彩ります
季節の花々がさりげなくお店を彩ります

ほうきやちりとり、鍋やザル、桶などおなじみの日用品は、種類が豊富で値段もリーズナブル。

こちらは掃除の時に使いやすそう
こちらは掃除の時に使いやすそう
食器や花器にも使えるちょうど良いサイズの耐熱グラス
食器や花器にも使えるちょうど良いサイズの耐熱グラス
熱燗に欠かせない「ちろり」。日本酒が美味しい富山の必需品!?
熱燗に欠かせない「ちろり」。日本酒が美味しい富山の必需品!?
掃除機もいいけれど、ほうきとちりとりも意外と便利なんですよね
掃除機もいいけれど、ほうきとちりとりも意外と便利なんですよね

「現代でも暮らしのなかでしっかり使えるものや、生活をちょっと豊かにしてくれるような愛着が持てるものを選んでいるんです」と教えてくれたのは、店主の大菅洋介さん。

大菅さん
大菅さん

どこか懐かしい感じがする「大菅商店」の荒物たち。しかし、不思議と古びた感じはしません。むしろ、「こんな風に使うと面白そう」と思わずワクワクしてしまいます。

大菅商店
大菅商店

全国シェア9割。菅笠の技術を使った新しい提案

店に並んでいる商品のなかでも、大菅さんがおすすめするのが「菅笠」シリーズ。

「高岡市は銅や錫などの伝統産業が有名ですが、実は日本最大の菅笠(すげがさ)の産地なんです。『越中福岡の菅笠』と呼ばれ、現在でも年間3万蓋(かい)を制作しています」

400年ほどの歴史を持つ「越中福岡の菅笠」。国の伝統工芸品にも指定されています
400年ほどの歴史を持つ「越中福岡の菅笠」。国の伝統工芸品にも指定されています

菅笠は竹の骨組みに菅(すげ)を編み込む二重構造で、被っていることを忘れるほど軽く、しかも涼しいため農作業に使われることが多かったそう。

ミリ単位で菅をすくって縫い合わせる高い技術が必要です
ミリ単位で菅をすくって縫い合わせる高い技術が必要です

ところが、現代になると日常的に菅笠を使う人は少なくなり、産地にも関わらず、高岡市内で菅笠を目にすることが減っていきました。

そこで大菅さんは、菅笠の利点や構造を生かし、現代の暮らしにも取り入れやすいプロダクトを提案。新しい用途やデザインを開発し、菅笠の魅力も発信しています。

こちらが新たに提案した菅のカゴ。防虫効果もあるので野菜入れや洗濯カゴにもぴったり
こちらが新たに提案した菅のカゴ。防虫効果もあるので野菜入れや洗濯カゴにもぴったり

建築士が荒物屋を始めた理由とは

ところで、大菅さんの本職はなんと建築士。

富山で生まれ育ち、東京の設計事務所やゼネコンを経て独立しましたが、東日本大震災を機に奥さんの地元で大菅さん自身も高校時代を過ごした高岡に拠点を移しました。

なぜ建築士の大菅さんがこの場所で荒物屋始めることになったのでしょうか?

「高岡市は、江戸時代からものづくりが栄え、歴史情緒もあるまち。これまでの歴史や古いものに価値を見出しながら、にぎわいをつくりたいなと思っていました」

大菅商店

「大菅商店」の建物は、もともと大菅さんの自宅兼事務所として購入した場所でしたが、調べてみると、この建物が大正時代からの荒物屋だったことを知ります。

「ずっとカーテンが閉まっていた場所だったのですが、ここに荒物屋があったということは、まちのなかで必要とされていたからだと思ったんです。それならここで荒物屋を始めてみようと思いました」

とはいえ、昔の形態をそのままトレースするだけでは面白くない。現代のかたちに合わせた店舗にしようというところから、「現代の荒物屋」というコンセプトが生まれました。

たくさんの釘が刺さっていた天井は昔の荒物屋の名残。当時と同じように商品を吊り下げています
たくさんの釘が刺さっていた天井は昔の荒物屋の名残。当時と同じように商品を吊り下げています

お店をやってよかったこと

現在も建築士と荒物屋の店主の二足のわらじを履いている大菅さん。同じ高岡市内の山町筋には元パン屋をリノベーションした「COMMA,COFFEE STAND」をオープンし、バリスタでもある大菅さんの奥さんが店を切り盛りしています。

COMMA,COFFEE STAND
COMMA,COFFEE STAND
たくさんの野菜が使われたご飯メニューは栄養たっぷり
たくさんの野菜が使われたご飯メニューは栄養たっぷり

高岡で夫婦ともにお店を開いた大菅さん。お店を始めてよかったことが2つあるといいます。

「1つは職住の近さ。今は親がどんな仕事をしているかわからないという子どもたちが多いと聞きますが、高岡に来て、子どもたちに親の仕事を見せられる環境になったのはよかったと思います。

現場に子どもを連れて行くこともありますし、お店をつくるときも家族みんなで解体したり壁を塗ったりしました。以前から試してみたいと思っていた生活を実践できたのはとてもよかったと思っています。

2つ目は、『お店を開きたい』という相談が増えたこと。これまでは建物の相談だけでしたが、スタートアップに関することや事業計画、経営の相談まで受けるようになりました。

実際に自分たちでお店をやっているから商売のリアルもわかる。お店を始めるには覚悟がいりますが、僕らでやれるなら誰でもできると思うんです」

大菅さん

「たとえ困難なことがあっても、やっていける方法をみんなで探せばいいんじゃないかな」

現在大菅さんからお店の店長を任されている荒幡さん。商品の仕入れも一緒に行っている
現在大菅さんからお店の店長を任されている荒幡さん。商品の仕入れも一緒に行っている

まちのみんなが立ち寄りたくなる場所に

オープンして早2年。すっかりまちに溶け込んだ「大菅商店」は、まちの人たちの交流の場となっています。

「COMMA,COFFEE STAND」のコーヒーを気軽に飲めるコーナーも。夏はかき氷スタンドになるそう
「COMMA,COFFEE STAND」のコーヒーを気軽に飲めるコーナーも。夏はかき氷スタンドになるそう

「地元の方も観光客も、いろんな世代の方がふらっと立ち寄ってくださるようになりました。店の奥はレンタルスペースになっていて、ここでイベントを開くこともあるんです。まちのサロンのような感じになっていますね」

座敷になっているレンタルスペースでは昼寝しに来る人、いつの間にか宴会を始める人などさまざま
座敷になっているレンタルスペースでは昼寝しに来る人、いつの間にか宴会を始める人などさまざま

実は少し前に「大菅商店」の隣の物件も購入したという大菅さん。

元文房具店だったことから、新たに“現代の文具屋”をコンセプトにしたお店を開く計画も進んでいます。ここもどんな場所になっていくか、期待が高まります。

まちの歴史を見つめ、かたちを変えて新たな価値を生み出す。「大菅商店」の、そして大菅さんの挑戦は、これからも続きます。

<取材協力>
大菅商店
富山県高岡市大手町12-4
12:00〜17:00
火曜・水曜休み
http://oosuga-syoten.com

文:石原藍
写真:浅見杳太郎

京都の工場見学でわかった、意外と知らない日本の“壁紙”事情

壁紙ってどうやって作られるか、ご存知ですか?

壁紙の中でも表に生地を貼る「織物壁紙」のシェア日本一なのが、実は京都。

工場見学に行ったらその現場が本当にかっこよく、「そうだったのか!」がいっぱいだったので、ご紹介します。

いまや日本の壁紙のわずか1%。「織物壁紙」の産地へ

やってきたのは京都府木津川市。全国の「織物壁紙」の7割の生産量をしめる一大産地です。

「そうは言っても、日本で年間に使われる壁紙のうち、織物壁紙の割合はたったの1%ですからね」

取材に応じてくれたのは小嶋織物さん。この産地の代表的なメーカーです。

工場にあった趣ある看板。希望があれば一般の方の見学も受け入れています
工場にあった趣ある看板。希望があれば一般の方の見学も受け入れています
小嶋一社長
小嶋一社長
娘さんで企画開発を担当する小嶋恵理香さん
娘さんで企画開発を担当する小嶋恵理香さん

一大産地とはいえ小嶋さんの言うように、最近ではあまり見かけなくなっている織物壁紙。世の中の大半の住宅壁紙が、生産コストが低く施工しやすい、塩化ビニール製だそうです。

「でも、織物壁紙は表面に布を貼るからこそ、内装材にうってつけなんですよ」

これが織物壁紙。最近ではホテルや会議室などに使われることが多いそうです
これが織物壁紙。最近ではホテルや会議室などに使われることが多いそうです

実は、木津川はもともと「ある特徴」で日本一と称される織物の産地。そこに「内装材にうってつけ」の理由があるよう。

さっそく実際の現場を覗いてみましょう!

こんなに軽やかで、薄い木の器があったなんて。山中温泉で触れる漆器の奥深い世界

石川県加賀市・山中温泉。ゆげ街道のこおろぎ橋から少し上がったあたりに、木のファサードがシックな印象を与える『GATO MIKIO/1』があります。

我戸幹男商店

中に入ると、大きな窓から望む鶴仙渓の景色が迎えます。

テーブルに整然と並ぶのは、ナチュラルな風合いの木皿やカップ、お椀など。こちらは、1908年(明治41年)創業の『我戸幹男商店』の直営ショップです。

我戸幹男商店

民家をリノベーションし、2017年11月にオープン。板張りの床に、鶴仙渓を眼下に望む大きな窓を設え、まるでお店自体が作品であるかのような洗練された空間です。

我戸幹男商店

店内には400種ほどのアイテムがディスプレイされています。

そのどれもが、紙のように薄い縁だったり、錦糸のように繊細な模様の「加飾(かしょく)挽き」が施されていたり、顔が映るほど塗り重ねられた「拭漆(ふきうるし)」の仕上げがなされていたりと、山中漆器にしかできない技法を盛り込んでいます。

優美で繊細なフォルムの「AEKA(あえか)」シリーズのお椀。

丈夫で美しく。それが、山中の木地。

漆器の生産工程には木地、塗り、蒔絵の工程があり、石川県内の有名な3つの産地でそれぞれ「木地の山中」「塗りの輪島」「蒔絵の金沢」と称されています。

木地師とは、木を切り、漆などを塗らずに木地のままの器などを作る職人を指します。山中漆器は400年前に木地師の一団が定住したことに始まり、歴史に裏打ちされた木地挽きの技術は全国から高く評価されています。

もともと『我戸幹男商店』は山中温泉に古くから伝わる職業の一つ、「木地屋」として創業しました。

社長の我戸正幸さんは4代目として生まれ、これまでになかった漆器を作り出そうと、デザイナーとコラボしたシリーズをプロデュース。漆器の概念を覆すような、軽やかでスタイリッシュな器を次々とヒットさせています。

『GATO MIKIO/1』
とても気さくな正幸さん。山中漆器について分かりやすく説明してくれました。

山中漆器の木地は、縦木取りという特徴があります。正幸さんが図で説明してくれました。

通常、お椀などの木地を作る際には、木を縦に切ります。一方で山中は、木を横に切った、つまり輪切りにした板から材料を切り出します。

この方法だと木の成長に逆らわずに切り出せるため、変型が少なく、衝撃に強いのが利点。しなやかで弾力もあり、薄く削ることができます。

では、なぜ他の産地が縦木取りをしないかというと、輪切りにするため材料を取れる数が限られ、ロスが多いからです。にもかかわらず、山中漆器は木地の質にこだわり、縦木取りを中心としてきました。

この縫い針には簡単に糸が通る。「目細八郎兵衛商店」の針が使いやすい理由

わずか5センチほどの箱に入った、小さなお裁縫セット。以前、連載「ちひさきものはみなうつくし」でも反響のあった商品です。

小さいお針箱
縦6センチメートル、横5センチメートルの桐箱の中に、縫い針と綿糸 (黒・白) 、糸切りはさみ、フェルトの針山が入っています

この可愛らしい裁縫箱、小さくても道具はしっかり本格派。江戸時代、加賀藩主に認められた「目細八郎兵衛商店」の縫い針は、糸が通しやすく、布に刺した際にも抵抗が少なく針運びがスムーズでとても使いやすいのです。

なぜ糸が通しやすいのか?なぜ針運びが楽なのか?使いやすさの秘密を、金沢にある「目細八郎兵衛商店」を訪ねて、詳しく教えていただいてきました。

目細八郎兵衛商店
1575年 (天正三年) 創業、目細八郎兵衛商店
店内では、江戸時代からの道具が今も使われていて、その歴史を感じます
店内では、江戸時代からの道具が今も使われていて、その歴史を感じます
20代当主、目細勇治 (めぼそ ゆうじ) さん
20代当主、目細勇治 (めぼそ ゆうじ) さんが迎えてくださいました

加賀藩主が認めた、針穴

加賀の国・金沢で1575年(天正三年)に創業した「目細八郎兵衛商店」。成形がむずかしいとされる絹針の「目穴・目度」を、初代の八郎兵衛が試行錯誤して工夫し、糸の通しやすい良質な針をつくりあげました。

縫い針だけでも、たくさんの種類のものが並びます
縫い針だけでも、たくさんの種類のものが並びます

この針が評判になり、加賀藩主から「めぼそ」という針の名前を授かって、針の老舗「目細八郎兵衛商店」としてこれまで440年余りの歴史を歩んできました。

目細針
江戸時代の店頭の様子

「針の穴はドリルのようなもので開けるので、もともとは真円に近い形をしていました。私たちの店では、この穴を縦長に伸ばし、穴の面積を広げました。的が広くなることで糸を通しやすくしたのです」

縦長の穴が空いているのが特徴です
針穴の見本。縦長の穴が空いているのが特徴です

布を傷つけない秘密は、針先の「爪」

針の使いやすさは、これだけにとどまりません。布に針を刺した時に抵抗が少なく、針の運びが軽やかなのです。そこにはミクロのレベルでの工夫がありました。

「布に刺す針先部分は、針金の端を研磨することで生まれます。

鉛筆の先のような形に削るのが一般的ですが、うちではもっと手前の部分から緩やかな傾斜をつけて研磨していきます。

手間はかかりますが、滑らかな先細りの形にすることで、布に針を刺した時にスムーズに刺し進めることができるんです」

針先の違いを図解していただきました。角が無く、傾斜が滑らかなので摩擦抵抗が少なくなるそう
針先の違いを図解していただきました。角が無く、傾斜が滑らかなので摩擦抵抗が少なくなるそう

「さらに、削った後に、もう一度研磨するのですが、そうすることで針先に爪のような部分を作ります。この針先の爪、実は少し曲がっているんです」

さらに先の爪は、こんな風に少し曲げられているのだそう
爪先はこんな風に少し曲げられているのだそう

「布って、糸がタテヨコに編まれた状態になっていますよね。針は、できれば糸ではなく、糸と糸の隙間に刺したい。爪先が曲がっていることで、糸にぶつかった針がするりと糸を避けて繊維の隙間に入るように設計されています。こうすることで、生地を傷つけず、針も刺しやすくなるのです」

針にわざと傷をつける

「針の成形後、焼き入れを行なって素材を硬くします。こうして針が出来上がるのですが、私たちは最後にもう一つ手を加えています。

最終工程で、再度研磨します。肉眼では見えないのですが、針の表面に縦方向の傷を無数につけています」

イラストのように、針に縦線状の傷を無数につけます
イラストのように、針に縦線状の傷を無数につけます

「傷のないツルツルとした状態だと、刺した時、針の側面全体が布に当たるので抵抗が大きくなります。一方、傷がついて表面に凹凸があると、布との接地面積が減るので、抵抗も小さくなり、刺しやすく、布を傷つけにくくもなるのです」

針を錆びさせない工夫は「油」にあり

「安価なものなどは、焼き入れの後にメッキをかける場合があります。この処理をすると錆びにくくなるのですが、せっかく作り上げた爪や表面の傷がコーティングされてなくなってしまうので、うちの製品ではこの方法は使えません。

そこで、最終段階の研磨の際に、何度も油をつけて磨くなどして、手をかけて強くて酸化しにくい針を作っています」

いずれにしても、針は錆びやすいもの。使った後、手の皮脂や汚れが付いたままで放置しておくと錆びてしまいます。長持ちさせる良い方法はないのでしょうか。

「よく時代劇や昔話の絵の中で、針仕事をする女性が針で頭をつつくような仕草を見せますよね。あれは頭をかいてるんじゃなくて、頭の油を針につけてるんです。昔の針山には、錆び対策として人の髪の毛が入っていたこともあるんですよ」

まさか、そんな理由であの仕草をしていたなんて。確かに昔の人の頭には鬢付け油などが使われることが一般的でしたね。

「もちろん現代の針山に人毛は入っていませんが、羊毛フェルトなど油分のある動物性の繊維を使うことはあります」

羊毛フェルトに刺さった針

「針を使った後は、針を軽く拭いて汚れを取ってから、こうした針山にさしておくと長持ちします。針山にさす時も、数回抜きさしすることで油分を馴染ませると良いですよ」

店頭にはこんな愛らしい針山も
羊毛フェルトで作られたハリネズミ。店頭にはこんな愛らしい針山もありました

目細の針が支える、金沢の伝統工芸

江戸時代から作り続けられている「目細八郎兵衛商店」の針。金沢の伝統工芸を支える縁の下の力持ちでもあります。

加賀縫、加賀ゆびぬき、加賀手毬といった工芸品を作るのになくてはならないのが目細針。また、加賀水引細工の穂先を整えるためにも使われています。

色とりどりの鮮やかな柄の加賀指ぬき
加賀刺繍
繊細な加賀繍をするのも目細針です
水引針
目細針ならではの形の針穴の角がカットされた形の水引針。このフォーク状の先端が水引細工を整える際に活躍するのだそう

一目見ただけでは違いは見えないかもしれないけれど、使ってみるとその使いやすさに驚く。そんな目細針は、小さな中に数々の工夫が凝らされていました。

工芸の街、金沢の職人たちも愛用する目細針。

お店には、糸の素材や用途に合わせた多種多様の針が並んでいます。自分の手のサイズや使い方によってもフィットする針は違ってくるのだそう。お店を訪れて、自分にぴったりの針を見つけたら、お裁縫がもっと楽しくなりそうです。

加賀藩お抱えの書道家、佐々木志頭磨 (ささき しずま) によって書かれた看板
店内に飾られた看板は、江戸時代から受け継がれてきたもの。加賀藩お抱えの書道家、佐々木志頭磨 (ささき しずま) によって書かれたものなのだそう。お抱えの書道家に書いてもらうことを許されたところからも、いかに藩主からの信頼が篤かったかが伺えますね

<取材協力>
目細八郎兵衛商店
石川県金沢市安江町11番35号
076-231-6371
http://www.meboso.co.jp

<関連商品>
小さな裁縫箱(遊中川)

裁縫箱(中川政七商店)

TO&FRO SEWING SET アソート(TO&FRO)

文・写真:小俣荘子
加賀繍 画像提供:金沢市

※こちらは、2018年5月1日の記事を再編集して公開しました。

ロケットに欠かせない、驚異の精度を持つ町工場の手仕事

「地球は青かった」

人類で初めて宇宙に行ったユーリ・ガガーリンの有名な言葉です。

1961年の4月12日、ガガーリンを乗せた世界初の有人宇宙衛星・ソ連のボストーク1号が打ち上げに成功。そのことを記念して4月12日は「世界宇宙飛行の日」となりました。

JAXAのロケットにもその技術が。驚異の精度をもった「へら絞り」

世界中で日々研究が進む宇宙開発事業。

ロケットの製造の現場で、金属を加工する「へら絞り」という技術が重要な役割を担っているのをご存知ですか?

種子島で打ち上げられた宇宙航空研究開発機構 (JAXA) のH2ロケット。 ロケットの両サイドについたロケットブースターの先端部分や、エンジン部品がへら絞りで作られています
種子島で打ち上げられた宇宙航空研究開発機構 (JAXA) のH2ロケット。 ロケットの両サイドについたロケットブースターの先端部分や、エンジン部品がへら絞りで作られています

へら絞り加工とは、回転する平面状の金属板に「へら」と呼ばれる棒状の道具を押し当て、変形・加工していく手法です。

微妙な体重のかけ方や、へらの当て方で、金属を巧みに変形させていきます。それにもかかわらず、寸法誤差はわずか0.015ミリという驚異の精度。

この高い技術力を持ち、世界から注目される工場が東京都大田区にあります。北嶋絞製作所で、日本が誇る手仕事の現場を見学します。

北嶋絞製作所外観
へら絞りの様子。大きいものの場合は、数人がかりでへらを抱え、金属に押し当て絞っていきます
へら絞りの様子。大きいものの場合は、数人がかりでへらを抱え、金属に押し当て絞っていきます

東京都大田区 北嶋絞製作所

戦後間もない1947年に創業した北嶋絞製作所。戦後の焼け野が原で、まずは鍋や釜といった日用品作りから始まりました。高度経済成長期を迎え、様々な依頼が舞い込むようになり、難題も断ることなく挑戦し続けることで新しい技術が蓄積されていったといいます。

機械化による大量生産ができる現在、日用品は機械生産の方が効率がよくなり、職人の手による絞りの技術が求められるのは、高い精度を必要とする製品ばかりに。ロケットの部品をはじめ、パラボラアンテナや航空機の部品、医療器具など、特殊な金属パーツを数多く手がけています。

航空機・宇宙機器などの部品。厚みが一定でないと安全性に大きく影響するため人の手で作られます
航空機・宇宙機器などの部品。厚みが一定でないと安全性に大きく影響するため人の手で作られます
様々な細かい部品も作っている

「機械より、人の手の方が精度が高い」

と、へら絞り職人の北嶋隆之(きたじま たかゆき)さん。一体どういうことなのでしょうか。

「金属には、圧力に反発して元に戻る性質があります。絞っていく中で、そうした性質による反応がどれくらい起きるかはその時々で異なります。一定の圧力をかける機械ではそれに対応できないのです」

人間の経験を元にした数値設定をすることで、機械でも近いことができるようにはなってきているといいます。しかし、絞りながら状態を予測し、力加減や圧を加える方向などを調整して仕上げるには、今のところ人間の感覚が一番正確なのだとか。

脇に「へら」を挟んで体全体を使って金属を絞っていく
北嶋さんに実演していただきました。脇に挟んでいるのが「へら」
へらの柄には、ネジに挿す穴が空いています。加工する金属の硬さや大きさに応じて、扱いやすい位置に都度挿して使います
へらの柄には、ネジに挿す穴が空いています。加工する金属の硬さや大きさに応じて、扱いやすい位置にその都度挿して使います
テコの原理で力を加えて金属を絞っていきます
テコの原理で力を加えて金属を絞り、金型に沿わせていきます
叩いたときの音で、金型との密着具合を確認する
途中で金属を叩いて音を出します。金型との間に隙間があると、密着している部分と異なる音が響くので、聴き比べて金型との密着具合を確認します
金属の張り具合を見ながら適切に力を加えるとなめらかな仕上がりに
金属の張り具合を見ながら適切に力を加えると、なめらかな仕上がりに
力の入れ方を誤ると、表面に凹凸が生まれてしまう
金属の状態を考えず、力の入れ方を誤ると、表面に凹凸が生まれてしまう
金属の戻り具合を見誤って力を加えるとガタガタになってしまう
無理やり力を加えると、穴が開いたりガタガタになってしまうことも

「金属の種類によっても硬さや反発具合は異なります。絞っていると次第に硬くなってしまう素材もあります。その時は、熱することで元の状態に戻してから、また絞ります」

熱することで、へら絞りによって硬化してしまった金属を元の柔らかさに戻します。熱した時の金属の色を見て、状態を判断するのだそう
熱することで、へら絞りによって硬化してしまった金属を元の柔らかさに戻します。熱した時の金属の色を見て、状態を判断するのだそう

「へら」のこだわりは職人十色

工場の中には、たくさんのへらが立てられていました。

「製品の形や金属の種類によって、へらも変えます。鉄板だとやわらかい真鍮、ステンレスだとローラーといった感じです。先人たちは、工夫して自作してフィットするものを作っていたようです。その手作りのへらも受け継いでいます。へらも磨耗するものなので、状態を見て磨いて大事に使っています」

素材や加工方法に応じて使い分けられる様々なへら。熟練の職人は自作して使い勝手の良い道具を自ら作るそう。先人たちの作ったへらを借り受けて使うことも
素材や加工方法に応じて使い分けられる様々なへら。熟練の職人は自作して使い勝手の良い道具を自ら作るそう。先人たちの作ったへらを借り受けて使うことも
年季の入ったへらも多く置かれていました。先輩たちが使い込んできた道具は使いやすいのだそう
年季の入ったへらも多く置かれていました。先輩たちが使い込んできた道具は使いやすいのだそう
へらを磨いているところ。磨耗していると絞る際に製品に傷をつけてしまうため、使っていて変な音がしたらすぐに磨き直します
へらを磨いているところ。磨耗していると絞る際に製品に傷をつけてしまうため、使っていて変な音がしたらすぐに磨き直します。ここでも音がポイントなのですね

「型に金属を沿わせるだけと考えると、へら絞りは、一見簡単そうに見えるかもしれません。でも実は、型通りに成形するのが難しい加工法です。

いきなり力を入れるとうまく行きません。足の先から、全身を使って淀みなく体重を移動して、均等に力を入れなくてはスムーズに加工できません。一人前のへら絞り職人になるには10年以上はかかると言われています。軽くたたいた音と体に伝わってくる感触で、型に金属が密着しているかどうかわかる。五感で金属と対話し、感じながら仕上げていきます。

へら絞りの自動機械もありますが、品質を支えるのは、熟練した技術を持った職人の技です。今後も難しい加工にも応えられるよう技術の向上は必須と考えて、日々取り組んでいます」

こうした積み重ねがロケット部品づくりにも生きています。

ロケット内部に使う、バネのような部品。厚み0.2ミリメートルという薄さのため、金属の硬化状態を見極めながら、熱を加えては絞る工程を繰り返す。繊細な調整が求められる加工
ロケット内部の部品。厚さわずか0.2ミリメートルという薄い板を使っているため、少しでも判断を誤ると歪みや亀裂が生じて使い物になりません。また、等間隔で谷間を作るのも難しい技術なのだそう。金属の硬化状態や反発具合を見極めながら、加熱と絞りの工程を繰り返す、繊細な調整が求められる加工が施されています

「宇宙関連の製品や巨大なものなど、難易度が高い製品作りには『出来るのか?』というものもあり、何かと苦労もします。ですが、うちは依頼された仕事は断らない主義。難題にもなんとか応えてやってきました。プレッシャーを感じることもありますが、やりがいがありますね」そう笑顔で話す北嶋さんが印象的でした。

チャレンジ精神と、ひたむきに金属と向き合ってきた職人さんたちの経験が生んだ技術がそこにありました。

<取材協力>
株式会社北嶋絞製作所
東京都大田区京浜島2-3-10

文・写真:小俣荘子
写真提供:株式会社北嶋絞製作所、宇宙航空研究開発機構 (JAXA)

※こちらは、2018年4月12日の記事を再編集して公開しました。