【スタッフのコーディネート】日本の布ぬの やたらフロック マントベスト

日本の染織技術から生まれる、豊かな布の個性を楽しめる「日本の布ぬの」シリーズ。

この秋、日本で古くから竹籠などの編み方に用いられてきた「やたら編み」の意匠をデザインソースとし、繊維を立体的に糊付けする「フロック加工」の技術で表現した、「やたらフロック」生地を用いたラインが登場しました。

うっすらと透け感のあるベースの生地には、ベルベットを使用。色は黒とベージュをご用意しています。

カジュアルにも、華やかにも着ていただける今回のライン。スタッフたちにどんな着こなしをしてみたいか、一足先にコーディネートしてもらいました。

この記事では「日本の布ぬの やたらフロック マントベスト」を取り上げます。皆さまのご参考になれば幸いです。

華やかさをそのままに、プリーツスカートでさらに躍動感も足してみました(スタッフ中田・身長156cm)

名付けて「芸術の秋」コーデ。美術館や劇場鑑賞などのシーンを想定した、ちょっと華やかさのある装いです。動きのあるマントにはプリーツスカートを合わせて、さらに躍動感をプラス。テキスタイルの特徴を活かせるように、インナーは白ですっきりとさせました。

動くたびにひらひらと揺れる布が着ていてとっても楽しいです。最初、マントベストを見たときは「着るのが難しそう‥‥」と不安もありましたが、意外と難しさはなく、パンツにもスカートにもいろいろなアイテムと合わせられそうです。

<合わせたアイテム>
布ぬのマントベスト やたらフロック ベージュ
綿麻テレコのタートルネック 白

※上記以外のアイテムはスタッフ私物です

ボリュームのあるトップスに、タイトなスカートを合わせてメリハリを出しました(スタッフ松本・身長160cm)

ショッピングの場面を意識し、たくさん動き回っても疲れないようなコーディネートにしてみました。マントベストがボリュームのあるデザインなので、ボトムスはタイトなロングスカートを合わせてメリハリをつけています。
オールブラックでシックな装いにしつつ、ポイントでアクセサリーはゴールドに。

黒でまとめたコーディネートでも、やわらかな線が入ったテキスタイルのおかげでハードになりすぎず、程よくやさしい印象になりますね。生地にほんのりと透け感があるので、全体の印象に少し軽さが出せるのも嬉しいです。

<合わせたアイテム>
布ぬのマントベスト やたらフロック 黒

※上記以外のアイテムはスタッフ私物です

きれいめにしすぎずカジュアルダウン。Vネックがすっきりとした印象に見せてくれます(スタッフ中山・身長166cm)

動きのある形を楽しみたかったので、主張の強すぎない明るくシンプルな形のボトムスを合わせました。ノースリーブのインナーの上にそのままマントベストを羽織り、秋ごろから着られるコーディネートにしています。

ベルベットのきれいな質感に合わせて、首元には不揃いパールのネックレスを持ってきつつ、ニット帽とスニーカーで少しカジュアルに着てみました。

ボリューム感がありますが首元がVネックですっきりとあいているので、重たくなりすぎないのがお気に入りです。晩夏から冬にかけて、中に着るインナーを調整しつつ、長い季節で着られそうですね。

<合わせたアイテム>
布ぬのマントベスト やたらフロック ベージュ
SETTO UTILITY SUTB 40 ブロードテーパードパンツ BEG
・カシミヤのニット帽 茶(10月上旬発売)

※上記以外のアイテムはスタッフ私物です

「日本の布ぬの やたらフロック」シリーズご案内

風土や文化、作り手の工夫によって、各地で育まれてきた日本の染織技術。「日本の布ぬの」は、そんな染織技術から生まれた個性豊かな布を楽しむファッションラインです。

今回のシリーズでは、籠細工に用いられる「やたら編み」に着想を得た柄を、フロック加工の技術で表現しました。

※別の記事でシリーズ品のコーディネートもご紹介しています
【スタッフのコーディネート】日本の布ぬの やたらフロック ワンピース
【スタッフのコーディネート】日本の布ぬの やたらフロック マントベスト
【スタッフのコーディネート】日本の布ぬの やたらフロック カーディガン

<関連特集>

文:谷尻純子
写真:ヨシダダイスケ

【スタッフのコーディネート】日本の布ぬの やたらフロック ワンピース

日本の染織技術から生まれる、豊かな布の個性を楽しめる「日本の布ぬの」シリーズ。

この秋、日本で古くから竹籠などの編み方に用いられてきた「やたら編み」の意匠をデザインソースとし、繊維を立体的に糊付けする「フロック加工」の技術で表現した、「やたらフロック」生地を用いたラインが登場しました。

うっすらと透け感のあるベースの生地には、ベルベットを使用。色は黒とベージュをご用意しています。

カジュアルにも、華やかにも着ていただける今回のライン。スタッフたちにどんな着こなしをしてみたいか、一足先にコーディネートしてもらいました。

この記事では「日本の布ぬの やたらフロック ワンピース」を取り上げます。皆さまのご参考になれば幸いです。

ほどよくカジュアルダウンしつつ、すっきりとまとめました(スタッフ中田・身長156cm)

せっかくのデザインを活かしたくて、あまりアイテムは足しすぎずにすっきりまとめることにしました。首元には華奢な真珠のネックレスでアクセントを。きれいめになりすぎないよう、ポシェットを合わせて程よくカジュアルダウンしています。

私の身長だとボトムスなしでも足が出すぎず、一枚で着られますね。身長が低めの方は、袖丈は七分ではなく長袖くらいになるかもしれません。袖部分の布がかわいいのはもちろん、全体に使われているカットソー素材がなめらかで着心地がいいところもお気に入りです。

<合わせたアイテム>
布ぬのワンピース やたらフロック ベージュ
着けるタートルネックオーガニック綿    生成
国産牛革のポシェット 黒

※上記以外のアイテムはスタッフ私物です

映画鑑賞の日をイメージ。かわいくなりすぎないよう、ブーツを合わせてみました(スタッフ松本・身長160cm)

映画鑑賞に向けてのコーディネートをイメージしました。全体は黒でまとめながらも、ピアスを白にして少し軽さを出しています。普段から少しエッジの効いた装いが好きなので、自分らしさも意識して、かわいらしい感じにならないようにハードめのレザーブーツを合わせました。

ワンピースはゆったりしていて体の締め付けがないので、映画鑑賞のような長時間、椅子に座っている機会でも負担がなさそう。袖にあしらわれたテキスタイルで華やかさも出るので、ちょっとおしゃれをしてお出かけしたい日にぴったりですね。

<合わせたアイテム>
布ぬのワンピース やたらフロック 黒

※上記以外のアイテムはスタッフ私物です

ボトムスを重ねて丈感を調整。ちょっといい日の食事を意識したコーディネートです(スタッフ中山・身長166cm)

友人や家族との、ちょっといい日の食事に着ていけるようなコーディネートを意識してみました。ふんわりとした袖のシルエットに合わせ、大振りのピアスをつけて耳元にもボリュームを持たせています。ワンピースのデザインを楽しみつつ、ボトムスを重ね着することで裾の丈感が短すぎないように調整しました。

ゆったりと着られてラクなのに、袖のデザインが印象的で、いろいろなシーンに着まわせそう。足を出すのが苦手な方は、今回のようにボトムスを重ねていただいたり、カラータイツを合わせていただくのも素敵なんじゃないかなと思いました。

<合わせたアイテム>
布ぬの ワンピース やたらフロック ベージュ
【WEB限定】SETTO FARMS SKIRT WHT

※上記以外のアイテムはスタッフ私物です

「日本の布ぬの やたらフロック」シリーズご案内

風土や文化、作り手の工夫によって、各地で育まれてきた日本の染織技術。「日本の布ぬの」は、そんな染織技術から生まれた個性豊かな布を楽しむファッションラインです。

今回のシリーズでは、籠細工に用いられる「やたら編み」に着想を得た柄を、フロック加工の技術で表現しました。

※別の記事でシリーズ品のコーディネートもご紹介しています
【スタッフのコーディネート】日本の布ぬの やたらフロック プルオーバー
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文:谷尻純子
写真:ヨシダダイスケ

【日本の布ぬの】立体加工のスペシャリストが生み出す、奥行きある表情の布「やたらフロック」(京都・ドマーニ)

風土や文化、作り手の工夫によって、各地で育まれてきた日本の染織技術。「日本の布ぬの」は、そんな染織技術から生まれた個性豊かな布を楽しむ、中川政七商店のファッションラインです。

2024年の秋冬シリーズで展開するのは、籠細工に用いられる「やたら編み」に着想を得た意匠を、繊維を立体的に糊付けするフロック加工の技術で表現した「やたらフロック」柄。
秋冬らしく温かみのあるベルベット素材に、レーヨンを用いてフロック加工を施しました。

手がけたのは服地への立体加工を得意とする、京都の作り手・ドマーニです。
この記事では、そんな「日本の染織技術」によるものづくりをお届けします。



「素人やから」生み出してこられた、独自の立体加工技術

京都市東部の玄関口として、滋賀県との県境に接する京都府京都市山科区。ショッピングモールや飲食店の並ぶ駅前の大通りから歩くこと約10分、ドマーニの本社を訪ねました。

迎えてくださったのは現在代表を務める二代目の山脇孝弘さん。服地加工を手がける企業のなかでも特に立体加工に強みを持つ同社を率いて、豊かなアイデアで次々と技術を生み出してこられた方です。

「染めとか加工には手でやるものと機械でやるものがあって、うちは職人の手によるプリントや加工を専門にしています。お取引先で多いのはDCブランドさん。機械では出しにくい風合いとか、うち独自の技術に信頼をいただいてます」(山脇さん)

訪ねた事務所には、そんな職人の手から生み出されてきた様々な布がずらり。力強く大胆な印象のものから、陽に透けるやわらかな風合いのものまで、過去から現在にかけて、その発想力と技術をもって多くの要望に応えてこられました。

もともとはベルベットの問屋として商いをはじめた同社。生地の加工業に舵をきったきっかけは、好奇心と挑戦心が旺盛だった先代であるお父様が、当時は卒業アルバムの表紙などに使用されていたフロック加工技術を、服地づくりに利用したいと考えたことからでした。

「フロック加工はもともと、アルバムとかの限られた用途にしか使われてなかったんです。それを服地で使う発想がなかったんですね。そんななかで先代が、ベルベットの上に刺繍をフェイクする意図で、フロッキーをのせてみたら面白いんじゃないかと思いついて。それで外部の工場さんにお願いして作ってみたら、すごい人気が出たんですよ。そこから柄を変えていろいろ作ってたんですけど、ずっと売れていて」

当時人気を博した、ベルベット地にフロック加工を施した生地

ところが協力企業から諸般の事情で工場を閉じるとの報せがあり、悩んだ末にドマーニは独自工場を持ち、社内で製造まで進める方向へ歩みはじめます。

その後はベルベットだけでなく、麻やオーガンジーなど様々な生地も扱うように。さらにはフロック加工に留まらず、「生地を縮める」「箔押しを模したプリントを施す」など、立体加工全般へ事業を特化させていきました。

そうして冒頭でのお話のとおり、現在ではDCブランドを中心に多くの得意先を持つようになったのだそう。アパレル関連市場に厳しい風が吹くなかも、同社には今も次々と案件が舞い込んできます。

支持されるのは、人の手による匠な技と、同社独自の加工技術。特に独自の加工技術を生み出せる点については、“素人であること”こそ理由だと、山脇さんが自らを評していたのが印象的でした。

「うちが作る生地には、うちにしかできない加工技術を使ったものが結構あるんですよ。アイデアを思いつくのはだいたい私ですね。実は私、もともとは会計士やったんです。当時は事業を継ぐつもりもなかったし、自分にはものづくりの才能も技術もないと思ってたけど、ここで仕事するようになってみて、今ではそれが良かったんかなと思いますね。素人やから、頭が。

職人さんは自分でものが作れるけど、そしたら、自分ができる範囲のものしか想像できなくなりがちやと思うんです。でも私の場合は自分で作れないんで、普通に考えたら無理なことでも考えてしまうんですよ。それで『こんなんやりたい。こういう材料と加工方法でいけるんちゃうか』って現場に伝えて、だいたい工場長とかに怒られる(笑)。でも、やってって言って。

今回、中川政七商店さんに依頼をいただいた服地にフロック加工技術を使う生地も、もともとは当時問屋業をしていた父親が思いついた方法でした。そうやって常識に縛られないのが今に繋がってるんでしょうね」

過去から続く布の表現を、今の装いに

そんな立体加工に支持の厚いドマーニの、生地づくりのきっかけとなったフロック加工を今回の「日本の布ぬの」では採用。テキスタイルをデザインする際にモチーフにしたのは、日本に昔から伝わる、竹細工などで用いられた「やたら編み」の意匠です。

全盛期は特にミセス向けとしての需要が高かったという、ベルベットとフロック加工の組み合わせ。

過去から続く技術を活かしながら、今の装いで楽しんでいただけるような中川政七商店オリジナルの布に仕上げました。

デザインソースとなったやたら編み
日本の布ぬのでは、やたら編みの意匠を参考にテキスタイルをデザイン。白い点のような線が、フロック加工技術を用いている部分

平坦にならず、ふわりと浮かぶやわらかなラインと、刺繡のような繊細な柄。つややかな光沢をたたえた気品ある風合いのベルベットの布と合わさることで、平面プリントには生み出せない独特の表情が生まれます。

工場で感じた手仕事の景色と音

「今回の柄は、生地に糊をつけた後を追っかけて、レーヨンの粉を振りかけて作っていくんです。そのときに電圧をかけて静電気を起こして、繊維を立たせた状態で糊づけするから立体的な表現ができるんですよ」

山脇さんが口にするのは「電圧」「静電気」と、手仕事のイメージとはギャップのある加工方法。実際はどんなものづくりなのだろうと、楽しみに工場へ向かいました。

まずは手捺染(てなっせん)と呼ばれる、機械ではなく手で柄をプリントする技法を使いベースの柄が染められた生地を、加工台に貼り付けます。

手捺染で染め上げた、ベースとなる布

そこから、フロック加工を施したい柄部分にだけ糊をつけ、

上から糊を重ねた際、柄部分にのみ糊がつくように加工された専用の板

糊付けした後を、静電気を流した特殊道具を用いて、レーヨンの粉をふりかけていく。

レーヨンの粉(短い繊維)を専用の道具に入れる
木槌で道具を打ち、ふるっていく。道具に電圧をかけ静電気をはしらせることで、ふるいながら繊維を立たせている
糊をつける人、繊維をふるう人。二人の呼吸が合わさって、布の柄が出来上がる

耳に届くのは、レーヨンをふるう道具を木槌で打つ、トントン、トントン、というやさしい音。時々、不規則になるリズムに、人の気配を感じます。

工場内は手仕事の景色と音に包まれていました。

「繊維をくっつけるための糊も実は調整が難しくて、さらさらしてたら生地を通り抜けてしまって繊維がくっつかないから、しばらく粘り気がないとあかんのです。生地との相性では毛が寝てしまったりね。

だから吸水性を防ぐために、生地に撥水をかけて糊を残してあげることもあります。でも撥水をかけすぎると逆に糊ごと取れてしまう。そのへんの塩梅も積み重ねてきたものですね」

「今回の加工は、私たちのものづくりの原点でもある技術。ベースに手捺染で染めた柄があることで、そこが背景になってフロッキーの立体線がより浮き出る、立体加工ならではの表現になっています。一時期は下火になっていた加工方法ですが、今のデザインでまた楽しんでいただけて嬉しいですね」

機械を使えば大量の生地加工も叶う世の中で、人の手で丁寧に作り出される繊細で風合い豊かな表情の布。

日本の染織技術が生み出す唯一無二の表現を、ぜひ、長くご愛用いただけたら嬉しく思います。

「やたらフロック」作り手:

株式会社ドマーニ
京都市にある特殊加工の手捺染工場。様々な手法を用いて生地に表面変化や立体的な表現を加え、付加価値のある生地づくりに挑戦しています。


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文:谷尻純子
写真:森一美

【つながる、お茶の時間】お茶をスイッチに自分をリセット。誰かと言葉を交わし、価値観をアップデート(ume,yamazoe 梅守志歩さん)

「お茶にしましょう」。私たちがそうかける声は、何を意味するのでしょうか。

喉を潤すだけでなく、誰かと時間を共にしたり、自分自身の素直な声に耳を傾けたり。せわしない日々に一区切りつけて言葉を交わし合う、つながる時間がそこにあります。

皆さんがどんなお茶の時間を過ごされているのか。3組の方々の、それぞれのお茶の時間を覗いてきました。
この記事では奈良県山添村の宿「ume,yamazoe」店主、梅守志歩さんのお茶の時間を紹介します。

プロフィール:

ume,yamazoe 梅守志歩
奈良県東部の山添村にある、古民家をリノベーションして建てられた一日3組限定の宿を運営。自然に囲まれた里山で、“ないもの” が “ある” ことに気づく幸せを届けている。
https://www.ume-yamazoe.com/



梅守さん:

「ちょっと不自由なホテル」をコンセプトに、奈良市内から車で1時間ほどの山添村で、一日3組限定の宿を運営しています。県外で会社員として働いた後、家族の事情で実家のある奈良県に戻ってきて。当初は市内に住んでいたのですが、自然のなかで暮らすことに関心を抱くようになり、ご縁のあったこの場所で暮らしはじめたんです。今から8年ほど前のことですね。

そこから数年後に「自分が大切にしたい感覚を届ける場所を持ちたい」と、里山の豊かな景色が残る今の場所に宿を開業しました。ume,yamazoeが提供するのは、自然が紡いできた長い時間軸のなかで、日常から自分を切り離して、視点を変えるための時間と空間。日常のいろんな雑音からもう一度、自分をクリアでフラットにできる場をつくりたいと思って運営しています。

ライフワークにしているのは、宿の庭や裏山に自生する花や枝葉を採ってきて設えること。自然の流れが目に見える場所にある心地よさの他に、この宿で届けたいものが日常の横に流れるもう一つの時間であることも、自然に育つ草木を活けることを大切にしている理由です。

活け替えは「何日に1回」といったスケジュールを決めてはいなくて、傷んできたら変えるリズム。宿を始めたころからずっと続けていますが、実は禅問答みたいな時間でもあるんです。植物が子孫を残すために育とうとしているのに、人間の都合で切ってしまっていいのか。そんな葛藤があって。だからできるだけ、新芽などのこれから育つ小さい子は、切らないようにしています。

宿に活ける草木は裏山から。虫や植物の小さな変化を見つけながら、“かわいい”顔つきの子を選ぶ

植物の設えの他にも、お客様のお迎えや食事の準備など、毎日、朝から晩まで動いています。休憩時間は16時から17時の1時間ほど。夕食の時にお客様にも提供している、山添村の和紅茶を飲むのが定番です。ここの仕事は、お客様がずっといらっしゃって切れ目がないから、自分で切れ目を作るのが大事で。和紅茶がスイッチになって、一度、自分の今をリセットする感覚ですね。

ちなみに宿の敷地内にはサウナもあって、そこで提供するサウナ茶も山添村のもの。村中のおいしいお茶を集めて、サウナの後にスッキリと飲めるお茶はどれかと試していきついたお茶です。

山添村のものを選んでいるのは、地産地消というニュアンスよりも、自然に負荷のないものを選びたいから。

生き物って、その地のものを食べてフンをして、それがたい肥になり植物が育って循環していくじゃないですか。その姿が美しいなって。だから自分もできる範囲で、自然や生き物の循環に負荷がかからないよう、自分の暮らしの近くにあるものを選択したいなと思ったんです。

やさしい甘さがお気に入りの、山添村の和紅茶

うちには休憩室がないので、休憩中でもレセプションに座ってお茶を飲みながら、スタッフやお客さん、誰かと話していることが多いかな。人っていろんな背景がそれぞれにあって、言葉を交わすなかで思わぬ角度から共鳴したり、その人の内面に触れられたりする。それが単純に嬉しくて、一人でゆっくりするというより、誰かと話しちゃいますね。

ここには便利な施設も近くにないし、かっちりしたサービスもありません。私が、それはしたくないんです。人は多面的でいびつなもの。不完全や不十分を許せる心の状態をつくることが、ume,yamazoeでやりたいことです。だから私も変にかしこまらず、自然体でスタッフやお客さんと話したいなと思っています。

自分の感覚に素直になれる場所で、人と言葉を交わして自分の価値観をアップデートしていく。お茶の時間が、そんな営みの媒介になっているのかもしれません。


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お鍋を囲む場を引き立てる、「うつわのような」土鍋【デザイナーに聞きました】

中川政七商店の社内で、デザイナーから販売部へ向けて、商品をプレゼンテーションする商品説明会。この秋発売する、とある商品のプレゼンテーションが終わった瞬間、自然と拍手が沸き起こりました。
それが、これから紹介する「信楽焼の平土鍋」。私自身、話に聴き入りながら、こんな使いかたもあるかも?と、いち使い手としてワクワクするような商品でした。10月9日の発売を今か今かと待っています。

デザイナーの青野さんの言葉を借りながら、お鍋を囲む場をより引き立てる「信楽焼の平土鍋」をご紹介します。

コンセプトは、「うつわのような」土鍋

「信楽焼の平土鍋」を企画したデザイナーの青野さん

「土鍋の開発を任されて、まずは自宅にある土鍋を使ってみたんです。そしたら改めて、食卓に土鍋がある風景ってすごくいいよなと感じて。おいしそうに見えるのもそうですけど、食卓を囲む全員が能動的に場に参加して、連帯感のようなものが生まれると思ったんです。

大皿で料理を出す風景にも近いと思うのですが、土鍋は調理道具なので台所から食卓へそのまま繋がって、みんなが料理に参加しているというか。その場で火を囲みながら食べる料理ならではの豊かさがあるなぁと感じました。

でも土鍋が食卓に出てくる頻度って、基本的には鍋をする時くらいじゃないですか。それってもったいないよなと感じて、もっといろんな料理に使いやすい土鍋があったらいいんじゃないかと思いました。大皿を兼ねる調理道具のようなあり方が面白いんじゃないかと思って、『うつわのような』というコンセプトに辿り着いたんです」

「うつわのような土鍋」をかなえる形

そうして作られた土鍋は、茹でる、煮る、蒸す、炒めるといったさまざまな料理に使えるのはもちろん、単におかず作りに使える機能性だけではない工夫があると言います。

「うつわのようなというコンセプトを叶えるにあたって、一般的な土鍋と最も違うところは形です。
よくある土鍋は底面から内側にすぼまっていくように立ち上がって、蓋を乗せる台があって、そこからさらに垂直に立ちあがっているものが多いと思います。でも今回は、もう少しうつわの形に近づけることを目指しました」

「うつわと違って土鍋には蓋が必要ですが、蓋を乗せるための台や縁の立ち上がりを無くすと、食卓に出した時にもっと料理をおいしく見せられると思ったんです。
そこで、縁を緩やかに広げてうつわのリムのような形に変えることで、蓋を安定して受け止めながら食卓の道具に近づけました。縁に向かって広がっているので、中の料理が見えやすくなって、より食卓で生きる形になったと思います。
リムがあることで、中身を額縁で縁取るような効果も生まれました」

うつわらしさの追求は、色や土味にも表現

「色は、飴と黄瀬戸の2色展開です。飴は土鍋でもよくある色ですが、黄瀬戸は土鍋としては珍しいと思います。白はよくあるんですけど、黄瀬戸は少し黄みがかっているんです。
この色は、『うつわのような』というコンセプトだからこそ作った色で、古道具でもよく見かける瀬戸の石皿から着想を得ています。昔からうつわによく使われてきた釉薬なので、日本の食卓で料理がよく映える色だと思います。内側に施したスジを入れる装飾も日本の古いうつわから引用したもので、シンプルながら土と釉薬の風合いを引き立てることができました」

骨董の「瀬戸の石皿」。使うごとに育つうつわ

「土の表情も大事にしながら産地を選びました。土鍋の代表的な産地は他にもあるのですが、うつわらしい表情を実現する上で、伊賀・信楽エリアの素朴な風合いの土を使いたかったので、今回は信楽焼の窯元さんと一緒に作っています」

手前が最終の商品で、後ろがファーストサンプル。あえて荒い削り方にすることで、土味を生かしている

「成形した後に表面を削ることによって、土の荒々しい表情を出しています。あえて荒く深く削ることで、土本来の生命力を感じる表情が出るようにしています。そういった表情が、自然素材によるゆらぎを愉しむ日本のうつわへの感覚に通じるんじゃないかと思ったんです」

試作の一部

「一方で、土鍋がある風景をいいと思ったのが根底にあったので、土鍋からかけ離れた印象にはならないように、ちょうどいい塩梅を目指して調整していきました。
今回一緒にものづくりをしていただいた、株式会社松庄さんがとても協力的で。土鍋としてはかなり変わった形状だったので、試作を何度も繰り返してくださったんです。こちらがもう大丈夫ですって言うくらいまで。笑 本当に二人三脚で、歩みを進めていきました」

ひたすらサンプルを使い込む日々

そうしてできあがったファーストサンプル。日常の道具として使いやすいのか、さまざまな料理に使ってみたそうです。

青野家で実際に使っている様子※仕様変更となったファーストサンプルでの写真もまざっています

「ファーストサンプルができてからは、めちゃめちゃ使いましたね。できあがってすぐの頃は、それこそ毎日使っていました。肉じゃがやシチュー、手羽元の煮込みなどの料理を作って、そのまま食卓に出しています。いつも作るような簡単な料理でも、土鍋で出すだけでごちそうに見えるので、今も週1くらいの頻度で食卓に登場しています」

「使う中で出てきた課題もあったので、途中で一度形状を修正しています。元々はもう少し底がすぼまっていたんですけど、それだと火を受け止める面積が小さくなってしまって、熱が逃げやすかったんです。沸騰するのに時間がかかってしまうと日常で使いづらくなってしまうので、底を広げて熱を受け止めやすい形に修正しました」

全員がその場に参加する、土鍋を囲む食卓の豊かさ

「サンプルは、社内のスタッフにも使ってもらっています。いろいろと感想をもらった中でもとくに嬉しかったのが、お子さんがいるスタッフに使ってもらった時のエピソードでした。
ふだんお鍋をする時は、お子さんの分をよそってあげてたみたいなんですけど、今回の土鍋は中身が見えやすいから、お子さんが自分でよそってくれたと言っていて。それは、企画する時に僕が感じた、土鍋を囲む豊かな風景そのものだなと思いました。

小さな子どもや料理が苦手な人も誰でも調理に参加できて、連帯感が生まれていく。そういう豊かさこそが、 お鍋を囲むことの魅力だと思うので。お鍋を囲む場をよりよく引き立てるものができたのかな、と感じて嬉しかったです」

「土鍋って、人と人のつながりを自然と生み出してくれる装置のような役割を果たすと思うんです。信楽焼の平土鍋が、温かい食卓の風景を紡ぐ一助となれば、こんなに嬉しいことはありません」

<掲載商品>
信楽焼の平土鍋(10/9発売)


文:上田恵理子

短期連載【つながる、お茶の時間】3組のお茶の時間を覗いてきました

「お茶にしましょう」。私たちがそうかける声は、何を意味するのでしょうか。

喉を潤すだけでなく、誰かと時間を共にしたり、自分自身の素直な声に耳を傾けたり。せわしない日々に一区切りつけて言葉を交わし合う、つながる時間がそこにあります。

皆さんがどんなお茶の時間を過ごされているのか。3組の方々の、それぞれのお茶の時間を覗いてきました。

全3回、どうぞお楽しみに。



第1回:ume,yamazoe・梅守志歩さんの、お茶の時間

https://story.nakagawa-masashichi.jp/270024

第2回:つちや織物所・土屋美恵子さんの、お茶の時間

https://story.nakagawa-masashichi.jp/270034 ※9月下旬公開予定

第3回:中川政七商店 渡瀬聡志さん、諭美さん夫妻のお茶の時間

https://story.nakagawa-masashichi.jp/270038 ※9月下旬公開予定


3組それぞれのリズムが、心地好いお茶の時間のヒントになりますように。