江戸時代から受け継がれる濃厚な豆腐田楽

こんにちは。さんち編集部の西木戸弓佳です。
旅の楽しみのひとつ、おいしい食事。旅先ではやはり、その土地でしか食べられない地のものを楽しみたいものです。
食べるのも飲むのも大好きなさんち編集部。旅前におこなう企画会議では、胃がいくつあっても足りないんじゃないかというほどの取材候補が並びます。その中でも特に皆さんにおすすめしたい、厳選した産地の良店を紹介する「産地で晩酌」。今回は、和田竜さん原作、嵐の大野智さん主演の映画、「忍びの国」の舞台として話題となっている三重県・伊賀編です。

歴史を感じるどっしりとした佇まい

晩酌を楽しむのは、松尾芭蕉が生まれた町・伊賀上野。芭蕉翁生家や記念館の近くにある、豆腐田楽の専門店「田楽座わかや」さんです。「影待や菊の香のする豆腐串」と、芭蕉の句にも登場する豆腐田楽は、伊賀地方の郷土料理です。

大きな吹き抜けのある店内。広い2階席もある

店内に入ると、お味噌が焼ける香ばしい匂い。それだけでお腹が減ってきます。
豆腐田楽の専門店、田楽座わかやさんの創業は1829年(文政12年)。200年近く続く、老舗の人気店です。四方を山に囲まれた、伊賀地方。昔は、海のものが手に入りにくかったため、豆腐が貴重なタンパク源として重宝されていたそうです。

店内にある炭火の焼き場

11代目の店主が炭火の焼き場で1本ずつ丹精に焼きあげる豆腐田楽は、有機栽培の大豆で作った手作り豆腐に、3年仕込みのオリジナルのお味噌が塗られたこだわりの一品。代々続く秘伝のお味噌は、中部に多い「大豆仕込み」と関西に多い「米仕込み」を併せ持った全国でも珍しい大豆・米のどちらにも麹をつける製法。中部と関西の食文化が交わる、三重らしさを感じます。

地元で穫れた大豆「フクユタカ」と天然にがりで作られた手作り豆腐
味噌が焼ける香ばしい香りが店内を漂う
藁の刷毛を使って味噌が塗られる
江戸時代から受け継がれているという、漆塗りの田楽入れ

お味噌の焼けた香ばしい香りをまとって運ばれてきた、熱々の豆腐田楽。ツヤツヤした表面が美しいです。
しっかりした味付けの豆腐田楽、ご飯との相性が抜群に良くご飯に乗っけて食べるのも人気とのこと‥‥ですが、伺ったのは晩酌の時間。同じお米なら相性はいいだろうという、ちょっと無理のある論を言い訳に、地元のお酒を頂きます。合わせたのは、地元・伊賀市の大田酒造さんで作られた「半蔵」。すっきりとした味が、濃厚な豆腐田楽にぴったりでした。

「半蔵」は伊勢志摩サミットで出されたことで有名なお酒

多いかなと思った16本の田楽も、ペロッと完食。栄養満点の豆腐に、体が喜んでいる気がします。
秘伝のお味噌は、春先には山椒、冬には柚子が入るのだそう。季節を変えてまた楽しみたい、伊賀の郷土料理・豆腐田楽。おいしい香りに包まれながら、お店を後にしました。

こちらでいただけます

田楽座わかや
三重県伊賀市上野西大手町3591
0595-21-4068

文 : 西木戸弓佳
写真 : 菅井俊之

特別な人を祝うための、ご祝儀袋

こんにちは。さんち編集部の西木戸弓佳です。
早いもので、もう6月。「ジューンブライド」・「6月の花嫁」という言葉もあるように、6月に結婚をするとずっと幸せな結婚生活をおくることができるという言い伝えから、6月の結婚を好む人も多いようです。
今日は、お祝いには欠かせないご祝儀袋のご紹介。ところで、ご祝儀袋は日本ならではの風習であることをご存知でしょうか。結婚のお祝いにお金を贈る国はありますが、ご祝儀袋のようなきれいな封筒には入れないようです。日本特有の贈りものをきれいに「包む」文化。最近では、デザインに凝ったご祝儀袋も多く見かけます。大切な人の門出にお祝いの気持ちを込めて用意したい、上質なご祝儀袋を集めました。

PASS THE BATON ふすま紙のご祝儀袋

創業明治8年の越前和紙メーカー・滝製紙所の「ふすま紙」のデッドストックから生まれたご祝儀袋。ピンク・グリーンでそれぞれ違う、紙表面の淡いパターンは「引掛け(ひっかけ)」という越前和紙の伝統的技法で作られています。和紙の原材料の繊維を、花草柄の金型に引っ掛けて和紙に付着させ、その模様を付けるという手の込んだもの。工芸品のような、日用品です。
淡い花草などのパターンの上に、キギのお二人(植原亮輔さん・渡邉良重さん)によるPASS THE BATONオリジナルのグラフィックがのっています。

PASS THE BATON 祝儀袋PINK/GREEN 各 800円(税抜)
少し光沢のある表面のパターンは「引掛け」によるもの

和菓紙三昧 和菓子の型のご祝儀袋

芸術家・永田哲也さんによるアートプロジェクト、KIOKUGAMI 和菓紙三昧(わがしざんまい)のご祝儀袋。和紙に施された独特のエンボスは、落雁(らくがん)・干菓子などの和菓子の菓子木型でていねいに型取りしたものです。鶴や亀、松竹梅など、縁起のいい動物や植物をモチーフに、「祝いのきもち」が込められてきたおめでたい和菓子木型から作られる「和菓紙」。和紙は、「西の内紙(にしのうちがみ)」と呼ばれる茨城の手漉き和紙です。

祝儀袋 鯛/福助/格子 各2500円(税抜)

かみの工作所 折水引 結びきり

1枚の紙だけで出来た、ユニークなご祝儀袋。水引が、紙の「抜き」と「折り」の技術だけで表現されています。“紙を加工・印刷してできる道具の可能性を追求するプロジェクト”「かみの工作所」によるもの。東京・立川にある印刷加工を得意とする工場・福永紙工による加工です。熨斗部分からのぞく封筒の中の短冊は、「寿」と「祝」、無地が用意されています。

折水引 結びきり846円(税抜)

マークス デザイン金封

レストランウェディングやガーデンウェディングなど、結婚式のスタイルも様々になっている今、水引のデザインももっと自由でいいのかもしれません。さまざまなデザインが用意され、選ぶことが楽しめるマークスのご祝儀袋。オリジナルの水引は、富士山、梅、鶴とおめでたいモチーフになっています。結び目は、一度きりであってほしい祝い事に使う、結んだらほどけない「結びきり」。アレンジされた水引でも、日本の伝統的なルールが守られています。

結婚祝・スタイリッシュ 鶴(白)・梅(赤)各500円(税抜)・鶴(青)540円(税抜)

<掲載商品>
祝儀袋PINK・祝儀袋GREEN(PASS THE BATON)

祝儀袋(和菓紙三昧)

折水引 結びきり(かみの工作所)

結婚祝・スタイリッシュ(マークス)

文・写真 : 西木戸 弓佳

ワンダーウォール片山正通さんが語る、鎌倉に復活した伝説のバーTHE BANK

こんにちは。さんち編集部の西木戸弓佳です。
2016年10月、鎌倉のバーTHE BANKが復活。そのオープンに涙を流して喜んだ人も少なくありません。約1年半の閉店期間を経て再オープンした伝説のバー・THE BANKのことを、オーナーでありインテリアデザイナーのワンダーウォール片山正通さんにお聞きました。

株式会社ワンダーウォール代表 片山正通さん
株式会社ワンダーウォール代表 片山正通さん

ワンダーウォールの初仕事、THE BANK

片山さんがTHE BANKに関わったのは、最初にオープンした2000年から。20代の頃から深い付き合いがあり、「父親のような存在」だったというアートディレクターの渡邊かをるさん(以下、かをるさん)に呼ばれ、インテリアデザインを担当することになったのが始まりだったと言います。実は、THE BANKはワンダーウォールにとってはじめてのプロジェクト。「随分と緊張したことを思い出します」と片山さんは話します。

マッチやコースターのデザインは今も変わらない
マッチやコースターのデザインは今も変わらない

THE BANKは、1928年に鎌倉銀行・由比ガ浜出張所として建てられた建物を使っています。その、銀行だったというコンテキストを使ってTHE BANKをやりたいという話がかをるさんからあり、片山さんが言われたのが、「アイリッシュのパブとイタリアのバールと日本のあの頃の感じな!」というキーワードだけ。「あとは分かるよな、みたいな感じでそれ以上は教えてくれないんです」。かをるさんと片山さんのやりとりは、いつもこういう感じだったのだそうです。

 「由比ガ浜出張所」の文字がそのまま残っている
「由比ガ浜出張所」の文字がそのまま残っている

かをるさんの言う“あの頃”を考えながら、「この建物ができた時に、ここが銀行ではなくバーだったら?」というストーリーにたどり着いた片山さん。1928年に建てられた小さなバーが、今もそのまま存在しているようなイメージにするため、「新しいものを作る気は全くなかった」という片山さんは、当時の“痕跡”をできるだけ残しました。大きなカウンター、人研ぎ(じんとぎ)の石床(今では職人さんがいないため作れないそう)、エントランスの木製扉など…。ゆえに、店内のあちこちに、銀行当時の面影を感じることのできるバーが完成しました。

真ん中に大きく横切る接客用カウンターの奥に、もうひとつバーカウンターのある変わったレイアウト
店内中央に設置された銀行の接客用カウンターを活かしながら、その奥にバーカウンターを新設している。
銀行時代の“ペン差し”の跡が残る、大理石カウンター
銀行時代の痕跡が残る、大理石カウンター

実際、色を決める時にはかをるさんが見本帳でなく、古い雑誌の切り抜きなどで微妙な風合いまで指定するので、それに合わせるのが大変だったこともあるそうです。また、9坪という狭さやその割に高い4メートル程の天井、店の中央で切り替わる段差など、決してバー向きとは言えないこの建物も苦労の1つだったかもしれませんが、片山さんは「使い勝手の悪いところも、またチャーミング」だと言います。

2015年5月、オーナーであったかをるさんが亡くなったのを受けてTHE BANKは閉店。しかし、「お世話になったかをるさんへの恩返しとして唯一できることは、THE BANKを継続すること」。そう思った片山さんは、建物の持ち主へ連絡。でも最初は「(新しい人に場所を)貸す気はない」と断られてします。が、めげずに連絡をとり続け、2015年の暮れにようやく信頼されることができ、再びこの場所を借りてTHE BANKを運営できることになりました。

それまで、ここを貸してほしいという多数の問い合わせをすべて断っていたという持ち主さん。片山さんが借りることになってから、「家賃は昔の据え置きでいい」と言ってくれたり、バーテンダーのことを気にかけてくれたりと、暖かい心遣いをたくさんしてくれたのだそうです。実はこの方もTHE BANKが復活することを待ち望んでいたのかもしれません。
また、家具にも素敵なお話が。THE BANKの隣にある古家具屋さん・そうすけさんが2015年の閉店時にいったん家具を引き取ったものの、「もし再開することになったら必要になるから」と、売らずに取っておいてくれたのだそう。再開のあてはなかったはずなのに、まるで復活することが決まっていたかのように、残されていた建物と家具。すごい話です。

完全復刻

再オープンのコンセプトは「完全復刻」。
古くなっていた空調や厨房機器などの設備はすべて新しい物に交換し、元々あったスツールやソファは革を張り替え。色褪せてしまっていた木製の扉や窓枠は、昔かをるさんと話した時の色見本を見ながら当時と同じグリーンに塗り替えました。ただ、かをるさんが愛してやまなかったという葉巻によってベージュ色に染まった壁は、そのまま残してあります。この場所で経過した時間を“守りながら”行った修復を、片山さんは「15年間の歴史を含めた完全復刻ですね」と笑います。

元々白かったという壁に残るTHE BANKの15年の歴史の跡
元々白かったという壁に刻まれたTHE BANK15年の歴史
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プレオープンは、2016年の10月7日。片山さんが選んだこの日は、亡くなったかをるさんのお誕生日。生前かをるさんと親交の深かった方たちが大勢集まり、かをるさんのお誕生日とTHE BANKの再スタートを祝いました。

かをるさんがいつも座っていたというソファ席には写真が
店内の一角には、葉巻を愛したかをるさんの写真が。

再オープンにあたっては、かをるさんと親交のあった方や地元の方たちが喜んでくださったり、初代の店長さんが手伝ってくださったりと、「人のご縁を感じた」と片山さんは振り返ります。
オーナーもバーテンダーも一新したTHE BANKですが、元々の常連さんが多数通われているとのことで、新しいスタッフに昔話を教えてくださることも多いのだとか。毎日来て葉巻をゆったり吸われる方もいれば、休みの日だからこそ陽のあるうちに来る方もいて、皆さんそれぞれの使い方で楽しんでいらっしゃるそうです。きっとかをるさんがイメージした『アイリッシュのパブとイタリアのバールと日本のあの頃の感じ』の風景が、毎日広がっているに違いありません。

昼間にストレートでかるく一杯、なんていう方も多いのだとか
昼間にウィスキーをストレートでかるく一杯、なんていう方も多いのだとか

地元の人に愛されるバーをつくる

断固として価格を上げないかをるさんに、「値段を見直せばいいじゃないですかって言ったことがあるんです。そうしたら『そういう訳にはいかないだろう。地元の人が来てくれているんだから』と。地元の人が通い続けることができるのがいいんだなというのが、今になってよく分かります」。人としてとても魅力的だったかをるさんから多くのことを学んだという片山さん。「絶対割り勘なんかするんじゃないと何度も言われましたね。ウィスキーを飲む仕草から葉巻を消す仕草まで、全部かっこよかった」のだそう。ちなみに、2000年のTHE BANKの設計料として、ロレックス キリーウォッチをかをるさんから貰ったという片山さん。裏にはこんなエピソードがあったそうです。「父親のような存在」の人から頼まれた仕事なので、設計料はもらえないと言ったところ、「じゃあ何でも欲しいものを言え」と言われたそうです。受け取れないからこそ断られそうなものを考えて、いつもかをるさんが身につけていたその時計が欲しいと言ってみたところ、何の躊躇もなくその場で外し、くださったのだとか。「そういう格好いい人なんです。」と片山さん。完全復刻させたTHE BANKを、「ここは、かをるさんのバー」と言い切る片山さんにも、粋な格好良さが受け継がれています。

かをるさんからのキリーウォッチ。「冗談です」と返そうとしたが、受け取ってもらえなかったのだとか
かをるさんからのロレックス キリーウォッチ。返そうとしたが、受け取ってもらえなかったのだとか

新しいTHE BANKを切り盛りしているのは、鎌倉在住であり生前のかをるさんと面識があったという野澤さんと荒井さんのおふたり。「鎌倉エリアに詳しく、常連さんとも仲がいいから、僕は安心して任せられます」と片山さんは言います。『アイリッシュのパブとイタリアのバールと日本のあの頃の感じ』を守りながら、新しいスタッフと共に作り上げていくTHE BANK。
以前は倉庫で、再オープンの際にラウンジに改装した2階は、これから「THE BLANK」という名前で、時には物販、時にはレストランと面白い試みをしてく予定だそうです。2階も、どんな展開になるのか、楽しみで仕方ありません。

2階は「かをるさんだったらどうするかな」と考えて作った、部屋のようなラウンジに
2階は「かをるさんだったらどうするかな」と考えて作った、部屋のようなラウンジに
かおるさんから贈られたウイスキーやペン入れ、扇子などが大切にディスプレイされています
かをるさんから贈られた物が大切にディスプレイされています
音響ディレクターにサカナクションの山口一郎さんを迎え音響設備も整っている
音響はサカナクションの山口一郎さんに相談。写真の真空管アンプは山口さんがオリジナルで制作してプレゼントされたそうです
片山さんの私物のヒュミドールも
片山さんの私物だというヒュミドールも

鎌倉銀行とTHE BANK、2つの痕跡を受け継いで再スタートした新たなTHE BANKは、これからどんな歴史を刻んでいくのでしょうか。

入口に埋め込まれた小さな銘板。2016年、THE BANKの再スタート
入口に埋め込まれたプレートはワンダーウォールがデザインした証。ここで2016年、新たなTHE BANKの歴史が始まった。

THE BANK
鎌倉市由比ガ浜3-1-1
0467-40-5090
営業時間:水〜金 17:00 – 25:00
土・日・祝 15:00 – 25:00
定休日:月・火


文 : 西木戸弓佳
写真:菅井俊之 , KOZO TAKAYAMA(TOP/外観写真)

「作らずにはいられない」作家、タカさんのものづくりの話

こんにちは。さんち編集部の西木戸弓佳です。
鎌倉にオープンした土産店、「鎌倉八座」で見つけたかわいい人形たち。「三浦土人形」と名付けられたその人形たちの作り手はなんと、女性のお坊さんなのだそう。なんとありがたい人形なのか‥‥。

鎌倉八座で見つけた「三浦土人形」の波乗りだるま
鎌倉八座で見つけた「三浦土人形」の波乗りだるま

お話を聞くため、お寺にお邪魔してきました。三浦七福神の一つである恵比須さまが祀られている圓福寺。そこにお坊さんであり、ただひとりの「三浦土人形」の作家・村井タカさんがいらっしゃいます。

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作りたくて、仕方がない

「気付くとどんどん増えていっちゃうから、最近はちょっと作るものの数を絞るようにしてます」と笑うのは、作家の村井タカさん。「思いつくと作らずにはいられないから、すぐ新しいものを作っちゃうんです」と話されるタカさんのアトリエには様々な形の人形たちが並びます。ひとつひとつ型から手作りされる人形たちは、ちょっと気が抜けていてゆるさがたまりません。

端午の節句に作られた桃太郎。子どもの成長を願い、元気いっぱいです
端午の節句に作られた桃太郎。子どもの成長を願い、元気いっぱいです
犬の上に干支のモチーフが乗る、毎年の干支シリーズ。さて来年の戌年は‥
犬の上に干支のモチーフが乗る、毎年の干支シリーズ。さて来年の戌年は‥
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小さい頃から物づくりが好きで、美術大学へ進学。しかし当時の、“お題の決まった物”を作る授業に「物足りない」と、大学を中退されます。
「作り手として、自分独自のものを見つけ出さないとつまんないな、という感覚がありました。若かったですし、自分が今思ってることを形にしたいし、人に訴えかけるものがいいなって」。大学の授業は嫌いではなかったものの、「何のためにやってるんだろう」という迷いもあったのだとか。
そんな時に展覧会で、伏見人形などの民芸品に出会います。
「民芸品を見た時に、それらが非常にイキイキしてて『おもしろい!』『何なんだ、これは!』って、刺激を受けました。作ってる人の個性がまるっきり出てるし、江戸時代からの伝統もあってか庶民にとても受け入れられてる感じがして。人間のエネルギーというか、生きることへのエネルギーが強いなって」。興奮気味に話されるタカさんから、民芸品との出会った時の感動が伝わってきます。「大学よりこっちの方が勉強になるんじゃないか」と、大学を中退。仕事をしながら陶芸の専門学校で学びます。

民芸品との出会いについて「もうね、すっごくパワーを感じた」と話されるタカさん
民芸品との出会いについて「もうね、すっごくパワーを感じた」と話されるタカさん

学校を卒業後は、“作ることを続けるため”の他の仕事をしながら、物づくりも継続。「作らずにはいられなかった。今も変わらないけど」と、笑いながら物づくりのことを対して話してくださるタカさんはとてもチャーミングで、作ることがとことん好きな根っからのクリエイターなんだろうなと感じます。

土人形以外にも、人物を中心とした作品作りもされています
土人形以外にも、人物を中心とした作品作りもされています

お坊さん兼、作家

作り手としてのしてのタカさんが魅力的でそればかり書いてしまいましたが、冒頭でもお伝えした通りタカさんはお坊さんでもあります。結婚・出産を経て、ご実家である圓福寺に戻られた後、本格的にお坊さんとしての仕事もされているのだそう。
「寺の娘として生まれたけど、お寺を次ぐ弟もいたし物も作りたかった。若い頃から一応坊さんとしての勉強や修行はしてたものの、正直二の次だったと思います。だけど、修行をさせてもらって、それまで気付かなかったことにたくさん気付かせてもらった。今は自分が作れているのは阿弥陀様や父母のおかげだと、心から思います」。修行のお話を聞くと、それはそれは大変そうでしたが、「させてもらって良かった。やれば出来ないことなんかないなぁと思う」と話されます。

仏教の教えの際に使われているタカさん手書きのイラスト
仏教の教えの際に使われているタカさん手書きのイラスト

お坊さんと物づくり。全く違う素質のようにも思いますが、共通することはあるのでしょうか。
「物づくりも仏教も“自分を見つめる”という点では一緒かもしれません。物を作ってると失敗もありますし、あぁでもないこうでもないって修正しながら、忍耐強く物や自分と向き合う作業です。仏教も同じで、今自分に足りてないもの、必要なものって何なのかを自分で考えながら、そこを鍛える修行をしていくんです。制作も修行も、他人じゃなくて自分と向き合う作業。作ることで“見ること”を鍛えられてきたので、スムーズに修行に入れたというのはあるかもしれません」。

お坊さん用のお経のための楽譜 (!)
お坊さん用のお経のための楽譜 (!)

タカさんの作られる物の中には、お経の中に出てくる教えやモチーフが登場します。般若心経(はんにゃしんぎょう)の「色即是空、空即是色(しきそくぜくう、くうそくぜしき)」という“この世のすべてのものの本質は空である”ことからイメージした物、仏典に出てくる極楽に住む鳥、“迦陵頻伽(かりょうびんが)”がモチーフとなった物など、仏教にそれほど深い教養のない私から見るとアイデアの原点がユニークに感じ驚かされます。さすが、お坊さん‥。

お父様への贈りものとして飾られていた迦陵頻伽がモチーフとなった人形は手を合わせていました
お父様への贈りものとして飾られていた迦陵頻伽がモチーフとなった人形は手を合わせていました

願いを込めて、境内で作られる土人形たち

「元々、元気に育ってほしい、幸せになってほしいなど願いを込めて作られてきたものです。買った人が幸せになってほしいなと願いを込めて作っています」。鎌倉八座でも売っているベロ出しだるま。“だるまは忍耐”と言い手も足も出てないけど、タカさんの作られる達磨は手足が付いている上に、おどけた顔で舌を出しています。「だるまだって色んな形があっていい。一生懸命頑張ってもうまくいかないこともあるし、これを見てふふふって笑ってくれたらいいなって。最近教えでも、『自分で解決できないことは、人様に頼っていい。南無阿弥陀仏って唱えればいいんですよ』なんて言ってます。
お坊さんであるタカさんの作品は、持つ人の心にゆとりを与え救いの手を差し出しているのかもしれません。

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「朱孝窯」
神奈川県三浦市南下浦町金田258 圓福寺境内
046-889-1963
※ 境内のアトリエにて作品の販売も行っていますが、タカさんがご不在の場合もありますので事前にお問い合わせください。

こちらでも販売してます
「鎌倉八座」
神奈川県鎌倉市小町1-7-3
0467-84-7766
営業時間 : 9:30〜18:30
※ 人気のため制作が間に合わないこともあるそうです。品切れの場合もありますので予めご了承ください

文・写真 : 西木戸弓佳

【鎌倉のお土産】菓子研究家・いがらしろみさんによるRomi-Unie Confitureの手作りジャム

こんにちは、さんち編集部の西木戸弓佳です。
わたしたちが全国各地で出会った “ちょっといいもの” を読者の皆さんへのお土産にプレゼント、ご紹介する “さんちのお土産”。今回は、新たな文化が発展し続ける古都・鎌倉のお土産です。

鶴岡八幡宮に続く参道・若宮大路を進んでいく途中、とても美味しそうな甘い匂い‥中を覗かずにはいられません。菓子研究家・いがらしろみさんによるジャムのお店、Romi-Unie Confiture(ロミ・ユニ コンフィチュール)。ここで作られている手作りジャムが買える、鎌倉の人気店です。

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壁いっぱいの、色とりどりのジャム。見ているだけでワクワクするような、目に楽しい風景が広がります。
季節によってメニューが入れ替わり、約40種類のジャムが店頭に並ぶのだそう。「お菓子みたいなジャム」をコンセプトに作られたジャムたちは、アプリコットとバニラ、いちごとミントと黒こしょう、プラムとアールグレイ、文旦とはちみつのマーマレードなど、気になるものばかり。また、“カシュ・カシュ”・“アニヴェルセール (記念日) ”・“メルシー (ありがとう) ”・“リュクス (贅沢) ”・“マドモワゼル”などと付けられた、ジャムの名前もかわいらしいです。

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ジャムを作るのは、毎日(!)。 店内にあるアトリエで、素材の仕込みから銅鍋で煮て、瓶詰めまで、全て人の手で行われているのだそう。店内にある小窓から覗くことのできるアトリエでは、食材を切ったり、材料を量ったりとせっせと仕込みをされてる様子が見えました。小さなアトリエは工場と違って一気にたくさんは作れないけれど、その分、その日その日の食材ときちんと向き合いながら、ていねいに作っているんだろうなぁ。そんな手作りのごちそうを手軽に持ち帰れるなんて幸せです。

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スタッフの方の「どれも本当に美味しいし、味が全部違うので、全部おすすめ」というジャムの中から、頭を悩ませて今回選んだのは、鎌倉限定の「キャラメル・カマクラ」といちごといちごのオー・ド・ヴィーの入った「ハイジ」。
「キャラメル・カマクラ」は、海と山が共存する鎌倉をイメージして地元・湘南で取れたお塩(海の恵)とヘーゼルナッツ(山の恵)で作られたもの。焼き立てのトーストやパンケーキに乗せると、キャラメルがとろっと、口に入れるとナッツの香ばしい香りが広がるのだとか。これは、朝ご飯を楽しみに、早起きができそうです。
今回は、この2種をお土産として皆さんへお届けします。(応募の方法はページ下部をご覧ください。)

ここで買いました。

Romi-Unie Confiture(ロミ・ユニ コンフィチュール)
鎌倉市小町2-15-11
0467-61-3033
www.romi-unie.jp

さんちのお土産をお届けします

読者のみなさまの中から抽選で1名さまにさんちのお土産 “Romi-Unie Confitureの「キャラメル・カマクラ」と「ハイジ」(各80g)” をプレゼント。
応募期間は、2017年5月18日〜6月1日までの2週間です。
お問い合わせフォームから、件名に「さんちのお土産 “ジャム” 」、本文に住所・氏名・年齢・ご職業・お電話番号・「さんち〜工芸と探訪〜」のご感想を明記の上、ご応募ください。
※当選者の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。 いただきました個人情報は、お土産の発送以外には使用いたしません。
ご応募、当選に関するお問い合わせにはお答えできかねますので予めご了承ください。

文・写真 : 西木戸弓佳

わたしの一皿 たまには失敗

最初にあやまっておきたい。ごめんなさい。今月は料理の仕上がりがイマイチなのです、とほほ。とほほほほ。みんげい おくむらの奥村です。

食材の色をいかした煮物は、薄口醤油か白醤油が良いのだけど、すっかり切らしていた。あー残念。味はよいのに真っ黒じゃないか。家の料理なのでそういうこともある。ありますよね。前向きにいきましょうか。味はよかったのですよ、実に。

春は苦味の野菜や山菜の季節。きびしい冬が終わり、ぐぐっと伸びてきた緑に苦味がある。これってなんだかすてきじゃないですか。きっとこの苦味には意味がある。口にすればおいしいし、身体をどこかきれいにしてくれるような気がするから。

ということで今月は「ふき」。緑がきれいな食材です。北海道から沖縄まで全国で見られるふき。しかもそこら中にあるので昔からなかなか優秀な春の食材だったのだったんじゃないでしょうか。板ずりして、塩つきのままゆでて、冷水にとり、皮をむく。下ごしらえがちょっと面倒なのは季節食材のかえってよいところじゃないかとも思えます。できあがりがますます楽しみになるから。

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小さいころは、ふきってなんともぼんやりとした、あってもなくてもよい食べ物じゃないかと思っていたけれど (ストロー状の食べ物って子供心に楽しいものだけど、なぜかふきはそこまで気持ちが上がらなかった) 、大人になってくるとしみじみ美味しい。むしろ好んで食べたいと思うばかり。

ふきに合わせたうつわは丹波のもの。丹波立杭焼 (たんばたちくいやき) は六古窯の1つで、長い、長い歴史をもつ。このうつわは俊彦窯という窯で焼かれたもので黒い釉薬が掛かっている。黒いうつわも良いもんです、と、この連載で黒いうつわを使うのは二回目。黒い釉薬から時折、赤ともオレンジとも思えるような土の表情が見えます。鉄分の多い土が焼成によってこういう色になっているんです。そのちょっとした表情がまたこのうつわのよいところ。黒なのに強さや暗さは感じない。どこかぼってりと田舎っぽいおだやかな雰囲気がする。民藝のうつわのよさ、というのはまさにこういうところ。

そうそう、丹波というのは兵庫と京都にまたがっている地域ですが、焼き物の丹波は兵庫。丹波篠山と言えば「あっ」と思う食いしん坊がいるかもしれない。黒豆、松茸、栗に猪にワインに‥‥。そう食材の宝庫。そんな土地だから、山が美しいんですよね。大阪からも神戸からも遠くないのにまるで別世界。そろそろ窯元の工房の中にツバメが巣をつくりにやってくる頃かな。

そんな場所で作られるうつわなので、ふきだったり他の山菜だったり、山の食材にもよく似合うのは当然かもしれない。

ところでこのかつおぶしたっぷりに煮る煮物は、ふきの、苦味があるのにどこか柔らかさや丸さがあるという不思議な味わいと、かつおぶしに醤油というわれわれが慣れ親しんだ和食の基本の味わい。どこかなつかしさと、奥ゆかしさや余韻を感じるという、まさに日本の味、日本らしさなんじゃないかと思います。ずーっと伝えていきたい味わいです。

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ふきの煮物がうれしいのは冷めてもおいしいこと。作って2日目、3日目ぐらいには、お腹が空いてきた夕方、ホウロウ容器からこれをちょっと取り出してうつわに移し、冷たいままでとりあえず。ちょいとおちょこ一杯の日本酒でもやれば、エンジン掛かって夕飯のしたくも加速します。

そんなだから、何日か持つからと思ってある程度たくさん作るのだけど、すぐなくなってしまう。春はつくづく食いしん坊にはうれしい季節です。

奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の3分の2は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。

みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com

文:奥村 忍
写真:山根 衣理