あえて絵付けしない。「白磁の九谷焼」が広げた産地の可能性

冬は雪深く、一年を通して湿潤な地域が広がる北陸。その独自の風土が、さまざまな工芸技術を育んできました。

そんな北陸の地で2020年1月誕生したのが、ものづくりの総合ブランド「RIN&CO.」(リンアンドコー)。

漆器や和紙、木工、焼き物、繊維など、さまざまな技術を生かしたプロダクトが動き出しています。

越前漆器
お盆の材料
ポチ袋の紙は、中身が透けないよう少し厚みのある紙を選択。紙を漉いた時にできる漉目(すのめ)をあえて出し、和紙らしさを表現
山中漆器

今回は「RIN&CO.」を立ち上げた漆琳堂の内田徹さんとともに、プロダクトの製作現場を訪れ、北陸のものづくりの魅力に迫っていきます。


*ブランドデビューの経緯を伺った記事はこちら:「漆器の老舗がはじめた北陸のものづくりブランド「RIN&CO.」が生まれるまで」

透けるような白い九谷焼

石川県を代表する焼き物といえば、約350年の歴史を持つ九谷焼。

磁器特有のツルツルとした手触りと、彩り鮮やかな上絵付けが持ち味で、明治期には欧米で「ジャパンクタニ」と称賛されるなど、色絵陶磁器の最高峰と言われています。

色絵花鳥図大平鉢 九谷庄三
精密な絵付けも九谷焼ならでは。色絵花鳥図大平鉢 九谷庄三 (能美市九谷焼資料館 蔵)

今回ご紹介するのは、白い九谷焼のボウル。

「RIN&CO.」白九谷

シルクのようにしっとりとした質感と、透けるような白さが特徴の器です。

一見、何の変哲もない白い器。しかし、そこには九谷焼ならではのさまざまな工夫が隠されているようです。

今回はこの商品をつくる宮吉製陶の工房を回りながら、その秘密を探っていきます。

何千、何万個と同じ器に仕上げる技術

石川県小松市にある宮吉製陶は、1972年に創業した九谷焼の窯元。さまざまな種類の食器や花瓶などを製造しています。

宮吉製陶
和洋問わず、幅広い種類の器を製造しています
和洋問わず、幅広い種類の器を製造しています

宮吉製陶がつくる製品は、上絵付けを施す前の白地(しらじ)のもの。大手メーカーからの依頼も多く、何千、何万単位で注文を受けることも珍しくはありません。

「土から成形し、施釉、本焼きまでが私たちの仕事。九谷焼は完成までにさまざまな製作工程があり、分業によって成り立っているんです」と教えてくださったのは、宮吉製陶の山本裕二さん。

山本裕二さん
宮吉製陶の山本裕二さん

成形にはろくろやローラーマシンを使う方法、プレス成形などがあり、宮吉製陶でもさまざまな方法で成形を行っています。

機械ろくろは正円形のアイテムに適した成形方法
機械ろくろは正円形のアイテムに適した成形方法
陶土を型に押しつけることで、余分な陶土が麺のように細長く出てきます
陶土を型に押しつけることで、余分な陶土が麺のように細長く出てきます

今回のボウルは、石膏型を使った「圧力鋳込み」という方法で成形しています。

「圧力鋳込み」は一般的に、ろくろでつくることができない複雑な形状の器の成形に使うことが多く、さまざまな成形方法のなかでも、仕上がりの精度が高いと言われています。

圧力鋳込みでは、まず陶土を「泥漿(でいしょう)」というドロドロの液体状にしていきます。

積み上げた石膏型に圧力をかけた泥漿が流し込まれることで、複雑な形の器も一度にたくさんつくることができるのです。

石膏型は上下にパカッと分かれる形が基本。凸と凹の対になっており、その隙間に泥漿を流し込みます
石膏型は上下にパカッと分かれる形が基本。凸と凹の対になっており、その隙間に泥漿を流し込みます
石膏には水分を吸収する働きがあり、流し込んで30分も経てば乾きます
石膏には水分を吸収する働きがあり、流し込んで30分も経てば乾きます

成形には、実は細かい工夫がなされています。

「火を入れると、陶土は一度軟化してから焼き固められていくため、微妙に底が落ちたり反ったりするなど形が変化してしまうのです。私たちは陶土の性質を見極め、気温や湿度に気を配りながら成形しています」と山本さん。

例えば、お椀の底面などは焼いた後にまっすぐになるよう、成形段階ではあえて微妙に内側部分が盛り上がるようにつくるのだとか。「焼いた後はどんな形になるか?」を常に考え、変化を見越した成形を行っています。

何千、何万個と常に同じ形に仕上げる成形技術。そこには長年培ってきた経験や勘が活かされています
何千、何万個と常に同じ形に仕上げる成形技術。そこには長年培ってきた経験や勘が活かされています

成形したものは乾燥後、800度で半日かけて素焼き。

その後、釉薬をかけ再び1300度の高温でじっくり本焼きすることで、生地の完成となります。

乾燥中
一つひとつ手作業で行う釉薬がけ。こちらは青磁の釉薬をかけているところ
一つひとつ手作業で行う釉薬がけ。こちらは青磁の釉薬をかけているところ

100年後の産地を見据えて

本来であれば、ここから上絵付けと進んでいく九谷焼。今回はどうして白磁の器として商品化することになったのでしょうか。

製作を依頼した漆琳堂の内田徹さんに伺いました。

「RIN&CO.」を立ち上げた越前漆器メーカー、漆琳堂の内田さん
「RIN&CO.」を立ち上げた越前漆器メーカー、漆琳堂の内田さん

「私は普段、越前漆器の塗りに携わっていますが、漆を保存する容器は長年、無地の白い九谷焼が用いられてきました。強度に優れ、その美しい白さが漆の赤や黒に映えるんです。

今回、越前漆器の技術を使った食器として『越前硬漆』という商品をつくったのですが、同じサイズの器を漆には出せない透き通った白い九谷焼でつくりたいと思ったのがきっかけでした」

越前硬漆(左右)と白九谷(中央)
越前硬漆(左右)と白九谷(中央)

*越前硬漆を紹介した記事はこちら:「洋食やスイーツも似合う漆器「RIN&CO.」の硬漆シリーズが気軽に使える理由」

上絵を施さない白い九谷焼について、山本さんはどう感じたのでしょうか。

「白磁の九谷焼を商品として流通に乗せるのは珍しいのですが、最近ではレストランのシェフなどから『素材の色合いを引き立たせたいから器はシンプルな方がいい』と言われることも増えています。

九谷焼は、製土、成形、絵付けと分業されているため、我々のつくったものがそのまま商品として一般の方の手に届くことはまずありませんでした。しかし、長い九谷焼の歴史のなかでも転換期に入っているのだなと感じ、快諾しました」

素焼き前の器

一方で、宮吉製陶の今回の挑戦は、九谷焼に対する危機感も背景にありました。

「九谷焼は30年ほど前までは『伝統産業』でした。それが今では『伝統工芸』と言われている。つまり、それだけ従事する人や生産量が減ってしまったということです。

工芸としての九谷焼は、これから100年後も残る可能性があります。しかし、もう一度『産業』として復活するのは正直難しいかもしれません。だからこそ、私たちもいろんなチャネルを増やしていかなければと思っています」

内田さんと山本さん

異業種間でものづくりをするということ

とはいえ、異業種間でのものづくりは苦労したこともあったそう。

「同業種同士なら当たり前のように使う専門用語でも、まずはその説明からしなくてはなりません。意思疎通の面では普段通りにいかない部分はありましたが、内田さんのブランドに対する熱意を感じ、こちらも次第に熱が高まってきました。

『白磁の器として売るならいい釉薬を使わないと』と、釉薬にもかなりこだわり、美しい質感が再現できるものを採用したんです。メーカー側のプライドですね」と山本さんは笑います。

笑う山本さん
今回採用した釉薬。山本さんいわく、「これだけはゆずれなかった」とのこと
今回採用した釉薬。山本さんいわく「これだけはゆずれなかった」とのこと

こうして完成した白磁の九谷焼。

シャープなフォルムですが、普段使いできる丈夫さも兼ね備えています。

白九谷使用イメージ

スープはもちろんのこと、朝食のヨーグルトやシリアル、フルーツにも合うはず。

これほどシンプルな器なら、必然的に出番が増えそうですね。

<掲載商品>
白九谷 深ボウルS
https://www.nakagawa-masashichi.jp/shop/g/g4547639669834/

<取材協力>
株式会社宮吉製陶
石川県小松市吉竹町ツ3-62
http://miyayoshi-seitou.sakura.ne.jp

文:石原藍
写真:荻野勤、中川政七商店



<掲載商品>

RIN&CO. 白九谷 深ボウル 白 S

【わたしの好きなもの】ステンレスワイヤのコーヒードリッパー

1日に何度も珈琲を飲みたい人に朗報です。


この季節、傍らには常にホットコーヒー。

気軽に飲みたいけど缶コーヒーはちょっと違う。
インスタントも随分おいしくなったけど、できればもう一声。
結局いつだって珈琲には、ドリップした味を求めてしまいます。



なにより1日の長い時間を過ごす会社での珈琲問題はとっても大事。
そんな時に活躍するのが、「ステンレスワイヤのコーヒードリッパー」です。
とにもかくにも手軽でおいしいんです。



購入のきっかけは、中川政七商店に入社したての頃。
デザイナーの榎本さんが休憩中に、自分でデザインしたこのコーヒードリッパーでコーヒーを淹れる様子を目撃したとき。
あ、たぶんこれはとてもいい道具だな、と確信。
購入に至ったのでした。



実際に使ってみると、手軽においしいが手に入る。
カップに乗せてさっと1杯淹れられて、ワイヤーフレームのみなので洗う手間がかからない。
乾きも早くて衛生的だし、場所も取らない。
とことん気軽に、だけどおいしい一杯が味わえる。



家でも会社でも、1日に何度も珈琲を飲みたい私にはぴったりの愛用品です。

編集担当 上田

<掲載商品>
ステンレスワイヤのコーヒードリッパー
家事問屋 ワンドリップポット

【わたしの好きなもの】ガーゼハンカチ

顔周りに嬉しいガーゼハンカチ


マスクが品切れになっていまい、使いたいけれど使えない状況が続いています。
我が家では、咳エチケットのために、せめて清潔なハンカチを子供に持たせようと心がけています。
外出先のお手洗いでは、感染予防のために温風乾燥機も使用禁止になっていたりするので、
息子もいつもより「ハンカチ、ハンカチ!」と言ってきます。(今まで、適当に乾かしてたんでしょうね。。)

普段からmottaのハンカチは愛用しているのですが、プラスして「ガーゼ生地のハンカチ」を取り入れました。




手を拭くことを主にしていたハンカチも、咳エチケットとなると顔に触れることが多いので、
ガーゼのやさしい肌触りのものが気持ちいいいんですよね。
私は花粉症なので、マスクが不足するとハンカチで口と鼻を覆いながら通勤するので、
なるべくふわふわっとしたものをこの時期は選びます。

大変な時期ですが、ハンカチを好きなものにするだけでも、ちょっと気持ちがほっとするのでおすすめです。

編集担当 宮浦

青森発「ブナコ」の木工ランプの魅力とは。世界のホテルやレストランに選ばれる理由

みなさん、青森県で生まれた「BUNACO (ブナコ) 」という木工品をご存知ですか?

青森県が蓄積量日本一を誇るブナの木を有効活用しようと考えられた製法で、その技術を用いて作られたボウルやティッシュボックスなどはグッドデザイン賞を度々受賞しています。

BUNACO
BUNACO

カラーバリエーションを含め400種類ほどあるBUNACOの中でも、現在、主力アイテムとなるのが照明器具。

青森県立美術館 割れや歪みが少なく、従来の木工品と比較して造形の自由度が高いのも特長。ランプシェードも様々な形があります
先日取材した青森県立美術館の企画展で展示されていたBUNACOのランプ

誰もが知る外資系ホテルの客室やJR東日本の豪華列車「TRAIN SUITE 四季島」のラウンジなどでも採用され、世界的にも注目を集めています。

そんな国内外を問わず多くの人を惹きつけるBUNACOの魅力を探りに、青森県西目屋村にある工場を訪ねてみました。

ブナコ西目屋工場

*BUNACOの西目屋工場見学の様子をレポートした記事はこちら:まるで手品!見学者が絶えない「型破りな木工」の現場で目にしたもの

他にはない、斬新な製造方法

BUNACOの製造方法はとてもユニークです。

ブナの原木をかつらむきをするように約1ミリの薄い板に切り出し、テープ状にカット。

ブナコ
ブナの原木をかつらむきのように厚さ約1ミリの板にスライスしてテープ状に。表面の点々は水脈なのだそう

それを土台となる合板に巻きつけ、重なり合うブナのテープを少しずつ押し出して成型していきます。

BUNACO
BUNACOの名前は、その原型が“Bunacoil” (ブナをコイル状に巻きつけたもの) であることに由来するのだそう

ブナコ西目屋工場
なんと成形には湯呑みが使われていました

こんな斬新なアイデアはどこから生まれたのでしょうか。

「BUNACOのそもそもの始まりは、青森の貴重な自然資源・ブナの木を有効利用したいという思いからでした」

そう教えてくれたのは、ブナコ株式会社の広報担当、秋田谷恵 (あきたや・めぐみ) さん。

ブナコ株式会社の広報担当、秋田谷恵さん
ブナコ株式会社の広報担当、秋田谷恵さん

「日本では木は建材として使われることが多いのですが、ブナの木は水分量が多いため、『狂う』んです。伸びたり、縮んだりしてしまうんですね。そのため、長い間、この辺りではりんご箱や薪としてしか使われていませんでした」

そこで、1956年から青森工業試験場 (現在の県工業総合研究センター) でブナを有効利用するための技術開発がスタート。試行錯誤の末、現在のBUNACOの技術が生まれたといいます。

テープという形が叶えたデザインとものづくりの自由

木工品といえば、主にくり抜いたり削ったりして作るもの。材料の中でも必ず使わない部分が出てきてしまいます。

ところが、テープ状にしたブナが材料であるBUNACOには捨てる部分がありません。他の木工品に比べて、材料が約10分の1で済むといいます。

ブナコ西目屋工場
テープを外せばこんな状態に。何度でもやり直しができます

さらに、機械や型を使っているわけではないので、これまでにない自由な造形が可能に。試作もスピーディーに色々な形を試すことができるのだそうです。

BUNACO
パーツを組み合わせれば複雑な形も可能

そんなところから、デザイナーさんや施工業者からの人気も高く、BUNACOの商品アイデアの多くは、「外から」もたらされてきたといいます。

活躍の場は食卓から空間へ

当初は、お皿やボウルなどのテーブルウェアだけを手がけていたブナコ株式会社。

「こんなランプができませんか?」

今となってはBUNACOを代表する製品となったランプシェードも、そんな一言から始まったのだそう。

依頼されたデザインが複雑な形であったこともあり、はじめのうちは職人さんも難色を示したといいます。

それでも、「これまでに作ってきたものを活かせばできるかもしれない」と、倉田昌直社長自らが手を動かすうちに、職人さんたちも手伝ってくれるように。

そうして生まれたのが、器を二つ向き合わせにした形のこちらのランプシェードです。

BUNACO
現在は閉店してしまいましたが、東京・六本木ヒルズにあった「TORAYA CAFE」で使われていました

光が赤く透けるというブナの木の特性も相まって、従来にないやわらかな明かりのランプシェードは、一躍人気商品に。

ランプシェードは今やBUNACOを代表するプロダクト。赤い透過光はブナならではなのだとか
ランプシェードは今やBUNACOを代表するプロダクト。赤い透過光はブナならではなのだとか

2002年からランプシェードの開発に取り組み、翌年には販売を開始。最初に難しい形のものができたこともあり、デザインのバリエーションも増えていきました。

BUNACO

「このスピーカーのアイデアも、弘前大の先生が持ち込んできてくれたものなんですよ」と秋田谷さん。

BUNACO
テープが重なり合うというBUNACOならではの構造を活かし、残響音を吸収するつくりにしたスピーカー

「商品アイデアは、お客様の声や街中のデザインなどから見つけることが多いです。

BUNACOなら、どういうものが作れるかという視点でいつも考えていますね」

目指すのは「空間の名脇役」

うつわに始まり、ランプシェードやスピーカーなどのインテリアまで広がりを見せるBUNACOのものづくり。

「今後も照明とスピーカーには力を入れていく予定です。

忙しい日々を過ごす人たちに、BUNACOで光と音でくつろげる空間を提案していきたいと思っています。

目指すは空間の名脇役、ですね」

ブナコ西目屋工場
デザインオフィスnendoとのコラボスピーカーも

BUNACO

ユニークな技術が可能にした自由な造形。そこからまだ見ぬ新たな製品が今後も生まれてきそうです。

BUNACOのものづくりはまだまだ続きます。

<取材協力>

BUNACO

http://www.bunaco.co.jp/

文:岩本恵美

写真:船橋陽馬

*こちらは、2019年6月28日の記事を再編集して公開いたしました。