途絶えなかった地域の記憶。100年前の織り機が紡ぐ、これからの会津木綿

一面に広がる豊かな田園風景。その中にある一軒の建物から、軽快な音が聞こえてくる。

会津木綿「IIE Lab.」

カシャンカシャンカシャンカシャンカシャッンカシャンカシャンカシャッン‥‥

正確にリズムを刻んでいるようで、時折、微妙にゆらぐ。そのゆらぎがどこか小気味よい。

そんな音を発しているのは、とある古い「織り機」。

豊田式「織り機」

正確には「豊田式鉄製小幅動力織機(Y型)」というこの織り機がつくられたのは、およそ100年前、大正時代にまで遡る。

100年前の機械が現役で動いている。その事実に驚かされるが、実はこの織り機、今から30年前には一度その役目を終えていた。

戦前にうまれた古い機械はどんな経緯で、何のために今また動き出したのか。

400年続く伝統の綿織物「会津木綿」を現在の暮らしに

福島県会津坂下町青木地区。会津盆地の西側に位置するこの地域で、谷津拓郎さんと千葉崇さんは現在の暮らしに合った「会津木綿」の研究を行う「IIE Lab.(イーラボ)」を立ち上げた。

IIE Lab.の事務所
元々は幼稚園だった建物をリノベーションしたIIE Lab.の事務所。工房見学や買い物もできる

「会津木綿」は、1627年に当時の会津藩主が伊予松山から織師を招いて技術を伝えたのが始まりとされる綿織物。

先染めした糸を使うため色落ちに強く、わたの繊維自体が中空構造(内部に空気を含んでいる)のため丈夫で軽い。その太めの糸をふっくらと織り上げているので暖かく、一方で吸湿性が高く夏にも着られる。速乾性に優れており、洗ってもすぐに乾く。

織っている最中の会津木綿の生地
織っている最中の会津木綿の生地

こうした特徴から、冬は極寒で夏は酷暑という厳しい気候条件の会津地方において、一年中着られる「野良着」として地元の人たちに愛されてきた。

しかし近年、生活様式の変化からその需要は激減。多くの織元が廃業し、現在は絶滅の危機に瀕している。

会津坂下町出身の谷津さんは、地元で働きたいと考える中で「会津木綿」を意識するようになった。

谷津拓郎さん
株式会社IIE 代表取締役の谷津拓郎さん

「存在は昔から知っていましたが、あらためて見てみると自分でも欲しいと思えるものがあって。今の感覚に通じる面白さがあるんじゃないかと気づきました」

古い工芸品としての枠を超えた魅力に気づき、次第に、地元やそれ以外の土地にも広めていきたいと考えるようになる。

一方の千葉さんは関東出身。すでに商品をつくろうと動き始めていた谷津さんと出会い、会津木綿に大きな可能性を感じる中で東京からの移住を決めた。

IIE 取締役の千葉崇さん
IIE 取締役の千葉崇さん

「まず、そこにしかないというのは最大の武器なんじゃないかと率直に感じました。歴史があって、会津でしかつくられていなくて、貴重なもの。

それでいて色やデザインのバリエーションが豊富で、機能性もあって、現代でも通用する良さがあるなと」

奥様の地元が会津だったことも移住の後押しとなった。そして、谷津さんとともに「IIE Lab.」での活動をスタートしていく。

100年前の「織り機」との出会い。「会津青木木綿」の復刻へ

当初は仕入れた生地で商品開発をおこなっていたが、仕入れ先の織元が廃業するかもしれない状況になり、自分たちで生地を織る道を模索することに。

そこで巡り合ったのが、冒頭で登場した100年前の「織り機」だ。

地域の人たちから「あそこの工場跡に古い織り機が眠っているらしい」と話を聞き、駆けつけてみるとそこに「豊田式鉄製小幅動力織機(Y型)」をはじめとした数台の織り機が残っていたという。

100年前に製造された「豊田式鉄製小幅動力織機(Y型)」
100年前に製造された「豊田式鉄製小幅動力織機(Y型)」

「初めはとにかくびっくりしました」と千葉さんは振り返る。

新しい織り機を購入する場合、数千万円単位の投資が必要になることもあり、二人にとっては嬉しい誤算。ただ、まったくの奇跡というわけでもない。

そもそも、「IIE Lab.」が拠点をかまえた会津坂下町青木地区は、かつて会津地方の織物産業を牽引した土地。同町内で織られた生地は特に「会津青木木綿」と呼ばれ、品質の良さで知られていた。

ストライプ模様が会津木綿の大きな特徴
ストライプ模様が会津木綿の大きな特徴

見つかった織り機は、30年前に廃業した町内で最後の織元が使っていたもの。「会津青木木綿」は幻の布となって久しいが、当時の様子を知る人や実際に織元で働いていた人が町内に住んでいたことも、今回の発見につながった。

かつての織元が使っていた縞模様のデザイン帳
かつての織元が使っていた縞模様のデザイン帳

工場跡で佇む織り機を目の当たりにしたとき、谷津さんは「会津青木木綿のルーツとして、この織り機だけは守らねば」と強く感じ、千葉さんは「どれだけ古くても、機械である以上は動かせるはず。修理して、生地を織るところまでやろう」と使命感にかられたという。

現代の暮らしにあった「会津木綿」を提案し、広めていこうと活動してきた二人。この織り機との出会いによって、自分たちが織元となり、この土地でつくられていた「会津青木木綿」を復刻するという新たな目標に向けて歩み始めた。

織り機の復活。人の記憶がつなぐ地域の文化

「必ず動く」と確信を持っていた千葉さんだったが、織り機の修復は一筋縄ではいかなかった。なにしろネットで検索してみたところでほとんど情報が出てこない。

「わからないことばかりで苦労しました。Webに情報がないので、国会図書館で紙の資料を読み込んだり。そんな中、なんと元々その織り機を使っていたという80代の方がいらっしゃって、オペレーション方法は主にその方から聞きました」

ここでも、地域に残る先達に大いに助けられた。織り方はもちろん、「会津木綿」の縞模様の意味、地域による違いなど、貴重な話をいくつも聞くことができたという。

多くの人を訪ね、話を聞き、試行錯誤した
多くの人を訪ね、話を聞き、試行錯誤した

地元だけでなく、桐生や米沢など他県の織元の所にも足を運んだ。織り機の修理を専門にしている新潟の方との出会いなどもあり、ひとつひとつ疑問を解消していく日々。

「この時代に、人からの伝聞に助けられて、それが仕事につながっていくって、面白いですよね」と谷津さんは話す。

発見から1年半をかけて、ついに1台目の修復が完了。要領を得た千葉さんは2台目以降も順調に修復していき、現在は5台の「豊田式鉄製小幅動力織機(Y型)」が稼働している。

織り機
日々稼働している織り機たち
部品は、使っていない織り機から拝借している
部品は、使っていない織り機から拝借している

「会津青木木綿の品質は、地元の人の誇りでもあったようです。僕たちが再び織り始めたことで、『うちにも残ってるよ!』と古い布を持ってきてくれたり、『こうして観れる場所ができて嬉しい』と喜んでくれたり。

本当に、ずっと愛されて使われてきた、生活に近い布だったんだなと実感しました」

織り機の修理の過程で、地元の人たちの中に眠っていた「会津木綿/会津青木木綿」に関する記憶も呼び覚まされ、「IIE Lab.」と地域の結びつきも強くなっていった。

デジタルでもアナログでもない、“絶妙”な織り機

「仕上がりの品質そのものは決して新しい機械に見劣りしません」

人知れず地域に眠っていた織り機の実力について、谷津さんは力強く話す。

会津木綿
会津木綿
織り機は一台一台に個性があり、仕上がりにも“ゆらぎ”があり、それも魅力のひとつ

たとえばスマートフォンのようなデジタル機器の場合、どうしても古いものほどスペックで劣ってしまう。しかしこの織り機の場合、生産性ではかなわなくとも、織り上がる生地の品質という点ではなんら遜色がないという。

「デジタルではなく、手織りほど完全にアナログでもない。工業的な部分も備えつつ、人の勘で調整する要素が大きいので、熟練すれば手仕事の良さも出せる。本当に絶妙な織り機です」と千葉さん。

手作業の部分が残っているからこそ、絶妙な風合いが出る
手作業の部分が残っているからこそ、絶妙な風合いが出る

1台の織り機で織れる生地は、最大でも1日に約12メートル(生地の幅は約37センチメートル)。ゆっくりていねいに織られるため糸に負荷がかからず、風合いの良い生地に仕上がる。

「1台200ワットという最低限の電力で動くのも良いなと思いますし、なにより自分で直せることが魅力ですね。

自分の父親が壊れたものをよく直す人で、それを見ていて感動した体験があって。ものを直せるって『すごい』なと。

5台それぞれ特徴も違って、壊れ方も違うことに気づいたり。修理の跡を見て昔の人がどんな風に使っていたのか考えたり。ものづくりをする上でも大きな経験になりました」

修理道具
千葉さんの修理道具。筬(おさ)などの付属品をつくれる会社も数少なくなっている

織元復刻ブランド「会津木綿 青㐂製織所」始動

そして2020年1月、修復した織り機で伝統の織物を復刻した新ブランド、「会津木綿 青㐂製織所(あいづもめん あおきせいしょくしょ)」の発売がスタートした。

「会津木綿 青㐂製織所(あいづもめん あおきせいしょくしょ)」
「会津木綿 青㐂製織所(あいづもめん あおきせいしょくしょ)」

織元復刻ブランドとして、元々織り機を所有していた織元の屋号を使用。ロゴマークには、会津地方の郷土玩具「起き上がり小法師」が持つ“七転び八起き”の志が込められている。

会津木綿 青㐂製織所
会津木綿 青㐂製織所 ロゴマーク

「古いものの良さを今の暮らしに、というコンセプトもあって、最初はこのライナップになりました」(谷津さん)という初回アイテムは「トートバック」と「ポーチ」。

「会津青木木綿」の特徴であった「丈夫さ」や「会津らしい色彩感覚」を活かしながら、今のくらしに溶け込むデザインを加えて織り上げた。

「会津木綿 青㐂製織所」トートバッグ(大)
「会津木綿 青㐂製織所」トートバッグ(大)
トートバッグ(小)
トートバッグ(小)

「糸の番手は太いものを使い、本数を多く設定したタテ糸にヨコ糸をしっかり打ち込む密な織り方で仕上げています。

カラーバリエーションは、手織り時代から愛されていた色を資料から読み解きながら、会津らしい自然由来の色を意識しました」(千葉さん)。

ポーチ
ポーチ(大)
ポーチ
ポーチ(小)

化学染料で先染めされた糸は耐久性に優れ、手洗いも可能。“軽さ”を実現するためポーチのファスナーの重量にもこだわった。

制約から生まれた形状。ずるができないシンプルな美しさ

修復した古い織り機は優れた風合いで生地を織り上げることができる一方、織れる生地幅に制限がある。少しもどかしくもあったが、その制限もうまくデザインに取り入れた。

今回、プロダクトの仕上げを担当したIIE Lab.スタッフの松本恵さんは、その工夫についてこう話す。

「生地をできる限り利用するために、切り込みは必要最低限にして、畳むように折っていくことで完成する仕様になっています。

小さいポーチに関しては、ポケットも含めて本当に一枚の布からつくれます。経験豊富な社内の縫製担当者も、この仕様には驚いていました。

着物などをこうしてつくっていた昔の人の知恵を、小物に生かしたというのは珍しいのかなと思います」

松本恵さん
松本恵さん

元々、綿栽培の北端とされる会津では資源が貴重な中、生地を無駄にしない思想が根付いていた。「会津木綿 青㐂製織所」のアイテムでも、このことは大切に考えている。

「普通はカーブの部分で布を切っていくので使わない残布が多く出てしまうんですが、今回はできるだけそうせずに、生地をほとんど捨てていません。作る側としてもとても気持ちが良いです」

目的やデザインが先にあるのではなく、生地の幅という制約からスタートするアイテム。先人たちも、この制約の中で工夫を凝らしてデザインをし、機能性も持たせていた。

だからこそ逆に新鮮さを感じるし、何に使おうかと考える楽しさもある。

「何を入れるためというのが決まっていない、好きなものを入れていただけるアイテムになったと思います。

小さいポーチには、ポケット感覚でアクセサリーやハンコを入れても良いですし、大きいポーチには本当になんでも。入れたものに合わせて折りたたんで持ち運ぶこともできます」

「会津木綿 青㐂製織所」の商品たち

シンプルな形状にストライプが印象的なデザインは、細部のほころびが目につきやすく、手を抜くと魅力が一気に落ちてしまうシビアな商品とも言える。

その他、見えない部分、商品に残らない部分にまで「会津木綿」の思想が反映されている今回のアイテムたち。

「昔の人は『会津木綿』を着るものに使用して、その後、最終的にはオシメにするくらい、大事に長く使っていたそうです。そんな精神も入ったプロダクトになりました」と千葉さん。

谷津さんは、「『会津木綿 青㐂製織所』を通じて会津木綿の良さ・背景などをいちから発見してもらいたい」と話す。

そして、「高価な工芸品ではなく、暮らしの中の綿商品として。こだわったものづくりと手に取りやすい価格を両立し、木綿織物自体が見直されて欲しい」とも。

会津木綿
会津木綿

厳しい自然環境に適応するために高い品質を保ち、400年続いてきた「会津木綿」。30年前に一度途絶えた織り機の音もまた響き始めた。

「過去の布を見てすごいなと感じるように、今自分が織っている布も、何十年後の人たちにすごいと感じてもらえるかもしれない。自分で織った布は、きっと自分より長生きしますからね」

IIEのみなさん
IIE Lab.のみなさん

そう言って千葉さんは今日も織り機を動かしている。

会津の暮らしの中で使われ、愛されてきた伝統の織物が、これからは日本全国に広がっていく。

<取材協力>
IIE Lab.:http://iie-aizu.jp/

<参考リンク>
会津木綿 青㐂製織所ブランドサイト:https://www.aokiseishokusyo.com/
商品紹介ページ(中川政七商店):https://www.nakagawa-masashichi.jp/shop/e/ev0165/

文:白石雄太
写真:直江泰治


<掲載商品>

青キ製織所 トートバッグ小
青キ製織所 トートバッグ大
青キ製織所 ポーチ小
青キ製織所 ポーチ大

【わたしの好きなもの】吊り下げ帆布収納袋

 

家の中で散らばりやすいものってありませんか?

例えば読みかけの本や、リモコン、携帯の充電器、郵便物など。

それぞれの定位置を決めておけるほど几帳面な性格ではないため、我が家では床やら玄関やらに色々なアイテムが散らばってしまっていました。

これらの頻繁に使うものを上手にまとめておければお部屋の見た目はスッキリするのに。

そんな希望を持ちながら、片付けが苦手、面倒くさいと感じているわたしにぴったりの商品が、この「吊り下げ帆布の収納袋」です。



シンプルな形の中に隠れたお気に入りのポイントは、収納袋の口にワイヤーが仕込まれていること。口を閉じて中身を見えにくくすることもできます。

収納袋の中にポケットや仕分けがないところも気に入っています。そもそも仕分けをするのが面倒くさいわたしにとって、たくさんの仕切りやポケットがついていないことが本当にちょうどいいのです。



ドライヤーや櫛など、毎朝、毎晩使うものも、出しっぱなしにしておくのは好きじゃありません。でも、朝のドタバタを言い訳に、どうせすぐ使うからと結局出しっぱなしにして出かけてしまう日々。

ところが、この収納袋を使いはじめてからは片付けがちょっと楽になりました。

洗面台の手に取れる場所に収納袋を吊るしてドライヤーなどを入れておけば、すぐに手に取れて、すぐに片付けることが出来るのです。



よく使うものは出しっぱなしが一番楽ちんです。でも、できれば生活感が出てしまうのは避けたい。そんな日常の要望を自分の出来る限りで叶えていくことで、暮らしの快適さや、豊かさを積み重ねていこうと思える商品です。



様々な場所で使えるので、ぜひおうちの「ここにあったらちょっと暮らしが便利になる」場所で使ってみてください!


<掲載商品>
吊り下げ帆布収納袋 小
吊り下げ帆布収納袋 中
吊り下げ帆布収納袋 大

編集担当 村垣

シンプル、だけど無個性じゃないもの ──ガラスブランド「TOUMEI」が目指すものづくり

ぽってりと丸い輪郭を帯びながら凜とした佇まいをしていたり、ちょこんとしたサイズなのに物言わせぬ存在感を放っていたり。

飾り気がなく、潔い。それでいて何だかユニークで、可愛らしさも秘めている──ガラスウエアブランド「TOUMEI」の花器やグラスには独特な雰囲気が漂う。

ガラス作家TOUMEI の花器

つくり手は2人のガラス作家

「TOUMEI」を立ち上げたのは福岡県宗像市在住の2人のアーティストだ。

ガラス作家の髙橋漠さんと和田朋子さん
その日は図らずもペアルックに。「恥ずかしいー(笑)」と和田さん

ガラス作家の髙橋漠さんと和田朋子さん。東京にある美術大学を卒業後、髙橋さんは長野で、和田さんは東京においてそれぞれ作品づくりを行ってきたが、

「今後、どこで活動するのかを考えたときに東京や長野っていうのは想像できたんです。こういう感じでやるんだろうな、っていうイメージがついちゃって。なんか嫌だったんですよね。

で。僕の地元の福岡はどうだろう、って考えたときに、まったくイメージがつかなくて。そっちのほうが面白そうだなと思って。

それに‥‥なんていうか‥‥生物として‥‥。たとえば鮭って生まれた場所に戻るじゃないですか(笑)。そんなふうに自分が生まれ育った場所に戻りたいっていうことも漠然と思ったりして‥‥」と髙橋さん。

東京生まれの和田さんにとっては見ず知らずの土地である。髙橋さんから福岡移住について相談されたとき、「意外にも迷うことなく」その提案を受け入れたとか。

こうして2015年。髙橋さんの故郷にガラス工房を立ち上げ、2人の作品づくりが始まることになる。

かつて農機具置き場だった倉庫を改装したガラス工房内
かつて農機具置き場だった倉庫を自分たちで改築し、ガラス工房に

「TOUMEI」について話をする前に、少しだけアーティストとしての活動を紹介したい。

ガラス作家である髙橋漠さん。主に宙吹きという技法(型を使わず、吹き竿に息を吹き込みながら成型する技術)を用いて制作。

あるときは驀進的に作業を進め、またあるときは理論的にゆっくりと見定める。

不可思議だけど、どこか懐かしさを感じる作品たち
不可思議だけど、どこか懐かしさを感じる作品たち

そんなふうにして生まれるさまざまな色や形のガラスたち。それらを組み合わせてつくり出す造形物は、個性的で不可思議。でも、なぜだか少し懐かしさを感じる。そんな髙橋さんの作品は国内外から高い評価を受けている。

一方、和田朋子さんは主にステンドグラスの制作に用いられる技法を得意とするガラス作家だ。

多様な色や形のガラスを用いることはもちろん、ほかにも道端に落ちていた石や木の枝、葉っぱ、ときにはほかの人にとってはゴミのようなものなど、和田さんの琴線に触れた美しいもの、面白いもの、発見した何かを素材にして、自分の感覚や感性を道標にしながら、繊細で立体的な作品を生み出している。

和田さんの作品
「引き出しのなかには細かいパーツがストックしてあって、宝探しをするみたいな感じに作品をつくる」と和田さん

そんな2人が、ガラスウエアブランド「TOUMEI」を立ち上げたのは2016年のこと。そこにはある理由があった。

どうしてブランド服は買うのに、手づくりの器は買わないのか?

「いつも疑問に思っていたんです。若い人ってデザイナーがつくるブランドの洋服は普通に買うのに、どうして手づくりの器は買わないのかな、って。

興味はあるけど、買ってみる勇気がないというか。手づくりの器となるとハードルが高くなる‥‥そういう若者って結構いると思うんですよね」と髙橋さん。

どちらかというと理論的に作品づくりを行う髙橋さん
どちらかというと理論的に作品づくりを行う髙橋さん

大手百貨店で個展をしたときも。ある程度、歳を重ねた大人の来場者は多いのに、同世代の若い人が少ないことも気になった。つまんないと思った。

「僕としてはブランドの服も、手づくりの器も同じロジックで買えると思うんです。でも現実的にそれができていないのは、こちら側の、つくり手のプレゼンテーションの問題だなと」

同世代の若い人にも手づくりの器を届けたい。気兼ねなく、同じ目線で楽しんでもらいたい。和田さんは言う。

直感と感性でものづくりを行うという和田さん
直感と感性でものづくりを行うという和田さん

「好きな洋服を着るとテンションが上がるじゃないですか。手づくりの器もそれと同じで。

好きな花器に花を活けてみると気分がパッと明るくなるし、いつもの食事もお気に入りの食器を使うだけで気持ちが上がるから」

「TOUMEIを通してそういうことを若い人にもきちんと伝えられたらな、と。伝えることさえできればきっと分かってくれると思うので。

無抵抗にというか、自然に、フラットな気持ちで作家の器を手にとってもらえるようにしたいなと思ったんです」(髙橋さん)

正解なんてない。ただ、どんどん良くしていけばいい

そもそも「TOUMEI」という名前の由来は?

「ガラスの魅力っていろいろあると思うんですけど、私たちが一番大事にしているのが“透明”であること。そこからきています。

光を通すことによって独特の質感や色が映し出されたり、水を入れると鮮明になるシルエットや存在感‥‥TOUMEIを通じてガラスという素材の普遍的な美しさや豊かな表情といった魅力を感じてもらえたら」と和田さんは言う。

ガラスならではの美しさに2人の個性と感性が調和したTOUMEIの花器
ガラスならではの美しさに2人の個性と感性が調和したTOUMEIの花器

TOUMEIといえば、何といっても独特な形だろう。

まず髙橋さんがスケッチをする。いくつも、いくつも。1時間ほどかけて思いつくままに、手が動くままに一気に描き続けるという。

いくつものデッサンが並ぶスケッチブック
スケッチブックにはいくつものデッサンが並んでいた

「このとき、いいやつを描く気は全然ないんです。ああしよう、こうしようとかまったく考えないですね。だって、

高橋さんと和田さん

正解なんてないじゃないですか。

こうしなきゃといけないと思うと手が動かなくなったり、どうしようって考えちゃうと思うんですけど、それって正解を出そうとしているからですよね。正解を出さなくていいから100個考えてくださいって言われたらできない人はいないでしょう。

なので、僕の場合は何も考えずになるべくいっぱい描きます。

まあ、ほぼボツになりますけど(笑)。それを翌日とかに見直して、これいいじゃん、面白いかなみたいなのを選んでいきます。

その上で、こうしたらもっと良くなるかな、格好良くなるかなってことをつくる過程で考えて、どんどん良くしていけばいいのかなって。

選ぶのは‥‥シンプルだけど、飽きが来ないっていうか。個性的でやぼったくないものというか‥‥」と髙橋さんの言葉を継いで、和田さん曰く、

「そうね。シンプルだけど‥‥無個性じゃないもの」

そう。

シンプルだけど無個性じゃないもの──それが「TOUMEI」の目指す形である。

「あとはやっぱりガラスのきれいさが出ることを大事にしています。たとえば、花瓶なら水を入れたときに輪郭がきれいに見えるようにとか、光を通したときに美しく反射するようにとか」(髙橋さん)

ちなみにTOUMEIの花器は一つ一つすべてが宙吹き。つまり型は使っていないハンドメイドというから、そこには確かな技術があることが分かる。

自分たちで調合して好きな色のガラスをつくる

きれいな色合いもまたTOUMEIに魅せられる所以の一つだろうと、思う。

色づけられたガラス

ガラスの色づけには2つの方法があるという。

一つは窯中に透明のガラスだけを溶かし、巻き上げたガラスに色の粉をかけるなどして後から色をつけるというやり方。応用が利きやすく、現代的な方法とか。

そしてもう一つは色のついたガラスを溶かすという方法。ガラスの原料に銅や鉄といった鉱物を調合することで発色させるやり方であり、こちらは原始的で非合理的な方法である。

手間暇や再現性を考えたら前者のほうが圧倒的に有益だが、TOUMEIでは後者を選択。髙橋さんは言う。

「前者の色のつけ方のほうがポピュラーで効率的なんですけど、その分、人と似たものになりやすいという短所があって、それは避けたいなと。

色付けに用いる材料

もっと未知なことに挑戦したい、そう思っていたとき、近所に工房をかまえる後藤哲二郎さんというガラスの作家さんと出会ったんです」

後藤さんは福岡特殊硝子株式会社という歴史あるガラス工房の流れを汲む職人で、色ガラスに関する知識や発色の方法、調合の技術などをもっていた。

「その方はもうご高齢で。『俺が辞めたらこれまで培ってきた色ガラスの技術や知識が途絶えてしまう』とおっしゃられて。それなら僕らがやります!と引き継がせていただいたんです」

色ガラスは面白かった。

あとから色をつける方法とはガラスの発色の仕方がまったく異なり、なおかつ自分の好きな色を自由につくることができるからだ。

とはいえ、簡単なことではないという。

「色ガラスの調合って難しいんです。とくにピンクや赤といった暖色系に発色させることがなかなかうまくいかない。でも、いつかTOUMEIにピンクや紫っぽい色を出したいと思って、いまは開発中です」(和田さん)

作品「チムニー(煙突)」
写真は「チムニー(煙突)」

現在はブルーグリーンやアンバー、グレー、ブルー、オリーブ、クリアの6色を展開。

花器にはチムニー(煙突)やコフン(古墳)、クラウド(雲)、ヒル(丘)といった6型があり、ほかにもテーブルウエアや照明なども制作している。

さてと。花器を前に。

ガラス作家TOUMEI の花器

どれにしようか‥‥本気で迷いながらも頭の中には、どんな花を活けようか、どこに置いたら素敵だろう、違う形のものをいくつか置いてみるのもいいな‥‥そんなふうに楽しい空想が広がっていた。

<取材協力>
TOUMEI
福岡県宗像市池浦504-2
0940-72-6169
https://www.toumei-glass.com

文:葛山あかね
写真:藤本幸一郎、TOUMEI提供

中川政七商店オリジナルの「最適包丁」ができるまで。関のものづくりを間近で見学。

 


中川政七商店のものづくり現場をスタッフが実際に訪ねてご紹介する「さんち修学旅行」、今回は岐阜後編です。

後編はわたくし、中川政七商店GINZASIX店の佐藤がレポート致します!

後編は美濃焼に続き、岐阜関市で大正5年より創業の株式会社スミカマさんにお邪魔しました。


歴史は780余年。刃物の一大産地、岐阜県関市へ

関市は刃物4大産地のうちの1つで、その歴史は780余年。

関には刀鍛治にとって最高の風土条件(土や水など)があり、多くの刀匠が集まってきたのだそうです。780年・・・すごいですね、何だか浪漫を感じます。

スミカマさんは大正5年創業。確かな技術でこれまで沢山の商品を生み出されてきました。日本製の包丁産地のなかで海外シェアNO.1を誇る関。特にスミカマさんは海外進出が早く、プロ向けの輸出製品を多く扱ってこられたそうです。

そんなメーカーさんと中川政七商店のコラボ!中川政七商店でも自社ブランドの包丁を作るのはこれが初めてとあって、興奮します。そんな興奮を静かに抑えつつ、いざ現場へ!


▲工場内


▲本日お世話になります炭竃さんです


大正5年創業のスミカマさんで工場見学

現場へ入らせてもらった最初の印象は・・・「思いの外寒くない・・・」でした(笑)なぜか勝手に寒いイメージを持っていました・・・刃物が銀色だからですかね・・・?

と、そんな情報はさておき。工程の順番は前後してしまいますが、見せて頂いた順番にリアルにご紹介させて頂きます。

まずは「仕組み」という刀身にハンドル(柄)を取り付ける作業を見せて頂きました。




柄の中に専用の接着剤を投入し、刃と合わせ、工具を使ってしっかりと固定。繋ぎ目にも上から更に接着剤を塗り強化。塗り過ぎるとぼこぼこしてしまうし、少なければ外れやすくなる。

なかなか細かい集中力のいる作業です。

そして次に「柄擦り」という作業。

こちらはこの工程だけでも4工程あります。先ほどの「仕組み」でできたつなぎ目をまずは粗く擦り、滑らかに。更に中・仕上げとバンドの違う研磨機で研磨します。



絶対に無理ですが、やってみたい・・・と思ってしまうほど、流れるような手さばき。

そして刀身の「表面研磨」「背研ぎ」「アゴ研ぎ」「目通し」など。こちらで刀身の表面の黒革を落としたり、刀身の蜂・アゴの厚みを整えたり、刃先も角を研ぎ込んでいきます。




この姿勢きっと辛いだろうな・・・と、黙々と作業に集中する職人さんたちの背中に尊敬の念を覚えます。

「背研ぎ」や「アゴ研ぎ」は自分から刀身が見えないため、ほぼ手の感覚が大きなカギを握っているとのことで、職人さんの中でも更に難易度の高い作業です。凄いです。カッコいい・・・。


刃を付ける?

続いては「刃付け」と呼ばれる工程です。

最初「刃付け」という名前から刃の部分に別に素材をつけるのだろうか??と思いましたが、そうではなく研ぐことで切れる刃になるので、「刃が付いた」ということになるようです。

独特の言い回しは、個人的にとても「へぇーー!」ポイントでした。

また話が逸れましたが。

この刃付け、「革刃付け」という工程と2工程あり、最初の刃付けだけでもとっても切れ味抜群なのですが、「革刃付け」をするとびっくりするほどの切れ味に!!


▲革刃付け

試し切り用の新聞が力を入れずにハラリと切れました!

そして最後にこちらの機械。貴重なもので、値を設定するとその厚みに均一に研いでくれるというものだそうです。



手作業だとその日の状況により厚みが均一にならなかったりばらつきが出てしまう場合があるため、こうした機械も適宜使用しているそう。

それでもやはり細かい調整は人の目や手で行っています。



意外なことに、厚みにこだわって製作をしている工場はかなり少ないとのこと。この機械をわざわざ使うスミカマさんの仕事の丁寧さがうかがえます。

工程は全部で46工程ほど。間にも細かい工程が存在します。そして私たちが今回見学させて頂いたのはそのほんの一部です。

本当にたくさんの作業工程をたくさんの人の手によって作り出されています。なので、出来上がった政七の包丁も素敵なのですね~。



私も実際に使用しましたが、小回りが効くサイズ感でとっても使い易かったです。今日は料理がちょっと億劫だな・・・と思う時も、程よい軽さ、持ちやすさで気軽に使えるので便利です。

企画から製作まで2年の歳月をかけた最適包丁。是非、店頭に見にいらしてください。

そして、この工程を思い出しながら包丁を見て、職人さんたちの熱い思いを感じていただけたら嬉しいです。

お会い出来ましたら、是非お話させて下さい!!全国の中川政七商店でスタッフ一同、心よりお待ちしております。

 



<掲載商品>

最適包丁
最適包丁 パン切り

「鋼の包丁」の魅力とは。料理好きおすすめの1本からお手入れ方法まで

こんにちは。バイヤーの細萱久美です。

日頃、奈良と東京を行き来しており、家を留守にすることもままありますが、奈良にいる時はなるべく自炊を心がけています。若かりし頃は料理が趣味という時期もありましたが、今は日常のことに。ただ調理道具は好きで厳選しています。

料理の基本・調理道具の基本といえば、包丁でしょう。他の道具はある程度の代用もありますが、包丁だけはなかなか代用が効きません。

100円ショップやスーパーでも安価なものが売っているので、とりあえずで購入した人も多いのではないでしょうか。

しかし、長く使うことを考えるならやはりそれなりに良い包丁を選ぶことをおすすめします。

切れ味が良く、切り口が綺麗なだけでも料理が楽しくなるのと、仕上がりの味にも実際に差が出てきます。

とは言え、良い包丁を選ぶのも難しいですよね。素材、形などを整理した上で、私のおすすめをご紹介したいと思います。

素材、形、色々ある包丁の種類

デパートのキッチン売り場でも結構な種類があり、木屋や有次のような調理道具専門店だとズラリと並んでいて、ある程度マトを絞らないと途方に暮れてしまいます。

店員さんに相談すると、初めの一本としておすすめされるのは大概「三徳包丁」もしくは「牛刃」だと思います。

三徳は、別名万能包丁と言われ、大きな肉やキャベツなども切りやすい「牛刃包丁」と、様々な野菜を切るのが得意な「菜切包丁」の良いとこ取りをしたものなので、まずは基本の一本に選ぶと良いと思います。

本格調理におすすめ!「鋼」の包丁

次に素材の違いですが、大きくは「鋼(ハガネ)」「ステンレス」「セラミック」があります。セラミックは耐久性がやや劣るので、出来るだけ鋼かステンレスを選びたいところ。

切れ味の良さと耐久性では鋼に軍配ですが、錆びやすいので手入れに少々気を使います。ステンレスは錆びにくく切れ味も合格点。若干研ぎにくいことはありますが、バランスは良いので初心者や料理は気軽に!という方にはおすすめです。

鋼包丁でのトマトの切れ味

私は鋼とステンレスの両方を持っていますが、調理に時間を取れる時は鋼の包丁を使います。切れ味を優先、そして本格的に料理をする気分になります。

ちなみに鋼は、刃金と同じこと。鋼が持つ、堅さと粘りという二つの要素が包丁にたるポイントです。鋼は「焼き入れ」で堅く、「焼き戻し」で粘り強さが出ます。

焼き入れは約800度に加熱してから急冷し堅くする工程。そして、堅いだけだと折れやすい状態の鋼を180度位で再加熱する焼き戻しをすることで折れにくい弾力性を生みます。

私が選んだのは、600年の歴史を持つ堺 打刃物「佐助」

私が愛用している鋼の三徳包丁は、大阪・堺の「佐助」製。「鋏鍛治」と名乗っており、植木鋏や盆栽鋏などの鋏から包丁、小刀など幅広い刃物を作る老舗です。

大阪の堺市は、新潟県燕三条市や岐阜県関市などと並ぶ包丁の主だった産地で、いずれも「打刃物」という「鋼と鉄を打って鍛えて作り出す刃物」で発展してきました。

堺打刃物は600年以上の歴史があり、プロの料理人が使用する和包丁のシェアが圧倒的に高いと言われ、それだけの品質と信頼を維持している産地です。

大阪・堺の鋏鍛治「佐助」

鋼と鉄という事なる金属を合わせる事で、切れ味と耐久性が出るので、この「刃金付け」は打刃物において重要な行程。更に佐助では独自の焼き入れ法で刃の硬度を高めているそうです。

佐助は種類豊富な刃物を作っていますが、現在5代目が一人で製作をしています。伝統的な製法で火を使う工程もありますが、予約で見学も出来ます。私も間近で迫力の鍛造を拝見しました。

職人が作っているのを間近に見たらすっかり欲しくなり、手に馴染む一本を選んで名入れをしてもらいました。名前が入るとマイ包丁という感覚が強くなって、大事に長く使おうと思います。

手入れをしながら一生使える包丁が欲しいとなれば、研ぎやすくて耐久性のある鋼の包丁をまずは一本手に入れてみてください。

大阪・堺の鋏鍛治「佐助」の製作風景
名前の彫られたマイ包丁

鋼の包丁のお手入れ。サビないためのコツ

気になる錆びやすさについては、料理中も水分をこまめに拭き取りながら使うことで避けられます。ちなみにステンレスも金属なので、水に浸けたままにすれば錆は出るのでご注意を。調理中の板前さんを目の前で見る機会があると、こまめにふきんで包丁やまな板を拭き取っています。

清潔な調理は、美しい一皿を作る気がするので、自分も心がけています。拭き取りには私は「晒し」を使っていますが、薄手でかさばらず便利です。

包丁を晒でふき取る

ちょっと錆が出た場合は、市販の錆落としで表面を軽く磨けば大丈夫。
切れ味が落ちてきたら研ぐ必要がありますが、それはステンレスでも同じこと。

慣れてしまえば、扱いはさほど難しくないと思います。包丁に限らず、台所道具は使うことが一番のお手入れ。ポイントを押さえて使い、そして手入れをすることで自分の手にしっかり馴染んでいくと感じます。

<紹介したお店>
佐助
大阪府堺市堺区北清水町3-4-20
http://www.sasuke-smith.com/
※不定休のため、ご訪問の際は事前のご連絡がおすすめです。

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立

東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

Instagram

文・写真:細萱久美

*こちらは、2019年8月21日公開の記事を再編集して公開しました。

日本の食卓を支える、美濃焼のうつわができるまでを見学。中川政七商店のものづくり実況レポート

 

中川政七商店の人気アイテムのものづくり現場をスタッフが実際に訪ねる「さんち修学旅行」。今回はロングセラー商品「美濃焼のうつわ」と、新発売する「最適包丁」のものづくり現場にお邪魔しました。

前編は美濃焼のうつわです。東京本店店長の川島がレポートいたします!


岐阜県東濃地方で生産される「美濃焼」。陶磁器生産量が全国の60%以上を占めています。みなさんもきっとどこかでお世話になっているはず。

そんな美濃焼の窯元である作山窯さんが手がけるうつわは、色合いがとても素敵でお客様はもちろんのこと、社内でも好評なんです。

そんなうつわの工程や歴史が学べる貴重な時間!わくわくが止まらない中見学させていただきました。皆様にもその感動をお伝えします!


岐阜県土岐市。

周囲を山に囲まれた自然あふれる場所に作山窯はありました。




最初にご案内された部屋にはずらりと素敵なうつわが。



私たちは思わず各々、歩き回って見学。すっかり美濃焼に魅了されていると、三代目の髙井宣泰さんがいらっしゃいました。

お父様が営む山作陶器の横に築窯をされ、新しいことにどんどんチャレンジしていく髙井さん。中川政七商店が各地の焼き物産地とコラボして展開するうつわシリーズ「きほんの一式」で、美濃焼の一式を手がけていただいています。



美濃焼・作山窯さんの工房を見学

早速工場へ移動して見学へ。

焼き物といえば土は欠かせないもの。まずは土の空気を機械で抜いていきます。



作山窯では14種類の土があり、赤土や白土と土の色ごとに使う機械も変えているんだそうです。空気を抜く作業を2、3回機械に通して手作業で行なっていました。

その土を次は型に入れて形を作ります。



この型は石膏で作られているそうで、デザインをもとに型を作ってくださる会社が存在することもここで改めて気づきました。

そして先程空気を抜いた土をこの型に入れていきます。土の分量も感覚で手にとってるそうです。すごい!



ここからは加工。手作業で行われていました。

お店で扱っている飯椀の側面には、横にラインが何線もかかっています。



こうしたラインは、自然にできるものではなく、あえて風合いや艶感を出すために手で線をつけているとのこと。

うつわの雰囲気を出すためにわざわざひと手間を加えていることに感動しました。

そしてここから焼成の工程へ。まず行われるのが素焼きです。



高井さんによると、素焼きには大まかに3つの目的があるそうです。

・水分を蒸発して釉薬を吸収しやすくするため
・不純物が燃え焼きが安定する
・土が締まることで、本焼きの収縮が少なくなる

本焼きに行く前の大切な下準備でした。6時間くらい焼き、土の原料によって温度を変えてるそうです。

そしてここで100種を超えるという釉薬を使っていきます。うつわの表面の色は、この釉薬の化学反応で出るのです。

実際に私たちが行った時はグレーの液体にうつわを浸けていましたが、出来上がりは茶色になるとおっしゃっていて、また驚きました!




そしてこの後に本焼成が行われます。焼き方が違うため、3つの窯を使用。焼く位置によって色の濃さを作り出しています。

こうして美濃焼は出来上がります。

作り手の思いを知る貴重な時間

この後、最近オープンしたばかりという直営ショップへ。



より多くの方に作山窯のものづくりを知ってもらうために開いたそうです。

とっても素敵な空間で、集めたくなる、欲しくなるうつわがたくさん並んでいました。



最後に工房に戻り、髙井さんにお話を伺います。

そのお話の熱量!高井さんがどんな思いでうつわづくりに向き合っているかが、ひしひしと伝わってきました。



使用される方がどんな空間でどんなお料理を添えて楽しむうつわなのか。

そんな空間の中におさまるうつわを楽しんでいただくために自分が何を作りたいのか、そしてうつわをどう表現していくかを追及し、極める。工房で生み出されているうつわたちは、そうした高井さんの挑戦の賜物なのだと感じました。





いただいたお茶のお椀も一つ一つ違う風合い。お話を聞きながら密かに感動していました。

そして帰り道、焼き物を運ぶ車を何度も見かけました。焼き物が当たり前に生活の中に存在する風景はとても優しく、嬉しく感じました。

実は私も美濃焼の一式シリーズから、青織部の飯椀を使っています。



この色は使っていくうちにどんどん明るくなる経年変化を楽しめる釉薬を使っていて、こだわりの色を出すのが一番難しかったといううつわでした。

たくさん使って、経年変化を楽しみながらうつわと一緒に時間を過ごしていきたいと思いました。

また、お手入れ方法もお伺いしました!気になる方は是非お店へお越し下さい!


さて、午後からは包丁の見学に向かいます。

とても楽しく感動したシーンが多かった見学でした。新発売する包丁に乞うご期待です!後編もお楽しみに。

 


<掲載商品>

美濃焼の平皿
美濃焼の中鉢
美濃焼の飯碗
美濃焼の湯呑