リビセンを訪ねて、長野諏訪へ
これからの時代の家具選びを提案するお店が、長野にあります。
諏訪湖の南に位置するJR上諏訪駅から徒歩10分ほど。
土日ともなると、お店の駐車場には県外ナンバーの車も目立ちます。
お店の名前は「REBUILDING CENTER JAPAN」、通称リビセン。
「感覚では県外の方が6割以上。ご家族連れや、新婚のご夫婦で家具を買いに来られる方も多いですね」
お客さんの層は20代から40代がメイン。遠方からわざわざ買いに来るのは、「普通のお店では出会えないもの」がここにあるからです。
並ぶのは古材や古道具。これら全て、取り壊すお家や店舗からリビセンが「レスキュー (引き取り) 」してきたものです。
お話を伺ったのは古道具フロアの店長、金野 (こんの) さん。2016年9月の立上げ当初からリビセンに携わる、初期メンバーのお一人です。
建物内はまさに宝の山。うまく回るにはコツが要りそうです。
金野さんに各フロアをご案内いただく中で見えてきた、これからの家具の選び方とは。
春からの新生活を、これからバージョンアップしていきたいという人に、おすすめです。
東野夫妻がかかげた合言葉は「ReBuild New Culture」
行き場を失ってしまったものを引き取って再販するREBUILDING CENTERは、もともとアメリカのポートランド発祥。
空間デザインユニット「medicala」の東野唯史(あずの・ただふみ)さん、華南子 (かなこ) さんご夫妻が、旅先でその取り組みに感銘を受け、現地法人に掛け合って立ち上げたのが、REBUILDING CENTER JAPANです。
「今あるもので、必要なものを自分で生み出せる。その楽しさ、たくましさを、日本にも広めたい」
そんなリビセンの目指すものがよくわかるのが、1Fのカフェ。古材や古道具売り場に行く前に、ちょっと覗いてみましょう。
古材に興味がなくても遊びに来られる場所に。カフェ「live in sence」
「カフェはリビセンをやるときに、代表の東野さんが絶対やりたいと話していた場所です。
私たちはただ古材を売りたいじゃなくて、古いものも手をかけて長く使うという文化を伝えていきたい。
古材だけだとDIYや建築好きの方が集まる場所になっていたかもしれませんが、カフェがあることで、いろんな層の方が来てくれています」
実際に、カップルから親子連れやおじいちゃん、おばあちゃんなど、取材中も幅広い年代の方がカフェでひと休みしていました。
そしてカフェの窓からは、屋外の古材売り場がよく見えます。この間取りが、お店をこの場所に決めた一番の理由だったそう。
もう一つカフェのいいところは、訪れた人が自然と古材の「活用例」に触れられること。テーブルも椅子も、そのほとんどがレスキューして来た古材を再利用して整えてあります。
「例えば古材売り場で使い方の相談を受けたらカフェに連れて来て、その板が実際に使われている様子を見せてあげられる。想像しやすくていいですよね」
古材や古道具が売られているすぐ近くで、使い方の提案がある。建物全体がショールームのようです。
「古材をもっと世の中に広げていきたいので、人が真似したくなるような空間を常に心がけています」
古材を使ってできることを自分たちで考え、作り上げた家具や空間。誰もプロらしいプロはいないそう。
「つまり私たちが作ったものは、素人の方でも真似すれば作れるということ。声をかけてもらったら、作り方もお伝えします」
ではいよいよ、そんな空間づくりに役立つアイテムを探していきましょう!まずは古道具フロアへ。
何に出会えるかわからない、古道具フロア
2・3Fは古道具を扱うフロア。食器から照明、タンスやガラス板、ちょっと変わった雑貨まで、所狭しと並んでいます。
「仕入れはレスキュー次第なので、何が来るのかわからない。だから売り場は常に変化しています。
一番人気は食器ですね。
使い方がわかっていて、生活に一番使うもので、買いやすい」
「一方でタンスのような、空間との相性を考える必要があるものは、表面をやすったりして、今の生活の中で使ってもらえるように提案しています」
リビルディングセンターの店頭には、ふたつの基準をクリアしたものだけが並んでいます。
・自分たちが次の世代に残したいと思えるものかどうか
・自分たちが使い方や活用方法を提案できるものかどうか
「プラスチック製のものや、家具だと合板や集成材を使ったものは引き取りできない可能性が高いです。
加えて最近では売れるかどうか、つまりちゃんと使ってもらえそうかを見ます」
「ここにずっと残ってしまうと意味がないですからね」
リビセンの理念は「ReBuild New Culture」。
日本語では「次の世代に繋いでいきたいモノと文化をすくい上げ、再構築し、楽しくたくましく生きていけるこれからの景色をデザインする」こと、と定義しています。
売り場には、古材をただ買い取って販売して終わり、ではなく、買った瞬間からお客さんも「楽しくたくましく」なれるような、こんな仕掛けが用意されています。
楽しくたくましく、買い物もDIY
「例えば買ったものを自分の車に運ぶのも、基本はご自身でお願いしています。
手伝いはしますけど、全部こっちがやりますというスタンスではなく、楽しくたくましく、自分でできることは自分でやろうという考え方ですね」
最後に、この空間を生み出す原点、古材の売り場を覗いてみましょう。
1F古材売り場へ。一番人気は床板
「よく売れるのが床板。畳の下なんかに使われている材ですね」
「さっきも若い女性が、最近古民家に引っ越されたそうで床板をたくさん買って行かれました」
どんな使い方ができるんでしょうか。
「床板にしてもらったり、壁に貼ったり。うちではぶ厚いものをテーブルに使ったりもしています」
「きっと50年後の家と今ある家とで、レスキューできるものはだいぶ違うと思います。
昔は機械が無いので、大工さんが道具で材を切り出している。そういう道具の跡が残っています」
「こういう材は現代の家からは出てきません。
今、ギリギリ救えているようなこういう材は、積極的に引き取っていきたいですね」
一方で、古材特有の使いづらさは極力解消して、次の使い手に橋渡しをする工夫も。
「幅や厚みを揃えて、フローリング材セットとして販売したり。DIY初心者の人でも使ってもらいやすいような提案は大事ですね」
「お客さんのところに渡って初めてレスキューですからね」
金野さんがそう語気を強めるのには理由がありました。
ものの記憶を残す
次に金野さんが見せてくれたのは先ほどカフェのテーブルに使われていた、ユニークなかたちの板。
実は、養蚕に使われていたお蚕棚の板だそうです。
「このあたりは養蚕が盛んだったので、蔵の2階に行くと眠っていることが多いです。地域の特色があって、面白いですよね」
レスキューは1時間圏内であれば無料。依頼は自然と長野・山梨エリアが多くなるそうです。
遠方の場合は出張費がかかりますが、引き取れる材はリビセンが買い取るので、それで出張費をまかなえたり、場合によっては依頼主の方にプラスでお支払いできることも。
レスキューを依頼する理由も、人それぞれあるようです。
お店の廃業や古くなった家の取り壊しのほか、意外と多いのが、家の代替わりによる依頼。
「例えば大工さんだったおじいちゃんが残していた良質な材木を、お子さんやお孫さんの代に『宝の持ち腐れになってしまうから』と引き取り依頼が来るケースも、結構多いです」
レスキューの数だけある、ものの記憶。
そうした背景まるごと次の使い手に伝えられるように、リビセンではひとつの工夫をしています。
それがこの「レスキューナンバー」。
「これはリビセンがレスキューを始めてから281件目に引き取ったもの。
全てどんな場所のどなたから、どんな風に引き取ったかを記録していて、照会があればお伝えできるようにしています」
「例えばこれは公民館から引き取った板とか、築150年のお家で使われていた椅子とか。
そういう背景がわかると、また愛着がわくと思うんですよね。
ほかの古道具屋さんとの違いがあるとすると、引き取りに伺った先一軒一軒の背景を全部きちんと話せるのが、リビセンのいいところかなと思っています」
次の使い手の人も、いつか自分の子どもや友人に「これって元々はね」と話す日が来るかもしれません。
レスキューナンバーには、そんな「ものの記憶」まで次世代に残そうとするリビセンの意志を感じます。
食べる、買う、作る、の先に。
取り組みが認知されるとともに依頼件数も増え、今ではほぼ毎日、多い時では1日に2件のレスキューに行くこともあるそう。
そんな忙しいリビセンの運営を助けてくれるのが「サポーターズ」の存在です。
「リビセンの活動内容に興味があるという人に、一緒に製材や売り場づくりなどのサポートをお願いしています」
無給の代わりにまかないや宿泊受け入れもあり、ちょうどお客さんとスタッフの中間的存在。
北は北海道から南は沖縄まで、登録者数は700人にのぼるそうです。
「立ち上げの時も、スタッフは5人だけでしたが、のべ500人の方に関わっていただきました。
スタッフだけじゃなく、いろんな方の力があってお店ができているなと感じます」
古材を眺めながら、カフェで名物のカレーランチ。ついでに2Fでちょっと古道具を買ってみる。次は古材で家具を作ってみる。さらに興味が出たらリビセンのお手伝いに参加する。
何度来ても違う楽しみ方のできるリビセンは、古材や古道具の「かたちを変えて長く付き合える」価値観を建物まるごと表しているようです。
家具探しやDIYデビューに、これ以上うってつけの場所はないかもしれません。
<取材協力>
REBUILDING CENTER JAPAN
長野県諏訪市小和田3-8
0266-78-8967
https://rebuildingcenter.jp
文・写真:尾島可奈子
*こちらは、2019年5月1日の記事を再編集して公開いたしました。
合わせて読みたい
〈 旅先で出会う、一生ものの暮らしの道具 〉
その土地の色を感じられるお店で、一生ものの道具に出会う。そんな体験が待っている、全国の魅力的なお店をご紹介します。
日本最前線のクラフトショップは、日本最南端にあった
もともと東京で、ショップやものづくりのディレクションに関わっていた村上純司さん。
沖縄に移住したとは聞いていたものの、〈LIQUID(リキッド)〉という少し変わった、「飲む」という行為に焦点を当てた専門店を始めたというお知らせが、編集部に届きました。
→続きを読む
一生ものの日用品を探すなら富山へ。「現代の荒物」が揃う〈大菅商店〉は必訪です
今回訪れたのは富山県高岡市にある「大菅商店」。“現代の荒物(あらもの)屋”をコンセプトに、2016年4月にオープンしたお店です。
日本三大仏の一つ、高岡大仏から歩いてすぐ。目印の白いのれんが見えてきました。
→続きを読む
世界で有田にしかない。仕掛け人に聞く「贅沢な日用品店」bowlができるまで
お店の核になっているのは有田焼。しかしその姿は各地から仕入れてきた暮らしの道具と一緒になって、お店の中に溶け込んでいます。
そこにお店づくりの秘策が伏せられているようです。
→続きを読む
遠足の前日のような楽しさを毎日に。飛騨高山の道具店「やわい屋」
「高山に行くなら、すごく素敵なお店があるから行ってごらん」
そう人から聞いてワクワクしながら訪ねたお店は、目の前に田畑の広がる、最寄りの駅からもかなり離れた場所にポツンとありました。
→続きを読む