間取りを選ばない“変形畳”が、フローリングに和室をつくる

日本では1年365日、毎日がいろいろな記念日として制定されています。国民の祝日や伝統的な年中行事、はたまた、お誕生日や結婚記念日などのパーソナルな記念日まで。数多あるなかで、ここでは「もの」につながる記念日を紹介しています。

さて、きょうは何の日?

9月24日は「畳の日」です

「環境衛生週間」の始まりの日であり「清掃の日」であった9月24日。畳替えのタイミングと考えられるこの日を「畳の日」として、全国畳産業振興会が制定しました。住宅材・敷物としての畳の利点をPRする日となっています。

フローリングにも敷ける?新しい畳

生活スタイルの変化に伴い、和室のある家は少なくなりました。い草の香りやゴロゴロと横たわった時の心地よい畳の感触、たまに恋しくなります。

「新たに和室を作るのは難しいけれど、畳のある暮らしを取り入れたい」

そんな願いを叶えてくれるちょっと変わった畳に出会いました。部屋の形やサイズに制限なく、まるでパズルのように自由自在に敷ける変形畳「XT (エクスティー) 」です。

ゲストハウス晴
XTが使われているゲストハウス「晴」の一室。変形畳はモダンなコンクリート壁ともなじんでいます。海外旅行客からの問い合わせも多い、一番人気の部屋なのだそう
フローリングの上に部分的に敷くことも
希望の面積、形に合わせて自由自在に敷けます。フローリングの上に部分的に敷くこともできるので、マンション暮らしでも和室スペースが作れるのです
XT畳
畳1枚あたりのサイズが小さいので、1人で運ぶことも可能。ちょっと片付けておきたい時や、たまの陰干しの際にも気軽に移動できます

通常の畳は長方形。畳ができた奈良時代から1300年の間、ほぼ同じ形のままです。い草や藁などの天然素材が使われている畳の特性上、形を変えることは難しいと言われていました。

この難しさを克服し、新しい畳を生み出したのが、宮城県石巻市の「草新舎」。

宮城県石巻市にある草新舎

この変形畳はどのようにして生まれたのでしょうか。3代目の高橋寿さんにお話を伺いました。

国宝、重要文化財の神社仏閣や旅館の経験が生んだ技

「これまで、特注畳の依頼を数多く経験してきました。例えばお寺では、畳の部屋に大きな丸い柱が立っていたり、曲がり角のある廊下にまで畳が敷き詰められていることがあります。

畳は並べた時に隙間ができてしまったら失敗です。時にはミリ単位の調整をします。美しく敷き詰めるためには、正確な採寸技術や割付技術が求められました。加えて、一般的な形の畳だけでは敷き詰められないので、形を変える必要に迫られることがしばしばありました」

多くの日本家屋での施工を行ってきたそう
草新舎の手がけてきた畳は多岐にわたり、国宝、重要文化財の神社仏閣や旅館では、特殊な形を求められることも多かったそう

「い草を編んで作る畳表は、縦横を直角に折り込むことはできますが、斜めに折ろうとすると毛羽立ってしまったり、傷めてしまうことになります。求められる形が作れるよう素材の研究や加工技術を磨いているうちに、角度のついたもの、縁のないものなど自由なデザインの畳が作れるようになっていました」

空間の形に合わせて敷きつけ方を設計する技術もさることながら、畳づくりそのものに職人の高い技術が必要でした
空間の形に合わせて敷きつめ方を設計する技術もさることながら、畳づくりそのものに職人の高い技術が必要でした。中には、特許を取得している技術も

光の角度によって変わる陰影美

こうして生まれた変形畳。敷いてみると、もう1つ魅力が見つかります。それは、陰影の美しさ。

この畳はすべて同じ素材、降り方で作られたものですが、ものによって色が違って見えます
この畳はすべて同じ素材、織り方で作られたものですが、ものによって色が違って見えます

「光が反射する角度によって畳の濃淡が変わることに気づきました。色彩すら感じます。畳を回転させて使うことで、変化をつけることができました」

太陽の光が入る空間では、時の移ろいとともに畳も表情を変えていくのだそう。

弾力性、調湿性。天然素材で作ることの魅力

人工素材を使った畳風床材には様々な形のものがすでにあったといいます。それでも高橋さんはあえて天然素材を使うことに挑戦し続けてきました。

「歴史を紐解くと、畳文化がはじまった奈良時代の畳は寝具として使われていたそうです。私にとっては、寝心地の良さが畳の条件です。

草の香りに包まれる心地良さは、今でも体に染み付いています。それが天然素材の畳にこだわる大きな理由にもなっています」

心地よい空間を作る畳

「機能面でも天然素材ならではの魅力があります。

弾力のある稲藁を畳の中身に使うことで、座布団いらずの座り心地が生まれ、歩くショックを吸収することから足腰への負担を減らすとも言われます。もちろん、寝心地も抜群です。

また、わら畳床は湿気を吸収する性質があります。部屋の湿度を調整してくれるので、さらりとした肌触りと心地よい空間を作ってくれるのです。室内から吸収した湿気は、日中の乾燥と通気によって、自然に放湿され、その機能は継続的に発揮されます」

知らず識らずのうちに感じていた畳の心地よさは、藁やい草の性質によるものだったのですね。

世界からも注目される、サステナブルな床材

国内外問わず法人、個人いずれの相談も受け付ける草新舎の変形畳は、様々な場所で注目されています。

「国内では、一般住宅のほか、ホテルやジムなどでもXTシリーズの畳を使っていただいています。

フランスには『タタミゼ (タタミーゼとも) 』という日本のことが好きな方々を指す言葉もありましたが、このXTを発表してから、ヨーロッパやアメリカ、ドバイ、インドなどから問い合わせが来るようになりました。

機能性とデザインを兼ね備えた畳が求められているのを感じています。天然素材で環境に負担のないサステナブルなものであることも魅力の1つのようです。

昔ながらの和室でなくとも、畳の心地よさを味わっていただけたらこれほど嬉しいことはありません。現代の暮らしに合った畳をこれからも提案していけたらと思います」

高橋さんお話を伺い、変形畳に触れてみて、その魅力を実感しました。新しい畳の登場によって、和室の可能性が広がっています。

<取材協力>

株式会社 草新舎

宮城県石巻市桃生町神取字屋敷69番地

0120-07-3060

http://soushinsha.co.jp/



ゲストハウス 晴

東京都台東区西浅草2-27-10 豚八ビル3F

http://hostel-haru.com/

文・写真:小俣荘子

画像提供:草新舎・ゲストハウス 晴

機械ではつくれない?超高純度の鋼「玉鋼」の製法とは

舞台化やアニメ化もされた大人気オンラインゲーム『刀剣乱舞』の影響もあってか、日本の名刀の名前を知る人も増えていると言います。

かつての戦いの道具でありながら、刃物の機能性と美しさを併せ持つ日本刀。現在も美術品として作り続けられています。

日本刀

今日は、日本刀に欠かせない原料「玉鋼 (たまはがね) 」をめぐる、熱き話をお届けします。

(※関連記事)
天才刀匠を衝き動かす探求心と反骨心〜日本職人巡歴〜

原料が作れない!日本刀を襲った危機

今でこそ重要無形文化財として保護され、受け継がれる日本刀とその制作技術ですが、戦後、存続の危機に陥ったことがありました。

日本刀を作るには「玉鋼 (たまはがね) 」という純度の高い鋼が必要不可欠です。玉鋼は日本古来の「たたら製鉄」の技術でのみ製造できるもの。

この技術は、古墳時代以降、1000年以の年月をかけて研究され江戸時代に「近世たたら」として完成されたと言われています。

明治期以降、近代工業化が進む中で大量生産の技術に押され、大正期にあえなく途絶えます。その後、戦時中に軍刀を造るために復活しますが、終戦時には完全に廃業。蓄えていた玉鋼も底をついてしまったのです。

新しい科学技術で代替原料を作ろうと、当時の通産省や大手企業が取り組みますが、同等の品質をもつ原料は生み出せませんでした。

たたらに再び炎をともす

そこで立ち上がったのが、公益財団法人 日本美術刀剣保存協会 (日刀保) 。

日立金属株式会社の技術協力を得て、戦時中に操業した「靖国たたら」の地下構造を利用して、1972年、島根県奥出雲町大呂 (おおろ) で「日刀保たたら」の名でたたら操業を復活させる取り組みが始まりました。

たたら場の入り口。しめ縄がされ、奥には製鉄の神様「金屋子神 (かなやごかみ) 」さまが祀られている
たたら場の入り口。しめ縄がされ、奥には製鉄の神様「金屋子神 (かなやごかみ) 」さまが祀られている

「たたら場」と聞くと、映画「もののけ姫」を思い出す方も多いのではないでしょうか。実際のたたら場も、映画のシーンと同じく炎の燃え盛る炉を前にして直接砂鉄を加えたり、ハードな環境で精錬状況を判断しながら人の力で操業します。

設備だけでなく、炎や原料の反応をコントロールする技術なくして、たたらは操業できません。

ここで大きな役割を担ったのが、松江藩の鉄師を勤めた卜蔵家で働き、戦時中は靖国たたらで技師長である「村下 (むらげ) 」を勤めた名匠、故・安部由蔵 (あべ・よしぞう) さんと、故・久村歓治 (くむら・かんじ) さん。

それまでは一子相伝で伝えられてきた村下の秘技を、日刀保たたら復活のために惜しみなく提供しました。そして1977年、遂に日刀保たたらでの操業を成功させ、玉鋼を生み出すことに成功します。

この時すでに70代半ばであった安部村下。その後も90歳までたたら場で先頭に立ち、玉鋼作りと次世代の村下養成に尽力されました。

「日刀保たたら」を訪ねて奥出雲へ!

復活と同時に、文化財保護法の選定保存技術にも選定された、たたら製鉄。現在も、刀匠に玉鋼を安定供給すると同時に、玉鋼の製造と伝統技術の伝承、技術者の養成を日刀保たたらが担っています。

現在は、先代の技術と思いを受け継いだ木原明 (きはら・あきら) 村下、渡部勝彦 (わたなべ・かつひこ) 村下の2名と、全国から選ばれた村下養成員12名が技術を支えています。

これはぜひお話を伺いたい!と、奥出雲の日刀保たたらを訪れ、村下の木原さんにお話を伺ってまいりました。

1976年から日刀保たたらの操業に携わり、1986年、国の選定保存技術者に認定され村下となった木原さん。41年間たたら場に立ち続け、現在も先頭で操業を取り仕切り、技術者の養成も担っています
1976年から日刀保たたらの操業に携わり、1986年、国の選定保存技術者に認定され村下となった木原さん。41年間たたら場に立ち続け、現在も先頭で操業を取り仕切り、技術者の養成も担っています

『折れず、曲がらず、よく切れる』。日本刀は「玉鋼」でなければ作れない?

灼熱の炎が燃え盛る高温の部屋の中で、三日三晩不眠不休で続けるたたら操業。

土でできた炉も化学反応を起こす材料であり、最後は壊して中身を取り出すため、たたら操業は一度始めると途中で止めたり、やり直したりができません。肉体的な疲労はもちろんのこと、全身の神経を集中させて炎や原料の状態を的確に判断し、対応し続ける精神力を保つことは相当過酷なこと。想像するだけでもクラクラとして倒れそうです。

科学技術が発達した今なお、この方法でしか玉鋼を作ることはできないといいます。現代の技術をしのぐ精錬技術、そして玉鋼の品質とはどんなものなのでしょうか。過去の検証データを拝見しながら、木原さんに直接教えていただきました。

——— 日本刀は玉鋼でなければ作れないと伺いました。玉鋼と他の素材の違い、優れている点について教えてください。

「日本刀は『折れず、曲がらず、よく切れる』ことが求められます。この強靭な刀身を作るには、鋼に含まれる成分のバランスが重要です。多すぎても、少なすぎてもいけません。

たとえば、高級な茶の湯の釜などに使われる和銑 (わずく) は、4パーセントほどの炭素含有量。低い温度で溶けるので鋳造に向いています。一方で、玉鋼の炭素含有量は1.2パーセント前後。

これは、高温で鍛錬 (たんれん。叩いて伸ばしては折り曲げて重ね合わせ、叩いて1枚にするを繰り返して金属を打ち鍛える工程) して炭素量を減少させながら作りあげる日本刀に適しています。日本刀は、熱した玉鋼の両面を交互に15回ほど鍛錬し、3万ほどの層が重なりあった状態に仕上げていきます。

繰り返し鍛錬すると次第に炭素量が下っていき、仕上がり時は0.7パーセント前後の炭素量となっています。データを取る技術のなかった過去の時代の日本刀を分析しても近い数値が現れます。長年認められ続けているベストな状態ということですね。

この炭素量に整うと、先ほどの『折れず、曲がらず、よく切れる』を備えた刀身となっています。また、地肌の文様などの美しさにおいても優れた状態となります」

——— 成分のバランスのコントロール。素人考えなのですが、現代の技術で機械化して作れないものなのでしょうか?

「実は、これまでに先端技術を取り入れようと様々な実験が行われましたが、実現されていません。特殊鋼の研究をしている日立金属では、以前『新玉鋼』というものを開発しました。成分量が玉鋼と同じになるように調整されたものです。

これを使って日本刀を作ってみましたが、残念ながら鍛錬に耐えることができず途中で折れてしまったり、炭素量が足りず脆い仕上がりとなってしまいました。

たたら製鉄の玉鋼は半溶融 (はんようゆ) という、炭素が均一に溶けきっていない状態になっています。炭素の量が不均一であることが、鍛錬に耐えて美しく仕上がる理由であると現代の研究でわかっています。機械では、この絶妙なムラのある状態を作ることができません」

一度の操業でできる鉧 (けら。粗鋼の塊) の中に3分の2程度含まれる玉鋼
一度の操業でできる鉧 (けら。粗鋼の塊) の中に3分の2程度含まれる玉鋼

純度を高めながら精錬される「玉鋼」

「また、一般的な製鉄とたたらとでは精錬方法が違うために、鋼の純度が異なり品質に影響しています。

たたらでは、砂鉄と木炭を使って低い温度でゆっくりと時間をかけて砂鉄を還元して鉄を作ります。その間に不純物が溶けて出ていくので自ずと純度が高くなるのです」

炉の中から不純物の塊「鉄滓」を掻き出しているところ
炉の中でできた不純物の塊を掻き出しているところ

「一方、現代の溶鉱炉では、鉄鉱石とコークス (石炭の炭素部分だけを残した燃料) を使って高温で一気に鉄を作ります。

鉄鉱石や石炭には、鉄を弱くする不純物が多く含まれているので、出来上がった鉄を再精錬する必要があります。最終的に仕上がった素材同士を比較しても、玉鋼のほうが純度が高いという結果が出ています。

機械で作る場合に対して、一度に作れる玉鋼の量はかなり少なく手間もかかります。それでも、日本刀には玉鋼のほうが適しているんです」

——— 「低温でじっくりと純度を高めながら作る玉鋼の製法」と、「高温で一気に作り、あとから不純物を取り除く現代の製鉄」という違いがあるのですね。

「生き物」を育てるように。玉鋼はこうして生まれる

——— VTRでたたら操業の様子を拝見したのですが、生き物を扱うような向き合い方をされているように感じました。手間がかかるというお話もありましたが、機械では作れない玉鋼づくりの様子、もう少し詳しく教えていただけますか。

「たたらの操業は湿度の低い冬の間ですが、それ以外の季節に原料を吟味します。自分たちで責任を持って準備をして操業を迎えます。

『一土、二風、三村下』という、土と風の重要性をといた言葉があります。炉づくりと釜土の選定がたたらの成否を握っていると言われます。

炉の土には、砂鉄と反応して不純物の塊を作り外に出す、そうして溶けてでき空間に鋼を生長させていく、という重要な役割があります。そして火力を上げて温度を高めるための送風も重要です。

熱くなった木炭の入った炉に、上から砂鉄を投入して反応させていき、炉の底に精錬された鉄の塊である鉧 (けら。玉鋼を含む鋼の塊) を生み出します。

量やタイミング、入れる位置までも見極めながら砂鉄を投入する木原村下
量やタイミング、入れる位置までも見極めながら砂鉄を投入する木原村下

砂鉄の約3分の2ほどを鉧にして、あとの約3分の1は砂鉄のまま下に落として釜土と反応させる。このバランスを取らないと鉧は生長していきません。1時間に数ミリずつ炉壁を侵食しながら広がる鉧は、最終的に幅1.2メートルほどまでになります。

生き物を育てるように、少しずつ炉壁を侵食しながら形が変わるものを作り上げて行くところにたたらの難しさがあります」

砂鉄の声、『しじれる』音に耳をすます

——— 鉧を育てるために、炭や砂鉄を投入したり、風を送ったり。そのタイミングや量は、どんなところを見て判断されているのでしょう。

「まずは、変化する炎の色を見ています。外から見える色だけでなく、ホドと呼ばれる空気を送り込む穴が炉の両側に40本ついています。このホドそれぞれが別の溶鉱炉と思い覗き込み、細かく状態を確認します」

——— 穴から炎を間近に覗き込む‥‥。とても熱そうです。

「もちろんすごく熱いですよ (笑) でも、しっかり確認して状態を把握しないと良い玉鋼は作れません。

また、ホドから鉄の棒を入れて鉧に触れて感触から大きさや状態を確かめたり、炉内に入る風の音、砂鉄の音に耳をすませます。砂鉄の反応する音を『しじれる』と私たちは呼びます。ジジジという音の状態も判断材料です。

炉内の場所によって状態も異なるので各所で起こっている複雑な製鋼反応を把握し、各所に必要な送風や砂鉄の量などを判断します。全身で集中して、感覚を研ぎ澄ませて向き合っています」

窯崩し
最後は釜を崩し、鉧を取り出します
出来上がった巨大な鉧を引き出します
出来上がった巨大な鉧を引き出します

「誠実は美鋼を生む」村下に必要な精神性

——— 全身の感覚を研ぎ澄まして、繊細な変化に注意を払い対応する。人間の細やかさが必要なのですね。三日三晩を通して作業を続け、集中し続けるのは並大抵のことではないと思います。

「五感を働かせるための集中力が重要です。私たちにこの技術を継承してくださった、安部村下には『最後は根性でやりきれ』と教わりました」

——— まさに、根性!ですね。たたら操業に携わり始めた頃、それまでのお仕事とは異なる世界に戸惑いやギャップは感じなかったのでしょうか。

「とにかく当時は、たたらを復活させるんだ!という使命感に燃えていました。期待に答えたいという気持ちもありました。だから苦しいとか辛いとか、ギャップを感じる事はなかったですね。

そして何より、先代の村下である、安部さんの存在が大きかった。その頃すでに75歳だった安部村下が、三昼夜通して一睡もせずやり遂げる姿に圧倒されました。

安部村下はハードな操業の真っ最中ですら、素人同然の私たちの質問に答え、丁寧に技術を伝えてくださいました。ご自分が教えられるうちに一刻も早く後継者を養成しようという思いがひしひしと伝わってきました。

後継者を育てる立場になった今、安部村下から教わったことを忠実に伝えていけるよう受け継いだものを操業に生かし、次の世代に届けていくことが私たちの使命だと思っています」

自分に厳しく、心身を鍛えねばと、毎朝上半身裸で走り、バーベルを上げ、たたらの神様である「金屋子神 (かなやごかみ) 」さまにお参りをしたという木原さん。取材時には、時間をかけて丁寧に質問に答えてくださり、その実直で誠実なお人柄が伺えました。

現在も、朝夕のお参りは欠かさない木原さん
現在も、朝夕のお参りは欠かさない木原さん

「『誠実は美鋼を生む』という言葉があるのですが、私はこの言葉がとても好きです。誠実さあってこその美しい鋼。たたら操業で玉鋼と向き合うときも、上司や仲間との関係性においても大切にしたいことです」

1000年を超える歳月をかけて研究され、受け継がれてきた日本のたたら技術。今も出雲の地で、熱い想いとともに現役の技術として生き続けています。

<取材協力>
公益財団法人 日本美術刀剣保存協会

文・写真:小俣荘子
(たたら操業写真提供:公益財団法人 日本美術刀剣保存協会)

※こちらは、2017年10月29日の記事を再編集して公開しました

まさに「工芸のエントランス」京都のものづくりを身近に感じるカフェ

京都駅と中心地の間に位置する、七条河原町。ここに、京都の工芸品と気負いなく出会えるカフェがあります。

カフェの名前は、Kaikado Café。日本で最も歴史ある茶筒の老舗、明治8年創業の開化堂が運営しています。

Kaikado Café外観
バス停「七条河原町」を降りてすぐ。目を引くレトロな建物がKaikado Caféです (撮影:Kunihiro Fukumori)
Kaikado Café外観
市電の架線事務所兼車庫として使われていた築90年の建物を大胆にリノベーション。約40年間シャッターが閉じられていた場所が、明るく開放的な空間に生まれ変わりました
カフェの入り口

工芸をもっと身近に

カフェを立ち上げたのは開化堂6代目の八木隆裕さん。かねてから「若い人が伝統の技や道具に触れる機会や場所を作りたい」という思いがあったのだそう。そこにコーヒー界のカリスマである中川ワニさんと京都の職人でコーヒー道具を作ろうという取り組みや、先代が喫茶店をやりたいと話していたことなどが重なり、2016年にカフェオープンという形で思いが現実のものに。

店内では、八木さんも所属する京都の工芸の若き後継者たちのプロジェクトユニット「GO ON (ゴオン) 」のメンバーが作ったものが多数使われています。遠い存在に感じてしまいそうな老舗の工芸品を、身近なものとして使えるのは嬉しいですね。

カフェの様子
歴史ある宇治の窯元「朝日焼」のカップ、京都の老舗割烹料理店や旅館に長年愛される「中川木工芸」のプレート、海外からも注目を集める「公長齋小菅」の竹製カトラリーなど、京都の工芸品やその技術が使われたものでお茶の時間が楽しめます
荷物かごは、公長齋小菅の竹かご
こちらは荷物かご。丈夫で使いやすい公長齋小菅の竹かごが使われています
茶筒をはじめ、店内で使われているカップやカトラリー、コーヒーや茶葉などが購入できるのも嬉しいところ
茶筒をはじめ、カップやカトラリー、コーヒーや茶葉なども店内で購入もできます

インテリアは、「GO ON」と親交のあるデンマークのデザインオフィスOeOが手がけました。

コンクリートの壁や鉄の窓枠など元のままの意匠と、開化堂で製作したランプシェードや茶筒と同じ銅板を用いたカウンターの前板、無垢のテーブルやベンチといった新しいデザインが見事に融合。高い天井と大きな窓が光を取り込む心地よい空間となっています。

Kaikado Café
Kaikado Café
店内には、時が経つにつれて色合いが変化する開化堂の茶筒や、工芸の技術を生かして作られた道具が並んでいます
目を引くランプシェードは、開化堂の職人さんが茶筒作りの技術を生かして作ったオリジナル
目を引くランプシェードは、開化堂の職人さんが茶筒作りの技術を生かして作ったオリジナル
西陣織の老舗「細尾」のカーテン
大きな窓にかかるのは、西陣織の老舗「細尾」のカーテン
美しい織から柔らかい光が差し込みます
繊細な織の間から柔らかい光が差し込んでいました

せっかくなので、工芸の技術が生かされた器や道具を詳しく見せていただきました。

使い心地を考え抜く

朝日焼のカップ&ソーサー
「朝日焼」が作ったカップ&ソーサー。朝日焼の持ち味である透き通るような青磁と、紅茶の色が映える白磁が目を楽しませてくれます

カップ&ソーサーを手がけたのは400年の歴史をもつ宇治の「朝日焼」。千利休が茶の湯を大成した時代に活躍した茶人、小堀遠州から「朝日」の字を与えられた由緒ある窯元です。

朝日焼の茶盌 (ちゃわん) の特徴は美しい真円にあるといいます。しかしこのカップの飲み口は横に広がる楕円形。

朝日焼のコーヒーカップ
わずかに横に広がる楕円形の飲み口

茶盌より径の小さいコーヒーカップやティーカップの口あたりの良さを追求した結果、この形が生まれました。熱い飲み物が入っていても持ちやすいように取っ手も工夫されたデザインになっています。

朝日焼のコーヒーカップ

「作り手だけでなく使い手の視点をしっかりと取り入れるものづくりを進めました。使い手を考えた中川ワニさんの視点から、『楕円にする』というアイデアが生まれました。

美しい真円を歪めるなんてもったいない気もしますけれど、それで飲みやすくなるなら、と朝日焼さんが引き受けてくださったんです。真円とはまた異なる美しさのあるものができあがりました」と、店長の川口清高さんが制作秘話を教えてくださいました。

世にある道具より良いものを

京金網でできたコーヒードリッパーも道具としての機能が追求されています。

京金網で作ったコーヒードリッパー
使い勝手良く美しい京金網の作り手として定評のある「金網つじ」が作るコーヒードリッパー

「コーヒードリッパーは、表面の凹凸でペーパーとの密着性をコントロールしたり、穴の径でコーヒーの落ちる速度を変えたりしています。金網の編み方や大きさでコーヒーの味が大きく変わります。中川ワニさんに実際に使っていただきながら、辻さんに何度も試作していただきました。

編み方を上と下で変えることで、水の落ちるスピードが変わるようになっています。また、網の周りを包んだ方が味や香りがよくなるということがわかったので、辻さんの提案で銅製カバーをつけることになりました。

工芸の技術を使いながら、既存のものに形を似せるのはそれほど難しいことではないようです。でもそれだけでは不十分ですよね。機能が同じかそれ以上でなければ、単に形を真似ただけになってしまいます。道具としての本質的な価値を考えるようにしています」

網目の形に試行錯誤したそう
上下で異なる網目が美味しさの鍵!

「いま世にあるものより良い道具を」と考え抜かれたものづくり。工芸を受け継ぐ職人さんたちの矜持を感じました。

5年がかりでやっとできあがったこのコーヒードリッパーは、今や金網つじの人気商品となっているのだそう。

なお、家庭用サイズは完成し、カフェで販売もしていますが、業務用サイズの開発はカフェオープンから2年経った今も続いているのだとか。

使う動きから逆算してできた、「完璧すぎる」道具

道具としての機能を追求する職人さんのものづくり。中川ワニさんが驚いたこともあったのだそう。

「中川さん用のコーヒーポットを作ったことがありました。参考となるものが中川さんから届いたのですが、それだけでは作り方が定まらなかったんです。それで、実際に中川さんがコーヒーを淹れる姿を職人さんに見てもらいました。

ポットを使うときに指をかける場所や注ぐ角度を観察した後に出来上がったポットは、『ブレがなくて完璧すぎる』と中川さんを驚かせていました」

鍛金工房 WESTSIDE33と作ったコーヒーのポット
こちらが中川ワニさんのために特別に作られたコーヒーポット。制作は「鍛金工房WESTSIDE33」。注ぎ口の角度や指をかけられる柄の形がポイントです

コーヒーの淹れ方も日々修行

Kaikado Caféが淹れるコーヒーは、中川ワニさん直伝。カフェスタッフのみなさんは職人さんのように日々淹れ方の修行を積んでいるのだとか。

「ここでの淹れ方は、お湯の温度や時間を測ることをしません。日によって気温も湿度も違いますし、豆も日々変化しています。コーヒーの表面に現れる泡の状態を観察しながら、豆の様子を察知して淹れます。

コーヒーにお湯を注ぐといろんな表情を見せます。泡を見て注ぐ量を考えて、豆にお湯をなじませながらドリップしていく。味を重ねていくようなイメージです。一本調子に入れると単調な味になってしまいます。

コーヒーと向き合うというか感覚的なこともありますが、口に入れるものも開化堂らしく、職人のように体に染み込ませた技術で提供していけたらと思います。美味しいと喜んでいただきたいですからね」

店内で扱われている器や道具だけでなくカフェで働く方からも、ものづくりを大切にしてきた開化堂の精神を垣間見ることができました。

そんなKaikado Café。メニューも開化堂ならではのものが並びます。

コーヒーと紅茶はここでしか飲めないオリジナル。「中川ワニ珈琲」、ロンドンの「ポストカード ティーズ」によるもの。ほかにも、「EN TEA」の四季折々のお茶、「丸久小山園」の抹茶ラテや「利招園茶舗」の玉露の雁金、城崎の地ビール、那須高原の人気店「チーズガーデン」のチーズケーキ、人気の「あんバタ」など、味わってみたいものばかりで目移りしてしまいます。

コーヒーとあんバタ
人気のスイーツ「あんバタ」は、京都の人気ベーカリー「HANAKAGO」のパンに、老舗の餡専門店「中村製餡所」の餡がたっぷりのっています

工芸の技術が使われた器や道具に触れながら、ゆっくりとお茶の時間をたのしめる場所。新しい出会いを期待して、京都を訪れるたびに通いたいお店でした。

<取材協力>
Kaikado Café
京都府京都市下京区住吉町 (河原町通) 352 河原町通七条上ル
075-353-5668
http://www.kaikado-cafe.jp/

文:小俣荘子
写真:山下桂子 (外観写真:Kunihiro Fukumori)

ギフトにするファーストシューズの選び方に迷ったら、縁起の良い「西陣織」を。京都×香川がコラボした一足

──なにもなにも ちひさきものは みなうつくし

清少納言『枕草子』の151段、「うつくしきもの」の一節です。小さな木の実、ぷにぷにの赤ちゃんの手、ころっころの小犬。そう、小さいものはなんでもみんな、かわいらしいのです。

日本で丁寧につくられた、小さくてかわいいものを紹介する連載、第13回は京都の西陣織で作った「ファーストシューズ」です。

「はじめの一歩」には、縁起の良いものを

生まれてはじめて履いた靴のこと、覚えていますか?

ファーストシューズを履いたぼうや
足元を見ると、とっておきの一足が

赤ちゃんの誕生を喜び、これからの人生が良いものでありますようにと願いが込められたファーストシューズは、両親やおじいちゃんおばあちゃんが選んで贈ることが多いのだとか。

お祝いや祈りの気持ちがこもった一足には、とっておきを選びたいもの。

そんな思いを叶えるべく生まれたのが、西陣織のファーストシューズです。

西陣織ファーストシューズ正面

縁起物とされる西陣織。中でも、古くから使われてきた七宝文様は特におめでたい柄なのだそう。

西陣織の生地
西陣で織られた七宝柄。連なった輪が四方に無限に広がることから、「富貴」や「永遠」を意味する吉祥文様とされています

実はベビーシューズに不向きだった西陣織

この靴を企画したのは、香川県で伝統工芸品のプロデュースを手掛ける「tsutaeru (ツタエル) 」。その企画が実現できたのも、香川県には腕利きの職人を抱えるベビーシューズ工房があるからです。その技術の評価は高く、2016年にはブータン王国王子生誕の際にお祝いの品として贈られたほど。

西陣織ベビーシューズは、そもそもの素材でいっても難易度の高い加工が必要です。帯として使われることの多い西陣織は、裁断することを前提に織られていません。他の生地と比べて裁断面の糸がほどけやすいのだそう。

生地の性質を正しく理解して無駄なくカットし、ほどける前に素早く縫製することが求められました。赤ちゃん用の小さな靴なので、素早さに加え、細かな縫製技術も必要です。それに応えられるのが香川の職人だったのです。

ベビーシューズは、熟練職人の手で一足ずつ丁手作りされます

匠がつくる、足にフィットする靴

この靴の魅力は、美しい仕上がりだけではありません。数々のベビーシューズを作り続けてきた経験と膨大なデータをもとに、履き心地も追求しました。

赤ちゃんの足は柔らかく転びやすいもの。つま先に丸みを確保して安定させ、つまずきを防止する設計になっています。また、赤ちゃんの肌に触れる部分は、柔軟性があり衝撃吸収に優れたウレタンスポンジを使用。足を優しく包み込みます。

靴底はゴムよりも柔らかく、滑りにくい塩化ビニル。室内だけでなく外履きとしても安心です。

ピンクのほか、ブルーのものもあります
縫製しにくい西陣織でこの品質を実現するのは至難の技だったそう
マジックテープ式のくつ
靴紐部分は、はかせやすいようにマジックテープ式になっています

桐箱入りで、大事にとっておけるように

できあがったファーストシューズは、弘法大師誕生の地「善通寺」でご祈祷を受けたのち、桐箱に入れて届けられます。履き終わったあとも、雛人形のように飾ったり、縁起物として残しておく方も多いのだそう。生地の劣化を防いでくれる桐箱は、大切に保管したい気持ちにも寄り添います。

桐箱に入ったファーストシューズ
価格は税抜18,000円(送料別)。tsutaeruのオンラインストアからも注文できます

熟練職人の手で、一足ずつ丁寧に作られた西陣織のファーストシューズ。赤ちゃんの門出を祝うお慶びの品にぴったりですね。

<取材協力>
tsutaeru
香川県高松市屋島西町2323-1 405
087-813-9093
http://tsu-ta-e-ru.jp/

文:小俣荘子
画像提供:tsutaeru

簡単にできる、水引のアレンジ結び

※水引の意味やマナー、“あわじ結”のポイントについてはこちら

贈り物に封をする「水引結び」。

金沢の加賀水引細工を生み出した老舗工房「津田水引折型」を訪ねて、少しカジュアルに楽しめるアレンジに挑戦します。

加賀水引 津田水引折型
大正6年 (1917年) 創業の加賀水引 津田水引折型

睨み鯛
立体的な加賀水引細工の数々を作っていることでも有名な津田水引折型。その見事な作品が認められ、皇室献上品ともなりました

あわじ結びをカジュアルに。可愛らしいアレンジ結び

アレンジ水引細工
あわじ結びをアレンジしたカジュアルな水引結び

色の組み合わせを考える

教わるアレンジ結びは3本の水引を束にして結んでいきます (最後に贈り物を包む際に他1本の水引が必要です) 。アレンジ結びは色合いも自由です。贈る相手をイメージしながら色の組み合わせを考えるのも楽しいですね。

※贈り物のシーンは様々。正式な場では、用途によって用いられる色が決まっている場合があります。気になる場合は、こちらを参考にしてみてください。

紅白: 歳暮・中元・入学・お見舞い等、個人的な用途に用いる。

金銀: 婚礼・会社関連・受賞等、格式張る場合に用いる。

黒白: 通夜と葬儀のみに用いる。

黄白: その後の佛事に用いる。

銀銀: 双銀は水引の陰陽思想と無関係な新興宗教などに用いられる事がある。

(津田水引折型公式サイトhttp://mizuhiki.jp/syugibukuro/index.htmlより引用)

※フォーマルで用いる基本の結び方についてはこちらの記事をご覧ください。

水引を3本、30cm以上のものを用意します。グラデーション順に(外側に濃い色を持ってきた方が綺麗だったりする)並べます
水引を3本、30cm以上のものを用意します。外側に濃い色を用いて、グラデーション順に並べると美しくなるそう

まずは、水引をしごいてカーブをつけます (全体をしごいて、少し弧を描くように)
まずは、水引をしごいてカーブをつけます (全体をしごいて、少し弧を描くように)

優しくしごくだけで、ゆるやかにカーブするようになります
優しくしごくだけで、ゆるやかにカーブするようになります

水引細工を作る

準備ができたら、さっそく水引細工の部分を作っていきます。

右手で水引の真ん中あたりを持ち、輪っかを作り、親指で押さえます
右手で水引の真ん中あたりを持ち、輪っかを作り、親指で押さえます

左手で水引の左端を持ち、輪の後ろにもっていきます
左手で水引の左端を持ち、輪の後ろにもっていきます

輪の後ろを通して、右側の端の上を通過させて、右下から輪の内側へ通します
輪の後ろを通して、右側の端の上を通過させて、右下から輪の内側へ通します

そのまま内側の水引の上を通します
そのまま内側の水引の上を通します

交互に、こんどは下側を通過させます
交互に、こんどは下側を通過させます

最後に輪の上を通します
最後に輪の上を通します

両端をひくとこの形になります
両端をひくとこの形になります

左側の先端を持ちます
左側の先端を持ちます

3つの輪の中心へ差し込みます
3つの輪の中心へ差し込みます

通したら、左手で優しく引きます
通したら、左手で優しく引きます

今度は、右側の端を持ちます
今度は、右側の端を持ちます

左上で輪になっているところへ上から差し込みます
左上で輪になっているところへ上から差し込みます

左右の先端を引くと、形ができあがりました
左右の先端を引くと、形ができあがりました

コツは、穴に通した時に結び目を一気に締めず、緩めにしておくこと。それぞれの輪の大きさが均等になるように整えてから、最後に締め具合を調整するとバランスよく美しい形に仕上がるそうです。

水引の端を留める

形ができたら、仕上げをしていきます。

できあがったら裏返します
できた水引細工を裏返します

先端を細い針金などで縛ります(ボンドで留めるだけでもOK)
先端を細い針金などで縛ります (ボンドで留めるだけでもOK)

ペンチなどを使って捻るとしっかりと留まります
ペンチなどを使って捻るとしっかりと留まります

余分な部分はハサミでカットします
余分な部分はハサミでカットします

水引も余分な部分をカットします
水引も余分な部分をカットします

しっかりと留まった状態になりました
しっかりと留まった状態になりました

贈り物を包む

できあがった水引細工に水引を通して、リボンを掛けるように贈り物を包んでいきます。

できあがった細工に、1本の水引を通していきます
できあがった細工に、1本の水引を通していきます

通した水引。こんな感じになります
通した水引。こんな感じになります

こうして通したら、箱や包みの上に乗せて、リボンかけの要領で縛ります
箱や包みの上に乗せて、リボンかけの要領で縛ります

裏返して固結びに
裏返して固結びに

固結びした状態
固結びした状態

不要な部分をハサミでカットします
不要な部分をハサミでカットします

これで完成です
これで完成です

あわじ結びをアレンジしたカジュアルな水引

包装紙の掛かっていない箱も、この水引細工で包むとそっと華やかになりますね。結ぶ行為そのものにも祈りの意味合いがある水引。相手のことを思いながら気持ちを込めて結んだら、その時間も愛おしいものになりました。

特別な贈り物を包むとき、みなさんもぜひトライしてみてください。

<取材協力>

津田水引折型

http://mizuhiki.jp/

石川県金沢市野町1-1-36

076-214-6363

文・写真:小俣荘子

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専門店に聞く、水引の意味とマナー。「あわじ結び」のポイントとは

来月、幼馴染が結婚します。

家族のような親友のあらたな門出。準備に忙しくしながらも幸せそうな彼女を見ていると、こちらまで嬉しくって、私にとっても特別なお祝いごとです。

どんな風にお祝いしよう、何をプレゼントしようかと思いを巡らせて色々と調べていると、贈り物の包み方に目がとまりました。

贈り物に封をする「水引結び」。水引を結ぶこと、そのこと自体に「お祈り」の意味があるのだそうです。

「どうか末永く幸せに」そんな思いを込めて、自分で結べたら‥‥。この機会に挑戦してみよう!と、プロの元を訪ねました。

お祝いの思いを込めてキリっと結んでみたいですよね
お祝いの気持ちを込めてキリっと結んでみたい

初心者でも結べるポイントをプロに教わる

訪れたのは、金沢の加賀水引細工を生み出した老舗工房「津田水引折型」。同店は、大正時代から数々の結納品を包んできた、日本で唯一制作の全工程を行う専門店です。

日々たくさんの御祝品に水引をかける職人さんに、手順と初心者でもうまく結べるポイントを丁寧に教えていただきました。

加賀水引 津田水引折型
大正6年 (1917年) 創業の加賀水引 津田水引折型

睨み鯛
立体的な加賀水引細工の数々でも有名な津田水引折型。その見事な作品が認められ、皇室献上品ともなりました

水引の色と、結び方のマナー

贈り物のシーンは様々。正式な場では、用途によって用いられる色が決まっている場合があります。市販の水引を購入する際の参考にしてみてください。

紅白: 歳暮・中元・入学・お見舞い等、個人的な用途に用いる。

金銀: 婚礼・会社関連・受賞等、格式張る場合に用いる。

黒白: 通夜と葬儀のみに用いる。

黄白: その後の佛事に用いる。

銀銀: 双銀は水引の陰陽思想と無関係な新興宗教などに用いられる事がある。

(津田水引折型公式サイトhttp://mizuhiki.jp/syugibukuro/index.htmlより引用)

それでは、さっそく水引の結び方を。まず今日は、慶事にも神事・佛事にも使える「あわじ結び」を紹介します。

※カジュアルで可愛らしい「アレンジ結び」は次回ご紹介予定です。

水引結びの最高位「あわじ結び」

あわじ結び (あわび結び) は、最高位の水引結び。神事・佛事をはじめ、吉凶全ての基本結びとなっています。水引細工の多くはこの結びを応用しているそう。

水引結びの基本「あわじ結び」
水引結びの基本「あわじ結び」

複雑そうに見えますが、ポイントを押さえれば、結び方は思いの外シンプル。1分もかからず結ぶことができました。指の動きなどじっくり詳しく見せていただいてきましたので、手順とポイントを合わせてご覧ください!

包みを水引の中心に置き、左右を折り曲げる。しっかりと折る
まず、包みを水引の中心に置きます。水引の左右を折り曲げ、しっかりと折ります

親指と人差し指で水引をはさみ、優しくくなでるように2回ほどしごいてカーブさせます
親指と人差し指で水引をはさみ、優しくなでるように2回ほどしごいてカーブさせます

優しくくしごくだけで、こんな風になめらかにカーブします
優しくしごくだけで、こんな風になめらかなカーブが生まれます。強くしごくと歪んでしまう場合もあるので、「優しく」がポイントです

しごいたら、右側の水引をくるりと先端が手前に来るように輪を作ります
しごいたら、先端が手前に来るように右側の水引をくるりと曲げて輪を作ります

左側の水引を、輪のうしろへ添えます
左側の水引を、輪のうしろへ添えます

輪の交差部分と、後ろに添えた左側の水引を左手で持ちます
輪の交差部分と、後ろに添えた左側の水引を左手で持ちます

右手で、左から伸びた水引(銀色)を持ち、くるりと曲げます
右手で、左から伸びた水引(銀色)を持ち、くるりと曲げます

右の水引 (金) の下をくぐらせます(右手中指で押し上げる)
右の水引 (金) の下をくぐらせます(右手中指で押し上げる)

輪の中へ上から通します
輪の中へ上から通します

左側の水引(銀)の下をくぐらせます。※編むように、上下をくぐらせていく。
左側の水引 (銀) の下をくぐらせます。※上下交互に編むように

先端を左手で持ち替えて引きます
先端を左手に持ち替えて引きます

包みの上に落ち着かせると、すでにあわじ結びの形ができてきていますね
包みの上に落ち着かせると、すでにあわじ結びの形ができていますね

美しく仕上げるには、束を持って根元を引く

さて、ここからは結び目を締めて形を整えていきます。

※水引は1本ずつではなく、束をまとめて指で挟んで引くのがポイント
水引1本ずつではなく、束をまとめて指で挟んで引くのがポイントです

こうして少しずつ
一気に引かず、交差している場所を押さえながら少しずつ絞めていきます

左右のバランスを見ながら、押さえて引いて‥‥
左右のバランスを見ながら、押さえて引いて‥‥。

結び目の形が美しく整いました
結び目の形が美しく整いました

水引の長さを整える

仕上げに、左の指で水引の先端を平らに並べてハサミでカットします。

左の指で水引の先端を平らに並べてハサミでカットします。水引に対して直角に切るのがポイント。斜めに切ってしまうと、水引に巻かれている色糸が解けてしまうので注意しましょう
水引に対して直角に切るのがポイント。斜めに切ってしまうと、水引に巻かれている色糸が解けてしまうので注意しましょう

こうしてできあがりです
こうしてできあがりです。先端がピンとまっすぐ伸びていると美しい仕上がりになります

気持ちを記す、表書き

できあがったら、「御祝」「寿」などの表書きと自分の名前を書き入れて完成です。

あわじ結び
表書きは、上段に「御祝」「寿」などのメッセージ、下段に贈り主の名前を入れます

テスト
3行以上の言葉を入れるときは、中心の行を先に書いてから、最後に1行目を書き入れるとバランスよく書けるのだそう

ハードル高く感じていた水引結び。優しくしごくこと、丁寧に束を引いていくことを心がければ、初心者にも難しいものではありませんでした。これなら覚えられそうです。

まずは、幼馴染の結婚式で気持ちを込めて結んでみようと思います。ここぞという時に、贈る相手のことを思い浮かべながら結ぶ水引。みなさんも、ぜひ挑戦してみてください。

次回は、ちょっとした贈り物を包むにも最適な、少しカジュアルにアレンジされた水引結びをご紹介します。どうぞお楽しみに!

あわじ結びをアレンジしたカジュアルな水引
あわじ結びをアレンジしたカジュアルな水引結び

<取材協力>

津田水引折型

http://mizuhiki.jp/

石川県金沢市野町1-1-36

076-214-6363

文・写真:小俣荘子