洗濯の面倒を解決した、ステンレスの「バスタオルハンガー」

皆さま、家事はお好きですか?

私は、比較的好きなのは炊事・掃除です。

料理はシンプルメニューが多いですが、器好きなので、器に助けられています。掃除はもっぱらクイックルワイパーとコロコロに頼りきり。多少モノが散らかっていても、ゴミや埃は排除して、部屋の空気がよどまないように心がけています。

そして、あまり好きではないのが洗濯です。

「干す&畳んでしまう」行為がちょっと面倒と感じます。せっかちなこともあり、下着やハンカチなどを、洗濯バサミ付きハンガーにとめるのが苦手です。タオルも然りで、バスタオルは何箇所かとめるのがもどかしく感じていました。

もしくは物干し竿に掛けるのも場所を取るので、なんとかしたいなと思っていました。

過去形で言っているのは、現在は、バスタオル用の大きなハンガーを使っていて、過去の悩みがだいぶ改善されているためです。

このバスタオルハンガーは、生活の中で感じる問題を解決すべく、中川政七商店のオリジナルとして5年ほど前に作りました。

発売当時から人気で、ロングセラーの勢いがあります。どうやら、潜在的に同じ悩みをお持ちの方が多かったのだと思います。

バスタオルの幅で作っているので、タオルを折らずに掛けることが出来、乾きにムラが出ません。雨の多い今の時期だと部屋干しの機会も増えますが、このハンガーだと室内にも掛けやすく、通気も良いので乾きやすく、臭いも気になりにくいようです。

大きな見た目がなんだかユニークで、インテリアとしても悪くない存在感です。

業務用クリーニング用品を作り続けているメーカーにオーダーしていて、ぱっと見は量産品のようですが、溶接や磨きなど職人の手による工程も意外と多いもの。品質重視で100%日本製にこだわるメーカー製です。

家事に関する便利グッズが市場にたくさんあるのは、忙しい現代人の楽に・楽しく・スピーディーに家事をこなしたいという需要の表れでしょう。

道具は使いこなしてこそ活きるので、ストレスを軽減してくれる道具を厳選して、ガンガン使い倒すのが理想の家事仕事だと思っています。

そして、「そうそう、こんなの欲しかった!」と多くの方に言ってもらえる新たな道具を作れるように、生活の中にヒントをせっせと探しております。

 

<掲載商品>
バスタオルハンガー(中川政七商店)

<関連商品>
カーペットクリーナー(中川政七商店)
THE COLOCOLO BY NITOMS(THE)

細萱久美 ほそがやくみ
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

文:細萱久美

*こちらは、2017年7月1日の記事を再編集して公開しました

掃除にも洗顔にも。天然のスーパークロス、春日のキョンセーム

「炊事・洗濯・掃除」に使える、おすすめの工芸を紹介する連載。今回は、年末掃除にも活躍するであろう、掃除の工芸道具をご紹介いたします。

最近、とうとうリーディンググラスが生活必需品の仲間入りをしました。視力は良いので、初めての眼鏡で扱いに慣れていません。レンズを触りがちで、すぐに汚れてしまうのが気になります。

眼鏡に付属していたクロスも悪くはないのですが、キョンセームという革で拭くと、一点の曇りもなくピカピカになって気持ちが良いことを知りました。

めがねとキョンセーム

春日のキョンセームクロス

本格的に楽器やカメラを扱う方にはもしかしたら馴染みの革かもしれませんが、私がキョンセームの存在を知ったのは、奈良に住むようになった8年前くらいのことです。

セームは鹿の皮をなめした革のことですが、きちんと定義すると

・鹿皮を使用しており、最高級は中国江西省を中心に、赤土地帯のみに生息する野生の世界最小種の鹿 (キョン) の皮を使う

・本来の製法通り魚油還元法で製造

・染色していない

上記を満たした革を、キョンセームと称します。

奈良には毛皮革産地があり、鹿皮の製造量は全国シェアの90%を占め、なめしの高い技術を誇ります。中でも独特の魚油還元法を要するキョンセームの製造は、世界的に見ても奈良県宇陀市にある株式会社春日に限られる、とも言われています。

キョンセームの特徴は、何よりも繊維の細かさにあります。繊維細胞の太さが、なんと髪の毛の10万分の1だとか!汚れを落とすのに使われるマイクロファイバーよりもはるかに繊維が細いので、それ以上に細かい汚れを取ることに優れ、お手入れするモノを傷付けません。細かい繊維は手ざわりもとてもやわらかです。

電化製品にも、なんと美容にも、おすすめです

繊維の細かさに加え、人工クロスには無い特徴として、油分の必要なものに最適な油分を加えて (加脂) 、油分の必要でないものからは油分を取り除く(除脂) という面白い特徴があります。高級な楽器の表面をお手入れするには、程良い潤いを与え、光沢を増すのでおすすめだそうです。

現代の生活には、テレビやパソコンをはじめとする電化製品が家庭に欠かせない存在となっていますが、どんな道具で掃除をするか悩みませんか?

電気製品は水気が苦手ですし、クリーナーなどの薬剤も液晶のコーティングをはがす可能性があって避けたいところ。静電気も起きやすいので、マイクロファイバーで拭いてもホコリが戻ってしまいます。

意外とやりがちですが、ティッシュで掃除をするのは画面などを傷つける原因となります。その点、キョンセームは静電気も除去してくれるのでホコリ戻りもなく、表面の汚れを力を入れずにすっきりと取り去ることができます。

キョンセームは耐久性に優れているので、きちんとお手入れすれば長く愛用できます。とはいえ全く難しいことはありません。石鹸を溶いたぬるま湯で押し洗いし、

洗った後に陰干しをします。ほぼ乾いた段階になってから、手で揉みほぐすのがコツです。人の肌と同じく、熱いお湯を使うと痛んでしまうので注意が必要です。

広げてみるとこんな感じです 四角タイプもあります

一般的には消耗品とされるクロス類ですが、キョンセームはむしろ味わいが増して手放せなくなるのが最大の魅力かもしれません。

今回は掃除道具として紹介していますが、実はスキンケアの道具としてもおすすめなのです。柔らかくて肌にもやさしく、肌より細かい革のコラーゲン繊維細胞が毛穴の汚れをすっきりと落とします。

使い方は、革を水に塗らして、石鹸を付けて軽く擦る感じです。石鹸を付けずに、水だけで毛穴を軽くマッサージをするのも良いですが、石鹸を付けた方がすべりが良い様です。

掃除と美容で使い分け、少しづつ溜まった日々の汚れを落とすのに欠かせない道具となりました。

<掲載商品>
キョンセーム ご家庭用 1枚物15デシ (株式会社春日)

<関連商品>
美容洗顔セーム革

細萱久美 ほそがやくみ
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、
美味しい食事、美味しいパン屋、
猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

文:細萱久美

*こちらは、2017年11月14日の記事を再編集して公開しました


職人に教わる包丁の研ぎ方。道具を正しく長く使う方法とは

道具の扱い方、手入れの仕方はプロに聞こう

餅は餅屋。何事もその道の専門家にまかせるのが1番というたとえです。暮らしの道具の正しい扱い方、手入れの仕方は、その道具をつくった職人さんに聞いてしまいましょう。

今回のお話は、包丁の研ぎ方。みなさん、包丁を自分で研いだことはありますか?

包丁の切れ味ひとつで料理の味が変わるともいいますが、大切なのはわかっていても、いつ、どんなタイミングでどんなふうに研いだらいいのか、中々知る機会がありません。かくいう私も包丁研ぎ初心者。

今回は鍛冶の町・新潟三条、株式会社タダフサ代表の曽根さんによる包丁砥ぎのワークショップにお邪魔して、包丁の手入れについて教わりました。作り手ならではの視点で、道具の正しい使い方、長く楽しむ育て方を教えてもらいましたよ。

(※関連記事)
庖丁工房タダフサのお肉が“美味しくなる”ステーキナイフ
子どもに贈りたい工芸。たった一人の職人が仕上げる「くじらナイフ」の製造現場へ

大盛況の包丁研ぎワークショップ
大盛況の包丁研ぎワークショップ

中川政七商店 表参道店で行われたワークショップはキャンセル待ちが出るほどの人気ぶり。みなさんの「手入れしたかったけれど、やり方がわからなかった!」の心の声が聞こえてきそうです。

曽根さんを中心に横長のテーブルを囲んで、いざスタート。まずは包丁の基礎知識から。みなさん曽根さんの説明に集中して耳を澄ませます。

覚えておきたい包丁の基礎知識

「包丁の刃の部分は鋼(はがね)で出来ています。鉄と鋼の違いってわかりますか。昔は刃の金属、と書いて刃金とも言っていました。鉄にごくわずかに炭素が混ざったもので、焼きを入れることで固くなります。岡の字は固い、を意味するんですよ。

資源の少ない日本では、鋼は貴重です。だから切れ味の要になるところだけに鋼を使ってきました。その鋼部分を研いで『刃をつける』のが、包丁研ぎです」

株式会社タダフサの曽根忠幸さん。
本日の講師、株式会社タダフサの曽根忠幸さん。職人兼社長さんでもあります。

おお。思いがけずアカデミックな滑り出し。聞けばタダフサさんは商品を海外へも販売されているそう。視点がグローバルです。

それにしても「刃をつける」って初めて耳にする言葉ですが、ワークショップでは頻出ワード。職人さんの言葉を覚えて、ちょっと通になった気分です。

知識を身に着けたら、早速本題へ。いざ包丁研ぎ!の前に、もうひとつ、大切な暮らしの知恵を教わりました。

トマトで見分ける「研ぎ頃」

「トマトを切ってあれっと思ったら包丁の『研ぎ頃』です。新品の状態が100だとしたら、80・90くらいのときにさっと研ぐのが大事です。

常に刃物をいい状態にキープしておくと次の直しがとても楽になります。こまめにやれば5分ですみますが、久々にやると1時間かかったりしてしまう。

プロの料理人は毎日包丁を研いでいるでしょう。包丁の切れ味で料理の味が変わるんです」

株式会社タダフサの曽根忠幸さん。

これは良いことを教わりました。研ぎ頃を確かめるために、これからはやたらとトマトを買ってしまいそう。早く研ぎたくてうずうずしてきたところで、いよいよ包丁研ぎ、スタートです!

包丁研ぎのスタートは砥石の準備から

「まず砥石を準備します。砥石は水につけておきます。気泡がなくなるまで、10~20分くらい。砥石は焼き物です。割れてしまうので、熱湯は絶対に使わないように。研ぐ時は一緒に研いでしまわないよう、指輪などははずすのがよいでしょう」

砥石の準備
砥石を水につけて準備。熱湯はNG
砥石の準備。水につけて気泡が出なくなるまで待つ
気泡が出なくなるまで待つ

「砥石の目の粗さを『粒度(りゅうど)』といって、1センチメートル角にどれだけのツブがあるかで目の細かさをあらわします。タダフサの『砥石基本セット』は800番。中砥(なかど)といって中くらいの細かさです。

始めは番号の若い粗砥(あらど)で研いでから徐々に目を細かくしていきますが、砥石をいくつも持つのは大変という方は、ホームセンターなどで100番くらいのサンドペーパーを買って、持っている砥石に巻くと代用できます」

砥石基本セット
砥石基本セット

見よう見まねで砥石台をテーブルの角に固定して、砥石をセットします。このときテーブルと台の間にタオルなどをかませると動きづらくなります。

砥石を台にセットする
砥石を台にセットする

「包丁研ぎは水をかけながら行います。研ぐと削られた砥石と水が混ざった研ぎドロが出るので、台は汚れてもいい場所に、汚れてもいい服装でやりましょう」

研いでいくと、研ぎドロが出てきます
研いでいくと、研ぎドロが出てきます

包丁研ぎの基本の構え

だんだんと話が専門的になってきました。緊張感とワクワク感が高まります。ここからは曽根さんの言葉に沿って構えと手順を追っていきましょう。

「利き手で包丁の柄をしっかり握ったら、人差し指は包丁の背にそわせて支えます。このとき包丁は体に対して斜め45度に持ちます。研いでいる間もこの角度をキープすることが大切です。反対の手指2・3本で包丁の面を押さえます。最後に包丁を砥石に対してちょっと寝かせすぎているな、というくらい寝かせた角度をつくったら、研ぎの基本の構えが完成です」

人差し指を包丁の背にしっかりそわせる
人差し指を包丁の背にしっかりそわせる
包丁研ぎの基本の構え
基本の構え。包丁は体に対して斜め45度。 研ぐところを指で押さえながら行います
ちょっと寝かせすぎかな、というくらいしっかり寝かせる。同じ角度をキープ
ちょっと寝かせすぎかな、というくらいしっかり寝かせる。同じ角度をキープ

包丁研ぎの基本の動き

「砥石はつねに乾かないよう、こまめに水をかけます。研ぐ途中に出る研ぎドロは洗い流さず、その上から水をかければOKです。

まず包丁の片面を先端からアゴまで、3分の1ずつくらいに分けながら研いでいきます。基本の構えを保ちながら、上下に滑らせる。力を入れるのは包丁を引くときよりも押すときです。押すときに包丁を押さえている反対の指に力を入れるようにします」

場内に「シュッシュッ」という滑らかな研ぎ音が響きだしました。

包丁研ぎワークショップの様子

「砥石はできるだけまんべんなく使って研ぐように。研ぐうちに砥石は削れていきますが、砥石が平らでないとどんなにがんばってもきれいに研げません。慣れないうちは、砥石の真ん中あたりを狙って研ぐとよいでしょう」

アゴ付近を研ぐ時の指の位置
先から手元のアゴまで刃を大きく3分割に考えて、研ぐ所を指でしっかり押さえる。この角度を保ったまま、刃を砥石に押し当てて研いでいく。これはアゴ付近を研ぐ時の指の位置
先端を研ぐ時は、砥石の頭の方を使うと研ぎやすい
先端を研ぐ時は、砥石の頭の方を使うと研ぎやすい

研げたかどうか確かめる

「オモテ側をひと通り研いだら、ウラ側の刃の部分をそっと触ってみてください。ひっかかりができているはずです。僕たちはバリとかカエリとか言っています。

それを確かめながら片面ずつ、カエリをなくすように研いで行きます。両面を確認しながら研いで、頂点をつくっていくわけです」

研いだウラ側に引っかかりができていたら、片面が研げた証
研いだウラ側に引っかかりができていたら、片面が研げた証
自分の指で確かめてみよう
自分の指で確かめてみよう
ウラ側を研ぐ時も、基本の姿勢は同じ
ウラ側を研ぐ時も、基本の姿勢は同じ
真ん中あたりを研ぐ時
真ん中あたりを研ぐ時
アゴあたりを研ぐ時
アゴあたりを研ぐ時

でもこれ、やりだしたらきりがないのでは…?

「うまく研げているかどうかは、手で触って確かめます。研ぐ前に切りづらくなった食材があれば、切ってみて確かめるのもひとつの方法です。

切れ味を極めたい方は、砥石の粒度を上げてさらに2000、3000番の砥石で研ぐと、刃がピカピカに輝いてきます。これで包丁研ぎにはまってしまう人も結構多いんですよ」

研ぎ具合は、見た目ではわからない、触るしかない、と曽根さんは繰り返し話されていました。オモテ、ウラ、と研ぎを繰り返すこと30分以上。根負けしそうになりながら、それでもだんだんと刃先が磨かれていく達成感に、参加された方から「包丁が喜んでいるみたい」との名言が。

今回のワークショップは研ぎに40分以上の時間を取っていましたが、定期的に研いでいればこれが1回5分で済んでしまうというのですから、継続は力なり。さて、ここまできたらいよいよ仕上げの段階です。

完璧を求めない、最後の仕上げ

「刃が鋭利になりすぎると、刃こぼれの原因にもなります。そのため最後は包丁をやや起こして研いで、すこし刃を鈍角にします。これで完成。研ぎ終えたら水洗いで汚れをしっかり落とし、乾いた布で水分をふき取ってよく乾かしてください」

鋭すぎてもいけないのですね。あえて未完成にしておくなんて、日光東照宮の逆柱のよう。どちらも永持ちするように、との思いが込められています。

研ぎに正解なし?

曽根さん、最後に包丁研ぎの極意、教えて下さい!勢い込んで聞いてみると…?

「絶対こうしなさい、というやり方は、実はありません。かぼちゃみたいな固いものを切るときには肉厚(鈍角)の包丁のほうがよいし、キャベツの千切りはスカッとした切れ味のものがよい。研ぎは経験。続けながら、自分の包丁、使い方にあった研ぎ方を見つけていくのがおすすめです」

安易に答えを求めようとする姿勢を諭されて、ピカピカの包丁と共に大充実のワークショップが幕を閉じたのでした。

包丁工房 タダフサによる包丁研ぎワークショップ

<掲載商品>
タダフサ 砥石基本セット 赤(庖丁工房タダフサ)

<協力>
株式会社タダフサ(ブランド名:庖丁工房タダフサ)
http://www.tadafusa.com/

※庖丁工房タダフサさんのHPでも庖丁のメンテナンス方法が詳しく載っています
http://www.tadafusa.com/maintenance/maintenance_1

合わせて読みたい

〈 日用品のお手入れ方法 〉

大切な日用品のお手入れ・修復方法をご紹介します。もう使えないかも‥‥と諦めていたモノも、まだまだ長く一緒にいれるかもしれません。

洗濯のプロに聞く、シミや黄ばみの落とし方。意外なコツは「ゴシゴシしない」こと

がんこ本舗さんに聞く服の汚れの落とし方のコツ

白いシャツの襟ぐりについた黄ばみ。市販の洗剤で洗っても「落ちない‥‥」とがっかりして、泣く泣く「おさらば」なんて悲しい選択を迫られること、ないでしょうか。

「さよならしなくても大丈夫!1年越しの黄ばみだってきちんと落とすことができますよ」

→記事を見る

修復専門家に習う、はじめての金継ぎ教室。自分の道具は自分でなおす

修復専門家、河井菜摘さん「金継ぎ」教室

修復専門家、河井菜摘さん「金継ぎ」教室へ行ってきました。
「こんなのなおらないよねって思われていても、大体どんなものでもなおります」お宅に眠る欠けてしまった器たち、ぜひなおして救ってあげてくださいね。

→記事を見る

革の春財布を買ったら覚えておきたい、お手入れのコツ

革の春財布のお手入れ

せっかくなら大切に、長くキレイに使いたい革財布。革を扱うプロに、その秘訣を伺ってきました。
容れものがキレイなら中のお金も喜んで、ますます「張る」財布になる、かも?

→記事を見る

父の日に贈る、家族で使う。中川政七商店「靴のお手入れ道具」

中川政七商店「靴のお手入れ道具」

国内トップシェアを誇る靴のお手入れアイテムの老舗、コロンブスと中川政七商店が「初めての人でもまずこれだけあればOK」という基本のセットを作りました。

→記事を見る

ゆかたのお手入れと保管方法

自宅でできる浴衣のお手入れ・メンテナンス方法

お手入れや保管が難しいというイメージのある和装ですが、ポイントさえ押さえればとてもシンプル。ワンピースなどの洋服と同じように、家でできるお手入れ方法をご紹介します。

→記事を見る

天然のスーパークロス、キョンセーム

めがねとキョンセーム

眼鏡に付属していたクロスも悪くはないのですが、「キョンセーム」という革で拭くと、一点の曇りもなくピカピカになって気持ちが良いことを知りました。
電化製品にも、なんと美容にも、おすすめです。

→記事を見る


文:尾島可奈子
写真:古平和弘

こちらは、2016年11月6日の記事を再編集して公開いたしました。

新茶を美味しくいただく、村田森さんの白磁急須

連載「日本の暮らしの豆知識」の5月は旧暦で皐月(さつき)のお話。

皐月の語源は、耕作の意味をなす「さ」から、稲作の月ということを意味して「さつき」となったとされます。そして、皐の字には、神に捧げる稲という意味があるので、この字が当てられたのだとか。

旧暦はわずかな文字数の中に、日本の自然や風習などが含まれており、言葉から風景を感じますね。

皐月は田植えに始まり、農作業の忙しい時期。例えばお茶も新茶が出回る頃です。

「夏も近づく八十八夜‥‥」の茶摘みの歌はよく知られていますが、立春から数えて八十八日目なので、だいたい5月2日頃に当ります。

ただ日本も南北に長い国なので、茶産地によって茶摘み時期は異なります。一番早い4月上旬の鹿児島県あたりを皮切りに、日本一の茶産地静岡では4月中旬から5月半ば、奈良は少し遅めの5月中旬以降が最盛期です。

新茶と言ったり一番茶と言ったりして、現在の進化した製茶技術では1年中、一番茶を楽しむことが出来ますが、やはり出来立ての新茶は格別の味わいです。

新茶は春の芽生えとともに成長する新芽なので、香りや旨味成分がたっぷり。葉も柔らかく渋みも少ないので、甘くてやさしい味わいのお茶が好きな方には特に飲みやすいと思います。茶殻も柔らかいので、ポン酢やお醤油をかけておつまみとして食べるのも乙な味。

私は、新茶を淹れるのに、「宝瓶(ほうひん)」を活用しています。

宝瓶はあまりメジャーではありませんが、持ち手の無い急須なので場所も取らず、洗いやすく、淹れた後の茶葉がよく見えます。また、人の前で淹れるのにも所作が格好良く決まりますよ。

京都・村田森さんの白磁急須

写真で使っているのは、京都の陶芸家、村田森さんのシンプルな白磁。青々とした茶葉の色が映えます。

美味しい淹れ方ですが、一煎目は70度くらいの低温で30秒。沸騰させたお湯を、まずは湯呑みを温めるなどでややぬるめに冷ましてから宝瓶に注ぎます。低温で淹れると渋みが出にくく、甘味と旨味を堪能できます。

その後二煎目、三煎目は程よい渋味も味わえ、風味の変化を楽しむことができます。宝瓶だと、開いた茶葉の色や清々しい香りも分かりやすいのです。

更に淹れ方のポイントですが、最後の一滴に旨味がギュッと凝縮されています。湯呑みに注ぎ分ける際に最後の一滴がポトリと落ちるまでじっくり構えてください。その湯呑みはお客様におすすめしましょう。

最近、巷でもお茶が注目されている気がします。サードコーヒーブームも少し落ち着いて、次のスポットライトがお茶に当たっている!?

嗜好品なので、好きなものを好きなように飲むのが良いのですが、コーヒーとお茶だと楽しみ方が少し違う気がしています。特に時間の流れが違うような。

個人的な意見ですが、コーヒーはフットワークが軽いイメージもあり、お茶はのんびりまったりな時間が似合うと思いませんか?

例えばアジアでの旅先で、動き疲れた時に茶館でお茶を飲みながらゆっくり過ごしていたら気付くと1時間以上経っていました。お茶は味が変化するので何杯もずっと飲んでいられます。

一見贅沢な時間の使い方ですが、このオフモードが大人の旅にはとても良い時間だと感じました。

家では1人でよくお茶を飲みますが、たまには家族や友人との気軽なお茶会でリラックス時間を共有するのもいいなと思っています。

ちょっと特別なお茶や、美味しいお菓子がある時に、いつもより少し道具の取り合わせを考えて、でもかしこまらずにのんびりと。たいそうなお菓子が無くても、金平糖やナッツ、ドライフルーツのような軽いお茶菓子でも十分です。気軽な会話を楽しんでいると思わず数時間経ちそうです。

今回は道具よりもお茶、そしてお茶の時間が主役の、皐月の暮らしの豆知識でした。

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。お茶も工芸も、好きがきっかけです。好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。素敵な工芸を紹介したいと思います。
ホームページ
Instagram

文・写真:細萱久美
*こちらは、2017年4月6日の記事を再編集して公開いたしました

職人の道具。鎚起銅器づくりに欠かせない、200種類の相棒たち

工芸を支える職人の愛用品を紹介する「わたしの相棒」。

普段は注目を浴びることが少ない「職人の道具」にスポットを当て、道具への想いやエピソードを伺っていきます。

今回は燕市で200年の歴史を持つ鎚起銅器(ついきどうき)の老舗である「玉川堂」の職人、細野五郎さんにお話を伺いました。

細野さんの「わたしの相棒」は「鳥口(とりくち)」。ほとんどのかたが見たこともない道具だと思いますが、鎚起銅器には無くてはならない特別な愛用品なんです。

200種類を使い分ける、職人の相棒

「こうやって上がり盤にはめると鳥のくちばしみたいに見えるだろ?だから鳥口って言うんだ」

鳥口とは銅器を引っ掛ける鉄の棒のことで、つくる器の形状や大きさによって使い分けるそうです。

どっしりとした存在感を放つ厚さ40センチメートル程もあるケヤキの塊で出来た上がり盤、その表面には様々な大きさの角穴が掘られていて、その穴に鳥口を差し込みます。穴と鳥口の隙間に留木を噛ませて固定したら、先端の平たい部分に椀型になった銅器を引っ掛けて、金槌で丁寧に叩きます。

何度も叩きながら銅器の形を整え、表面に独特の模様をつけていきます。ここまでが鳥口を使った鎚起銅器づくりの基本の流れです。

これが鳥口、確かに鳥のくちばしのよう。先端に銅器を掛け打つための突起や曲線が特徴的です
これが鳥口、確かに鳥のくちばしのよう。先端に銅器を掛け打つための突起や曲線が特徴的です

「昔は上がり盤の上で胡座なんかかけなかったんだよ。親方が厳しくて怒られちゃうから。何時間も座って打つもんで腰痛くてさ、今では長い時間集中するために胡座で打ってるよ」

18歳の頃から47年間鎚起職人一筋で生きてきた細野さんは、そう言って笑います。確かに硬い木の上に座り、背中を丸めて銅器を打つ姿勢は、なるほど腰への負担も大きそうです。

玉川堂の歴史とともに歩んできた職人から見て、昔と今では工房の雰囲気も仕事がしやすいように変わってきたとのこと。何度も何度も丹念に打つことで形をつくる鎚起銅器では、長時間根気強く座って仕事に集中できることがとても大切。一番仕事がしやすい姿勢は職人ごとに違うようで、細野さんのように胡座で座る人もいれば、床に座って背筋を伸ばし目線に近いところで銅器を打つ職人の姿も見られました。

上がり盤の上に座布団を敷き、胡座で腰への負担を抑えながら仕事に集中します
上がり盤の上に座布団を敷き、胡座で腰への負担を抑えながら仕事に集中します

「ここには鳥口がだいたい200種類もあって。例えば湯沸かしを1つ打つにも、だいたい20本くらいの鳥口を使い分けるんだ」

鎚起銅器は全ての技術を習得するのに20〜30年ほどかかると言われています。新しく来た職人もはじめは鳥口の数の多さに驚くそうですが、つくりたい銅器の形に整えるためにそれだけの数の形の違う鳥口が必要なことを、その修行期間の中で体で理解できるようになるそうです。

「来たばっかりの時はこんなにあっても仕方ねえって思ったけど、それぞれ顔が違うし、細いところとか、角度をつけたいところとか、器の表現を細かく分けるためにやっぱり必要なんだよな」

この200種類ある鳥口は全て職人たちが手直しして受け継いできたものだそうで、突起の形状や曲線の描き方が様々です。それぞれに個性があり、数え切れないほどの銅器づくりを支えてきた、その全てが欠かすことができない大切な道具。鎚起職人全ての職人の相棒として、ずっと寄り添い銅器づくりを支えてきたのですね。

叩く場所やつくる形状によって鳥口を選び、20本余りを使い分けながら仕上げていきます
叩く場所やつくる形状によって鳥口を選び、20本余りを使い分けながら仕上げていきます

「鳥口の手入れはほとんどしてないな。でもさ、使わないから道具は錆びるんだよ、毎日のように使っていれば道具も磨かれるんだって」

そう言い残してお昼休みに入っていった細野さん。道具は使い続けることで磨かれる。私たちが生活の中で道具と向き合う時にも大切にしたい、素敵な言葉です。

一つ一つが個性的でその全てが美しい玉川堂の銅器を支えていたのは、200種類もある縁の下の力持ち、鳥口という相棒でした。

燕鎚起銅器に関する詳しい記事はこちら

文:庄司賢吾
写真:神宮巨樹

*こちらは、2016年11月24日の記事を再編集して公開しました

日本一の「貝ボタン」は、なぜ海のない奈良で作られるのか?

奈良盆地のほぼ真ん中にある、田んぼに囲まれた磯城郡川西町。この街を歩いてみると、あちこちの庭先や路地で、きらきらと光る貝殻のかけらを目にすることがあります。奈良県は海のない土地。なぜ貝がこんなところに?

川西町という町の名のとおり、こちらには6つもの川が流れていてかつては大阪からの舟運の集散地でした。貝殻はどうやらこの川をつたってこの地にやってきたようです。詳しいお話を伺いに「株式会社 トモイ(以下トモイ)」を訪ねました。

_ds_0224

町全体が貝ボタン工場だった川西町

「ここは、貝ボタンの生産地です。うちは100年近く貝ボタンを作ってます」と「トモイ」3代目の伴井比呂志(ともいひろし)さん。

明治時代のはじめごろ、貝ボタン製造の技術がドイツから神戸へと伝わり、その後、大阪河内を経由して奈良へ。海のない奈良県で舟運にめぐまれた川西町は、またたく間に貝ボタン製造の中心地になったといいます。

「昭和20年代から30年代ごろは最盛期で、このあたりの400世帯のうち300軒ぐらいは貝ボタンの仕事をしていました」。当時は、ぬき屋・穴あけ屋・磨き屋などボタンづくりは分業で、みんな軒をつらねていたので、町全体が貝ボタン工場のようだったそう。道すがら見つけた貝殻のかけらは、約半世紀前の繁栄の名残です。

しかし現在では、ポリエステル製のボタンが増えたこともあり、貝ボタン製造に関わるのは町内でほんの10軒程度。そんな中、1913年に創業した「トモイ」は今も貝ボタン国内シェアの50%を生産しています。つまり、日本一の貝ボタン屋さんなんです。

貝ボタンの作り方

ここからは、貝殻がきらきら光る貝ボタンになるまでを追います。

まず、貝ボタンの元になるのは高瀬貝・黒蝶貝・白蝶貝などで、南太平洋の美しい海から運ばれてきたもの。しかも、生きた貝だけをつかいます。海の中で死んだ貝はもろい上に、白っぽくぼけた色になってしまうからだそうです。

まずは、ぬき屋さん。貝殻の買いつけから、貝をくり抜くまでを担当します。貝の渦巻きに沿って、らせん階段のようにぐるりと生地をくりぬきます。

_ds_0215
貝の底の部分は肉厚で粘りがあるため質が良いそう。こちらは高瀬貝

ここからは「トモイ」さんのお仕事。ぬき屋さんから届いた材料は厚さ別に選り分け、厚みを調整します。貝の断面は層になっているので、ボタンになったときにちょうど美しい層があらわれるよう、回転する砥石で表裏を削っていきます。

_ds_0226
まだボタン穴は空いておらず、丸いチップ状です

ボタンの形に彫る工程では、機械が表と裏の判別ができないので人の手でボタンの表裏を確認してセット。機械をつかうと言えど、なかなか手間がかかります。

_ds_0095
一枚一枚目で見て、機械にセットします

硬い貝殻にボタン穴を開けるには、硬い針が必要。針をしっかり研いで機械のメンテナンスをするのも、職人の仕事です。

_ds_0085
ボタン穴があけられます。針の研ぎ具合にも、熟練の勘が必要だそう

ボタンの角に丸みをつける工程では、化車(がしゃ)と呼ばれる箱の中に、ボタンと水、そして磨き砂を入れて3〜4時間ぐるぐると回転させます。回しすぎると丸みがつきすぎて形が変わってしまうので、時間のかけぐあいも勘が頼り。

さらに文字や模様が彫刻されたボタンを作るには、レーザー彫刻機や、先代が考案したというNC彫刻機を使って細工を施します。

_ds_0173
NC彫刻機は、滑らかな仕上がりが特徴の機械

_ds_0075
レーザー彫刻機は短時間で正確に彫れる強い味方

艶出しの作業では、テッポウと呼ばれる木桶の中に熱湯とボタンを入れ、薬品を点滴のように垂らしながら約1時間回転。ボタンの大きさや気温や水温により、微妙な調整が必要なんですって。

_ds_0159
薬品の垂らし具合も絶妙な調整が必要

うまく艶がでたボタンに、さらに磨きをかけます。八角形の木箱にボタンと、ロウを付着させた籾(もみ)を入れて、またまた1時間回転。ロウがリンスのような役割を果たして、貝ボタンが何ともなめらかに仕上がります。この光沢こそが貝ボタンの命だそう。

こちらでは籾(もみ)を使いますが、スイカの種や、漆の実を使うというボタン屋もあったそう

そして、欠かせないのが最後の検品作業。必ず人の目で一つひとつを厳しくチェックします。山のようなボタンを3人がかりで切り崩す姿。素早く、ていねいな選り分けにびっくりです。

_ds_0196
手を抜けない真剣勝負。とても目が疲れる作業だそう

_ds_0194
表裏くまなくチェック。1等品か2等品か迷うものは、2等品にするそう

_ds_0201
枠にざっとボタンを流し込み、きれいに収まればこれで500個。昔から使われてきた道具

_ds_0211

独特の重量感があり、しゃらりと滑らかな美しい貝ボタンができあがります。

貝がストレスを感じる?天然素材ゆえの難しさ

貝は天然素材。生きています。

今では世界的に真珠養殖の技術が良くなったこともあり、貝の中には何度も真珠を抱かされて、疲れてしまう貝があるのだそう。疲れてストレスを受けてしまった貝は、貝殻に段ができてしまうのだといいます。

となると、貝ボタンの良い材料を探すのもなかなか大変。海外で安価につくられるボタンは、厚みを確保するために貝のもろい皮の部分も使うことがあり、そのボタンは弱くて割れてしまうこともあるのだとか。

「トモイ」では、強くきれいな貝だけを選んで使います。川西町の日本一の貝ボタンはその品質もまた誇りです。

「この地でしかできない品質で、貝ボタンの誇りを守る」

「トモイ」が創業した頃、先代であるご両親は祖父母に奈良の工場をまかせ、幼なかった伴井さんを連れて上京します。それは、国内販路の開拓のため。

ボタンだらけの小さな部屋で、ご両親は寝る間を惜しんで働いていたとか。その努力の甲斐あって貝ボタンの受注は一気に増え、さらに高度成長期の波に乗って、奈良へ戻ると従業員を70名も抱える大きな会社に成長したのだといいます。

_ds_0083
過去につくった別注ボタンがずらり。世界のスーパーブランドも奈良の貝ボタンを使っています

伴井さんは、学校を卒業してからイタリアへ1年単身留学。ボタン機器の世界的メーカー「ボネッティ」でさまざまな貝ボタン製造技術を学んだ成果を奈良に持ち帰ります。

より品質の良いボタンを作れるようになったものの、新しい取り組みは昔からの熟年職人さんにはなかなか受け入れてもらえず、辞めていく方もあったのだそう。「僕が小さい頃からよく知っていて、長く会社を支えてくださった職人さん。その気持ちも痛いほどわかるし、やっぱり辛い経験でした」。

_ds_0239
「トモイ」3代目伴井比呂志さん。素材の色と厚みをうまく生かした貝ボタンをつくります

社長になって、今年で23年。今もこの地でつながりのある業者さんや、自社の職人・スタッフの力なしでは、品質の良いボタンはつくれないという伴井さん。

「天然素材って手を抜こうと思えばなんぼでも手を抜けるんですけど、うちは絶対にそれはしません。信頼のある人たちと一緒に貝ボタンの誇りも守ります」。

たかがボタン、されどボタン。広い海の中で育った貝殻でつくる小さな貝ボタンは唯一無二の魅力があります。いま皆さんの着ている洋服にも、伴井さんたちがつくった貝ボタンがついているかもしれません。

<取材協力>
株式会社 トモイ

文:杉浦葉子
写真:下村亮人

*こちらは、2016年11月23日の記事を再編集して公開いたしました