日本で初めて磁器が焼成された有田。
2016年には有田焼創業400年を迎えました。
そんな有田に全国でも珍しい、鳥居や狛犬まで焼きものづくしの神社があります。
有田焼陶祖の神「陶山神社(すえやまじんじゃ通称とうざんじんじゃ)」です。
磁器でできた鳥居や狛犬とはどんなものなのか。
一目見たいと出かけてきました。
踏切の向こうに広がる神域
JR有田駅から歩いて15分ほど。
階段を登ると…
わ!突然、踏切!
なんと、参道の前に線路が通っています!
「豪華列車の“ななつ星”が通ったりして、なかなかいいですよ」と、お話するのは陶山神社、宮司の宮田胤臣さん。
JR佐世保線の博多〜佐世保間を開業する際、有田には線路を通す場所がなくて、神社の一番端を通すことになったそうです。
山々に挟まれ、昔は住んでいる人も、人の行き来も少なかったという有田。1616年に陶石が発見され、焼きものの生産が始まると町が栄えていきました。
陶山神社の創建は1658年のこと。
「それまで、有田の方は伊万里の神原八幡宮さんにお参りに行かれていたようです
産業も盛んになり、景気も良くなってきたので、有田の町にも神様をお祀りしたいと応神天皇さまを主祭神に迎え、創建されました」
以降、有田焼の窯元、商人をはじめ、有田の人々を見守っています。
なにからなにまで焼きものづくし
石段を登っていくと、
大きな鳥居が現れました!
表面は全て磁器でできています。すごい!
白地に青い唐草模様が映えて、とてもきれいです。
そして、狛犬。
ちょっと独特なお顔でかわいらしい。
ほかにも、
本殿裏手にまわると欄干まで磁器です!
境内のあちこちに焼きものがあり、発見するのも楽しくなります。
挑戦し続ける職人たちの心意気
なんとも有田らしく、訪れる人を喜ばせてくれる神社ですが、これらの焼きものはどなたが奉納されたのでしょうか。
「窯元さんや職人さんはじめ、各地区のみなさんからお納めいただいています。かつては職人さんたちの技術革新の場になっていたんじゃないかなと思います」
技術革新の場?
「はじめは小さな器から作り始めて、そのうち四角い物はどうやって作るのか、動物の形はどうすればいいのか、いろいろと試行錯誤を重ねていかないとできません。
そうやって自分たちが挑戦した成果として、神様にご奉納する。鳥居や狛犬さんを作ることで神様への感謝の気持ちを表すとともに、自分たちの産業の発展にもつなげていったのだと思います」
なるほど。そう言われて改めて見ると、狛犬の姿から職人さんの懸命な努力と心意気が感じられ、格別な味わいがあります。
この大きな鳥居は、どうやって作っているのでしょうか。
「いろんな窯元さんが一緒になって作っていただいているようです。柱の円筒形になっている部分と上の四角い部分は、作っている職人さんが違うんです。
有田焼は分業制なので、丸もの細工人さん、角もの細工人さんと分かれています。絵を描く人も、もちろん別の人ですね」
「当時は機械ではなく手で成形しているので大変だったと思います。奉納された当時の技術でこれができるというのは、すごいことだそうです。大変な努力をされたんだろうなと思いますね」
鳥居は一度、台風で倒れてしまい、焼き直しや継ぎ合わせて修復されています。
「少し青が濃く見えるのは焼き直した部分です。今はコバルトを使っているんですけど、昔は別のものを使っていたもので、薄い淡い色をしていたんですね。技術の進化を見ることもできますね」
先ほど通ってきた参道にも焼きものの燈篭がありました。
「あの灯篭は、お年を召された参拝者の方が階段を上るのは大変だろうから、下からも焼きものが見えるようにしてあげたいということで、全部同じ方が奉納してくださいました。ありがたいなあと思います」
有田の町を見守る陶祖
有田焼は1616年、朝鮮からやってきた陶工・李参平が有田泉山で陶石を発見し、焼成が始まったのがはじまりと言われています。
神殿から陶祖坂と名のついた坂道を上っていくと、
有田焼陶祖・李参平の碑があります。
この碑は、有田の礎を築いた李参平の功績をたたえ、1917年、有田焼創業300年を記念して建てられました。
碑文には「公はわが有田の陶祖であることは無論のこと、我が国、陶業界の大恩人である。現在陶磁器関係に従事する人は、その恩恵にあずかっている、その偉業をたたえここに仰ぎ祀る」と記されています。
碑の建つ場所からは有田の町が一望でき、陶祖から見守られているようです。
「100年前、この碑を建てたときは、人力で石を上げていたようです。先ほどの鳥居の前まで電車で運んで、あそこで下ろして、そこから運んだらしいですよ」
境内に電車を通したことがそんな役に立つとは。お導きのようにも感じます。
有田の人々が特別な思いで参列する陶祖祭
碑が建てられた1917年より、5月4日には有田焼の繁栄を願って「陶祖祭」が行われています。
窯元や職人をはじめ、韓国の陶業界の方々も参列し、先人たちに感謝を述べているそうです。
神殿に陶祖祭で詠まれた参列者の歌が飾られていました。
「350年祭の時のものです。これを読むと、当時の様子がよくわかります」
大鈴の 山車も陶器よ 陶祖祭
紋服で参ずる 釜男 陶祖祭
技術を結集させて作った大鈴の山車を、いつもの作業着ではなく紋付袴姿で誇らしげに見つめる陶工たち。
陶祖祭が町の人たちにとって、特別な存在であることがよくわかります。
叩いても割れない?有田焼ならではの硬い太鼓
「こちらの太鼓も焼きものなんですよ」
え?これも!?
「胴の部分が焼きものです。割れませんよ (笑) 有田焼は焼く温度が高いんです。高い温度で焼くと、硬くなる。硬くなればなるほど強いんです。だから薄いものも作れるし、割れにくいんです」
でもちょっと叩くのは怖いような。
「いつも使っています。木製の太鼓なんかに比べると少し高い音がしますね」
太鼓まで作れるとは恐るべし有田焼。御見逸れしました。
宮司自ら奉製するお守り
焼きものの神様は他所にないこともあり、陶山神社には全国から参拝客が訪れるそうです。
「職人さんや窯元さん、商人さん、焼きものに従事している方はたくさん来られていますね。新しい商品を作ったり、どこかに出品する時なんかにも持って来られて、祈願される方もおられます」
毎年来られないという方にはお札の発送も対応しているそうです。
そして、そのお札も焼きもの。
「これはうちの窯で焼いています」
え?窯があるんですか!?
「自分たちでできるものは全て作っています」
1987年頃より、先代の宮司さんが作りはじめたもの。宮田さんも学校で焼きものの技術を学んだそうです。
宮田さん自らデザインを考案されたという御朱印帳も素敵です。
「参拝にいらした方との話題を考えながら、楽しんで作っています。年末は絵馬を作るので大忙しで、てんやわんやしてます。窯元さんかと思うぐらい(笑)」
「皆さまから支えていただいて、お宮があります」と言う宮田さん。
お守りやお札には感謝の気持ちが込められています。
先人への感謝を忘れず、研鑽を積みながら発展していく有田焼。
その礎を感じられる陶山神社です。
<取材協力>
陶山神社
佐賀県西松浦郡有田町大樽2-5-1
0955-42-3310
http://arita-toso.net/
文:坂田未希子
写真:菅井俊之