プロに教わる、おいしい柚子胡椒の楽しみ方

旬のゆずの魅力たっぷりの「ゆずごしょう講座」、プロおすすめの使い方とは?

「ゆずごしょうには、旬があるんですよ」

そう始まったのは、1年でも9月のひと月だけ開催される、フードアドバイザー 神谷禎恵さんの「ゆずごしょう講座」。

"フードアドバイザーの<a

この9月のひと月だけ旬を迎えるゆずと、青唐辛子、塩の3つがあれば、自分でおいしいゆずごしょうが作れる。

ゆずごしょう

そんな「ゆず仕事」の魅力を世の中に発信するために、神谷さんは自宅で作れる「ゆずごしょうキット」を考案し、作り方や使い方を伝授する講座を、ゆずの旬に合わせて毎年開講しています。

ゆずごしょうキット商品写真
全国各地で行われているゆずごしょう講座 (予約制) 。今回は中川政七商店の表参道店での回に参加してきました
全国各地で行われているゆずごしょう講座 (予約制) 。今回は中川政七商店の表参道店での回に参加してきました

前編では講座で教わった作り方を簡単にご紹介しました。ここからは「こんな楽しみ方もあったのか!」という【使い方】編です。

旬のゆずごしょうはこう味わう

神谷さんの軽快なトークと共に進むゆずごしょう作り。完成する頃には、フレッシュなゆずの香りがあたりいっぱいに満ちています。

神谷よしえさんのゆずごしょう講座
神谷よしえさんのゆずごしょう講座
神谷よしえさんのゆずごしょう講座

ゆず・唐辛子・塩というシンプルな素材がみるみる色鮮やかなゆずごしょうに変身するうちに、参加者の皆さんも自然と前のめりになって、写真をとったり、作り方のメモをとったり楽しそう。

和気あいあいとした雰囲気の中、運ばれてきたのはクリームチーズを乗せたクラッカーに、チョコレート。これに、ゆずごしょう?どちらも意外な取り合わせです。

神谷よしえさんのゆずごしょう講座

「実はこういう乳製品とゆずごしょうは、とても相性がいいんです」と神谷さん。

確かにマイルドなクリームチーズの中にピリッとゆずごしょうが引き立って、これだけで立派な料理の一品。お酒を合わせるならワインでしょうか。

神谷よしえさんのゆずごしょう講座

同じ理由で、乳脂肪分のあるチョコレートとも相性抜群でした。あまり厚みのあるものより、薄手のチョコレートに乗せて味わうといいとのこと。

見た目にもさわやかな取り合わせ
見た目にもさわやかな取り合わせ

たまご掛けごはん × ゆずごしょう

そして今日の目玉とも言えるのが、ゆずごしょう on たまご掛けごはんです。

神谷よしえさんのゆずごしょう講座
そばちょこで試食

あまり混ぜ込まずに、ごはんと卵の上にゆずごしょうを乗せた状態で口に運ぶのがポイントとのこと。

神谷よしえさんのゆずごしょう講座

一口ほおばると、炊きたてのご飯にピリリと効いたゆずごしょうの辛味、卵のまろやかな舌触りが折り重なって口いっぱいに広がります。

「うわぁ」「おいしいー」とニコニコしていた参加者一同、己と向き合うかのようにだんだん静かになっていきました。

「おいしい時は、だいたい皆さん黙っちゃうんですよね」と神谷さんが笑います。

さらに極めるなら、ごはんの上に卵白をメレンゲ状にしてかけ、その上に黄身、ゆずごしょうと載せてほおばると、抜群においしいとか。ああ、早く帰って自分でもやりたい。

締めの一品、バニラアイス×ゆずごしょう

さらに最後のもう一押しが、バニラアイス!

ゆずごしょう 講座

一口食べたそばから「おいしいー!」と感嘆の声がどこからともなく上がり、またしばらく無言の時間が続きました。

合わせるアイスは、濃厚すぎず、シャーベット状でもない、一番ベーシックなカップアイスがおすすめだそうです。

ゆずごしょうは年を越さずに使い切るべし。なぜなら‥‥

おいしさの余韻にしみじみ浸る中、最後には出来立てのゆずごしょうのお土産が1人ずつに手渡されます。

量が限られるので、どう味わうかは本当に悩みどころ。私はクリームパスタに合わせることに決めました。帰りにバニラアイスも買って帰ろう。

実際のキットでは保存用の瓶が2本ついて、そのまま作ったものを保存できるようになっているとのこと。

ゆずごしょうキット商品写真

「塩分を多くすれば1年でも持ちますが、私のおすすめは9月に作ったものを12月くらいまでに使い切ること。

なぜなら12月ごろになると、熟した黄ゆずが出てきて、この黄ゆずのゆずごしょうも一度味わうとファンになる方が多いんです」

新情報に早速参加者の方から「それも講座をやっていただけるんですか?」と前のめりな質問が飛び出し、すっかり皆さん、ゆずごしょうの世界にはまって、大事そうに今日のお土産をしまいながら帰路についていかれました。

12月の黄ゆずのゆずごしょう講座、あったらやはり、すぐに申し込んでしまいそう。

ゆず仕事は、まだまだ奥が深そうです。

<関連商品>
「旬の手しごと 青い柚子胡椒」

文:尾島可奈子

結婚式やご祝儀が華やぐ「金沢・加賀水引細工」の世界。津田水引折型が受け継ぐ「気持ちを贈る工芸」とは

立体的で華やかな、加賀水引

結納や結婚式などのお祝い事、あるいは不祝儀にもかかせない水引

あわじ結びと言われる結び方が基本ですが、とくに祝儀においては様々なアレンジが加えられ、華やかに贈り物を包みます。

たとえば、こんなふうに。

蝶々に結ばれた祝儀袋
松に結ばれた祝儀袋

かつての水引は平面的なもので、こうした立体的で華やかな水引細工が使われるようになったのは大正時代になってからのこと。なかでも、石川県の津田左右吉氏は数々の独創的なデザインを考案しました (※) 。いまも「加賀水引細工」の名で、金沢の希少伝統工芸に指定されています。

その技術を受け継ぐ工房、津田水引折型を訪ねました。

加賀水引 津田水引折型
大正6年 (1917年) 創業の加賀水引 津田水引折型
5代目 津田六佑さん
5代目 津田六佑 (つだ ろくすけ) さんにお話を伺いました

平たく折るのは難しい?きっかけは作りやすさ

「もともと、水引や折型 (おりかた=和紙を折って品物を包むこと) を用いることは上流階級の人々にのみ許されていました。一般の人々に開放されたのは明治時代に入ってからのことです。

武士のマナーの基準となっていた小笠原礼法流の水引折型が、明治後期から民間に広まり始めます。加賀水引の創始者、津田左右吉はそれを勉強し、結納品を整える仕事を始めました。

しかし、用途ごとの複雑な折型をきっちりと折り畳むのは、なかなか難しいものでした。少しでも折り目が崩れたり、歪んだりすればすぐに品のないものになってしまいます。

水引折型は、その清しく端正な姿こそが価値です。左右吉は、研究をするうちに一つのアイデアを思いつきました。平たく折り畳んでしまわず、ふっくらとしたまま折り目を付けず、それを胴のあたりでぐっと水引で引き結んでみてはどうか、と。

そうすることで、技術的なアラが目立たず、作業も楽で、しかもボリュームのある華やかなフォルムが出来上がる。今も受け継がれる綺麗な結納品の水引折型は、こうした苦心の末の、いわば逆転の発想によって完成したものでした」

立体的な加賀水引細工
ふっくらとしたままの和紙を、水引で引き結んだもの
結納の品々
加賀水引に包まれて賑々しく並ぶ結納品

はじめこそ簡単にするために思いついた方法でしたが、美しさを追求し、独自の進化を遂げていきます。現在の結納飾りや祝儀袋に飾られる鶴亀や松竹梅などは、左右吉さんの考案した水引細工が原型となっているものもあるのだそうです。

創始者の左右吉さんの息子、太一さんが残したスケッチ
創始者の左右吉さんの作品スケッチ。息子の太一さんが描き残しました。縁起のよい結び方「あわじ結び」をベースにデザインされています。当時から豪華だったことがうかがえます。

また、津田家の人々は、結納業の傍ら、水引と和紙などを使って、人形や植物をモチーフに内裏雛や甲冑といった水引細工の作品も数多く作り出します。

二代目となった左右吉さんの次女、津田梅さんの代には芸術分野においても高い評価を受け、その作風を「加賀水引」として確立。全国に広く紹介されるようになり、金沢の希少伝統工芸として定着しました。

水引細工のパーツ
水引の締め具合を調整することで様々な形に仕上げていきます
羽の部分のように水引を均等な隙間で並べるのが難しいのだそう
羽の部分のように水引を均等な隙間で並べるのが難しいのだそう
その独自性と美しさが認められ、皇室献上品ともなりました
その独自性と美しさが認められ、皇室献上品となったことも

「魔除け、縁結び、未開封」‥‥水引に込められた意味

美しく目を楽しませてくれる水引細工ですが、装飾としての演出だけでなく、様々な意味が込められているのだといいます。

「水引の起源は、聖徳太子の時代に遡ります。遣隋使が持ち帰った品物に紅白の麻紐がかかっていました。受け取った日本人たちは、そのぎゅっと結ばれた紐に、ご縁が長く続くようにという縁結びの意味合いを感じたと言われています。

また、当時海を渡るのは大変なことで、天災や海賊など様々な厄災が待ち受けていました。そうしたものを払う厄除け、魔除けの意味合いや、まだ何者にも開けられていない『未開封』の意味を見出したそうです。

麻紐から和紙をよって作る水引に変化しても、その3つの意味合いが包むことの本質として残りました。むしろ、和紙を使うことで千切れにくくなり、より一層その意味合いは深まったかもしれません」

水引は先端をひっぱるとさらに堅く締まります。リボン結びによる包装とは異なり、
あわじ結びは端を引くとさらに堅く締まります。結びや封の意味合いから、ほどけにくい結び方になっているのだそう。両端を引くとはらりと開くリボン結びとは対照的ですね

さらには、和紙の折型にも祈りが込められています。

「紙を折ることは、神聖な行為と考えられてきました。紙の折り方に様々な意味合いがこめられています。霊符、折符などと呼ばれますが、祈りを込めて意味合いに沿って折られた紙は、『携帯する神社』とも呼ばれるものなんですよ。

中身は同じでも、包み方で意味合いが変わり、新たな価値が生まれる。そんな考え方があります」

 霊符(折符)=携帯する神社(神様を身につけているのと同じ)
家内安全、五穀豊穣、招福、厄落とし‥‥折り方で様々な意味合いを持つ霊符

「加賀水引は、細工のことだけでなく、和紙で『包む』、水引で『結ぶ』、差し上げる理由や名前を『書く』、この3つの工程全てを指しています。その本質は相手とのコミュニケーションにあると思っています。

市場価値に関係なく、その人にとって大切なものだからきちんと包んで気持ちを添えて贈りたい。そんなご依頼も色々といただきます」

気持ちを贈る工芸。大事に受け継いでいきたいと、津田さんは力強く語ってくれました。

<取材協力>
津田水引折型
http://mizuhiki.jp/
石川県金沢市野町1-1-36
076-214-6363

文・写真:小俣荘子
画像提供:津田水引折型

※参考文献
「伝統の創生-津田左右吉による加賀水引折型細工の創始-」 山崎達文/著 (『富山市篁牛人記念美術館 官報』第8号 1998年3月)
「加賀の水引人形師」本岡三郎/著 (北国出版社 1970年5月)

この連載は‥‥
日本人は古くから、ふだんの生活を「ケ」、おまつりや伝統行事をおこなう特別な日を「ハレ」と呼んで、日常と非日常を意識してきました。晴れ晴れ、晴れ姿、晴れの舞台‥‥清々しくておめでたい節目が「ハレ」なのです。
こちらでは、そんな「ハレの日」を祝い彩る日本の工芸品や食べものなどを紹介します。

*こちらは、2018年5月5日公開の記事を再編集して掲載しました。贈りものに込められた意味をきちんと理解するのも大事だな、と改めて思いました。



<掲載商品>

飯田水引の祝儀袋

プロに教わる、おいしい柚子胡椒の作り方

「マダムゆず」こと神谷禎恵さんの「ゆずごしょう講座」を体験!

「ゆずごしょうには、旬があるんですよ」

と教わったのは、先日好評だった「9月は梅仕事ならぬ『ゆず仕事』を。おいしい柚子胡椒を自分で作るキットに出会いました」の記事で神谷禎恵(かみや・よしえ)さんにインタビューした時のこと。

フードアドバイザーの神谷禎恵さん。「料理研究家と違って、料理は決して得意ではない。けれど、食を通して人を幸せにしたい思いは人一倍」。地元大分でゆずに出会い、ゆずごしょうの魅力を広める活動を10年以上続ける。人呼んで「マダムゆず」
フードアドバイザーの神谷禎恵さん。「料理研究家と違って、料理は決して得意ではない。けれど、食を通して人を幸せにしたい思いは人一倍」。地元大分でゆずに出会い、ゆずごしょうの魅力を広める活動を10年以上続ける。人呼んで「マダムゆず」

この9月のひと月だけ旬を迎えるゆずと、青唐辛子、塩の3つがあれば、自分でおいしいゆずごしょうが作れる。

ゆずごしょう

そんな「ゆず仕事」の魅力を世の中に発信するために、自宅で作れる「ゆずごしょうキット」を考案し、10年以上発信し続けてきた神谷さん。

ゆずごしょうキット商品写真

そのお話は本当にゆず愛に溢れていて、インタビューが終わるやいなや、私は真っ先にある講座に申し込みをしたのでした。

それは神谷さんが直々に作り方や使い方を伝授してくれる、ゆずごしょう講座。ゆずの旬に合わせて、1年でもこの時期だけの開催です。

全国各地で行われているゆずごしょう講座 (予約制) 。今回は中川政七商店の表参道店での回に参加してきました
全国各地で行われているゆずごしょう講座 (予約制) 。今回は中川政七商店の表参道店での回に参加してきました

9月8日の午後の日曜、ゆずの香りにたっぷり包まれながら体験した講座の様子を、作り方編、使い方編に分けて、ご紹介します。まずは【作り方】編から、スタートです!

究極のゆずごしょうを求めて

神谷さんは大分県宇佐市の出身。市内には長い間、西日本で生産量1位の座をキープしていた院内 (いんない) 町というゆずの一大産地があります。

ゆずごしょう

しかし、神谷さん自身もこの取り組みを始めるまでは全く知らなかったと言うほど、近年では高齢化で勢いが失われつつありました。

そんな産地を元気にしようと、2008年に神谷さんが考案したのが「ゆずごしょうキット」。

ゆずごしょうキット商品写真

中身はいたってシンプル。旬のゆずと、青唐辛子と塩だけです。

今日のテーブルにもキットと同じように、3種類の材料だけがセットされていました。

神谷よしえさんのゆずごしょう講座

「材料も作り方もとってもシンプルなんですけど、シンプルである分、素材やちょっとした作り加減で味が変わります」

神谷よしえさん

「私が10年以上この取り組みを続けているのは、未だに究極のゆずごしょうを作れていないから。

作っていて、『あれっ先週が一番良かった』って思うんですよね。ピークの時に気付かない。

過ぎてから『なんだ先週ちゃんと仕込んでおけば良かった』を毎年繰り返しながら、気が付いたらこうやって10年以上続いているという感じです」

それほどわずかな期間で走り・旬・名残と移ろうゆずの季節。

院内ゆず

9月の初旬に旬が始まり、末頃には多くの農家さんが全ての収穫を終えます。

神谷さんがキットに使用しているゆずは、院内町余谷 (あまりだに) で佐藤敏昭さん、了子さんご夫妻がつくっている「ハンザキ柚子」。

ゆずごしょう

日当たりや風通しにも気を配り、無農薬でていねいに手入れされて育てられたゆずで、皮が格別においしいとのこと。

神谷さんはその中でも毎年のゆずの出来具合いや天候を見ながら、ゆずごしょう作りにベストの実を選んでキットに詰めるそうです。

ゆずの年ごろ

「突拍子もないようですが、ゆずの旬って私の感覚でいうと『18歳』くらいなんです」

神谷よしえさんのゆずごしょう講座

「表面にハリがあって、皮にピッと爪を立てるとシュワっと香りの粒が飛び出て部屋中がゆずの香りになるくらい。まさに青春真っ只中って感じなんですね」

ところが寒い日が急に続いたりすると、表面が黄緑っぽく変化し、あっという間にちょっと大人びた「19、20歳くらい」のゆずに。フレッシュさが薄らぐそうです。

「今日のは、18歳と言うにはまだ小ぶりでちょっと硬いので16歳くらいかな (笑)」

神谷よしえさんのゆずごしょう講座

そう話しながらゆずの皮をむいていきます。

神谷よしえさんのゆずごしょう講座

「むく時は、上手にキレイにむこうとしなくてOK。この後フードプロセッサーにかけます。それとこのゆずは白い部分もおいしいので、ぜひ一緒にむいてたっぷり使ってくださいね」

神谷よしえさんのゆずごしょう講座
神谷よしえさんのゆずごしょう講座

むくそばから立ち上るさわやかなゆずの香り。あっという間に5つ6つと皮がむき終わりました。

ゆずごしょう講座

実の方はしぼって醸造酢と醤油と合わせれば立派なゆずポン酢になるよと神谷さんのアドバイス。こちらも後のお楽しみです
実の方はしぼって醸造酢と醤油と合わせれば立派なゆずポン酢になるよと神谷さんのアドバイス。こちらも後のお楽しみです

ゆずごしょうのいい塩梅とは

ここで早速試食タイム。「まず皮そのもののおいしさを味わってもらいたいから」と、皮と塩だけを合わせた状態の試食をさせてくれるとのこと。

神谷よしえさんのゆずごしょう講座

「塩は、キットでは大分県佐伯市の自然海塩を入れていますが、加減さえ間違えなければ、どんなお塩と合わせてもらっても大体OKです」

今回は淡路島の釜焚塩を使います
今回は淡路島の釜焚塩を使います

お塩の割合は、常温で長くもたせたいか、その場でさっと使いたいかでも幅があるそう。講座ではその年のゆずや唐辛子の出来も見ながら用途に合わせて割合をアドバイスしてくれます。

「なんにしてもポイントは、先に「ゆずと塩」を合わせてすってから、そこに「唐辛子と塩」を少しずつ加えて混ぜていくこと。そうすると辛さやしょっぱさを自分好みのいい塩梅に調整できますから」

フードプロセッサーですり下ろしたゆずを見せてもらうと・・・
フードプロセッサーですり下ろしたゆずを見せてもらうと・・・

あざやかな緑色!
あざやかな緑色!

青々とした色合いに思わず参加者の皆さんも写真撮影。それまでのゆずごしょうのイメージって、もっとくすんだ緑色でした。

「そうでしょう。これが旬のゆずでしか出せない、作りたての色なんです。

市販のゆずごしょうを知っているとキットで作る出来立ての姿とあまりにも様子が違うので、売り出した当初は驚いた人からクレームがたくさん来たくらい。

それなら実際に作って見てもらった方が早いと思って、この講座を始めたんです」

試食させてもらいました
試食させてもらいました

口に入れた瞬間、ゆずの香りがふわっと鼻に抜けていきます。

細かく刻まれた皮の食感もしっかりとあって、「このままお吸い物に散らしたり白身のお刺身なんかを食べるお醤油にちょっと入れたりすると…」という神谷さんのアドバイスに、どんどんお腹が空いていきます。

青唐辛子の扱い方

さぁ、ここまで来たらいよいよ次は青唐辛子と合わせていきます。

神谷よしえさんのゆずごしょう講座

キットに入っている青唐辛子は、大分県日田市天ヶ瀬産のもの。昭和の初めから柚子胡椒用に作られているもので、鷹の爪ほど辛くはなく、唐辛子そのものを食べてもおいしいといいます。

ゆずごしょう キット 唐辛子

使うときのポイントは種。

「半分に切ってみて、種が落ちてくるのは唐辛子の完熟化が進んで種が固くなってる証拠ですね」

こちらは若い唐辛子なので、タネが少なめで綿がしっかり残っている。この状態なら、このままフードプロセッサーにかけてもOKだそう
こちらは若い唐辛子なので、タネが少なめでで綿がしっかり残っている。この状態なら、このままフードプロセッサーにかけてもOKだそう

「固くなってる種はフードプロセッサーに入れても潰れないので、取ってもらった方が辛すぎないです。出来るだけ柔らかいところを入れて、硬いところは落とすように」

神谷よしえさんのゆずごしょう講座

ここでまた唐辛子の量に対して塩を加え、先ほどのゆずと一緒にフードプロセッサーですりつぶしていきます。

神谷よしえさんのゆずごしょう講座

「最近は温暖化のせいか、前年と同じ時期に摘んでも辛くなるペースが早くなって来ています。昔はゆず2に唐辛子1の割合でしたが、ここのところはもう少し唐辛子の割合を少なくした方がおいしいですね」

神谷よしえさんのゆずごしょう講座

とは言ってもベストの割合は、毎年の出来具合いや個人の好みによってもちょっとずつ変わります。講座でも毎年適量を判断してお伝えするそう。

だからこそ辛みを好みで調整できるよう、ゆずと青唐辛子を分けてすりつぶすのが大事なんですね。

最後の仕上げは手作業で

ここで最後にもう一手間。神谷さんのゆずごしょう講座では必ず最後に、すり鉢で材料をすりつぶします。

すり鉢

「フードプロセッサーでも粒度は細かくできますが、刃で切っているので角が立っています。すり鉢を使うと、より舌触りが滑らかになるんですね。

今日のすり鉢のようなコンパクトなサイズでも作れますが、できるだけ重心が下にある、大きめのすり鉢がおすすめです。すりこぎも長い方が使いやすいですよ」

いよいよすっていきます!
いよいよすっていきます!

すり鉢は、ゆずごしょうをおいしく仕上げるだけでなく、神谷さんがこの講座で大切にしているテーマに欠かせないアイテムだそうです。

すり鉢を使う意味

「私の講座のテーマは「ばあちゃんが縁側で作るゆずごしょう」なんです。

そもそもゆずごしょうって、きっとゆずの産地として町が発展する中で、ゆずそのものとしては大きさや見た目に難があるけれども、それでも味には遜色ないゆずをどうにか使えないか、と言うところからお母さんたちの知恵で生まれたものだと思うんですよね」

神谷よしえさんのゆずごしょう講座

「私としてはそういう、ゆずごしょうが生まれてきた背景や、お母さんたちがこの季節に毎年のように積み重ねてきた、その風景丸ごと伝えていきたい。

ゆずごしょうキット

家々のばあちゃんたちは縁側で大きなすり鉢を使ってゆずごしょうを作ってきました。

だからこうして自分で皮をむいて、すり鉢を使って作ってみれば、そういう成り立ち丸ごと、ゆずごしょうを味わうことができるでしょう?」

完成品でなく、あえて自分で作るキットにして販売したのも、作り方を講座で伝えるスタイルになったのも、全てはこのテーマがあったから。

ゆずのいい香りとともに神谷さんのお話を聞いていると、本当に縁側の風景が浮かんでくるようで、はるばる大分の産地が身近に感じられてきます。

ただ作り方を教わる以上の何かを受け取っているような気持ちになって、毎年講座にリピーターの方が多いと言うのも納得。

さて、いよいよ講座もクライマックス。作り方や成り立ちを知った後は、おいしい味わい方もしっかり伝授いただきます。後編をお楽しみに!

<関連商品>
「ゆずごしょうキット」 

文:尾島可奈子

デザイナーが話したくなる「ふんわりウールのベレー帽 」


中川政七商店で初めて作ったベレー帽。
デザイナーの鳥海さん自身、大人になった自分がかぶりたいベレー帽って?と考え始めたそうです。

鳥海さんは、10代のころベレー帽をよくかぶっていた時代があったそうです。
それから社会人になり、学生のころとは違うおしゃれを楽しみながらも、大人になったら今度はベレー帽をかぶるのが少し照れくさいなと、遠ざかっていたアイテムになっていました。

衣料品に携わっていた鳥海さん。そろそろ中川政七商店でベレー帽を作るのもいいのではと、いろいろ調べ始めました。
よく目にするものは、フェルトのものが多いのですが、形がしっかりとしているので、頭の形によってはなんだかしっくりこないということがあるそうです。少しかぶるのにもコツと慣れが必要なんですね。



そこでminoでお世話になっている日本有数のニット産地・新潟県 五泉市の「株式会社サイフク」さんと一緒に考えました。



帽子屋さんじゃないんですね?と不思議に思いましたが、触ったら納得の風合いと柔らかさ。
ふんわり柔らかな、いつまでも触っていられるような生地感は、さすがニットのプロ!!
これでセーター作ったら気持ちがいいだろうなと思う帽子です。



柔らかいけれど、しっかりしている感じもするのは、強縮加工をほどこしているからだそう。
初めて聞いた言葉ですが、いわゆる最終的にフェルト状にする加工ということです。

細かい目で編み上げたものを加工することで、さらに毛の風合いを良くして目を詰まらせていきます。
もっと長い時間強縮加工をするとよりフェルト状になっていきますが、今回は編地とふんわりした風合いを残すための適度な加減を調整しています。
このふんわりとした状態は空気を含み、目の詰まりで風を通しにくくすることで、保温性を高めています。



帽子の形にするために、ニットを縫っている部分があるのですが、これが言われないとわからないくらい、きれいにつなぎ合わされています。
これはリンキングといって、ひとめひとめ目を刺してつなぎ合わせていく縫製方法になるのですが、ここを目立たなくするのにリンキング目をできるだけ小さくしたそうです。
リンキングでは、裏側に縫い目が出ることもないので、かぶった時のごろつきもありません。



ベレー帽らしい真ん中にちょんと付いている飾りが気に入っているのですが、これはあとから付けたものではないんです。ニットでそのまま編まれているので、細すぎず自然と帽子に馴染んでいるのが、目立ちすぎずポイントになっています。



どんな頭の形にも柔らかくてなじみのいいベレー帽。かぶっていても気にならない軽さで、きれいめにかぶっても、くしゃっとかぶっても、さまになります。
「少し照れくさいな」から、「かぶってみたい」と思える大人のベレー帽ができました。
どの年代の方にも似合う、おばあちゃんにもかぶってほしいと、中川政七商店らしい初めてのベレー帽に鳥海さんも嬉しそうでした。

わたしの一皿 卵とうつわは火加減で

先月は本を出す、と書きました。なのでこの一ヶ月は買い付けやら出かけた先でひたすら原稿を書いています。沖縄から北海道まで。

本はおとなり中国の手仕事を巡る旅のこと。そう、日本だけでなくあちこちを巡り歩いているのです。みんげい おくむらの奥村です。

そんなわけで日本のあちこちを飛び回りながらも頭の中が中国ですから、ここのところ作る料理はいわゆる中華が多い。今日もそんな一品。

これを知った人生と知らなかった人生とは大きく違う。大げさですかね。いや、本当にそう思う。

こちら男子ですから、なんとなくおかずに肉とか魚とか欲しいんですよ。しかしこれ、肉も魚もないのにご飯が進むやつ。そして超絶シンプルな素材。

いや、これはぜひ男子に覚えて欲しい一品です。いろんな場面で使って頂きたい。

材料:トマトと卵

用意するのはトマトと卵。だけ。油と塩と砂糖と水も少しずつお願いします。

はい、トマトと卵の炒め物です。これが、うまいんだ。ご飯進んじゃうんだもの。

今回は家の冷蔵庫にちょっとしわしわになりかけぐらいの完熟ミニトマトがあったのでそれを使ってます。ミニである必要はない。むしろふつうのトマトの方が個人的には好きだけど、冷蔵庫にあったもので作れるぐらいがこの料理はちょうどいい。

トマトと卵の炒め物

卵を先に炒めて取り出して、トマトを炒め、最後に卵を入れて合わせる。

とそれだけなんだけど、ポイントは砂糖で甘みを加えることでしょうか。砂糖はなくても良いけど個人的には絶対アリ派。

あと、今回はシャバシャバにしていないのだけど、ふつうのトマトだったら水分が結構でるのでさらに水を加えてシャバシャバにして、まるで飲み物かのように仕上げるのも好き。丼にしちゃえば白米がガツガツ食べられます。

数分で出来て、みんなが笑顔になる。理想的な一品ではないか、と。

鹿児島、艸茅窯(そうぼうがま)の川野恭和(かわのみちかず)さんのうつわ

今日のうつわは鹿児島、艸茅窯(そうぼうがま)の川野恭和(かわのみちかず)さんのうつわです。以前に紹介した福岡県の祐工窯の阿部眞士さんの兄弟子にあたる、磁器の作り手さんです。

磁器らしく、形にはシャープさもあるけれど、全体としてはとてもやわらかい印象のうつわ。

青とも緑とも独特な美しい色合いは磁器ならではのものだし、この暑い時期には見た目の印象も良い。

繊細な磁器の仕事。川野さんは独立し、故郷鹿児島に帰るも桜島の灰が降ることがある地元の町ではこの仕事が出来ないと考え、現在の場所に窯を構えました。

潔い形、あっけらかんとした姿は使っていけばいくほど良さを感じられるもので、そうなるともう一枚、また一枚、と欲しくなる。そんなうつわの作り手です。

川野さんの仕事で特に皆がおどろくのは蓋つきのツボや急須・ポットなど丸いフォルムのもので、その健康的な美しさは類を見ない。

うつわに盛り付ける様子

今回の真っ平らなうつわは当たり前だが使いやすい。うちの扱いの多くのものは土や窯の個性から、真っ平らなうつわを作りにくい。なのでこれはうちのうつわでも珍しいうつわ。

個人的にはナポリタンだったり、ハンバーグだったり、日本の洋食屋さんで出て来るようなものをこのうつわに盛るのが楽しいと思う。エビフライもいいですね。ポテトサラダなんか添えて。

卵を炒めている風景

そうだ、トマト卵炒めで大事なこと。卵をガチガチにしてしまいわないように気をつけたい。

いかにたまごをふわっと柔らかにできるか。なんどもなんども作って、好みの加減を見つけたい。火加減で仕上がりがこんなにも変わるのか、と。

うつわ作りも火加減ですね。同じように見えるうつわでも、火加減で雰囲気がだいぶ変わるもの。

レアもウェルダンもあるんです。手に取ったうつわからそんなことを想像してみるのも面白いもんですよ。

奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。

みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com

文・写真:奥村 忍

家具好き必見。住みたくなる「まるも旅館」で130年前の日本を体感

「ここに寄ると松本に来た実感がある」

そう常連客が口を揃える旅館があります。

まるも旅館。

まるも旅館

「日本らしい宿泊体験ができる宿」として海外旅行者からも人気を集めています。事実、宿泊客の3割は海外からのお客さんだそうです。

国籍を問わず130年以上も支持され続ける秘密はどこにあるのか。以前から憧れていた宿に、念願叶って行ってきました。

まるも旅館と珈琲まるも

まるも旅館の創業は1868年。時代がまさに江戸から明治へと移り変わる激動の時代に誕生しました。

川沿いに建つその建物は、明治中期に起きた松本の大火後に建築されたもの。

「まるも」の前をゆったりと流れる女鳥羽川
「まるも」の前をゆったりと流れる女鳥羽川
川沿いに面した手前が「喫茶まるも」。奥が「まるも旅館」です
川沿いに面した手前が併設の「珈琲まるも」。奥が「まるも旅館」です

蔵の街・松本らしい蔵造りの佇まいは、市内の観光名所、旧開智小学校を設計施工した立石清重氏の作だそうです。

手前にたつ併設の「珈琲まるも」とともに「松本民芸家具」を贅沢に使った空間が、旅館の人気の理由のひとつです。

「珈琲まるも」を訪ねた様子はこちら:「松本の朝は『珈琲まるも』 から。柳宗悦も愛した名物喫茶店へ」

松本民芸家具とは?

もともと和家具の一大産地だった松本。そんな和家具職人たちの高度な技術を駆使して生まれた和風洋家具が、松本民芸家具です。昭和の民芸運動の中で考案されました。

宿に伺う前に4代目オーナーの三浦史博さんにその見どころを伺うと、

「個人的な感想ですが、最初は塗りも強く迫力があり、重厚で優美な印象が、長く使い込んでいくと柔らかな色合いになって角が取れて優しい風合いになっていくのが、とても魅力的です」

喫茶に使われている松本民芸家具
喫茶に使われている松本民芸家具

「宿では玄関から食堂、箱庭に続く空間に、狭いながらに当時の民芸運動の志が凝縮されているように感じられて、気に入っています。

よかったらご覧になってみてください」

との答えが。

ワクワクしながらおもての戸を入ると、玄関脇にさっそく松本民芸家具らしい椅子がずらりと並んでいます。

まるも旅館の松本民芸家具

中に入ると、秋にだけ掛けるというほおずきの暖簾が出迎えてくれました。

まるも旅館
まるも旅館

暖かな雰囲気にほっと一息ついて、奥の食堂でチェックイン。

まるも旅館

もちろんこの椅子やテーブルも全て、松本民芸家具で統一されています。

食堂から箱庭に沿って奥へ続く廊下部分は、ちょっとした休憩スペース。

まるも旅館
まるも旅館の松本民芸家具

実はこのソファの後ろ側が喫茶店。漏れ聞こえてくる音楽や談笑に、不思議とくつろいだ気分になります。

まるも旅館の松本民芸家具
ソファの後ろは壁一枚挟んで喫茶店です

宿は二間続きの部屋が1部屋と8畳、6畳部屋の合計8室。一番大きな部屋には乃木将軍など、歴史上の有名人も数々泊まってきたそうです。

まるも旅館の松本民芸家具
一番大きなふた間続きの部屋
まるも旅館の松本民芸家具

今日、案内いただいたのはちょうど喫茶店の真上の角部屋。

まるも旅館の松本民芸家具
まるも旅館の松本民芸家具
まるも旅館の松本民芸家具

小津安二郎の映画に出てきそうな雰囲気の純和室です。

さりげなく置かれている鏡もやはり、松本民芸家具です
さりげなく置かれている鏡もやはり、松本民芸家具です
窓を開けると、通りが良く見わたせます
窓を開けると、通りが良く見わたせます

海外の旅行者からも人気の理由を、三浦さんはこんな風に語っていました。

「やはり、重ねてきた歴史を体感していただけることかなと思います。

130年以上前と同じ建物、間取りで、現代人には正直、不便に感じる部分もあると思います。

けれども同時に、130年以上前に宿泊された方と同じ体験をしていただけることこそが、大きな旅の楽しみになっているのではないでしょうか」

まるも旅館ができた当時は、宿といえば他人と雑魚寝が当たり前だった時代。

個室で、しかも宿全体が民芸で構成されている旅館は、当時の人の眼にどれほど新鮮でユニークに映ったかわかりません。

「手前味噌ですが、そんな130年前のユニークさを今も感じていただけることが、ご支持いただいている大きな理由の一つではないかと思います」

宿のなかは廊下にさりげなく飾られた書やオブジェ、タペストリーに至るまで、歴代オーナーの審美眼にかなったものが惜しみなく飾られていました。創業当時から今に続く、心意気を感じます。

1階から螺旋階段を登ると‥‥
1階から螺旋階段を登ると‥‥
階段途中に、こんなオブジェが
まるも旅館
2階に掛けられていた書はよく見ると‥‥
柳宗悦の書をろうけつ染めで染め抜いたものでした
柳宗悦の書をろうけつ染めで染め抜いたものでした
こちらの絵は松本出身の染色の大家、三代澤本寿氏の作品
こちらの絵は松本出身の染色の大家、三代澤本寿氏の作品

一方で部屋には手作りの英語版観光マップが設置されていたり、お風呂も家族風呂以外にシャワー室が確保されているなど、海外の旅行者も快適に過ごせるような心配りが。

まるも旅館

国境を超えた人気の理由は、こんなところにもあるような気がします。

さて、晩御飯を街なかで済ませてその日は就寝。迎えた翌朝、もう一つの大きな楽しみが待っていました。まるも旅館の名物朝ごはんです。

夜はこんな感じです
夜はこんな感じです

目にも舌にも贅沢な、まるも旅館の朝ごはん

まるも旅館の朝食は魚定食。

まるも旅館名物の朝ごはん
まるも旅館名物の朝ごはん

「魚はいつも長野の姫鮎をお出ししています。連泊される方は2日目はシャケなんですよ」

地のもの、季節のものを取り入れた朝ごはんはボリューム満点。デザートの果物は、さすがフルーツ大国長野、これでもかとふんだんに盛り付けてあります。

食べきれないので頼んで部屋でゆっくりいただきました
食べきれないので頼んで部屋でゆっくりいただきました

さらに食器には国宝である沖縄の陶芸家、金城次郎氏の器が使われています。

金城次郎氏の器
金城次郎氏の器

目にも舌にも贅沢な朝ごはんです。

まるも旅館が愛される理由

食事を終えて部屋へ戻る途中、木の廊下にちらちらとカーテン越しの光が揺れているのがとてもきれいでした。

まるも旅館

ちょっとした光の加減すら絵になるのはきっと、よく使い込まれ、大事に手入れされてきた場所だからこそ。松本民芸家具の魅力を尋ねた際の、三浦さんの言葉が思い出されました。

「物には古くなっていくと消耗品として新しいものと換えなければならない性質のものと、不具合の出た部分を修理して愛着が湧いていくものの二つに分かれると思います。

ここの家具たちは後者のいい見本だと思います」

まるも旅館の松本民芸家具

まるも旅館の魅力は、ただ「立派な家具や調度品がある」ことではなく、それらをじっくり使うことで熟成されてきた、空間そのものの心地よさにあるように感じました。

さて、チェックアウトまではもう少し時間があります。

せっかくなのでこれからお隣の喫茶で、食後のコーヒーをいただきながら旅の余韻に浸ろうと思います。

「やど」の灯篭の向こうには、珈琲まるもの目印が
「やど」の灯篭の向こうには、珈琲まるもの目印が

<取材協力>
まるも旅館
長野県松本市中央3-3-10
0263-32-0115
http://www.avis.ne.jp/~marumo/index-j.html

文・写真:尾島可奈子

*こちらは、2018年11月14日公開の記事を再編集して掲載しました。洋式の暮らしが定着している今日でも、昔ながらの日本の雰囲気は心をほっとさせてくれますね。