大橋量器の「カラー枡」は、節分の豆入れ以外にも楽しめる。家族でずっと使いたくなる魅力とは

「鬼はー外!福はー内!」

みなさん、節分に豆まきはしますか?「節分=豆まき」という意識はありつつも、最近ではお子さんのいるご家庭や学校行事に限られていることが多いのかもしれません。

豆まきに欠かせない道具といえば「枡」。以前「節分の豆まきに「枡」を使うのはなぜ?邪気を払う縁起物の意味と作り方」の記事で、日本一の木枡の生産量を誇る岐阜県大垣市にある大橋量器さんの枡を取り上げました。

今日は、その大橋量器さんが生み出した、節分の後も家族で楽しめる新しい木枡をご紹介します。

伝統的な木枡を現代風にアレンジした大橋量器の「カラー枡」

カラフルな木枡が並ぶ

ズラリと並んだ鮮やかな幾何学模様。

「伝統的な木枡をもっとお洒落にポップに」という思いを込めて作られた「カラー枡」です。柄は全部で5種類。それぞれにどのような意味を持つのか、見ていきましょう。

「GIMAPOP(ギマポップ)」斜めに伸びる直線と、鮮やかな2色のコラボレーション。「枡」の持つ美しさを引き出す逸品(デザイナー:儀間朝龍)
「LIP」女性にももっと気軽に枡酒を楽しんでもらいたいという思いで考えました。リップマークは、角から飲めば飲みやすいことも教えてくれ、初めての枡酒でも安心(デザイナー:土屋美紗)
「切子」切子硝子をモチーフに「月に一度は、手軽に枡で日本酒を」という思いを込めて、どこに置いても馴染みやすいようにデザインしました(デザイナー:稲波伸行)
「8マス」慣れ親しみのある「鉢」のようなデザイン。「身近な存在になりたい」という思いと、枡の特徴的な分厚い木口を活かしたグラフィックです(デザイナー:岡田心)
「市枡」江戸時代、美貌の歌舞伎役者佐野川市松のゆかたや帯に取り入れられ、女性のあいだで大流行したことにはじまる市松模様をお洒落にアレンジしました(デザイナー:岡田心)

カラーバリエーションもそれぞれ8種類あり(GIMAPOPは2色の組み合わせが8種類)どれにしようか迷ってしまいますね。

材料はすべてヒノキを使用しています。その効能は気分をリラックスさせ、ストレスを軽減させる効果など、人間にとって目に見えない大変有益な効果があるそうです。ヒノキの香りって、なんだかほっとしますよね。

ちいさいお子さんでも安心して使えます

「大垣の枡が世界中に広まりますように」という願いが込められ、デザイナーやアーティストがそれぞれの視点から色やデザインを加えて手がけられたカラー枡。

日常的にうつわとして使ったり、文具の収納などにも活躍しそうです。枡はそもそも縁起のいいハレの日の道具。贈りものとしてもお祝いの席でもその姿通り、華やかに彩ってくれることでしょう。

<写真・商品提供>
有限会社大橋量器
http://www.masukoubou.jp
枡工房枡屋
http://www.masuza.co.jp

文・写真:山口綾子

*こちらは、2018年2月5日の記事を再編集して公開しました。

成人式を支える「着物メンテナンス」の仕事人。クリーニングを超えたプロ技を見学

新潟・十日町の着物メーカー「はぶき」の“感動を与える”メンテナンス事業

着物の一大産地、新潟県十日町市。

その歴史は古く、1500年以上前の遺跡から機織りに使われる道具や織物の痕がついた土器が見つかるほど。

中世~江戸期には麻織物の産地として栄え、その後は絹織物に転換、隆盛を極めます。第二次世界大戦後には、京都から職人を招いて染物の技術までも習得し、発展を遂げました。

織も染も作れる。さらには全てを自社で行う十日町

十日町の着物産業には2つの大きな特徴があります。ひとつは、織と染の両方の産地であること。紬、絣、友禅染め、絞り染め、草木染めなど幅広い技術が受け継がれ、さまざまな商品が生産されています。

十日町を代表する織物のひとつ「明石ちぢみ」
「織」は異なる色の糸を使って生地を織ることで柄を生み出します。こちらは十日町を代表する織物のひとつ「明石ちぢみ」 (十日町市博物館 展示)
友禅染めの振袖
「染」は生地に後から柄を描きます。こちらは、「友禅染め」の振袖。 (製作は、黒柳徹子さんをはじめ多くの着物通のオリジナルデザインも手がける株式会社はぶき。右側の振袖は中小企業庁長官賞受賞作品)

そしてもう一つの特徴は、着物メーカーごとにデザインから仕立てまで一貫生産していること。他の地域では、各工程ごとの分業制であることが一般的な着物づくり。すべての工程を1社で行うスタイルは全国でも稀です。

独自に発展した十日町の着物産業は、製造だけでなく、メンテナンス (アフターケア) を専門的に行える会社まで生み出しました。

作るだけじゃない。クリーニングやアフターケア、成人式まで

着物メンテナンス事業をいち早くはじめ、今や日本中から相談が寄せられる株式会社はぶきを訪ねました。

株式会社はぶき

1971年に創業したはぶきには、扱いの難しい絹織物の丸洗いや、シミ抜き、染め直し、箔加工など、専門知識と高い技術によるメンテナンスが必要な着物が日本中から運ばれてきます。

さらには、成人式で着用される全国各地の晴れ着を支えているのも同社の技術とサービスなのだとか。詳しくお話を伺いました。

お話を伺った、株式会社はぶき常務取締役の富澤和也さん
お話を伺った、株式会社はぶき常務取締役の富澤和也さん

「もともと着物業界には、『地直し (じなおし) 』という仕事がありました。着物の製作過程でどうしても発生してしまう汚れやシミ。そうしたものを綺麗に直す仕事です。その技術を活用すれば、出来上がった着物を直す仕事もできるのでは?という発想から、メンテナンス事業が生まれました。

メンテナンスには多様なニーズがあり、ただ汚れを落とすだけでなく、年齢や時代に合うように着物の色を染め替える、シミが目立たないように絵を加える、破れてしまった部分を修復する、取れてしまった箔を貼り直すなど、製造工程のノウハウが必要な作業が多くありました。そこに地直しで培った当社の技術を活用したのです」

染料や薬剤が並びます
生地と汚れの種類によって使う薬剤や落とし方も様々。机には色々な薬剤や道具が並びます
シミ抜きでは、薬剤をシミの部分にだけ染み込ませて、落とし、洗浄します
シミ抜きでは、薬剤をシミの部分にだけ染み込ませて、落とし、洗浄します
水に弱い絹。ドライヤーですぐに乾かします
絹は水に弱いので、洗浄後すぐにドライヤーですぐに乾かします
乾かしたらシワを伸ばします。小型のアイロンも必需品
乾かしたらシワを伸ばします。小型のアイロンも必需品です

「着物は絹の扱いひとつ取っても難しいものです。一般のクリーニング屋さんは、絹糸の洗濯は外注しているところも多く、そういったところからご依頼をいただくこともあります。洗濯は化学です。汚れの種類、生地の素材、加工方法それぞれに合った薬品や洗浄方法を判断しなくてはなりません。誤ると色落ちさせてしまったり、傷めてしまうので、繊維の特性や産地ごとの織物、染物の作られ方にも深い理解が求められます。

メンテナンスをする職人は、各産地の着物の歴史から種類の特性、仕立ての技術についてまで広く深い知識を持っています。

十日町は、着物に従事している方が多いので、自然と技術や知識が培われた方も多いですが、メンテナンスでは特に研究がされています」

日本中の成人式を支えるサービス

自社のものづくりノウハウに加え、全国各地の着物についての知識豊富なはぶき。着物の取扱全般に信頼を置かれる同社は、着物販売の大手企業とタッグを組み、成人式の振袖に特化した着物の物流管理も行なっています。

株式会社はぶき常務取締役の富澤和也さん

「振袖を着るためには、非常に多くのものが必要です。小売店で成約された振袖一式を成人式で最高の状態でお使いいただけるように整えて保管し、お届けする。そしてまた綺麗な状態に整えてお戻しします。

『成人式は人生でたった一度しか訪れない。大切なアニバーサリーに携わる仕事。その日に嫌なことがあると一生の思い出になってしまう。二十歳を迎えるお嬢様に感動を与えるような仕事をしなければならない』

この取り組みを始めた当初から、取引先のご担当者がよくおっしゃることなのですが、本当にその通りなんですよね。プライドをかけて、間違いのない最高の状態のものをお届けするようにしています」

大量の振袖を美しく整え、整理しているところ
美しく整えられた振袖を整理しているところ。数千着に及ぶ振袖を前に、「ここにある振袖の産地や金額、タグを見ないでもみんな言えるようになってしまいました」と笑う富澤さんが頼もしく、印象的でした

成人式直後は、“戦場”さながら

はぶきがもっとも忙しくなるのが、成人式直後の1週間。

「成人式の翌日から膨大な量の振袖が帰ってきます。その量は、運送会社の大きな物流センターがパンクしてしまうほど。大型トラックが何往復もしながら荷物を運んでくれます。

毎日1800個〜2400個ほど振袖の箱が届くので、次々と開封していきます。この時ばかりは、他部署や地域の方々の手も借りて、地域をあげての対応になります。

開封した振袖を整理して、汗や血液、襟元のファンデーションの汚れを取ったり、ついてしまった臭いを取り除いたり、シワを伸ばしたり、1着ずつ整えていきます。こうしたところで、ゼロから着物を作る時とは異るメンテナンスの知識が生きています」

生地と汚れの種類によって使う薬剤や落とし方も様々。机には色々な薬剤や道具が並びます

ちょうど成人式の次の週末から3月までが、翌年の成人式の振袖レンタルの申し込みが増えるタイミングなのだそう。そのため、たった1週間のうちに、膨大な量の振袖を整えて、再びお店に出荷していきます。なんともハードなスケジュールです。

「1日でも早く整理して、レンタル振袖の在庫が少なくなっているお店に返したいので、正確さとスピードを追求して進めています」

箱にまで施された工夫

最高の状態で届けるためのこだわりは、振袖だけでなく、小物、さらには梱包材の工夫にまで及んでいます。

ショールもふっくら加工で毛がはねるように乾燥。 バックや草履も、指紋を全て取ってある。溶剤で全て磨いてある。指紋も泥も何もない状態にする。 「感動を与える」というミッションのために。 シワにならないように箱の中に仕切りがあり、上に小物を乗せることで適度な重みで大丈夫になっている。 潰れたりシワにならないように。適度な重みで動かないように。 箱も、ガムテープを一切使わずに、組み立てて、限界まで硬くして(折れるギリギリの硬さ)、重みに耐えられるコンディションを研究して作られた箱。 ガムテープは劣化してしまう。箱が壊れてしまわないように。 新潟県の素材技術応用センターで考えられて作られた
この箱は、振袖セットのために開発されたもの。箱の破損や劣化につながるガムテープを一切使わずに組み立られる設計。可能な限り紙の強度を上げ、重みに耐えられるように研究して作られています
ショールもふっくら加工で毛がはねるように乾燥
こちらの袋に入っているのは振袖の上に羽織るふわふわのショール。ふっくらと毛がはねるように特別な乾燥方法で仕上げ、潰れないように箱の中へ
バックや草履は、溶剤で全て磨き、新品のように指紋も泥も何もない状態にしているのだそう
バックや草履は、溶剤で全て磨き、新品のような状態にしているのだそう

箱の中には仕切りがあり、その下に振袖が入っています。上に乗せた小物類で箱の底に適度な重みがかることで、振袖が動いてよれたりシワにならないようになっています。

加えて、箱を包む茶紙はナイロン製のクロスを使って作られていて、破れにくく、水を弾いて濡れにくい素材なのだそう。全国各地に届けるものなので、雨や輸送時の衝撃から可能な限り守れるように考え抜かれていました。

金彩を多用した振袖

「感動を与える」というお話がありましたが、はぶきの技術とこだわり抜いた工夫は成人式を迎えたお嬢さんたちにたくさんの喜びを届けているようです。

「ありがたいことに、お客様から『とても素敵な成人式を迎えられました』『丁寧なお仕事に感動しました』など書かれた手紙を何通もいただき励みになっています」

十日町独自の生産土壌が生んだ、新しい着物ビジネス。高いメンテナンス技術や物流管理のシステムが、今日も日本中の着物を支えています。

<取材協力>
株式会社はぶき
新潟県十日町市四日町1735番地1
0120-893-723
http://kimono-habuki.jp

文:小俣荘子
写真:廣田達也

*こちらは、2018年7月18日の記事を再編集して公開しました。

はじまりの色、晒の白

きっぱりとした晒の白や漆塗りの深い赤のように、日用の道具の中には、その素材、製法だからこそ表せる美しい色があります。

その色はどうやって生み出されるのか?なぜその色なのか?色から見えてくる物語を読み解きます。今回は、晒に見る「白」です。

はじまりの色、晒の白

白という色は日の光と密接に関わっています。

古代に存在した日本語の中で、色を指す言葉はもともとたったの4色だったそうです。それはアカ(明ける意)、クロ(暮れる意)、アヲ(生ふ、あふぐから転じて、うっすらと明るい、漠たる感じを示す)、そして明けた空が白んでいく、シロ。

新しい1日の始まりを司る「シロ」を人々が特別な色として捉えてきたことは、純白の花嫁衣裳や神話上の聖者や神様の衣などにも感じ取ることができます。

ハンカチ
明るく爽やかな印象の白は、見る人をハッとさせます
明るく爽やかな印象の白は、見る人をハッとさせます

そんな白を人工的に作り出すのは至難の技。編み出されたのが「晒し」という技法です。

もともと「日に当てて干す」という意味を持つ晒は、転じて布を白くすること、そうして白くなった木綿や麻布そのものを指すようになりました。とは言え、日に当てるだけで布が白くなるわけではないようです。

江戸時代に記された百科事典『和漢三才図会』(1713年)は、晒布の産地として大和国奈良、出羽国最上、山城国木津、近江国高宮、能登国阿部屋と宇出津、伊賀国高岡と石動(いするぎ)、越前国府中、周防国、安芸、豊州を挙げています。

その製法は、織物を灰汁と石灰でたいて不純物を取り除き、石臼で搗いて柔らかくして‥‥と、大変手間のかかるもの。最後の仕上げの工程が土地によって異なり、天日干し、雪晒し、水晒しと大きく3種類に分かれます。

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寛政元年の『南都布さらし乃記』に見られる奈良の晒し場の様子

 

中でも水晒しで有名だった大和国奈良の奈良晒は、上質な麻織物として主に武士の裃、僧侶の法衣に、また白さを好まれて茶巾にも用いられ、産業として栄えました。

各地の名産・名所を描いた『日本山海名物図会』(1754年刊行)は奈良晒を褒めて「近国よりその品数々出れども染めて色よく着て身にまとわず汗をはじく故に世に奈良晒とて重宝するなり」と語っています。

「染めて色よく」。白さは色とりどりの美しい染めのスタートラインでもあったわけですね。

「日に当てて干す」という原始的な所作を起源に、いくつもの手間と技術を駆使して生み出された「晒」生地は、まさに日の光のようなきっぱりとした白色。

古くから人があらゆる物事の原始の色として尊んできた色であると共に、様々な染色の出発点でもありました。これからの色をめぐる冒険にふさわしい、まさにはじまりの色といえそうです。

<掲載商品>
motta037
オーガニック綿のチュニックシャツ 縞 白
(2点とも中川政七商店)

文:尾島可奈子

企画展「はじまりの白」

はじまりの白 中川政七商店 麻

冬は空気が澄んで、白がはっとするように美しく見える季節。明るく爽やかな印象の白の重ね着ができる、この季節ならではのアイテムを揃えた企画展が中川政七商店で開催中です。日本人が大事にしてきた白の服を纏って、新しい一年のスタートを。
https://www.nakagawa-masashichi.jp/shop/e/ev0148/

*こちらは、2016年11月13日の記事を再編集して公開しました。

これなら持ち歩ける「防災ホイッスル」見つけました。メガネの素材で作る「effe」

防災グッズを探していたら、こんな可愛らしいものに出会いました。

防災ホイッスル「effe エッフェ」
動物の形?
防災ホイッスル「effe エッフェ」
ネックレス?

実はこれ、どちらも災害などで助けを呼ぶときに活躍する防災用ホイッスル (救助笛) なのです。

小さな子どもやお年寄りなど、肺活量の少ない人でも簡単に音が出せるよう、構造が工夫されています
小さな子どもやお年寄りなど、肺活量の少ない人でも簡単に音が出せるよう、構造が工夫されています
防災用ホイッスル「effe エッフェ」
こちらは、アルファベットをかたどったもの。自分のイニシャルのものを選んで使っても楽しそう!
キーリングのほか、イヤホンジャック付きのタイプも。いつもそばに持っていられますね
キーリングのほか、イヤホンジャック付きのタイプも。いつもそばに持っていられますね

「いつも」と「もしも」がひとつになった、お守りホイッスル

これらは、メガネフレームの素材でできた笛のアクセサリーブランド「effe (エッフェ) 」の製品。“メガネの聖地”とも呼ばれる世界三大産地のひとつ福井県鯖江市にあるメガネ工房「プラスジャック」で作られています。

メガネ素材のセルロースアセテートはイタリア生まれ。イタリア語では「F」をeffe (エッフェ) と発音します。Fukui (福井) 、Factory (工場) 、Fue (笛) の頭文字がブランド名の由来です。

そしてもうひとつ「えっ、笛!?」と驚くような、笛の概念にとらわれないものをつくりたいという思いが込められているのだそう。いつも身につけるお守りのような存在になればと開発されました。

アクセサリーのようにいつも身につけられる
アクセサリーのようにいつも身につけられる

人の命を守るものだから

しかしなぜ、メガネ工房が防災用ホイッスルを作ったのでしょう?プラスジャック社 代表の津田功順 (こうじゅん) さんにお話を伺いました。

「製作のきっかけとなったのは、鯖江市役所防災課の藤田裕之さんからの相談でした。『メガネの素材を使って、アクセサリーのような笛が作れないでしょうか?』と。

聞けば、阪神大震災では瓦礫などの下敷きになり助けを呼べず亡くなった方が全体の7割にも上ったそうです。その教訓から、福井県の自治体では防災用ホイッスルの配布が行われました。

しかし、多くの人は配布されたホイッスルをカバンの中にしまいこんでいました。あからさまな防災グッズを日々身につけることにハードルを感じる方も多いようです。これでは、いざという時にすぐに取り出せません。

違和感なく自然にいつも身につけられるものとしてメガネ素材に目が向けられたようです」

メガネ素材のセルロースアセテートは、綿花を主体とした植物性繊維でできており、発色が良く、色味や風合いのバリエーションが豊富。熱を加えると柔らかくなり加工しやすくなるため、メガネやアクセサリーをつくるのに適した素材なのだそう。

また、軽くて温度変化が少ないことから、肌につけた時の馴染みがよく温かみを感じられます。普段から身につける素材としてぴったりだったのですね。

とはいえ、メガネの製造を一筋に続けてきた津田さんは笛を作ったことなどありません。命に関わる大変な取り組みをすぐに引き受けることはできなかったと言います。

「必要性は分かったものの生半可に取り組めるものではありませんからね。それでも何度も相談に通ってくれる藤田さんの熱意に最後は負けました。

メガネは目を補助する道具として体の一部となって人を助けます。防災用ホイッスルも人を助けるものですから、やってみようと。人の命に関わるものなので、作るからにはちゃんとした物をと決心しました」

メガネ工房の様子

「届く音」を「誰でも簡単に」出せるように

普段から身につけられるデザインにするのはもちろんのこと、防災用ホイッスルとして「しっかりと音が出る」ことが最重要。津田さんの試行錯誤が始まりました。

「まずは、適切な音や構造について調べ始めました。市にも相談して国の基準がないか問い合わせましたが、特に存在せず各社が自社判断で作っているのが現状でした。独自に研究する他ありません。

福井県工業技術センターで宇宙の音の響きを研究されている筧瑞恵先生にご協力いただきながら、検証が始まりました。既存の防災用ホイッスルを買い集めて構造や音質を調べ、実験を重ねました」

津田さんが目指したのは、子どもやお年寄りをはじめ、肺活量の少ない人でも吹けること、瓦礫の間を通り抜けて防災ヘリコプターなどの騒音があっても聞こえる音、水が入ってしまった時も振れば水抜きができてすぐ使えることなどをクリアする笛。

単に音の出る構造はすぐに作れたものの、目指す音質や機能のものが出来上がるまでには膨大な試作品作りが続きました。

「吹き込み口が大きいと肺活量が必要になる、空気の流れる角度や長さ、距離で音が変わる、吹き溜まりで音域が決まる、空気が逃げる箇所の深さも音域に関わるなど、様々な要素の微調整が必要でした。

コンマ1ミリメートルの調整で音が変わるんです。様々なバリエーションの試作品を工業試験場へ持参しては、音を測る機械にかけて試行錯誤を重ねました」

こうして、7年以上もの歳月をかけてやっと完成したのが「effe」の防災用ホイッスルでした。

考え抜かれた笛の構造は、空気の通る隙間や角度が厳密に設計されています
考え抜かれた笛の構造は、空気の通る隙間や角度が厳密に設計されています

正確なものづくりに生きる鯖江の技術

設計通りの構造で正確につくり上げ、長く使える製品にするために、鯖江で長年培われてきたメガネ作りの技術が使われています。

切り出されたパーツをはり合わせるには職人の技術が不可欠です。正確にはり合わせることで、しっかりと音が出て、長持ちするホイッスルが作られているのだそう。

つなぎ合わせるのには熟練の職人の技術が使われています
つなぎ合わせるのには熟練の職人の技術が使われています

防災、防犯に幅広く

デザインを手がけるのは、デザイナーの谷川美也子さん。性別や年齢を超えて日常的に使いやすく、安全性の高い形になっています。2018年にはグッドデザイン賞を受賞しました。

防災用ホイッスル「effe エッフェ」
防災ホイッスル「effe エッフェ」
バッグチャームとしても

近年では、子供の防犯グッズとしても注目されており、動物シリーズのバリエーションを増やしているのだそう。

私も、動物デザインに一目惚れ。家族にもプレゼントして、毎日持ち歩いています。事件や災害のない毎日を願うばかりですが、いざという時に備えておくことが大切。

お守りのように持ち歩ける「effe」のホイッスルは心強い味方になっています。

<掲載商品>
防災用ホイッスル「effe エッフェ」
https://effesabae.com/

<取材協力>
プラスジャック株式会社
福井県鯖江市御幸町1-301-11
www.plusjack.com

文:小俣荘子

漆器のお手入れ・洗い方・選び方。職人さんに聞きました

お味噌汁に使う汁椀から、おせちを詰める重箱まで、暮らしのハレとケ、どちらにも欠かせない漆器。

漆器のお手入れ・選び方

身近な存在すぎて、その選び方や扱い方は意外とあいまいです。

「実は寒いこの時期が、漆器を揃えるのに一番いいタイミングなんですよ」と教えてくれたのは、福井県鯖江市で越前漆器の製造販売を手がける、漆琳堂 (しつりんどう) の内田徹さん。

漆器のお手入れ・使い方 漆琳堂
1793年創業「漆琳堂」八代目 内田徹さん

塗師 (ぬし) として日々漆や漆器に向き合う内田さんに、漆器の選び方、お手入れ方法など「基本のき」を教えていただきました。

そもそも漆器とは?完成は100年後という不思議な器

はじめにおさらいしておくと、そもそも漆器の「漆」とは、ウルシの木の幹から採取した樹液 (生漆 ・きうるし) 。もしくはそれを精製したもの。

漆・漆器とは。歴史とお手入れ方法

樹液の主成分であるウルシオールが酸化して固まることで、酸、アルカリ、アルコールにも強い、優れた機能を発揮します。

耐久、耐水、断熱、防腐性が非常に高く、今も漆に勝る合成塗料は開発されていないというから驚きです。

漆・漆器とは

この漆の機能を、器を保護する皮膜として活用したのが漆器の始まり。日本では縄文時代から活用が確認されています。

今でこそ様々な色かたちの漆器が存在し、そのデザイン性も品物を選ぶ大切なポイントになっていますが、そもそもは器の強度を高める補強材としての役割が大きかったんですね。

漆器の手入れ・選び方 漆琳堂

「実は漆の塗膜が馴染んで漆器自体が完全に固まるのは、作ってから100年後とも言われます。

漆は時間がたつほどに硬さを増して、丈夫になっていきます。僕たちが普段手にしている漆器は、その過程を使っているんです」

本体は木で、塗料は樹液。全部が天然素材で、完成は100年後。改めて考えると壮大なスケールの道具です。

では、その使い方とは。ここからは内田さんに一問一答形式で付き合い方のコツを伺っていきます。

漆と漆器の成り立ちをもっと詳しく知りたい方はこちら:「漆とは。漆器とは。歴史と現在の姿、お手入れ方法まで」

冬こそ、漆器はじめによい季節

——早速ですが「今の時期が漆器を選ぶよいタイミング」なのはなぜでしょうか?

「お正月に漆塗りのお椀でお雑煮を食べた人も多かったと思います。

他にもお重やお屠蘇のように、お正月には塗り物が多く使われるので、全国の漆器産地の出荷量は迎春のこの時期に向けて一気に増えるんです」

漆器のお手入れ・選び方
漆器のお手入れ・選び方 飛騨春慶塗
こちらは飛騨春慶塗の重箱

百貨店などの売り場にも一番品数が多く並ぶので、気に入ったものに出会えるチャンス、というわけですね。

汁椀はなぜ赤い?

ちなみに内田さんが普段使い手として一番よく親しんでいるのは、漆塗りの汁椀とお箸。どちらもご自身の作だそうです。

この漆塗りの汁椀、実は内側が赤いお椀の生産量が一番、多いのだそう。

漆器の手入れ・選び方

「色々な説があるんですが、味噌汁を飲んだ時に底面に残るお味噌のカスが、赤い色だとあまり目立たないから、というのが一説。

他にも口につける時に目に入る色として、内側が赤い方が食欲が増す、美味しく見える色だからという説もあります」

漆・漆器とは。歴史とお手入れ方法

きっとどの家庭にもひとつはある赤いお椀。何気ない色使いにも、訳があるのですね。

選ぶときは自分の基準を持って

——では、漆器ビギナーの人が漆器を買う場合のコツってありますか?

こぶくら

「例えば汁椀なら、普段使っているものが自分にとってちょうどいいサイズかどうか、あらかじめ把握しておくといいと思います。

僕の感覚でいうと、お店で見る品物って実際より小ぶりに感じると思うんですね。

買って帰って後悔することがないように、直径や高さ、持ち心地など、ちょうどいいと思う自分の基準を設けておくと良いと思いますよ」

自分なりのベストの形状を頭や手で覚えておいた上で、好みのものを探すのがポイント。

選ぶ時には、色かたちに加えて産地やメーカー、品質表示のチェックもしておくと、作りの確かなものを選べて安心とのことです。

扱うときの注意点は?


——実際に使うときの注意点はありますか?

「滅多にする人はいないとおもますが、例えば沸騰させた直後の熱湯を入れたりすると、漆器にダメージを与えてしまいます。

お味噌汁の一番美味しい温度は70〜80度と聞いたことがありますが、これは漆器にも適温なんです。料理にも器にも理にかなった温度のようですね」

洗う時、洗った後、保管時の注意点は?


——洗う時、洗った後に気をつけることはありますか?

「金ダワシなど粗いものでは洗わないことですね。柔らかいスポンジで中性洗剤で洗えばOKです」

漆器の手入れ・洗い方

「あとは、洗う時に陶器など高台 (こうだい。器を支える台の部分) がザラっとしたものと重ねて洗うと漆器が痛んでしまいます。

一緒に洗う場合はお互い当たらないようにちょっと気をつけると長持ちするかなと思います」


——保管はどんな環境がよいですか?

「漆器は極度の乾燥や紫外線が苦手です。ひどく乾燥すると木地にヒビが入ってしまうこともあります。

保管は日当たりの良いような場所は避けた方が良いですね」

重ねて保管して長く使わない場合は、器と器の間に布を挟んでおくと、擦り傷を避けられて良いとのこと。お正月にだけ使う器など、一度点検してみるといいかもしれません。

漆器を長持ちさせるコツとは。ポイントは「拭き」にあり


——長持ちさせるコツがあれば教えてください。

日常使いの漆器なら、洗ったあとそのまま食器置きに伏せて乾かしても良いですが、ふきんなどで水気を取りながら拭くと、漆器はツヤが増すと言われています」

漆器の手入れ・選び方 花ふきん


——よく、漆器は使うほど色ツヤが増すと聞きますが、何故なんでしょうか?

「実は、完成したての漆器って漆の粒子が不揃いなんです。

これを使うたびに布で拭いていくと、表面の粒子が削れて鏡面のように平らになっていく。それがツヤが増すという意味なんです。

だから食洗機対応の漆器でも、食洗機にかけてるだけだとツヤが上がらない。拭くという行為が必要なんですね。

繰り返していくと、塗った後のツヤとはまた違う、なんとも言えない深みのあるツヤが出てきます。

漆器のお手入れ・使い方

時々修理依頼のあるお椀で、惚れ惚れするようなツヤのものに出会います。

形自体は今っぽくない昔のものなんですが、何十年も大切に使っているなというのが、見た目にも現れているんです」


——何年、何十年と使ううちに、その人だけの器になるんですね。漆器の付き合い方以上に、魅力を再発見しました。

「美味しく食卓を囲もうと思ったときに器ってとても大切ですよね。

漆器は買って終わりじゃなくて、そこから付き合いが始まる器だと思うと、楽しめるんじゃないかなと思います」

<関連特集>

漆琳堂さんにつくっていただいています。

漆琳堂「お椀や うちだ」の商品はこちら

漆琳堂「RIN&CO.」の商品はこちら

<取材協力>
漆琳堂
福井県鯖江市西袋町701
0778-65-0630
http://shitsurindo.com/

文:尾島可奈子

「SUWADA」の爪切りが驚くほどよく切れる理由

驚くほどよく切れる。諏訪田製作所 SUWADAの「爪きり」

SUWADAの爪きり

まいにちの爪切りにおすすめの一本があります。

江戸時代から鍛冶産業が盛んな新潟県三条市。ここに、ニッパー型爪切りのリーディング・メーカーとして知られる諏訪田製作所があります。同社の「爪きり」は使いやすさと切れ味が評判を呼び、ネイルアーティストや医療関係者にも愛用されています。

切れ味へのこだわりから、素材はカスタムナイフや庖丁にも使用されるステンレス刃物鋼を採用。硬い刃に仕上るので、刃の消耗も少ないのだとか。

SUWADAのつめ切り

わずかな力でヤスリがけ不要なほどの切れ味。爪が飛び散らない優れもの

爪切りの仕組みは、刃と刃を合わせて切る「合刃 (あいば) 」と呼ばれ、いかに隙間なくぴたりと刃が合わさるかが切れ味に大きく影響します。高い技術が必要とされるこの工程は、熟練の職人が担当する腕の見せ所。

刃の合わせを隙間をなくす調整する
刃の最終的な調整は全て手仕事で行われます。光に当てて隙間の有無を確認しながら刃を削り、両刃を合わせていきます

きちんと刃の合わさった爪切りは、パチンという音もせず静かに使えます。スッパリと切れるので爪が飛び散ることもありません。断面はつるりと滑らかに仕上り、ヤスリがけも不要なほど。わずかな力で切りやすいように、手で握り込むニッパー型を採用しているのも、長年愛されるSUWADAの爪きりの特長です。

他にも刃の先端を尖らせて細かいカットに対応できるようにしたり、刃にカーブをつけて爪を丸く整えやすくするなど、SUWADAの爪切りには随所に細やかな工夫が。そのため、巻き爪や分厚い爪も、心地よく切ることができるのです。

日々何気なくやっている。使い勝手の良い道具に出会えると、お手入れの時間が楽しみになりそうです。

<掲載商品>

爪きり クラシックS (諏訪田製作所)

爪きり クラシックL (諏訪田製作所)

文:小俣荘子

※こちらは、2018年1月7日の記事を再編集して公開しました。