信楽のお土産なら、冬限定の「でっちようかん」を。地元民おすすめの若狭屋さんへ

さんち編集部が全国各地で出会った “ちょっといいもの” をご紹介する “さんちのお土産”。

今回は滋賀・信楽にある若狭屋の「でっちようかん」です。

地元の人に聞いた、信楽おすすめのお土産とは?

NHKの連続テレビ小説「スカーレット」に沸く信楽。

信楽 スカーレット

地元の方に「信楽でおすすめのお土産といえば、ここ」と教えてもらったのが、信楽高原鐵道・雲井駅近くの若狭屋さんです。

信楽 若狭屋 丁稚羊羹
終点・信楽駅から3つ手前の雲井駅で途中下車。若狭屋さんまでは徒歩5分ほどです
信楽 若狭屋 丁稚羊羹
お店の前にはやっぱりタヌキ

お店の看板と並んで大きく掲げられていたものこそ、本日のお目当て、信楽名物の「でっちようかん」です。

信楽 若狭屋 丁稚羊羹
お店の入り口に大きく「でっちようかん」の文字
信楽 若狭屋 丁稚羊羹

信楽・若狭屋さんの「でっちようかん」

でっちようかんとは、主に関西でつくられる蒸し羊かんの一種。名前の由来は諸説ありますが、丁稚さん (お店に奉公する小僧さん) が里帰りの際に買い求めたからとも。

信楽でも何軒かの和菓子屋さんが手がけていますが、地元の方からまず挙がったのが若狭屋さんの名前でした。つくっている年数も50年と、信楽で一番古いのだそう。

信楽 若狭屋 丁稚羊羹
信楽 若狭屋 丁稚羊羹
伺った際もご近所の方が20本入りをさっと買われていきました

要冷蔵で、冷やしていただきます。

信楽 若狭屋 丁稚羊羹
信楽焼の豆皿に載せていただきました

ひとつ口に運ぶとやわらかで瑞々しく、最後にはさっぱりとした口当たり。控えめな甘さで、つるりと何本でもいただけてしまいそうです。

実はこの姿は冬限定。夏場は水ようかんに変わります。

暑い時期にのどを潤すにも、寒い時期のお茶請けにもぴったりの信楽の味です。

ここで買いました。

若狭屋
滋賀県甲賀市信楽町牧686
0748-83-0164

文:尾島可奈子
写真:太田未希子

お茶好きが指名買いする奈良のお茶。違いは「根っこ」にありました

お茶と聞いてすぐ思い浮かぶ名産地といえば、静岡、宇治などがありますが、実は、知る人ぞ知る産地が奈良にあります。

お茶を愛する人の間で評価の高いのが、奈良の大和高原で栽培されている銘柄です。

奈良県の奈良市東部や山添村、宇陀市など北東部の高原地帯をさす大和高原は、標高が200mから600m。奈良盆地が100m以下なので、標高の高さがわかります。

夏は涼しく、冬は厳寒なエリアです。

この気候と立地に美味しさの理由があると聞いて、2軒の生産者さんを訪ねました。

毎日毎日、茶の木の声を聞きにいく

まず1軒目の茶農園は、大和高原の山添村でお茶を生産する株式会社大和園。

「実は大和高原の新茶シーズンは、全国でもっとも遅いんです。大和高原の冬は長く、春は遅い。でもその冷涼な環境が、お茶をおいしくしてくれます。日照時間が短く一気に成長できないぶん、根から吸い上げる栄養をたっぷり蓄えることができるからです。昼夜の温度差が大きいことから甘みや旨みを十分に含む茶葉に育つのも特徴でしょうね」と代表の奥中直樹さん。

おいしさの決め手は、根からの栄養だったとは。

太陽の光が少ないことは必ずしもマイナスではなく、そのぶん根が活躍しているとは驚きでした。

奥中さんは先代から受け継いだ茶園でお茶を栽培するうちに「もっと寒暖差が大きくて、茶の木に適した場所があるのでは」というフロンティアスピリットが芽生え、手つかずだった森を自分の手で切り拓いて、何もないところから理想の茶園を追求する活動に力を入れてきました。

こうして完成した茶園があるのは、はるか彼方まで広々と見渡せる小高い山の上。

車一台がやっとの山道を走ってようやくたどり着きます。

広々とした茶園
広々とした茶園

茶の木の間を鹿が横切る光景も、日常茶飯事です。

そこにチューブを張り巡らせた最新の給水システムを整え、農薬を使わないように、毎日訪れて虫や病気をチェックしています。

栽培の極意は「茶の木を、甘やかさないこと」。

まるで、奥中さんが親で、茶の木はその子どもたちのようです。

「肥料を与えすぎないように気をつけています。そうすると、茶の木は自分で養分を求めて根を伸ばそうとする。そのほうが、大地の栄養をより多く吸い上げ、おいしくなります」

製法は茶葉に合わせて選択。

「茶畑ごとに、また日ごとに茶葉は変わるから」と、一つひとつの茶畑の状態に応じて、煎茶なら蒸し方を変え、ほうじ茶なら焙煎を変えています。

そうすることで「あの茶畑の、この日の茶葉」がもつ香り、味わいを把握でき、出荷前には「もっと爽やかさを出したい」「風味が増すように」などと絶妙なバランスを考えてブレンドできます。

出荷までのプロセスで大切にしているのはテイスティングだそうです。

テイスティングをする株式会社大和園の代表・奥中直樹さん
テイスティングをする株式会社大和園の代表・奥中直樹さん

仕上げの段階で、色、香り、渋み、甘み、旨みのバランスを確認。奥中さんは「甘み、香りが前に出すぎない、ゆっくり、あっさり」のブレンドを心がけています。

「奥ゆかしい味わい、というのが近いかもしれないですね。濃い味わいが前に強く出すぎると、誰もが似たような感想をもつことになりがちです。あっさりしていれば、人によって受け取り方に微妙な差が出てくる。そのほうが、私の好みには合っているんです」

丹精込めた茶葉は、品評会で受賞した経験は数知れず、最高位に輝くことも。

奥中さんはお茶を出荷すると言わずに「嫁に出す」と言います。

茶葉を語るときの言葉選びにも、親子のような愛情がこもっています。

株式会社大和園の煎茶と焙じ茶
株式会社大和園の煎茶と焙じ茶

花も実もあるお茶づくり

「気温が低い大和高原では茶の木が成長しはじめるのが遅く、収穫の回数も限られます。でもお茶は、ゆっくり育つほうがおいしいんです」と案内してくれたのは、奈良市東部に位置する月ヶ瀬の月ヶ瀬健康茶園株式会社の代表・岩田文明さんです。

月ヶ瀬健康茶園株式会社の岩田文明さん
月ヶ瀬健康茶園株式会社の岩田文明さん

広大な敷地に、茶畑と茶山が点在していました。

「ここは茶山なんですよ」

かなり傾斜の激しい段々畑を、茶の木の濃い緑が染めています。

歩くというより、山登りをするように茶の木を見てまわります。

さまざまな場所に茶山があるのは、お茶づくりをやめることになった昔ながらの茶山も引き継いでいるからだそうです。

「急斜面なので農作業はしにくいのですが、茶の木がしっかりと根を伸ばし、空気が通りやすいため、水はけがいいんです」

茶山によってちがう環境で栽培されてきた、樹齢50年以上の茶の木を受け継ぎ、斜面の日当たり、土質など、土地のもつ本来の価値をいかして育てることが、おいしさにつながるそうです。

月ヶ瀬の地に根ざし、100年来の特徴を受け継いできた品種名がつけられていない在来の茶樹も、大切に育んでいます。

「お茶の味わいって、土質で変わるんです。以前、さまざまな栽培方法による味のちがいを確かめてみたところ、人の手を加えない自然の土質で育つお茶が、一番すっきりとした風味でおいしいとわかりました。粘土質、花崗岩質など、土質がちがうからこその味の差を楽しむこともできます」

試行錯誤してみたら、答えはシンプルだった。

それ以来、それぞれの立地にふさわしい、自然循環型のお茶づくりを続けているそうです。

「農薬を一度でも使うと、自然の土壌は変わってしまう。虫や雑草も育つ生態系のなかでこそ、私のめざすお茶づくりが続きます」

岩田さんは、手を伸ばして茶の木がつけていた実を拾い、なかの種を見せてくれました。

「私たちは挿し木ではなく、種から育てる実生(みしょう)にも取り組んでいます。実生であれば太い根っこが地下へと深く、木の背丈よりも伸びていくからです」

大地からミネラルをたっぷりと吸い上げられるように、時間がかかっても、茶の根がしっかり伸びる育て方を大切にしています。

自然のリズムがつくるお茶の、爽やかさ、繊細さ、複雑さ、清涼感は格別です。

「おいしい水が、すっとからだになじみ、また飲みたくなるのと似ているんじゃないでしょうか」

月ヶ瀬健康茶園株式会社の有機ほうじ煎茶、有機紅茶、有機煎茶
月ヶ瀬健康茶園株式会社の有機ほうじ煎茶、有機紅茶、有機煎茶

大和高原のお茶は、飲み終わってしばらくすると、また恋しくなる優しい風味。

からだと心にじっくりと沁みわたっていくように感じるのも、ゆっくりと丁寧に育ってきたお茶だからなのでしょうね。

<取材協力>
株式会社大和園
奈良県山辺郡山添村菅生2197-3
0743-85-0639
https://yamatoen.nara.jp/

月ヶ瀬健康茶園株式会社
奈良県奈良市月ヶ瀬尾山1965
0743-92-0739
http://www.tukicha.com


文:久保田説子、徳永祐巳子
写真:渡邉敬介、北尾篤司

世界が認める碁石の最高峰。宮崎にだけ残る「ハマグリ碁石」とは

碁石の最高峰「ハマグリ碁石」

「手談(しゅだん)」という言葉があります。

文字通り、手で会話をすること。といっても「手話」をするわけではありません。

碁盤を挟んで向かい合い、碁を一局打てば心が通じ合うことを意味し、「囲碁」の別名として使われる言葉です。

対局者は碁石を通じて相手のことを理解する
対局者は碁石を通じて相手を理解する

この、言葉を必要としない会話の主役とも言えるのが、盤上に打たれる碁石たち。

古くから、囲碁を好む人たちは碁石の実用性だけでなく、その見た目・手触り・打ち味・音の響きにまでこだわり、よいものを求めてきました。

「白黒をつける」と言うように、碁石には白石と黒石がありますが、実は、高品質とされるものはそれぞれ原料が異なります。

黒石は、三重県熊野の那智黒石から作ったものが最高級品。

一方、白い碁石の原料は“石”ではなく”貝”。

ハマグリで作った「ハマグリ碁石」は縞目の美しさ、柔らかな乳白色の輝き、手に馴染む重量感などが素晴らしく、白い碁石の最高峰として世界でも人気を集めています。

ハマグリ碁石
碁石の最高峰「ハマグリ碁石」

碁石のために生まれてきた貝を使った「日向のハマグリ碁石」

このハマグリ碁石の産地として名を馳せたのが、宮崎県の日向(ひゅうが)市です。

南北4キロメートルに渡って続く大きな海岸「お倉ヶ浜」では、かつて浜一面にハマグリの貝殻が打ち上げられていたとか。

かつて、ハマグリが浜一面に打ちあがっていた「お倉ヶ浜」
かつて、ハマグリが浜一面に打ちあがっていた「お倉ヶ浜」

そもそも、碁石がハマグリで作られるようになったのは17世紀後半のこと。

当時は愛知県 桑名などのハマグリを用いて、大阪で碁石の製造がおこなわれていました。

そこから明治の中頃になり、行商で日向を訪れた富山の薬売りが大阪に持ち帰ったことがきっかけで、日向のハマグリの存在が知られるように。

それまで主流だった貝よりも厚みがあり、組織も緻密で美しかったためすぐに評判となったそうです。

貝からくり抜かれて削られる前の状態
貝からくり抜かれて削られる前の状態。縞目の美しさが重要

当初は日向で採れたハマグリを大阪に送っていました。

しかし、大阪で碁石製造の技術を学んだ日向出身の原田清吉という人が「日向のハマグリは日向で碁石に仕上げたい」と考え、1908年頃、日向で初めて碁石作りを開始。

それが日向の碁石作りの始まりです。

「日向のハマグリは寿命が14、5年だと言われています。外敵が少ない環境で寿命をまっとうしたハマグリが、海底や砂浜の中に埋まっていた。

それが大波や台風によって浜に打ち上げられ、それを人々が拾って、ということを繰り返してきたわけです」

そう話すのは、日向でハマグリ碁石を作り続けてきた「黒木碁石店」の5代目、黒木宏二さん。

黒木碁石店 5代目の黒木宏二さん
黒木碁石店 5代目の黒木宏二さん

お倉ヶ浜は波が荒く、現在はサーフィンのメッカでもあるほど。その荒波に揉まれる中で、厚く大きく成長。

その美しい縞目の模様も相まって、“碁石のために生まれてきた貝”と言っても過言ではないのが、日向のハマグリでした。

わずかな厚みで価値が大きく変わる碁石の世界

「碁石の価値を決める要素として、“厚み”は非常に重要です。厚いほど希少性が高く、高価になります」

日向産のハマグリの一番分厚いぷっくりした部分をくりぬいて使う
日向産のハマグリの一番分厚いぷっくりした部分をくりぬいて使う

縞目の美しさや傷の有無などを除けば、基本的に厚いほど高価になるという碁石の世界。

厚みは「号数」で区別されていて、たとえば36号は10.1ミリ、38号は10.7ミリといった具合。

コンマ数ミリの違いで号数が変わり、それによって金額も数万円〜数十万、時には数百万といった単位で変わります。

くり抜かれた貝を厚みごとに分けておく
くり抜かれた貝を厚みごとに分けておく

わずかな厚みでなぜ?と疑問に思うかもしれませんが、石を原料とする黒石と比べ、ハマグリの貝殻をくり抜いて作る白石は、出せる厚みに限界があります。

それに加えて碁石は、白石を180個、黒石を181個、それぞれ同じ形・厚み・グレードで揃えないと商品になりません。

碁石を1セット揃えるのには大変な労力と時間がかかる
碁石を1セット揃えるのには大変な労力と時間がかかる

13ミリを超えるような厚みの碁石を作ろうとした場合、1セット揃えるだけで数年かかることもあるのだとか。値段が跳ね上がるのもうなづけます。

高く評価されたハマグリ碁石は日向の一大産業となり、さらにその価値を最大限に高めるために碁石製造の工程は進化し、職人の技術も高まりました。

厚みを測りながら削っていく緻密な作業
厚みを測りながら削っていく緻密な作業

別記事で詳細に触れる予定ですが、原料となるハマグリから取れる最大の厚みを見極め、寸分違わぬ精度で碁石の形に削り、磨き上げていく。碁石職人の技術には本当に驚かされます。

日本で唯一の産地となった日向市

日向岬
日向岬

日向のハマグリが見出されてから100年以上が経過。すでに大阪でのハマグリ製造は途絶えてしまい、黒石を含め、日本で碁石製造の技術を受け継ぐ地域は日向だけとなりました。

「はまぐり碁石の里」
囲碁に関する『学び』と『食』の発信基地として営業している「はまぐり碁石の里」

その日向も、多くの課題を抱えています。

「日向に昔は10社以上あった碁石会社ですが、今はうちを含めて3社しか残っていません」

と黒木さんが言うように、業界内では代替わりをせず、店・会社を辞めてしまうケースが後を絶たないとか。

原料の枯渇。そして「幻の碁石」へ

特に大きな課題が、原料となるハマグリの枯渇。

「4、50年前の時点で、日向ではほぼハマグリが採れなくなり、絶滅に近い状態です」

残念ながら、日向産のハマグリは海底も含めてほとんど取り尽くされてしまい、今では「幻の碁石」と呼ばれるほど、滅多に流通しない存在となってしまいました。

「弊社では、三代目である私の父が新たな原料確保の道を探し、メキシコ産ハマグリの輸入に乗り出しました」

向かって左が日向産のハマグリ。右はメキシコ産
向かって左が日向産のハマグリ。右はメキシコ産

現在、流通しているハマグリ碁石はほとんどがメキシコ産のハマグリを使用しています。そのメキシコ産ハマグリも、安定して輸入し続けられる保証はどこにもありません。

そんな中で、日向だけに残っているハマグリ碁石製造の技術・文化を途絶えさせないために、またハマグリ碁石を求める囲碁愛好家たちの期待に応えるために、できることをやるしかない。

碁石の最高峰「ハマグリ碁石」
ハマグリ碁石を途絶えさせないために

原料が変わっても、変わらないものづくりの技術とプライド、そして時代に合わせた工夫で、碁石の価値を高めていく。

碁石職人
黒木宏二さん

次回は、そんな碁石店の挑戦と碁石製造の舞台裏、さらに熟練の碁石職人の技術にフォーカスしていきたいと思います。

・コンマ数ミリが価値を分ける。日本にわずか数人、石の声を聞く職人たち

・「白黒つけない」サクラ色の碁石が誕生、その裏側にある囲碁の未来に関わる話

<取材協力>
黒木碁石店(ミツイシ株式会社)
http://www.kurokigoishi.co.jp/

文:白石雄太
写真:高比良有城

※こちらは、2019年1月5日の記事を再編集して公開しました。

雪降る季節に楽しみたい、冬の特別な和菓子

まだまだ寒い日が続く1月。寒いのは苦手ですが、しんしんと降る雪を眺めてると、冬が終わるのも惜しいほど。日本人は古来から、雪の美しさを工芸やお菓子でも表現してきました。

今日は、この季節ならではの「雪をモチーフにした和菓子」をご紹介します。

新潟 「大杉屋惣兵衛」の六華

新潟県上越市の「大杉屋惣兵衛」は、創業1592年(文禄元年)の老舗。越後高田の大飴屋さんとして知られていますが、今回ご紹介したいのは、和三盆糖の小さな落雁「六華(むつのはな)」です。

これは、江戸後期に鈴木牧之(すずき・ぼくし)が越後魚沼の雪国の生活をまとめた『北越雪譜』に描かれた雪の結晶をかたどったもの。箱に詰められた落雁の雪文様は、ふたつとして同じものがありません。

ちなみに、私はこちらのお菓子を石川県片山津の「中谷宇吉郎 雪の科学館」で購入しました。雪の結晶に魅せられた後は、これはもう手に取らずにはいられず!新潟のお店にも伺ってみたいです。

新潟 「大杉屋惣兵衛」の六華。パッケージ
包み紙に青一色で描かれた大きな椿は、雪椿でしょうか。包みをあけるのもわくわくします
新潟 「大杉屋惣兵衛」の六華
箱の中には整然と並んだ小さな落雁。なんと、すべて違う文様なんです!
新潟 「大杉屋惣兵衛」の六華
「北越雪譜」の図も添えられていて、雪の図鑑みたい。照らし合わせて見てみます

京都 「御菓子司 塩芳軒」の雪まろげ・雪華

京織物の街、京都西陣にて創業以来130年以上にわたり、京菓子をつくり続けてきた「御菓子司 塩芳軒(しおよしけん)」。風格のある町屋に、黒い長のれんが目印です。

こちらの季節ごとの生菓子などもおすすめしたいですが、私のお気に入りは「雪まろげ」という純和三盆製のシンプルなお干菓子です。

「雪まろげ」というのは、雪玉ころがしのこと。まん丸の形はほんとうに雪玉のようで、小さな箱から指先でひとつつまんで大切にいただくと、口の中で優しく溶けてなくなります。

京都 「御菓子司 塩芳軒」の雪まろげ・雪華
小さな箱は、模様の入った繊細な薄紙に包まれています
京都 「御菓子司 塩芳軒」の雪まろげ・雪華
紅白のまるい玉が交互に。ほかに抹茶味もあります
京都 「御菓子司 塩芳軒」の雪まろげ・雪華
ころころとした雪の玉。雪のように溶けてなくなってしまうのが少しさみしいです

同じく「御菓子司 塩芳軒」から、もうひとつ。冬の季節だけの「雪華(せっか)」は、お茶のお稽古などにも人気だそう。こちらも上質な和三盆が使われているお干菓子で、指先ほどの小さな雪の結晶の形。箱入りセットではなく、ひとつずつ好きな数を包んでいただけますが、その包み紙もかわいいのでお土産にもおすすめです。こちらは春先までの販売なので、今季はどうぞお早めに。

京都 「御菓子司 塩芳軒」の雪まろげ・雪華
包み紙の上から赤い紐できりり。佇まいの美しい包みは、京都のお土産に
京都 「御菓子司 塩芳軒」の雪まろげ・雪華
雪華の文様はどうやら7種あるようです。小さな六角形の中に繊細な模様をたのしめます

岐阜 「奈良屋本店」の雪たる満・都鳥

岐阜県岐阜市、天保元年(1830年)に創業した「奈良屋本店」。岐阜県なのに奈良?とお思いでしょうか。岐阜市には下奈良(しもなら)という地名があり、こちらの創業者がその出身だったことからこの店名がつけられたのだそうです。

看板商品である「雪たる満・都鳥」は、明治19年に発売されたもので、お砂糖と新鮮な卵白だけでつくった手しぼりのメレンゲ菓子。「雪のように白く、その味は甘く、雪のような口どけ」を実現し、「雪たる満」と名づけたのだそう。薄紙に包まれて、雪だるまと都鳥が仲良く曲げわっぱの中におさまる姿はなんとも言えない可愛らしさ。ちょんちょんとつけられた目がまた愛らしいのです。

岐阜 「奈良屋本店」の雪たる満・都鳥
「雪だるま本舗」のネーミングと、だるまマーク。これまた、とっておきたい包み紙です
岐阜 「奈良屋本店」の雪たる満・都鳥
箱入りもあるけれど、やはり曲げわっぱ入りがおすすめ。直径14センチとサイズ感も抜群。雪だるまと都鳥、仲良く詰め合わせです
岐阜 「奈良屋本店」の雪たる満・都鳥
手しぼりでつくられるので、それぞれの表情に愛嬌たっぷり。さっくりとした歯ざわりで、お茶だけでなく珈琲にも合いそうです

雪の和菓子、お楽しみいただけたでしょうか(美味しくいただいて、おそらく私が一番楽しませていただきました!)。

和菓子屋さんそれぞれの味と形で雪を表現されていて、もちろん食べたらなくなってしまうのですが、それがまた儚い雪を思わせて魅力的でもありました。菓子そのものだけでなく、きれいな紐や味のある包み紙にふれる瞬間もまた、和菓子の魅力ですね。

日本の北から南まで、雪への愛着はそれぞれかと思いますが、その土地ならではの、雪との縁は素敵なものでした。次の冬はどんな雪に出あえるでしょうか。

<取材協力>
「大杉屋惣兵衛」
http://ohsugiya.com
「御菓子司 塩芳軒」
http://www.kyogashi.com
「奈良屋本店」
http://www.naraya-honten.com

文・写真:杉浦葉子※この記事は、2017年2月11日の記事を再編集して掲載しました

全国のお雑煮を食べくらべ。ご当地のお椀でご当地のお雑煮をいただく

新年、あけましておめでとうございます。

お正月にはお正月らしい記事を。今日は「お雑煮と器」のご当地比較をお届けします。

東西でお雑煮の味付けやお餅の形が違う話は有名ですが、工芸産地の今を追いかける「さんち」編集部としては、せっかくならご当地のお雑煮はご当地のお椀でいただきたい。

各地の漆器屋さんや作家さんにお願いして、全国のご当地椀でいただくお雑煮企画、やってみました。

お雑煮の来た道

お雑煮

そもそも「雑・煮」と書くだけあって、お雑煮は平たく言えばごった煮です。

もともとは神様にお供えした食事(神饌・しんせん)を下げて氏子さんが神様と共にいただく「直会(なおらい)」に端を発し、それがお正月の年神様をお迎えするための供物をいただくことを指すようになったそうです。

さらに古くからの風習で鏡餅や大根、獣肉を食べて長寿を願う歯固め(はがため)の行事が年始にあり、要はこれらが「ごった煮」になってお雑煮が生まれた、とも言えそうです。

お雑煮に入る具材は地域によって様々。今回は漆器の産地でありかつお雑煮にも特徴のある5地域を全国から探しました。北から巡ってみましょう。

【岩手】希少な国産漆の産地・浄法寺漆器×山海の幸が光る岩手のお雑煮

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浄法寺は今では希少な国産漆の産地。

なんと日本の漆は今や98%が輸入漆だそうで、そのわずか1,2%のうちの6割を生産しているのが岩手県浄法寺です。

深々とした漆の赤色はものづくりの「色」にまつわる連載「漆の赤」でもご紹介しました。

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地元の「滴生舎」さんに器の撮影にご協力をお願いしてみると、「市を通じて無償貸し出しをしているんですよ」との驚きのお返事が。

浄法寺町のある岩手県二戸市では、個人や企業のイベントに、浄法寺のお椀やお箸を無償で貸し出しているのです。県外の人でも利用できる、太っ腹なサービスです。

お雑煮は、角餅にすまし汁。具は千切りにした野菜や高野豆腐を冷凍保存して使う「ひき菜」に、豪勢にもイクラが盛られています。そしてもう一つ、大きな特徴が。

一緒に並んだ器には、お餅をつけて食べるくるみだれが入っています。これは炒ってすりつぶしたくるみを砂糖や醤油と和えたもの。

調べたところ、お隣の青森県はくるみ生産量全国第2位(2014年度)。青森ではくるみだれをつける風習がないそうなのが不思議ですが、こうした地理関係が育んだお雑煮と言えそうです。

【東京】蕎麦文化の街で蘇った江戸漆器×ザ・関東風お雑煮

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続いては江戸漆器。雑煮をいただけるお椀を探しているんです、と問い合わせると「江戸漆器はねぇ、角ものなんですよ」と教えてくださったのは「かっぱ橋 竹むら」さん。東京の道具街・かっぱ橋の蕎麦道具漆器専門店です。

江戸漆器は蕎麦文化のある江戸で作られてきた漆器。もっぱらせいろなど四角い形のものづくりが中心で、お椀など丸い形のものはいわば専門外。

昔はお椀などをつくる職人さんもいたそうですが、今ではすっかりいなくなってしまったそう。

これは早くも全国縦断の危機‥‥かと思っていたら、竹むらさんや有志の方で復刻させたお椀があるそうです。それがこちら。

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江戸の夢と書いて江夢椀(こうむわん)。復元は椀ものの得意な福井の生地、漆を使ったそうです。産地によって得意な形があることを学びました。

お雑煮は岩手に続いて角餅にすまし汁。ザ、関東風で、東京出身の私には、馴染みのあるところです。

【長野】木の国生まれの木曽漆器×長野らしいお雑煮

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中山道の北の入り口に位置する旧檜川村(現・長野県塩尻市)を中心に、夏は涼しく冬は厳しく寒いという漆塗りに適した気候の中で育まれた木曽漆器。

交通の利もあり産業として栄えました。現地の山加荻村漆器店さんがすすめてくださったお椀は、スッとした高台に艶やかな赤、ふっくらとした蓋つきのシルエットがいかにも雑煮椀という風情です。

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お雑煮は切り餅に再び、くるみだれ。

木曾からは北になりますが、北信州の伝統的なお雑煮で、ご家庭によってお雑煮の上にすっぽりとタレをかぶせたり、別の器に分けたりがあるようです。

実は長野、くるみの生産量日本一。ここにもご当地ならではの食材が取り入れられています。

ちなみに岩手と違うのは、くるみだれにお豆腐を和えていること。岩手と比べるとふんわりと白っぽいのがわかります。

【奈良】漆器発祥の地で受け継がれる奈良漆器×関西でも珍しいきな粉のお雑煮

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お酒に銭湯、様々な文化の発祥の地と言われる奈良ですが、実は漆器も奈良発祥と言われています。

仏教伝来とともに天平の時代には螺鈿などをまとった美しい工芸品として職人が腕を競いました。

次第に社寺と結びついてその技術を継承しながら、後世には茶の湯文化の発達とともに奈良漆器は受け継がれ発展してゆきます。

このお椀は奈良に生まれ育ち、独立された漆芸作家・阪本修さんによるもの。

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お雑煮はここから味付けもお餅もガラリと変わります。

白味噌仕立てにお餅は丸餅。ここまでは関西のスタンダードですが、なんといっても奈良のお雑煮の特徴は、お餅にきな粉をつけること。

こうして見ると、中のお餅を別の味付けで味わう、という文化は全国にあるのですね。

【香川】独特の塗り技法が美しい香川漆器×白味噌仕立て・あん餅入りのお雑煮

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江戸時代に藩主保護のもと発展し、独自の塗り技法である「後藤塗り」の模様が美しい香川漆器。

このお椀をご紹介いただいた「川口屋漆器店」さんによると、「後藤塗りは古くから地元で親しまれている塗りなので、お雑煮椀として使用するケースは多いかもしれません」とのこと。

もともと茶道具に塗られる技法だった後藤塗りは、塗りの堅牢さ、美しさから座卓、小箱、盆などにも塗られるようになったそうです。

最初は黒みがかった赤色で、使い込むほどに鮮やかな赤色に変化し、経年変化も楽しめます。

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お雑煮はまたしても甘味が続きます。香川のお雑煮は白味噌仕立ての汁にお餅はあん餅。

奈良の場合はノーマルの丸餅にきな粉をつけて甘く味わいますが、香川のお雑煮はお餅自体がすでに甘いのです。ちなみに柏餅や大福は入れてはいけません!


全国ところ変われば器もお雑煮も多種多様。

ちなみに石川県は角餅と丸餅の端境にあって地域によってお餅の形が異なり、日本最南端の沖縄では、お正月にお雑煮を食べる文化はないそうです。

もちろん今日ご紹介したメニューも、ほんの一例。たとえ同じ地域でもご家庭によって具や味付けはまた異なると思います。

当たり前と思っていた文化が、実は隣の人とは全く違うかも。うちではこう、あっちではこう、とぜひ違いを楽しんでお雑煮談義に花を咲かせてみてくださいね。

<関連商品>
中川政七商店
日本全国もちくらべ

<取材協力>
・浄法寺漆器:滴生舎二戸市
・江戸漆器:かっぱ橋 竹むら
・木曽漆器:山加荻村漆器店
・奈良漆器:阪本修さん
・香川漆器:川口屋漆器店

<参考>
小学館『日本大百科全書』
農林水産省「特用林産物生産統計調査 特用林産基礎資料平成26年」<http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001149816>(2016/12/20参照)
信州ふーどレシピ「くるみのお雑煮」<http://www.oishii-shinshu.net/recipe/recipe-nagano/3796.html>(2016/12/20参照)

文:尾島可奈子
写真:眞崎智恵

この記事は2016年12月22日公開の記事を、再編集して掲載しました。

書き初めは、手のひらサイズの書道セットで

こんにちは。ライターの小俣荘子です。

日本で丁寧につくられた、小さくてかわいいものを紹介する連載、今回は佐賀の書道具店がつくる書道セットです。

コンパクトでどこでも使える書道セット

年賀状や手紙、祝儀袋などに墨と筆でサッと美しい文字を書けたら‥‥、そんな憧れを抱いたことはありませんか?

とはいえ、毛筆にはなんだかハードルを感じてしまいます。準備と片付けの手間、墨による汚れの心配、慣れない筆の扱いにくさなどが頭をよぎります。そんな思いを汲んで作られた、初心者も気軽に使えるコンパクトな書道具を見つけました。

有田焼の産地、佐賀県の吉田陶芸が作った「花陶硯 (はなとうけん) プチ硯セット」です。

コンパクトな書道セット
手のひらサイズの箱の中に、硯 (すずり) 、墨、筆が入っており、手軽に持ち運べる
どこでも広げられるコンパクトなセット
場所を取らずに広げられる

つるりと美しい白地に鮮やかな絵付けが特徴の有田焼の硯、三重県で平安時代から作られている彩り豊かで擦りやすさ抜群の「鈴鹿墨」、書き心地と携帯性に優れ化粧筆としても有名な「熊野筆」がセットになっています。

硯の裏には鮮やかな絵が描かれている
長さ11センチメートルほどの硯は、擦り面の裏に鮮やかな柄が描かれています。お気に入りをひとつ選べば、「書く」時間がいっそう楽しくなりそうです
柔らかく擦りやすい鈴鹿墨。1適の水を使って10回ほど擦るだけで、便箋5枚程の手紙分の墨がすぐに出来上がる。墨の色は5色から選べる
柔らかく擦りやすい鈴鹿墨。2〜3適の水で10〜20回ほど擦るだけで、はがき5枚ほどの手紙を書ける墨汁が出来上がります。墨の色は5色から選べます
ポータブルな熊野筆
金具で筆先の根元を2/3ほど締めているので、書くのに必要な先端だけに墨が染みます。根元が固定され軸となるため書きやすく、墨も少量で済むので、片付け時のお手入れも簡単です

正月の書き初めにも。美しさと使い勝手の両立にこだわった擦り面

白く美しい硯が墨で黒ずんでしまったら悲しいですが、この硯にはそんな心配もありません。擦り面は、墨がなめらかに素早く擦れることと、墨の洗い流しやすさ、相反する2つの条件がギリギリで重なる「ちょうどいいポイント」を追求して作られました。すりガラスのような細かな凹凸となっています。

硯の擦り面の拡大画像
見た目にも美しい擦り面

お正月に向けて、古くからの日本の習慣や文化に触れたくなる季節。なかなか一歩を踏み出せなかった毛筆ですが、この手軽さなら始められそう。そんな思いにかられました。

<掲載商品>
花陶硯プチ硯セット

<取材協力>
吉田陶芸
佐賀県西松浦郡有田町蔵宿丙4096-9

文:小俣荘子
写真:吉田陶芸、小俣荘子

※こちらは、2017年12月4日の記事を再編集して公開しました。