お茶を美味しくする茶器の選び方

こんにちは。細萱久美です。

みなさんは珈琲とお茶で言えばどちら派でしょうか。私は、外では珈琲も飲みますが、家だとほとんどお茶ばかり飲んでいます。

最近では、勢いのある珈琲に押され気味なお茶ですが、日本では温暖な地域を中心に複数の産地で相当数の銘柄のお茶が作られています。また、お茶を淹れる急須の産地もいくつかあり、常滑、萬古、信楽などの陶器から有田の磁器、鉄の南部鉄器あたりが有名です。

むしろ日常で当たり前に出てくることも多いお茶ですが、それだけ日本には古くからお茶文化がある訳で、個人的に好きなこともありますが、改めてお茶の美味しさ、楽しさを提案したいと思います。

お茶を楽しむために欠かせない茶器選び

ひとくくりにお茶と言っても、煎茶、ほうじ茶、紅茶、フレーバーティー、雑穀茶、ハーブティーなどあらゆるお茶を、時間や気分によって飲み分けています。

珈琲にも産地やブレンド、焙煎などで多種多様な種類と飲み方がありますが、お茶も種類によって形状から違いがあり、香り・味・水色(すいしょく)もそれぞれに特有なものがあります。そこを上手に引き出すのが、お茶を楽しむ醍醐味と言ってよいかもしれません。そしてその醍醐味を味わうには、お茶に合わせて茶器、とりわけ注器を選ぶことが、美味しさを引き出すポイントになります。

そこまでこだわるのは面倒‥‥と感じるかもしれませんが、これをきっかけに、まずはお茶を急須でていねいに淹れてみようと思っていただけると嬉しいです。

ちなみにハーブティーは別として、日本茶・紅茶・中国茶などの「茶」はすべてカメリア・シネンシスというツバキ科の茶の樹から作られており、それが土壌や気候、特に製法によってさまざまな種類のお茶になります。

烏龍茶に代表される中国茶は実に1000種を超えると言われており、日本茶とは文化も飲み方も異なるので、今回は日本茶を基本に、私個人がおすすめする茶葉と注器の組み合わせをご提案いたします。写真の器は私物ですが、形の参考としてご覧ください。

日本茶で一般的に普段よく飲まれているのは煎茶、ほうじ茶、番茶、玄米茶などでしょうか。特に緑茶のうま味が好きな方は玉露やかぶせ茶も飲まれると思います。うま味を引き出すには低めの温度、香りや渋味を引き出すには高めの温度が向いているので、玉露は60度、煎茶で約80度、ほうじ茶や番茶、玄米茶は100度に近いお湯で淹れます。お湯の温度は、注器の種類にも関係してきます。

急須

急須(作家:伊藤雅風)

煎茶に向いている注器は、ご存知「急須」です。急須は、注ぎ口と直角に持ち手が付いていて、基本の持ち方は、急須を持つ手の親指で蓋を押さえながら、最後の一滴まで絞り切るので、形・サイズなどの持ちやすさは必ず確認しましょう。

陶器と磁器だと、どちらかと言えば陶器がおすすめです。陶器の粘土素地によって雑味が取れ、角のない味のお茶になると言われています。実際に香りは残りやすいので、洗剤の使用は避けましょう。

急須の有名な産地、愛知の常滑や、三重の萬古焼はいずれも陶器製です。形、サイズも様々ですが、茶葉にお湯が回りやすいことと、洗いやすさの点では、蓋がやや広めの形状が使いやすいと思います。

絞り出し

絞り出し
絞り出し(産地不明)

絞り出しという持ち手のない注器もおすすめの形です。持ち手が無いので置き場所もコンパクト、茶漉しも無く洗うのも簡単です。

こんなミニマムな茶器があると気軽にお茶を淹れられます。ただし、手に持つので熱湯で淹れるお茶には不向き。玉露や煎茶を低温で淹れるのに適しています。玉露などの産地でもある宇治では古くから使われている形です。

絞り出し急須(萬古焼 カモシカ道具店)
絞り出し急須(萬古焼 カモシカ道具店)

こちらは、「絞り出し」に持ち手が付いたタイプ。持ちやすく、お茶を絞り出しやすく、洗いやすい形に工夫されています。絞り出すとは、お茶の旨味を最後の一滴まで絞り出すこと。美味しいお茶を、日々気軽に淹れるには便利な急須です。茶葉も煎茶や玄米茶、ほうじ茶など比較的万能です。

土瓶

土瓶(手前が作家:小川甚八に金継ぎ 奥が京焼き)
土瓶(手前が作家:小川甚八に金継ぎ 奥が京焼き)

熱湯でたっぷりと淹れたいほうじ茶や番茶には、土瓶タイプの注器がおすすめです。

土瓶は、上部に蔓形の持ち手が付いていて、名前からも分かるように、陶器が多いですが磁器の土瓶もあります。比較的大振りなものが多く、茶葉の大きなお茶は入れやすく、茶葉も広がりやすいので美味しく淹れることができます。

厚手だと保温力にも優れ、お代わりも熱いまま。我家の夕食後は、雑穀茶がお決まりで、土瓶にお湯を足しながらたっぷり飲みます。姿もゆったりとおおらかなので、リラックスタイムにはぴったりです。

今ではわずかになった直火にかけられる煎じ土瓶が始まりで、良質な耐火土が採れる伊賀は土瓶や土鍋の産地として有名です。煎じ土瓶は私も使ったことがなく、特殊ではありますが、ちょっとした憧れもあります。

ポット

ポット(作家:加藤財)
ポット(作家:加藤財)

注器の形状で言うと、あとはポットがあります。ポットは、注ぎ口と正反対側に縦のわっかの持ち手がついたもの。ティーポットと言うと紅茶のイメージですが、中国茶を入れる小さめの注器もポットの形状が主流です。

今は、色々なデザインのポットがあって、何専用ということもありませんが、適したサイズ感はあると思います。最近では和紅茶も流行っており、紅茶はポットの中で湯が対流することで茶葉がよく開くため、ある程度大きく、丸みのあるポットが最適です。耐熱ガラスのポットだと、対流がよく見えて楽しいですよ。

番外・耐熱グラス

耐熱グラス(HARIO)
耐熱グラス(HARIO)

注器ではないので番外になりますが、耐熱グラスです。二重構造なので、熱いお茶も普通に持てて便利です。やはり手軽さが魅力のティーバッグもよく飲みますが、ティーバッグでも、きちんと蒸らすと蒸らさないでは味も香りも変わります。

おおまかではありますが、それぞれのお茶に適した注器の紹介をさせて頂きました。お気に入りの茶器を見つけたら、何度か淹れてみてお好みの味わいを見つけましょう。

お茶を淹れることはさほど難しいことではなく、人に淹れてあげる気持ちで淹れるといつもより少し美味しくなるかもしれません。

お茶は喉の乾きを潤す以外に、「お茶の時間を愉しむ」といった、お茶を介して時間や空間を愉しめるものだと思います。ちょっと凝り始めたら、お茶と茶器を取り合わせた気軽なお茶会も楽しいですよ。自分に合ったお茶時間をお愉しみください。

<掲載商品>
かもしか道具店 しぼり出し急須

<関連商品>
耐熱硝子の多用急須
萬古焼の耐熱土瓶

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立

東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

ホームページ
Instagram

文・写真:細萱久美

※こちらは、2017年1月14日の記事を再編集して公開しました。お家で過ごす時間が少しでも楽しいものになるように、茶器にこだわってみてはいかがでしょうか。

煎茶のプロがすすめる淹れ方・急須・茶葉選び。「美味しい日本茶のコツは3杯淹れること」

カネ十農園 表参道 松本貴志さんに教わる煎茶道入門

日本人にとって身近な飲み物である「日本茶」。

特に近年ではペットボトル入りの緑茶飲料が普及し、いつでもどこでも手軽に日本茶を楽しめるようになりました。

その一方で、急須を使って茶葉からお茶を淹れる機会が減ってきているようにも感じます。

急須で淹れる日本茶

農林水産省が平成28年に発表した統計によれば、1世帯当たりのリーフ茶(茶葉で淹れる緑茶)の消費量はこの20年ずっと減少傾向にあるようです。

筆者もそうですが、いざ自宅で淹れてみようと思っても、必要な道具や茶葉の選び方など分からないことが多く、ハードルの高さを感じている人が多いのかもしれません。

そんなハードルを下げ、もっと気軽に日本茶を楽しむ方法について、専門家に聞きました。

静岡の茶農園が運営。日本茶専ティーサロンの“ティーバーテンダー”に聞く

カネ十農園 表参道
カネ十農園 表参道

表参道に昨年オープンした、日本茶の体験型ティーサロン「カネ十農園 表参道」。

同店を運営するのが、日本を代表するお茶の産地 静岡で、100年以上にわたって茶農園を営んできた「カネ十農園」(静岡県牧之原市)。

「茶葉はもっとおいしくなれるはず」という想いで、地元牧之原だけでなく国内外の製茶技術を学び、茶葉の可能性を追求し続けている農園です。

静岡のカネ十農園が表参道店をオープン

今回話を聞いたのは、「カネ十農園 表参道」で、“ティーバーテンダー”として日本茶を提供している松本貴志さん。

茶葉の選び方、淹れ方のコツなど、色々と伺いました。

カネ十農園 表参道
店内には、テーブルに畳をあしらった10席ほどのカウンター席が用意されています。左手前が松本さん。奥にいるのは同店スタッフの加藤大地さん

オープンキッチンのカウンターで接客する松本さんは、もともと都内でバーテンダーとして18年間も勤めていたという異色の経歴の持ち主。

業務の幅を広げるため、ソムリエの資格を取得しようと畑の勉強を始めて土の奥深さに気づき、その後、縁のあったカネ十農園から誘われてお茶の世界にやってきました。

カネ十農園 表参道の松本貴志さん
カネ十農園の松本貴志さん

「弊社の本業は農家。土づくりから始め、木を育て、製茶業を続けています」

とのことで、松本さんも普段は表参道の店舗で業務を行い、一番茶の収穫のときには静岡に戻るのだそうです。

静岡のカネ十農園が表参道店をオープン
カネ十ファーム 静岡 牧之原の茶畑

美味しい日本茶の淹れ方とは

さて本題ですが、日本茶を美味しく淹れるには何が必要なのでしょう。

「道具に関して言うと、目が細かい急須が最適です。目が粗いと茶葉が通り抜けて湯呑みに出てしまいます。

ここでは玉川堂(ぎょくせんどう)さんの急須を使用していますが、淹れやすくて個人的にオススメです」

カネ十農園 表参道で使用している玉川堂の急須
カネ十農園 表参道で使用している玉川堂の急須
カネ十農園 表参道で使用している玉川堂の急須
網目部分が細かいものがオススメだとか

やはり、何は無くともまずは急須。

と言っても難しく考える必要はなく、茶葉をせき止める部分の目が細かいものを選んでおけばよいそう。

お店で浸かっている急須
こちらもお店で使っている急須

「静岡茶の深蒸し茶は細かいし、鹿児島の普通煎茶は形が少し大きめ、京都の番茶は葉が広いなど、産地やお茶の種類によって茶葉のサイズや形も変わってきます。

ひとまずは目の細かい急須を選んでおけばどんな茶葉にも対応できると思います」

静岡のカネ十農園が表参道店をオープン
牧之原 カネ十農園で収穫された茶葉

ちなみに、紅茶用のティーポットの様に茶こしの網が本体と分かれているものは、十分に茶葉が開ききらないためあまりオススメできないとのことでした。

温度・蒸らし時間・水で味が変わる

「1-2人分なら茶葉4グラムに対して100-150ミリリットルのお湯。40秒ほど蒸らしてから出し切ってください。3-4人分なら、茶葉は5g、お湯は200-250ミリリットルが理想です」

と、茶葉の分量についても教えてもらいましたが、これはあくまで目安。

煎茶なのか、ほうじ茶なのか、茶葉の種類によっても分量や蒸らし時間は異なってきます。

茶葉の形やサイズは、産地や加工方法によって様々
茶葉の形やサイズは、産地や加工方法によって様々

「ほうじ茶や棒茶は沸騰したお湯を使っても大丈夫ですが、煎茶は80~85度くらいがベスト。でないと、渋みが出すぎてしまいます。

水は、軟水で淹れた方が味も色もきちんと出て美味しいとされています。日本では、普通に水道水を使っておけば問題ないでしょう。

カルキ臭が気になる場合は、沸騰させてから温度を下げる方法もあります」

分量のほか、温度・蒸らし時間・水で美味しさが変わってくるということで、その辺りを調整できる道具が揃っていると良さそうです。

目安はあるけれど、自由に淹れて楽しむべし

ストップウォッチ機能がついたスケールがあると便利
ストップウォッチ機能がついたスケールがあると便利

「分量については、計りを用意してグラム数を見るのが正確ですが、ティースプーンひとすくいが何グラム、というのを感覚で覚えておくこともできます。

あとは、温度設定ができるケトルがあると非常に楽ですね。

もしくは、沸騰したお湯を一度湯冷まし用の器に移すとそれだけで80〜90度に温度が下がります。そのあたりの感覚を掴んでおけば、いちいち温度を計らなくても調整が可能です。

どこまでこだわるかにもよりますが、無理のない範囲で、手持ちの道具を活用して淹れてもらえればよいと思います」

一度湯冷ましを経由することで温度を下げることができる
一度湯冷ましを経由することで温度を下げることができる

時間はスマートフォンで計測できるし、水は水道水でよくて、ケトルやポットも特別なものは必要ない。

ふむ。かなりハードルが下がった気がします。

「分量や時間、お湯の温度など、もちろん目安は存在します。

ただ、そこから先は個人の好み。色々試しながら自由に、気軽に淹れていただきたいですね」

3回楽しめる煎茶道

ちなみに、煎茶の場合、3回お湯を淹れるのが正しい飲み方とされているそう。

カネ十農園の煎茶

「煎茶道において、一煎めは茶葉が開いていない状態。つまり前哨戦です。

二煎めが本番。そして三煎めで味も落ち着きます」

一煎ごとにお湯を出し切るのがポイント
一煎ごとにお湯を出し切るのがポイント

1杯分の茶葉で3度も楽しめるのは何やらお得な気分。

ポイントは、一煎ごとにきちんと湯呑みにお茶を出し切ることだそう。茶葉がお湯に浸かったまま時間が経つとどんどん雑味が出てきて渋くなるだけなのだとか。

茶葉の選び方

茶葉の選び方については好みもあるため、ともかく色々と試してみるのがスタートになるとのこと。

その中で、選びやすさのポイントとして挙げられるのが「シングルオリジン」か否か。

品質にブレが少ないシングルオリジンの茶葉であれば、好みの基準を定めやすい
カネ十農園 表参道で販売している茶葉

コーヒー豆でよく聞くフレーズですが、ここでは「単一の農園で作られている茶葉」であるという意味。

「日本茶の多くは、色々なところで作られた茶葉をブレンドした状態で売られています。

そのため、同じ種類の茶葉を買ったはずなのに、その時々で味にばらつきが出やすく、自分の好みを定めにくい。

弊社は単一の農園で製造から加工まで一貫しておこなっているので、安定した品質で茶葉を提供することが可能です」

玄米茶
玄米茶

まずは、この農園のこの茶葉が好き!という風に自分の好み定めていき、そこから派生して同じ系統のお茶を色々試すことで、好みを広げていくのが近道のようです。

こだわり始めると色々と奥が深そうで、ワクワクしてきます。

クリームチーズとお茶が合う!? 日本茶文化をつなぐために必要なこと

人気商品の「カネ十 アールグレイ」
人気商品の「カネ十 アールグレイ」。英国式の製法で作られています
人気が高い「カネ十 アールグレイ」

「ちなみに、このお店で人気の茶葉は、『柚子煎茶』『カネ十アールグレイ』といった商品。若い方もよく買っていかれます。

名前から味が想像できないと思いますが、この珍しさに惹かれて購入して、気が付いたらリピーターになっているケースが多いです。

商品名やパッケージデザインも含め、日本茶の普及にはこうしたブランディングが重要だと痛感しています」

パッケージデザインにもこだわった
パッケージデザインにもこだわった

こうした気づきは、ティーサロンという形態でお茶を提供することで得られたもの。

「今後は、畑の肥料を試行錯誤して、茶葉の味にどんな違いが出るかを研究していきたいと思っています。

そして、店舗ではユニークな淹れ方、料理との合わせ方など、面白い提案をしていけたら良いですね。

最近だと、クリームチーズとお茶の相性がとても良いことに気づいて驚きました。この組み合わせで新しいドリンクメニューも開発中です」

カネ十農園の松本貴志さん
店舗を通じて色々な提案をしていきたいと意欲的に話す松本さん

冒頭で触れたように、ペットボトル飲料を除けば縮小気味の日本茶市場。

カネ十農園では、100年以上の経験を活かした茶葉作りをベースに、表参道である種実験的な提案も繰り返しながら、日本茶文化が再度普及することを目指しています。

茶葉は開封しなければ1年は持つそう。1杯当たりのコストはペットボトルよりも安く、実はお得です。

まずは難しく考えず、直感で茶葉を選ぶところから始めてみてはいかがでしょうか。

<取材協力>
カネ十農園 表参道
http://kaneju-farm.co.jp/

文・写真:近藤謙太郎
*こちらは、2019年2月1日の記事を再編集して公開しました。温かいお茶にホッとする季節、美味しい淹れ方のコツを知っておくと、休憩の時間も一層楽しめそうです。

合わせて読みたい
飲み方や道具も様々。日本に伝わる「お茶」あれこれ

 

私が唯一失敗せずにいれられるお茶。日常におすすめしたい番茶の魅力とは

「ざっくりいれても失敗しない茶葉があればいいのに…。」そんな思いに応えてくれる番茶の魅力をご紹介します。

→記事を見る

ふわふわの泡をいただく琉球茶道。王朝時代から伝わる「ぶくぶく茶」を体験

ぶくぶく茶の泡

沖縄には、雲のような泡が乗った伝統茶があります。その名は「ぶくぶく茶」。その歴史や作法を教わりながら体験できるお店があると聞いて、訪れてみました。

→記事を見る

猛暑ですね。氷で点てる、冷たい抹茶はいかがでしょう。

氷点て抹茶

夏のための、冷たい抹茶があるのをご存知でしょうか。氷で点てる、「氷点(こおりだて)抹茶」。名前からして、なんとも涼やかな飲み物です。

→記事を見る

「ご飯茶碗」と「抹茶碗」って、いったい何が違うのでしょう?

斗々屋茶碗 銘 郭公

お茶に合う茶碗ってどんなものだろう?どんな風に選んだら良いんだろう?そんな疑問に答えてくれるイベントをレポートします。

→記事を見る

原作者に聞く、映画「日日是好日」の楽しみ方と茶道具の秘密

日日是好日に登場する茶道具たち

それまで縁がないと思っていた人にも茶道の面白さや奥深さを感じさせてくれる、そんな映画『日日是好日』。原作者の森下典子さんに、映画で使われた茶道具にまつわるエピソードを聞きました。

→記事を見る

*こちらは、2019年11月23日の記事を再編集して公開しました

武将の鎧を再現し続ける「江戸甲冑師」の作業場を覗いてみた

もうすぐ5月5日の子どもの日ですね。日本では端午の節句として、男子の健やかな成長を祈るためさまざまな行事を行う風習があります。また、端午の節句はこの時期に盛りを迎える菖蒲から、菖蒲の節句とも呼ばれています。

「菖蒲(しょうぶ)」は武を重んじる「尚武(しょうぶ)」と音が同じであることから、端午の節句は武家の間で盛んに祝われるようになりました。次第に庶民にも広まり、華やかな人形や兜を飾るようになったのは、武家社会から生まれた風習だからです。

自分の身を護る大切な道具だからこそ、事故や病気から大切な子どもを守ってくれるように、健やかに育ってほしいという願いも込められているのです。

加藤さんが製作した兜たち
加藤さんが製作した兜たち

今回は、端午の節句に飾る兜(かぶと)や甲冑(かっちゅう)を製作する江戸甲冑師・加藤鞆美(ともみ)さんの作業場に伺い、お話を聞いてきました。加藤さんは平安時代から江戸時代までの兜を製作。他に製作できる職人が見当たらないほどの完成度だといいます。

兜は子どもたちがすくすくと育ってほしいという想いが込められています
兜は子どもたちがすくすくと育ってほしいという想いが込められています

全国行脚をしながら甲冑製作の研究を重ねる

加藤鞆美さんは1934年、東京都北区に生まれ、父である初代・加藤一冑のもとで、甲冑製作の修行を積みました。一冑が全国行脚して集めた甲冑の資料を裏付けるために、自ら博物館、展示会、神社、仏閣に足を運んで研究を重ねています。

「京都の博物館に甲冑展があると、2日は通いましたね。甲冑を見ながら絵を描くんです。写真は絶対禁止。草摺(くさずり:甲冑の胴の裾に垂れる部分)は何枚あるのかなどを確認するわけです。すると、警備員に注意される。甲冑師という存在を知らないから、身分を明かしてもわかってもらえなくて」と加藤さんは振り返ります。

一度見ても納得いかなかったら、もう一度見に行くことも。かつては手に取って触れられたそうですが、自治体が買い取ったり、国宝などに認定されたりする物が多く、ガラス越しでないと、実物を確認できないことが多いのだとか。

その苦労も乗り越えながら、加藤さんは江戸甲冑を作り続けています。

江戸甲冑師の加藤鞆美さん
江戸甲冑師の加藤鞆美さん

江戸甲冑と京甲冑の違いとは?

鎧(よろい)や兜は製法の違いによっていくつかの種類に分かれますが、代表的なのは「江戸甲冑」と「京甲冑」です。

江戸甲冑は、武家社会で生まれて発展したものなので、重厚かつ力強い雰囲気が特徴です。加藤さんのような江戸甲冑師は歴史を紐解きながら、使う皮一枚でも当時と同じものを用い、忠実に再現。現物をミニチュア化しているので、実際に着られるような構造になっています。

これに対を成すのが「京甲冑」。京都の貴族社会の中でを出自に持つため、飾ることを目的にしており、金属を多用した華やかな雰囲気が特徴です。西陣織や組紐、箔押しなど京都の伝統工芸が随所に散りばめられています。

雅の京に武骨の江戸。土地柄が作品にも現れているのですね。

精巧に作られている江戸甲冑の胴丸
精巧に作られている江戸甲冑の胴丸

時代によって異なる甲冑の内容

土地だけでなく、時代によって甲冑の内容も変化しました。

「鎧で一番に派手なのは、鎌倉時代の末から室町時代中期くらいのものですね。着るためではなく、奉納するために作られたからで、紐も柄も派手で艶やかなものが多いのです」

戦いの歴史は、武器の歴史でもあります。弓矢から刀、槍、そして鉄砲の時代がやってきます。武器が強くなるにつれ、身を守る鎧も強固になっていきました。しかし、徳川の時代になると戦いがなくなります。それでも、男子が生まれると兜や鎧を必ず作りました。この時期から「男の子に健やかに育ってほしい」という願いが込められるようになりました。

たとえば、徳川将軍15代にわたる兜にはほとんど変化が見られません。それでも、時代の流行があるのでしょうか。紐の色が違ったり、ときには熊の毛をあしらったものもあったそうです。

「徳川の時代は紐の色がどれも地味なんですね。どの時期も倹約をしていたからなのでしょうか。ちょっとわかりませんが」と加藤さんはニコリと笑います。

兜一つとってもさまざまな細工がなされています
兜一つとってもさまざまな細工がなされています

甲冑は武将によって性格が出る?

甲冑は時代によっても変化しますが武将によっても違いが表れます。

「兜の頭のてっぺんには“八幡座”という穴があるのですが、織田信長の場合は織田木瓜という家紋が5つも散っていました。信長は全体的におしゃれですね」と加藤さん。

豊臣秀吉はどうなんでしょうか。

「秀吉は派手ですね。でも七騎の鎧といって影武者用にもほとんど同じものを作らせているんですよ。それなのに胸に描いた竜の向きが違うとか、片側の花だけ銀の蒔絵がしてあるとか、ほんのちょっとだけ違う」

徳川家康の場合はどうでしょう?

「派手派手しい鎧はないですね。何両もの金を持ち歩いていたので、兜は重いものにしていませんでしたね」と加藤さん。実用本位の家康らしい一面が見えます。

戦国武将にとって、兜や鎧は身を守る武具であると同時に、自分自身の表現でもありました。生と死が相まみえる戦場で、いかに運を引き寄せることができるか。兜や甲冑は武将の矜持や信仰、意志が込められているのです。

ミニチュアには嘘も必要?

兜や甲冑を作るには、金具や漆などさまざまな技術を使わなければなりません。甲冑作りとはいわば総合芸術なのです。

ミニチュアにするとなると、技術的にはもっと難しくなります。5日かかって、胴丸の紐だけを通し終えることもあるそうです。

「縮尺通りに作ろうとするとバランスが悪くなってしまうんですね。どこかで嘘をつかないと。兜や鎧ではないけれど、例えば、奈良の大仏の頭にあるブツブツ……あれは“螺髪”という丸まった髪の毛で、てっぺんと前の大きさが違う。頭頂部を大きくしないと、遠近法の関係で同じように見えなくなるわけです」と加藤さん。

嘘をつくことでバランスが保たれる。細かい工夫が凝らされています。

小さな穴に組紐を通していきます
小さな穴に組紐を通していきます

作業場には昔ながらの道具たち

作業場にもお邪魔致しました。さまざまな道具が並んでいますが、いずれも年季の入った優れものばかりです。

作業場のどこに何の道具があるか、全て把握しています
作業場のどこに何の道具があるか、全て把握しています

「今のハサミは切れないんですよ。昔は鍛冶屋が手で作ってましたが、今のものは、機械造りで焼きが変に硬いんです。硬すぎちゃって、鋲の足を切ったりすると欠けちゃうんですよね」と加藤さんは首をかしげます。

使い込まれたハサミたち
使い込まれたハサミたち

「これはね17歳の時に買ったカナヅチなんだけど、中は軟鉄で口の部分に5㎜くらい鋼が貼ってあるんですね。音がまるで違うの。今のものは全部が鋼鉄で、硬すぎちゃって、叩くとハネちゃうの」

使い込まれたカナヅチたち

昔ながらの道具がなくなっていると同時に、その道具を使う職人も少なくなっているそうです。

火起こしのような道具で穴を開けます。両方向からの回転が加わり、力加減が調節できます
火起こしのような道具で穴を開けます。両方向からの回転が加わり、力加減が調節できます

背中を見ながら仕事を覚える

加藤さんは父の背中を見ながら仕事を覚えました。

「父親が使っていた、少しキレづらくなったヤスリとかが回ってくるんですよ。『それで同じように作れ』と言われるんです。それで父親がいなくなったときに、どんな道具を使っているのかなと見てみると、はるかにキレるんですよ。それから負けるもんかと。父親が作らなかったものを作るようになりました」

負けず嫌いで勉強家な職人は、道具から細部までこだわり抜き、今では彼にしか作れない江戸甲冑を仕上げています。今なお研究を続けているその姿に頭が下がりました。

笑顔でお話をしてくださった加藤さん
笑顔でお話をしてくださった加藤さん

<取材協力>
加藤鞆美
東京都文京区向丘2-26-9
03-3823-4354

文:梶原誠司
写真:mitsugu uehara

こどもじゃなくても欲しい。美濃和紙の「のぼり鯉」

こんにちは。細萱久美です。現在フリーで、メーカーさんのモノづくりや販路開拓などのお手伝いをしています。

仕事で地方に行くこともありますが、プライベートであちこち出歩くことも多く、インプットと自分に言い訳を。密やかにInstagramで、モノや美味しいモノをアップしています。

職業柄か、店情報に詳しいと思われることが多いのですが、実際は新しい店を開拓するより、気に入った店をリピートするタイプなので、最新スポットなどはそんなに詳しくありません。

飲食関係で、たまに行きたくなる店が集中しているのは、住んでる奈良でもなく、出身の東京でもなく、意外な場所で岐阜市が頭に浮かびます。

岐阜市にはそれこそ一年に一度は行っている気がしますが、そのきっかけになったのは、先月のさんち記事でもご紹介したまっちんと、まっちんの仕事パートナーの山本慎一郎さんの拠点で、いつも案内してもらえるおかげ。

山本さんは、山本佐太郎商店四代目として岐阜市出身なこともあり、またいつでも明るく誰しもに頼られる存在で、私もなにかと頼りにしている岐阜の兄貴(年下!)なのです。街を歩くと必ず何人もの知り合いに会うという岐阜の有名人。

山本さんは代々続く食品問屋を受け継ぎ、また「大地のおやつ」の製造販売者です。美味しい店にも詳しく、忙しいのを知りつつも、いつも岐阜案内を強請っています。

岐阜市にはオーナーの個性やこだわりが突き抜けた名店が多く、私のリピート率が高い「ティールーム」「たい焼き&かき氷屋」「和菓子屋」「うどん屋」「BAR」・・と挙げたら結構なことに。なので毎度食い倒れの旅です。

山本兄貴と共に、岐阜の名店と個性派オーナーを紹介する本を作りたい!と本気で思ったりします。

つい岐阜愛が強くて前置きが長くなりましたが、今回取り上げるのは、その岐阜市にある「のぼり鯉」の工房です。岐阜を代表する伝統工芸品の一つで、美濃和紙で作られた、いわゆる鯉のぼりです。

岐阜市東材木町「小原屋商店」の「のぼり鯉」

その歴史は古く、徳川吉宗の享保の改革の時代。布は贅沢ゆえ、紙で作るようにお触れが出たそうな。

「のぼり鯉」とは、子供の健やかな成長を願って付けられた名称で、現在製造しているのは、岐阜市東材木町の「小原屋商店」わずか1軒のみ。

十三代続く小原屋の創業はさらに古く、織田信長が岐阜に入城して少し後だと言うから驚きです。

のぼり鯉をつくる和紙

先代の制作風景写真
先代の制作風景写真が飾られている

のぼり鯉は、完全なる手作業で作られ、部屋の中に飾れる小さなサイズもあります。

手漉き和紙を手で揉んで、手描きで彩色します。揉むことで柔らかくなり、立体に形作れるのと、シワによるぼかしが活かされ躍動感のある色彩に。

紙は「油紙」と言う、油を塗った防水紙なので丈夫で長持ち、経年変化で深みが増しそうです。色使いはくっきり、はっきり黒・赤・青・白・黄の五行説の5色。「こどもの日」の元気の象徴としてもぴったりな力強さを感じます。

岐阜市東材木町「小原屋商店」の「のぼり鯉」

十三代目の河合俊和さんは元々建築家と言う異色の職人さんで、今でも兼業にてお忙しくされています。それもあって、百貨店催事などのお話も全て断り、小上がり座敷のある小原屋商店のみでの販売だとか。

私もここに来て初めて知った工芸品です。奥さまがいらっしゃればお茶を出して頂けるかも。

岐阜のことや工芸のことなど、ゆっくりお話しながら鯉を選ぶ時間も贅沢です。
店頭から作業場が拝見出来るので、製作途中の鯉が見れる場合も。

岐阜市東材木町「小原屋商店」の「のぼり鯉」
岐阜市東材木町「小原屋商店」の「のぼり鯉」

サイズはどこでも飾りやすい35センチメートル程度のコンパクトな鯉から、70センチメートルくらいのダイナミックに飾れる鯉、稚児の乗ったタイプもあります。

もはやこどもの日とは関係なく、モノの魅力に参ってオーダーしました。

今日の時代に、ここまでの手仕事は本当に貴重ですし、立派な伝統工芸品ではありますが、当時は今でいう「民藝」だったのでは。

柳宗悦の言う民藝は「実用品」と言う定義もあり、厳密を言い出すと難しいですが、「民衆的工藝」とか「民俗性・郷土色を反映し、素朴な味を持つ」モノと言えば、民藝でもしっくりきます。男子のいる庶民の家に、当たり前に飾られていたのではないかと想像します。

五月の室礼ではありますが、この魅力に、我が家の趣味部屋の定番仲間入りをするであろうと、届くのを待ちわびています。

もし端午の節句までに欲しい方は、お早めに相談することをお勧めします。

<取材協力>
小原屋商店
岐阜県岐阜市東材木町32

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立

東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

Instagram

文・写真:細萱久美