フレッシュな「どら焼き」を味わいに、阿佐ヶ谷「うさぎや」へ

こんにちは。細萱久美です。

和菓子派か洋菓子派か、と聞かれることがあります。私はどちらも好きで、特にクラシックな菓子が好みです。洋で言えばプリン、シュークリーム、パウンドケーキなど。和で言えばどら焼き、大福、わらび餅。ここ数年進化の激しいかき氷でも、宇治金時やイチゴなど、伝統工芸ならぬ伝統菓子を勝手に重んじています。

それらには少しばかりうるさくて、どこのでも美味!とはならず、結果老舗と言われる店のお菓子が好物となることが多いです。

100歳で亡くなった京都の祖母は、小魚などを好む健康的な食道楽でしたが、漬物は○○、蕎麦は△△、上生のきんとんは□□、などほぼ決まった店を贔屓にしていました。タクシー会社も決まっていたのは孫ながら驚きでした。

私は、そこまでの固執はないものの、歳を重ねるほどに特に食に関しては保守的で、老舗への信頼感が強まっています。食は一期一会なので、いつでも裏切らない味を長年保ち続けていることには尊敬の念を抱きます。

東京都阿佐ヶ谷 うさぎやのどら焼き

祖母に習い、ほぼ同じ店から浮気をしていない和菓子の一つが、「どら焼き」です。ご贔屓は阿佐ヶ谷の「うさぎや」。実家のある三鷹から電車で10分程度なので、どうしても食べたくなると気楽に買いに行けるほどの距離。

どら焼きはハレの菓子ではなく、ケの菓子なので、気取った店ではなく地元に根付いた素朴な店が似合います。うさぎやは、店構えもまさにそんな感じ。

阿佐ヶ谷の「うさぎや」外観

気取りのないガラスの引き戸をガラガラと開けたら、中には小振りですが、お手入れされているショーケースに、どら焼きだけでなく季節の生菓子や、定番の可愛らしいうさぎ饅頭が並びます。

阿佐ヶ谷「うさぎや」のショーケースに並ぶ和菓子

どら焼きは大ぶりですが、あまりの美味しさにいつも2個目に手が伸びそう。皮はしっとりと弾力があって、きめが細かくパサつき感は一切ありません。ハチミツやみりんが効いているのでしょうか。

そしてたっぷり入った粒あんは、初めて食べた時「みずみずしい粒あん」という印象でした。しっとりしているので、皮に程よく馴染んでいます。しっかり甘みもありつつ、くどさがなくバランスが良いので飽きがありません。

阿佐ヶ谷「うさぎや」のどら焼き
阿佐ヶ谷「うさぎや」のどら焼き

次の日は餡の水分が落ち着いてきて、馴染んだ美味しさがありますが、是非とも当日出来立てのフレッシュなどら焼きを食べていただきたいと思います。

店内で味わう、ローカル名店ならではの楽しみ

生菓子ゆえ通販もなく、百貨店などへの出店や催事さえも恐らく無いので、店に行かねば食べられぬ味。地方でも観光地には訪れる機会があっても、東京のどちらかと言えば住宅地には、よほどでないと行く機会が無いものです。

東京に住んでいても、近くて遠い、これぞローカルという感じもありますが、和菓子や餡に目のない方には是非一度お試しを。遠路はるばるでもその価値あり。店内でお茶することもできるので、ひと休みしてください。

阿佐ヶ谷「うさぎや」店内

ちなみにどら焼きの名店として有名なうさぎやは、日本橋・上野・阿佐ヶ谷の3箇所に同名店舗が存在するのはご存知でしょうか。どうやら親族関係はあるものの、本店、支店などの関係ではなく、それぞれ独立して店舗で、材料や製法も違うそうです。

日本橋のどら焼きは食べたことがありますが、美味しいけれど、場所柄かいつものおやつ、というよりも箱入りのおもたせの用途が多そうです。あくまでもお好みは人それぞれ。

阿佐ヶ谷のうさぎやでは、どら焼きの袋にうさぎの絵があるのと、自家用の飾らない素朴な包みも好み。寒天、こしあん、求肥の潔いあんみつも店のイメージにぴったりです。

阿佐ヶ谷「うさぎや」の袋
阿佐ヶ谷「うさぎや」のあんみつ

平日でも入れ替わり立ち替わり来店が途切れず、接客の女性数名がチャキチャキと対応されているのも気持ちが良いのです。

阿佐ヶ谷が比較的近いということ以外に、お店とお菓子とデザインのトータルな「らしさ」が、私の中でリピートしたくなる良店という存在です。

<紹介したお店>
うさぎや
東京都杉並区阿佐谷北1-3-7
03-3338-9230

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立

東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

Instagram

文・写真:細萱久美

*こちらは、2019年4月10日公開の記事を再編集して掲載しました。同じどら焼きでもお店によってこだわりは違うもの。自分のお気に入りを見つけに出かけてみてはいかがでしょうか。

何はともあれ、牧野植物園へ行こう。“植物愛”が深まる高知の名所へ

高知の旅は牧野植物園へ

こんにちは。BACH (バッハ) の幅允孝 (はば・よしたか) です。

さまざまな土地を旅し、そこでの発見や紐づく本を紹介する不定期連載、「気ままな旅に、本」。今回は高知の旅へ。


幅允孝 (はば・よしたか)
www.bach-inc.com
ブックディレクター。未知なる本を手にする機会をつくるため、本屋と異業種を結びつける売場やライブラリーの制作をしている。最近の仕事として「ワコールスタディホール京都」「ISETAN The Japan Store Kuala Lumpur」書籍フロアなど。著書に『本なんて読まなくたっていいのだけれど、』(晶文社)『幅書店の88冊』(マガジンハウス)、『つかう本』(ポプラ社)。

植物の愛人、牧野富太郎

人は観光というと、アミューズメントパークや動物園などに惹かれるようです。

比べて、植物園と聞けば「なんか地味?」と思ったあなたこそ行くべき場所があります。それは、高知県立牧野植物園。

高知県立牧野植物園

高知の偉人といえば坂本龍馬や岩崎彌太郎、いやいや、アンパンマンのやなせたかしだって高知だぞという方もいるでしょう。

けれど、僕の個人的な高知の素敵な偉人ランキングでは、これまでもこれからもずっと牧野富太郎が不動の1位です。

彼の本を通して伝わって来る、人として、植物研究者としての魅力をぜひ誰かに伝えたいのです。

比較的裕福な造り酒屋の息子に生まれたものの小学校の授業に飽きて2年で自主退学。野山で草木に囲まれながら独力で植物学に取り組み、日本の植物分類学の基礎を築いた高知人、それが牧野富太郎です。

彼はのちに東京帝国大学植物学研究室に出入りするようになり、講師を務めながら論文を提出して植物学博士になりますが、「学位など無くて、学位のある人と同じ仕事をしながら、これと対抗して相撲をとるところにこそ愉快はある」 (『牧野富太郎自叙伝』より) と、のたまうところが既にユニークですよね。既成概念にとらわれない高知人気質とも言えます。

人が生涯追い求める社会的地位やお金になど目もくれず、学歴も勲章も金銭も持たず丸腰で悠々と94歳まで生きたのが彼でした。

そんな生き方がなぜ可能だったのか?という問いの答えは簡単で、彼には植物があったからです。

74歳のとき書いたエッセイには「私は植物の愛人としてこの世に生まれてきたように感じます。あるいは草木の精かも知れんと自分で自分を疑います。ハヽヽヽ。」 (『植物と心中する男』より) と記しています。

「飯より女より好きなものは植物」と断言し、寝ても覚めても夢中になれるものが傍らにあること。結局、仕事は朝起きる理由づくりだと僕は思っているのですが、彼の場合、生涯を通して植物を学び遊んだという生き方がとても素敵だと思うのです。

そんな牧野富太郎の植物の見方を感じるために、牧野植物園に行きましょう。

いざ、牧野植物園へ

1958年に高知市の五台山に開園したこの場所は、約6haの園内に3000種類もの野生植物が四季を飾っています。常設展だけでなく企画展も充実し、フラワーショウや音楽イベントなども催されている国内でも有数の植物園です。

設立当初から植物園に従事されている鴻上さんに園内を案内いただいた
設立当初から植物園に従事されている鴻上さんに園内を案内いただいた

今回も含め何度も僕は牧野植物園を訪れたことがあるのですが、その魅力は園内に漂うきもちよい空気感と、ゆったり流れる時間の心地よさが他のアミューズメント施設とは明らかに違うことです。

高知市内を臨む広々とした園内
高知市内を臨む広々とした園内

大きい昆虫に受粉をしてもらいたいチューリップやバラは花が大きく、小さな昆虫に花粉を運んでもらいたい桜や梅は花が小さい。

ツツジの花が横を向いているのは虫が入りやすくするためで、上側の花弁の中央に胡麻をまいたような印があるのは、蜜の位置をしらせるため。

僕が知っている何気ない植物の美しさや性質 (牧野風にいうなら生き様でしょうか) は、ぜんぶ彼の書物から教えてもらったことです。

初版の植物図鑑に書き込まれた膨大な赤字
初版の植物図鑑に書き込まれた膨大な赤字

しかも、彼の文章は本当にわかりやすい。

例えば、松や杉など風で花粉を飛ばす植物のことを「きれいな色や匂いで花の存在を広告する必要がないのです」(『なぜ花は匂うか』より)と語り、松や杉の花が人目に触れないわけを伝えてくれます。

生粋の植物狂で先鋭の研究者なのに、誰にでもわかる姿勢を決してなくさないのが、牧野の本当に偉大なところだと僕は思います。

そして、そんな彼の視線に誘われるよう、すべての植物に様々な面白さや意味を感じることができるので、この植物園ではあっという間に時間が過ぎてしまうのです。

小学校を辞めたあとに野山にいた牧野も、きっと同じ時間体験をしていたのかもしれません。

正門からエントランスまでの道は高知の植物生態が再現されている。ぜひ先を急がずゆったり歩きたい
正門からエントランスまでの道は高知の植物生態が再現されている。ぜひ先を急がずゆったり歩きたい
温室でやっていたラン展にて。これはチョコレートに似た香りを放つ品種
温室でやっていたラン展にて。これはチョコレートに似た香りを放つ品種

また、牧野植物園で見逃してはならないのが、彼が描いた「牧野式」植物図です。

牧野富太郎記念館展示館で何枚も鑑賞できる彼の作品は、植物分類の研究用に描かれたものです。が、芸術の域に達していると僕は思います。

園内にも「牧野式」植物図の解説板が立つ
園内にも「牧野式」植物図の解説板が立つ

鉛筆と筆で陰影をつけ、丁寧に描かれた植物たち。花弁の先端の柔らかさまで再現するような筆さばきによるニュアンスは、写真では表現できないものです。

また、植物画というのは、1つの画面の中に植物の全体とパーツをかき分け、成長過程などの差異も記さないといけないのですが、牧野はその辺りのエディトリアルデザインのセンスが抜群です。

花の生涯を絶妙な筆さばきでかき分ける
花の生涯を絶妙な筆さばきでかき分ける
左隅に小さく牧野のサインが記されていた
左隅に小さく牧野のサインが記されていた

植物研究誌の表紙レタリングも自ら手掛け、特製の名刺をつくるなど、研究内容の伝達までしっかりと吟味した現代型クリエイターの感覚を持ち合わせていたと思います。

疑いなく牧野は実地調査の鬼 (生涯40万枚の植物標本を作り、蒐集しました) でしたが、その差し出し方にも考えを巡らせていたのですね。

ちなみに牧野が植物採集に出るときはいつも三つ揃えのスーツを着て、特製の胴乱 (植物採集用のカバン) を持ち歩く洒落者だったようです。

牧野特製の胴乱。展示室内でレプリカを見られる
牧野特製の胴乱。展示室内でレプリカを見られる

また、今回の訪問では特別に牧野文庫の閉架図書 (通常非公開) をみせてもらい、牧野が実際に持っていた書物を何冊か拝見しました。

そのコレクションの中でも、1603年に中国で発行された季時珍の『本草綱目 (ほんぞうこうもく) 』(世界記録遺産にも登録されています)という自然界に存在するあらゆる漢方の素材を記した薬学本や、杉田玄白の翻訳した『解体新書』を見て、手描きの視覚表現を用いながら専門的な内容をわかりやすく伝える「牧野式」植物図の原点を垣間みたような気持ちになりました。

本草綱目
『本草綱目』
解体新書
『解体新書』

自由闊達な精神を持ちながら、自身の研究の届け方にも気を配る牧野富太郎。「1枚の葉も無駄にくっついてはいないのです」とわかりやすく植物を教える彼の名を冠した植物園は、いつも眺め通り過ぎてしまう草花の奥行きを伝えてくれる場所でした。

《まずはこの1冊》

『牧野富太郎 なぜ花は匂うか』(平凡社)

書影:『花はなぜ匂うのか』

『牧野富太郎 蔵書の世界』(高知県立牧野植物園)

書影_蔵書の世界

<取材協力>
高知県立牧野植物園
高知県高知市五台山4200-6
088-882-2601
http://www.makino.or.jp/index.html


文 : 幅允孝
写真 : 菅井俊之

*こちらは、2018年6月1日公開の記事を再編集して掲載しました。身近な植物でも知らないことがたくさん。散策しながら発見を楽しみたいですね。

テーブルで行うお茶の稽古って?「茶論 (さろん) 」東京日本橋店で「新しい茶道」を体験

「抹茶は好き。作法にどぎまぎせずに、サッと飲んだり点てたりできたらかっこいい。

でも‥‥」

正座は苦手。覚えることが多くて、師弟関係も大変そう。

そんな何かと敷居の高いイメージのあった茶道を、テーブルで気軽に学べるお店が東京日本橋にあります。

新しいお茶の入り口・茶論(さろん)

その名も「茶論 (さろん) 日本橋店」。

2018年4月に奈良にオープンした奈良町店に続いて、同年9月に東京へ初進出した、お茶の稽古・喫茶・茶道具のお店です。 (日本橋店では現在、稽古とお茶道具の販売のみ)

2019年9月20日には大阪・心斎橋に中川政七商店との一体型店舗もオープンしたばかり。各地に続々と「テーブルで行う新しい茶道」が広まりつつあります。

茶論(サロン)道具写真

運営するのは、お茶道具にも用いられる「奈良晒」の商いで奈良に創業した中川政七商店グループ。

「テーブルで行う茶道」、一体どんなものなのか。さんち編集部で体験稽古に行ってきました!

駅直結、茶論 日本橋店で体験稽古

やってきたのは東京メトロ「日本橋」駅直結の⽇本橋髙島屋S.C.新館。エスカレーターでお店のある4階に向かうと、立派な石造りのお店が見えてきました。

入り口に到着

編集部を代表して「初級コース」の体験稽古に参加するのはデスクの清原。

実は元茶道部なのですが、社会人になってからはお茶を点てる機会もなかなか無かったと言います。

清原「もうすっかり離れてしまっているので、久々にお抹茶が飲めるの、嬉しいです」

一度はお茶を経験したことがあるけれど、という人、意外と多いかもしれませんね。早速店内に入ってみましょう!

店内へ

ネット予約で通う茶道教室

店内は日本的な趣のあるカフェといった雰囲気。

茶論 喫茶スペース
茶論 喫茶スペース(2019年6月より喫茶のサービスを終了しています)
稽古で提供される「本日の主菓子」が美しく並んでいます
稽古で提供される「本日の主菓子」が美しく並んでいます
カウンターの中では、お客さんのためにお茶を点てているところでした。手慣れた姿がかっこいい
カウンターの中では、お客さんのためにお茶を点てているところでした。手慣れた姿がかっこいい
お点前の様子
カウンターの奥に抹茶碗が並んでいるのも新鮮です
カウンターの奥に抹茶碗が並んでいるのも新鮮です

「いらっしゃいませ」

受付中

レストランのように、カウンターで受付します。

実は体験稽古の申し込みはネット予約。本番のコースでも固定のお稽古日はなく、稽古が始まる2時間前まで予約可能なのだそう。今までの「茶道教室」のイメージとのギャップに驚きました。

アートギャラリーのような「見世」

「お席にご案内するまで、よかったら店内をご覧になってお待ちください」

スタッフさんが指し示したのは、お茶を楽しむ道具や器が並ぶ「見世 (みせ) 」のゾーン。

お稽古や喫茶のついでにお買い物ができる「見世 (みせ)」
お稽古や喫茶のついでにお買い物ができる「見世 (みせ)」
茶論オリジナル商品や作家さんの一点ものも。好きに手にとって見ることができます
茶論オリジナル商品や作家さんの一点ものも。好きに手にとって見ることができます
ずらりと並んだお茶缶がかわいい
ずらりと並んだお茶缶がかわいい
佇まいの美しい茶筅もさりげなく置かれて、アートギャラリーのよう
佇まいの美しい茶筅もさりげなく置かれて、アートギャラリーのよう

ぶらぶらと眺めているうちに、

「お待たせしました。こちらへどうぞ」

お店の奥、「稽古場」へ案内されました。

壁には掛け軸やお花も
壁には掛け軸やお花も

障子も畳もありません。本当に、テーブルの席で、いよいよ稽古が始まります!

テーブルに、大きなテレビ画面。何から何まで「茶道」っぽくないですが‥‥!?
テーブルに、大きなテレビ画面。何から何まで「茶道」っぽくないですが‥‥!?

師弟関係や流派を持たずに学ぶ茶道

西さん「今日の稽古を担当させていただく西です。よろしくお願いします」

奈良の1号店でも講師を経験された西さん。懐紙が懐に入るようになっている茶論オリジナルのシャツがよくお似合いです
奈良の1号店でも講師を経験された西さん。懐紙が懐に入るようになっている茶論オリジナルのシャツがよくお似合いです

茶論ではいわゆる「先生」との師弟関係はなく、「講師」は部活で言うところのコーチといった関係性だそう。

「◯◯流」といった流派も茶論にはなく、各派に通じる茶道の基本を教えてくれるというのがユニークです。

白湯にシソを浮かべた「香煎 (こうせん) 」で喉を潤していると‥‥

香煎を飲んでいるところ
小さな箱から何かを取り出していきます
小さな箱から何かを取り出していきます
ピンと張った帛紗をさばいて‥‥
ピンと張った帛紗をさばいて‥‥
お湯を注ぐのは電気ポットです
お湯を注ぐのは電気ポットです
あっという間にきれいなお抹茶が!
あっという間にきれいなお抹茶が!

流れるような手つきでお茶を点ててくれました。所作がとてもきれいです。

西さん「どうぞ」

早速一服目をいただきます
早速一服目をいただきます
いただく際の作法も教えてもらいました
いただく際の作法も教えてもらいました
時計回りに「2時から5時へ2度」回して‥‥
時計回りに「2時から5時へ2度」回して‥‥

清原「美味しい。抹茶味のものって最近多いですけど、本物の抹茶をいただけるって、嬉しいですね」

座学はスライドで

雰囲気もほぐれたところで、ここからは初級コースを少し先取りして、茶道の歴史を学ぶ座学の時間。

座学

前方の大きな画面スライドを使って講義が進んでいきます。

西さん

本当に何から何まで現代的です!

座学
「茶道のイメージを聞かせてください」

Q&A形式で西さんとも会話をしながら進み、教室は終始なごやかムード。

談笑中
へぇ、という豆知識も
へぇ、という豆知識も

清原「知っていると、ちょっと鼻が高くなりますね。人に教えたくなります」

茶道の基礎知識を身につけて、最後はいよいよ自分でお茶を点てます!

お茶の前にいただくお茶菓子は、奈良の名店「樫舎 (かしや) 」さんによるもの。季節によって変わるそうなので、「毎回どんなお菓子が出るか、楽しみになりそう」 (清原)
お茶の前にいただくお茶菓子は、奈良の名店「樫舎 (かしや) 」さんによるもの。季節によって変わるそうなので、「毎回どんなお菓子が出るか、楽しみになりそう」 (清原)

自分で点てたお茶は美味しい。

稽古のしめくくリは自分でお茶を点ててみる体験です。

いよいよ自分で点ててみます!
いよいよ自分で点ててみます!
茶筅を持つポイントを教えてもらいました
茶筅を持つポイントを教えてもらいました
こう持って‥‥と西さんの手つきを真似て実践
こう持って‥‥と西さんの手つきを真似て実践
お点前中
ふくふくと泡立ってきました
ふくふくと泡立ってきました
すっと茶筅を抜いて‥‥
すっと茶筅を抜いて‥‥
完成!
完成!
お茶を飲んでいるところ

お味はいかがでしょう。

清原「自分で点てると格別に美味しく感じます (笑)

それと、自分でやってみると西さんのお点前の所作が改めて、きれいだったなぁと。もっと自分もきれいにできるようになりたいって思いますね」

西さん「ありがとうございます。そういう、おもてなしを志す『心』と、先ほどの座学で学んだような『知』、お点前などの『型』、この3つをバランスよく学ぶことを、茶論では大事にしているんです」

講師の西さん

カリキュラムは裏千家・芳心会を主催する木村宗慎氏監修のもの。

気軽に学べるシステムで、茶道の基本をしっかり学べる、というのが嬉しく思いました。

体験を終えて‥‥

あっという間の90分の体験稽古でした。

清原「お店の雰囲気も稽古の内容も、固すぎず・カジュアル過ぎずなのが私にはほどよく感じました」

不思議と「喫茶」や「見世」も、体験を終えた後ではまた違って見えてきます。

菓子切りとお菓子器。季節やお菓子に合わせて組合せを変えて楽しむそう
菓子切りとお菓子器。季節やお菓子に合わせて組合せを変えて楽しむそう
先ほど稽古で使った茶筅。稽古は手ぶらで参加できますが、体験していくとマイ茶筅が欲しくなりそうです
先ほど稽古で使った茶筅。稽古は手ぶらで参加できますが、体験していくとマイ茶筅が欲しくなりそうです
懐紙入れにも色々なデザインが
懐紙入れにも色々なデザインが
手持ちの道具を持ち運ぶ数寄屋袋 (すきやぶくろ) を、日常使いする方も結構いらっしゃるんですよ、とスタッフさんが教えてくれました
手持ちの道具を持ち運ぶ数寄屋袋 (すきやぶくろ) を、日常使いする方も結構いらっしゃるんですよ、とスタッフさんが教えてくれました

稽古は最終19:15スタートの回まであるので、仕事帰り、デパートに寄ったついでに通えるというのも嬉しいところ。

他にも月謝でなくチケット制なこと、お店を変えても稽古の続きができるなど気軽に学べる仕組みに、「茶道をもっと身近に楽しんでほしい」という心意気を感じました。

茶道に興味はあるけれどちょっと敷居が高いなぁ、と感じている人には、ピッタリかもしれません。一度体験してみては?

<取材協力>
茶論 日本橋店
東京都中央区⽇本橋2-5-1 ⽇本橋店髙島屋S.C.新館4F
https://salon-tea.jp/
営業時間:「稽古」14:30~16:00、17:30~19:00、19:15~20:45/「見世」12:00~20:00 *売り場によって営業時間が異なります
定休⽇:施設の店休⽇に準ずる

 

~2019年9月20日、大阪に「茶論心斎橋店」がオープン!~

今秋グランドオープンする「大丸心斎橋店 本館」に、茶論の3店舗目となる「茶論心斎橋店」がデビュー。 グループ会社の中川政七商店の店舗を併設した、初の一体型店舗です。

■オープン日:2019年9月20日(金)
■住所:大阪市中央区心斎橋筋1-7-1 大丸心斎橋店 本館8F
■営業時間:「稽古」10:00~21:00/「見世」10:00~20:30

海外からのお客さんもお茶に親しめるよう、当日参加可能な、気軽にお茶を点てられるワークショップ(英語対応あり)なども開催予定とのこと。テーブルスタイルの茶道と約1,500点の暮らしの道具が一度に楽しめる空間に、一度足を運んでみては。

中川政七商店 大丸心斎橋店・茶論 心斎橋店

【住所】大阪府大阪市中央区心斎橋筋1-7-1 大丸心斎橋店 本館8F
【営業時間】中川政七商店 10:00~20:30
茶論 10:00~21:00(稽古)、10:00~20:30(見世)
【オープン日】2019年9月20日(金)
【定休日】館に準ずる
【HP】
中川政七商店:https://www.nakagawa-masashichi.jp/shop/default.aspx
茶論:https://salon-tea.jp/

文・写真:尾島可奈子
画像提供:道艸舎

*こちらは、2018年9月26日公開の記事を再編集して掲載しました。今はお菓子などで気軽に抹茶を味わえますが、自分で点てて飲む抹茶は格別です!

あの名画の質感を再現。大塚オーミ陶業が手がける「陶板名画」の制作現場

世界で初めての「陶板名画美術館」として注目を集める、徳島県の「大塚国際美術館」。

2018年のNHK紅白歌合戦で米津玄師さんがテレビ放送で初めて歌唱を披露した舞台としても話題を呼びました。

大塚国際美術館 正面玄関
大塚国際美術館は、瀬戸内海を臨む国立公園の中にあります。景観を損わぬよう、山をくり抜いた中に建てられました。地下3階から地上2階まで合計5つのフロアからなる、鑑賞距離4キロメートルにも及ぶ広大な美術館です。約1000点もの作品が展示されています (画像提供:大塚国際美術館)

見どころは何と言っても、古代壁画から現代絵画まで西洋名画の数々を原寸大に質感や筆使いまで「再現」した陶板名画。

「モナ・リザ」、「最後の晩餐」、「ゲルニカ」など、世界26カ国190以上の美術館が所蔵する名画の感動を、日本にいながらにして味わうことができます。

フェルメール「真珠の耳飾りの少女」のレプリカ
フェルメール「真珠の耳飾りの少女」。館内の作品にはそうっと触れることも可能。筆跡や絵の具のひび割れの様子を肌で感じながら作品を味わえます
モネの「大睡蓮」
屋外に展示されたモネの「大睡蓮」。青空の下の睡蓮は、光の描写がよりいっそう美しく感じられました (画像提供:大塚国際美術館)

*前回ご紹介した大塚国際美術館の見どころ記事はこちら:大塚国際美術館が誇る「世界の陶板名画」4つの楽しみ方

支えるのは、大塚オーミ陶業のやきもの技術

この陶板絵画の展示を、独自のやきもの技術により可能にしたのが大塚オーミ陶業株式会社。

きっかけは、地元鳴門の白砂を活用したタイル作りから始まった取り組みでした。開発を進める中で、世界初の薄くて歪みのない堅牢な大型陶板づくりに成功します。

活用方法の1つとして、この大型陶板で美術品を作っては?というアイデアもあり、現在展示されている名画陶板の数々が生み出されることに。

技術が発展した現在は、滋賀県甲賀市信楽町の工場で色の分解から焼成まで全てを行っています。

この陶板はどのようにして作られているのでしょう。製作の工程を詳しく伺いました。

著作権者の承諾に奔走、現地へ赴いて原画を調査

陶板名画の制作は原画の著作権者、所有者の許諾を得ることから始まります。試作品の出来栄えを確認するまで、製作許可が下りないという厳しい条件の場合も。オリジナルを守るための厳しい品質チェックは必須です。許諾を得るだけで数年を要することもあるのだそう。

許諾が得られたら、原画の確認や現地調査。書籍・文献には記されていない情報も多いため、現地で様々な角度から何枚も撮影し、全体像のほか、細部の傷や凹凸などを調べ上げ、仕上げの参考資料に。光のあたり具合など作品の状態を体感したり、現地の専門家に話を聞いたりして作品を調べつくします。

原画撮影:《ナポレオン1世と皇后ジョゼフィーヌの戴冠》
ルーヴル美術館所蔵「ナポレオン1世と皇后ジョゼフィーヌの戴冠」の現地調査の様子。巨大な絵画を撮影して細部を記録するのは大掛かりな作業です。 (画像提供:大塚オーミ陶業株式会社)
《ナポレオン1世と皇后ジョゼフィーヌの戴冠》。ルーヴル美術館所蔵のレプリカ
できあがった陶板の《ナポレオン1世と皇后ジョゼフィーヌの戴冠》。展示室の壁紙の色も合わせ、現地の雰囲気に近い状態で鑑賞できます

色の分解で、2万色の釉薬から原画を再現

陶板の上に転写シートを使ってベースとなる絵を乗せ、1000〜1350度の高温で約8時間かけて焼成します。専用の釉薬の種類は約2万色にも及びます。原画の色を解析することで、ベストな色を見つけ出すのだそう。

色分解
まず原画を解析して赤・青・黄・黒の4色に分解。 (画像提供:大塚オーミ陶業株式会社)
解析した指定色をもとに、転写シートを作成します。シルクスクリーンに順番に釉薬を乗せていきます。 (画像提供:大塚オーミ陶業株式会社)
解析した指定色をもとに、転写シートを作成します。シルクスクリーンに順番に釉薬を乗せていきます。こうしてできた転写シートを陶板にのせて焼き上げることで、陶板上に原画の図柄が描かれます (画像提供:大塚オーミ陶業株式会社)

仕上げは、職人の「目」がものを言う

転写シートを乗せて焼きあがった陶板は、あくまでベースの状態。ここからは職人の「目」が試されるところ。釉薬を塗り重ねて微妙な色合いの調整が始まります。

原画の資料や現地での記憶を頼りに、色や仕上がりの立体感を手で加えていきます。

原画の資料や現地での記録を頼りに、色や仕上がりの立体感を手で加えていきます。 (画像提供:大塚オーミ陶業株式会社)
原画の資料や現地での記録を頼りに、色や仕上がりの立体感を手で加えていきます。 (画像提供:大塚オーミ陶業株式会社)
レタッチ2
油絵の具の盛り上がりも精緻に再現していきます。 (画像提供:大塚オーミ陶業株式会社)

油絵の具などと違い、釉薬は焼きあがると色味が変化するもの。仕上がりを計算しながら着色、焼成を繰り返して完成させます。濃くなりすぎないよう薄い色を重ねることから始め、平均して5〜6回この工程を繰り返してやっと満足のいく仕上がりになるのだとか。微妙な色合いを調整していることが伺えます。

最終焼成
最終焼成の様子 (画像提供:大塚オーミ陶業株式会社)

陶板が焼き上がったら、社内での最終検証を行った上で、監修者や原画の所有者による検品。こうして、やっと承諾を得られたものが大塚国際美術館に飾られます。

フィラデルフィア美術館所蔵のゴッホの「ヒマワリ」検証の様子。 (画像提供:大塚オーミ陶業株式会社)
フィラデルフィア美術館所蔵のゴッホの「ヒマワリ」検証の様子。 (画像提供:大塚オーミ陶業株式会社)

セラミックアーカイブの可能性

大塚オーミ陶業のやきもの技術は、大塚国際美術館での作品展示にとどまらず様々な場所で活用され、注目を集めています。

2018年には、「第7回ものづくり日本大賞 伝統技術の応用部門」で、文化庁依頼による奈良県明日香村「キトラ古墳の石室内壁画」の複製に携わった社員の代表7名が内閣総理大臣賞を受賞。「立体的製陶技術」を用いた文化財の複製が評価されました。

奈良県明日香村 キトラ古墳の復元
大塚国際美術館に展示された「キトラ古墳」の複製見本。
キトラ古墳の復元
石室内壁画を陶板で原寸大に複製。壁の質感や漆喰のひび割れも忠実に再現されています

「何度も重ね焼きしても割れない」「高い寸法精度を保ち、歪みが生じない高精度な成形技術を備える」「色彩や質感等についても焼成工程で発色する釉薬で狙い通りに仕上がる」という特長を持つ同社の技術。

熱や湿度、紫外線などに強い焼き物の特性を生かし、半永久的な耐久性を有する新たな記録保存方法 (セラミックアーカイブ) として、文化財の記録と保存に取組み、手で触れることができるなど文化財の多様な活用を提供していることが評価されたのだそう。

縄文土器のレプリカ。手で触れてその感触を体験できる
こちらは大塚国際美術館に展示されている縄文時代の「火焰土器」 (新潟県長岡市出土) の複製。形状や表面状態だけでなく、重量までも再現しているのだそう。手で触れてその感触を体験できるのが嬉しく、印象的でした

美術への関心の入口として

大塚国際美術館に展示された陶板名画の数々。そばで見て、触れているとその作品の魅力をたくさん発見します。これまで興味の沸いていなかった作品に魅了されたり、好きだった作品がもっと好きになったり。そして、原画を見に出かけたくなります。

旅行前の予習として、旅行の思い出の振り返りとして訪れる方も多いといいます。

私たちが訪れた日も、早朝から多くの観光バスが入り口に停まり、一般客のほか、遠足で訪れた幼稚園児や課外学習中の学生、海外からの視察団体など様々な来館者で賑わっていました。お客さんの年齢層も幅広く、開かれた場所のように感じます。

陶板を通じて、美術作品への興味関心が高まる。やきもの技術が拓く、新たな可能性がここにありました。

<取材協力>

大塚国際美術館

徳島県鳴門市鳴門町土佐泊浦字福池65-1

088-687-3737

http://o-museum.or.jp/



大塚オーミ陶業

大阪市中央区大手通3-2-21

06-6943-6695

https://www.ohmi.co.jp/

文:小俣荘子

写真:直江泰治

*こちらは、2019年4月19日公開の記事を再編集して掲載しました。見て、触れて楽しめるので、子どもと一緒にお出かけするのも良いですね。

“土鍋炊き派”がたどり着いた、大谷製陶所のライスクッカーの美味しさ

こんにちは。細萱久美です。

最近の自分の衣食住を考えると、重きを置いている順は住>食>衣となり、20代の頃と逆転しています。

現在の住まいは賃貸なので、こだわれる範囲で家具やインテリアに好きなモノを集めては見せる収納に励んでいます。できたら一番こだわりたい台所は、一人で動くのに程々なサイズ。

一般的に台所の中でスペースを取るのは家電でしょうか。冷蔵庫やガス台は必須として、それ以外の家電は、自分のニーズや生活スタイルに合わせて厳選しました。

生活様式・好みに合わせた道具えらび

私は朝食がパン食なので、まずトースターは必要ですが省スペースの縦型をチョイス。電子レンジは無くてもなんとかなりそうでしたが、オーブン料理に憧れてオーブン機能に優れたレンジを選びました。

家電は以上が全てで、例えば電気ケトルや炊飯器はありません。お湯は鉄瓶、ご飯は土鍋で炊いています。

「大谷製陶所」大谷哲也さん作のライスクッカー

置き場所の問題もありますが、一番の理由は単純に美味しいから。鉄瓶で沸かしたお湯はまろやかで白湯も美味しく、土鍋で炊いたご飯は香り、甘み、弾力が格別です。

毎朝お弁当作りに忙しいご家庭などは、タイマーもある炊飯器の方が便利かもしれませんが、毎日も炊かない今の自分には土鍋がベストな道具だと感じています。

「大谷製陶所」大谷哲也さん作のライスクッカー
「大谷製陶所」大谷哲也さん作のライスクッカー

ちなみにご飯の美味しさは、アミラーゼという酵素がお米のデンプンを分解して、甘みや旨みの成分を作りだすことで生まれるそうです。

アミラーゼを働かせるコツは、ゆっくり時間を掛けて加熱し、沸騰後はその状態をキープ。炊き上がった後もじわじわと熱が入ると余分な水分が飛んで、粒のたった美味しいご飯となる原理です。

なんとなく耳にしたことのある「はじめチョロチョロ中パッパ、赤子泣いてもふた取るな」とは、かまど炊きご飯の火加減のコツとして継がれてきた説ですが、その意味するところは、

「はじめチョロチョロ」
最初は弱火でチョロチョロと鍋全体を温めることで、ムラなくお米に水分を吸収させる。

「中パッパ」
一気に強火にし沸騰させる。(火を弱め沸騰を維持したまま炊き上げる。)

「赤子泣いてもふた取るな」
すぐふたを取らずに高温でしっかりと蒸らして炊き上がり。

この火加減を薪で調整していたと思うと凄いですね。

そしてアミラーゼ云々のうんちくは知らずとも、自然と身に付いた美味しいご飯の炊き方が口承されてきた日本の食文化は改めて素敵だなと思います。

土鍋は熱しづらくその分保温性は高い性質があり、いきなり強火で炊き始めても「はじめチョロチョロ」状態になり、沸騰して「中パッパ」にしたら火を弱めて水気がなくなるまで炊きます。

火を止めたら「ふた取るな」でしっかり蒸らしてでき上がり。やってみるとさほど難しい火加減もなく、美味しいご飯を炊く理想的な状態を簡単に作ることができる道具です。

“ご飯を炊く土鍋”の選び方

様々な土鍋が売られているので選ぶポイントを挙げると、まず「炊飯用土鍋」から選ぶのが間違いないと思います。

炊飯用は、ご飯を美味しく炊けるように厚みや深さ、蓋の作りが考えられているものが多いです。特に「吹きこぼれしにくい」と謳っていたり、その評価のある土鍋を選ぶと、ストレスなく使い続けられると思います。

あとは、何合炊くことが多いのかでサイズを決めますが、炊飯用土鍋は一般的な土鍋に比べて厚みがあり重い傾向があるので、特に初めての場合は使うのが億劫にならないように必要最小限のサイズを選ぶ方が良いかもしれません。

「大谷製陶所」大谷哲也さん作のライスクッカー

私が長年愛用している土鍋は、「大谷製陶所」の大谷哲也さん作。その名もライスクッカーというご飯を炊くための土鍋です。

10年使っているので多少味が出てきましたが、落として割らない限り一生使えそうな頼もしさ。

大谷さんはライスクッカーをはじめ、作り続けている定番商品が多く、知る人が見たら大谷さんの作品と分かります。

ライスクッカーは、磁器土に白釉を施した滑らかな手触りと、全体的に丸みのある曲線が特徴的。この素材・厚み・形のバランスが、お米を美味しいご飯に変化させるように思います。

二重蓋の土鍋もありますが、ライスクッカーの蓋は一つ。重たい蓋が熱をぎゅっと閉じ込めて、吹きこぼれもありません。

土鍋は全般的に炊飯器よりも早く炊き上がるようで、このライスクッカーも炊き始めから蒸らし終わりまで約30分。

ちょっと長めに炊き過ぎても、香ばしいおこげはむしろ美味しく、あえておこげを作ったりできるのも土鍋ならでは。

蒸らし上がって蓋を開ける時、ご飯の甘くほんのり香ばしい香りに毎回喜びを感じます。

土鍋は食卓にそのまま置いても様になり、保温性も高いので、食事中は十分温かいご飯が楽しめます。

唯一気を付けたいのは、美味しくて食べ過ぎることですが、もうすぐ新米のシーズンなのでますます出番も増えそうです。

「大谷製陶所」大谷哲也さん作のライスクッカーで炊いたご飯

<紹介した工房>
大谷製陶所
滋賀県甲賀市信楽町田代79−15
https://www.ootanis.com/

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立

東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

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文・写真:細萱久美

参観日には社員がいなくなる。熊本の「人が集まり続ける」竹箸メーカーの働き方

子どもが遊びにくる社内

「みきちゃん、宿題終わったの?」

夏休みも終盤に差し掛かった8月の某日。

熊本県の北西部にある南関町で「竹の箸だけ。」をつくり続けるメーカー、株式会社ヤマチクの事務所で響いていたのは、子どもの宿題を心配する声。

ヤマチク
宿題に励む“みきちゃん”

事務所の空いた机で、社員さんの子どもが宿題に勤しむ。同社では、ごく普通の光景です。

「僕も小さい頃、当時の社員さんたちに面倒をみてもらったり、宿題を手伝ってもらったりしたんです。それをそのままやっている感覚ですね」

ヤマチク三代目で、専務取締役の山﨑 彰悟さんは嬉しそうにそう話します。

ヤマチク 専務取締役の山﨑 彰悟さん
ヤマチク 専務取締役の山﨑 彰悟さん

1963年に山﨑さんの祖父が創業したヤマチク。その当時から、会社に子どもがいることは当たり前だったのだとか。

「祖父とは一緒に仕事をしたことはないんですが、やっぱりベースにあるのは、社員さんに食べさせてもらっているという感覚です。

僕らがお箸を全部つくれるわけではなく、社員さんがつくってくれたものを販売している。

僕らにできることって、気持ちよく働いてもらうことくらいしかないんですよ」

そんな社風から、子育て世代にも働きやすい職場として知られるようになった同社。

ものづくりの業界としては珍しく、26名いる社員のうち実に23名が女性。離職率も低く、高い意欲を持って長く働いてくれることで、必然的に箸づくりの技術も習熟していくんだそう。

ヤマチク
女性が多く活躍するヤマチクの工場
女性が多く活躍するヤマチクの工場

そんなヤマチクの働き方について、実際に働く人たちに聞きました。

参観日に人がいなくなる

「子どもの教育への理解があって、何かイベントがある時には休むことができるので、参観日には工場から人がいなくなったこともあります(笑)」

松原和子さんは、ヤマチクに来て24年目になるベテラン社員。一度結婚を機に仕事を辞め、育児をしながら内職をしていましたが、その発注元が倒産してしまったそう。

まだ子どもも小さく、何かしなければ、という時に知り合いから紹介されたのがヤマチクでした。面接の結果、晴れて入社することができ、今ではベテランの技で竹箸づくりを支えています。

ヤマチク 松原さん
ヤマチクに勤めて24年。技術を磨いてきた松原和子さん

社員同士が自然とカバーし合うことで、子育てをしながらも働き続けることができたという和子さん。

「参観日といっても丸ごと1日休むわけじゃなくて、半日だけ抜けて終わり次第会社に戻って来る。そうやって柔軟に働かせてもらいました。

先々を見越してもらって、子どもが大きくなったあとはフルで働いてもらえると、理解してくれていたんだと思います。

箸づくりは、すぐに覚えられるものではないし、箸の種類も変わってくるし、長くやりながら成長していくものですから」

一時のイレギュラーな状況を避けるために、優秀な社員さんを手放すのはもったいないと山﨑さんは話します。

ヤマチク 専務取締役の山﨑 彰悟さん

「“みきちゃん”くらいの年齢、小学生くらいになってくると、そんなに頻繁に風邪をひくこともありません。

子どもが本当に小さい時期をみんなでカバーして乗り越えられればいいのかなと思っています。

それと、子どもに何かあった時、経営者が『休んでいいよ』ということは簡単なんです。問題は社員さん同士の理解の部分。うちはそこがとても寛容だと思います」

実は、冒頭の“みきちゃん”は和子さんのお孫さん。孫の顔を見ながら働ける職場、うちの親が聞くと羨ましがるに違いありません。

ヤマチク
柔軟に働いてこれたと話す和子さんとお孫さんの“みきちゃん”

母娘でヤマチク社員。育児をしながら自社ブランド開発への挑戦

そんな和子さんの様子を間近で見て育ち、気づけば自身もヤマチクに入社していたのが、和子さんの娘である松原歩さん。“みきちゃん”のお母さんでもあり、この日ヤマチクには松原家3世代が勢揃いしていました。

4人の子どもを育てながら働く松原歩さん

子育て世代が多く、居心地がよいだけでなく、子育てをしながらも仕事の幅を広げられる、チャレンジができることが嬉しいと、歩さんは言います。

2018年の4月、ヤマチクの社運をかけたと言っても過言ではないプロジェクト、自社ブランド商品の開発がスタート。山﨑さんが社内でプロジェクトメンバーを募ったところ、ぜひやりたいと手を挙げたのが歩さんでした。

「今の仕事も好きだし、やりがいもあるけど、何か新しいことにチャレンジしたい!と思っていたところで、これはチャンスだと思いました」

シングルマザーとして “みきちゃん”を含めて4人の子どもを育てる歩さん。和子さんの協力もあって、1年以上かけて新プロジェクトに挑戦。コンセプト設計から商品開発にかかわり、お披露目の場となる展示会では自ら接客して自身がつくった商品の魅力を伝えました。

そして和子さんは、歩さんが出張の際には子ども達の面倒を見つつ、娘のチャレンジをサポート。

「結婚が早いと、やりたいこともやれないまま子育てが始まって、じゃあ子どもが大きくなったあとにチャンスがあるかというと分からない。

せっかくチャンスがあるんだし、一番下の子も保育園である程度育ってきたし、サポートできると思うから、やってみたらって言いました」

松原家

歩さんをはじめ、社内のプロジェクトメンバーが中心になって開発された新商品『okaeri(おかえり)』。

「家族で使って欲しいという思いがずっとありました」と歩さんが言うように、子ども用から大人用までのサイズが揃ったラインアップで、各展示会でも好評を博しています。

歩さん自身も、名入れをして友達にプレゼントして喜ばれているとのこと。

okaeri
自社ブランド商品「okaeri」

次の目標は、とあるアニメキャラクターのお箸よりも「okaeri」が人気になって、“みきちゃん”の周りの子どもたちにも使ってもらうこと、なんだとか。

「お母さんが考えて、お婆ちゃんがつくってるお箸なんだよ」と“みきちゃん”に話す姿が印象的でした。

新卒採用も開始。人が集まり続ける会社へ

子育てと仕事の両立は、単純に会社の中だけでなく家族の理解が必要な部分も多いですが、できる限り多くのことにチャレンジしてもらいたいと山﨑さんは考えています。

「仕事は、物質的な幸せももちろん追求しなければいけませんが、一方で自己実現する幸せ、そのチャンスをもっと提供したいです。

社員さんそれぞれが挑戦できる幅が、そのまま会社の幅になる。

そこで働いている人たちの集合体が会社なので、たとえば自社ブランドをつくることでその人たちが前に出て、やりがいを持ってくれれば、価値があることじゃないかと思います」

ヤマチク

同社では自社の特徴・魅力をわかりやすく伝えるために、会社案内の刷新やコンセプトムービーの作成も実施。

これについても、「最大の効果は社員さんが喜んでくれたこと」なんだそう。

ヤマチク

「自分たちの仕事が、他人から見て価値のあることなんだというのが分かったんです。

ムービーをきっかけにクリエイターさんだったりベンチャー起業の社長さんだったり、いろいろな人が工場を見に来るようになって、口々に『すごい!』と言ってもらえて。

お客様というか、他者の反応が目に見えるだけでこうも違うのか、というくらい、みんなのモチベーションアップにつながりました」

※ヤマチクのコンセプトムービーはこちら

この数年は、新卒採用にも挑戦。

「新卒の応募なんて来ない」というのが定説とされていた中で、泥臭く地元の高校すべてを周り、同社の仕事について丁寧に説明したところ、定員として設けた枠を上回る応募が来たそうです。

その後、今期で4期目となる新卒採用には、コンスタントに応募が集まっている状況とのこと。

「仕事のやりがいとか、居心地の良さみたいなものも、働く決め手になっているように感じます」

その働きやすさ、社風が評判となり、子育て世代の女性を中心に人材が集まった同社。

ある意味「働き方改革」など必要とせず、長く、意欲的に働く人たちを集めているひとつのモデルケースにも思えます。

「とにかくヤマチクが大好き」という“みきちゃん”の進路がどうなるかはさておき、新卒の若い世代も含め、今後も続々と新たな才能が集まり、竹のお箸の魅力を世界に伝える会社として成長を続ける、そんな可能性を強く感じました。

ヤマチク
松原さん一家と山﨑さん

<取材協力>
株式会社ヤマチク
https://www.hashi.co.jp/

文:白石雄太
写真:中村ナリコ