かつては琵琶湖の底だった、伊賀の土でつくった土鍋

こんにちは。さんち編集部の杉浦葉子です。
—— なにもなにも ちひさきものは みなうつくし
清少納言『枕草子』の151段、「うつくしきもの」の一節です。
小さな木の実、ぷにぷにの赤ちゃんの手、ころっころの小犬。
そう、小さいものはなんでもみんな、かわいらしいのです。
日本で丁寧につくられた、小さくてかわいいものをご紹介する連載、第7回目は三重県・伊賀の「土鍋」です。

ずんぐりむっくり、丸くて小さな土鍋

6月、暑くなってきました。徐々に梅雨入りのニュースも耳にし、気候も不安定なこのごろ。体調を崩される方も多いかもしれませんね。冷たいものをとりがちですが、お腹の中に少しあたたかなものを入れてあげると、夏をのりきる体力が保てそうです。こんなとき便利なのが、ずんぐりむっくりした小さな丸い鍋。伊賀焼の「あたため鍋」です。おかゆを炊くのはもちろん、牛乳や豆乳、チャイなどをあたためるのに最適。ちょっとしたスープやお味噌汁をあたため直すのにもちょうど良い。赤ちゃんのミルクをあたためるのにも使えるので、出産のお祝いなどにもおすすめです。

手前が「あたため鍋・小」、奥は「あたため鍋・大」。口が少しすぼんでいるのは、ふきこぼれないようにという工夫
手前が「あたため鍋・小」、奥は「あたため鍋・大」。口が少しすぼんでいるのは、ふきこぼれないようにという工夫

琵琶湖の底の土でつくられた、伊賀の土鍋

この「あたため鍋」は、三重県・伊賀の「松山陶工場」がつくっているもの。土鍋といえば伊賀焼というほどの代表的な土鍋の産地です。伊賀は昔、琵琶湖の底だったそうで、耐熱性と保温性に優れた良質の粘土がとれたことにより、土鍋づくりが盛んになりました。陶土にもさまざまな特徴がありますが、細かな穴(気孔)をたくさん含んだ伊賀の土は特に火と相性が良いようです。使いはじめにはちょっとしたお手入れを。おかゆを炊くか米のとぎ汁を入れて煮立たせて、土鍋の表面の細かな穴をふさぐ「目止め」をします。このちょっとしたひと手間で、鍋に愛着がわくだけでなく、長く使うことができますよ。

みんなでお鍋を楽しめるサイズの土鍋は径31センチ。「あたため鍋」は小回りをきかせたいときにおすすめ
みんなでお鍋を楽しめるサイズの土鍋は径31センチ。「あたため鍋」は小回りをきかせたいときにおすすめ
松山陶工場では伊賀の土をつかった大小さまざまな土鍋をつくっています
松山陶工場では伊賀の土をつかった大小さまざまな土鍋をつくっています

火のあたりがゆっくりな土鍋であたためたものを摂ると、心も体もゆっくりじんわりあたたまりそうです。あたたかいもの、ほっとします。

<掲載商品>
あたため鍋(松山陶工場)
中川政七商店の各店舗でご購入いただけます
(商品の在庫についてはお問い合わせください)
土鍋 飴釉(中川政七商店)
月山段通の鍋敷き(中川政七商店)
吉野桧の鍋しき(中川政七商店)
汁用レンゲ(中川政七商店)

<取材協力>
松山陶工場

文:杉浦葉子
写真:木村正史、杉浦葉子

【はたらくをはなそう】日本市デザイナー 村垣利枝

日本市ブランドユニットデザイナー)

2014年入社。新卒7期生。
2015年、遊 中川奈良近鉄店 店長に就任。
2016年から日本市ブランドユニットデザイナーとして勤務。

幸運にも入社することができ、お店を任せてもらえ、去年の1月からデザイナーとしての一歩を踏み出しました。あっという間に今年で4年目になります。
絵を描いたり、雑貨を集めたりすることが好きで、デザイナーになりたいと思って勉強していましたが、自信が持てず入社前は堂々とデザイナーになりたい。と言う事ができませんでした。

入社してから、はたらくことに、目標にどんどん貪欲になっていく自分に驚いています。

社長や上司のまっすぐで、うそをつかない姿勢が好きで、私も話す時は正直に話をしたいと考えていました。なので、年に2回の社長と上司との面談の時は自分と向き合い、話すことを準備して、目標をたてて挑むように意識していたら、すごく前向きに話ができるようになりました。

入社後、配属先のお店で出来るようになりたいことを挙げてみると、できるようになったら店長が出来るかもしれない。と思い、目標を店長に設定し、目標を達成したら店長になりたいです!と宣言しました。

店長になったら、自分が思う店長像を描き、やり切ってみよう。

やりきる事ができたら、次はデザイナーとして目標を持ちたい。と打ち明けました。

社長も上司もしっかり話を受け止めてくれて、指導してもらえ、運とタイミングが合い、今デザイナーとしてチャンスをもらった状態です。

自分が望んで、与えてもらった仕事の責任は大変重いです。

結果を出さないと次の仕事は回ってきません!

力不足でいっぱいいっぱいになり、落ち込みそうになったら、自分が望んだ事だ!と言い聞かせると前向きな気持ちになります。

お店の経験を大切に、貪欲に、なりたいデザイナー像を描いていこうと思います!

6月4日、虫歯予防の日。天然のちからで歯を守る、歯みがきツール

こんにちは。さんち編集部の杉浦葉子です。
日本では1年365日、毎日がいろいろな記念日として制定されています。国民の祝日や伝統的な年中行事、はたまた、お誕生日や結婚記念日などのパーソナルな記念日まで。数多ある記念日のなかで、こちらでは「もの」につながる記念日をご紹介していきたいと思います。
さて、きょうは何の日?

6月4日は、「虫歯予防の日」?

1928年に日本歯科医師会が「6(む)・4(し)」の語呂合わせにちなんで制定した「虫歯予防の日」。実は、この記念日は1938年までの実施だったそうで、いまは正式には残っていません。「虫歯予防の日」という言葉は小さい頃からよく耳にしたような気もしましたが、80年近くも前になくなっていた記念日だったのですね。

そして、これを復活させる形で1949年に「口腔衛生週間」が生まれ、1952年には「口腔衛生協調運動」になり、その後も何度か名前を変えて‥‥現在では、厚生労働省、文部科学省、日本歯科医師会が6月4日から10日の間を「歯の衛生週間」と定めています。やっと名前が定着、ですね。
歯の衛生に関する正しい知識を普及啓発するとともに、歯科疾患の予防処置、早期発見と治療を行う。つまり、「歯を大切にしましょう」というのが大きな目的です。

水だけで、歯がつるつるになる歯ブラシ

毎日の歯みがきグッズ、みなさんはどんなものをお使いですか?お気に入りの歯ブラシや歯みがき粉があるかもしれませんね。私の愛用品はこちらです。
立つ歯ブラシ、「THE TOOTHBRUSH by MISOKA」。世の中の定番を新たに生み出すブランド「THE」と、累計200万本以上の販売実績を持つ人気歯ブラシ「MISOKA」(株式会社夢職人)とのコラボレーションによって生まれた商品。

「MISOKA」は、歯ブラシの毛先を水につけ、いつも通りにブラッシングするだけで歯がつるつるになるという優れもの。しかも、汚れを洗い上げるだけでなく汚れをつきにくくするという画期的な歯ブラシです。これは独自のナノミネラルコーティング技術によるもので、磨いた後の歯はガラス表面のように滑らかで艶やかに仕上がるのです。水だけで歯みがきができるので、オフィスや学校で使うのにも便利。そして、今回のコラボ歯ブラシでは自立するというのもポイント。ごちゃつきがちな洗面所がシンプルに収まるのが嬉しく、白・赤・紺のトリコロールカラーも清潔感があって好みです。

通常の「MISOKA」よりも極細毛で、歯と歯茎にもやさしい
通常の「MISOKA」よりも極細毛で、歯と歯茎にもやさしい

グリップが三角形なのでペンのように持つことができ、余計な力をかけずに細部までていねいに磨けます
グリップが三角形なのでペンのように持つことができ、余計な力をかけずに細部までていねいに磨けます

さらに、この歯ブラシと一緒に使いたいのが「THE MOUTHWASH」。こちらのマウスウォッシュは、同じく「THE」と、オーガニックコスメを扱う「Cosme Kitchen」を運営する株式会社マッシュビューティーラボとの共同企画から生まれたもの。成分は100パーセント植物由来で、7種の保湿成分が口の中にうるおいを、またハッカ由来のメントールやスペアミントの精油の香りはすっきりと清涼感を与えてくれます。

アルコールフリー。お子さまにも安心な「THE MOUTHWASH」
アルコールフリー。お子さまにも安心な「THE MOUTHWASH」

やっぱり口に入れるものや肌にふれるものって、天然のものが気持ちいいなと感じます。人間も自然の生きもの。やっぱり相性がいいんですね。
この歯ブラシとマウスウォッシュで、オーラルケアも完璧です。あとは歯みがきするのを忘れないようにだけ‥‥。
みなさんもどうぞ、歯を大切に。

<掲載商品>
THE TOOTHBRUSH by MISOKA
THE MOUTHWASH

<取材協力>
THE株式会社
http://the-web.co.jp

文:杉浦葉子

世界中に多くの愛好家をもつ、竹の編み針

こんにちは。さんち編集部の杉浦葉子です。
—— なにもなにも ちひさきものは みなうつくし
清少納言『枕草子』の151段、「うつくしきもの」の一節です。
小さな木の実、ぷにぷにの赤ちゃんの手、ころっころの小犬。
そう、小さいものはなんでもみんな、かわいらしいのです。
日本で丁寧につくられた、小さくてかわいいものをご紹介する連載、第6回目は奈良・生駒の「竹製品」です。

小指とどっちが長い?ちいさな編み針

思わず手にとりたくなる、小指の長さほどの竹の棒。こちらは、奈良の生駒でつくられている竹の編み針です。とにかく小さい。手のひらサイズ‥‥よりもかなり小さいです。小さいけれど、もちろん実際に編むことができます。特にかぎ針のほうは指先でつまんでちょちょいと編めてしまう感じ。棒針のほうももちろん編むのに使えますが、これを両手に持って編む姿を想像すると、さすがにちょっと編みにくそうな‥‥。こちらは、編み物用のまち針としても使われているのだそうです。

いちばん奥のものは23cmの竹の編み針。比べてみると小さなものは、もはや爪楊枝のよう!手前の3点は大小のかぎ針です
いちばん奥のものは23cmの竹の編み針。比べてみると小さなものは、もはや爪楊枝のよう!手前の3点は大小のかぎ針です

厳選した日本の竹で、きめ細かくしなやかに

奈良県生駒市の北端、高山地区は茶筅や茶道具などの竹製品の生産が盛んな産地として知られています。茶道具の生産が多いなか、大正時代から竹の編み針をつくり続けてきたのが2016年に創業100年を迎えた「近畿編針株式会社」です。
竹あみ針は、昔から世界中にたくさんの愛好家を持つロングセラー商品。竹は繊維が強くて軽くしなやかで、編針には最適な素材。特に、日本で成長する竹は硬くて弾力性があり、きめの細かさや色つやも優れているのだそう。こちらでは、厳選した日本の竹を使用して質のよい竹編み針を製造しています。とはいえ、竹は産地や品種、季節によっても性質が異なるので、品質の安定した竹の編み針をつくるには、その時の竹の状態にあわせて柔軟に対応するという高い製造技術が必要なのだそう。

編み針に求められるのは一定の太さ。天然素材とはいえ、厳格にサイズを合わせます
編み針に求められるのは一定の太さ。天然素材とはいえ、厳格にサイズを合わせます
重要なのは針先の成形には熟練職人の腕がかかせません
重要なのは針先の成形には熟練職人の腕がかかせません

白く美しい、竹のきめやしなりを生かした滑らかな編み針は、天然の植物蝋で磨かれて完成します。このていねいな手仕事は、海外のニッターからも評価が高いのだそう。日本の誇りです。

編み物をするにはちょっと季節はずれ?いえいえ、今からじっくり用意して、この冬に向けてなにか作りはじめてみるのもよいのではないでしょうか。もちろん、夏らしい綿や麻の糸でレース編みなどもおすすめです。艶やかな竹に触っているだけで、涼しい気分になりそうです。

<掲載商品>
ミニ玉つき2本針
竹まち針
竹小かぎ針
チャーム用ミニ竹あみ針
白竹玉つき2本針(23cm/8号4.5mm)
白竹かぎ針(15cm/9mm、15cm/5mm)
(以上、すべて近畿編針株式会社オンラインショップ

<取材協力>
近畿編針株式会社
http://www.amibari.jp

文:杉浦葉子
写真:近畿編針株式会社、杉浦葉子

ハレの日を祝うもの はじめての日から、ずっと使える漆椀

こんにちは。さんち編集部の杉浦葉子です。
日本人は古くから、ふだんの生活を「ケ」、おまつりや伝統行事をおこなう特別な日を「ハレ」と呼んで、日常と非日常を意識してきました。晴れ晴れ、晴れ姿、晴れの舞台、のように「ハレ」は、清々しくておめでたい節目のこと。こちらでは、そんな「ハレの日」を祝い彩る日本の工芸品や食べものなどをご紹介します。

子どもが一生、食べることに困らないように

赤ちゃんの生後100日目に行われる「お食い初め」。「一生食べるのに困らないように」との願いを込めて、赤ちゃんに食事の真似をさせる風習です。

「お食い初め」の起源ははっきりとはわかっていませんが、平安時代から行われていた儀式だとか。平安時代は赤ちゃんにお餅を食べさせる「百日(ももか)」という儀式があり、その後鎌倉時代には餅から魚肉に変わって「真魚はじめ」と呼ばれるようになったそう。この「真魚はじめ」で初めてお箸にふれることから、「箸揃え」や「箸初め」という呼ばれ方を経て、室町時代にはようやく「お食い初め」と呼ばれるようになりました。

生後100日というと、ちょうど赤ちゃんに乳歯が生えるころ。それを祝って、新しい茶碗や汁椀、皿などを用意します。そのとき料理に「歯固め」の石を添えることもあります。「お食い初め」の風習も地方によってさまざまで、関西では歯固めの石の代わりにタコを添えたり、固い栗の実を添えるという地域もあるのだそうですが、いずれも「赤ちゃんの歯が固くなるように」という願いをこめて添えられるものです。

ずっと使える、越前漆器のうつわ

福井県鯖江市で8代200年に渡って越前漆器をつくりつづけてきた「漆琳堂」。塗りを専門とした「塗師屋(ぬしや)」のこちらでは、一つひとつ漆を手塗りしてさまざまな漆のうつわをつくっています。

「漆琳堂」8代目の内田徹さん
「漆琳堂」8代目の内田徹さん

記念すべき「お食い初め」の日、子どものために用意する新しいうつわは、どんなものがいいだろう?鯖江の「漆琳堂」と奈良の「中川政七商店」が一生懸命考えてつくったうつわが、「ずっと使える入れ子の漆椀セット」です。

子どもがはじめて使ううつわは、やっぱりいいものに触れさせてあげたい。でも、「お食い初め」のためだけに使うのはもったいない。だから「お食い初め」の時から、大人になるまでずっと使える漆器のセットを。漆器は軽くて割れづらいため、子どもがはじめて持つ食器にぴったりです。

椀・鉢・皿の3点セット。大人になったら小鉢や豆皿としても
椀・鉢・皿の3点セット。大人になったら小鉢や豆皿としても

めでたいことが重なるようにと、うつわも「入れ子」で縁起よく。桐箱入りで、「ハレの日」ご出産のお祝いにぴったり
めでたいことが重なるようにと、うつわも「入れ子」で縁起よく。桐箱入りで、「ハレの日」ご出産のお祝いにぴったり

漆によく見られる朱や黒ではなく、このうつわは白い漆をつかっています。はじまりの色とされる「白」の漆はその神聖さから神の色ともされているのだそう。使いはじめはベージュのような色味ですが、経年変化で少しずつ白くなっていくので、子どもの成長とともにうつわの変化も楽しめます。

小さいころから本物のうつわに親しんで、ものを長く大切に使う習慣になりますように。なにより、食べものを美味しく楽しくいただくうつわになると良いな、と思います。
今は小さな赤ちゃんがいつか大人になって、より白くなった漆椀を大きな手にちょこんと持つ日が楽しみです。

 

<掲載商品>
ずっと使える入れ子の漆椀セット(中川政七商店)

<関連商品>
ずっと使えるベビースプーン(中川政七商店)
ずっと使えるベビーマッシャー(中川政七商店)
ずっと使えるベビーコーム(中川政七商店)

<取材協力>
株式会社 漆琳堂
福井県鯖江市西袋町701
0778-65-0630
http://www.shitsurindo.com

文:杉浦葉子

世界の芸術を支える陰の立役者、刷毛

こんにちは、さんち編集部の井上麻那巳です。
前々回の記事で日本の伝統画材のいろはを教えてもらった伝統画材ラボ「PIGMENT」の岩泉さん。前回の墨に続き、岩泉さんのご案内で伝統画材の製造現場にお邪魔します。第2回目は日本独特の製法が海外でも評価を得ているという刷毛の工房へ。それでは早速行ってみましょう。

筆・刷毛専門メーカーの株式会社中里へ

今回お世話になるのは京都の筆・刷毛専門メーカーの株式会社中里さん。中里さんの筆はそれぞれの種類ごとに専門の個人の職人さんによって製作されているのですが、今回は唯一の自社工房である、三重県は多気郡(たきぐん)の刷毛製造所にお邪魔してきました。

今日の先生、岩泉さん
今日の先生、岩泉さん

松坂牛で知られる松坂駅から車を走らせること30分。伊勢ともほど近い、田んぼに囲まれたのどかな風景の中に今回の目的地である工房がありました。

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まずは柄の部分から

刷毛づくりは柄の部分からスタートします。材料となるのはマツ科のスプルスという木。細かい木目が美しく、ピアノやバイオリンなど、楽器材としても使われるものだそうです。

「木もスプルスならなんでも良いというわけではなく、柾目(まさめ:木目がまっすぐに通ったもの)のものを使います。板目(いため:木目が平行ではなく山形や筍形のもの)の材料だと歪んでしまったり、割れの原因となってしまう。刷毛としては、実はここがとっても大事なんです」

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面をとった柄の部材
面をとった柄の部材

「なかなか幅の広い材料というのが貴重なんです。サイズによっていきなり金額が上がることがあるんですが、その理由が実はこの柄の材料だったりすることもあるんですよ」

糸を通すための穴を一箇所ずつ開けていきます
糸を通すための穴を一箇所ずつ開けていきます

刷毛の要はやはり原毛

「刷毛の要はやはり毛の部分です。中里では天然の毛であるヤギ、豚、牛、馬、うさぎなどの毛を中心にナイロンの刷毛も製作しています。一概に天然の毛が質が良いとは言い切れず、やはり使う絵の具や表現によってナイロンが適していたり、硬い豚の毛が適していたりと複雑なので、使い手がそれぞれの特性をしっかり理解することが大切です」

原料のヤギの毛
原料のヤギの毛

これらの原料はどこから来ているんですか?

「原料はほとんど中国からです。馬の場合は他の国から取り寄せる場合もありますが、現在はほぼ中国ですね。中里さんは中国へ買い付けに行くこともあるそうです。実は、この状態まで持っていく原毛の処理をする人が今はもう日本にいないという背景もあります」

「原料として、もう日本に入ってこないものもあります。山の馬と書いて山馬(さんば)という、東南アジアにいる大型の鹿なのですが、ワシントン条約でその毛を日本へ輸入することができなくなってしまった。ぼかしたりかすれを引いたりするための刷毛として重宝していたのですが、日本ではもう今出回っているものだけになります。もともと山馬を使用していた、ぼかしやかすれの技法自体がなくなってしまわないように、数年前に山馬の代わりになる刷毛を中里さんと開発しました。それで採用したのが、この黒豚の毛です」

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黒豚の刷毛
黒豚の刷毛

「そのほかにも、例えばヤギなんかは大体の毛が原料として使えるのですが、それに対してイタチの毛は尻尾の、それも真ん中の方の毛しか使えないので手に入りにくく、大変貴重になってきています」

「動物の毛にはとても虫がつきやすいので、原毛の状態から製品となって出荷するまでずっと防虫剤を入れて、虫が入らないように完全密封しています。実は筆や刷毛づくりには防虫剤は必需品なんです」

原毛を刷毛の形へ整えていく

「原毛を見ていただきましたが、やはり天然のものなので、このままの状態では不揃いです。この毛をバリカンと呼ばれる機械に通して長さを揃えていきます。多いときは20回くらい通してまんべんなく長さを揃えていきます」

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「次に、刷毛の形に整えていきます。この作業は35年のベテランさんとその娘さんがふたりで担当されているんですよ。今はちょうどドーサ刷毛というにじみどめの刷毛を作っていますね。水分をたっぷり含めるために厚みを持たせた刷毛です」

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「ふのりを使いながら刷毛の形に整えていきます。ふのりは新潟だとコシを出すためにお蕎麦に練り込んだりもしますね。なぜふのりかと言うと、いちばんは毛を傷めないため。化学のりだと水どけが悪かったり固まりすぎてしまう。あまり硬く仕上げると、結局毛が傷んでしまうのでふのりが一番適しています」

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「使っている途中で毛が抜けてしまわないように、毛をていねいに揃えて、何度も何度もくしを通していきます。その回数は200回にも及ぶそうです。大きい刷毛であればあるほど左手の固定する力が必要であったり、感覚的な判断も多く、この作業は特に職人技ですね」

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娘さんはナイロンの刷毛を作っていました。

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「ナイロンのものも工程はほぼ同じですが、やはり天然の毛の方が扱いは難しいようです。こうして出来上がったものは網の上で自然乾燥していきます」

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柄に毛を挟み込んでいく

「出来上がった柄にこの毛を挟んでいきます。ひとつひとつ手作業で接着剤をつけて挟み込みます」

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この日はちょうどPIGMENTさんから依頼の特注品の一次試作を進めていました。手のひらに収まらないほどの大きな豚毛の刷毛です。

1円玉と比べるとこんな感じ
1円玉と比べるとこんな感じ

こちらの刷毛はある海外の作家さんからのご依頼だそうで、現在職人のみなさんで試行錯誤し改良中とのことでした。ああすれば、こうすればとつくり手のみなさんが意見を出し合う、ひとつひとつ作っていく手作業ならではの光景が印象的でした。

いよいよ仕上げ

「刷毛の形が出来上がったら、この回転するブラシのような機械で、ふのりやホコリなどの余計なものを除去していきます」

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左が作業前、右が作業後。ふわふわになりました
左が作業前、右が作業後。ふわふわになりました

「最後に縫いの作業です。この大きな機械に挟み込んで、ひと針ひと針手で縫っていきます」

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「糸がたるんでいると強度が弱くなるので、しっかりと糸を通していきます」

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「刷毛を使っていて、いちばんいけないのは毛が抜けることです。抜けた毛が作品にくっついてしまうのがいちばんいけない。最後の仕上げではさまざまな道具を使って途中で引っかかっている毛やきちんと固定されていない毛を抜いています」

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「使っているのは刃物ですが、毛を切っているわけではなく除去しています。毛先は刷毛の命ですからね」

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これで刷毛が完成です。驚くことに、ほぼ機械を使わず、人の目と人の手によってすべての工程が行われていました。原料の調達や職人の確保などたくさんの問題を乗り越えて、アーティストたちの作品づくりは守られているようです。

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次回は胡粉と岩絵具の製造現場へお邪魔します。お楽しみに。

伝統画材ラボ PIGMENTの岩泉さんに教えてもらう日本の画材
プロローグ 日本の伝統画材って?

無限の色を持つ、墨


<取材協力>

株式会社 中里
本社
京都府京都市中京区麩屋町通竹屋町上る舟屋町411番地ノ2
075-241-4178
中里筆刷毛製造所
三重県多気郡多気町五佐奈
www.kyoto-nakasato.com

画材ラボ PIGMENT
東京都品川区東品川2-5-5 TERRADA Harbor Oneビル 1F
03-5781-9550
pigment.tokyo

文・写真:井上麻那巳