「漆業界のライト兄弟」が発明した革命的な道具を、全国の漆職人が愛用している

「漆業界には発明家兄弟がいるんですよ」

そんな言葉を聞いたのは、越前漆器の産地、福井県鯖江市河和田(かわだ)地区を取材していた時のこと。

なんと、その兄弟が発明したものは、日本のほぼすべての漆器産地で使われているそう。

まるで、漆業界の「ライト兄弟」のようです。

全国の漆器づくりを大きく変えた道具とは一体どんなものなのでしょうか。

実際に使われている現場を訪れ、その兄弟が発明した道具を見せてもらうことにしました。

作業効率アップ!一台で何役もこなす「真空吸着ろくろ」

「これはすごいんですよ!」

越前漆器の老舗「漆琳堂」代表の内田徹さんが興奮気味に紹介してくださったのは「ろくろ」。

漆琳堂代表の内田さん
漆琳堂代表の内田さん

漆器を載せて回転することで研ぎや磨き、塗りなどを均一にきれいに仕上げる、漆器には欠かせない機械です。

ろくろ作業

従来のろくろと何が違うのでしょうか。

「これまでのろくろは、回転する部分に漆器を押し当てながら作業をしていました。そうすると片手でしか作業できず、作業性が悪かったんです」

従来のろくろ。漆器が落ちないように抑えるため、どうしても片手がふさがってしまいます
従来のろくろ。漆器が落ちないように抑えるため、どうしても片手がふさがってしまいます

「しかしこの『真空吸着ろくろ』は、真空ポンプによって減圧されるので、ろくろと漆器が真空状態で密着されるんです。手を使わなくても固定できるようになり、両手で作業ができるようになりました」

お椀を上向きにセットして作業できることが革命的
お椀を上向きにセットして作業できることが革命的
ろくろ作業2

「回転速度を変えられるのも、このろくろのポイント。これまでは用途別のろくろが必要でしたが、1台で研ぎから上塗りまで全部できるので、漆器づくりが大きく変わりました。まさに画期的な機械だと思います」

漆業界の働き方改革を実現した!?「回転装置付きムロ」

漆器のなかで、神経をつかう作業の一つが「乾燥」。

漆器を塗ったまま放置すると、漆が下に垂れるため、「ムロ」といわれる大きな木の棚の中に入れ、ぐるぐると回転させる「返し」を行いながら漆の垂れを防ぎます。

ムロのなか

「昔の職人さんたちは、一定時間毎にムロのなかの漆器を返さなければならなかったんです。夜中でも起きてムロを見に行くことは日常茶飯事。お盆や正月はもちろん、昼も夜も休みがないので、漆職人の仕事は過酷だと敬遠されることもあったそうです」と内田さん。

これまでモーターを取り付けた「回転ムロ」はあったものの、モーターが回りっぱなしでは逆に塗った刷毛の跡が消えず、また、大きなモーターの振動によってホコリが落ちるデメリットもありました。

そこで誕生したのが、「回転装置付きムロ」。

停止時間をタイマーでセットすることで、回ってはしばらく止まり、一定時間経つとまた回転する動きが可能に。さらにムロに直付けできるほど機械が小型化し、振動も起こらなくなりました。

機械もこんなに小さくコンパクトに
機械もこんなに小さくコンパクトに

時間を気にせず、いつでも漆器を乾かすことができるようになり、より計画的に漆器をつくることができるようになったそう。作業もぐっと早くなりました。

お母さんたちの声から生まれた「ホットびんづけ」

そうそう、これも……と内田さんが見せてくださったのは、掌におさまるほどの小さな円柱状の棒。

つく

「これは『ツク』といいます(産地によって呼称の違いあり)。漆を塗る際に、お椀を手で直接持たずに、このツクをつけて持ちながら塗ります。お椀とツクをつけるためには、『びん付け』という作業が必要で、主に女性が担当していました。

女性たちは1日に100個以上のびん付けを行っていたそう
女性たちは1日に100個以上のびん付けを行っていたそう

何百個ものツクに、一つひとつロウと菜種油を練り合わせた接着剤を塗っていくのですが、これがまた手間のかかる作業だったんです。しかも、従来のツクは取り外した時に跡がついてしまうことも問題でした」

つく2
従来のツク。どうしても跡がつくため、漆を塗る時は削ってから作業しなければならなかったそう

これを解決したのが「ホットびん付け」。

一見、これまでのツクと変わらないように見えますが、熱に当てることで、接着面の特殊な樹脂が溶け、漆器にくっつくと冷めて硬化します。

接着面に特殊な樹脂が塗っています
接着面に特殊な樹脂が塗っています

一つのツクでなんと約300回つけはずしが可能。使うたびにびん付けを行う必要もなく、さらに取り外したときに跡もつきません。

まさに漆器業界に革命を起こした道具や機械の数々。

これらをつくった兄弟とはどんな方なのでしょうか。ますます気になってきました。

漆業界のライト兄弟がやってきた!

川嶋兄弟

ご登場いただいたのは、川嶋雅彦(かわしま・まさひこ)さんと川嶋由紀彦(かわしま・ゆきひこ)さん。

福井県福井市にあるカワシマ商事株式会社を兄弟で営んでいます。

「創業は今から50年前で、もともとは屋根の融雪施設をつくる会社でした。北陸は冬場雪が多いので、屋根に取り付けた面状ヒーターで雪を溶かすというものです」

兄の雅彦さん
兄の雅彦さん

地元の電力会社の依頼で、北陸のさまざまな場所に融雪装置を取り付けていたカワシマ商事。

ところがその融雪装置を見た石川県輪島の漆器組合から、「ヒーターで湿度を発生させる装置ができないか」と相談されたことから、事業が大きく変わっていきます。

「まさか漆器組合から相談を受けるなんて思いもしませんでした。それまで漆器のこともよくわかりませんでしたが、どうやら漆は湿度で乾くらしいと知り、いろいろ案を考えていったんです」

弟の由紀彦さん
弟の由紀彦さん

従来は湿らした布をムロに吊るし、湿度を加えながら乾かしますが、湿度を一定にするのが難しく乾きにムラが出ることもあったそう。

そこで川嶋さんたちは、水を含ませた加湿用のマットをムロの底面に設置し、熱することで発生した蒸気が全体に行き渡る装置を開発。

実際に依頼先の輪島で実験したところ大成功し、漆器業界に大きな反響を呼ぶ商品となりました。

湿度発生装置。ムロの底に加湿用のマットがセットされています
湿度発生装置。ムロの底に加湿用のマットがセットされています

その後、乾燥装置の営業で全国各地の漆器産地をめぐっていた川嶋さん。すると、産地から「こんな機械がつくれないか」という要望が増えていきます。

川嶋兄弟2

「技術のことは弟が担当しているんです。私は工房を回って『仕事で困ったことがないか、機械で不具合がないか』と職人さんたちの声を持ち帰るのが仕事ですね」と雅彦さん。

「小さい頃からラジオ少年だったので、機械をさわるのは好きだったんです。あれこれ試してうまくいった時はやっぱり嬉しいですよね」と由紀彦さんも微笑みます。

各産地で拾った声を兄の雅彦さんが弟の由紀彦さんに伝え、かたちにしていく。

この連携で、漆業界では乾燥装置に続く革命的な発明がいくつも生まれました。

職人の声を取り入れ道具をアップデート

「川嶋さんの機械は40〜50年経っても現役。ほとんど故障しないんですよ」

と語る内田さん。漆琳堂ではなんと、先々代の頃から愛用しているものもあるそう。

内田さんと川嶋兄弟

「ちょっとくらい壊れた方が商売的にはいいんだけどね(笑)。でも、各地の職人さんから呼ばれることは多いですね。リクエストに応えて改良しているうちに、同じ機械でも種類が増えていきました。例えば、このろくろも卓上式や移動式など、いつの間にか20種類くらいになってましたね」

と笑う川嶋さんたち。

しかし、取引のある産地をまわっていると、産地の変化を感じることも多いそうです。

「漆器をつくる職人はもちろんですが、道具をつくる職人も高齢化で少なくなっていますね。例えば回転ムロも、機械は私たちがつくれますが、ムロ自体をつくってくれる職人が少なくなっています。河和田にはまだ一人いらっしゃるようですが、ほかの産地では職人さんがいなくなったところもあるんです。産地の縮小は残念ながらひしひしと感じますね」

「内田さんや河和田は若い職人さんは漆器業界の希望の星ですよ」と川嶋さん
「内田さんや河和田は若い職人さんは漆器業界の希望の星ですよ」と川嶋さん

とはいえ、現在は産地以外のお客さんからの注文も増えているという川嶋さん。工業高校や芸術大学、工芸学校、福祉施設、刑務所など、全国各地に漆器づくりの道具や機械を提供しています。

「これだけはやるまい」と決心した大きな失敗

川嶋さんたちがさまざまな製品を手がけてきたなかで、「これだけはやるまい」と決めた手痛い失敗がありました。

過去に手がけた案件の写真だけでも膨大な数
過去に手がけた案件の写真だけでも膨大な数

ある依頼で亀甲彫の漆器を全自動でつくる機械を依頼された川嶋さん。お客さんの要望に応えるため試作を重ね、亀甲彫の漆器をすべて機械でつくりあげました。

「自分でもこれはすごいものをつくったなと思いました。ところが、出来上がったものを何日も眺めているうちに、なんだか情けなくなってきたんです」

当時のことを語る由紀彦さん
当時のことを語る由紀彦さん

機械でつくったものは、手彫りと比べ物にならないほど精密に仕上がったものの、自分たちが漆の現場で見てきた、手仕事ならではのぬくもりや味わいがまったく感じられなかったそう。

「こんなものをつくったらあかんな、と落ち込みました。結局その機械はボツにし、それからは直接漆器をつくるようなものはつくらないと決めたんです」

今の技術であれば、機械ですべてつくってしまうことくらいたやすいこと、と語る川嶋さん。

しかし、どんなに技術が進んでも、川嶋さんたちは決してブレることなく、「どうすれば職人さんが効率的に仕事できるか」を一番に考え、手仕事ならではの良さを伝える道具を発明し続けています。

「僕たちがつくるものには、量産化を目的にした道具や機械はありません」と語る川嶋さんたち
「僕たちがつくるものには、量産化を目的にした道具や機械はありません」と語る川嶋さんたち

つくり手がいれば、つくり手を支える人たちがいる。

その姿はほとんど表舞台に出ることはありませんが、川嶋さんたちの存在には、日本のものづくりがこれからも生きていくためのヒントが隠されているように感じました。

<取材協力>
カワシマ商事株式会社
福井県福井県堅達町24-39
0776-53-2110

漆琳堂
福井県鯖江市西袋町701
0776-65-0630
https://shitsurindo.com

取材・文 石原藍
写真 荻野勤



<掲載商品>

食洗機で洗える漆のスープボウル 小
食洗機で洗える漆のスープボウル 大
漆琳堂 小判型のお弁当箱 刷毛目
漆琳堂 長手小判型のお弁当箱 刷毛目

掃除にも洗顔にも。天然のスーパークロス、春日のキョンセーム

「炊事・洗濯・掃除」に使える、おすすめの工芸を紹介する連載。今回は、年末掃除にも活躍するであろう、掃除の工芸道具をご紹介いたします。

最近、とうとうリーディンググラスが生活必需品の仲間入りをしました。視力は良いので、初めての眼鏡で扱いに慣れていません。レンズを触りがちで、すぐに汚れてしまうのが気になります。

眼鏡に付属していたクロスも悪くはないのですが、キョンセームという革で拭くと、一点の曇りもなくピカピカになって気持ちが良いことを知りました。

めがねとキョンセーム

春日のキョンセームクロス

本格的に楽器やカメラを扱う方にはもしかしたら馴染みの革かもしれませんが、私がキョンセームの存在を知ったのは、奈良に住むようになった8年前くらいのことです。

セームは鹿の皮をなめした革のことですが、きちんと定義すると

・鹿皮を使用しており、最高級は中国江西省を中心に、赤土地帯のみに生息する野生の世界最小種の鹿 (キョン) の皮を使う

・本来の製法通り魚油還元法で製造

・染色していない

上記を満たした革を、キョンセームと称します。

奈良には毛皮革産地があり、鹿皮の製造量は全国シェアの90%を占め、なめしの高い技術を誇ります。中でも独特の魚油還元法を要するキョンセームの製造は、世界的に見ても奈良県宇陀市にある株式会社春日に限られる、とも言われています。

キョンセームの特徴は、何よりも繊維の細かさにあります。繊維細胞の太さが、なんと髪の毛の10万分の1だとか!汚れを落とすのに使われるマイクロファイバーよりもはるかに繊維が細いので、それ以上に細かい汚れを取ることに優れ、お手入れするモノを傷付けません。細かい繊維は手ざわりもとてもやわらかです。

電化製品にも、なんと美容にも、おすすめです

繊維の細かさに加え、人工クロスには無い特徴として、油分の必要なものに最適な油分を加えて (加脂) 、油分の必要でないものからは油分を取り除く(除脂) という面白い特徴があります。高級な楽器の表面をお手入れするには、程良い潤いを与え、光沢を増すのでおすすめだそうです。

現代の生活には、テレビやパソコンをはじめとする電化製品が家庭に欠かせない存在となっていますが、どんな道具で掃除をするか悩みませんか?

電気製品は水気が苦手ですし、クリーナーなどの薬剤も液晶のコーティングをはがす可能性があって避けたいところ。静電気も起きやすいので、マイクロファイバーで拭いてもホコリが戻ってしまいます。

意外とやりがちですが、ティッシュで掃除をするのは画面などを傷つける原因となります。その点、キョンセームは静電気も除去してくれるのでホコリ戻りもなく、表面の汚れを力を入れずにすっきりと取り去ることができます。

キョンセームは耐久性に優れているので、きちんとお手入れすれば長く愛用できます。とはいえ全く難しいことはありません。石鹸を溶いたぬるま湯で押し洗いし、

洗った後に陰干しをします。ほぼ乾いた段階になってから、手で揉みほぐすのがコツです。人の肌と同じく、熱いお湯を使うと痛んでしまうので注意が必要です。

広げてみるとこんな感じです 四角タイプもあります

一般的には消耗品とされるクロス類ですが、キョンセームはむしろ味わいが増して手放せなくなるのが最大の魅力かもしれません。

今回は掃除道具として紹介していますが、実はスキンケアの道具としてもおすすめなのです。柔らかくて肌にもやさしく、肌より細かい革のコラーゲン繊維細胞が毛穴の汚れをすっきりと落とします。

使い方は、革を水に塗らして、石鹸を付けて軽く擦る感じです。石鹸を付けずに、水だけで毛穴を軽くマッサージをするのも良いですが、石鹸を付けた方がすべりが良い様です。

掃除と美容で使い分け、少しづつ溜まった日々の汚れを落とすのに欠かせない道具となりました。

<掲載商品>
キョンセーム ご家庭用 1枚物15デシ (株式会社春日)

<関連商品>
美容洗顔セーム革

細萱久美 ほそがやくみ
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、
美味しい食事、美味しいパン屋、
猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

文:細萱久美

*こちらは、2017年11月14日の記事を再編集して公開しました


職人に教わる包丁の研ぎ方。道具を正しく長く使う方法とは

道具の扱い方、手入れの仕方はプロに聞こう

餅は餅屋。何事もその道の専門家にまかせるのが1番というたとえです。暮らしの道具の正しい扱い方、手入れの仕方は、その道具をつくった職人さんに聞いてしまいましょう。

今回のお話は、包丁の研ぎ方。みなさん、包丁を自分で研いだことはありますか?

包丁の切れ味ひとつで料理の味が変わるともいいますが、大切なのはわかっていても、いつ、どんなタイミングでどんなふうに研いだらいいのか、中々知る機会がありません。かくいう私も包丁研ぎ初心者。

今回は鍛冶の町・新潟三条、株式会社タダフサ代表の曽根さんによる包丁砥ぎのワークショップにお邪魔して、包丁の手入れについて教わりました。作り手ならではの視点で、道具の正しい使い方、長く楽しむ育て方を教えてもらいましたよ。

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大盛況の包丁研ぎワークショップ
大盛況の包丁研ぎワークショップ

中川政七商店 表参道店で行われたワークショップはキャンセル待ちが出るほどの人気ぶり。みなさんの「手入れしたかったけれど、やり方がわからなかった!」の心の声が聞こえてきそうです。

曽根さんを中心に横長のテーブルを囲んで、いざスタート。まずは包丁の基礎知識から。みなさん曽根さんの説明に集中して耳を澄ませます。

覚えておきたい包丁の基礎知識

「包丁の刃の部分は鋼(はがね)で出来ています。鉄と鋼の違いってわかりますか。昔は刃の金属、と書いて刃金とも言っていました。鉄にごくわずかに炭素が混ざったもので、焼きを入れることで固くなります。岡の字は固い、を意味するんですよ。

資源の少ない日本では、鋼は貴重です。だから切れ味の要になるところだけに鋼を使ってきました。その鋼部分を研いで『刃をつける』のが、包丁研ぎです」

株式会社タダフサの曽根忠幸さん。
本日の講師、株式会社タダフサの曽根忠幸さん。職人兼社長さんでもあります。

おお。思いがけずアカデミックな滑り出し。聞けばタダフサさんは商品を海外へも販売されているそう。視点がグローバルです。

それにしても「刃をつける」って初めて耳にする言葉ですが、ワークショップでは頻出ワード。職人さんの言葉を覚えて、ちょっと通になった気分です。

知識を身に着けたら、早速本題へ。いざ包丁研ぎ!の前に、もうひとつ、大切な暮らしの知恵を教わりました。

トマトで見分ける「研ぎ頃」

「トマトを切ってあれっと思ったら包丁の『研ぎ頃』です。新品の状態が100だとしたら、80・90くらいのときにさっと研ぐのが大事です。

常に刃物をいい状態にキープしておくと次の直しがとても楽になります。こまめにやれば5分ですみますが、久々にやると1時間かかったりしてしまう。

プロの料理人は毎日包丁を研いでいるでしょう。包丁の切れ味で料理の味が変わるんです」

株式会社タダフサの曽根忠幸さん。

これは良いことを教わりました。研ぎ頃を確かめるために、これからはやたらとトマトを買ってしまいそう。早く研ぎたくてうずうずしてきたところで、いよいよ包丁研ぎ、スタートです!

包丁研ぎのスタートは砥石の準備から

「まず砥石を準備します。砥石は水につけておきます。気泡がなくなるまで、10~20分くらい。砥石は焼き物です。割れてしまうので、熱湯は絶対に使わないように。研ぐ時は一緒に研いでしまわないよう、指輪などははずすのがよいでしょう」

砥石の準備
砥石を水につけて準備。熱湯はNG
砥石の準備。水につけて気泡が出なくなるまで待つ
気泡が出なくなるまで待つ

「砥石の目の粗さを『粒度(りゅうど)』といって、1センチメートル角にどれだけのツブがあるかで目の細かさをあらわします。タダフサの『砥石基本セット』は800番。中砥(なかど)といって中くらいの細かさです。

始めは番号の若い粗砥(あらど)で研いでから徐々に目を細かくしていきますが、砥石をいくつも持つのは大変という方は、ホームセンターなどで100番くらいのサンドペーパーを買って、持っている砥石に巻くと代用できます」

砥石基本セット
砥石基本セット

見よう見まねで砥石台をテーブルの角に固定して、砥石をセットします。このときテーブルと台の間にタオルなどをかませると動きづらくなります。

砥石を台にセットする
砥石を台にセットする

「包丁研ぎは水をかけながら行います。研ぐと削られた砥石と水が混ざった研ぎドロが出るので、台は汚れてもいい場所に、汚れてもいい服装でやりましょう」

研いでいくと、研ぎドロが出てきます
研いでいくと、研ぎドロが出てきます

包丁研ぎの基本の構え

だんだんと話が専門的になってきました。緊張感とワクワク感が高まります。ここからは曽根さんの言葉に沿って構えと手順を追っていきましょう。

「利き手で包丁の柄をしっかり握ったら、人差し指は包丁の背にそわせて支えます。このとき包丁は体に対して斜め45度に持ちます。研いでいる間もこの角度をキープすることが大切です。反対の手指2・3本で包丁の面を押さえます。最後に包丁を砥石に対してちょっと寝かせすぎているな、というくらい寝かせた角度をつくったら、研ぎの基本の構えが完成です」

人差し指を包丁の背にしっかりそわせる
人差し指を包丁の背にしっかりそわせる
包丁研ぎの基本の構え
基本の構え。包丁は体に対して斜め45度。 研ぐところを指で押さえながら行います
ちょっと寝かせすぎかな、というくらいしっかり寝かせる。同じ角度をキープ
ちょっと寝かせすぎかな、というくらいしっかり寝かせる。同じ角度をキープ

包丁研ぎの基本の動き

「砥石はつねに乾かないよう、こまめに水をかけます。研ぐ途中に出る研ぎドロは洗い流さず、その上から水をかければOKです。

まず包丁の片面を先端からアゴまで、3分の1ずつくらいに分けながら研いでいきます。基本の構えを保ちながら、上下に滑らせる。力を入れるのは包丁を引くときよりも押すときです。押すときに包丁を押さえている反対の指に力を入れるようにします」

場内に「シュッシュッ」という滑らかな研ぎ音が響きだしました。

包丁研ぎワークショップの様子

「砥石はできるだけまんべんなく使って研ぐように。研ぐうちに砥石は削れていきますが、砥石が平らでないとどんなにがんばってもきれいに研げません。慣れないうちは、砥石の真ん中あたりを狙って研ぐとよいでしょう」

アゴ付近を研ぐ時の指の位置
先から手元のアゴまで刃を大きく3分割に考えて、研ぐ所を指でしっかり押さえる。この角度を保ったまま、刃を砥石に押し当てて研いでいく。これはアゴ付近を研ぐ時の指の位置
先端を研ぐ時は、砥石の頭の方を使うと研ぎやすい
先端を研ぐ時は、砥石の頭の方を使うと研ぎやすい

研げたかどうか確かめる

「オモテ側をひと通り研いだら、ウラ側の刃の部分をそっと触ってみてください。ひっかかりができているはずです。僕たちはバリとかカエリとか言っています。

それを確かめながら片面ずつ、カエリをなくすように研いで行きます。両面を確認しながら研いで、頂点をつくっていくわけです」

研いだウラ側に引っかかりができていたら、片面が研げた証
研いだウラ側に引っかかりができていたら、片面が研げた証
自分の指で確かめてみよう
自分の指で確かめてみよう
ウラ側を研ぐ時も、基本の姿勢は同じ
ウラ側を研ぐ時も、基本の姿勢は同じ
真ん中あたりを研ぐ時
真ん中あたりを研ぐ時
アゴあたりを研ぐ時
アゴあたりを研ぐ時

でもこれ、やりだしたらきりがないのでは…?

「うまく研げているかどうかは、手で触って確かめます。研ぐ前に切りづらくなった食材があれば、切ってみて確かめるのもひとつの方法です。

切れ味を極めたい方は、砥石の粒度を上げてさらに2000、3000番の砥石で研ぐと、刃がピカピカに輝いてきます。これで包丁研ぎにはまってしまう人も結構多いんですよ」

研ぎ具合は、見た目ではわからない、触るしかない、と曽根さんは繰り返し話されていました。オモテ、ウラ、と研ぎを繰り返すこと30分以上。根負けしそうになりながら、それでもだんだんと刃先が磨かれていく達成感に、参加された方から「包丁が喜んでいるみたい」との名言が。

今回のワークショップは研ぎに40分以上の時間を取っていましたが、定期的に研いでいればこれが1回5分で済んでしまうというのですから、継続は力なり。さて、ここまできたらいよいよ仕上げの段階です。

完璧を求めない、最後の仕上げ

「刃が鋭利になりすぎると、刃こぼれの原因にもなります。そのため最後は包丁をやや起こして研いで、すこし刃を鈍角にします。これで完成。研ぎ終えたら水洗いで汚れをしっかり落とし、乾いた布で水分をふき取ってよく乾かしてください」

鋭すぎてもいけないのですね。あえて未完成にしておくなんて、日光東照宮の逆柱のよう。どちらも永持ちするように、との思いが込められています。

研ぎに正解なし?

曽根さん、最後に包丁研ぎの極意、教えて下さい!勢い込んで聞いてみると…?

「絶対こうしなさい、というやり方は、実はありません。かぼちゃみたいな固いものを切るときには肉厚(鈍角)の包丁のほうがよいし、キャベツの千切りはスカッとした切れ味のものがよい。研ぎは経験。続けながら、自分の包丁、使い方にあった研ぎ方を見つけていくのがおすすめです」

安易に答えを求めようとする姿勢を諭されて、ピカピカの包丁と共に大充実のワークショップが幕を閉じたのでした。

包丁工房 タダフサによる包丁研ぎワークショップ

<掲載商品>
タダフサ 砥石基本セット 赤(庖丁工房タダフサ)

<協力>
株式会社タダフサ(ブランド名:庖丁工房タダフサ)
http://www.tadafusa.com/

※庖丁工房タダフサさんのHPでも庖丁のメンテナンス方法が詳しく載っています
http://www.tadafusa.com/maintenance/maintenance_1

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文:尾島可奈子
写真:古平和弘

こちらは、2016年11月6日の記事を再編集して公開いたしました。

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タオル選びのポイントというとやっぱり「吸水性」や「肌ざわり」が気になるところ。ふんわり優しい肌ざわ触りが好きな人、ごしごし拭きたい人、好みの触感や使い方もいろいろありますよね。調べ始めるとそれぞれ特徴があって悩んでしまいます。

私の場合、洗濯物を部屋干しすることも多いので、とくに大きいバスタオルは「乾きやすさ」も重要でした。

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厳しい基準をクリアした今治タオルの認証付きで丈夫さもお墨付き。パイルの吸水性とガーゼの肌ざわりを両立した、まさにいいとこどりのタオルでした。

なんといってもこのタオル、片面パイル片面ガーゼであることがポイントです。

一般的な両面パイルのタオルに比べて薄手なので、まずはその乾きの早さに驚きます。早く乾いてくれるので、嫌なにおいがこもることなく、タオルを清潔に保てます。また賛否あるとは思いますが、使用後干してまた使われる方にもおすすめです。

薄手であることにはまだまだメリットが。かさばりがちなタオル収納がとてもすっきりしました。ご家族の多いおうちには嬉しいですよね。汗拭きタオルや旅行、銭湯などの際にも大活躍。赤ちゃん用に持ち運ぶ方にもおすすめです。

そして、ガーゼは使うほどにやわらかくなるのも特徴。タオルは長く使うとどうしてもへたったり、ごわごわしたりが気になりますが、ガーゼなら風合いが長持ちします。赤ちゃん用品にも多く使われるガーゼ素材は、肌へのストレスが少なく、肌にあてるとすっと水分を吸収してくれますよ。

私はバスタオルでこのシリーズを使っていますが、頭はパイル面でしっかり、顔や体はガーゼ面で優しく、と使い分けています。背中をごしごしと拭いても気持ちがいいんです。

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大名古屋ビルディング店 芦田


<掲載商品>
パイルガーゼバスタオル


お相撲さんからは甘い香りがする‥‥大相撲の歴史に欠かせない「島田商店の鬢付け油」

「両国駅のホームで『あれ?この香り‥‥』と思ったら、近くにお相撲さんがいたりするんだよね」

本場所に足しげく通う相撲ファンの友人から、こんなエピソードを聞きました。

その凛として勇ましい姿とは裏腹に、力士はとてもいい香りがするそう。近くに寄ると、どこか懐かしい甘い香りが鼻をくすぐるというのです。

その香りの正体は、鬢付け(びんつけ)油。力士の象徴ともいえる髷(まげ)を結うためには、かかせない存在です。

東京・江戸川区の島田商店は、日本で唯一、力士用の鬢付け油「オーミすき油」の製造販売を行なう会社。昭和40年の開業以来、50年以上にわたり鬢付け油を作ってきました。

甘い香りのヒミツに迫るべく、島田商店 初代・島田秋廣さんと2代目の島田陽次さん、女将の島田陽子さんにお話を伺いました。

横綱も新弟子も全員同じ。力士が愛用する島田商店の鬢付け油

そもそも鬢付け油とは、結い上げた日本髪を固め、乱れを防ぐために使うものです。

ひとくちに鬢付け油といっても、実は固さによって種類が異なり、島田商店では「びん付け」「中ねり」「すき油」の3種類に分けて製造しているとのこと。

固めの「びん付け」は、主にカツラ用。結い上げた日本髪をしっかりと固定するため、固めの鬢付け油が愛用されているそうです。

日常生活でも髷を結ったままの力士は、専用の「すき油」を使います。すき油を使うと、地毛の長髪を艶やかに保つことができるそう。秋廣さん曰く、「力士の髪質に合わせて、固めの『びん付け』と混ぜて使う床山さんもいるよ」とのこと。

島田商店の鬢付け油
すき油の“すき”は、“長い髪をすくこと”からきているそう

カツラや日本髪を結う専門職「床山」は、鬢付け油とは切っても切り離せない存在。大相撲では各相撲部屋ごとに床山さんがいて、所属力士たちと寝食を共にし、激しい取組や稽古で崩れた髷を結い上げるのです。

島田商店の鬢付け油は、各部屋の床山さんに直接卸しています。時には床山さんのオーダーに合わせて固さを変えることもあるそう。

「番付が上とか下とか関係ない。横綱から新弟子まで、力士はみんな、うちの油で髷を結ってると思いますよ」と、陽次さん。

感覚を頼りに練り上げる 鬢付け油の作り方

では、どのように鬢付け油ができるのか見てみましょう。

朝の6時。釜に火を入れ、原材料の木蝋・ひまし油・菜種油を溶かします。固形だった原材料が、みるみるうちに透明な黄金色の油になりました。

これを3時間かけて、程よい温度まで冷まします。

鬢付け油の作り方
1つの釜の油から、100個の鬢付け油ができます。この時点ではまだ甘い香りはしません

冷めた油に粉末の香料を投入すると、途端にふわっと甘い香りが立ち上ります。

次は練りの工程です。ブレンドされた7kgの油に満遍なく香料が行き渡るよう、長い棒を使ってテンポよくかき混ぜます。

鬢付け油の作り方

香料と空気が混じり合い、徐々に白味を帯びてきました。なめらかな質感と淡い色味は、まるで栗きんとんのよう。

香料が混ざったら、もう一度練ります。1本の棒で油を混ぜ続ける陽次さんの額には、汗がにじんできました。かなりの重労働です。

鬢付け油の作り方
空気を含んだ油が固まるにつれて、油を混ぜる音もだんだんと低くなります

最後に頼りになるのは、自らの手。ある程度固まった油を台に取り出し、全体の固さを均一にすべく、全体重をかけてさらに練り上げます。秋廣さんは「この感覚を身につけるまで、13年はかかった」と言います。

鬢付け油の作り方
長年使っている一枚板の作業台は、油が馴染み、艶やか。「これは昔自分が修行してた店から受け継いだもの。もう60年以上は使ってるんじゃないかな」(秋廣さん)
鬢付け油の作り方

キャラメルほどの固さになったら、長方形に成形。型枠に押し込み形を整えます。

鬢付け油の作り方

長い棒状になったものを糸で70gずつに切り分け、鬢付け油の完成です。

液体状だった油は、練りを重ねるごとに固さが増し、完全に冷えるとロウソクのような質感になりました。

鬢付け油の作り方
切り分けた鬢付け油を薄紙で包む女将の陽子さん

溶けた油が鬢付け油になるまで約30分。工程のほとんどを占めるのが練りの作業です。手先に集中しながら、徐々に重さが増してゆく油を繰り返し練り続けなくてはなりません。

陽次さんは「油は放っておくと冷えて固まってしまいますから。一度やり始めたら、間髪入れずに練り続けないといけません。時間との戦いですね」とその苦労を語ります。

「温度に左右されやすい鬢付け油は、季節に合わせて固さを調整する必要があります。木蝋の配合を変えて、夏は固めに、冬は柔らかめに仕上げます。作り方にマニュアルはありません。感覚を覚えるのが大切です」

綺麗に切り分けられた状態
綺麗に切り分けられた状態

鬢付け油を作る上で大変なのは、作業工程だけではありません。

秋廣さんは「天然物の木蝋が昔に比べてなかなか手に入りにくい」と、材料を入手することの難しさを教えてくれました。

木蝋とは、櫨(はぜ)の実を加工して作る天然のワックスです。最近は櫨の木が減っていることに加え、実をもいで加工する人手も足りなくなっているそう。秋廣さんと陽次さんは「輸入物で試したこともあったけど、それでは練っても練っても固まらない。木蝋はやっぱり国産じゃないと」と口を揃えます。

鬢付け油の作り方
鬢付け油作りに欠かせない木蝋は九州や四国産のものを使用しているとのこと

さらには道具も重要です。7kgもの油を練り上げる木の棒は、現在50本ほどのストックがあるそうです。

「油は重いから、棒の木目がしっかり合っていないと1度使っただけで折れちゃう。昔は大八車を作る大工さんに頼んで棒を作ってもらうこともあったけど、今はそういった大工さんもいないからね。せっかくなら一生分作っておこうと思って、直径や長さも指定して、四国の材木屋さんに作ってもらったんだよ」(秋廣さん)

全て手作業だからこその苦労とこだわりが垣間見えます。

60年間変わらない 甘い香りの正体とは

取材をする中で、工房の中にはずっと甘い香りが立ち込めていました。「いい香りですね」と言葉をかけると、「そう?ずっとこの香りの中で仕事してるから、もう慣れてわからなくなっちゃった」と陽子さんが笑って答えます。

なんだか懐かしいような、ずっと嗅いでいたくなるような甘い香り。陽次さんにその正体を尋ねました。

「メインの香りはバニラですね。その他にも液体香料を3つ混ぜて使っているんです。だから『なんの香り?』と聞かれても一言で説明するのは難しいんですよ」とのこと。

鬢付け油の甘い香りは、バニラからくるものでした。なんだか懐かしく感じるのは、幼い頃から慣れ親しんでいるバニラが入っているからかもしれませんね。

鬢付け油の作り方
溶けた油に混ぜ込む香料の比率は、もちろん「企業秘密」

島田商店の鬢付け油がこの香りになった経緯を秋廣さんが教えてくれました。

「中学を卒業してから、鬢付け油を作る工房に勤めていてね。そこでも最初の頃は匂いをつけていなかった。ある時、鬢付け油を卸していた床山さんから『もうちょっと他の香りはないの?』と相談があってね。当時の親方と話し合って、試行錯誤の末にこの香りになったんだ。そこから約60年。ずっと変わらないね」

なんと60年もの間、力士たちはこの香りをまとって土俵に上がっていたんですね。

その結果、島田商店の鬢付け油の香りは、「力士の香り」として知られる存在になりました。整髪料として使う以外にも、練り香水やルームフレグランスとして香りを楽しむために買い求める一般の方もいるそうです。

床山さんと二人三脚で、角界の伝統を守ってゆく

島田商店

とはいえ、香りを楽しむ目的で鬢付け油を購入するのはごく一部。「やっぱり一番のお得意様は床山さんだ」と秋廣さんは言います。

「今はなり手も少ないって聞くけど、相撲部屋付きの床山さんは師弟制でね。師匠の鬢付け油の練り方、結い方を弟子が受け継ぐんだよ。

昔はカツラや日本髪を専門に結い上げる床山さんもいたんだけど、今はめっきり数が減った。日頃から和装をする人も、文金高島田のカツラを被って結婚式を挙げる花嫁さんも少ないでしょう。

どの相撲部屋もうちの油を使い続けてくれるから、本当にありがたいね」

島田商店が創業した昭和40年、まだ日本髪の文化は残っていました。当時は床山さんだけではなく、日本髪専門の美容室からも注文があったそうです。しかし洋装が主流になるにつれて、その数も次第に減少。

時代の変化に伴い、鬢付け油を製造する工房も閉店が相次ぎます。

「昔は浅草だけで4、5軒あったけど、どこも廃業しちゃってね。『島田商店さん、どうか息子さんを跡継ぎにしてください』って床山さんから頼まれたよ」

島田商店2代目の陽次さんは、大学卒業後、すぐに家業を手伝い始めました。

「昔から自分が跡を継ぐだろうなとは思っていました。一応就活はしましたが、面接で家業について話したら、『そんなにいい仕事があるなら、君はそれを仕事にするべきだ』なんて言われたりしましたね」

香りや固さなどの要望に応え、床山さんに寄り添って鬢付け油を作り続けてきた島田商店。1500年以上も続く日本の国技・相撲をこれからもこの甘い香りで支え続けていくことでしょう。

島田商店
左から、島田商店 女将の島田陽子さん、初代・島田秋廣さん、2代目の島田陽次さん

<取材協力>
島田商店
東京都江戸川区江戸川1-33-12
03-3670-6211

文:佐藤優奈
写真:中村ナリコ

「この綿を一度着たら、戻れなくなる」HAAGの普段着、やわらかさの秘密

たくさんのものであふれる時代。

膨大な選択肢の中から、本当に自分に合うものを選ぶのはなかなか難しいことかもしれません。

そんな中、これなら迷いなく長く使っていけそうだと思えるものに出会いました。

アパレルブランド「HAAG (ハーグ) 」のデイリーウェアです。

HAAG

触り心地はまるでカシミヤのよう‥‥。そこには綿という素材の本質的な心地よさが宿っていました。

HAAG
綿(コットン)で作られたスウェットや靴下などのプロダクト

原点は赤ちゃん用の肌着

HAAGは三重県に拠点を構える「スマイルコットン社」が手がけるオリジナルブランド。社名と同じ「スマイルコットン」という特別な綿生地を使っています。

「この綿を一度着たら、戻れなくなりますよ」

そう自信をもって話すのは、スマイルコットン社の片山英尚さん。

スマイルコットン社の片山英尚さん
スマイルコットン社の片山英尚さん

スマイルコットン社がある三重県北部は、明治以降、紡績業がさかんな地域だったそう。

「戦後、祖父が機械編みであるメリヤスニットの工場を立ち上げ、父が『肌にやさしい、カシミヤタッチの綿生地をつくりたい』とスマイルコットンの原形を作りました。でも、1970年代当時は大量生産、大量消費の時代。技術面でもコスト面でも折り合いがつかず、手応えはありませんでした」

それからおよそ20年後。

時代とともにニーズも変化。その肌触りのやわらかさと軽さが注目され、ベビー用肌着として商品化がスタート。

そんな赤ちゃんのデリケートな肌にも安心して使える素材・スマイルコットンに、デザイン要素をプラスして生まれたのがHAAGでした。

やわらかさの秘密は糸にあり

そもそもスマイルコットンと通常のコットンの違いは、なんなのでしょうか。

HAAG
左がスマイルコットン、右が通常のコットン。同じ10gの重さでも、スマイルコットンの方がボリューム感があり、ふんわりとしていることがよくわかります

その秘密は糸にあります。

糸というのは、わたの繊維を「撚る(よる)」というねじり合わせる作業をすることでできるものですが、その撚りをほぐして戻すことで繊維と繊維の間に空間ができ、ふんわりとやわらかい肌触りを生み出しています。

HAAG
繊維間に空間ができることで、スマイルコットンはやわらかさだけでなく、保温性や吸水性、速乾性にも優れているそう

HAAGのアイテムやパッケージにあしらわれている数字は、糸の太さを表すもの。糸からこだわって作られていることを物語っています。

HAAG
数字は、製品に使われている糸の番手 (太さ) を表すもの。数字が大きくなるほど、糸の太さは細くなります。着心地を考えて糸を使い分けているのだそう

日々身につけるものだからこそ、ストレスなく

HAAGというブランド名には、「スマイルコットンの生地でハグされて笑顔になってほしい」という願いを込めたとのこと。

HAAG
HAAG

「どんなに素材がよくても、使ってくれる人や身につけてくれる人がいてはじめてブランドとして成り立つと思うんです。食べものと同じです。食べてくれる人がいるから、美味しいってわかる」

そんな思いから、HAAGでは「肌にやさしく」というコンセプトを第一に、普遍的でありつつもカラーやフォルムに現代らしさを取り入れたデイリーウェアを展開しています。

HAAG
スウェットジップパーカー。ダブルジッップ&形崩れしない二枚仕立てのフードがうれしいところ

HAAG
トレンドのテーパード型のスウェットパンツ

HAAG
片山さんがお風呂上がりに履いているという靴下。「ふかふかで絨毯をはいているかのよう。とても暖かいけど蒸れませんよ」

アトピーや敏感肌の方はもちろん、日々身につけるものだからこそ、違和感やストレスのないものを求めている人へ。

まずは、その手触りをぜひ体感してみてください。

きっと誰かにも教えたくなるはずです。

<取材協力>

スマイルコットン

三重県三重郡川越町豊田一色234-1

http://i-haag.jp/

文:岩本恵美


写真:スマイルコットン提供、中里楓