自分のために飾りたい、雛飾り。「草木染めの衣裳着雛飾り」をご自宅に飾ってもらいました

大人が愉しむ、自分のための雛人形

雛飾りは、親が子どもの健やかな成長を願って贈るものというイメージがありますが、大人になっても、季節のしつらいとして、自身の幸せを願う飾りものとして愉しむことができます。

今年度発売された「草木染めの衣裳着雛飾り」は、紬織の人間国宝 志村ふくみさんの芸術精神を受け継ぐ、アトリエシムラとのコラボレーションで生まれました。

植物の生命(いのち)をいただく草木染めは、二つとして同じ色に出会えない、まさに一期一会の色。その特徴を生かして織り上げた生地には、微妙な濃淡が生まれ、見る人を惹きつけています。

植物の生命をいただき、染められた糸は、丁寧にすべて手織りで仕立てられます

歳月が経つほどに、色の変化を愛でることができる草木染めの雛飾りは、まさに大人が自分のために飾りたい雛人形。

今回、中川政七商店の中川みよ子さんにお声がけし、「草木染めの衣裳着雛飾り」をご自宅に飾ってもらいました。

好きなものを好きな時に、自由にしつらう

「普段から、お気に入りを自由にしつらうのが好きなんです」

そう話すみよ子さんのご自宅は、ご本人の好きなものであふれていました。

リビングにある棚には、様々な年代・種類のうつわや、飾りものが並んでいます。

リビングの飾り棚には、ガラス、漆、絵付けの磁器などが並ぶ

「その時々に合わせて、新しいもの、古いものを問わず、自分の気持ちが動いたものを置いています。リビングに飾っておくと、いつも目に入るから楽しいでしょう。

いまのお気に入りは、茶道の際に、うつわを温めた水をいれる建水(けんすい)。さまざまな素材や形があるんですよ。だから見つけると、つい集めてしまいます」

自宅になった柘榴(ざくろ)の実

「草木染めの衣裳着雛飾り」をご自宅にかざってもらいました

雛飾りを、自宅でどんな風に飾って楽しむのか。みよ子さんに、ご自宅内のいくつかの場所を選んでいただき、実際に飾っていただきました。

まずは、お客様を迎える玄関。良い気を呼び込むという意味でも大切な場所です。

玄関を入ってすぐ脇にある木の台に敷板を置き、土壁を背にしてお雛様を飾ってみます。戸から漏れる控え目な陽の光で、空間がよりしっとりと、落ち着いた雰囲気になりました。

家族が一番長い時間を過ごす、リビング。

テレビの上部にある飾り棚に、他のお飾りとともに置いてみました。

淡い色合いの衣裳なので、洋風の部屋にも馴染みます。また奥行きが約15cmとコンパクトなので、ちょっとした棚にも収まり、一緒に飾っているインテリアの邪魔をしません。

雛飾りといえば、和室の床の間。

「季節のぼかし染めタペストリー(桜雲)」を一緒に飾れば、桃の花が咲いたように一気に華やかな空間になります。高さのある木の台を用意して、タペストリーとのバランスを考えて飾りました。

「ここに飾っても素敵なのではないかしら?」と読書スペースにある棚にも飾ってみました。本棚にはお父様から譲り受けた本が大切に収められています

 「糸の一本一本が異なる色合いで、生地の濃淡が本当に美しいですね。つい見入ってしまいます。

以前は、雛飾りを節句に合わせて子どものために飾っていました。最近は子どもが独立しても、大人のしつらいとして自分のために飾っている方もいらっしゃると聞きます。

今回こうして飾ってみて、季節のしつらいとしてのお雛様を飾るのも素敵だな、と感じました」

<掲載商品>
草木染めの衣裳着雛飾り
季節のぼかし染めタペストリー(桜雲) 

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年を重ねたいま、自分に自信をもたせてくれる、ハレの日の服

自分らしい服ってなんだろう。年を重ねるごとに、似合うものも自分の好みも少しずつ変わってきました。
シルエット重視だった20代、何を着ればいいか迷走した30代前半。30代後半のいまでは、素材や質感など布自体が気になるようになりました。
着心地のよさはもちろん、年相応の服を着ているという安心感を求めているのかもしれません。日常の服はもちろん、特別な日となると、その安心感は一層大切です。

その場にも、年を重ねた自分にもふさわしい服。
中川政七商店のセミフォーマルシリーズは、そんな思いに応えてくれる一着です。デザイナーの一人である山口に、どんな風に考えて作ったのか、話を聞いてみました。

ジャカード織の菱紋シリーズや尾州ウールシリーズ、刺繍のかさねブラウスを手がける山口

「私は30代後半で出産して、上の子はこれから卒園式入学式を迎えます。
この年でそういった式に出ると、周りのお母さん達は年下の方も多いんです。20代の方と同じ服を着ても似合わないし、それなりに年を重ねてる分似合うものを着ていたいと感じます。
ものづくりに信頼を置ける服を身に着けていると、背筋が伸びてそれが自信にも繋がると感じました」

自身の経験を糧にしながら作り進めていった、中川政七商店のセミフォーマル。
2019年からさまざまな型を発売し、それぞれにデザインのテイストが異なりますが、そこには共通する一つのコンセプトがあると言います。

「中川政七商店のセミフォーマルを貫くものは、“世界に誇る日本の技術”です。
テイストの好みは人それぞれですが、普段着ではなく特別な日に着る服なので、身に着けると自信に繋がるものを作りたいと考えました。そこで、技術も世界に誇れるようなものを採用しています」

ものづくりを知ることが自信に繋がるということで、一つずつ、どんなものづくりの背景があるのか、お話したいと思います。

縁起の良い菱文様が生地に浮かぶ「ジャカード織の菱紋シリーズ」

2025年のラインアップに新たに追加されたのは、縁起の良い菱紋をジャカード織の繊細な陰影で表現した、ジャカード織の菱紋シリーズ。

中川政七商店のセミフォーマルのなかでも、縦のラインをすっきりと見せるやや細めのシルエットで、ワンピースは足が隠れるロング丈です。

「中川政七商店のセミフォーマルシリーズでは、毎年お客様から届く様々なお声も参考にしながら開発しています。そのなかで細身の方にも着ていただきやすい、少しだけ細めのシルエットのご要望にお応えできたらと思い作ったのが、今回のシリーズです。

模様を織り込んで作るジャカード織の生地は、厚みがあって立体的に見えるのが特徴。今回の生地では、ハレの日にもふさわしい縁起の良い菱文様を織り上げました。60年以上も前に製造された貴重な織機を使っており、ジャカード織の凹凸が生み出す陰影の美しさを際立たせています」

ジャカード織のジャケット 菱紋
ジャカード織のワンピース 菱紋

ウールの世界三大産地が作る「尾州ウールシリーズ」

シワのできにくい生地とゆとりのあるパターンが毎年人気の尾州ウールシリーズ。
愛知県一宮市を中心にした尾州地域は、イギリスのハダースフィールド、イタリアのビエラと並ぶ世界三大毛織物産地。海外のメゾンブランドも買い付けに訪れるような日本が誇るものづくりの産地といわれます。

ワッシャー加工を施した凹凸のある生地はシワができにくく、目立ちにくいのが特徴で、活動的な日にもおすすめの一枚です。

「保育園の式では、ヒールの高い靴はまずはけません。抱っこをしたり、子どもと目線を合わせるために低い位置で動いたり‥‥子どもがぎゅっと掴んでくることもあります。動きにくいのはいやなので、ゆとりのあるシルエットにして、シワが目立ちにくい加工を採用しました」

また、ウールと麻を織り交ぜた生地を採用したため、清涼感のある肌触りで長いシーズン活躍します。

「安いものではないので、たまにしか着れないのはもったいないと思い、長いシーズン楽しめる質感を目指しました。また、デザインもシンプルなので、色んなシーンで着やすいものになっていると思います」

尾州ウールと麻のジャケット
尾州ウールと麻のワンピース
尾州ウールと麻のタックワイドパンツ
尾州ウールと麻のテーパードパンツ

装飾を折り目で表現する日本らしさ「重ね襞シリーズ」

上品な生地の艶感と、ひかえめながら華やかさのある装飾が特徴の重ね襞シリーズ。

「袴や折型など、日本人は装飾を折り目で表現する文化を持っています。技術だけじゃなくて、昔から日本にある表現も含めて取り入れながら展開していきたいという想いで、プリーツを採用したシリーズをつくりました」

もちろん、その技術も特別なものです。
手がけるのは、プリーツを専門に新技術の開発を行うオザキプリーツ株式会社。こちらには特許技術である「MAX PLEATS」を採用しています。

元来、プリーツがかからないと言われてきた天然素材。MAX PLEATSは、そんな天然素材にプリーツをかけることを可能にした特許技術です。
今回も表地は麻54% 綿46%の天然素材ですが、水洗いしてもプリーツ性を損なうことはありません。

リネンコットンの重ね襞ジャケット
リネンコットンの重ね襞ワンピース

自然の景色を思わせる、波皺の表情「リネンキュプラの波皺シリーズ」

昨年発売となり、幅広い世代の方にお求めいただいているリネンキュプラの波皺シリーズ。ベーシックでシンプルなデザインの尾州ウールシリーズや、華やかな見た目が特長の重ね襞シリーズとは、あえて印象が異なるようにとデザインされました。体のラインを拾わず全体をすっきりと見せてくれるシルエットが心強い一着です。

「上質感があって大人っぽいものを作りたくて、絹織物をはじめ高級裏地の産地として歴史が深い、山梨県の富士吉田市で織られた生地を使用しました。上質な布の美しさが映えるように、あえてすとんとしたシルエットを採用し、シンプルな形で作っています。

生地に揺れる波皺の表情は、経(たて)糸に使用したキュプラと、緯(よこ)糸に使用したリネンや綿の、それぞれの縮率の違いから生まれるもの。なみなみとした揺らぎが、水面のさざ波や富士山の裾の尾、地平線・水平線などを思わせてくれるので、『風景の見える布』をコンセプトにしています」

リネンキュプラの波皺ジャケット
リネンキュプラの波皺ワンピース

※担当デザイナーにものづくりについてインタビューした記事はこちら

古い織機でしか出せない細やかなレース「刺繍のかさねブラウス」

ジャケットの下に着たり一枚でさらりと着用したりと、何かと活躍する、刺繍のかさねブラウス。手がけるのは、刺繍レースを専門とするフロリア株式会社です。

「レースというと海外のイメージを持たれる方も多いと思いますが、じつは日本で独自に進化を遂げ、いいものを作っているんです。中でもフロリアさんは歴史をもち、海外からも注目されている企業さんです」

あえて古い機械でゆっくり織ることで、ふんわりと⽴体的なふくらみや、繊細な模様を表現しています。

「フォーマルなシーンでは、基本的にはジャケットを羽織っていることが多いと思いますが、長時間過ごす中で温度調整したいタイミングもあります。
でも、ジャケットを脱ぐと急に質素な印象になってしまったり、透けてしまったり…脱ぐのをためらうことがあって。そういう不安がなく、脱いでも華やかさが損なわれないものにできたらと思って、前面を二重にして刺繍を刺しました」

刺繍のかさねブラウス

最後に、中川政七商店のセミフォーマル、どんな風に着てほしいですか?と聞くと、
「ハレの日にはもちろん、ちょっとしたお出かけにも、普段からたくさん着てもらえると嬉しいです」
とのこと。

中川政七商店のセミフォーマルは、シリーズを通して天然素材をベースに作っているため、素材感がマットで落ち着きがあります。きちんと感や品はありつつも、確かにちょっとしたお出かけなど、日常のシーンでも使いやすい質感です。

ものづくりについて語りたくなる、特別な日に自信をもたせてくれる服。フォーマルシーンにも、ちょっとしたお出かけにも、様々な場で一緒にお出かけしていただけたら嬉しく思います。

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*この記事は2022年1月11日公開の記事を、再編集して掲載しました。

【季節をしつらう暮らし】節分

花やテキスタイル、年中行事にちなんだお飾り。

暮らしのなかに季節を感じる景色があるだけで、毎日にリズムが生まれ、目にしたときに少し幸せな気持ちになる気がします。

そんな景色の参考になればと、スタッフやお客さまのもとにお邪魔して、中川政七商店の季節のお飾りをインテリアに取り入れていただきました。今回は「節分」をテーマに、スタッフ・白石の自宅を訪れます。

花や郷土玩具で、四季の移ろいを子どもと楽しむ

白石:

中古のマンションをフルリノベーションした我が家。どんなテイストの家具や雑貨も合うように、壁は白一色、天井はコンクリートむき出しといったふうに、ニュートラルな印象に仕上げてもらいました。

妻は北欧テイストが好みで、ダイニングテーブルは北欧のヴィンテージ品。内装関係の仕事をしている妻の会社で作っていただいた家具もあります。テレビボードの収納部分には扉がついていたりと、基本的にはごちゃつかずすっきり見せられるような家具を選んでいますね。

撮影:白石

一方で、僕個人は日本の焼き物や郷土玩具の収集癖があり、花器やうつわに取り入れたり、各地で集めた人形を玄関に飾ったりしています。

旅行に行く前にリサーチして、好みに合うものを迎えるのが旅のひとつの楽しみです。

撮影:白石

しつらいは季節感も意識していて、床に敷くラグを夏はござっぽいものにしたり、冬は毛足の長いものに変えたりと、時季により心地好く感じる風合いのものを選んでますね。

旬の花を飾るのも好きな家しごとの一つ。

今は仕事でご一緒したことを機に出会ったオンライン花屋のLIFFTさんで、季節の花のサブスクリプションサービスをお願いしています。毎月新鮮な花が届くので、2週間ほどは飾れて。そのあとは庭の花や、近くの花屋で購入した花などを生けています。

花瓶はどちらも小鹿田焼のもの。背の低いものは小鹿田焼のピッチャーを花器として使用中

子どもがいるので端午や桃の節句だったりクリスマスだったり、子どもに関連する年中行事も積極的にしつらいに取り入れます。兜飾りやお雛様は悩んだ末に、一刀彫のものにしました。

他にも、玄関に飾っている郷土玩具も干支にまつわるものを目立つ場所に出して、ちょっとしたリズムを楽しんでいます。

鬼の張子面飾り 赤鬼・青鬼

今回飾った節分のお飾りは「僕の家にはちょっとかわいすぎるかな?」と思っていたのですが、もともとある郷土玩具のテイストが幅広いのもあって、違和感なくなじんで飾れました。

あと、子どもがすごく興味を示してくれて。行事の話を自然とするきっかけにもなりました。「紙でできているから大事に触ってね」と、ものを扱う心得も覚えてくれたように思います。

豆まき置き飾り 

しつらったお飾り

豆まき置き飾り 
鬼の張子面飾り 赤鬼・青鬼

今回の取材先:

中川政七商店 編集担当 白石雄太

ものづくりの様子を届ける読みものや、産地の作り手が集う展示会のWEBサイト運営などを担当。自宅には旅先で求めた多数の郷土玩具や縁起物をコレクションしている。

文:谷尻純子
写真:中村ナリコ

【四季折々の麻】1月:軽やかであたたかく、マットな質感「ヘンプ麻と綿」

「四季折々の麻」をコンセプトに、暮らしに寄り添う麻の衣を毎月展開している中川政七商店。

麻といえば、夏のイメージ?いえいえ、実は冬のコートに春のワンピースにと、通年楽しめる素材なんです。

麻好きの人にもビギナーの人にもおすすめしたい、進化を遂げる麻の魅力とは。毎月、四季折々のアイテムとともにご紹介します。

軽やかであたたかく、マットな質感「ヘンプ麻と綿」

1月は「初春」。心新たに年を迎える月に、清々しく着たい麻の服をご用意しました。

気持ちとしては春を迎えたい時期ですが、朝晩は空気がくっきりと冷え、まだまだ冬のさなか。生地感は春を意識しながらも、冬の寒さからあたたかく守り、次の季節まで着られる衣服をご提案できたらと思い仕立てたシリーズです。

麻生地といえば艶のあるシャリ感のあるものを想像される方が多いと思うのですが、今回はヘンプと綿を組み合わせることでマット感のある生地に。ひんやりせず、冬らしい質感が特徴です。

ラインアップは「中綿ベスト」と「ギャザースカート」の2種類。特にベストは、コートの下にインナーダウンのようにしても着られる、気温の変化に対応しやすいアイテムです。厚手で重い衣服の多くなるこの時期、着心地も見た目も軽やかなアイテムを楽しんでいただけたらと思います。

【1月】ヘンプ麻と綿シリーズ:

ヘンプ麻と綿 中綿ベスト
ヘンプ麻と綿 ギャザースカート

今月の「麻」生地

今回用いたのは、麻の一つであるヘンプと、綿を紡績した糸を経緯(たてよこ)に使い、密度を詰めて織り上げたヘンプコットン生地。

ヘンプの繊維はリネンなどに比べより多孔構造のため、繊維に空気の層ができることで冬にあたたかく着られます。また保温性だけでなく調湿性や調温性もあり、生地が呼吸をしながら快適さを保っているような素材です。

マットな質感と上品なネップ感(※麻繊維の太さのゆらぎによる、ぽこぽことした生地感)のある、ヘンプならではの表情を持つ生地に仕上がりました。

しめ縄にも使われる硬い繊維で、もともとはがっしりとした生地が作られることが多かったヘンプですが、最近では紡績技術の進歩でより細く糸を紡げるようになってきました。

ただ、ヘンプは繊維の長さが短いため、織り上げるなかで切れやすいという難しさがあり、特にやわらかな服地を織るのはかなりの工夫や技術が必要。今回の生地も丁寧にゆっくりと織り上げられた貴重な織物です。

ご協力をいただいたのは兵庫県の播州織の産元さん。「難易度の高い織物にチャレンジしてやろう!」という、気概のある作り手さんたちに携わっていただきました。

少し細かいお話になるのですが、例えば経(たて)糸を織る際に、糸をピンと張れるよう糸に糊をつける「糊付け」の工程も、こだわったひとつです。

通常の織物では糸巻きに糸を巻いたままの状態で糊にドボンとつけるのですが、より丁寧にむらなく均等に糊付けをするため、一本ずつ糊のなかをくぐらせていく「一本糊」という糊付けをされています。

さらには糸が切れないよう、織りの際は糸に含ませる油分を微妙に調整し、機械といえど目を離さずにゆっくりとしたスピードで織り上げてくださいました。

糸づくりから糊付け、織りまで、それぞれの職人さんが工夫を凝らして協力しあい、作られた生地です。

お手入れのポイント

ご家庭でお洗濯が可能ですが、ベストは手洗いで優しく押し洗いしていただければと思います。スカートはネットに入れて、洗濯機でお洗濯していただけます。

形を整えて干す際は、ベストはやさしくシワを伸ばして。スカートはシワを伸ばして干すか、お好みで少し縦に絞り、引っ張ってシワをつけることで、麻ならではのシワ感を楽しんでいただくのもおすすめです。

長く着られる2アイテム

春先まで活躍するベストと、オールシーズンの着用が可能なスカートの2アイテムをご用意しました。色展開は中綿ベストが「グレー」と「チャコール」の2色。スカートは「オフ白」「グレー」「チャコール」の3色展開で、いずれも長く着られる定番色とマットな質感がポイントです。

中綿ベストは、キルティングのようにステッチを表に出さず、中に板状の綿を入れたもの。スポーティな印象ではなく、ふんわりナチュラルに着られる綿入りのベストになっています。

前にはクルミスナップが一つ付いており、軽く羽織る感じで着られます。タートルネックニットの上や、シャツブラウスに重ね着してお楽しみください。もこもことした生地感ではないため、例えばお花見の時期ような、春先の肌寒い日も着ていただけたらと思い仕立てました。

ギャザースカートはたっぷり生地を使ったロング丈。冬の重めのニットやコートと合わせても、春の到来を感じられるような軽さに仕上げています。

裏地が付いているので透けの心配もなく、ふんわりとしたシルエットのため、寒い日は下にタイツやスパッツを着こむこともできます。年中着ていただける、着回しの定番となるアイテムです。

なお、今回のシリーズではスカートのみ「オフ白」を展開。生地を白色にするための晒す工程ではあえて白度を控えめにし、ややクリームがかった色にしています。あたたかみのある白は冬の麻衣服にぴったりで、晒しきっていないためよく見ると麻の繊維感があるのもお楽しみいただきたい点のひとつです。

素材自体が呼吸をしているような、気持ちの良さがある麻のお洋服。たくさん着ると風合いが育っていくので、ぜひ着まわしながら愛用いただけると嬉しいです。

「中川政七商店の麻」シリーズ:

江戸時代に麻の商いからはじまり、300余年、麻とともに歩んできた中川政七商店。私たちだからこそ伝えられる麻の魅力を届けたいと、麻の魅力を活かして作るアパレルシリーズ「中川政七商店の麻」を展開しています。本記事ではその中でも、「四季折々の麻」をコンセプトに、毎月、その時季にぴったりな素材を選んで展開している洋服をご紹介します。

ご紹介した人:

中川政七商店 デザイナー 杉浦葉子

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150年続く伝統の和凧を後世へ。名古屋 凧茂本店の凧作り

家の中を、自分の好きなもので飾る。

何かが便利になったり、家事の助けになったりするわけではないけれど、そうすることで不思議と気分が上がり、活力が湧いてくる。

それは、日々を心地よく暮らしていくためにとても大切なことだと感じます。

古くから人々は、季節の行事ごとに飾りもので部屋を設えたり、祈りを込めた縁起物を取り入れたりして、家の中を「しつらい」ながら暮らしてきました。 この美しい「しつらい」、飾りものの文化を未来へつないでいくためになにができるだろうか。そう考え、通年で家に飾れるオブジェのような工芸を模索して生まれたのが、こけしや和凧といった縁起物をモチーフとしたインテリア、「鳥こけし」と「飾り凧」です。

今回、「飾り凧」を組み上げてくれたのは、江戸末期創業の老舗、名古屋の「凧茂(たこも)本店」。

150年続く同店の凧作りについて、山田直樹さんに話を聞きました。

家業に戻り10年。一人で組み上げる伝統の和凧

凧茂本店 山田直樹さん

「組み立ては、基本的にこの場所で、僕一人でやっています」

創業150年を超える「凧茂本店」ですが、現在、凧の組み立てをおこなう職人は直樹さんただ一人。凧の紙、竹ひご、凧糸など、日本各地から届いた部材を黙々と組み立てて、出荷までも一人でこなしています。

「祖父の代の頃は、祖父の兄弟など職人が5名くらい在籍していて、一番生産力がありました。内職さんも多くて、複雑な凧も作れていた時代です」

元々、大学卒業後にサラリーマンとして働いていた直樹さんでしたが、10年ほど前に家業である和凧作りの道へ。直樹さんが戻ってきた当時、すでに凧作りの職人は直樹さんのお祖母さま一人だけという状況。

「ポイントを祖母に教わりながら、とにかくたくさん凧を作って。3年目になる頃にこの部屋に上がってきて、一人で凧作りをするようになりました」

それ以来、150年続く家業、そして和凧の技術を絶やさないために、日々凧作りに励んでいます。

定番柄で人気の高い武者絵の六角凧
かつて作られていた複雑な形の凧たち。祖母から教わり切れなかった部分は、こうしたアーカイブを紐解いて、自身で作り方を研究している
固い竹を使用する場合は、ろうそくの火を数時間当てて曲げる必要があったのだとか。「複雑な骨組みの凧は、一朝一夕では作れません」(直樹さん)

繊細な作業が要求される、和凧作りの工程

凧の組み上げは、和紙に竹ひごを通す穴をあけるところから始まります。

「おおよそ25枚くらいの紙を重ねて穴をあけますが、この作業がかなりシビアですね。ここでずれてしまうとやり直しがきかないので」

穴あけの工程
穴の位置がずれると、凧の仕上がりに大きな影響が出る

和紙の穴あけが終わると、竹ひごに糊をつけて張り付けていく工程へ。綺麗に仕上げるため、均一に糊をつけていく必要がある繊細な作業です。

でんぷん糊を水で薄めながら使用

「竹ひごは、必ず皮がついた状態のものを使います。皮がないと柔らかすぎて折れてしまうので。

また、皮がついていない側に糊付けをして貼り付けることで、凧を揚げたときに皮がついている側が下向きになる。そうすると重心が安定して揚げやすくなります」

飾る用途の凧であっても、実際に揚げられるということにこだわっている直樹さん。左右ができる限り対称になっていることや、風を受けやすい反り具合など、きちんと飛ぶ凧を追求することで、見た目にも美しい和凧が仕上がっているように感じます。

和紙の端を折り返して糊で貼り込む工程。ここで竹ひごの反り具合も調整する
乾燥させた後、糸をつけて完成

すべての素材を国産にこだわった、美しい凧

「素材すべてを国産にこだわっていることが、大きな特徴じゃないかなと思います」

直樹さんがそう話すように、凧茂本店の和凧は、和紙、竹ひご、凧糸まですべて国産の素材で作られています。 かつて海外産の竹ひごを試したこともあるそうですが、含まれる水分が多すぎたのか簡単に割れてしまい、仕事にならなかったのだとか。

国産の竹ひごは、京都で加工されたもの。サイズと薄さを指定して発注している
紙は美濃の和紙を使用
紙の印刷は、「刷り込み屋さん」と呼ぶ印刷屋で行うことが多い。一色一版で、鮮やかな色合いに仕上げていることが特徴
中には、10種類以上の版を使用する絵柄もある
干支ものの凧は人気が高い

「昔から変わらないやり方ですけど、これがベストだと思って続けています。今後は凧作りを教えていきたいなと思っていて。夏休みの子ども達に向けたワークショップなどができればいいですよね」

150年続く和凧作りを後世につなげるために、広くその魅力を伝えていきたいと考えている直樹さん。その取り組みはこれからも続きます。

「自分が作った凧が売れるということに対して、不思議な感覚もあるんですよね。

時代とともにお金の使い方も多様化している中で、和凧を買っていただけている。それはすごく価値のあることだと思っています。

純粋にものづくりの楽しさも感じていますが、それよりも今は、感謝の気持ちが大きいというか。凧作りに関わってくださっている方々や、発注してくださる取引先、そして実際に買ってくださる消費者の皆さん。本当にたくさんの方に支えられているということを実感しています」

ご両親とともに。お父様は、凧茂本店の5代目である山田民雄さん

<掲載商品>
飾り凧

文:白石雄太
写真:阿部高之

たくさんの肯定から生まれた、通年で飾れる新しい縁起物……𠮷勝製作所 𠮷田勝信さんインタビュー

家の中を、自分の好きなもので飾る。

何かが便利になったり、家事の助けになったりするわけではないけれど、そうすることで不思議と気分が上がり、活力が湧いてくる。

それは、日々を心地よく暮らしていくためにとても大切なことだと感じます。

古くから人々は、季節の行事ごとに飾りもので部屋を設えたり、祈りを込めた縁起物を取り入れたりして、家の中を「しつらい」ながら暮らしてきました。

この美しい「しつらい」、飾りものの文化を未来へつないでいくためになにができるだろうか。そう考え、通年で家に飾れるオブジェのような工芸を模索して生まれたのが、こけしや和凧といった縁起物をモチーフとしたインテリア、「鳥こけし」と「飾り凧」です。

今回のプロジェクトでは、東北・山形県を拠点に活動するデザイナー・𠮷田勝信さん(𠮷勝制作所)と協業。フィールドワークやリサーチ、プロトタイピングを得意とする𠮷田さんとともに、こけし文化や凧の起源を深堀りし、縁起物とは?工芸とは?という本質を探りながら制作にあたりました。

どんなことを考え、何を大切にして「鳥こけし」と「飾り凧」が生み出されていったのか。山形県西村山郡にある𠮷勝制作所で話を聞きました。

縁起物は、さまざまなものの関与を受けて生まれる

𠮷勝制作所 𠮷田勝信さん

――最初に「縁起物」というキーワードを聞いた時は、どんな印象を持たれましたか?

「縁起物って立体物であることが多いんですが、その“縁起のよさ”というのは、割と視覚的に表現されていると感じていました。

山形で作られている「削り花」なんかも、そのフワッとした毛先の見た目に縁起のよさが込められていて。立体だけどすごくグラフィカルというか。

そんなふうに、“縁起物を縁起物たらしめているなにか”を視覚的に表現してかたちを作っていくのであれば、プロダクトデザインというよりも、自分の専門領域であるグラフィックデザインとしてアプローチできそうだと思いましたね」

𠮷田さんが収集した縁起物や郷土玩具たち
中央に映っている花のような木地細工が「削り花」

「それと、“縁起”という言葉を調べていくと、外的要因の力を受けてものが立ち上がってしまったこと、というような意味合いがあって。第三者とか、もっと言えば人を超越した力の関与を受けて、制作者も予期していない色や形が生まれたときに、そのものが縁起たらしめられると。それはすごく面白いなと思ったんです。

このプロジェクトでも、職人さんたちの普段の製造工程だったり、使用する素材の特性だったり、中川政七商店の考えや想いだったり、さまざまな関与を受けたものづくりができるといいなと。僕自身もその関与のひとつとして何かが作れたら、それは少し“縁起っぽい”のかな、というところからスタートしています」

――その意味では、作り手の予期しないゆらぎが発生する工芸のものづくりには、もともと “縁起”の要素があるのかもしれません

「今回、榎本さんや渡瀬さん*と会話していて、中川政七商店が考える『工芸』というものが意外と広いということに驚いたんです。

※今回の商品を担当した中川政七商店のデザイナー

僕の中での工芸は、いわゆる伝統工芸的なもの。でもお二人に聞くと、たとえば靴下も工芸であると。靴下工場に行くと、もちろん機械を使っているんだけど、そのオペレーティングには専門の職人さんがいて、いわば道具として機械を使っている。そう考えると、どこからどこまでが工芸っていう線引きは難しいですよね。

僕に近いところで言えば、印刷所もまさにそうで。現代の印刷機は大きくて性能もいいんですが、操作する人は不可欠で、しかも熟練の方かどうかでクオリティがかなり違ってきます。ということは『印刷も工芸なんだ!面白い!』と思って。

伝統工芸的なものではなく、もっと周辺にある靴下や印刷といったものの技術をうまく使って、工芸らしいものや縁起物がつくれたら、工芸の拡張につながるんじゃないかと感じました」

印刷にまつわる機会や道具が並ぶ、𠮷勝制作所の作業場。様々な印刷方法を試したり、山で採集した草木からインクをつくる実験などもおこなっている
自身のバイブルだという「印刷インキ工業史」を読む𠮷田さん。文献にあたって印刷方法やインクのレシピを調べて、実際に試している
クルミやブナなど、山で採取した樹皮の顔料化実験中

原初の凧に込められた「風を見る」祈りをモチーフに

――「飾り凧」はまさに、印刷の技術を用いたプロダクトですね

「『飾り凧』の紙はオフセット印刷で刷っているんですが、流すインクの色を微妙に変えながら印刷するということをやっています。一見すると同じに見えるんですが、実は個体によってむらとか違いが出てくるように設計していて。

要するに、オフセット印刷を工芸的に理解してやってみたというか。足したインクの量とかも職人さんの目分量だし、機械や紙の状態にも左右されるので、印刷物なんだけど、二度と同じものが作れない。

このブレが許容されていくと面白いし、印刷の失敗というものが減るので、資源を大切にするという意味でもいいのかなと思っています」

――風を感じるデザインが印象的です

「凧について調べていくと、はじめは儀礼凧として発生したとされています。見えないはずの風を凧あげで可視化して、その力で幸せを願うというようなものです。その後、幕末の頃になるといわゆる凧あげ遊びのための遊戯凧が爆発的に増え、近代になると電線の影響もあってだんだん飛ばしづらくなっていき、飾る凧が増えていった。

その流れで今回の『飾り凧』は、飾る凧ではありつつ、そこに縁起を込めるもの。

そうなるとモチーフは、最初の儀礼凧にあった、風の力を見るということになるのかなと。 形状は、儀礼凧として考えたときに落ちてしまうと縁起が悪いので、一番飛ばしやすいとされている角凧という形を採用しています」

自然と出来上がった「こけしのようなもの」

――『鳥こけし』のものづくりはどんなふうに進んでいったのでしょうか?

「『鳥こけし』の場合は、まず僕の方でスケッチを描いて、粘土でサンプルを作ってみて。そこからどういう絵付けをするのか、材料の径はどれだけ取れるのか、どの鳥にどの材料を割り当てるのか、といったことを検討しつつ、形をブラッシュアップしていきました」

「そのあと3Dプリンターでモックを出して、それを見本として工人(こうじん)さん*に木地を挽いてもらったんですが、そこでの変化が面白くて。

※こけし工人:伝統こけしを製作する職人

工人さんの手癖なのか、製造工程でどうしても出てしまう形状なのかはわからないんですが、明らかにモックとは違って仕上がってくるんです。でも、その微妙な変化によって、最終的な匂いが不思議とこけしっぽくなっていて、『これはこれでいいか』という感じでGOサインを出したり。そういうことが端々にありました」

3Dプリンターによるモックアップと、仕上がりの比較。くちばしや頭の形状、胴体のバランスなど細かい部分に変化がみられる。サギ(写真左)とフクロウ(写真右)で担当する工人さんが分かれており、絵付けの癖もかなり異なるのが面白い

「こけしを作るための道具や機械で、こけしの工人さんや木地師さんによって木が磨かれていくと、必ずこけしっぽいものが上がってくる。僕としても、敢えてこけしに寄せていくというよりは匂いがつくくらいにしたかったから、それがすごくよかったですね。

結果として、どこの国にあっても不思議ではないものができたというか。日本らしくもあり、欧風でもあり、それでいてこけしの匂いがある、ちょうどよいものができたと思っています」

左から、フクロウ(ケヤキ)/ツル(イタヤカエデ)/サギ(ミズキ)。伝統こけしでよく使用される天然の木材を選定し、絵付けには東北こけし伝統の色絵具を採用。木肌をしっかり見せること、面を塗りつぶしてボーダーを作るといった伝統こけしの意匠にインスパイアされたデザイン

それぞれの解釈や、工芸の匂いを肯定するものづくり

――改めて、今回のものづくりを振り返ってみていかがでしたでしょうか?

「素材の特性とか、職人さんの解釈や手癖、普段つくっている製品に最適化された製造工程を通ることで、産地のフィルターがかかって、デザインに工芸の匂いがついて返ってくる。その『製造工程が持つ個性』がとても面白かったですし、今後もっと多くの製品を作ってみたいと思いました」

「複製性が低い複製の在り方というか、量産品ではあるんだけど、すべて微妙に違っていて選びたくなる。それってすごく楽しいし、“縁起っぽい”のかなと。

逆に、産業技術というのは複製性をどんどん上げていくものだというのがわかってきて、そうすると失敗という概念が現れてくる。複製性を下げてやると、その失敗が見えなくなるというのがよくて、日ごろから自分のプロジェクトでも、たとえば印刷の複製性をどう下げるかといったことを考えています。

まず製造工程を教えてもらって、ものの作り方を決めて。その中で、乱数の入り込む余地を設けておいて、動かしていく。今回の凧で言えば、サイズや形状、オフセット印刷という手法は決めたうえで、流し込むインクの色や量を変えながら印刷してみる。そうやって乱数を取り込むような作り方をよくやっていますね」

吉田さんがはじめて乱数を取り込むことを実践した、山形「ISKOFFEE」のコーヒー豆 パッケージ。各ブレンドのマークを決めておき、店舗スタッフが直接手描きするという仕様。パッケージの中心に描けるように治具を提供し、誰が描いても様になるよう工夫している。ブレンドによってマークの違いが明らかなので少しのブレは許容できて歩留まりもよく、なによりスピーディー

今回、さまざまな関与を受けたものを作りたいというところで、中川政七商店ともフラットに意見を交わせたし、工人さんとも直接話すわけではないですが、“もの”を媒介にしてコミュニケーションが取れて、そうしてプロダクトが出来上がっていきました。

立体物の場合、それぞれの解釈で出てくる小さな差異が全体にすごく影響してくるところがあって、やっぱり面白いなと。そういった解釈とか、匂いを肯定できたのが、すごくよかったことかなと思います」

<掲載商品>
鳥こけし
飾り凧

文:白石雄太
写真:阿部高之