わたしの一皿 千葉の落花生を食べくらべ

息子が生まれてからというもの、生活が大きく変わった。

モノにあふれた我が家。モノはかたっぱしから我が部屋へ押し込まれ、リビングなぞ、人生で一番のシンプルライフ満喫中(最近じゃおもちゃが増えてきているが)。

変わったものは空間だけじゃない。朝も晩も、当然ながら彼のリズムが最優先。食事もまずは彼のものを作ってからそこに味を足す、といった具合。

それが嫌か。いや、とても楽しいのです。あ、みんげい おくむらの奥村です。

親バカ自慢をするつもりはありませんが、たまには家族の時間のことを。

料理をする我が身からすると、彼が食べられるものが増えるにつれて(1歳7ヶ月)、より多くの食を共にできるようになってきたのでなんだか嬉しいし、彼のためのものを作ることで薄味でもじゅうぶんおいしいことや素材本来の味ってなんだっけ、などとあれこれ見えてきて料理もますます楽しくなった。

みんげいおくむら 奥村忍、息子との手つなぎ写真

この秋は我が千葉が誇る数少ない特産品「落花生」を一緒に楽しんでいる。1ヶ月くらい前に叔母の畑からもらった「半立(はんだち)」と「おおまさり」の2種を茹でたものを冷凍しているのでちょこちょことそれを食べている。

半立は昔からよく食べ慣れたものだけど、おおまさりはここ数年見かけるようになったものでとっても大粒のホクホクしたもの。個人的には落花生らしいなと思える半立がやはり好きか。

落花生はいろいろおいしいが、生をもらったなら茹で落花生が一番だ。塩をどの程度効かせるか、硬さをどの程度にするかに集中して。

冷凍する場合はちょいと早めに茹で上げておくのが良い。(子供にいつから落花生を食べさせるかは個々の家庭の考えがあるでしょう。うちも乾燥はまださすがに食べさせないが、茹でたものは少しずつ食べさせている)

落花生を茹でている様子

茹で落花生らしく温かく食べたいので、解凍してさっと茹でなおす。ちなみに茹で落花生ならそれをあえたり、炒めたり、とアレンジも楽なのだ。

今日は素材がシンプルなので、うつわも極力シンプルにしてみた。

白磁。福岡県北九州市で作陶する、祐工窯の阿部眞士(あべしんじ)さんのものだ。

福岡・北九州、祐工窯の阿部眞士さんの白いうつわ

無地の白磁。究極にシンプルなもの。とてもふつうで、しかしとてもよい。

果たしてこういったものはどんな風に選び、楽しめばいいのか。なかなかむずかしい。

お店で選んでいるタイミングでビビっときたら相当な上級者。だいたいの人はそうはいかないでしょう。

例えば、白だけどどんな白なのか。これは少し青みがある。そしてツルっとしているのか、マットなのか。さわり心地はぼってりなのか薄いのか。手の大きさになじむのか。重さは好みなのか。そんなところを気にしながら選ぶ。

そして本当に良いな、と思うものは使ってしばらくしてそう思うものがほとんどだ。気付くとよく使っている。なんでか選んでしまう。

この無地の白磁は冷たい、という印象よりもおだやかさを感じる。薄すぎず安心感のある作りもあってか、どこかあたたかいのだ。

白いうつわに盛った茹で落花生

さて、話は落花生。ほんのりした甘みと塩気。おいしいんだ。わかってもらえていればうれしい。

僕ら千葉県民はこの茹で落花生というのがとてもメジャーなのだけど、全国に出るととてもマイナーな存在であることを大人になって知った。

最近は流通の発達か、いろんな場所で茹で落花生に出くわすようになった。うれしいな。この美味しさ、みんなに知ってもらいたい。

料理もうつわも、たまに色々と面倒になる。料理なら茹でるだけ、塩だけ、が心地よかったり、うつわなら無地、シンプル、が心地よかったり。そんな時にも白磁は心強い。

茹で落花生をうつわから取る手

そんな大人の事情はさておき、このうつわ。小鉢だが、子供が両手で持ってつかみやすく、汁物を焼き物のうつわで飲む練習にもなっている。

願わくば、落として割ることなく、10年20年と使い続け、ある日この記事を彼にも読んでもらいたい。

奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。

みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com

文・写真:奥村 忍

フィリップ・ワイズベッカーの郷土玩具十二支めぐり

アップル、エルメス、資生堂、ハーマンミラー‥‥と世界の名だたる企業が指名するフランス人アーティスト フィリップ・ワイズベッカーさん。彼と一緒に、日本の「郷土玩具」のつくり手の元を訪ねました。

普段から建物やオブジェを描き、日本にもその作品のファンが多い彼が選んだのは、干支にまつわる12の郷土玩具。各地を訪ね、制作の様子を見て感じたその魅力を、自身による写真とエッセイで紹介しています。

さて、どんな郷土玩具が出てくるのか。これまでの連載をまとめました。

 

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ワイズベッカー

【子】京都「丹嘉」伏見人形の唐辛子ねずみを訪ねて

 

連載1回目は、「伏見人形の唐辛子ねずみ」を求めて、京都へ。400年以上の歴史を受け継ぐ土人形の元祖、伏見人形の窯元を訪ねました。現在、製作と販売をするたった1軒の窯元・丹嘉さんです。

産地:京都

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「会津張子の赤べこ」を求めて、福島県にある野沢民芸を訪ねた際のスケッチ

【丑】福島の郷土玩具 「野沢民芸」会津張子の赤べこを訪ねて

 

もし日本全国の郷土玩具を、外国人アーティストの視点で見つめたら。連載第2回は丑年にちなんで「会津張子の赤べこ」を訪ねます。

産地:福島

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【寅】浅草「助六」江戸趣味小玩具のずぼんぼの寅を訪ねて

 

もし日本全国の郷土玩具を、外国人アーティストの視点で見つめたら。連載第3回は寅年にちなんで「ずぼんぼの寅」を訪ねます。“ずぼんぼ”って‥‥一体なんでしょう?

産地:浅草

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【卯】金沢「中島めんや」のもちつき兎を訪ねて

 

今回ご紹介する「もちつき兎」の装飾について、ワイズベッカーさんからなるほどのご意見が。旅の合間に交わす議論には、貴重な気づきや示唆がありました。

産地:金沢

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【辰】岡山「津山民芸社」の竹細工の龍を訪ねて

 

津山民芸社の白石さんが手がける郷土玩具「竹の龍」は、ファンタジーな着想と古くから伝わる郷土民話のエピソードを織り込んで生まれた作品です。どうやら、あの名画のワンシーンから生まれたそうですよ‥‥!

産地:岡山

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ワイズベッカーさんデッサン

【巳】栃木「きびがら工房」きびがら細工のへびを訪ねて

 

掃除機がない時代、家庭で活躍していたモノとは?そう、箒(ほうき)です。
「安産祈願」「災いを掃き出す」と古来より言い伝えられていた箒。同じ素材からつくられる「きびがら細工」も、使い手の幸せと健康を祈り、原料から大切につくられています。

産地:栃木

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【午】大分「北山田のきじ車」を訪ねて

 

“この会がなかったら、玩具は後継者不在で、とうの昔に消えていたはずだ。すべてが消えていくこの時代、お手本となる活動だと思う!”フランス人アーティスト、ワイズベッカーさん、郷土玩具づくりを体験!満面の笑顔の理由とは‥‥?

産地:大分

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【未】宮城「首振り仙台張子」のひつじを求めて

 

宮城県仙台市にある「高橋はしめ工房」で出会ったのは、なんとも愛らしいひつじ。首に仕掛けがあるようです。

産地:仙台

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【申】ミステリアスな熊本の「木の葉猿」を求めて

 

ワイズベッカーさんが、日本全国の郷土玩具のつくり手をめぐる連載シリーズ。9回目は熊本にある「木の葉猿窯元」を訪ねました。彼自身がつづる、その体験とは。

産地:玉名

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【酉】こけし作家が生み出すユニークな酉を求めて

 

ワイズベッカーさんが全国を訪ね歩くシリーズ。連載10回目は宮城県白石市にある「鎌田こけしや」です。

産地:仙南

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【戌】唯一の職人がつくる「赤坂人形の戌」を求めて

 

ワイズベッカーさんのエッセイ連載、最新回。戌年にちなんで「赤坂人形の戌」を求め、福岡県筑後市の赤坂飴本舗を訪ねました。

産地:筑後

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連載も残すところあと1回。
最終回は、亥(いのしし)にちなんだ郷土玩具が登場します。お楽しみに!

 

関連商品

ワイズベッカー×中川政七商店のコラボレーション商品

ワイズベッカーと中川政七商店がコラボレーションした商品

ワイズベッカーさんが描いた十二支の郷土玩具と日本の工芸をかけ合わせたオリジナルの暮らしの道具ができました。詳しくははこちら

外見◎、中身◎、味◎。三重丸で女性の心を掴む「開運堂 白鳥の湖」

こんにちは。元中川政七商店バイヤーの細萱久美が、「日本各地、その土地に行かないと手に入りにくいモノ」を紹介する連載の第3回目です。

『さんち』は「工芸と探訪」のメディアなので、取り上げる題材は主に工芸品ですが、探訪には食も欠かせません。

郷土食には、その土地特有の食材や調理方法など、食文化が詰まっています。旅先ではなるべく郷土食の店や、地物を扱う店をチェックします。

そして、旅のお土産にもやっぱり食を持ち帰ることに。車なら道の駅、電車なら街のお菓子屋さんや駅の売店で、ローカルフードを探すことを欠かしません。

旅で何度か訪れている地方都市が何箇所かあり、西だと倉敷、東だとダントツにヘビロテしているのが松本です。年1回は行っているでしょうか。

クラフトフェアとして恐らく日本一の集客力を誇る5月の松本クラフトフェアや、温泉宿の玄関口になることも少なくないです。

倉敷は、現住所の奈良から、松本は実家のある東京からアクセスが良いということと、「民芸・工芸」にゆかりの深い街という共通点があります。

あと、散策するのに程よい規模感なので、あちこち立ち寄りながら街歩きをします。そこでも、お気に入りの飲食店やお菓子屋さんが必ず組み込まれることになります。

松本で必ず行くお菓子屋さんの「開運堂」。130年以上続く老舗です。

乾燥する大陸的な気候の信州・松本は、何かにつけ茶と茶菓を口にする習慣があるそうです。確かに松本をはじめ信州には、くるみや栗、りんごや杏など豊かな実りを活かした、京都や江戸とも違う、信州らしい菓子文化があるように思います。

開運堂は和洋どちらかと言えば、和菓子屋の雰囲気。ラインナップは茶席菓子にも使われる干菓子や羊羹などの棹物菓子の正統派から、おはぎやどら焼きのような親しみのあるお菓子まで、松本市民の御用達と言えそうな菓子屋。

実は、和菓子に負けず劣らず、洋菓子も充実しています。おもたせに最適な焼菓子から、生ケーキまでなんとも守備範囲が広い!

パッケージデザインもよく考えられていて、それぞれのお菓子にふさわしいモチーフ表現がなされています。クラシカルで実直な印象が開運堂らしさを醸し出し、気負いなくブランディングされていると感じます。

私が、ほぼ必ず買ってしまうのは開運堂を代表するお菓子の一つ「白鳥の湖」というソフトクッキー。長野の安曇野を流れる犀川に、毎年飛来する白鳥にちなんだお菓子で、パッケージの箱にはその景色が描かれています。

長野県松本市 開運堂のお菓子、白鳥の湖

その可愛らしさから、雑誌などの露出も多いので、ご存知の方も多いかもしれません。

ポルポローネとも呼ばれる、スペインの修道院で考案されたお菓子に似たソフトクッキーですが、初めて食べたら、その柔らかさに驚くと思います。噛む前にあらら・・溶けてしまいます。

こんなに柔らかいのに、白鳥が型押しされて、1枚ずつ丁寧に袋に入っています。袋から出す時も、気を付けないとモロモロと崩れてしまうので、どうやって入れているのか見てみたい。間違いなく職人技です。

長野県松本市 開運堂のお菓子、白鳥の湖

よくジャケ買いをしてしまい、中身は二の次なんてこともたまにありますが、この「白鳥の湖」は、外見も中身も可愛い上に、味も美味しい。よくよく出来た商品です。女性の支持を得て、開運堂のお取り寄せ人気NO.1になっているのも頷けます。

今の時代、お取り寄せも容易なので、本当に「ここでしか買えない」ものは少なくなっていますが、その土地や店舗の雰囲気や空気感の中で買うことも含めて、お土産を買う楽しみだと思っています。

ところで開運堂の本店には、世界で唯一の(?)ソフトクリームロボットが。これはさすがに行かねば絶対に食べられません。笑

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立

東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

文・写真:細萱久美

老舗飴屋が受け継ぐ裏メニュー「ててっぽっぽ」とは?

こんにちは。中川政七商店の吉岡聖貴です。

日本全国の郷土玩具のつくり手を、フランス人アーティストのフィリップ・ワイズベッカーさんとめぐる連載「フィリップ・ワイズベッカーの郷土玩具十二支めぐり」。

連載11回目は戌年にちなんで「赤坂人形の戌」を求め、福岡県筑後市の赤坂飴本舗を訪ねました。(ワイズベッカーさんのエッセイはこちら

「ててっぽっぽ」こと赤坂人形

東北地方と並んで郷土玩具の宝庫といわれる福岡県。

数多い玩具の中でも、武井武雄さん、川崎巨泉さんなどの玩具研究家が口を揃えて、天下の名玩と推したとされるのが「赤坂人形」です。

江戸時代中期頃から、有馬藩の御用窯・赤坂焼の産地であった筑後市の赤坂地区。
その窯元で働いていた陶工たちが本業の傍ら、笛などの子供のおもちゃや恵比寿・大黒などの縁起物を作っていたのが、赤坂人形のルーツといわれています。

土人形は元々、以前の連載で紹介した京都の伏見人形をルーツとして、かつては全国百ヶ所近くの産地で、様々なモチーフが作られていたとされます。

福岡を含む北部九州にも、佐賀県の尾崎人形や長崎県の古賀人形などがありますが、どれも雰囲気が似ているのは、腕を磨くために窯元を渡り歩いた職人が、地元に戻って開窯していったからなのかも。と思ったりもします。

赤坂人形は赤土を素焼きしたものに胡粉をかけ、紅、黄、青などの絵の具で彩色するという昔ながらの製法が今も守り続けられている、日本でも数少ない土人形。型合わせの際にできた耳と荒いタッチの絵付けを見ると、昔と変わらない素朴さとほのぼのとした温もりを感じます。

筑後地方では「ててっぽっぽ(不器用な人)」という愛称で、こどもの玩具や民芸品として親しまれてきました。

福岡県筑後市の赤坂飴本舗の「ててっぽっぽ」と呼ばれた古い赤坂人形
「ててっぽっぽ」と呼ばれた古い赤坂人形

かつての赤坂地区には、数軒の人形屋があったそうですが、現在赤坂人形を作っているのは「赤坂飴本舗」店主の野口紘一さんただ1人。唯一の作り手を訪ねました。

知る人ぞ知る、老舗飴屋が受け継ぐ裏メニュー

福岡県筑後市、明治初期創業の老舗飴屋「赤坂飴本舗」
明治初期創業の老舗飴屋「赤坂飴本舗」
福岡県筑後市、明治初期創業の老舗飴屋「赤坂飴本舗」
店内には飴菓子のほか赤坂人形や看板が並ぶ

赤坂人形の製造元は、実は老舗の飴屋でもあります。
米を原料にした名物・赤坂飴をはじめ、茶飴、棒飴などの懐かしい飴菓子をつくる「赤坂飴本舗」は明治15年の創業。

野口家で赤坂人形作りが受け継がれ始めたのは、それ以前の江戸時代末期頃から。
飴屋が郷土玩具をつくっているのは、日本中探してもここだけではないでしょうか。

野口さんは若い頃から、先代を手伝って東京での物産展の準備や祭りの行商などをしていたそうです。今では当時のブームも落ち着き、趣味や収集のため注文をされるお客さんのために、予約販売で年間200個ほどを一人で作っておられます。

「赤坂飴本舗」の野口さんご夫婦
野口さんご夫婦

赤坂人形作りは、口伝では野口さんで6代目。

人形作りもできる息子さんが、このまま跡を継ぐかはまだわからないそうですが、「自分の時も跡を継げと言われたことはなかったし、どけんかなるっさい。」

どうにかなるでしょうと期待を込めて仰っているようでした。

赤坂飴本舗で継承されているのは、技術ともう一つ。
人形作りに欠かせない型枠です。かつて、周りの赤坂人形の窯元が店をたたんだ時に譲ってもらったという型を、今も大事に使い続けておられます。

「近くの田んぼで人形の型が見つかったと、持ってきてくれた人もいましたよ。」

型枠は素焼きなので壊れやすく、使っていくうちに欠けてしまうことも。
それでも新しい型は作らず引き継いだものを大事に使い続け、現在は笛ものを中心に小型の大黒、猫、梟など20数種類の人形を作られています。

「赤坂飴本舗」で使用している型枠
現在使用している型枠は20数種類
「赤坂飴本舗」で使用している型枠
長年使い続けるうちに粘土型の端が欠けてしまうことも

赤坂人形の笛ができるまで

今回は、野口さんに戌とふくろうの笛の作り方を見せてもらいました。

飴の加工場の隣にあるガレージが人形づくりの作業場
飴の加工場の隣にあるガレージが人形づくりの作業場
赤坂人形の製作工程

まずは成形から。
ダンボールの上に、椅子・台・ヘラ・箱・灰をセットして準備完了です。

赤坂人形の製作工程

灰は事前に漉し器を通して、粒子を細かく整えます。
漉し器を作る職人さんも最近は少なくなってきているそう。

赤坂人形の製作工程

型枠に粘土を埋め込む前に、灰をまぶします。
型離れをよくするためであり、昔は竈の灰を使っていたとのこと。

赤坂人形の製作工程
赤坂人形の製作工程

表面・裏面がセットになっている型枠にそれぞれ粘土を埋め込みます。顔の表情など細かな凹凸を出すため、片面ずつしっかりと、型が割れないように配慮もしながら押さえるのがコツ。

最後に表裏を貼り合わせます。この時に型枠からはみ出した粘土が赤坂人形の特徴である「耳」になります。

赤坂人形の製作工程

表裏が一体になった型枠と粘土に手で振動を与えながら、片面ずつ型を外していきます。

赤坂人形の製作工程

型をはずすと犬の形状が見えてきました。
型が欠けている箇所(犬の耳)が盛り上がっているのは、後ほど仕上げるそう。

赤坂人形の製作工程

型の合わせ目からはみ出してた耳を少し残しながらヘラで削り、仕上げに水をつけて成形。

赤坂人形の製作工程
赤坂人形の製作工程

乾燥させる前に、笛を鳴らすための空洞を作ります。
波状のトタンを加工してつくったお手製のドリルをグルグル回して、まずは息が抜ける側の穴を掘り出します。息を吹く側はヘラを使って、斜めに風があたるように掘り出します。

ここまでの作業を、野口さんひとりで一日に20個ほどこなすそうです。
そして、冬は1週間強、夏は5日くらいかけて粘土を乾燥させます。

成形に使うヘラと職人野口さんの手

成形に使うヘラはどれもお手製。
手の皮の厚みや指の太さも、まさしく職人さんの手です。

赤坂人形の素焼き風景

続いては、素焼き。
江戸時代は登り窯を、そして最近までは写真の薪窯を使っていたそうです。
その頃は、一日かけて煤だらけになりながら焼いていたとのこと。

素焼きに使用する電気釜

そして現在使用しているのは電気窯。
800℃の低温で9時間素焼きをします。だいたい、100個くらいずつ2回に分けます。

色付け前の赤坂人形
色付けして完成した赤坂人形

最後に、仕上げの彩色。
素焼の生地に胡粉を塗り、彩色をほどこします。

昔の藍や紅花などの植物染料に代わり、今は食用色素の紅、黄、青などを使用。
時間をかけず一刷毛でさっと彩色した、味わいのある絵付けが特徴です。

「年年歳歳、色が褪せて、10年もするとほとんど粘土の色に戻っていきますよ」

時が経つほど味わいが深くなり、自分だけのものになっていくのも楽しみの一つ。

飴づくりと笛づくりの根っこにあるもの

「自慢じゃないですが、100%はできません」

赤坂人形作りにおいてはベテランの野口さんが最も難しいというのは、笛を鳴らすこと。
火加減によって焦げたり収縮したりして、笛が鳴らなくなっていた薪窯の時は仕方ないとして、電気窯になってからも古い型をそのまま使用しているため、型通りに作ったとしても笛が鳴らないことがあるのだそうです。

低い音を鳴らすふくろうなどには太い穴を、高い音を鳴らすものは細い穴をと作り分けているのも、難易度が高い理由の一つであるのかもしれません。

また、赤坂人形をよく見ると、笛の吹き口にはどれも胡粉が塗られていないのがわかります。
本体に塗られる絵の具も、昔は植物染料、今は食用色素と口に入れても安全な素材が使われているのですが、吹き口は子供の口に触れる部分なので、更に安全性を考えて昔からこうしているとのこと。

飴も笛も子どもが口に触れるもの。子どもへの思いやりは、通じるものがあるようですね。
どちらのものづくりも途切れることなく、末永く続いていってほしいものです。



さて、次回はどんないわれのある玩具に出会えるでしょうか。

「フィリップ・ワイズベッカーの郷土玩具十二支めぐり」
第11回は福岡・赤坂人形の戌の作り手を訪ねました。
それではまた来月。

第12回「奈良・一刀彫の亥」に続く。

<取材協力>

赤坂飴本舗

福岡県筑後市蔵数赤坂312

電話 0942-52-4217

文・写真:吉岡聖貴

「芸術新潮」8月号にも、本取材時のワイズベッカーさんのエッセイと郷土玩具のデッサンが掲載されています。ぜひ、併せてご覧ください。

陶磁器の耐熱温度はなぜ高い?直火OKのお皿を生み出したプロを訪ねる

三重県の萬古焼メーカー〈かもしか道具店〉さんに学ぶ、陶磁器の基礎

お皿‥‥と一口にいっても、プラスチック、木、ガラス、陶器、磁器‥‥とその素材はさまざま。今回はその中でも、焼き物・陶磁器についての話です。

同じ陶磁器でも、オーブンにかけられるものもあれば、ダメなものもあります。耐熱温度には差があります。その違いは何なのでしょう。

素材?分厚さ?製法?

三重県菰野町の「かもしか道具店」に、オーブンどころか、直火にかけられるお皿があると聞き、足を運んでみました。

三重県菰野町のかもしか道具店
田園に囲まれた自然豊かなロケーションに佇む「かもしか道具店」。おしゃれなロゴが目を引きます

陶磁器は大抵がレンジ対応。耐熱温度が高いわけ

「大抵の陶磁器は電子レンジで使えます。そもそも陶磁器は、つくるときに約1200度の温度で焼くので、ある程度の耐熱性があるんです。

ただ、オーブンや直火だとダメなものも。それは土や釉薬(※)など、素材によって耐熱性が変わるからです」と話してくれたのは、「かもしか道具店」主宰の山口典宏さん。

※釉薬(ゆうやく、うわぐすり)とは
陶磁器をつくる際、成形した器の表面にかける薬品のこと。ガラス質のコーティング剤。
コーティングすることで強度を強くする、汚れを付きにくくする他、色付けや光沢だしなど装飾の意味もある。

「山口陶器」の代表取締役でもある山口さん
萬古焼の窯元「山口陶器」の代表取締役でもある山口さん

直火OKな陶磁器。驚異の耐熱温度のひみつは土

日本で初めてつくられた直火OKなお皿は、実は三重県四日市市や菰野町で作られる陶磁器、萬古焼 (ばんこやき) 。

三重といえば伊賀焼の土鍋が有名ですが、萬古焼の土鍋も、古くからつくられてきました。

その過程でいつしか「割れない土鍋」をつくる研究が始まり、昭和30年代後半、原料メーカーと民間企業によって“直火でも割れない土”が開発されたのです。

その鍵となっているのが、「ペタライト」という原料。

高い耐熱性で知られる鉱物のひとつで、陶磁器の土、釉薬に一定量加えることで、通常よりも高い耐熱・耐衝撃性を示すことが確認されています。

今まで使っていた陶磁器の土にペタライトを配合することで、直火でも割れない土鍋の開発に成功。その後は、グラタン皿など土鍋以外のお皿も手がけていったそう。

かもしか道具店の土鍋
ジンバブエで採取されるペタライト。商品にもよりますが、山口さんが手がける耐熱食器にはペタライトを50%配合しています

お皿が割れる原因は急激な温度変化にあり

そもそも、なぜお皿がオーブンや直火で割れてしまうのか?

主な原因は温度差。オーブンや直火によって低温から高温へと急激に温度が上昇したり、部分的に高温になることで割れてしまうのだそう。

ただ、商品を見ただけではペタライト入りかどうかは、見分けがつきません。
「耐熱」表示を頼るしか、見分ける術はなさそうです‥‥!

かもしか道具店の陶磁器

ペタライトを土に配合する際には、釉薬にも配合します。そうしないと窯で焼くときに土と釉薬が同じように縮まず、割れてしまうからです。

そのノウハウを持つのも、ペタライト配合の土を開発した萬古焼産地ならではです。

耐熱温度の高さゆえ生まれる、陶磁器のバリエーション

「かもしか道具店」で扱っている陶磁器はどれも耐熱皿で、バリエーションも豊富。

これら平皿でさえ、見た目に反して直火OKなんです。

そんな直火OKの陶磁器の魅力は、遠赤外線により芯から食材に火が通ることと、その後も料理が冷めにくいこと。

朝パパッと目玉焼きをつくってそのまま食卓に出したり、夜に炒めもののワンプレートをつくったり。

料理が冷めにくいから、遊ぶことに夢中になっている子どもに「冷めちゃうから早くごはん食べなさい!」と怒ることも、少なくなるかもしれません。

かもしか道具店の陶のフライパン

<掲載商品>
陶のフライパン

<取材協力>
かもしか道具店
三重郡菰野町川北200-2
059-393-2102
https://www.kamoshika-douguten.jp/


文:広瀬良子
写真:西澤智子

レトロかわいいパッケージに一目惚れ、日の出屋製菓の「湯の花せんべい」

わたしたちが全国各地で出会った“ちょっといいもの”を読者の皆さんへプレゼントする「さんちのお土産」。

今回は、三重県菰野町で見つけた、レトロかわいい缶に入った「湯の花せんべい」をお届けします。

絶妙な配色に、菰野にちなんだモチーフがデザイン

サーモンピンクにレトロな「湯の花せんべい」のロゴ。パッケージのかわいさに、旅先で見つけたら買わずにはいられないこちらの商品は、昭和34年に御在所ロープウェイが開通されたのを機に誕生したものです。

四日市市の印刷会社がデザインしたというパッケージ。
ロゴもデザインも、誕生した当時のまま。ちょっと抜け感のある色合いが女子心をくすぐります。

湯の山温泉の炭酸せんべい「湯の花せんばい」
パッケージには御在所ロープウェイと岩場に立つニホンカモシカが描かれています。定番の丸缶のほか、容量たっぷりの角缶も

この「湯の花せんべい」を見つけたのは、菰野町で2018年に開湯1300年を迎えた湯の山温泉。そう、中身は温泉地ならでは、炭酸泉のお湯を使った“炭酸せんべい”です。

炭酸せんべいの発祥は有馬温泉。以来、全国の温泉地で炭酸泉や鉱泉を使って製造するせんべいがありますが、材料の配合や手焼き、もしくは機械を使って仕上げるなど、各所で食感や味わいはそれぞれ。

日の出製菓の炭酸せんべいは、卵入りが特徴です。食べ比べてみると、味の違いが感じられておもしろいかも!?

千種啓資(ちくさひろし)さん
取材に応じてくれたのは、創業者の孫にあたる千種啓資(ちくさひろし)さん

パッケージも味も、創業当時のまま

日の出製菓の炭酸せんべいは、戦後まもない昭和20年代、創業者の千種一夫さんがリヤカーを引きながら手売りしていたという歴史も。

パッケージが誕生当時のままであるだけでなく、せんべいも創業以来変わらぬ味わいです。

湯の花せんべいのゴールド缶
2018年には、湯の山温泉開湯を記念したゴールド缶も登場
長島温泉限定パッケージ
長島温泉限定パッケージには、長島温泉にちなんだものや、ナガシマスパーランドのアトラクションがデザインされています

今回のお土産

今回のお土産は、32枚が入った湯の花せんべい丸缶。サクサクと軽い口当たりに、ほのかな甘さ。昔懐かしい味わいの炭酸せんべいです。

お土産の炭酸せんべい

自分用にも、友達のお土産にも。せんべいを食べた後も、小物入れなどとして愛用したい、家に置いておくだけで幸せ気分になれそうなロングセラー商品です。

ここで買いました

希望荘
三重郡菰野町湯の山
0593-92-3181
http://www.kibousoh.or.jp/

さんちのお土産をお届けします

この記事をSNSでシェアしていただいた方の中から抽選で1名さまに、さんちのお土産 湯の花せんべい丸缶をプレゼントします。応募期間は、2018年10月8日〜10月31日までです。

※当選者の発表は、編集部からシェアいただいたアカウントへのご連絡をもってかえさせていただきます。いただきました個人情報は、お土産の発送以外には使用いたしません。ご応募、当選に関するお問い合わせにはお答えできかねますので予めご了承ください。 たくさんのご応募をお待ちしております。

<取材協力>
日の出屋製菓
http://www.hinodeya-seika.net/


文:広瀬良子
写真:西澤智子

 


こもガク×大日本市菰野博覧会

工芸、温泉、こもの旅。

こもガク×大日本市菰野博覧会

10月12日 (金) ~14日 (日) の3日間、「萬古焼」「湯の山温泉」「御在所岳」「里山」など豊かな魅力を持つ町三重県菰野町で「こもガク×大日本市菰野博覧会」が開催されます。

期間中「さんち〜工芸と探訪〜」のスマートフォンアプリ「さんちの手帖」は、 「こもガク×大日本市菰野博覧会」の公式アプリとして見どころや近くのイベント情報を配信します。また、各見どころで「旅印」を集めるとプレゼントがもらえる企画も実施。多彩なコンテンツで“工芸と遊び、体感できる”イベントです。ぜひお越しください!

【開催概要】
開催名:「こもガク×大日本市菰野博覧会」
開催期間:2018年10月12日 (金) ~14日 (日)
開場:三重県三重郡菰野町
主催:こもガク×大日本市菰野博覧会実行委員会

公式サイト
公式Facebookページ
公式ガイドアプリ(さんちの手帖)