スープ作家・有賀薫さんに聞いた推しの逸品。第三話 伊賀焼のスープボウル

一流シェフが愛用する調理道具や、長年お店で道具と向き合ってきた店主が「これは」と手に取るもの。
道具を使うことに長けている各分野のプロフェッショナルが選ぶものには、どんな秘密があるのでしょうか。
中川政七商店が扱う暮らしの道具の中から、「語りたくなる推しの逸品」を教えていただきました。

今回ご紹介するのは、スープ作家として365日、毎日スープをつくっている有賀薫さん。
5つの商品を推し認定していただきました。

今日は、おひとりさまにちょうどいい、具だくさんを味わう「伊賀焼のスープボウル」についてのお話です。

具だくさんのスープを熱々で食べたい時はもちろん、ちょっとした一人鍋にも使えて、手に取りやすい「ちょうどいい」小ぶりな鍋がキッチンにあるととても便利。
今回はそんなニーズを叶えてくれる「伊賀焼のスープボウル」の使い心地や、おすすめの料理を、お伺いしてきました。

スープ作家。1964年生まれ、東京出身。
ライター業のかたわら、家族の朝食に作りはじめて10年間3,500日以上続いたスープをもとに、現代家庭に合うスープレシピを発信。
著書に『スープ・レッスン』『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』『朝10分でできる スープ弁当』など。レシピ提供、コラム執筆、イベントなどを通じて、現代家庭の料理改革を推進中。

しっかり深さがあるから具沢山なスープにぴったり

ころんとした丸みのあるシルエットの「伊賀焼のスープボウル」。容量がたっぷりで深さもあるので、ボリューム感のあるシチューや純豆腐にはぴったりだと思います。

そして直接火にかけることができるのが最高にいいですよね。お出汁を入れて豆腐やネギ、卵を入れてコンロで火にかければ一人分の純豆腐があっという間に完成。そのまま直接スープボウルにごはんを入れてもいいですね。

そしてオーブントースターが使えるのも便利なポイント。たとえば「伊賀焼のスープボウル」にごはんを入れて、2日目などに残ったクリームシチューやビーフシチューをかけてチーズを散らしてトースターへ。ドリア風にアレンジすることもできると思います。

具材を煮込んで簡単「ひとり鍋」にも

一人暮らしの方であれば、小鍋として使うものいいですね。スープボウルにお出汁とカット野菜を入れてそのままコンロで煮て、完成。いまはひとり分の鍋の素も販売されているので、ちょうど一食分をつくることができて便利です。白菜と豚肉重ねてミルフィーユ鍋にするのもいいと思います。

数年前に発刊した書籍の中で「ひとり分の鍋」を紹介するページがあったのですが、もしその時に出会っていたら「伊賀焼のスープボウル」をおすすめしていたと思います!

ひとり分の鍋って意外と難しいんですよね。最低でも水が200〜300ml入って、具材がひたるまでしっかり煮込むことを考えると400mlぐらいの容量がないとなかなか厳しいんです。でもこのスープボウルはたっぷり550mlあるので安心。

直火で素材を炒めてからスープ作りもできるし、スープかけごはんにも使える。おひとりさまにちょうどいいサイズ感です。

次回は「家事問屋のお玉とスプーン」についてお話いただきます。
お楽しみに。

<掲載商品>
伊賀焼のスープボウル

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有賀薫さんインタビュー記事はこちら


文:アズマヒロエ

スープ作家・有賀薫さんに聞いた推しの逸品。第ニ話 RIN&CO.の漆のうつわ

一流シェフが愛用する調理道具や、長年お店で道具と向き合ってきた店主が「これは」と手に取るもの。
道具を使うことに長けている各分野のプロフェッショナルが選ぶものには、どんな秘密があるのでしょうか。
中川政七商店が扱う暮らしの道具の中から、「語りたくなる推しの逸品」を教えていただきました。

今回ご紹介するのは、スープ作家として365日、毎日スープをつくっている有賀薫さん。
5つの商品を推し認定していただきました。

今日は、令和の一汁一菜を叶える「RIN&CO.の漆のうつわ」についてのお話です。

「漆塗りのうつわ」と聞くと、使うのに少しハードルを感じたり、なかなか出番がないかもと思ってしまうことも多いはず。ですが、そんな漆塗りの器が毎日、そして和食はもちろん洋食や中華料理でも使えるとしたら……。
RIN&CO.の漆のうつわは扱いやすくて毎日使える、そう語ってくれたのはスープ作家の有賀薫さん。毎日キッチンに立ち、食卓を考える有賀さんが愛して止まないRIN&CO.の魅力を語っていただきました。

スープ作家。1964年生まれ、東京出身。
ライター業のかたわら、家族の朝食に作り始めたスープが2020年2月時点で約2900日以上になる。
著書に『スープ・レッスン』『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』『朝10分でできる スープ弁当』など。レシピ提供、コラム執筆、イベントなどを通じて、現代家庭の料理改革を推進中。

毎日使いたくなる漆のうつわ

RIN&CO.は、日常の中での使い心地が抜群にいい漆のうつわです。様々なカラー展開がされていますがとくに真塗の黒は、毎日使うことができますね。
私は「塗り」のうつわが好きでさまざまなサイズのものを持っていますが、どうしても和に偏ってしまって出番が少なくなってしまいます。ですが、RIN&CO.のうつわは日常使いができるデザイン。洋食や中華、アジア料理でもなんでも合わせることができて、組み合わせの自由度が高いのも魅力ですね。

そしてとっても軽くて扱いやすく、薄いのに触っても熱くならないのもいいです。小さな塗りの器というと大人のイメージですが、実は小さなお子さんにも向いています。
なにより、食洗機で洗うことができるのが嬉しい! 傷も付きづらいですし、やっぱり毎日使うものだからこそ使い心地がいいのはとても大切ですね。現代の食卓を考えてつくられていると思います。

RIN&CO.でつくる「令和の一汁一菜」

「碗」と「平碗」「深ボウル」、そして「平皿」を揃えるのがおすすめです。これがあれば和食でも洋食でも、一汁一菜が簡単にできます。

まずは和食。「平碗」にごはん、「椀」にお味噌汁、そして「平皿」に生姜焼きとサラダを盛り付けてみました。このセットを使えばごはんとお味噌汁、おかずの一汁一菜が完成します。

こちらは洋食。「平皿」に焼いたパンを乗せ、「平椀」にポタージュ、サラダは「深ボウル」に合わせました。
ふつうの漆のお椀にサラダやごはん、スープを盛り付けると不自然になってしまいますが、RIN&CO.のうつわはどの料理も美しく見せてくれます。

「平皿」の小さいサイズは食パンにぴったりあいますし、大きいサイズにはカレーやパスタ、具沢山の焼きそばなんかをのせてもいいですね。そして「平椀」や「深ボウル」を使ってスープやサラダを添えるのもすてきです。

もちろんこの黒い器で揃えてもいいですし、お家にある白い器と組み合わせてもとても相性がいいと思います。
このうつわさえあれば食卓がまとまる、「令和の一汁一菜セット」として販売してもいいと私は思います(笑)。

次回は「伊賀焼のスープボウル」についてお話いただきます。
お楽しみに。

<掲載商品>
RIN&CO.

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文:アズマヒロエ

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北の地のものづくり「RIN&CO.(リンアンドコー)」

スープ作家・有賀薫さんに聞いた推しの逸品。第一話 保存の器

一流シェフが愛用する調理道具や、長年お店で道具と向き合ってきた店主が「これは」と手に取るもの。
道具を使うことに長けている各分野のプロフェッショナルが選ぶものには、どんな秘密があるのでしょうか。
中川政七商店が扱う暮らしの道具の中から、「語りたくなる推しの逸品」を教えていただきました。

今回ご紹介するのは、スープ作家として365日、毎日スープをつくっている有賀薫さん。
5つの商品を推し認定していただきました。

今日は、ちょっとしたおかずもつい箸が伸びる「保存の器」についてのお話です。

毎日の食事を楽にしてくれる常備菜や、少し多めにつくったおかずの保存。プラスチックの保存容器はとても便利ですが、食卓にそのまま出すのはすこし味気ないですよね。「食器としてそのまま食卓に出せる保存容器がほしい」という思いから生まれたのが「波佐見焼きの保存の器」です。
保存もできて、温め直しもOK。そして食器にもなるこの商品の使い心地や、おすすめの使い方を、スープ作家の有賀薫さんにお伺いしてきました。

スープ作家。1964年生まれ、東京出身。
ライター業のかたわら、家族の朝食に作り始めたスープが2020年2月時点で約2900日以上になる。
著書に『スープ・レッスン』『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』『朝10分でできる スープ弁当』など。レシピ提供、コラム執筆、イベントなどを通じて、現代家庭の料理改革を推進中。

料理が美しく映える、色とツヤ。

今日は常備菜を保存するのに使ってみました。

食べ終わったあとも、別途保存容器に移し替える必要もなく、付属のフタを乗せてさっと冷蔵庫にしまうことができるのも便利。付属のフタは形も可愛いので、これはこれで、ちょっとした小皿としても使えそうです。

そして保存容器なのに、うつわとしてテーブルに置いた時にお料理が映えるのがいいですね。色味とツヤもきれいで、そして内側のラインがアクセントになっているのがデザインとしても素敵です。

ちょっとした余り物も思わず食べたくなるうつわ

3つのサイズがあるので、用途や食材の量に合わせて使えますね。

中鉢はうつわとしてのサイズ感がとてもいいです。まずはそのまま食卓に出して、残ったらそのまま保存してもいいですし、量が減ったら小さいのに移し替えていきます。

小鉢は、おかずなどを「ちょっと余してしまった」という時に使えますね。私が家庭で一番使っている保存容器のサイズに近いので、出番が多そうです。

ちょこ鉢は梅干しやお漬物などにいいですね。

お漬物、例えばたくあんが2切れとかほんのちょっと余ってしまうことってありますよね。こういう時、プラスチックの保存容器だとあまり手が伸びないのですが、この「保存の器」を使えばそのまま食卓に出すだけでみんな食べてくれると思います。ついつい箸がのびてしまう、そんな器だと思います。

次回は「RIN&CO.の漆のうつわ」についてお話いただきます。
お楽しみに。

<掲載商品>
保存の器

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文:アズマヒロエ

スタイリスト楠田英紀さんによる商品レビュー「布ぬのTシャツ」

日本の織や染の魅力を、Tシャツを入口に知って、好きになってほしい。そんな想いでつくった「布ぬのTシャツ」。
わたしたち中川政七商店スタッフの産地の布への愛着は増す一方ですが、
実際に着用してみるとどんな感想が生まれるのかを聞いてみたくて、その撮影現場にお邪魔してきました。

前回は、モデルの在原みゆ紀さんと安井達郎さんにお話をお伺いしました。
今回お話をお伺いしたのは、スタイリストの楠田英紀さん。
いつも中川政七商店の撮影で、素敵な着こなしを提案してくださっています。実は今回、モデルとして撮影にもご参加いただきました。
日々、服と向き合いお仕事されているスタイリストさんに「布ぬのTシャツ」の着こなしポイントについてお伺いしました。

早速どうぞ。

合う合わないじゃなくて、好きを自由に愉しんで

日本の織や染の魅力を、Tシャツを入口に好きになってほしい、そんな想いでつくりました。今回このTシャツをスタイリングしていて感じたことを教えてください。

「布が真ん中に配置されていることで、、意外と何にでも合わせやすいと思います。
これが変にいろんな形があったり、付ける位置が散ってたりすると、Tシャツ自体の存在
が強いものになりますし、ボトム選びに迷う場合も。

Tシャツに求める要素は皆さんそれぞれですが、シンプルなものであればあるほど
着る人次第、合わせ方次第でカジュアルにもファッショナブルにも振れる、着こなしの幅が広がります。

良い意味で考え過ぎずに着れると思いますね。
それと近くで見ると、織や染につい触ってみたくなったり、話してみたくなる。
着ている本人と、その他の人とのコミュニケーションツールとしても、とても面白いなと感じました」

人が着た時のシルエットについて、感じたことを教えてください

「男性と女性で袖の部分のデザインが違うと思うんだけど、
 女性の方は着た時に肩が落ちるデザインになっていて、肩口から脇にかけて作られる縦のドレープが細く見える要素をプラスしてくれます。
 あと、首が詰まったデザインで、だらしなさが出ることもなく、カジュアルでもきちんと着たい派さんには特におすすめです」

すごい!どちらもデザイナーがこだわった部分です!

体のラインに合わせて肩が落ちるようにパーツに工夫をほどこしている

「着せてると、デザイナーの意図は分かります。
首元の空き具合も形も、人によって好みもあるので、ちょうどいろんな年齢で着られるところを狙うって難しい。首元は特に大変だったんだろうなと」

どんなスタイリングで愉しむのがいいと思いますか?

「まずパッと見て、真ん中の布が気に入った物を選んで、あとは、どんなものに合わせてもいいと思います。
それで合ってないなと思っても、合ってないところも愉しんでほしい。
無難に合いそうなものを選ぶよりは、ちょっと合ってないものを選ぶくらいの方が、今のの時代の感覚に合うんじゃないかな。
変に合わせようとしないで、自由にまずは気に入ったものを選ぶのが大事」

今回のスタイリングではどういう点を気にして組み合わせましたか?

「撮影では距離があり、実際の生地感は寄ってみないと分からないということもあって、色の組み合わせでバランスを考えました。
阿波しじら織はペールトーンで薄かったんだけど、そこを目立たせようと他をさらに薄い色ばっかりにしても面白くないので、濃いピンクを合わせることで目立たせたりとか。逆に白の物は、全身同系色にしてなじませたりとか。
色の合わせ方で、目立たせることも馴染ませることもできると思います」

最後に、ご自身で服を買う時はどんなことを気にして選んでいますか?

「僕自身は、あまりサイズ感とかは気にしない。極端に言うと試着しないで買っちゃう。
小さければ小さいなりに、下のボトムのバランスを見たり、大きければ大きいなりにサイズの違いを愉しんだり。
あとは、気に入ったら後先考えずすぐ買っちゃう。自分がこれ持ってるから合わせたいと金額も関係なく、気に入ったから買っちゃう。

昔は面白い服とか珍しい服を着たいと思ってたけど、どんどん顔が濃くなってるから。笑 服は普通でいいというと語弊があるけど、最低限というか、自分とのバランスを服で とってます。

自分の変化に合わせて服も変化させていきたいというか、ちょうどゼロになるくらいがいいなと」

ここ数年、柄物への挑戦は避けていたのですが、皆さんの話を聞くと、もっと自由に色んな服の組み合わせを愉しみたいなという気持ちが沸いてきました。
私もこの夏は、「日本の布ぬのTシャツ」から、少しだけ開放的な服を愉しんでみたいと思います。

プロフェッショナルなお三方にご協力いただいた「日本の布ぬのTシャツ」の写真は、オンラインショップの特集ページで余すことなくご覧いただけます。
どんな組み合わせも素敵なのでぜひ見てみてくださいね。

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夏によく見るあの”缶”が有田焼に?再現することで見えてきた工芸の面白さ

日本の夏の風物詩と聞いて、どんなものが思い浮かびますか? 
風鈴、うちわ、花火、蚊取り線香…

金鳥さんとのコラボレーションも5年目となる今年、中川政七商店では、夏によく見るあの“缶”を有田焼でつくりました。

左が有田焼でつくる「金鳥の渦巻蓋物」、右が本家本元の「金鳥の渦巻 ミニサイズ(缶)」

有田焼と言えば、「世界の有田」とも称され、ヨーロッパの王侯貴族の間で絶大な人気を博した歴史を持ち、日用品だけでなく美術品までつくってきた産地です。
人の手でつくっているのに、この精巧さ。
ちょっと見ただけでも、有田焼の技術の粋が活かされている気配を感じます。

つくり手の幸楽窯さんから、「常識を超えたものづくり」と言われたという開発秘話を求めて、有田焼の産地を訪ねました。

幸楽窯。入口にある、大きな焼き物でできた看板が目印

こだわったのは、工芸ならではの表現

デザイナーの羽田さんに聞けば、完成に至るまでに6度の試作を繰り返したと言います。

「こだわったのは、工芸ならではの味わい深さです。
金鳥さんにデータをいただいて、そのまま転写すれば、もっと似たものをもっと安価につくることも可能でした。
でもそれなら、あえて中川政七商店が新たにつくる必要はないんです」

たしかに、色のゆらぎやまっすぐではない線が、味わいを生んでいます。
羽田さんの期待に、120%の全力で応えてくださったのが、幸楽窯の徳永隆信さんでした。

幸楽窯の徳永隆信さん。有田焼の立雛飾り、武者飾りも手がけていただいてます

「試作をアップする度に、もう少しゆらぎがほしい、と言われて。

羽田さんとは、雛人形、武者人形と一緒につくってきて、
回を重ねるごとに、要求とそれに応える技量が互いに高まってきてるので、次はどこまで求めてくるんだろうと、怖いながらも腕の見せ所とわくわくしてましたが…
案の定大変でした。笑」

細部へのこだわりの連続だった、というものづくりは、どのように生まれてきたのでしょう。
早速現場を案内していただきました。

伝統工芸士が描く、手描きの原画

伝統工芸士の山口浩子さん。伝統工芸士は、実務経験が12年以上ある人に受験資格があたえられる国家資格。職人技を後世に伝えるためにも重要な認定制度です

蓋を描くのは、なんと「伝統工芸士」の山口浩子さん。
過去には、4か月かけて日本画の江戸の町を再現したことも。細かいものはお手の物だと言います。

「金鳥の渦巻」のあの細かいデザインを手で描くなんて、にわかには信じられませんが、実際に描いてる様を見せられては、信じないわけにはいきません。

製造分すべてを手描きでつくると価格が跳ね上がってしまう為、ひとつ原画を描いていただき、それを転写で再現していきました。

この線、本当に手で引いてるの?と思うような美しさと、手描きならではの少しのゆらぎ。いつまでも眺めていたくなる仕上がりです。

転写と言っても、蓋の側面の金は一つひとつ筆で着色している

5色に13版。常識を超えた細部へのこだわり

そのこだわりは、転写の版数にも表れています。
まじまじと見てみれば、同じ緑の中にも濃淡があることに気付きます。これも、あえて、そうつくっていったのだとか。

同じ色の中でも濃淡がある。筆で描いたようなゆらぎを表現

本体も、金鳥さんからデータをいただいてコピーするのではなく、
デザイナーがいちから手で描き起こした図案で、版をつくっていきました。

「しかもこれ、線だけじゃなくて、色のムラもあるでしょう。
蓋と身あわせて全体で5色なんですけど、13版使ってるんですよ。ふつう13版も使うような場合、それだけ色数が多いんです。
5色で13版っていうのは、常識を超えてますね」

左は、初期につくった試作品。右の最終のものに比べて版数が少ないため、色ムラが少なくのっぺりした印象。金の色も全然違います

徳永さん、常識を超えてる!と言いながらも、嬉しそう。
どうして?と聞いてみると…

ロストテクノロジーの復活?技術を思う存分活かすものづくり

オンラインMTGの風景。楽しそうに、やり取りした資料を見せてくださる徳永さん

「バブルが崩壊して以降、とことんこだわり抜いてものづくりしましょうという依頼自体がまず少ないんです。
そうなってくると、技術がどんどん失われていくでしょう。ロストテクノロジーですよ。

ただ、求められてないのに、これだけ時間をかけて秘伝の技術でつくりましたと言っても、それって誰がほしいんだろうって。
今回のように、依頼する人と、それを実現する人の両者がいて、いいものづくりが続いていく。

職人がつくれないと言ったらそれまでなんだけど、そこを何とかやってもらう為に、実現に向けて動くのが僕の役割だと思ってます。
そういうものづくりは、セッションのような感覚で、持ち技を互いに足していくような高揚感があって、とても楽しいです」

どうやら、生みの苦労が、喜びにもつながっていたよう。
幸楽窯のスタッフさんも、「徳永さん、苦しそうに楽しそうにつくってましたよ」と口々に言っていました。

デザイナーのこうしたい!というこだわりと、徳永さんの不可能を可能にするディレクションと、有田焼のたしかな技術をもつ職人さんと。
うまくピースがはまった結果、今回の商品が生まれてきたことが分かります。

つくり手達の高みのセッション

そうして、苦しそうに楽しそうにものづくりが進んでいった中で、幸楽窯さんからの提案もたくさんあったと言います。

付属の渦巻は当初、蓋の裏に絵を描くつもりだったそうですが、
絵では物足りない!と感じた徳永さんの方から、立体でつくろうよとご提案いただきました。

左は、当初予定されていた絵。右が、立体でつくった最終の仕上がり

「絶対立体がいいと思ったから、軽い感じで、できるできると言って、現場に持っていったら、間隔が詰まってて細いので、石膏では型がとれなくて。
シリコンで型つくったり、成形した後は、ちょっとでも力を入れると折れてしまったので専用の運搬トレイをつくったり、
意外と大変だったんですが、現場のみんなが、またか~という感じやってくれたんですよね」

話しながら、灰の部分をもう少し短くしてもいいかな…と、どこまでも追及していく姿。こんなふうに真摯にものづくりに向き合う姿が、産地の職人さん達をどんどん巻き込んでいくのだと感じます。

「あの鶏、実は3羽いるんです」

言われて初めて気付いたのですが、本体を囲む鶏、実は3種類いるのだそうです。

人の手ならではのものづくりを追い求める羽田さんに、
だったら、鶏も同じパターンを使いまわさずに、3羽くらい描いて散らした方がいいよと。

「言っちゃったら最後、すぐさま羽田さんが3種描いてくるんですよ。嬉しそうにもってくるもんだから、こっちもやらざるを得ない」

よくよく見てみれば、たしかに少しずつ違う3種類の鶏がいました。
実物を見る際には、じっくり眺めて愉しんでいただきたいポイントです。

一つひとつ転写シートを貼っていく様子。転写シートと言っても、継ぎ目が分からないように貼るには職人の技術を要する

餅は餅屋。虫はジェレミーさん。

最後に、忘れてはいけないのが、底に描かれた蚊の姿です。

“全く蚊はとれない”のですが、「金鳥の渦巻」を写すからには、蚊をつかまえたい…
そんな想いで、中には死んだ蚊の姿を描くことにしました。

聞けば幸楽窯さんには、
「餅は餅屋。虫ならこの人」という、虫のプロフェッショナルがいるというじゃないですか。
3年前、カナダから単身有田にやってきた、アーティストのジェレミー パレ ジュリアンさん。

インタビューした際も、蚊の真似をしながら話してくださいました

「虫は大好き!これまでも沢山描いてきたけど、好きだから生きてる姿しか描いたことなかった。
でも、蚊は嫌い!だから、死んでる姿でも描けた。描いたことなかったから真似しながら。笑
大変だったよ!」

虫のプロフェッショナルと言えども、死んでる蚊を描くのは初めてだったそうで、何度も描きなおしては提案してくださいました。

一匹の蚊を選ぶためにたくさん描いてくださいました

人の手から生まれる“ゆらぎ”を愉しんで

こうして、つくり手達の高みのセッションで生まれた「金鳥の渦巻蓋物」。
実は、まだまだ語り尽くせていないお話があったりもするのですが、百聞は一見にしかず。ここから先は、実際に目で見て愉しんでいただけたらと思います。

最後に、改めてデザイナーの羽田さんに、今回の商品に込めた想いを聞いてみました。

「金鳥のコラボシリーズを買う方の中には、初めて中川政七商店でお買いものされる方も多いんです。
あんまり中川政七商店のことも知らないし、工芸への興味が薄い方も多いかもしれない。でも、中川政七商店に来たということは、少なからず“工芸の入口”に来てくださった方々。
せっかく“入口”にきてくれたお客さんに、工芸の魅力を伝えたかったんです。

中川政七商店でつくる商品はどんなものも、日本の工芸をベースにつくっているけれど、パッと見て分かる物ばかりではないですよね。

今までは缶でしか見たことがなかったけど、それを有田焼で表現するとこういう風になるのか、という明らかな違いが分かることで、
工芸って意外と面白いじゃんとか、魅力的だなとか、ものづくりにも興味をもってもらえたらいいなと。

コラボ商品を通して、どう工芸の豊かさを伝えていくかを模索する中で、
少し工芸に興味を持つきっかけになるような、“工芸の入口”を象徴するアイテムになったんじゃないかと思ってます。

値段的には全然入口ではないんですけどね。笑」

たしかに、見た瞬間、面白い!と感じ、ものづくりの背景を知りたくなり、知るほどに愛着が増していきました。

工芸に興味がない方にも、とにかくまずは見ていただきたい。この商品が、誰かにとっての「初めての有田焼」体験になれば、工芸って面白い!と思うきっかけになるんじゃないか。取材する中でそんな想いが芽生えてきました。

中川政七商店がつくる、新たな「工芸の入口」。
発売は6月1日(水)からですが、5/18(水)からは、先行で中川政七商店 渋谷店にて展示しています。

興味がわいた方、渋谷に立ち寄られた方、ぜひ実物を見にいらしてください。
工芸の世界が、口を大きく開けてお待ちしています。

<取材協力>
幸楽窯(徳永陶磁器株式会社)
佐賀県西松浦郡有田町丸尾丙2512番地
0955-42-4121
サイトはこちら

取材写真:藤本幸一郎
商品写真:眞崎智恵
文:上田恵理子

<掲載商品>
有田焼の渦巻蓋物

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金鳥×中川政七商店 コラボレーション第5弾は、工芸職人の技術を集結した「日本の夏の暮らしの道具」全22種を発売。

毎年完売が続出する「手捺染てぬぐい」や、「手刷り丸竹うちわ」や「レトログラス」など、職人の手仕事が感じられる道具を通じて、心地好い夏の暮らしをお届けします。

モデル在原みゆ紀さん、安井達郎さん着用レビュー「布ぬのTシャツ」

日本の織や染の魅力を、Tシャツを入口に知って好きになってほしい。そんな想いでつくった「布ぬのTシャツ」。
わたしたち中川政七商店スタッフの日本の布への愛着は増す一方ですが、
実際に着用してみるとどんな感想が生まれるのかを聞いてみたくて、その撮影現場にお邪魔してきました。

お話をお伺いしたのは、いつも中川政七商店の服を素敵に着こなしてくださっているモデルの在原みゆ紀さんと安井達郎さん。
お仕事でたくさんの服を着てこられたモデルさんから見て、今回のTシャツはどんな着用感だったのでしょうか。モデルさんならではのコメントや着こなしのポイント満載でお話いただきました。

早速どうぞ。

「家族みんなが着られるTシャツ」モデル在原みゆ紀さん

日本の織や染の魅力を、Tシャツを入口に好きになってほしい、そんな想いでつくりました。Tシャツについて、どんな感想をもたれましたか?

「最初はまずびっくりしました!笑
趣味で色々なTシャツを集めてるんですが、布がくっついてるものは見たことがなかったので、新しい発想だなと思いました。
 
私自身、大学で日本の伝統文化を勉強してたので、誰でも気軽に取り入れやすい商品を通して、日本の文化を知るきっかけになるのはすごくいいことだと思ってます。
素敵が詰まった一枚だなと思ったし、私も着れて嬉しいです」

在原さんが着用されているのは、香川県「保多織」の布ぬのTシャツ

これまでにも様々なTシャツを着てこられたと思いますが、Tシャツに求めるのはどういうところですか?

「自分が集めてるのはヴィンテージのものが多いのですが、
新しいものなら着心地とか通気性とか、このTシャツの袖口のようにちょっとした工夫やこだわりがあるようなものも好きです」

体のラインに合わせて肩が落ちるようにパーツに工夫をほどこしている

今回のTシャツは着てみてどうですか?

「これはすごく着心地がいい!生地がめちゃめちゃ気持ちいいです。
しかも、上品なテイストなので、家族みんなでシェアできそうですよね。お母さんも着れるし、若い方も着れると思います。
アクセサリーとか小物の合わせ方次第で、Tシャツだと入りづらい店にも全然入れるなと思いました」

綿100%でありながら光沢感のある加工をほどこしているので、上品な仕上がりに

上品に着れるように素材の加工をしているので、そう言っていただけて嬉しいです!
このTシャツをご自分でスタイリングするなら、どんなものをあわせますか?

在原さんがご自身でスタイリングした組み合わせ

「今着てるのが自分でスタイリングしたものなんですけど…

ウエストに裾をインしてあげると、女性らしさが出るなと思いました。
男性用もあってペアルックもできるので、並ぶって考えたら余計シルエットに変化を出した方がいいかなと。男性は裾を出すだろうから私は入れてみました。
あとは、パンツにボリュームがある方が今っぽいので、ウエスト高めでボリュームのあるものを合わせてます」

最後に、ご自身で服を買う時の選ぶポイントがあれば教えてください。

「ずっとそれを着たいかどうかを大事にしてます。
これ着たい!かわいい!と思うものはたくさんあるのですが、
来年も着たいかなとか、雨の日でも着たいかなとか、
どんなシチュエーションでも自分が着たいと思えるものであれば長く愛せると思うので、
そういうことを考えて買うようにしています」

在原さんの「家族みんなで着られますね」というコメントが印象的でした。
「布ぬのTシャツ」の撮影には、10代~60代までの幅広い年代の方にご参加いただいたのですが、たしかに皆さんそれぞれに魅力的でした。

「手ざわりを愉しめるTシャツ」モデル安井達郎さん

日本の織や染の魅力を、Tシャツを入口に好きになってほしい、そんな想いでつくりました。Tシャツについて、どんな感想をもたれましたか?

「まず思ったのが、見たことがないデザインだなって。
真ん中にぐっと目を引かれる。なんなんだろう?って注目を引くデザイン。近寄ってみると布が刺繍されていて、実際に触ってみると触り心地がいい。ついつい触ってたくなるような気持ちよさ。
手ざわりを愉しめるTシャツって珍しいですよね」

たしかに、手ざわりを愉しめるというのは、プリントではなく布を刺繍している「日本の布ぬのTシャツ」ならではの魅力かもしれません。

保多織の布ぬのTシャツ。美しいワッフル状の凹凸があり、さらっとした肌ざわり

これまでにも様々なTシャツを着てこられたと思いますが、Tシャツに求めるのはどういうところですか?

「やっぱりシルエットが一番大事ですね。あと素材感。
このTシャツはデザインに注目しがちだけど、コットン生地の着心地がめちゃめちゃいいです。地の素材がいいから、真ん中の布もより上質に見える。
形も好きです。ちょうどいいボックスシルエットで」

このTシャツをご自分でスタイリングするなら、何をあわせますか?

安井さんがご自身でスタイリングした組み合わせ

「Tシャツって一枚で着ることもあれば、インナーとして使うこともあって、それぞれでちょっと用途が違うというか。
今回のは一枚で着た方が断然かっこいい。

Tシャツを主役に、服自体はシンプルに着たいので、メガネとか時計とか小物で遊びます。パンツは何でも合うと思います。ショート丈でもデニムでもカーゴパンツでも」

最後に、ご自身で服を買う時の選ぶポイントがあれば教えてください。

「年を重ねるごとに、なるべく長く使えそうなものを選ぶようになりましたね。
最近は特にベーシックなものが好きで、1シーズン2シーズンだけじゃなくて、ずっと大
切に着ていけるようなものを選んでます。

あと今回のように、コンセプトがちゃんとしたもの、つくってる人の意図が見えるものは興味が沸くし好きです。
コンセプチュアルな服をたまに購入して、自分が持ってるベーシックなものにあわせていくのを愉しんでます」

インタビュー中、布の感触を確かめるように触れている姿が印象的でした。

今回のTシャツは、徳島の阿波しじら織、香川の保多織、富山のボーラレースの3つの日本の布で、全17種類のラインアップのTシャツをつくりました。
それぞれその布ならではの特徴があり、触り心地が違うのも面白いところ。ぜひ愛着を持って愉しんでいただけたらと思います。

お二人にご協力いただいた「布ぬのTシャツ」の写真は、オンラインショップの特集ページで余すことなくご覧いただけます。
インタビュー時に着用したTシャツ以外にも様々な種類のものを着用いただきました。
どんな組み合わせも素敵なのでぜひ見てみてくださいね。

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