【旬のひと皿】トマトのはちみつマリネ

みずみずしい旬を、食卓へ。

この連載「旬のひと皿」では、奈良で創作料理と玄挽きの蕎麦の店「だんだん」を営む店主の新田奈々さんに、季節を味わうエッセイとひと皿をお届けしてもらいます。



もうすぐ夏。たっぷり太陽の光を浴びた夏野菜が美味しい季節です。毎年、桜の咲く頃に「今年こそは畑をやりたい」と張りきるのですが、いざシーズンに突入すると夏の暑さに手入れをめげてしまうこと、数回‥‥。今年は、収穫は期待せず成長観察と思って見てみようと、春に数種類の野菜の種を買ってきて、我が家の小さな畑に撒きました。

なんとか育ってくれたのがミニトマト。他の野菜は発芽しなかったり、発芽はしたものの大きくなる前に元気がなくなったり。こうして小さな家庭菜園をしていると、さまざまな天候のなかでもコツコツ育ててくださる方のおかげで、毎日新鮮なお野菜を食べることができているのだなと改めて感じます。本当にありがたいことです。今あるものを大事に工夫して、美味しく食事できたらなと思います。

家庭菜園より

さて、ここ奈良でもだんだん暑くなってきて、スーパーや産直市場の売り場には夏野菜がたくさん並ぶようになりました。少し前まで筍だ!いちごだ!と喜んでいたのに、季節が変わるのは一瞬ですね。過ぎ去っていく季節のスピードに負けないよう、彩り豊かな夏野菜を楽しみながら食卓も賑やかにしたいものです。

この「旬のひと皿」の連載、初めてのひと皿で扱う食材は「トマト」にしました。そのままでも食べられるし、焼いても煮ても万能!優秀〜!なトマト。記憶に残るトマト料理は、ご近所にある美味しいスペイン料理のお店で食べたひと皿です。パエリアに魚介と半分に割ったトマトがどーんと入っていて、熱々のトマトがじゅわっと口の中で溢れだす夏の味は忘れられません。トマトを見るたびに楽しい時間を思い出します。

今回ご紹介するひと皿は、気負わず作れてほぼ火も使わない、あっという間にできる「トマトのはちみつマリネ」です。レシピでは大玉トマトを使っていますが、ミニトマトもおすすめです。さっぱりしているので、食欲のない日でもパクパク食べられそうです。

トマトのマリネ液は、はちみつと赤ワインビネガー(もしくは、りんご酢)、オリーブオイルを「1:1:2」程度の割合で作っていますが、お好みやトマトの量によって調整してください。ほんのりとした酸味が夏にぴったりなので、ぜひお気に入りのお酢で作ってみてほしいです。

最近、保育園に通う小さな友達ができました。まだ緑色のトマトを一緒に見て、真っ赤になったら食べにきてねと話していたら、保育園でも作っているから交換しようという話になりました。

この夏は暑さに負けず、かわいい友達との約束を守りたいなと思っています。

<トマトのはちみつマリネ>

材料(2人分):

トマト…2個(お好きなトマトと、お好きな量で)

◆基本のはちみつマリネ液
はちみつ…大さじ1杯
塩…2つまみ
赤ワインビネガー(または、りんご酢でも)…大さじ1杯
オリーブオイル…大さじ2杯

つくり方:

大きな鍋にたっぷりの湯をわかす。トマトのおしりに十字に切り目を入れる。鍋のお湯がぐつぐつと沸騰したらトマトを10秒ほど鍋に入れる。皮が剥がれてきたらおたまですくい冷水に落とし、冷めたら皮をむく。大玉トマトを使う場合は、ここでくし切りにする。

小さめのボウルに、はちみつと塩、赤ワインビネガーを加え、よく混ぜ合わせる。オリーブオイルを入れたら再度混ぜ合わせ、トマトを漬け込む。冷蔵庫で数時間置いたら、できあがり。

【ひとこと】
・時間がない場合はトマトを湯むきせず、包丁でむいても大丈夫。
・ミニトマトを使用するとひと口でマリネされたトマトを味わえて、これもまたおすすめ。

アレンジ編:<夏野菜のきまぐれサラダ


お好みの野菜(今回はきゅうりと蒸したトウモロコシ)を食べやすい大きさに切る。パセリ(または青じそなどのお好みのハーブ)を粗みじん切りにする。フライパンに卵を割り入れ、クミン(なくてもOK)と塩をぱらぱらと振り、半熟の目玉焼きを作る。トマトのマリネ、きゅうり、トウモロコシをお皿に盛り付け、目玉焼きをのせる。上からパルメザンチーズをふりかけ、パセリを散らしたら完成。


【ひとこと】

たくさん作ったトマトのマリネ。一日目はそのまま食べて、2日目はたっぷりの野菜と一緒にサラダにしました。目玉焼きをのせてチーズを振れば、ボリュームとコクが出て満足のひと皿に。夏野菜の鮮やかな色合いが、食卓を夏の装いにしてくれます。

さらにこの他にも、食欲のない暑い日は、お肉やお魚をさっと焼いて付け合わせにしたり、小さく切ったトマトマリネをぎゅぎゅっと絞ったレモンと和えてソースにしたりと、いろんなアレンジでさっぱり食事をいただけます。

うつわ紹介

・基本のひと皿:RIN&CO. 越前硬漆 平椀(INDIGO 02)

・アレンジのひと皿:小鹿田焼の平皿(白刷毛目 浩二窯)

写真:奥山晴日



料理・執筆

だんだん店主・新田奈々

島根県生まれ。 調理師学校卒業後都内のレストランで働く。 両親が母の故郷である奈良へ移住することを決め、3人で出雲そばの店を開業する。  
野に咲く花を生けれるようになりたいと大和未生流のお稽古に通い、師範のお免状を頂く。 父の他界後、季節の花や食材を楽しみながら母と二人三脚でお店を守っている。

夏のおでかけバッグから紐解く、中川政七商店と手績み手織り麻

涼しげに愉しめる、夏のおでかけバッグができました

夏のバッグの定番といえば、籠バッグ。そんな籠バッグを思わせる佇まいで、麻にルーツを持つ中川政七商店らしい、夏のおでかけバッグができました。

誕生したのはトートバッグフラットバッグポシェットの3つの形。

縦と横に方向転換させて生地を組むことにより、籠バッグのような印象に仕上げ、同色でありながら少しの凹凸と陰影が生まれることで、動きのある表情を楽しめます。

いずれの形も、ナチュラルな「生平(きびら)」と落ち着いた「銀鼠(ぎんねず)」の2色をご用意。シャリシャリとした質感と涼やかな見た目の麻生地が、夏の装いを品よく爽やかに引き立ててくれるバッグです。

使用した「手績(う)み手織り麻」は、中川政七商店が創業から300有余年の歴史のなかで、大切に守ってきたものづくりから生まれる生地。実はこのバッグ、中川政七商店に入社まもないデザイナーが、その手績み手織り麻のものづくりに感動し、皆さんに知っていただける機会になればと考えたものなのです。

今日は、そんな中川政七商店の手績み手織り麻への想いについて、少しお話ししたいと思います。

中川政七商店と、手績み手織り麻

西洋で人気のやわらかいリネンに対して、硬くて張りがあり、独特の光沢感を持つのが魅力の、中川政七商店の手績み手織り麻。ところで皆さん。手績み手織りとは、どんな作り方なのかイメージはできますか?

「績む」とは、繊維を細く長くよりをかけて紡ぐこと。つまり手績み手織りとは、人の手で績んだ糸を、人の手で織るということを意味しています。その工程は、糸を績むだけで1か月。生地を1疋(いっぴき=24メートル)織るのには、熟練の織り子さんでも10日はかかると言われます。様々な生地が機械ですぐに作れる現代において、それはもう、気の遠くなるような道のりですよね。

世の中すべての麻製品が手績み手織りなのかといえば、そうではありません。これは高級麻織物「奈良晒」を祖業とする私たちが、創業から300年以上、大切に守り続けている麻生地の一つの製法です。

人の手で作るため、完成まで時間がかかる。機械で作るより、価格も高くなってしまう。ではなぜ、私たちはそこまでして、手績み手織りにこだわるのでしょう。そこには、機械では決して再現できない、手しごとが生み出す風合いを大事にしたいという想いがありました。

300有余年の歴史で、守り続けたもの

江戸中期、奈良晒の卸問屋として創業した中川政七商店。長く続く歴史のなか、よりよく商うためにと積極的な変化を重ねてきた一方で、創業当初から守り続けているものが、手績み手織りの麻生地作りです。

かつては奈良晒の産地として栄えた奈良。その起源は鎌倉時代にまでさかのぼり、南都寺院の袈裟として使われていたと、記録が残っています。江戸時代には主に武士の裃(かみしも)、僧侶の法衣に使用され、また千利休が茶巾(ちゃきん)として愛用したことでも知られています。17世紀後半から18世紀前半にかけて産業はピークを迎え、生産量はなんと、40万疋にも達しました。

ところが明治維新にともない武士が消滅したことで、最大の需要源を失った奈良晒は、次第に衰退の一途をたどるように。そこで9代中川政七は、奈良晒を使った風呂あがりの汗取りや産着の開発に着手します。厳しい時代に立ち向かうため新たなニーズを生んだ取り組みは、皇室御用達の栄誉を受けることにも繋がりました。

しかし、つくり手の減少により産業の衰退は続きます。10代中川政七の時代には廃業寸前にまで追い込まれるなか、奈良晒の自社工場を持つことを決断。製造卸として商売を再建させました。

その後、1925年にフランス・パリで開かれた万国博覧会では麻のハンカチーフを出展。このときの1枚は、いまも当社の奈良本店に飾っています。

高度経済成長期に突入してからは、人件費の高騰やつくり手の高齢化などの問題により、手しごとでの製造が徐々に難しくなりました。機械化へ踏み切った同業者も多いなか、中川政七商店が大切にしたのは、「手しごとから生まれる独特な風合いを守る」こと。機械化も撤退も選ばず、生産拠点の一部を海外へ移すことで、昔ながらの製法を守りました。

この人がつくる「工芸」ならではの魅力を、私たちはずっと、ものづくりで大事にしています。その後も時代にあった変化と挑戦を重ねつつ、今も江戸時代の奈良晒と同じ製法で作り続けているのが、中川政七商店の「手績み手織り麻」なのです。

唯一無二の魅力を、今の暮らしに

中川政七商店では工芸から受け取る心地好さはそのままに、もっと気軽に取り入れていただきたいとの想いから、今の暮らしに合わせた形にアップデートを試みながら、様々な品を生み出してきました。

例えば手績み手織り麻なら、注染掛敷布手織り麻を使ったフリルシャツ手織り麻の文庫本カバー手織り麻の印鑑ケースなど。そのラインナップに新しく加わったのが、今回の夏のバッグです。

「入社した際の研修で、今の時代においても人の手により、長い時間・たくさんの工程を経て作られている手績み手織り麻について知り、とっても感動しました。それを商品を介して伝えられたらなと考え、作ったバッグがこのシリーズです。 希少な生地を大切に使うことも大事にしたくて、幅の狭い布を組むデザインが生まれました。 工芸独特の風合いから生まれる心地好さを、ぜひ楽しんでいただければと思います」(デザイナー・奈部)

改めて、工芸の魅力って何かなぁと、考えてみました。

一つとして同じものが作れない、手しごとならではの形や表情。受け取る相手への心遣いを感じる、気のきいた工夫。不思議と心惹かれる、独特の佇まいとぬくもり。

自分の気持ちをじんわりとあたためる大切な存在で、暮らしの景色を心地好くしてくれる、私にとってのお気に入り。まるで、お守りのような安心感があるなと思います。

そんな工芸の営みや豊かさを、ぜひこのバッグを通じて、夏の装いのなかに感じていただけたら嬉しいです。

<ご紹介した品>

手織り麻格子のトートバッグ
手織り麻格子のフラットバッグ
手織り麻格子のポシェット

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【お知らせ】

中川政七商店 奈良本店では、奈良晒の道具が残る「布蔵」の中で、手績み手織り麻のものづくりに触れられる体験を開催しています。 

詳細はこちら:https://www.nakagawa-masashichi.jp/shop/pages/shikasarukitsune-experience.aspx

文:谷尻純子

古都の夜に、くつろぎを。宿・MIROKU 奈良と中川政七商店のコラボレーション宿泊プラン第2弾

夜はまちが静寂をまとい、山の稜線が白む気配のなか、鳥の囀りが朝を告げる。
早起きして散歩をすると、親子鹿の“出勤”に出会うこともしばしばーー。

多くの人でにぎわう昼間の喧噪から一転、古都・奈良の魅力はそんな静けさと穏やかさのなかでこそ、さらに色濃く味わえるように思います。

奈良らしい時間をゆっくりお過ごしいただけるようにと、中川政七商店ではならまちにあるホテル「MIROKU 奈良 by THE SHARE HOTELS」とコラボレーションし、2022年より同ホテルにて特別な宿泊プランを開始。室内には中川政七商店が提案する暮らしの道具を設えました。

2023年7月からはその第2弾として、「床でくつろぐ、奈良の夜長」をコンセプトにリニューアルしたプランがスタート。都会に比べ、飲食店などの閉店時間が早いといわれる奈良ですが、たっぷり手にした夜の時間だからこそ、奈良に浸ってくつろいでいただけたらと考えたプランです。

安息の時間をご提供する本プラン。いざ、お部屋をご案内します。

カリモク家具と一緒に作った座椅子で、床座を堪能

今回、中川政七商店の道具を特別に設えたのは、MIROKUの「Superior with Japanese-Style」と「Junior Suite with Japanese-Style」」の2つの部屋。いずれの室内でも、大きな窓の障子を開ければ、見渡せるのはならまちの営みです。

日中の喧騒も宿までは届かず、静謐な時間が流れる室内。そんな景色を眺めながらゆっくりお過ごしいただきたいと、室内の小上がりには、この夏デビューを迎えた座椅子をご用意しました。こちらは、中川政七商店が総合家具メーカーのカリモク家具と共につくった、床座を楽しめる暮らしの道具です。

春日山原始林と興福寺五重塔を望むSuperior with Japanese-Styleには、ベッド横の畳スペースに。

Superior with Japanese-Style

また隣接する荒池と春日山原始林を望むJunior Suite with Japanese-Styleには、ゆったりと足を延ばせる畳の小上がりに座椅子を配置しました。

Junior Suite with Japanese-Style

つるんとした木肌の手ざわりと、ゆったり身を預けられる頼もしさが、くつろぎのひとときをお届けします。

ヒノキの香りでリラックス

室内にやわらかく香るのは、ヒノキのアロマ。気持ちをリラックスさせる成分を含む、奈良県産ヒノキの精油と吉野ヒノキのチップをセットでご用意しました。

ヒノキの精油の主成分は、森林浴の代表成分であるα-ピネン。森林浴に行った気分で精油をチップに数滴垂らせば、木の香りが心と体を優しく包みこみます。

森林の多い奈良では、市内から車で1時間半ほど南下すれば、ハイキングも楽しめる山岳地帯が広がります。旅行中には行けずとも、ぜひお部屋で森の深い香りをお楽しみください。

番茶と“みかさ”で、奈良を味わう

万葉集の時代から和歌にも詠まれ、奈良のシンボルの一つでもある「三笠(みかさ)山」。その形になぞらえ、奈良ではどら焼きのことを「三笠」と呼びます。

中川政七商店がならまちで商う菓子店・奈良御菓子製造所 ocasi(オカシ)でも、「みかさどら焼き」を提供。歴史ある和菓子の素朴で豊かな風味を堪能できるよう、奈良県産の百花ハチミツを生地に練りこみ、ふっくらと軽くなめらかな舌触りに焼き上げて、砂糖控えめのヘルシーな粒あんを挟んで仕上げました。

奈良県産の茶葉でつくられた番茶と一緒に、観光で疲れた身体を休める、ひと息つく時間のおやつとしてどうぞ。

夜の読書時間は、奈良の本をおともに

長い夜のおともにと、部屋には中川政七商店が選書した本もご用意。奈良や工芸、私たちが大切にする「心地好い暮らし」を感じていただけるようなテーマの本を、10冊ほどお届けします。活動的に過ごす夜もよいものですが、座椅子に身を預けながら読書にふける時間もまた、すがすがしく安らかな古都らしい思い出になるはずです。

ベッドサイドに灯るやさしいあかりと、ヒノキの香り。窓の向こうに広がるのは静かな奈良の夜。心地好い眠りに誘われて、次の日もまたいきいきと、旅の続きが楽しめますように。

このプランが奈良を訪れる皆さまの、よい思い出の一助になれば嬉しく思います。

中川政七商店がしつらえる宿泊プラン

MIROKUと中川政七商店が連携し、奈良の魅力をよりご体感いただくために特別にしつらえる宿泊プランシリーズ。第2弾のプランには、中川政七商店の最新の家具ラインナップを取り入れました。畳のスペースに設えた座椅子と盆ちゃぶ台で、奈良御菓子製造所ocasiのどら焼きと大和茶をおともに、中川政七商店が厳選した奈良やものづくりにまつわる10冊の書籍を読みふける時間をお楽しみいただけます。

<プラン概要>

・プラン名:「中川政七商店がしつらえる宿泊プラン」
・宿泊予約開始日:2023年6月28日(水)
・宿泊開始日:2023年7月12日(水)チェックイン分より
・宿泊価格:
 - Superior with Japanese-Style ¥24,500~(素泊まり・税込)
 - Junior Suite with Japanese-Style ¥39,000~(素泊まり・税込)
※料金は季節や曜日によって変動します。
・予約方法:MIROKU 公式予約サイト、その他予約サイト

文:谷尻純子

座椅子のある生活。3つのお宅と、床座暮らし

畳の上にすとんと座って座椅子の背にもたれ、ちゃぶ台に置かれた温かいお茶をごくり。
そのままごろんと寝転んで、読みかけの本をひらいたはずが、いつの間にかウトウトして‥‥。

旅先の旅館や祖父母の家。心がほどけるやさしい記憶のなかにはたいてい、そんな景色がありました。

日本の床座暮らしを長らく預かってきた座椅子。その心地好さに惹かれ、我が家でも‥‥と思うものの、ベッドやテーブルなどの洋家具も多く揃えている手前、なかなか、雰囲気の合うものに出会えずでした。

「ソファも既に持ってるし、しばらくはお預けかな」と、ひそかな夢は胸の内にしまっていましたが、このたび、そんな私の構想を後押しする出会いが。中川政七商店が総合家具メーカー・カリモク家具と作った、現代の暮らしに合う機能と佇まいの座椅子です。

和室がなかったり、洋風のインテリアを取り入れていたりと、つくりも家具も様々な今の暮らし。そんな中でも今回の座椅子は馴染むのか、発売よりひと足先に、装いや様式が異なる3名のお宅で、実際に使っていただきました。

奈良、フローリング暮らしのお部屋

はじめに訪れたのは、中川政七商店スタッフ・高倉の家。築150年の日本家屋をリノベーションし、夫妻とお子さんの家族4人で暮らすご自宅には、世界中の様々な地域から集めたオブジェや、歴史を重ねてきた家具が並びます。

普段は古家具店などで迎えた食卓と椅子を、リビングの中心に配置して暮らす高倉家。天井からハンモックを吊るしたり、窓際にソファを置いたりと、床座からは少し離れた生活にあるようです。

楽に運べる折り畳み式。空間を自在に扱える

ご夫妻に話を伺うと、座椅子を取り入れることで、ある気付きがあったそう。

「どこで使うと相性がいいのかいろんな場所で試してみたのですが、例えばリビングに置いて座ると、見上げたときに天井がいつもと違う見え方をして、景色が変わったのが面白かったですね。目線の高さが変わるだけで部屋も広く感じるし、自宅の新しい一面を見れました」(高倉)

さらには空間を自在に扱えるのも床座暮らしの妙。今回の座椅子は、折り畳み式を採用したことで収納も運搬も楽にこなせます。

「折りたためるので普段はソファ奥の隙間に収納しておき、必要な場面でパッと出して広げて使えるのが便利ですね。座ってゆっくり洗濯物を畳んだり、お客様が来た際の席にしたり、決まった使い方にならないのが、この座椅子の魅力なのかもしれません。実際に座ってみると床に近いからなのか、やっぱり落ち着きました」(妻・顕子さん)

「あとは、仕事用にもいいかも。これまで在宅勤務をするときは、集中したいので、日中学校に行っている子ども部屋を仕事場所として使っていました。普段は壁に寄りかかったり、リビングから椅子を運んだりしていましたが、この座椅子だと持ち運びが楽。コンパクトな子ども部屋も広々と使えるし、身体が収まって作業もしやすいですね」(高倉)

シリーズ品の角座布団は、程よい硬さでさらりとした手ざわり

座椅子と同じシリーズ品の「麻紙布の角座布団」は、どんな空間に置いても違和感なく馴染むプレーンな佇まい。軽い素材なので持ち運びやすく、高倉家では1階のリビングはもちろん、2階の部屋でも活躍したそうです。

「一つあると、マルチに活躍してくれるアイテムだなと思いました。うちではソファを置くまでもない場所で、作業や読書をしたいときに座ってみたり。程よい硬さで安定して座れるので腰も痛くなりにくいし、だらけ過ぎずに使えるので、スイッチを完全に切りたくない時間にも頼りになりそうです。

麻紙布のさらっとした手ざわりが気持ちよく、季節を問わず部屋に出しておけるのも良いですね。座椅子で背もたれ部分に挟んでいた半座布団は、読書の時間ではアームレストとしても使えるし、使い勝手が良いなと感じました」(顕子さん)

【使用していただいたアイテム】
座椅子 supported by karimoku(黒)
麻紙布の座布団(薄墨)
麻紙布の半座布団(薄墨)
麻紙布の角座布団(薄墨)

神戸、カーペット暮らしのお部屋

続いて伺ったのは神戸で建築設計事務所を営む、山崎さん宅。ご自身で設計されたご自宅には、ご夫妻とお子さん2人の、家族4人が暮らします。

山崎家で印象的なのは、水回りを除く全面にカーペットを敷きこんだ内観。全体はミッドセンチュリースタイルで、スタイリッシュな雰囲気ですが、カーペットがあることで不思議と気持ちがゆるみ、リラックスして過ごせます。スリッパがなくともふかふかの歩き心地が、何とも気持ちいい。

ご自宅のリビングでは、お子さんたちがゲームをしたり、家族でテレビを見たり。家具は山崎さんが若い頃から憧れた品や特別にあつらえたものを中心に揃え、ダイナミックですっきりとした印象にまとめ上げられていました。

「お仕事でご縁のあった堀田カーペットさんにお願いして、自宅をカーペット敷きにしていただきました。どこでもくつろげるのが魅力で、子どもの友達が遊びに来たときも、思い思いの場所でゲームをしたり寝転んだりしてますね(笑)」

座椅子にすれば、家族の目線が揃う

そんな山崎家では、主にリビングで座椅子を使ってみたそう。ちなみに普段は、中央のローテーブル前に椅子を置いて座ったり、階段の段差に腰掛けたりして、くつろぎの時間を過ごすそうです。

「今まで椅子のあった場所に座椅子を置いたのですが、特に子どもが気に入って、テレビを見るときやゲームをするときに座っていました。手軽に動かしやすい分、壁面に置いたテレビとの距離を自由に調整できるので、集中してゲームができたんじゃないでしょうか(笑)。

椅子から座椅子に変えて感じたのは、家族と目線の高さが揃うことの心地好さ。1人が椅子に座ると、どうしてもそれぞれの目線の高さに差が生まれるのですが、座椅子にすることで同じ目線で話ができて、それが意外に話しやすくて良かったですね」

座面の程よい厚みで、長時間でもストレスなく

カーペットにそのまま座れることもあり、これまでは座椅子の購入を検討したことはなかったという山崎さん。今回試してみて、いかがでしたか?

「サイズが大きく程よい厚みがあるので、身体を預けるときに安定感がありました。旅館などで使われているいわゆる座椅子より、座り心地が良いですね。ストレスなく長時間座っていられます。今までは特に必要だと感じたことがなかったのですが、これなら迎えることで、暮らしが心地好い方向に変わるイメージが持てました」

【使用していただいたアイテム】
座椅子 supported by karimoku(黒)
麻紙布の座布団(薄墨)
麻紙布の半座布団(薄墨)
麻紙布の角座布団(薄墨)

取材協力:堀田カーペット株式会社

東吉野、畳暮らしのお部屋

最後は、奈良県東吉野村のデザインファーム・オフィスキャンプの代表、坂本さんが住まう一軒家。画家のお父様がアトリエとして利用していた家を譲り受け、現在は妻の真知子さんとお二人で暮らされています。

お父様の時代から使われる家具を一部残しながら、坂本さんご夫妻が新しく買い揃えたものも多いという坂本家のインテリア。特に印象的なのは、近代デザインを採用した国内メーカーの椅子たちです。そこには建築学部出身で、これまで建築デザインも手がけてきた坂本さんらしいこだわりが。

「家具類で意識しているのは、なるべく国内メーカーのものを買うということですね。これは僕の持論ですが、日本の家だから、洋風のスケールがあまり合わないんじゃないかなと思ってるんです。欧米は家の中でも靴を履く文化なので、家具に少し高さがある。あと、向こうの人たちは身体も大きいので、サイズ感も、日本人の体型に合わせたものとは微妙に差があるなと。

デザインやフォルムは素敵なんですが、いざ家のなかに持ち込んで使うと、道具としてはちょっと合わない部分もあるなと感じてて。だから自宅ではできるだけ日本のものを使いたいなと思っていて、特に椅子についてはだいたい国内メーカーのもので揃えています」(坂本さん)

たっぷりの安定感が、間(あいだ)の時間にぴったり

そんな坂本家で座椅子を配したのは、寝室に使っている和室。日中はふとんを片付け、くつろぎたい時にごろんと寝転ぶのが多いとのことですが、座椅子を迎えたことにより新しい愉しみ方も生まれたそう。

「シリーズ品のちゃぶ台も一緒に置いて、お茶を飲んだりして使っていました。実際に座ってみると想像以上にたっぷりとした安定感で、身体を預けられる感覚がありますね。食事をするなど、何かの作業のための道具というより、間(あいだ)の時間に使うような印象です。どっしりしているので、ソファっぽい使い方になるというか。

普段和室ではごろごろと寝転ぶことが多くて、座ってお茶をゆっくり飲むような使い方はしてなかったのですが、座椅子が来たことで部屋の使い方のパターンが増えて新鮮でした。うちだと、夜はよけておき、昼はちょっと休憩したいときに広げて座る使い方が合いそうですね」(坂本さん)

「縁側に置いて、ぼーっと川や庭を眺めたり、読書したりする使い方もお気に入りです。手軽に持ち運びができるので、それぞれの場所で思い思いの使い方ができて便利ですね。普段から縁側には座りますが、座椅子があるだけでよりゆっくりできました」(真知子さん)

【使用していただいたアイテム】
座椅子 supported by karimoku(ナチュラル)
盆ちゃぶ台 supported by karimoku(ナチュラル)
麻紙布の座布団(生成)
麻紙布の半座布団(生成)
麻紙布の角座布団(生成)

日本の暮らしの心地好さを、今の景色やつくりに合った形で取り入れる。シンプルな佇まいから感じる手しごとの温もりは、使うたび、安息の時間をもたらしてくれそうです。

自分だけの特等席や、家族の新たな相棒として、良いひと時のお供になりますように。

文:谷尻純子
写真:奥山晴日

<関連特集>

床座の安息。中川政七商店 supported by karimoku

奈良の飲食店めぐり。中川政七商店スタッフが愛用するお店

春には月ヶ瀬の梅や吉野の桜が景色を美しく包み、秋には毎年恒例の正倉院展も開催されるなど、一年を通じて見どころが豊富な古都・奈良。古くより観光地として知られ、多くのお客様を迎え入れてきた奈良ですが、最近では新しい試みもあちこちで起きており、ますます奈良めぐりがはかどりそうな予感です。

旅先での楽しみ方は人それぞれであるものの、どんな過ごし方にも欠かせないのが食事。「奈良にうまいものなし」とは、奈良に暮らした文豪・志賀直哉の随筆から広まったとされる言葉ですが、実際には「食ひものはうまい物のない所だ」と記したそうで、いつしか冒頭の言葉として知られるようになったと言われます。

そんなイメージを持つ奈良ではありますが、実際には地のめぐみを存分に味わえたり、奈良らしさを心地好く感じていただけたり、何度も訪れたくなったりするようなお店もたくさん。奈良の老舗・中川政七商店に勤める私たちが、普段から奈良を訪れたお客様におすすめしているお店を集めました。ぜひ、楽しい旅のヒントにご参考ください。

四季折々の料理と地酒を愉しむ割烹「まつ㐂」

ならまちでしっとりと食事を愉しみたいなら、割烹「まつ㐂」へ。大正時代の古民家を改装した店内では、大和野菜や旬の食材をふんだんに使った懐石料理が味わえます。

春には桜を、秋には紅葉をあしらうなどの、季節ごとの表情豊かな一皿を五感で味わいながら、選りすぐりの地酒を口に運べば、奈良の息遣いを感じられる豊かな時間が過ごせるはず。

住所:奈良市東城戸町16-1
公式サイト:http://kappou-matsuki.com/

大和伝統野菜を味わう古民家レストラン「粟 ならまち店」

奈良で食べ継がれてきた大和伝統野菜を存分に堪能できる、レストラン「粟 ならまち店」。オーナーを務めるのは大和伝統野菜研究の第一人者・三浦雅之さんです。

食材の持ち味を存分に引き出すシンプルな調理法で提供される品々は、いずれも滋味深く、大和伝統野菜の香りや歯ざわりを丁寧に味わえます。

お店は観光客の多いならまちに位置するものの、一歩足を踏み入れれば喧騒は遠く、広がるのは奈良町家の静謐な空間。この地でしか出会えない驚きと美味しさを、ゆっくりと噛みしめてみては。

住所:奈良市勝南院町1番地
公式サイト:https://www.kiyosumi.jp/naramachiten

自家製出雲そばと創作料理に舌鼓「だんだん」

2008年にオープンしたお蕎麦屋さんを娘さんが引き継ぎ、季節を感じられる創作料理と玄挽きの蕎麦を提供されている「だんだん」さん。観光地であるならまちからは車で5分程度とほど良い距離があり、中川政七商店スタッフも足しげく通う名店です。

清潔感のある明るい店内は、おおらかな佇まいの古道具や季節の移ろいを感じられる生け花が飾られており、ご家族やご友人と訪れるのにぴったりの軽やかな雰囲気。日本酒やナチュラルワインも用意されているので、奈良の夜を心ゆくまで愉しめます。

住所:奈良市大宮町2丁目2−34
公式サイト:https://dandannara.com/

至福の時間に、美味しい食事はつきもの。一人でじっくりと、あるいは誰かと会話に花を咲かせて。色々な愉しみ方で、心に残る旅の想い出づくりに、この記事がお役に立ちますように。

文:谷尻純子